Coolier - 新生・東方創想話

最初の一歩

2016/09/16 20:16:07
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   きちがい、とは既知外と読むのだと考えてみた。既知を知らぬのだから、正常な人と意思疎通を計ることは困難に違いないのだ。例えば、彼らが喜びを感じる日常のあれこれや、友人との会話、恋人との逢瀬。これらに私は何故か倦怠感や憎しみを感じるのだ。別に他人が憎い訳でも無く、己の根本、底の部分においてそれらを疎んじる何かが滾々と湧き水のように溢れ出ているのだ。以前はこの性格を矯めようと画策したこともあったが、そのたびに自分が人を疎んでいると思い知らされた。今ではこの性格を受け入れ、反抗する気力も失せてしまった。これは降伏ではない、幸福なのだ、と思い込もうとしたが、心のどこかで怠けるな、努力が足らぬだけだ、という声がどこからともなく聞こえてきて、ますます憂鬱になってしまうのだった。
 
 こんな他人嫌いな私も空気を食って生きている仙人ではないので、日々の衣食住を賄わなけらばならない。わたしはその方法を人里において見出した。葛の粉を和菓子屋に売って金銭を得る、という方法を。この仕事は私によく合っていた。

 家の近くで繁茂している葛の根を収穫し、家に持ち帰って水で綺麗にする。次に槌で叩いて根を粉砕し、水が張ってある小さな桶にいれて揉み解す。灰汁で茶色くなった水ごと一晩放置して澱粉を沈殿させる。上澄みを換え、底に沈殿している澱粉に水を加えて攪拌して放置する。この操作を数回繰り返し、底の澱粉を乾燥させてできあがりだ。後はこれを和菓子屋に持っていって金を貰う。葛は人里では良く使われる食材で、和菓子屋でも葛餅にしたのが若い女性や主婦などに人気であった。

 私としてもこの仕事に不満は無かった。葛を採取してから葛粉を納品までの間に他人と関わることが無かったからだ。精々和菓子屋の初老の店主と二言、三言くらい言葉を交わすだけだった。収入こそあまり多くなかったが、他人から与えられる苦痛が最小値まで抑えられることは喜ばしいことだった。

 私はいつも金銭を手に入れた後は妖怪専門の肉屋に行く。此処では人肉を喰わねば我慢が出来ない妖怪達の為に養殖された外界人の肉を販売していた。干し肉やもも肉の切り身が沢山置いてあった。最近ではそーせーじやはむにべーこんなる西洋的な加工肉も置いてあった。こういうのをハイカラと言うのだろうか、と私は思ってそれぞれひとつずつ購入してみたところ、非常に美味であった。味気ない養殖肉もうまくなることもあるのだと感心したものだ。それからというもの私は新しい肉を見かければ買ってみることが習慣になっていた。ところでたまに売っている棒のようなものは何なのだろうか。
 
 その日も肉を買って帰ろうと家への道を歩いていた。日は大分傾いており夜が迫ろうとしている黄昏時であった。その道中に珍しいものを見つけた。宝石や金銀など喰えないつまらぬものでは無い。人間だ。しかも若い少女であった。サフラン色の袖、胴体は渋い抹茶色の着物と綺麗な縁取りのスカートを履いていた。頭には大きな桃色の花弁の飾りがあった。これは何処かの豪商の令嬢に違いない、何故人里離れたところにいるかはどうでもいい、ふっくらとした頬が食べて欲しいと主張しているのが私にもはっきりと伝わり、そうまで言われたからには食べてやるのが一番だと考え、私は口を大きく開けてその白くて艶やかな首筋に歯を立てて頸動脈を掻き切ろうとした。
「こんにちは。可愛らしいお口ですね」
何を言われたのか分からなかった。勿論挨拶されたのは知っている。しかし、考えてみて欲しい。あなたとて今まさに屠ろうとしている豚にブヒーと挨拶されたら面食らうだろう。だから私の反応も常識的なものなのだ。たとえ足がもつれてこけてしまい、そのまま相手のスカートの中に頭を突っ込んだとしても。
私の頭はスカートの真ん中、つまり股間に近いところであった。そこからはとても芳しく桃のような香りがしたのでそのまま吸い続けた。口を開けたまま突っ込んだので少しふとももをを舐めてしまい、そこは涎で汚れてしまった。
「ちょ、何してるんですか!変態!」
罵られても私の頭は動かなかった。これまで食べてきた如何なる人肉よりもイノシン酸とグルタミン酸のかほりが感じられた。所謂、うまみというやつである。合わせだしの香よりも少女のそれは強く中毒になってしまいそうだった。
「あっいやっ、やめて!離しなさい!」
すーすーはー。嗚呼、なんと気持がいいのでせうか。父さん。母さん。私は汚れてしまつたのです。もう私はあの無垢な少女だった頃には戻れないやうです。どうかお元気で。
「やめろっつてんだろが!この変態レズ野郎!」
痛い。殴られてしまった。思わず桃源郷から顔を離してしまう。少女の顔は真っ赤だった。
「あなた殺しますよ。この稗田の力がありゃあ人間や妖怪の一人や百人は地上から抹消できるんですからね!」
しまった。忘れていた。父さんや母さんにはいつも初対面の人間に会ったら挨拶してから食べなさい、と言われていたのに。なんて言うんだっけ。忘れちゃったな。たしか初めて会った人に言うことは.....。
「何か言ったらどうなんですか!変態さん!」
「とっ」
「はい?」
「友達になってくだしゃい!」
やばい。噛んだ。コミュ障は噛みやすい。それ故対人恐怖症を患い、ゆくゆくは立派なニートに成長するのだ。
「友達って、そもそもあなたは誰なんですか?」
「せっ赤蛮奇でしゅ」
また噛んだ。恥ずかしい。死のう。
「赤蛮奇って...。よく見たら妖怪のろくろ首じゃない」
彼女は私の事を知っているようだ。どういうことだろうか。里の人々は私が妖怪だって知らないはずだ。
「私は稗田阿求。求聞持の稗田の当主よ。あなたもしがない野良妖怪とはいえ知ってるんじゃないの?」
稗田...確かあの妖怪対策の幻想郷縁起を記している里の名家。
「その稗田のお嬢様がなんでこんな里の外にいるの?」
「ちょっと取材にね。竹林の永遠亭まで行ってきたの」
「それはわかるけど....。護衛はどうしたの?人間一人だけだったら私みたいなのが襲ってくるよ?」
「わたしだよ。変態さん」
そう言われて振り向くと、紺色の帽子をかぶった沢山の紫色のコードが巻き付いた少女がいた。髪は緑がかった銀色で、服も袖が縁取られた黄色の上着と花の柄が描かれた緑のスカートを履いていた。この子もどこかの令嬢のように見えた。
「この子はさとり妖怪。私が一日護衛に雇ったのよ」
さとり妖怪!あのさとり妖怪か!忘れはしない。百年前に会った時、奴が私の両親をパラノイアの産物だと言ったことを。しかもレズだとばれてしまい、それを広められて仲間のろくろ首のコミュニティから放逐されたのだ。それ以来ずっと私は一人だ。だから久しぶりに女の子のにおひを嗅いで興奮してしまったのだ。
「わたしは護衛だからね、お姉さんを撃退しないといけないんだ。ごめんね」
この少女からも良いかほりはするのだろうか。かがんで少しスカートをめくってみた。そして彼女のスカートの中に頭を突っ込むと人の温もりを感じた。あたたかい。ずっと私はこれを求めていたのだ。早速パンツに鼻を押し付けようとしたところで腰に激痛が走った。弾幕を当てられたのは分かったが、もう孤独には耐えきれなかった。誰だって独りぼっちは嫌なのだ。この子だってそれをわかってくれるだろう。だから私はパンツを彼女の膝まで引き下ろそうとその柔らかく白いパンのようなふとももをつかんだ。弾幕は激しく私の体を傷つけた。両親を否定されたときと同じ位苦痛だっが、彼女のスカートの奥からのかほりは私を勇気づけた。何かをさとり妖怪が叫んでいるのが聞こえたが、同意の声だろうとコウイテキに解釈し、その真っ白なパンツに手をつけたところで凄まじい痛みが走り、私は意識を失った。

 目覚めたとき、私は簀巻きにされ川を流れていた。周りは夜のようで真っ暗だった。それにしても彼女らのかほりは素敵であった。普段からいいものを食べ、新品のような衣服を着て、家族や友人に愛情を注がれているのだろう。そんなかほりであった。それにしても、彼女らとは疎ましさや憎しみも感じることなく接することができたと思う。もしかして他人の言葉や手もあのような幸せになるかほりがするのだろうか。私は今までスカートの中に入ることをしてこなかった。あすこには人の温かさがあった。これからも他人のスカートに入ることを躊躇わねば普通に他人とコミュニケーションすることができるのかもしれない。あと、よくよく考えてみれば私は両親を見たことも話したこともなかった。そこまで考えて私は再び気絶した。



 再び目覚めたとき、私はどこかの湖を漂っていた。ぷかぷか水に浮いてると目の前に人の顔が月明りに照らされて現れた。いや、人の顔ではない。耳は妙に尖がっているし、髪は深い青色だ。目は澄んだ水色をしている。妖怪のようだ。
「大丈夫?今楽にしてあげる」
そういって彼女は私の簀巻きを解いた。解放された私は早速彼女のスカートの中に......スカートが無かった。パンツすら無かった。ノーパンだった。鱗がびっしりと生えた彼女の下半身があった。仕方なく脇のかほりでも嗅ごうと、彼女の着物を脱がそうとするとなぜか急に抵抗してきてそのまま水に沈められた。もがもが。それでも諦めてはなるまじ、とて彼女の下半身に縋りつきそのまま着物の袖をめくって脇を嗅いだ。稗田のかほりよりはうまみが足りなかったが、さとり妖怪のそれよりも甘いかほりがした。
「何するんですか!本当に水に沈めてお魚さんたちの餌にしちゃいますよ」
それは困る。人の温もりと温かさを知った私には急激に死にたくない、という思いが沸いてきたのだ。私は脇から顔を離した。彼女の顔は羞恥と怒りでやや歪んでいた。
「もう変態行為はしないでくださいね。陸にあげてあげますから」
そういって優しい彼女は私を陸地まで引っ張って送り届けてくれた。何度も私の目と鼻に水が入って痛かった。もがもが。
 
 彼女はわかさぎ姫、と名乗った。姫だなんてうらやましいなぁ、と思ったが彼女には騎士は一人もいないそうだ。私と同じボッチらしい。そこで私はボッチならばお互いのかほりを嗅ぎ合おうではないか、と提案してみたが却下された。
「当たり前ですよ!どこの世界にそんな変態的挨拶があるんですか!」
「あなたは人の温もりが欲しくないの?」
「そんなぬくもりいりません!もっとノーマルにしましょうよ」
「ノーマルって?」
「こうです」
彼女は私をぎゅっと抱きしめた。あたたかい。これが愛なのか。百年前に追放されたときも飢えて苦しかったときも、誰ともまともな関係が築くことができずに一人で泣いたときも、寂しかった。悲しかった。そんな苦しみをわかさぎ姫の温もりは癒してくれた。かほりだけではみたされることのなかった虚しさを癒してくれた。うれしくて涙が溢れてきた。ただただうれしくて。きちがいな私でも、変態なわたしでも。
「ううっぐすっうううっ...」
「ど、どうしたんですか。何か嫌なことでもあったんですか」
ようやく、私は人との関係を持つことの喜びを知ったのだ。決して疎ましさや憎しみだけじゃない、かほりを嗅いですーすーはーするだけでもない、真の喜びを。
「わ..」
「ん?」
「脇嗅いでごめんなしゃい..」
そうだ普通に謝れば良かったのだ。変態的倒錯行為を行わずとも私は口があるのだからコミュニケーションは可能なのだ。わたしはろくろ首の里にいた頃、さとり妖怪に会う前からずっと女の子にすーすーはーしてきた。多分それは顔も見たことの無い親への思慕の念からの寂しさをまぎらわすためだったんだろう。犯罪をさとり妖怪が来るまでは脅して隠蔽し、被害者の子たちも羞恥のあまり訴えることはなかった。それがばれて追放されて恨みを抱いたのも逆恨みにすぎなかった。欲望に負け、犯した過ちを認めぬ卑怯さと、それを自分自身の性質に帰して原因の探求を行わない頑迷さがわたしを孤独に陥らせてきたのだ。そして今日もまた、三人の女の子に汚らわしい行為をおこなってしまった。私はただの性犯罪者だったのだ!私は思わずわかさぎ姫を振りほどくと、月明かりをたよりに全速力で走っていった。


 いつのまにか朝になっていた。すでに太陽は天高く昇り、燦燦と柔らかい光を地上に振りまいていた。なんとか家の寝床まではたどり着けたようで私は布きれにくるまっていた。まだ秋の初めなのに温もりが欠けた私の寝床は冷たかった。自分自身を抱きしめたが、それでもなお寒い。私は温もりを求めて夢遊病患者のようにふらふらと何度も葛の灰汁が入った桶に当たってぶちまけながらあばら屋の戸口から出た。


昨日の湖を私は探した。まず川を探した。これは妖怪の山から流れる川だったのですぐに見つかった。川を辿って歩くこと数時間。ようやく湖を見つけた。湖は霧に覆われ幻想的な雰囲気を醸し出していた。昨日は分からなかったが向こう側には紅い建物が見えた。
わかさぎ姫が向こう岸で座っているのが見えたので、私は走って行こうとした。
「あんただれよ!あたいを無視しようなんて百年はやいわよ!」
「チ..チルノちゃん。妖怪相手はまずいよ」
妖精が邪魔をしてきた。早速そのかほりを嗅ごうと...いやいけない。私は二度と相手との合意なしに変態的倒錯行為に及んではならぬのだ。妖精を無視して再び歩き始める。後ろから氷がぶつかってくるが気にしてはならない。わかさぎ姫に私は会いにきたんだから。歩く。歩く。歩く。私が歩いてくるのにわかさぎ姫も気づいた様で、悲鳴をあげてこっちに泳いでやってくる。
「やめて!チルノちゃん!」
「なぁに?わかすぎ姫?コイツはあたいを無視したから氷をぶつけてるんだ。邪魔するならわきすぎも容赦しないよ」
「飴あげるから。今日は見逃してあげて」
飴を渡されて顔を弛ませ、
「仕方ないなぁ。でも次はサイキョーのあたいは容赦しないからね。わくすぎでもね」
そういって氷精は去っていった。私はわかさぎ姫に近づいていく。ただ一言を言うために。昨日の変態的倒錯行為を伴わずとも私はこの言葉を伝えることができるはずだ。
「友達になってください。わかさぎ姫」
そう、昨日阿求に言った「友達になって」という言葉だ。千里のコウイへの道も、まず最初の一歩を踏み出すことが必要だ。そして相手からのコウイを高め、ゆくゆくはお互いがコウイを求める関係を築くのだ。全ては温もりのために。
私の言葉を聞いたわかさぎ姫は驚いた顔をしていた。顔は次第に笑顔になっていき、その柔らかく紅い唇を動かした。
「いいよ。友達になっても。あなたの名前はなんていうの?変態さん」
「私はの名は赤蛮奇だ。よろしく、わかさぎ姫」

 それからは私は一人ではなくなった。毎日霧の湖に通い、とりとめの無い話をわかさぎ姫とした。それだけで私は安らぎをえることができた。そしていつの間にか他人の体臭を嗅ぐ性癖も消えていた。もう、私は寂しくなかった。


 
 
前作はすいませんでした。この話は孤独と温もりがテーマです。
ちなみに私には彼女も友達もいません。すべて妄執で書きました
ドルゴス
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コメント



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5.50名前が無い程度の能力削除
文章というか文体は好みなんだけどねー……話の構成のマズさ加減がそれを帳消しにしてる感じかな
読めば読むほど話に付き合うのが面倒くさくなるというか、良い話なのか滑稽噺なのか昏い話なのかいずれにしても中途半端で、突き抜ける部分がないのもなんだ