梅雨も終わろうかという時期であった。
人形遣い、アリス・マーガトロイドは朝五時半ごろに目を覚ました。窓から外を見るとどんよりと厚い雲がかかっている。昨日、人里に買い物に出かけた時、河童が作った天気予報装置である龍の像も、今日が雨であると出ていた。
天気などという干渉のしようがない――無論、局地的なレベルではその限りではないが――大きな外的要因にいちいち精神を乱されるというのは、果たして真理を極める魔法使いとしてどうなのだという気もするけれど、少しくらい日々に色が付いている方が張り合いがあっていいのかもしれない。
簡単な朝食を作りながら――既に食事は不要の身だが、ついつい習慣で――、今日の予定を簡単に頭の中に組み立てる。
こんな天気の中、敢えて外に出ることも無いし、今日は前々から進めようと思っていた薬草の生成実験を試そうか。それと、人形の服のほつれや、釦が取れかかっているのも気にかかるし、繕い物もしようかしら。
アリスがのんきにも、そのようなことを考えていた時である。
カラン、ガラン、ガラガラ……
「……?」
屋根に何か堅いモノが、それも複数個ぶつかるような音がした。
カン、カラカラ、ガラガラガラ……
それは瞬く間に大きくなっていき、
カラカラン、ガラガラガラ、ガララララララララララ!!!!
「な、なに?! 何なのよいきなり!」
窓の外を見ると、なにやらキラキラした半透明の、色とりどりの塊が空から降っているのが見えた。ひとつひとつはそれこそ硬貨大の粒が、幾十、幾百、幾千。
偶にそれが窓ガラスにも当たり、思いのほか大きな音を立てる。
この音の正体は、どうやらこの粒が屋根に当たっている音らしい。
「妖精の悪戯? にしては規模がちょっと凄すぎるような……」
アリスは、年季の入ったアンティーク調の傘を取り出して、おっかなびっくり外に出てみることにした。
玄関を出て、廂のあるところから一歩踏み出すと、傘の布にバラバラとそれがぶつかってきて、傘を持つ手に係る圧力は、まるで凄い豪雨の時のようだ。その勢いと不条理に首を竦めながら、屈んで足元に散らばる粒を拾う。
その粒は半透明で、黄色っぽくて、少しべた付いて、甘酸っぱい匂いがする。
「これは……、ドロップ?」
と、言うより飴である。
~曇り時々アメでしょう~
とりあえず屋内に再度の退避を行ったアリスは、こめかみに手を当てて、この頭の悪い状況を必死で整理しようと試みていた。
「飴が……降っている」
端的に言うほど、余計にバカらしくなった。
なんだ、飴って。
雨と飴。
ダジャレか。
突っ込みを入れても独り。あまりに悲しく、わけのわからない状況であった。
「とにかく、できることからやりましょう」
今のところ問題は三つある。
一つは、この飴が降ることによって発生する被害のことである。一粒あたり精々三~四グラムとはいえ、言ってみれば雹や霰みたいなものである。危なくてしょうがない。取り敢えず家の近くで弾幕ごっこが発生したとき用の物理防御結界が働いているせいか、屋根が傷だらけになる心配はなさそうだが、危なくて出歩けない。
二つには、堆積した飴の処分のことである。今まさに降り続ける飴は、先ほど外に出た時にはまだ散らばっている程度であったのに、窓から見ればもう地面が見えないほどに積り始めている。常温で固体のこの塊は、雹や霰のように溶けて消えてくれるわけでもなく、まあ夏のこの気温を考えれば、昼頃には溶け始めるかもしれないが、それはそれで地獄だろう。窓を閉め切っていてもどことなく甘い香りがしているのだ。
ちなみにサンプルとして持ち帰った粒を簡単に調べたところ、これはまさしく駄菓子の王様である飴そのものであった。確認できるだけで味は7種類ほどありそうだ。
三つには、終息のめどが立たないことである。そもそも何故急に飴が降り始めたのかも分からないのだ。どうすれば止んでくれるのか、全く見当もつかない。飴がやむ前にこっちが病みそうだ。
二階の窓から遠くを伺う限り、飴が降っているのはアリス邸周辺に限られるようだった。
アリスは一瞬喜び、直ぐにため息をついた。
幻想郷中にこれが降っていたら、外にいる人間は怪我をするかもしれないし、スケールが大きすぎて収拾がつかない。そう思えば、事態がこのごく限られた区画に収まっていることは喜ばしい。
しかし、これが幻想郷を巻き込む大異変となれば、アリスが何もしなくとも、例の巫女なり、魔法使いもどきなりが解決のために奔走するのを待っていれば良かったのだが、被害がこの近辺だけでは、きっとあいつらは動くまい。
必然的に、降りかかる火の粉、……飴だが、それは自分で払わなければならないのだ。
早急に何とかしなければ。
お菓子の家が許されるのはメルヒェンだけなのだから。
アリスは取り敢えず、半自動制御の人形を、雪かきならぬ飴かき要員として家に残し――放っておけば玄関すら埋まって出入りできなくなる――心当たりを片っ端から回ることにした。
家を出て二十メートルも進まないうちに、飴は雨に変わった。傘に触れる普通の雨音がこれほど恋しいとは。
そのようなことを思いながら、何時になく飛ばしてやってきたのは守谷神社であった。
「早苗はいる?」
回りくどいのはアリスの好むところではない。一番怪しい奴を、一番に叩くのだ。
「はいはいどうしましたー?」
社務所の中からつっかけを履いて出てきた早苗を目視したアリスは、
「魔符『アーティフルサクリファイス』」
「えー!!?」
先制攻撃を仕掛けた。
完全に不意を売ったにも関わらず結構粘られたが、取り敢えず早苗を退治したアリスは、哀れにも倒れ伏す早苗に告げる。
「私が勝ったんだから、今すぐ飴を止めなさい!」
「止めなさいって、この、雨をですか?」
「そう、飴をよ!」
収拾がつかないのでこの後のひと悶着は省略する。
「飴が降ってるですって?」
「そうよ最初から言ってるじゃない。あなたがやったんでしょう」
空から降るはずのものがないモノが降る。
実に有名な怪奇現象の一つで、ファフロッキーズ現象という。
所謂奇跡に数えられる事件であって、東風谷早苗もそれをモチーフにしたスペルを持ったいたはずだ。後は、こいつならこういう意味不明なことをやりかねないというアリスの中の早苗像も影響している。
「私じゃありませんよ。何で私がそんなことしなきゃいけないんですか」
「それはほら、幻想郷では常識にうんぬん」
「説明が雑!」
違うらしい。
「そんなファンタジーなことができるなら、わざわざアリスさんちじゃなくて、うちに降らせますよ」
目を輝かせてバカみたいなことをほざく早苗を見て、そうか、こいつならそうするよなと妙に納得をしたアリスは、
「あなたが紛らわしい能力を持っているのが悪いんだけど、でも突然疑って悪かったわね。あなたが紛らわしい能力持ってるのが悪いんだけど」
と、きちんと謝って次の候補のもとへ向かった。
「七色の中に反省の色は入ってないんですか!」
……ドヤ顔するほど上手い突っ込みではない。
次にアリスが向かったのは、比那名居天子のもとであった。
天子には前科があるので、容疑は半ば確信に近い。他人の気質を天候に変え、そこらじゅうで天変地異を起こしたことのある天子は、最有力の容疑者だ。良く考えたら早苗より先に天子を疑うべきだったのではという気がしてきたが、終わったことを何時までも悔やむのは合理的ではない。
アリスは都会派で合理的な考えの持ち主だった。
「比那名居天子はいる?」
「総領娘様は地上に出かけておりますが」
「魔操『リターンイナニメトネス』」
空気を呼んでやられた永江衣玖を尋問した結果、何と比那名居天子は地上にいるらしいことが分かった。とんだ無駄足である。合理的で都会派なアリスらしからぬミスであった。
「総領娘様にお会いになったら、そろそろ実家にお帰り下さいと、お伝えください」
「亡骸にして送り届けるんで良ければ承るわ」
「あ、その場合は着払いで構いませんので」
地上に戻って。
里の茶屋で、雨だというのに遊びに出かけている放蕩娘を発見した。魔理沙も一緒である。なにやら甘味をパクついている様子。
「ごきげんよう、さようなら、人形『レミングスパレード』」
「あら、ごきげんよぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
盛大な爆破ショーに、梅雨に倦んだ人里が沸いた。
「いきなり何してくれんのよ!頭湧いてんじゃないの」
なんとアリスの頭も湧いていたらしい。
天子は常人ならあとかたもなく吹き飛ぶ爆撃を受けて、少しびっくりした様子だ。
「まだ挨拶が途中だったでしょうが。ごきげんようアリス」
「気にするとこそこぉ?」
爆発のドサクサに茶屋の代金を誤魔化した魔理沙が天子の言動にドン引きしていた。
「随分なご挨拶だったけど、この私に何の用?」
「私の家に飴を降らせるのを今すぐ止めなさい」
「雨乞い、っていうか晴れ乞い? 祈祷なら巫女に頼みなさいよ」
収拾がつかないので以下略。
「飴が降ってきたってあんたマジでいってんのそれ」
「マジで言ってるんですけど最初から」
「それ私のせいじゃないわよ。私は気質を天候に変換するだけで、天気を操ってるんじゃあないんだもの。今日は緋想の剣も持ってないし」
なるほどそれもそうである。アリスは納得した。
「アリスの気質が雹から飴になったんじゃないのか」
魔理沙が適当なことを言うので、アリスはダッシュA。
アリスのダッシュAは打点が低く、ちょうど魔理沙の脛のあたりをキックする技であるが、実は中段判定なので誤ガードした魔理沙は脛を抑えて硬直した。アリス有利である。
「あんたはなんか心当たりない?」
うずくまる魔理沙にも一応尋ねるアリス。
考えてみると、アリスに降りかかる災難のうち、それなりの割合を魔理沙が持ち込んできたトラブルが占めているので、彼女も容疑者には違いない。
「ううっ、ないぜ!昨日アリスに貸した魔道書に。この間紅魔館から奪っ……借りてきたパチュリーの本が含まれてて、そこに怪しげな魔法陣がメモされた紙切れが挟まっていた気がするけど、たぶんそれは何にも関係ないし、心当たりはないぜ!あと脛が本当に痛いのでもうこれ以上は勘弁してほしいぜ!」
魔理沙はDAが中段だと気付いていないので、アリスのDA>DAという増長固めに為すすべがなかった。
紅魔館
「パチュリー、槍符『キューティ大千槍』」
「むきゅー」
「私の家に飴~中略~止めなさい!」
「何で私が雨~以下略~」
収集が~以下略~。
「それなら私よ」
「何でそんな変な魔法作ったのよ」
結論から言うとパチュリーの魔法のせいであった。
「ウチのレミィはほら、雨が降ると出歩けないでしょう? それで雨を別の何かに変換する魔法を開発してたんだけど、飴じゃあ普通に痛くて邪魔だしお蔵入りにしたのよ」
それを魔理沙が持って行ってしまったのだ。やっぱり魔理沙のせいじゃないか。
「それにしても何で飴?」
「音節が似ていると変換に必要な魔力が少なくて済むのよ。ちなみに次点は鮫だったわ」
「鮫」
朝っぱらから鮫が降ってこなくて良かったとアリスは胸をなで下ろした。
「どうやったら止まるの」
「術者がいないし、魔法陣の残存魔力で動いてるだけでしょうから、今頃魔力が無くなって止まってるわよ。失敗作だしメモごと燃やしてくれたらそれでおしまいよ」
アリスが帰るとなるほど飴は止んでいた。
あたりはうず高く積み上がった飴の甘ったるい匂いでいっぱいで、雲の切れ間から除く陽光が、飴粒をドロドロに溶かし、率直に言って酷い有様だった。
夏休みが始まれば、きっと子どもたちの虫取りスポットになるだろう。
翌日、アリスの家に亀が降った。
人形遣い、アリス・マーガトロイドは朝五時半ごろに目を覚ました。窓から外を見るとどんよりと厚い雲がかかっている。昨日、人里に買い物に出かけた時、河童が作った天気予報装置である龍の像も、今日が雨であると出ていた。
天気などという干渉のしようがない――無論、局地的なレベルではその限りではないが――大きな外的要因にいちいち精神を乱されるというのは、果たして真理を極める魔法使いとしてどうなのだという気もするけれど、少しくらい日々に色が付いている方が張り合いがあっていいのかもしれない。
簡単な朝食を作りながら――既に食事は不要の身だが、ついつい習慣で――、今日の予定を簡単に頭の中に組み立てる。
こんな天気の中、敢えて外に出ることも無いし、今日は前々から進めようと思っていた薬草の生成実験を試そうか。それと、人形の服のほつれや、釦が取れかかっているのも気にかかるし、繕い物もしようかしら。
アリスがのんきにも、そのようなことを考えていた時である。
カラン、ガラン、ガラガラ……
「……?」
屋根に何か堅いモノが、それも複数個ぶつかるような音がした。
カン、カラカラ、ガラガラガラ……
それは瞬く間に大きくなっていき、
カラカラン、ガラガラガラ、ガララララララララララ!!!!
「な、なに?! 何なのよいきなり!」
窓の外を見ると、なにやらキラキラした半透明の、色とりどりの塊が空から降っているのが見えた。ひとつひとつはそれこそ硬貨大の粒が、幾十、幾百、幾千。
偶にそれが窓ガラスにも当たり、思いのほか大きな音を立てる。
この音の正体は、どうやらこの粒が屋根に当たっている音らしい。
「妖精の悪戯? にしては規模がちょっと凄すぎるような……」
アリスは、年季の入ったアンティーク調の傘を取り出して、おっかなびっくり外に出てみることにした。
玄関を出て、廂のあるところから一歩踏み出すと、傘の布にバラバラとそれがぶつかってきて、傘を持つ手に係る圧力は、まるで凄い豪雨の時のようだ。その勢いと不条理に首を竦めながら、屈んで足元に散らばる粒を拾う。
その粒は半透明で、黄色っぽくて、少しべた付いて、甘酸っぱい匂いがする。
「これは……、ドロップ?」
と、言うより飴である。
~曇り時々アメでしょう~
とりあえず屋内に再度の退避を行ったアリスは、こめかみに手を当てて、この頭の悪い状況を必死で整理しようと試みていた。
「飴が……降っている」
端的に言うほど、余計にバカらしくなった。
なんだ、飴って。
雨と飴。
ダジャレか。
突っ込みを入れても独り。あまりに悲しく、わけのわからない状況であった。
「とにかく、できることからやりましょう」
今のところ問題は三つある。
一つは、この飴が降ることによって発生する被害のことである。一粒あたり精々三~四グラムとはいえ、言ってみれば雹や霰みたいなものである。危なくてしょうがない。取り敢えず家の近くで弾幕ごっこが発生したとき用の物理防御結界が働いているせいか、屋根が傷だらけになる心配はなさそうだが、危なくて出歩けない。
二つには、堆積した飴の処分のことである。今まさに降り続ける飴は、先ほど外に出た時にはまだ散らばっている程度であったのに、窓から見ればもう地面が見えないほどに積り始めている。常温で固体のこの塊は、雹や霰のように溶けて消えてくれるわけでもなく、まあ夏のこの気温を考えれば、昼頃には溶け始めるかもしれないが、それはそれで地獄だろう。窓を閉め切っていてもどことなく甘い香りがしているのだ。
ちなみにサンプルとして持ち帰った粒を簡単に調べたところ、これはまさしく駄菓子の王様である飴そのものであった。確認できるだけで味は7種類ほどありそうだ。
三つには、終息のめどが立たないことである。そもそも何故急に飴が降り始めたのかも分からないのだ。どうすれば止んでくれるのか、全く見当もつかない。飴がやむ前にこっちが病みそうだ。
二階の窓から遠くを伺う限り、飴が降っているのはアリス邸周辺に限られるようだった。
アリスは一瞬喜び、直ぐにため息をついた。
幻想郷中にこれが降っていたら、外にいる人間は怪我をするかもしれないし、スケールが大きすぎて収拾がつかない。そう思えば、事態がこのごく限られた区画に収まっていることは喜ばしい。
しかし、これが幻想郷を巻き込む大異変となれば、アリスが何もしなくとも、例の巫女なり、魔法使いもどきなりが解決のために奔走するのを待っていれば良かったのだが、被害がこの近辺だけでは、きっとあいつらは動くまい。
必然的に、降りかかる火の粉、……飴だが、それは自分で払わなければならないのだ。
早急に何とかしなければ。
お菓子の家が許されるのはメルヒェンだけなのだから。
アリスは取り敢えず、半自動制御の人形を、雪かきならぬ飴かき要員として家に残し――放っておけば玄関すら埋まって出入りできなくなる――心当たりを片っ端から回ることにした。
家を出て二十メートルも進まないうちに、飴は雨に変わった。傘に触れる普通の雨音がこれほど恋しいとは。
そのようなことを思いながら、何時になく飛ばしてやってきたのは守谷神社であった。
「早苗はいる?」
回りくどいのはアリスの好むところではない。一番怪しい奴を、一番に叩くのだ。
「はいはいどうしましたー?」
社務所の中からつっかけを履いて出てきた早苗を目視したアリスは、
「魔符『アーティフルサクリファイス』」
「えー!!?」
先制攻撃を仕掛けた。
完全に不意を売ったにも関わらず結構粘られたが、取り敢えず早苗を退治したアリスは、哀れにも倒れ伏す早苗に告げる。
「私が勝ったんだから、今すぐ飴を止めなさい!」
「止めなさいって、この、雨をですか?」
「そう、飴をよ!」
収拾がつかないのでこの後のひと悶着は省略する。
「飴が降ってるですって?」
「そうよ最初から言ってるじゃない。あなたがやったんでしょう」
空から降るはずのものがないモノが降る。
実に有名な怪奇現象の一つで、ファフロッキーズ現象という。
所謂奇跡に数えられる事件であって、東風谷早苗もそれをモチーフにしたスペルを持ったいたはずだ。後は、こいつならこういう意味不明なことをやりかねないというアリスの中の早苗像も影響している。
「私じゃありませんよ。何で私がそんなことしなきゃいけないんですか」
「それはほら、幻想郷では常識にうんぬん」
「説明が雑!」
違うらしい。
「そんなファンタジーなことができるなら、わざわざアリスさんちじゃなくて、うちに降らせますよ」
目を輝かせてバカみたいなことをほざく早苗を見て、そうか、こいつならそうするよなと妙に納得をしたアリスは、
「あなたが紛らわしい能力を持っているのが悪いんだけど、でも突然疑って悪かったわね。あなたが紛らわしい能力持ってるのが悪いんだけど」
と、きちんと謝って次の候補のもとへ向かった。
「七色の中に反省の色は入ってないんですか!」
……ドヤ顔するほど上手い突っ込みではない。
次にアリスが向かったのは、比那名居天子のもとであった。
天子には前科があるので、容疑は半ば確信に近い。他人の気質を天候に変え、そこらじゅうで天変地異を起こしたことのある天子は、最有力の容疑者だ。良く考えたら早苗より先に天子を疑うべきだったのではという気がしてきたが、終わったことを何時までも悔やむのは合理的ではない。
アリスは都会派で合理的な考えの持ち主だった。
「比那名居天子はいる?」
「総領娘様は地上に出かけておりますが」
「魔操『リターンイナニメトネス』」
空気を呼んでやられた永江衣玖を尋問した結果、何と比那名居天子は地上にいるらしいことが分かった。とんだ無駄足である。合理的で都会派なアリスらしからぬミスであった。
「総領娘様にお会いになったら、そろそろ実家にお帰り下さいと、お伝えください」
「亡骸にして送り届けるんで良ければ承るわ」
「あ、その場合は着払いで構いませんので」
地上に戻って。
里の茶屋で、雨だというのに遊びに出かけている放蕩娘を発見した。魔理沙も一緒である。なにやら甘味をパクついている様子。
「ごきげんよう、さようなら、人形『レミングスパレード』」
「あら、ごきげんよぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
盛大な爆破ショーに、梅雨に倦んだ人里が沸いた。
「いきなり何してくれんのよ!頭湧いてんじゃないの」
なんとアリスの頭も湧いていたらしい。
天子は常人ならあとかたもなく吹き飛ぶ爆撃を受けて、少しびっくりした様子だ。
「まだ挨拶が途中だったでしょうが。ごきげんようアリス」
「気にするとこそこぉ?」
爆発のドサクサに茶屋の代金を誤魔化した魔理沙が天子の言動にドン引きしていた。
「随分なご挨拶だったけど、この私に何の用?」
「私の家に飴を降らせるのを今すぐ止めなさい」
「雨乞い、っていうか晴れ乞い? 祈祷なら巫女に頼みなさいよ」
収拾がつかないので以下略。
「飴が降ってきたってあんたマジでいってんのそれ」
「マジで言ってるんですけど最初から」
「それ私のせいじゃないわよ。私は気質を天候に変換するだけで、天気を操ってるんじゃあないんだもの。今日は緋想の剣も持ってないし」
なるほどそれもそうである。アリスは納得した。
「アリスの気質が雹から飴になったんじゃないのか」
魔理沙が適当なことを言うので、アリスはダッシュA。
アリスのダッシュAは打点が低く、ちょうど魔理沙の脛のあたりをキックする技であるが、実は中段判定なので誤ガードした魔理沙は脛を抑えて硬直した。アリス有利である。
「あんたはなんか心当たりない?」
うずくまる魔理沙にも一応尋ねるアリス。
考えてみると、アリスに降りかかる災難のうち、それなりの割合を魔理沙が持ち込んできたトラブルが占めているので、彼女も容疑者には違いない。
「ううっ、ないぜ!昨日アリスに貸した魔道書に。この間紅魔館から奪っ……借りてきたパチュリーの本が含まれてて、そこに怪しげな魔法陣がメモされた紙切れが挟まっていた気がするけど、たぶんそれは何にも関係ないし、心当たりはないぜ!あと脛が本当に痛いのでもうこれ以上は勘弁してほしいぜ!」
魔理沙はDAが中段だと気付いていないので、アリスのDA>DAという増長固めに為すすべがなかった。
紅魔館
「パチュリー、槍符『キューティ大千槍』」
「むきゅー」
「私の家に飴~中略~止めなさい!」
「何で私が雨~以下略~」
収集が~以下略~。
「それなら私よ」
「何でそんな変な魔法作ったのよ」
結論から言うとパチュリーの魔法のせいであった。
「ウチのレミィはほら、雨が降ると出歩けないでしょう? それで雨を別の何かに変換する魔法を開発してたんだけど、飴じゃあ普通に痛くて邪魔だしお蔵入りにしたのよ」
それを魔理沙が持って行ってしまったのだ。やっぱり魔理沙のせいじゃないか。
「それにしても何で飴?」
「音節が似ていると変換に必要な魔力が少なくて済むのよ。ちなみに次点は鮫だったわ」
「鮫」
朝っぱらから鮫が降ってこなくて良かったとアリスは胸をなで下ろした。
「どうやったら止まるの」
「術者がいないし、魔法陣の残存魔力で動いてるだけでしょうから、今頃魔力が無くなって止まってるわよ。失敗作だしメモごと燃やしてくれたらそれでおしまいよ」
アリスが帰るとなるほど飴は止んでいた。
あたりはうず高く積み上がった飴の甘ったるい匂いでいっぱいで、雲の切れ間から除く陽光が、飴粒をドロドロに溶かし、率直に言って酷い有様だった。
夏休みが始まれば、きっと子どもたちの虫取りスポットになるだろう。
翌日、アリスの家に亀が降った。
魔法使い(或いは幻想郷民)ってテキトーに生きてますねぇ
毎日楽しそう
こんなのはフリーレスで十分...
ってなんで100点になってるの!?
そのうち魔理沙は有利フレームとか把握しそう。
飴は勘弁してー
気楽に読めて お盆の疲れをとれる作品でした
いいと思います
ダッシュAのくだりがハイセンス過ぎて駄目だった