あ、久しぶり。
久しぶり。元気してた?
うん。今とっても面白い話をしてたところなの。
私も面白い話があるよ。この前デンデン虫みたいなメガネの子が同じ場所で七回も転んで。
それは前にも聞いたわよ。
でも何度聞いても面白くない?
二回目までは笑ったけどさぁ。
じゃあ怖い話とかどうかな。
あ、私そういうの好き!
え、あたしはちょっと用事を思い出したから……。
大丈夫よ。そんなに怖くないから。でも、ちょっとぞわってするかもしれない不思議な話。
ぞわっ?
そう。ぞわっ。
お化け? 妖怪? 怪物?
違う違う。そんな話いっぱいあるし、似たようなのばっかじゃん。ぞわっとするけど。
お化けでも妖怪でも怪物でもない、ぞわっとするかもしれない不思議な話かー。
ひやっとするかもしれないけどね。
もったいぶらないで、早く話してよ。どんなのそれは?
ほら、あの……はぐれ妖精の話よ。
知ってるわ。湖の近くにいる妖精でしょ?
私はこの前、山の麓で見たっていう噂を聞いたわよ。
あたしも一度見たことある。水色の髪の毛の妖精。
そうそう、その水色の妖精の話なんだけど。
あの妖精って……昔、他の妖精を殺しちゃったことがあるんだって。
~ 半透明のスイートピー ~
誰かいますか。
誰もいないのはわかってます。
私の周りには、もう誰もいない。私はもう、何も持ってない。
そして私の時間も、もうほとんど残っていない。
でももし、風の向こうに、私の声を聞いてくれる誰かがいるなら、
聞いてください。
私がこの世界から、消えてしまう前に。
私はよく他の子たちから「少し変わった妖精ね」と言われてました。
妖精にしては物をよく考える。
妖精にしてはちょっと大人しい。
妖精にしては難しい言葉を使おうとする。
妖精にしてはイタズラに興味を示さない。
もしかしたら本当に妖精じゃなくて、別の何かじゃないの? そう、からかわれたことも、何度かありました。
でも私は、間違いなく妖精です。
妖精は好奇心のかたまりです。知らないものや、わからないものには触れてみたくなるのが妖精です。
だからあの日、私があの坂を上っていたのも、きっと妖精だったからなんです。
今の私にとっては遠い昔に感じる季節。
春の半ばのことでした。
1.目覚めの春
この道が見えますか?
長い長い坂道です。青空に向かって伸びている坂です。
林の中をくり抜いていて、周りの草の丈があまり高くなくて、ぽつぽつとタンポポが生えています。
私はこの道が好きでした。
行く先の見えないこの道は「なんか不安な感じ」って言う妖精の子もいたけど、私はいつもワクワクしながら上っていました。
何か自分の想像していない素敵なものが、この坂の向こう側で待っている。
最初にここを歩いた時、そんな気がしたから。
一緒に先へ進みましょう。
これは私の記憶。だから大丈夫。安心してついてきてください。
もちろん坂をのぼりきっても、青空にたどり着けるわけじゃありませんけど、同じくらい素敵な場所が待ってます。
あ、もしかして、妖精はいつも飛んで移動するものだと思ってました?
私だけじゃなくて、他の妖精も皆、歩くことだって多いんです。
妖精はいつも飛んでる。そう思われてると知ったのは、ある人間さんに出会ってからですけど。
その話は後にして、今は坂を上りましょう。
さあ、着きました。
最初にここに来た時、この光景にとっても驚いて、しばらく立ったまま、飽きずに眺めてました。
だって見渡す限り、真っ白の霧が広がってるんですから。
まるで、空の神様に内緒で下りてきた雲さんが、お昼寝してるみたいです。
まっしろちゃぷちゃぷ。ミルキーレイク。霧の湖。
妖精のみんなは、いろんな名前でここを呼んでいます。
でもそれは全部あだ名。特別なものじゃない。本当の名前をつけていいのは、もっと偉い存在だけ。
私は湖に名前をつけられるほど、偉くありませんし、あだ名も特につけてませんでした。
あえて選ぶなら、ミルキーレイクがいいな、って思ったけど。
私が一人でこの湖に来たのには、ある理由がありました。
その前の日に、お花畑で仲間の妖精の子とお喋りしてると、ここで『はぐれ妖精』を見かけたという話を聞いたんです。
はぐれ妖精は、普通の妖精ではありません。
その名の通り、いつもひとりで行動してるのです。
私たち普通の妖精からすると、とても変わってます。妖精は大抵仲間と一緒に暮らすものだからです。
ただ、妖精でありながらひとりで行動できるということは、それだけ強い存在ということでもあります。
他にも、そのはぐれ妖精には怖い噂がありました。信じられないものも、信じたくないものも。
噂を聞いた私は、そのはぐれ妖精というのを、一度見てみたくなりました。
特別な理由は、たぶんありません。たぶんそれも、私が妖精だからだと思います。
妖精は元の世界に戻るまで、この世界で得たたくさんのものを心に写し取って、持ち帰ろうとする存在。
ですから、知らないものに触れてみたいという好奇心も、大事なエネルギーになってるんです。
でもせっかく湖に来たのに、私は右から左まで漂う霧を眺めているだけで、その奥には入ってみませんでした。
怖かったんです。
この向こうの湖に住んでるという、噂に聞く恐ろしいはぐれ妖精。
体の大きさはどれくらいなのでしょう。見上げてしまうくらい大きいかもしれません。
首がにょろりと長いかもしれません。口が広がっていて、牙がたくさん生えてるかもしれません。
頭に角があって、背中にびっしりとトゲが生えていて、お腹にはもう一つ大きな口があって、そこから紫色の舌をべろべろと出しているかもしれません。
全部噂で聞いたことですが。
だから私は、岸から離れた場所に立ち、遠くから霧を観察するだけにしました。
元々花の妖精ですから、動かないでじっとしているのは得意ですし、慣れてますから。
それに妖精は、自然の変化に敏感。こうしているだけでも、たくさんのことが分かってきます。
まずは音。
風で湖がさざ波を立てる音。岸にある石に、ちゃぷりちゃぷりと水がかぶる音。
そして匂い。
林から流れてくるのとは違う、水草の混じった湖の香り。
それから気配。
泳いでいる小魚さんとか。鳥さんが翼を広げて飛んでいるのとか。
せっかくの機会だし、こうやってしばらく自然の様子を楽しむのもいいかもしれない、と私は思いました。
そして、そろそろ帰ろうかと思った時です。私の方に、感じたことのない冷たい空気が流れてきたのは。
さらに、ぼやけた白い霧の中で、ふらり、と何かの影が動いたようにも見えました。
のんだ息で、喉が冷たくなります。
でも影が見えたのはほんのちょっとの間だけで、すぐに幻だったみたいに消えてしまいました。
今のは……何だったのでしょうか。
一瞬でしたから鳥さんだったかもしれませんし、本当に幻だったのかもしれません。
けれども一度頬を撫でていったあの冷たい空気は、本物に違いありませんでした。
それに急に目を開けたからかもしれませんけど、霧の奥でゆらめいた影は、キラッと光ったような気もしました。
私は帰るのを止めて、岸に立ち、もう一度見えてこないかと、目を凝らしていました。
その思いが通じたのかもしれません。やがて霧の中にあの影が浮かび上がり「あっ」と私は声を上げそうになりました。
そして大急ぎで、後ろの茂みの中に飛び込んでいました。
霧の中に浮かび上がった影が、はっきりとした形になって、外に出てきたんです。
妖精です。じゃああれが、噂に聞くはぐれ妖精なのでしょうか。
私は霧の中でも目立つ、黒い服の妖精を想像していたのですが、その子は青色の服を着ていました。
顔も見たかったのだけど、遠くからではよくわかりませんでした。
でも妖精にしては大きな体です。背中の羽は六枚あって、どれも透き通っててキラキラとしています。
もしかして……と私は思いました。
あのはぐれ妖精は、氷の妖精かもしれない、って。
『氷』というものに、私が実際に触れることができたのは、それよりずっと後のことでした。
春に生まれた私の周りには、そんなものはなかったし、ましてやそれを作りだすことのできる妖精の子もいなかったのです。
すごく冷たくて、石のように固くなった水、という噂だけは、友だちから聞いてましたけど。
そんな私は、初めて見た氷の妖精の子に、見とれてしまいました。
だって、お友だちの誰とも雰囲気が違うんです。特にその子の羽は、私が見てきたどの色とも違ってました。
夕日はレッド。ひまわりはイエロー。空はブルー。雲はホワイト。
じゃあ、あの子の羽は、どんな名前で呼べばいいのでしょう。
白ではありません。透明とも違います。
半分だけの白。半分だけの透明。何か素敵な呼び名があればいいのに。
その日、私は氷の妖精の子に見つかることなく、無事に帰ることができました。
でも実は私は、彼女のことを、誰にも話さなかったんです。
もちろん、できれば自分が見た光景を、仲間たちと分け合いたかったのは言うまでもありません。
だって妖精は、おしゃべりが大好きなんですから。あの時はよく我慢できたなって、今でも思います。
でも妖精の噂には、本当じゃないこともたくさん混ざっています。
その時私が見た、氷のはぐれ妖精の子は、私が聞いていた怖い噂の、どれとも違った様子をしてました。
なのでもっとよく観察すれば、私だけが知っている新しい噂が作れるかも、って思ったんです。
お友だちに話すのは、はぐれ妖精のことをもっと調べてからにしよう。そう思いました。
というわけで、次の日も私は、空へと続く坂道を上っていました。
けどその日は、湖で彼女を見つけることはできませんでした。
そのまた次の日に行った時は、お昼過ぎに見つけることができました。
前よりも霧が晴れていて、前よりもっと長く観察できました。
私は何度も、霧の湖に通いました。
だんだんと眺める距離も近くなって、前よりもその子のことがはっきり見えるようになりました。
でも……と私は近づけば近づくほど思ったのです。
彼女は、本当に噂に聞くはぐれ妖精なのでしょうか。
その子は確かにいつも一人で遊んでいて、ちょっと変わった姿をしてるけど、危ないようには見えなかったんです。
それどころか、見ていておかしいんです。
ある時は、「ひっさつわざー!」と叫びながらぐるぐるスピンし続けて、目を回して倒れちゃってました。
かと思えば、ある時は木のポーズでじっと動かずにいて、顔の真ん中にトンボさんが止まったら、大きなくしゃみをしてました。
またまたある時は、霧の中にものすごい勢いで飛び込んで行って、ずぶぬれになって戻ってきては、また飛び込んで行って……。
見ていて全然飽きないので、いつまでも眺めたていたかったくらい。
でも夜になるとあの辺りは怖い妖怪がうろつくと聞いていましたから、私は日が暮れる前に仲間の子と住んでいるお花畑に戻っていました。
それから、彼女のことを他の子に話したくなるのを我慢しながら「次に見に行った時は、どんなことしてるのかな」と、思いを膨らませながら眠りました。
だからなのか、いつの間にか私が湖に行く目的は変わってたんです。
はぐれ妖精にまつわる自分だけの噂がほしい、というのじゃなくなって。
それよりも、あの不思議な子と直接会って話してみたい、という気持ちに。
私の小さな願いは、ある日突然叶うことになりました。湖に出かけるようになってから、七回目だったかな。
その日も水色の不思議な妖精の子は、岸辺に一人でいました。
私はすぐ側の森の中にある、太い木の裏に隠れていましたが、もうだいぶ慣れていたので、今までで一番近い距離から観察してました。
ここからだと、はっきりとその姿がわかります。
くしゃくしゃになって毛先もはねちゃった水色の髪。泥んこになっちゃったブルーとホワイトのワンピース。
今日の彼女は、自分が汚れるのを気にせず、自分の背たけと同じくらいの泥んこの山をこしらえていました。
湖に自分の姿を映しながら、それと見比べてむつかしい顔で石を使って削っています。
どうやら、自分とそっくりのお人形さんを作ろうとしているみたいです。
私も前に友だちと、花や果物の汁を使った絵の具で、お互いの似顔絵を描いたことがあります。
あの妖精の子を描くとしたらどんな花を使えばいいかしら。
ネモフィラ、ヒヤシンス、ローズマリー、ラベンダー。色々混ぜれば描けそうだけど、あの背中の羽だけは難しそう。
銀色とも白色とも違う、綺麗に透き通った羽。それ以外なら、上手に描いてあげられる気がしました。
でも、はぐれ妖精の子が使う泥んこは全部同じ色ですし、形も丸くて太くて、お餅の山みたい。
けどその子は一生懸命作ったそれを眺めながら、手を左右に伸ばして同じポーズをとっていました。
もしかして、泥んこの人形を自分に似せるんじゃなくて、自分が泥んこの人形みたいなポーズをしようと思ったのかも。
それがやっぱり何だかおかしくて、見ている私は口を手で押さえて、笑い声を上げそうになるのをこらえてました。
「気付いてないって思ったわけ?」
水色の妖精の子は、不意にそう言いました。
息を止めていた私は、まだ木の幹から顔を半分のぞかせたままでした。
「さっきからずっと見てたわね。そんなにあたいが気になるの?」
慌てて隠れ直そうとする前に、続けて尋ねられます。
耳を突っつくように甲高くて、自信に満ちた声。
私はぶるぶると背中の羽を震わせながら、一体いつから気付かれてたんだろう、と思いました。
今から急いで逃げれば助かるかもしれない、とも。
「さっさと正体を現しなさい。痛い目見る前にね」
そう言われて逆らえるほど、私は勇気のある妖精ではありません。
だから諦めて、木の陰からそろりそろりと出て行きました。
でも視線は下を向いたままです。今日までの間、私はずっと彼女を盗み見していました。
それがバレてしまった今、どんなことをされてしまうのか、怖くてたまらなかったのです。
……だったのですが、
「なんか言ったらどう!? それとも、最強のあたいを前にして、ビビって何もできないの!?」
「はい?」と頭を上げた私は、戸惑ってしまいました。
氷の妖精の子が、全く私の方を見ていなかったからです。
彼女は私に背中を向け、逆側にあった『大きな岩』を指差してました。
「いざじんじょうに勝負よ! あたいをなめたらどんな目にあうか、思い知らせてやるわ!」
その子が話しかけている相手は、やはりどう見ても私ではなく、その変な形の岩のようでした。
よく見ると、確かにその岩の表面にある模様は、顔のように見えなくもありません。
その子はその顔が、自分を見ているのだと思って、話しかけていたようです。
つまり、私が見つかったと思ったのは、勘違いだったみたいで……。
「それにしても変な顔ね。まるで……だいだらぼっち! の頭! あははは!」
水色の妖精の子は、一人で喋りながら大笑いしています。
その背中を見ながら、私はこれからどうすればいいのか、途方に暮れていました。
このまま帰っちゃおうか、それとも木の裏に隠れ直して、しばらく見ていようかしらって。
それにしても、まだ彼女は私に気付いてくれません。
だって、いくら後ろ向きだからって、あとほんの一歩の距離まで近付いてるんですよ。
「だいだらぼっち! 黙ってないで、なにか言い返してみな! 最強のあたいが相手してやるから!」
「あの~」
私は思い切って、精一杯の勇気を振り絞り、その子に話しかけました。
「へぇ。あんた見かけより綺麗な声してるのね」
氷の妖精の子は相変わらず、変な顔の岩に向かって喋っています。
私はもう少し、大きな声を出しました。
「あのっ! こっち!」
その時になって、目の前の子は、ようやくこちらを向きました。
物音に気付いたリスさんのような、とても素早い動きで。
「…………何? あんた…………」
私はまた、口がきけなくなりそうになりました。
あまりにも予想と違う顔を向けられて、びっくりしてしまって。
というのも、私は知らず知らずのうちに、彼女を普通の妖精の子のように見ていたのです。
妖精はみんな、目が合うだけで『ふんわり』とか『ぱぁっ』みたいな笑顔を浮かべるものです。
だから私も、彼女の笑顔が見られるのではないかと、心のどこかで期待していたのでした。
ところが、です。
彼女の顔は、『きりりっ』という感じの、本当に怖いものでした。
特にその目。私をじっと睨みつけるその目は、とても青くて、冷たい目。
口は固く閉じていて、水色の眉も細くとんがっていて、触ろうとすれば指が切れちゃいそうな雰囲気があります。
遠くから見る彼女と、今近くにいる彼女の印象は、大違いだったのでした。
彼女が私を睨んだまま、何も言ってくれなかったので、
「……さっきから見ていて……声をかけたのは……私です……」
私は何とか、そう伝えました。
まだこちらを睨んでくるその妖精の子は、やがて後ろの岩をアゴで示して言いました。
「あんた、このだいだらぼっちと関係あるの?」
「ありません」
「声が似てる」
「だからそれは……さっきの声も、私の声だったんです……」
斜めになった水色の眉毛が、さっきよりもさらに近くなりました。
次に彼女は頭を抱え込んで、ぐしゃぐしゃと自分の髪をかきまわし始めました。
「……あんたがだいだらぼっちで……こっちもだいだらぼっちで……」
「だから違うってば! 私は花の妖精です!」
何だかこっちもイライラしてきちゃって、私はつい大きな声を出してしまいました。
すると妖精の子の方も、ますますイライラしたように、ぐー、とか、うー、とか唸って、足をばたつかせ始めたのです。
しかもそこまでして、やっと彼女が言った台詞は、
「あたい知ってる! だいだらぼっちは花じゃないわ! つまりあんたはだいだらぼっちじゃなくて、ニセモノ!」
「………………」
私は頭がクラクラしてしまいました。
元気で声の大きな子はたくさん知ってるけど、こんなに話すのが難しい子には会ったことがありません。
もしかして……はぐれ妖精だから、妖精と会話をしたことが、あまりないのでしょうか?
そう考えると、少し落ち着いてきます。私はなるべく優しく話しかけようとしました。
「私も知ってるわ。貴方は湖に住んでる……えっと、氷の妖精なのよね」
「違うわ。あたいは最強の妖精チルノ」
「え?」
「チルノよ。それがあたいの名前」
私は驚きのあまり、少し固まってしまいました。
「で、でも、貴方は妖精じゃないの?」
「最強の妖精」
「じゃ、じゃあチルノっていうのは、あだ名?」
「あだ名じゃない。最強の妖精っていうのも、あだ名じゃないし。あたいの名前はチルノ」
「そんな……」
「何よ。名前があっちゃ悪いわけ?」
つっけんどんな口調で言うその子に、私は戸惑うばかりでした。
だって、だって、と言い返したくなります。
名前なんて自分についちゃったら、大変じゃない。そんなことしたら、危ないじゃない。
急に怖くなってきた私は、何も言わずに逃げようとしました。
「待ちな!」
痛い!
な、なんて冷たい手なんでしょう!
生まれたばかりの頃に手ですくってみた小川の水だって、こんなに冷たくありませんでした。
「なんであんた、あたいに話しかけてきたの」
私の腕を掴んだ彼女の顔は、怖いままでした。
逆らいたくはなかったけど、正直に答えることもできません。
はぐれ妖精の噂を聞いて、好奇心が湧いて、いざ実際に見て、噂を一人で集めようとして。
それから見つかったと勘違いして、木の陰から出てきて、つい話しかけてしまった。
こんな説明、誰が納得してくれるでしょうか。
そのうち、掴まれてる腕がしびれてきて、感覚がなくなってきました。
「は、離して」
私がそう頼むと、彼女は突き放すようにして、私の腕を払いのけました。
それから見下すような視線で、
「弱虫」
と小さな声で言い捨てました。
私は唇を噛んで、泣くのをこらえました。
でも彼女のひどい仕打ちは、それだけで終わらなかったのです。
急に私の周りの温度が、もっと低くなりました。
私の口から漏れた息が、白い霧に変わります。ブルブルと体が震えだし、手先や足先の感覚がなくなります。
耳が取れちゃうんじゃないか、背中の羽が千切れちゃうんじゃないか。そう思うくらい冷たくて。
私が背を向けて飛ぼうとした瞬間、目を青く燃やした彼女が、手を縦に強く振るのが目に入りました。
痛い! 何かが背中にぶつかりました。硬くて冷たくて……これはなんなのでしょう!?
けど、目で見て確かめている余裕はありませんでした。
私は泣きながら逃げました。振り返らずに、急いで飛んで、もう追ってこないだろうと思えるくらいのところまで逃げて、ようやく振り向きました。
長い坂が続いています。
湖へと続いている、何度も通った坂です。
でも私は、もう二度とその坂道を上る気にはなりませんでした。
生まれ育ったお花畑に帰り、生まれてから一番悲しかったこの日の出来事を、全部忘れてしまおうと思いました。
今思い返しても、私とチルノちゃんの出会いは、最悪だったんじゃないかと思います。
◆◇◆
ところで、どうして妖精が名前を持たないか、知ってますか?
それは私たち妖精にとって、名前というものが邪魔になることがあるからなんです。
遊びで名前を付け合うこともあるけれど、大抵は忘れてしまいます。
いつまでも覚えていると、仲間から嫌われることもあります。
なぜかって? 名前を持ってると、私たちは……。
……なんて言えばいいのかな。「重く」なってしまうんです。
「重く」なると元の世界、お母さんのいる所に帰れません。
それはとても怖いことなんです。貴方が妖精だったら、すぐにわかってくれると思うんですけど……。
頑張って、違う言い方を考えてみます。
えーと……一匹の妖精がお母さんから生まれて、こちらの世界にやってきます。
そして別の一匹の妖精がこの世界から消えて、お母さんの元に帰っていきます。
生まれて、消えて、混ざり合って、また生まれて……それがくるくるとたくさん繰り返されて……。
そうやって全ての世界が、バランスを整えているんです。
けれども名前がついてしまうと、こちらの世界から向こうの世界に帰るのが大変になってしまいます。
そうなると、他の妖精の子たちと違うものになり、仲間外れになってしまうということです。
こうやって説明ができるようになったのは、本当に最近のことです。
私は今まで、妖精がどんなものかをぼんやりとわかった気でいるだけでした。
きっと他の妖精の子も、そうだったんだと思います。
だから私にも名前はありませんでした。
羽が綺麗な子とか、柔らかい子とかいうあだ名はありましたけど、次の日にはやっぱり違う名前になっていました。
とにかく妖精は名前が必要なほどこの世界に長くいないし、名前というものは元の世界へ還るのに邪魔なだけです。
けれども、自分の名前を堂々と名乗った氷の妖精の子は、還れなくなることを恐れない妖精。つまり、はぐれ妖精だったのでした。
でも告白しますと、その日にチルノちゃんのことを忘れようとした私は、本当に苦労することなく忘れることができました。
私だけじゃなくて、妖精はあまり悲しかった出来事を覚えないようにしてるんです。
だって、お母さんの元に還るときには、楽しい思い出だけをいっぱい持って帰りたいですから。
私が湖の出来事を忘れて、普通の妖精として楽しく過ごすうちに、やがて春が過ぎ、夏がやってきました。
季節が移り変われば、当然命の形も移り変わります。
貴方は妖精がどうやって生まれるか知ってますか?
私も上手く言える自信がないのですが……妖精は自然から生まれまるけど、自然のそのままじゃありません。
たとえば月の妖精は、月の光のぼやーっとした感じから生まれるけど、お月様そのものじゃない。
私も花の妖精ですけど、花がそのまま私になったんじゃなくて、春になって花がぱぁっと咲いた感じから生まれたんです。
だから春から夏に変わって、たくさんの妖精が消え、新しい妖精がたくさん生まれました。
消えた妖精の中には、もちろん私の仲間もいました。
悲しかったか、ですって? そんなことはありません。
だってあの子たちは死んじゃったわけじゃなくて、元の世界に「還った」だけなんですから。
だから羨ましかった。この世界で感じたことを自分の心に写し取って、あの世界へと返しにいく。妖精としての喜びがそこにあるのです。
私も早く、お母さんの元へ帰りたい。そう願ってました。
本当に、たくさんお願いしてました。毎日毎日、お祈りしてました。
何度も、何度も、何度もお祈りして……。
けど私は、いつになっても、この世界から消えることができませんでした。
そのうち、私の周りからは、誰もいなくなってしまいました。
◆◇◆
いいお天気です。
昨日までずっと雨が続いていたので、元気なお日様の光を浴びるのは久しぶりです。
草むらにいる虫さんも小鳥さんも、色んな生き物が、晴れの日を喜んでいます。
でも私の気持ちは、ゆううつなままでした。
音はたくさんあるのに、静かに感じる。温かいはずなのに、肌寒く感じる。
それはなぜかというと、私が仲良くしていた妖精の子たちが、みんな消えてしまったからでしょう。
いつものお散歩のコースを巡り終わって、自分が生まれた原っぱに帰ってきた私は、草むらの中にしゃがみこみました。
ここはずっと、スイートピーで賑わう素敵なお花畑だったのに、季節が変わったことで花はもう全部消えてしまいました。
草は青々と生い茂っています。ぽつぽつと違う花は咲いてます。蝶々も飛んでます。ヒバリの声も聞こえます。
でも私が聞きたいのは春を過ごした仲間の挨拶の声で、見たかったのは仲間のまぶしい笑顔でした。
それらはもう、思い出の中にしかありません。みんな私よりも先に、お母さんの元に還ってしまった。
私はまだこの世界に取り残されたままなのです。どうしてなのでしょう。
「あれ? あなた」
うずくまっていた私は、誰かに声をかけられました。
「あなた、スイートピーの妖精よね?」
私は思わず、立ち上がって振り向きました。
幻じゃありません。その妖精は私と同じ花の精で、別の場所に住んでいたけど、何度か遊んだこともあった相手だったのです。
嬉しさが込み上げてきて、自然と笑顔になります。
「うん、久しぶり!」
「まだ『還って』なかったんだ。ちょっとびっくりしちゃった」
「私も……自分でびっくりしてる」
なんだか恥ずかしくて、私は目を伏せたくなりました。
それから、その子が最後に会った時よりもずいぶん様子が変わっていることに気付きました。
黄色い髪の毛が、風も吹いてないのになびいていて、輝いています。
そしてその白い服からも、たくさんの小さな金の粒がこぼれ出していたんです。
ああ……と私はため息をつきそうになりました。その子が今まさに、あちら側に還ろうとしていることに気付いたから。
見つけたばかりの仲間がまた、私の前から去ろうとしているのだとわかりました。
「あの……一緒に、連れていってくれない?」
私は思わず、そう頼んでいました。
「私も早く還りたい。このままずっとここにいるのは嫌だから……」
きっと変なことを言ってると思われたでしょう。だって、元の世界に還れない妖精だなんておかしな話です。
でも、その子はやさしかった。
はじめは不思議そうに聞いてましたが、すぐににっこり笑って言ってくれたんです。
「いいよ。じゃあ手を繋ご」
差し出されたその手の指先から、光の粒がこぼれ、風の中に溶けていきます。
私はその掌の上に、自分の手を重ねました。
そのうち、隣の子からこぼれる光が、どんどん強くなっていきました。
懐かしい温もりを感じます。光の砂に包まれて、私にも向こうの世界からの呼び声が聞こえてくるようでした。
ああ、やっと戻れる、と私は安心して目を閉じました。
瞼の裏の暗闇が消えていって、温もりが体を通り抜けて……
目が覚めると、私は原っぱの真ん中で、座ってました。
あの妖精の子の姿はありません。
タンポポの綿毛みたいに、彼女の姿も温もりも、緑の匂いのする風に吹かれて消えてしまいました。
手にはまだ、光る砂の感覚が残っていました。
その日も私は、ひとりで泣くことになりました。
でもこの時の哀しさは、それまでのよりもずっと大きかった。涙があふれて、止まらなかった。
どうして、私は生まれ変われないのだろう。これからどうなってしまうんだろう。
お母さんから拒まれているようで、寂しくて、悲しくて、情けなくて。
消えたいのに消えることのできない苦しみ。今思えば、ひょっとするとそれは、妖精だけのものかもしれません。
もしかして……と膝を抱えていた私は思いました。
私は知らないうちに、はぐれ妖精になってしまったのかも。
首を振って、その恐ろしい考えを追い払おうとします。
だって私はずっと普通の妖精だったんです。
はぐれ妖精になってしまうような、罰当たりな悪いことをした覚えはありません。
私だけがこの世界に置いてけぼりだなんて、仲間外れだなんて、そんなの……そんなの……。
辛い気持ちの中、私はふと思い出しました。
はぐれ妖精になってしまった理由もわからなければ、はぐれ妖精というものがどういうものなのかもわかりません。
けれども、はぐれ妖精について、私は一人の子を知っています。
すき通った氷の羽をもつ、水色の妖精。
あの時出会ったはぐれ妖精の子は、今頃どうしてるんだろう。もしかしてまだ、あの湖にいるんでしょうか。
彼女なら、私の気持ちがわかってくれて、どうすればいいかも知ってるかも。
私は決心して、霧の湖に行くことにしました。
他に手がかりとか、救いになるものが見つからなかったから。
これが私の、はぐれ妖精としての、最初の一日です。
◆◇◆
「いい加減、前みたいに喋ってみたらどうなのよ、でくの坊! あたいがそんなに怖いわけ!?」
はぐれ妖精のチルノちゃんは、霧の湖に着いたら、すぐに発見できました。
やっぱり彼女は、岸辺で一人で遊んでて、しかもまた、あの変な顔の岩に話しかけていたのです。
「あんたの正体が、だいだらぼっちの頭だってことは見抜いているのよ!」
チルノちゃんは腰に手をあてて、堂々とおかしなことをしゃべっています。
一方の私は、相変わらず茂みの中に隠れて見守ることしかできませんでした。
話しかけなきゃ、っていうのは分かってるけど、この前みたいに話が通じなかったり、意地悪なことをされるのも嫌。
しばらく、岩の周りを飛んで喚いているチルノちゃんを、離れて見守る時間が続きました。
やがて大声は止み、静かになりました。
岩と向き合って、黙って立ち尽くしているチルノちゃん。
一体何を考えているのでしょう。あの時みたいに、私のことに気付いたようではありません。
急に静かになった岸辺で、チルノちゃんが体の向きを変えました。
あ……と、私は思わず声を漏らしそうになります。
チルノちゃんの笑顔が、消えてたんです。私と初めて顔を合わせた時みたいに。
冷たくて、なんだか暗くて、怒っているようで、妖精に似合わない表情。
あの時腕を強く握られ、乱暴にされたことを思い出し、私はぎゅっと胸の辺りの服をつかみました。
チルノちゃんは結局、私に気付かないまま、岸からふわりと飛び立ちました。
そのまま太陽の光を受けて、西の方へと飛んでいきます。
きっと、どこか別の場所で遊ぼうと決めたのでしょう。
私も飛び立ち、気づかれないよう、ついていきました。
話しかけるのは後回しにして、はぐれ妖精である彼女が、どんな一日を過ごしているのか、全部見て勉強しようと思ったんです。
しばらく飛んで、ずいぶん遠くまで来ました。
てっきりチルノちゃんは、湖の周りだけを縄張りにして、そこでずっと暮らしているんだと思ってました。
普通の妖精は、危ないので自分の生まれた場所から離れて過ごすようなことはしないんだけど、はぐれ妖精は、そうじゃないのかしら。
やがて遠くを飛ぶ青い姿が、日の光を反射してキラッと輝いたと思ったら、緑の森の中に紛れてしまいました。
私も慌てて森の中に入ります。
ここは私が生まれたお花畑からも眺めることのできた、あの大きなお山の足下に近い森です。
見るのも入るのも初めてです。チルノちゃんはこんなところにいつも一人で来ているのでしょうか。
やっぱり彼女は、というかはぐれ妖精は、普通の妖精ではないみたいです。
チルノちゃんの後ろ姿は、すぐに見つけ直すことができました。
緑と茶色ばかりの森の中で、木の枝に両足を開いて立っている水色の彼女は、よく目立っていたのです。
こんなところをうろついて、強くて乱暴な妖怪とかに見つかったら、どうするのでしょう。
私が心配していると、
――ちぇんー!! リグルー!!
びっくりして、髪の毛が逆立つかと思いました。
チルノちゃんがあっちこっちに顔を向けながら、大声で叫び始めたのです。
――ルーミアー!! ミスチー!! 誰かいないのー!?
彼女は一体、誰を呼んでるのでしょう。
私の疑問はすぐに解けました。
「チルノー。久しぶりー」
私の隠れている、すぐそばを何かが通り過ぎて、彼女の元まで飛んでいきます。
それは妖怪でした。
チルノちゃんは逃げ出すどころか、妖怪の方に向かって、手を振って挨拶しています。
そして木の枝の上で出会った彼女たちは、親しげに話し始めたのです。
私は震えていました。
そのうち、またもう一匹の妖怪が現れ、チルノちゃんはその妖怪にも挨拶していました。
そしてまた一匹、また一匹。
私はもう見ていられなくなり、すぐにその場から、大急ぎで逃げ出しました。
結局この日の私は、チルノちゃんと仲良くなることも、チルノちゃんに話しかけることもできませんでした。
そして、はぐれ妖精として生きていく自信も、完全に無くなってしまいました。
この目で見るまでは、信じられなかったんです。
以前に聞いていた、霧の湖に住んでるはぐれ妖精が妖怪と仲良くしているっていう噂は、本当だったのです。
それはつまり、チルノちゃんが私が想像していたよりもずっと変わっていて、ずっと怖い妖精ということでした。
だって、妖怪と遊ぶ妖精なんて、全く聞いたことがありません。
しかも彼女たちは、どちらが偉いとかそういうこともなく、お互い仲間のように振る舞っているようでした。
私があんな風に、妖怪とお付き合いする? 無理です。同じことをしている自分の姿なんて、想像さえできません。
だから思わず、逃げてしまったんです。
途方に暮れた私は、その日から自分の寝る場所を見つけるのも困るようになりました。
妖精は妖精のあるべき場所に。そしてその他の場所は、多くが妖怪のための場所となっています。
広いようで狭いこの世界。少なくとも当時の私は、この世界の狭さに望みを失っていました。
私みたいな、ちっぽけなはぐれ妖精に用意されてる場所なんて、どこにもないんじゃないかって。
でも今思えば、あの時の私が回ってみた場所なんて、この世界のほんの一握りに過ぎなかったんです。
この空の下に許された場所の隅々を回るだけの力も勇気も、ただの妖精でしかない私にはありませんでした。
輪から外れた妖精なんて、本当に弱い存在でしかない。だから妖精はいつも群れで生きるんです。
はぐれ妖精の自分なんて、やっぱり私は受け入れることはできませんでした。
◆◇◆
季節が本格的に夏に入りました。
私は夏という季節のことを、春に友だちから聞いた噂でしか知りませんでした。
春の真昼のよりもすごい暑さが、朝から夜まで続いて、空気が歪んで見えるほどで、大雨や雷もたくさんあるとか。
でも前にもまして温かくなったお日様の下、緑の濃くなった森の中を飛んでいると、落ちこんだ気分が少し上向きになる感じがありました。
私が消えた仲間と共に住み処にしていたお花畑の跡にも、違う花が咲き、新しい妖精がたくさん住みつくようになりました。
夏の妖精は、春に生まれた妖精に比べて、みんな元気がよくて、やんちゃで、体も大きく見えます。
けれども、どの子も妖精であることには変わりません。
カラフルな服を着ていて、お洒落な羽が生えていて、お喋りが大好きそう。
彼女たちが友だち同士で過ごすのを羨ましく眺めていた私は、ある日突然、いいことを思いつきました。
自分が夏に生まれたことにして、あの妖精の子たちの仲間に加えてもらえないかしら。
少なくとも、はぐれ妖精として生きていくよりは、だいぶ楽なアイディアに思えました。
うまくいけば、妖精ひとりで生きる必要も、危険な場所に行って妖怪と仲良くなる必要もないのです。
でもいきなり輪の中に入り込んで、自分が夏の妖精だと信じてもらえなかったら困ります。
慎重にしなくてはいけませんし、失敗するわけにはいきません。噂はきっとすぐに広まってしまうでしょうから。
私が彼女たちの仲間に入るきっかけにしようと思ったのは、妖精の大集会でした。
大集会は、お花畑にいる妖精も森にいる妖精も川沿いにいる妖精も、一堂に揃ってお喋りする行事です。
たくさんの妖精が集まるその日に紛れ込めば、私を仲間として受け入れてくれるかも、と考えたのでした。
集会の日にちと場所は、あるグループのお喋りを、離れたところに隠れつつ、内緒で聞いて知りました。
そして大集会の当日、私は心の準備をしてから、太陽の畑を訪れました。
丘に囲まれてへこんだその場所は、いくつものお花畑が合わさってできている、とても素敵なところです。
ここも私の春に来た時の記憶よりも、色鮮やかな場所になっていました。
でもなんといっても、そこに集まっている妖精たちの賑やかなこと。
どこかにいる貴方にとって、もしかすると妖精は見慣れているものかもしれませんけど、これだけの妖精を一度に見たことはあるでしょうか?
色とりどりの服装に身を包んだ彼女たちは、ぺちゃくちゃとお喋りをしたりダンスをしたり追いかけっこをしたりして、虫さんと鳥さんとお花が一緒に合わさったみたい。
私は何だか嬉しくなり、そして懐かしくもなりました。
春にみんなとこんな風に、大集会をした時のことをふと思い出したのです。
初めて会う子たちとお喋りやダンスを楽しんで、それぞれが用意したお菓子やジュースを飲んだりして。
あの時は、この楽しい一日がいつまでも終わらなければいいのに、と思ったものです。
今日、私は大集会でみんなに食べてもらうために、お菓子をたくさん作って持ってきていました。
花の妖精はみんな、お菓子作りが得意なんです。
一人で来たのではなく、なるべく自然に、他にも仲間の子が来ているかのようなそぶりで、私はお花畑を緩やかに飛んで巡りました。
ところが……。
――ねぇ……あれって……。
――だよね……私も知ってる。
変な感じでした。
私がお花畑の上を飛ぶと、どうしてか皆の声がしずまり、影が遠ざかるのです。
そして彼女たちの顔つきも変です。何だかニヤニヤと笑っている子もいれば、おどおどと怖がっている子もいます。
どの子もあまり気持ちのよくない感じの目で、こっちを見てました。
どうしてかしら。もしかして……。
私の不安な予想が、現実のものになるのは、間もなくのことでした。
「はぐれ妖精!!」
その叫び声で、私は頭から冷たい水をかけられたみたいに縮み上がりました。
一匹の妖精が、天敵を見つけたような険しい顔で、こっちを指さしています。
「みんな! はぐれ妖精が紛れ込んでるわよ!」
大集会に集まっていた妖精たちが、一斉にこちらを向く気配がしました!
ああ! なんてことでしょう! すでに仲間を持たない私のことは、彼女たちの噂になっていたのす!
私は思わず、持ってきたお菓子を放り出して逃げ出そうとしました。
けれども今自分がいる場所は、太陽の畑のちょうど真ん中。
周りには気付いた妖精がたくさん待ち構えています。
すぐに通せんぼされました。
方向を変えて逃げようとしたその先でも、別の子が待ち構えていました。
飛んで私を見下ろす子も現れ、空へと通じる道も塞がれてしまいました。
私の頭に何かがぶつかりました。
それは私が持ってきたお菓子でした。一匹の妖精の子が、それを投げつけてきたのです。
すぐにもっとたくさんのものが、私目がけて飛んできました。
「はぐれ妖精をやっつけろー!!」
「おー!!」
「きゃはははは!!」
私はお菓子まみれになりながら、それでも闇雲に逃げようとしました。
でも混乱のあまり、ふらふらとして、足元が定まりません。
そのうちいじめはもっとひどくなり、叩かれたり蹴られたり、髪を引っ張られたりしました。
途中から、私は丸まって、反抗するのをやめていました。
痛かったけど、苦しかったけど、でもこのまま消えることになれば、今度こそ『向こう側』へ還れるんじゃないかと思ったから。
その時は本当にそれくらい深い悲しみの底に、私は叩き落とされてしまったんです。
今思い出しても、涙が溢れてくる、これ以上ないくらいひどい仕打ちでした。
けど、私が消えることはありませんでした。
急に私を取り囲んでいた気配が、一斉に離れたのです。
だけど周りは、もっと騒がしくなりました。
「きゃー!」
「助けてー! こっち来ないでー!」
顔を上げてみると、変てこな光景がそこにありました。
大勢の妖精たちが、みんな悲鳴をあげて散り散りに飛んでいます。
「ひゃぁ! は、早く避難よ避難!」
「なんでこんな日にやってくるのよー!」
よく見ると、彼女たちは皆、何かから逃げているのだとわかりました。
妖精を襲っているのは、太陽の光を受けて白くきらめく矢でした。
その矢を次々と放っている、お花畑に不釣り合いな半透明の水色の姿を、私は知っていました。
「こんちきしょー!! くらえー!!」
吠えながら暴れ回るその妖精は、間違いなく、はぐれ妖精の彼女でした。
それはもうあまりにも不思議で、信じられない光景でした。
だって、たった一匹の妖精が、同じ妖精の大群を追い回しているんです。
ミツバチさんの巣にスズメバチさんの親分が現れたような騒ぎです。
私たち妖精は、それぞれの力にあまり差がありません。
例えば、もし一匹と二匹がケンカするようなことがあれば、ほとんど必ず二匹が勝つはずなのに。
気がつくと、辺りに残っているのは、お花畑に伏せていた私だけになっていました。
妖精の一団は、水色の妖精に追われて、北へと飛んでいきます。
地面にうずくまっていた私は、まだ体が痛かったけど、急いで服の汚れを払って落として、追いかけることにしました。
もしここで見失ったら、もう二度とチャンスはないんじゃないかって思ったんです。
◆◇◆
太陽の畑を出た私が、水色の妖精の子に追いつくことができたのは、ちょうど魔法の森と呼ばれている場所のすぐ側でした。
でも私が来た時にはもう彼女だけになっていて、妖精の集団は影も形もなくなっていました。
見たところ、追いかけられていた他の妖精たちは、みんな森の中に逃げこんでしまったみたいです。
水色の子が空中で、拳も足もバタつかせて
「くっそー! 逃げやがってー!」
と、妖精らしくない、ものすごく汚い言葉で悔しがってましたから。
私は後ろから、思い切って話しかけました。
「ね、ねぇ」
するとその水色の子は、勢いよく振り向きました。
それから、とっても悪そうな感じでニヤリと笑って、
「残っていたわね! あんたも凍らせてやるわ!」
「ま、待って!」
私は慌てて両手を持ち上げて止めながら、尋ねていました。
「教えて。さっき、私を助けてくれたの?」
彼女は一度まばたきして、眉をひそめます。
私はもっと分かりやすく伝えようとしました。
「さっきのお花畑で、私がいじめられているところを、助けてくれたでしょう」
「あんたが? いじめられてた? あたいが? 助けた?」
眉をひそめたまま、彼女は首を左右にひねっています。
「あたいは、気に入らないやつらをひどいめに合わせてやっただけだけど。っていうか、あんた誰?」
「……………………」
私もそこでなんとなく、理解しました。
つまりこの子は、あの時いじめられていた私のことなどどうでもよかった、というか気付いてすらいなかったみたいです。
ただ気に入らなかった妖精の群れを、大胆にも一人で襲撃して、たまたまそれに私が助けられる形になったということらしいです。
私は何だか、がっかりしたような気持ちになりました。
「あんた、あたいと闘いたいわけ?」
私はブンブンブンと首を振りました。
そんなわけありません。
「じゃあ、凍らされたいの?」
私はブンブンブンと首が痛くなるくらい振ってから言いました。
「私……どこに行ったらいいかわからないの……」
どこに行ったらいいかわからない。
そう言葉にすると、急にまた悲しくなってきて、涙が零れ落ちました。
大集会に行けば、きっとまた仲間ができると思っていたのに、あんなにひどい目にあわされるなんて。
私は本当に一人ぼっちになってしまったんです。
でも私が泣けば泣くほど、目の前にいる子の視線は冷たくなるばかりでした。
そして最後には、私から興味が失せたように、どこかに行こうとするそぶりを見せたので、
「ま、待って! チルノちゃん!」
お菓子を投げつけられたわけでもないのに、彼女はそれと同じくらいびっくりしているようでした。
振り返ったその顔には、まん丸の青い目が二つ。
「なんで……あたいの名前……」
「前に、あなたが教えてくれたから」
そうでした。
私は一度しか会ったことがないチルノちゃんの名前を、ちゃんと憶えていたんです。
一方、チルノちゃんは私のことを思い出せないらしく、疑わしそうにこちらを睨んできます。
「でも、あんた妖精でしょ。あたいは妖精の知り合いなんていない」
「それは……私は妖精だけど、チルノちゃんとおんなじで、はぐれ妖精なの」
はぐれ妖精と言ったとき、彼女の両方の眉が持ち上がり、その間にシワがよりました。
すごく怒ってる。そのことをすぐに感じ取り、私は謝りました。
「ご、ごめんなさい! 私……ひとりぼっちで……どうしていいかわからなくて……みんなにいじめられて……仲間がいなくて……」
「あたいはひとりぼっちじゃないわ! いじめられることなんてないし、仲間だっているわ!」
「でも妖精の仲間はいないんでしょう?」
「妖精の仲間なんていらない! 妖精なんて大嫌い!!」
ものすごい剣幕です。
空気が一気に冷たくなり、彼女の体が一回り大きくなったように見えました。
でも私だって必死でした。
他に頼れる子がいない今、偶然とはいえ、助けてくれた彼女だけが、自分にとっての救いになってくれそうな気がしたんです。
私は何とか、彼女に気に入られる方法を考えました。
急いで、懸命に、とにかく必死になって、何とか絞り出した答えは、
「私……だいだらぼっちの妖精なんです……」
私は生まれて初めて、ウソをつきました。
◆◇◆
だいだらぼっちの妖精、ってなんでしょう。私にもよくわかりません。
そもそも、だいだらぼっちというのがどういうものなのかも知りませんでした。
けれど、そんなウソをついた後は、チルノちゃんの態度がまるっきり変わってしまいました。
「あっはっはー! 最強の妖精であるあたいには、普通の妖精じゃ全然釣り合わないけど、だいだらぼっちの妖精くらいだったら許してやるわ!」
そう言って、私を仲間として認めてくれたのです。
二人で霧の湖へと向かう間、前を行くチルノちゃんは、すごくニコニコしていて機嫌がよさそうでした。
私もようやく一人じゃなくなり、仲間に出会えたことに喜ぶべきなんでしょうけど……。
でも私にとってなるべく早く……いいえ、すぐにでも解決したい問題が一つありました。
「ねぇ、だいだらぼっち」
「あの……」
「だいだらぼっちはさぁ……」
「その名前、やめてほしい、かも」
私が正直に伝えると、チルノちゃんは空中で立ち止まり、こちらを向きました。
顔が斜めに傾きます。
「だいだら妖精?」
「それも嫌」
「ぼっち妖精?」
「もっと嫌」
「じゃあ、だいだらぼっち妖精」
「それは今までとおんなじ」
私は言ってから、あまり反対しすぎるとまた怒られるんじゃなかと思って、ちょっと身構えました。
けれどもチルノちゃんは斜め上を見上げながら、まだ真剣に考えています。
「だい……妖精とか」
「嫌です」
「それじゃあ、なんて呼べばいいのよ」
「え……それは……スイートとか、トピーとか」
「そんなの全然カッコよくない。弱っちそう」
私は頬を膨らませました。
そりゃあ確かに私はチルノちゃんよりも弱くて泣き虫かもしれませんけど、そう言われていい気分にはなりません。
そんな私の気持ちを察することなく、チルノちゃんは大きな声で言います。
「だから、あたいが名前つけてあげるわ。あんたは『大』! 大妖精! とにかく強そう! 最強のあたいの一番弟子なんだから、これくらいの名前じゃなきゃ!」
「えー……」
「確か大きくてすごいものも、大っていうのよね。大爆発とか大噴火とか大回転とか、あと動物のウン●とかもそんな風に……」
「………………」
大ショックを受けた私は、大泣きしたい気持ちを、唇を噛んで我慢しました。
動物のウ●チの妖精なんて、いるはずがありません。いたとしても私じゃありません。
「まぁなんでもいいわ! あんたはいずれ大きくなるだいだらぼっちの、大妖精ってことでOK!」
「…………」
「じゃあ行こう、大」
「……あの、せめて大ちゃんじゃダメ?」
「大ちゃん」
「はい……」
私はうなずき、今まで大事にしてきた色々なものを諦めることにしました。
さよなら、お花の妖精だった私……こんにちは、だいだらぼっち妖精の私。
『大妖精』になった私は、しばらく飛んで、初めてチルノちゃんと出会った、あの場所に着きました。
霧の湖の岸辺、あの大きな岩がある広場です。
チルノちゃんはその岩まで飛んでいき、側に降り立ちました。
「大ちゃん! こっち! 早く早く!」
岩を叩きながらはしゃぐその様子を見て、私は何だかすごく嫌な予感がしました。
「こいつを動かしてみて! だいだらぼっちの妖精なら、きっとこいつを起こして操ることもできるでしょ!」
やっぱり……。
悪い予想は当たってました。
「……できません」
「なんで?」
「できないものは、できないの」
上手い言い訳が見つからない私は、そう言って首を振ることしかできませんでした。
でも、みるみるうちにチルノちゃんの顔に不満が溜まっていくのがわかったので、慌てて付け加えました。
「で、でも、きっと将来動かせるようになるから」
「将来って、いつ?」
「いつかは……わからないけど……」
私が消え入りそうな声で言うと、チルノちゃんはもっともらしくうなずきました。
「わかった。つまり、大ちゃんはまだ修行不足ってことね」
「うん……」
「最強のあたいの一番弟子なんだから、ちゃんと修行して、こいつを動かせるようになるくらい、強くならなくちゃだめよ」
「はい……」
私は力なく答えました。
さらにチルノちゃんは、巨大化してみろとか、山を動かしてみろとか、次々に無茶なことを私に頼んできました。
なんでも、だいだらぼっちの妖精であれば、絶対にできるそうです。
私は、自分のついたウソを守るために、全部約束してしまいました。
「じゃあ大ちゃんは、いつか頭で雲を突き破るくらい大きくなるのね」
「はい」
「あの山をあっち側に動かしたりするのね」
「はい」
「湖の水を飲み干したりするのね」
「はい」
「うん! だいだらぼっちで間違いなし!」
チルノちゃんはご機嫌な顔でうなずきました。
正直、どれもこれも幻想郷中の妖精が集まったって、無理なことのように思えます。
何だか私、チルノちゃんに会う前よりも、気分が落ち込んできたみたい。
「じゃあ、今度はあたいの凄さを見せてあげるわ」
と言って、チルノちゃんは腰に手を当て、湖の方へと向き直りました。
風がよく吹いているからか、霧はいつもよりも引いていて、岸に近い部分は晴れています。
さざ波が立つ水面を前にして、チルノちゃんはバンザイするように両手を持ち上げました。
何を始めるんだろう、と見守っていた私の前で、彼女は思いっきり手を振り下ろして、
「パーフェクトフリーズ!!」
サーパキキキキキ……
この時の驚きは、今も忘れられません。
チルノちゃんの手から飛び出した白い空気が、湖を固めてしまったのです。
私は以前に聞いた噂を思い出しました。気温が低くなると、水は固まるといいます。
それが凍るということだと。するとこれは、氷の妖精であるチルノちゃんの力なのでしょう。
でもその力は、私のものや、春に仲間の妖精が見せてくれたものと比べ物にならないくらいすごいものでした。
好奇心に背中を押され、私は岸辺に駆け寄って、氷というものに生まれて初めて触ってみました。
冷たい! 本当に水がカチコチに固まってしまっています!
なんて不思議な力なんでしょう。あんなに柔らかい水がこんな風になっちゃうなんて……。
「すごい……チルノちゃん……」
感心している私をよそに、チルノちゃんはそのまま、湖の上を歩きはじめました。
浮いているのではありません。ペタペタと裸足で足音を立てて歩いてるんです。
私も真似して歩いてみようと、凍った湖の上に靴を乗せてみました。
その時です。突然ぱしゃんと音がして、チルノちゃんの体が右側に傾いたのは。
スカートの下から伸びた片足が、凍っているはずの湖に入り込んでいます。
「もー!!」
チルノちゃんが、両拳を振り回して大きな声をあげました。
「冬はできるのに、どうして夏はできないのよ!」
よくわからなかった私は、飛んで近づきながら、その意味を尋ねていました。
チルノちゃんが言うには、冬という季節になれば、この湖全てを氷に変えることができるそうです。
けど夏は湖の端っこしか、凍らせることができないのだとか。
感心する私の前で大威張りしていたチルノちゃんは、
「じゃあここでの修業は終わり。大ちゃん、次はどこ行く?」
「え……」
「あたいが決めてあげるわ。次の修行場所は……」
チルノちゃんは腕を組み、空中でゆっくり回りながら考えはじめます。
「よ、妖怪のいないところに、してほしい……かも……」
私はか細い声で、希望を伝えました。
妖怪というのは、妖精とは全然違っていて、できればあまり関わりたくない存在です。
まだチルノちゃんと一緒に過ごしているだけでも不安なのに、妖怪と顔を合わせる自信がありません。
ましてや、だいだらぼっちの妖精などと紹介されてはたまりません。
「妖怪のいないところ?」と聞き返すチルノちゃんは、疑わしげに眼を細めます。
「大ちゃん、なんでそんなこと言うの?」
「……妖怪が……苦手だから」
「ふーん。それって、あっちっちの火とどっちが苦手?」
あっちっちの火、という言い方は知らなかったけど、火のことは知ってました。
もちろん花から生まれた私にとって、好んで近づきたいものじゃありません。
「同じくらい、苦手かも」
「はっ!? そんなに!? じゃあ大ちゃんって妖怪と会ったら溶けちゃうわけ!?」
「う、うん。そうなの」
ウソを重ねているうちに、本当に溶けてしまいたい気分になってきました。
でもチルノちゃんは、「そっかー」と納得してくれたみたいでした。
「だいだらぼっちになる前に、溶けちゃったら大変だよね……。それなら仕方ないから、妖怪のいない修行場所に連れてってあげる」
私の祈りが通じてくれたらしく、チルノちゃんはそう言ってうなずきました。
「よし! 決めたわ! あそこに行くわよ!」
◆◇◆
ひとまず妖怪のいないところに行き場所が決まってホッとしました。
けど新しい行き先はどこなのか、まだチルノちゃんは話してくれません。
果たして、どこに私を連れてこうとしているのでしょう。
「あ!」
飛んでいる道の途中に、珍しい色の花が咲いているのを見て、私は思わず前を行く背中に話しかけます。
「ねぇチルノちゃん! この花、素敵じゃない?」
チルノちゃんは、ちらっとこちらを見るなりそっけなく言いました。
「全然。強そうじゃないし。もっと棘とか牙が生えてたりしてたらいいと思うけど」
「………………」
「大ちゃんは花が好きなの?」
「…………うん。あ、一番好きな花はね、スイートピーって言って、もうあんまり咲いてないんだけど」
私はチルノちゃんに、熱心にその花のことを説明してあげました。
大きさはこれくらいで、形はこんな感じで、色はたくさんあって、香りはこんな風で……。
「ふーん。変わってるね。花が好きなだいだらぼっちかー」
あごに手を当てた状態でジロジロと見られ、ハッとなりました。
今の私は花の妖精じゃなくて、だいだらぼっちの妖精なのです。それを忘れてはいけません。
「で、でも花よりも、岩とかの方が好き! あとは入道雲とか、おっきな山とかも!」
急いで私が言うと、疑わしそうだったチルノちゃんの顔が、元の笑顔に戻りました。
「あたいもおんなじ! でっかいもの大好き! 気が合うわね大ちゃん!」
「うん!」
「でも大ちゃんって変わってるね。だいだらぼっちの妖精で、でっかいものが好きなくせなのに、妖怪が嫌いだなんて変なの」
「う、うん。私もそう思う。変だよね~」
私は無理に誤魔化しながら、作り笑いを浮かべました。
むしろ、チルノちゃんみたいに妖怪と仲良くしている妖精の方が変だと思いましたけど、それは言いません。
今日一日でこんなにたくさんウソを吐いちゃって、大丈夫かしら。これから先も上手くやっていけるかどうか心配です。
「さぁ! 見えたわよ大ちゃん! ほらあれ!」
チルノちゃんがそう言って、目的地らしき場所を指さしました。
初めてその光景を見た私は、ぎょっとなりました。
ジャンプして飛び越えられるくらいの幅の小川が、緩やかに流れています。
草むらに隠れていて、水の音がなければ見落としてしまいそうになるくらい小さな流れです。
問題はその向こう側。
なだらかな原っぱがずっと続いていて、家がぽつぽつと建っています。
多くの妖精の作る、キノコなどに似せたカラフルな家ではありません。
もっと大きくて、四角くて、古い木の肌の色をした建物です。
遥か彼方にはもっとたくさんの家が集まっていて、凄く高い塔のようなものも立ってました。
人間の里。きっとあれがそうなのでしょう。
人間っていうのは二本足で歩く生き物。だけど、そのほとんどが鳥や私たちと違って飛ぶことができないのです。
私も何度か、人間の姿は見たことがあります。
他の妖精の子たちがイタズラを仕掛けようとしているのを、遠くから見ていただけですけど。
一人か二人で行動をしている人間は、そんなに怖くはないものです。
けれどあの里には、たぶんすごくたくさんの人間が住んでいることでしょう。
そして今の私の側には、チルノちゃんしかいません。
「……ここで眺めてるだけじゃ、だめ?」
「ダメよ。大ちゃんは怖がりなんだから、怖がりを直さないと。そうじゃないと、だいだらぼっちになれないわよ」
「………………」
バレています。
確かに私は怖がりですし、だいだらぼっちのことを持ち出されると、言い返すことはできませんでした。
仕方がありません。妖怪と会うことに比べれば、少しはマシだと思いますし。
私たちは小川を飛んで越えて、横に長く続いている柵もくぐり抜けて、里の中に入りました。
チルノちゃんが遠慮なしに進んでいく後ろを、私は羽を閉じて、なるべく目立たぬようについていきました。
普通の原っぱだと思っていたけど、近くでみると水が張っていて、池に草を植えたような感じです。
アメンボさんやカエルさんがたくさんいて、木の棒で作られた人形さんが立ってたりして、近くで見ると意外と面白そうです。
その池の中に細い道が作られていて、歩いて通れるようになってました。
それにしても、お花畑の周りで育った妖精にとっては、ここに来るだけでも、とんでもない大冒険です。
ただし私は、人間にイタズラした妖精のことは知ってますが、逆に妖精が人間にひどい目にあった話も聞いています。
そしてそれは、これから私たちの身に起こる出来事かもしれないのです。
チルノちゃんが目指したのは、田んぼ――と呼ぶことを知ったのはその後でしたけど――の中に立つ一軒の家でした。
リーン……リリーン……と、不思議な鳴き声が聞こえてきます。
その家に近づくに連れて、鳴き声はだんだん大きくなっていきました。
地味な色だけど、近付いてみるとずいぶん変わった様子の家です。
たぶんそこが入口なのでしょうけど、とても広く大きく作られていて、たくさんの道具が並べられているのでした。
リーンという声を出していたのは、入口のところにぶら下がって、ふらふらと揺れている飾りのようなものでした。
奥は薄暗くてどうなっているのか分かりません。
「こ、ここが目的の場所なの?」
「そうよ。この中には悪いやつがいないし安全だから、大ちゃんでも平気よ」
チルノちゃんは家の手前に置かれていた、四角い木の桶に手を入れて、ちゃぷちゃぷと音をさせながら言います。
私がその中を覗くと、たっぷり水が入っていて、透き通った瓶がたくさん浮かんでいました。
チルノちゃんの氷に、色をつけたみたいです。
「……きれい」
私は思わずそう呟いていました。
それからあらためて、入り口に並んでいるものを眺めてみます。
よく見ると、おもちゃとお菓子が綺麗に並べられているようでした。
順番に見ていくうちに、顔はだんだんと奥に向いていきました。
においは何だかほこりっぽいですが、表よりもたくさん色々なものが見えています。
「チルノちゃん、もっと奥に行ってみてもいい?」
「いいんじゃない?」
チルノちゃんは桶に浮かんでいた瓶の一つ一つとにらめっこしながら、気の無さそうに応えます。
私は勇気を出して、恐る恐る足を踏み入れました。
並んでいるものをよく観察してみると、それはやっぱり、お菓子やおもちゃのようでした。
でも、どうしてこんなに綺麗に並べられてるんでしょうか。手に取って、食べてみても大丈夫なのかしら。
「あ……」
と並べられているものの一つに、私の視線が吸い寄せられました。
それは、表で鳴いている虫の音のようなものを出す飾りと同じ形をしていたのです。
私はリボンのついたその一つに、そろりと手を伸ばしてみました。
すると……
「……いらっしゃぁい」
ぬーっと出てきた影が、声をかけてきて、
「ひぇえええええ……」
私は思わず手を引っ込めて、外へと走り出ました。
それから、桶の中に顔を突っこんでいるチルノちゃんを揺さぶって、
「ち、ち、チルノちゃん! 変な人がいたよ!」
奥を指さして、私は訴えます。
チルノちゃんは水から顔を上げて、軽くそちらを覗き、
「ああ、あれは『ミチバー』よ」
「み、みちばー!? 安全だって言ったじゃない! 怖いものがいるなんて聞いてなかった!」
「え? 大ちゃん、いじめられたの?」
チルノちゃんが驚いた様子で訊ねてきます。
別に何かされたわけではなく、声をかけられただけだったのですが、その時の私は反射的にうなずいてしまいました。
するとチルノちゃんはすぐに奥に飛び込んでいき、
「ミチバー! 大ちゃんをいじめて、どういうつもり!?」
「おろおろ」
チルノちゃんに詰め寄られ、人間さんは驚いています。
あんなに怖い人間を怯えさせるチルノちゃんは、やっぱり凄いと思いました。
でもいいのかしら、遠くから見ると、腰がちょっと曲がっているし、そんなに強そうには見えません。
何だか可哀想にも思えてきて、私が止めに入ろうか迷っていると、その前にチルノちゃんが戻ってきました。
「大ちゃん。もうミチバーは懲らしめたから大丈夫よ」
「ほ、本当に?」
と私が聞きながら、もう一度覗いてみると、確かにその人間さんは家の奥で座り込んでいます。
チルノちゃんに背中を押されて促され、私はまた抜き足差し足で近付いてみました。
するとその人間さんが、いきなり顔を上げ、くわっ、と目を見開いて、「ばぁ」と言ったものですから、
「ひぇええええ!!」
今度こそ私は大声を上げて、外に逃げ出しましたが、慌て過ぎて足が絡まって、見事に転んでしまいました。
「あはははは! 大ちゃん、こーろんだ!」
振り向くと、チルノちゃんは指をさしながら、大笑いしてます。
何か言い返そうとしたけども、呼吸が上手くできませんでした。胸の中がバクバクと音を立てています。
まさか! チルノちゃんは、私をあのミチバーのエサにするために連れてきたんじゃ!?
地面の上でへたり込んだ私が、二人を見比べながら、そんなことを思って怯えていると、
「ほうら、逃げないでぇ」
「ひぅっ」
人間がゆっくり近づいてきて、私はしゃっくりを起こしました。
枯れた枝みたいな手が伸びてきます。私は目を固くつむり、身をすくめました。
リン、と音が鳴りました。
恐る恐る、片目だけ開けてみます。
シワだらけの手の上に、綺麗な透明のぼんぼりが乗ってました。
それは私が興味を持って手を伸ばした、あの不思議な声で鳴く何かでした。
「他にほしいものはないかいぃ?」
「え、え、え」
掌と同じくシワだらけの人間さんの笑顔を見て、私はどぎまぎすることしかできませんでした。
◆◇◆
その後、私とチルノちゃんは、お店の前に置いてある長い椅子に並んで座りました。
側には大きくてぺらぺらのキノコみたいな傘が立っています。
お日様の光が直接当たらないようにしてるんだ、と私は気づきました。
リーンとまた鈴が鳴ります。それは風鈴というのだと、つい先ほど教えてもらいました。
「大ちゃん、飲まないの?」
チルノちゃんは、さっき桶に入っていた瓶から口を離しながら、こちらの手を覗きこみます。
私も、自分の持っている冷たい瓶を見下ろしました。
薄いオレンジ色の水が入ってます。
チルノちゃんが飲んでいたのだから、毒とか悪いものが混ざってはいないとは思うのですが。
私は思い切って口をつけて、少しだけ舐めてみました。
味わったことのない、変わったジュースでした。
でも、
「美味しいね」
私はそうつぶやきます。
チルノはニッコリ笑って、「一気飲みー!!」と凄い角度で瓶を傾けて飲み始めます。
私はジュースを飲みながら、もう一度店の方に目をやります。
ミチバーが家の前をお掃除をしていました。
さー……さー……と、一定のリズムで丁寧にほうきで掃いています。風鈴の音と合わさって、耳が心地よくなりました。
私は小声でチルノちゃんに話しかけます。
「あの人間さん、悪い人じゃないのかな」
「あたいはそう言ったわよ」
「うん……そう言ってたね。これもくれたし……」
私は傍らに置いた風鈴を見ながら呟きました。
つまんでぶら下げてみると、ちょうど風が吹き、リリーンと音が鳴りました。
入口にぶら下がっている風鈴も、遅れて同じような音を立てます。
風鈴同士が会話をしているようで、私は可笑しくなりました。
「なんだ、大ちゃん、笑えるんだ」
「え?」
「だって、会った時からずっと、こーんな顔しかしないんだもん」
隣にいたチルノちゃんが、両眉の端に指を当てて、思いっきり垂れ下げます。
その顔があまりにもへんてこりんだったので、
「ち、チルノちゃんに言われたくない!」
私は思わず言い返していました。
私だって、チルノちゃんが笑っているところを見たのは、ほとんど今日が初めてだったのです。
「チルノちゃんだって、いつもこんな顔してたでしょ」
「そんな変な顔してないわ。大ちゃんのウソつき」
「ウソじゃないもん」
二人でジュースの瓶を側に置いて、変な顔を造りながら言い合いしていると、
「ほほ、元気がいいねぇ」
ミチバーが私の隣に腰をかけました。
一瞬だけ、ぎくりとした私でしたが、すぐに落ち着きます。
もうこの人に対して、怖いという気持ちは抱いてません。
私はさっきより、だいぶ落ち着いた気分で、三人で椅子に座って、空を見上げました。
わぁ……。
なんて変わった世界なんでしょう。周りにあるものの内、一つとして私が慣れていたものはありません。
座るものも食べてるものも効いてる音も話している相手も……。
空だけは同じはずなのに、それでも全然別の空に思えてくるから不思議で仕方がありませんでした。
急に時間の流れが、ゆっくりになったみたい。
「これが……チルノちゃんがいつも見てる景色なんだ……」
呟いた私は、新しく塗り替わった世界の中心で、もう一度繰り返しました。
これが……はぐれ妖精の世界なんだ、って。
◆◇◆
椅子に座りながら、私たちは色々なお話をしました。
妖精同士のお喋りじゃなくて、はぐれ妖精と人間のお喋りです。
はじめてミチバーに会って、とても興味が湧いた私は、チルノちゃんとの関係について詳しく聞きました。
なんでもミチバーとチルノちゃんはずっと前からの友だちだそうです。
だから、チルノちゃんはよく人間の里に顔を出して、この家に遊びに来ているのだとか。
そもそも人間と友だちの妖精というのを聞いたことがなかった私は、この世に辛いお菓子が存在すると聞いた時のような気持ちになりました。
でも確かに、ミチバーとチルノちゃんの関係は、友だちっていうのがぴったり。
そして、あの駄菓子屋さんの前の椅子から見上げる、あの空の広さとゆったりとした時間、そして飲んだジュースの味。
どれも驚きだったけど、ずっとふさぎ込んでいた妖精の私の気持ちを、気持ちよく洗い流してくれる、素晴らしい体験でした。
けれど、その日に驚いたのは、そのことだけではありません。
犬というものを初めて見たり、色々な種類の人間を遠くから眺めたり、初めて竹林というものを目の当たりにしたり。
どれもこれも私には新しくて、何度も自分が生まれ変わった後のような気分になりました。
妖精の世界が狭くてつまらないと言っているわけではありません。
私は今でも、生まれて間もないころの春の穏やかな時間を忘れていません。
でも、はぐれ妖精の世界というのは、より鮮やかで、危くて、広くて、愛しいものがどこまでも増えていくような感じだったのです。
日が沈む頃になってから、私たちは霧の湖に戻ってきました。
色々なものを見て疲れてしまった私は、湖のほとりに腰を座り、一息ついていました。
まだ頭がボーっとしています。
目の前を水色のかたまりが通り過ぎ、リリリーンと風鈴が鳴って我に返りました。
「これくらいでくたびれるなんて、だらしないわよ大ちゃん」
そう言うチルノちゃんはまだ元気があり余っているようです。
岸辺に座っている私を置いて、笑い声をあげながら、今もぐるぐると飛んで回ってます。
彼女がこんなに笑う子だったと知ったのも、今日の大きな発見の一つでした。
確かに普通の妖精の子よりも乱暴なところはあるけど、直接話して過ごしてみると、やっぱりおんなじ妖精なんだなって思います。
それだけに、不思議でもありました。
「どうしてチルノちゃんは、はぐれ妖精になったのかしら……」
独り言のつもりだったのですが、聞こえてしまったらしく、急停止して飛び回るのを止めたチルノちゃんは、甲高い声で怒鳴ります。
「はぐれ妖精なんかじゃないわ! あたいは最強で天才で一番凄い妖精なの!!」
「う、うん! わかってる!」
「あたいをはぐれ妖精だなんていうやつは、みーんなやっつけてやる。ふん!」
チルノちゃんが勢いをつけて、湖の水面を蹴っ飛ばします。
水が氷の欠片になり、キラキラと輝いて落ちました。
相変わらずチルノちゃんは、はぐれ妖精という言葉も、妖精自体も嫌っているようです。
これからはうっかり使ったりしないように、気を付けなくてはいけません。
「あ、大ちゃん。そろそろ晴れるから来なよ」
「はれる?」
「早く早く早く」
チルノちゃんは手を忙しく振ってせかします。
私は何のことかわからないまま、立ち上がりました。
霧の中へと消えるチルノちゃんを追いながら、夜空を見上げてみますと、まんまるのクリーム色のお月様。
雲はほんのわずかしかなくて、星がよく見えて、十分晴れてるように見えます。
それから目線を下ろしてみると……
「わぁ……」
私の目の前で、魔法のような出来事が起こりました。
なんと、私たちが湖を飛ぶのを待っていたかのように、霧がスーッと引いていったのです。
そしてついに、あれだけたくさんあった白い靄は全部なくなって、湖全体が見渡せるようになっていました。
チルノちゃんが晴れると言ったのは、霧が晴れるということだったのです。
そういえば昔、夜になるとこの湖は霧がなくなるのだと聞いた覚えがあります。
実際に眺めてみると、昼間とは全然違った感じがして驚きです。
思ったよりも広くなく、小さな湖だというのも意外でした。向こう岸にある森の影も見えるくらいです。
お空の満月が、ダークブルーの湖の面に映っています。
その上を水色の光が横切ったのを見て、私は胸がドキンとしました。
「……チルノちゃん!」
気持ちよさそうに飛んでいた彼女は、こっちを向いて止まります。
「何?」
「もう一回、今みたいに飛んでみて!」
「……いいけど……」
チルノちゃんは不思議そうに、湖の上をまた飛び始めました。
やっぱり、と私は息を呑んでいました。
飛んでいるチルノちゃんの足の先から、一筋の霧が零れ落ちていたのです。
月の光を絵の具にして、夜の暗闇の上に輝く線を描くように。
特にチルノちゃんが湖面から飛び立つときは、遠くの森から星空にかけて銀の弓が現れて、本当に素敵に見えました。
まるで、満月へと続く階段のようです。
「綺麗……チルノちゃん……」
「そ、そう?」
チルノちゃんも、まんざらでもなさそうに飛びますが、
「よーし! もっと光らせてみるわ!」
私が褒めた途端、水色の姿はびゅんびゅんと音を立てて、凄い勢いで左右に飛びはじめました。
妖精というより、氷のトンボさんです。
「あ、だめ! もっとゆっくり飛ばなきゃ!」
綺麗だった光の階段は、ぐちゃぐちゃになってしまいました。
私は近くまで飛んでいって、
「もっとこう……ほら。ダンスするみたいに……」
そう言いながら、私はチルノちゃんにお手本を見せてあげることにしました。
妖精はみんなダンスが好きで、お喋りする時間の次に踊っている時間の方が長いくらいです。
それぞれが生まれる前から覚えている音楽に合わせて、楽しく軽やかに踊るのです。
でもチルノちゃんは、あまりダンスが得意ではなさそうでした。
「こうやって、ゆっくり浮きながら斜めに体を傾けて……」
「浮きながら? 斜めに?」
「そう。そこでまず一回転……あ、違うよ。でんぐり返しじゃなくて、横に回るの」
「えいや!」
「大きな声を出したら変よ。それから今度は低く戻ってきながら、手をこうやって流すように……」
「手を……流す……」
「湖に手をつけるんじゃなくて、空気の中を流すの。それから上に飛んで背伸びして、つまさきで軽くキックして……」
「………………」
私が細かく教えるうちに、チルノちゃんは無口になっていきました。
そしてその顔はやがて、昼間の湖のように曇ってしまいました。
「もういい! つまんない!」
途中でいきなり叫んだチルノちゃんは、乱暴に湖の上に冷気を吹きかけます。
そうしてできた氷の板の上で、ふてくされたように寝ころんでしまいました。
一方、急に大きな声を出されて固まっていた私は、呆然と見下ろしていました。
我に返り、「チルノちゃん」と声をかけても、彼女は目を閉じたまま、寝返りを打つだけでした。
ああ、がっかり。
きっとチルノちゃんのダンスは、私が見たことも……いいえ、ほとんどの妖精が見たこともないくらい素晴らしいものに違いないって思ったのに。
怒らせてしまって謝りたいような気持ちにもなりましたが、もう遅い時間だったので、私も眠ることにしました。
明日までには、チルノちゃんの機嫌が直っているといいな、と思って。
この時の私はまだ、何も知りませんでした。
チルノちゃんがはぐれ妖精になった秘密を。
そして次の日から、二人でその秘密を解き明かすために、あんな冒険をするなんて。
(続く)
これからどうなるのかとても気になります
シリアスな妖精物って珍しいですね。