最初は、夢を見ているのだと思った。
やがて、夢ではないことに気づいた。
そして、夢だろうとそうでなかろうと、どちらでも変わらないことを理解した。
古明地こいしは胎児のように丸まって、全身を包む水の温度を感じ、漂っていた。
始まりはいつもここだ。
いつの間にか水の中にいたりしたら、普通はパニックを起こすだろうし、こいし自身も最初にここに来た時は溺れると思って大慌てで水中をもがいた。
水はほのかに暖かく、肌に直接吸い付いてくるような重みを感じる。けれど、動きを阻害する程ではない。
口を開くと身体の中にまで浸透してゆき、全身が水と一体化したような感覚を覚える。
呼吸はできないはずなのに、少しの苦しさも感じる事はない。
その全てのことは、今までに何度も体験して知っていることだ。
こいしは身体の内と外、全てを抱くように優しく包む水の感触をしばらく堪能して、それから身体を開いた。
ゆっくりと沈んでいくのに逆らい、くるりと反転して上を目指す。
やがて水面にたどり着き、顔を出す。
全身の力を抜き、浮き上がるに任せて漂う。
上空を見やれば、一面の黒。
暗闇というわけではない。そこにあるのは天井だ。はるか、気の遠くなるほどに遠い天井。
一度飛んでいって距離を調べようとしたが、どれだけ高く飛んでも触れることはできなかった。
ぼんやりと天井を眺めていると、背中に何かが当たる。
いつの間にか浅瀬まで流されており、身体を起こすと砂の感触が足に触れた。
こいしは立ち上がって、砂浜を歩き出す。
裸足の指が砂を掴む感触が楽しくなり、こいしは軽く駆け出した。
見渡す限り一面に広がる砂浜を見ていると、どこまでも走っていけるような気持ちになる。
砂の斜面を駆け上がると、踏み出した位置の砂が崩れて転んでしまった。
そのまま斜面をごろごろと転がる。
数メートルも転がっただろうか。ようやく止まって立ち上がる。
水浸しの状態で砂浜を転がったものだから、全身が砂まみれになってしまった。
特に髪はひどい状態で、髪の毛同士の隙間に大量の砂がまとわりついて、洗うのに相当難儀しそうだった。
顔の砂だけ軽くはたき落として、今度は慎重に斜面を登る。
頂きを越えて、そのまま座り込んだ。
砂浜はどこまでも広がっており、他に何の風景も目に入る事はない。
振り向いてみると、さっきまで漂っていた海も消えていた。
こいしは何度となく、ここに迷い込んだことがある。
いつ、どんな時にここに来てしまうのか、そもそも迷い込むという言葉が正しいのか、こいしは知らない。
地底。人里。神社。古明地こいしはどこにでも現れる。
現れた場所で誰かに見つけられる事もあれば、誰にも気付かれないままその場を後にすることもある。
それは、こいし自身にもコントロールができないことだった。
心を見る第三の瞳を閉ざし、無意識の世界の住人となってから、こいしには自制という概念がない。
自分がどこに行って、何をするのか、自分にも理解できないし、制御する事もできなかった。
ただ、いついかなる時でも、というわけではない。
なんとなく「そろそろ帰ろうかな」と思った時、いつの間にか足が自宅の地霊殿に向かっていることはよくあった。
自分を見つけた誰かと話す時も、心に浮かんだことがそのまま言葉になったが、自分でも予想していないような事を喋ったりはしなかった。
自分の行動を予測はできないけれど、自分が今なにをしているのか分からない、ということはない。
おそらく、思考と行動が一致しない状態にあるのだろう、と、誰かに言われた覚えがある。
思考した通りに自分の身体を動かすことはできないけれど、自分が思い描く事に外れた行動を勝手にしてしまうということは、ほとんどない。結果的には、概ね思った通りに身体が動いてくれていると言ってよかった。
だが、この場所に来る時は違っている。
心を閉ざしてしばらく後、時折、何の前触れもなくここに来るようになった。
この場所は、出来事も風景も、ある瞬間に唐突に現れる場所だった。
突然海の中にいて、いつの間にか陸に上がっていて、振り向くとさっきまでいた海がない。そんな理屈に合わない出来事は、ここでは当たり前のことだ。
だから最初に来た時は、ここを夢の中だと思ったのだ。
無意識の海、と、こいしはこの場所に名前をつけた。
こいしはこの場所で何日も、時には何年もの時間を過ごしてきた。
おそらくだが、ここに今いる自分は思考、精神だけの状態なのだろう。
足の指に詰まった砂を取り除いていると、こそばゆく感じる。
そんな風に、身体の感覚ははっきりと存在する。
けれどその感覚というのは、出来事が通り過ぎると、さっと波を引くようにこいしの中から消えていくのだ。
――ちょっと寒いかな。
そんな思考がよぎると、いつの間にか、なにも着ていなかったはずの身体に衣服の感触を覚える。
黄色の上着と緑のスカート。いつもの服だ。
肌にまとわりついていたはずの砂は、いつの間にかなくなっている。砂まみれでひどい状態だった髪も元通り。少し癖のあるふわふわの髪は、こいしが自分の身体の中で一番気に入っている部分だ。
足元だけは裸足のままだった。靴だと砂の上はかえって歩きにくいかも、と思ったからかも知れない。
無意識の海に迷い込む前に、自分はどこにいたのか。なにをしていたのか。
こいしはそれを思い出すことができない。始めて来た時からずっとそうだった。
この場所で流れる時間は、こいしの感覚の中だけにある時間のようだった。
こいしはしばらくこの場所で過ごして、ある時ふと元の場所に戻っていくのだが、その際に実際に流れている時間は数日、長くても一月ちょっとというところだ。
そして、その間に自分がなにをしていたのかは、どうやっても思い出すことができないのだ。
この場所にいるあいだ、こいしの身体と精神は完全に切り離された状態にあるらしかった。
精神が無意識の海で過ごしているあいだ、身体の方がなにをしているのか興味があったが、たまたま一緒に過ごしていたらしい姉のさとりに聞いてみたところ、特になにも変わったところはなかったと言われた。
考えてみれば、精神が身体と一緒にあるときでも、自分の身体を自由にできていないのだ。精神がちょっと留守にしていたからといって、やることに変わりはないのかもしれない。
――今はなにをしている頃だろう……確か、都市伝説騒ぎも落ち着いてきたころだったから、またあちこちフラフラしてるのかな?
普段から考えて行動するということのないこいしにとって、自分の身体の状態を確認できないというのは、むしろ予測の付かないものを推察する楽しみがあった。
もっとも、想像して楽しむだけだ。
いくら推察したところで、答え合わせはできないのだから。
ここにいる時、こいしは身体と一緒にある時には持っていたはずの記憶を、かなりおぼろげにしか思い出すことができない。
はっきりと思い出せるのは、姉のさとりのことくらいだ。
そして、身体に精神が戻った時、無意識の海で体験したことの記憶もまた、ほとんどが失せて無くなってしまう。
ここがどういう場所なのか、誰かに聞いたことはない。身体に戻った時には忘れているからだ。
けれど、想像する事はできる。
ここはおそらく、全ての生き物たちの心の底。無意識の内側で繋がった場所。
精神を持つあらゆる生き物たちの、意識の原型であると。
そう思う理由は、この風景にある。
こいしは、こんな風に見渡すかぎりの砂浜など見たことがないし、海というものも知識としてしか知らない。
ここにはあらゆる風景があった。こいしが見たことあるものも、まったく見覚えのないものも。
そしてそれらは、こいしの心に去来したなにがしかによって、たやすく様変わりした。
多分、どこかの誰かがこの景色を知っているのだ。
その記憶は無意識の内側にしまい込まれていて、こいしはそれを通りすがりに垣間見ている。そんな確信があった。
だから、こいしはここを無意識の海と呼ぶことにしたのだ。
砂浜の斜面を、転ばないように注意しながら降りていく。
やがて平坦な場所につくと、風景はその姿をまったく変えていた。
砂浜よりもだいぶ硬い地面。
乾いた大地の向こうを見やると、石積みの巨大な建造物が目に入った。
三角錐に石を積み上げて構築されたその建造物は、圧倒的な存在感でそこにそびえ立っている。
石材の風化具合からすると相当に古いようだが、崩れてしまいそうな雰囲気は微塵もない。
こいしは小走りに駆け寄って、建物の階段と思しき場所に立つ。
一歩踏み出すと、ひんやりとした石材の感触が足裏から伝わって、ぞわりと背筋が震えた。
階段の一段目に立ち、建造物を見上げる。
あまりのスケール感に、自分が今どこにいるのかわからなくなりそうだった。
――ちょっと、一人で先に行かないでって言ったでしょ!
声が聞こえた。耳ではなく、頭の内側に響いたような感覚だった。
――あれ、○○○ちゃん。どこ行ってたの?
――トイレにいくって言ったじゃないの。全く、人の話聞かないんだから。
振り向いたこいしの目に、鮮やかな桃色の髪をなびかせた少女が映る。
少女はこいしの下に駆け寄ると、こつん、とこいしの頭を小突いた。
――あはは、ゴメンゴメン。でもほら、見て! すっごい大きさだよ!
――ホントね。なんか、訳もなく感動しちゃうわ。わざわざ休みとって来たかいがあったわね。
少女は感慨深げにつぶやく。その表情は、現れてから今にいたるまで全く変化がない。
――ほら、もっと登ってみようよ!
――って、あんた靴はどうしたの? なんで裸足?
――あれ? どうしたんだっけ。……まあいいじゃん。石の感触キモチイイよ!
――まったくもう……変なの踏んで怪我したりしないでよね。
無表情のまま呆れたような声を出す少女。こいしは笑顔を浮かべて、少女に先駆けて建造物を登っていった。
階段で登れるのは全体の高さの半分にも満たなかったが、それでも生半可な建物より遥かに高い。
登り切った先で振り向いて下を見ると、目眩がする程の高さだった。落ちたら絶対助からないだろう。
――大丈夫、○○○ちゃん。怖くない?
――平気よ! ……と言いたいけど、流石にちょっと怖いわ。あんたは問題なさそうね。
――うん、高いとこ好きだもの。
――色々まわる前に、写真取っておきましょうか。
少女が小さな――こいしの記憶に無いほどに小さなカメラを取り出す。
フレームに収まるように二人で顔を寄せ、少女がシャッターを切った。
気づくと、こいしはどこかの水辺に立っている。
どうやら『追体験』は終わったらしい。
無意識の海にいる間、こいしは今のように、自分のあずかり知らぬ出来事を体験する。
あれが自分の体験でないことは明らかだ。幻想郷にあんな巨大な建造物はない。
おそらくは、どこかの誰かが体験して、無意識の内にそっとしまわれた出来事の追体験なのだろう。
『追体験』をしている間、こいしは体験元の人物と同じように行動して、同じように感情が動かされる。
けれど不思議な事に、その体験は必ずしも、元の人物の体験と完全一致するものではないようだった。
足元を見る。裸足の足指をぐっと開いたり、閉じたりしてみる。
さっきの体験をした人物は、同じように裸足であの場所を登ったのだろうか。
多分、違うだろう。元の人物は観光に訪れた様子だった。わざわざ靴を脱いで歩く理由がない。
元の人物の記憶と、今ここにいる古明地こいしの感覚。まぜこぜになって、どちらの記憶なのかが曖昧になる。
けれど、それは不快な感覚ではない。本当に自分のことのように感じられるから。
こいし自身には、感情が動くという感覚は存在しない。
けれどここでの『追体験』は、様々な感情をこいしに与えてくれる。
たとえ一時のものであっても、それはとても心地よく、楽しいことだった。
踏み出した足が、何か生暖かいものを踏んだ。
思わず足を上げて見やると、真っ赤に染まっている。血だ。
自分の血ではない。踏んでしまった何かが、血にまみれていたのだ。
赤黒く渦巻くそれは、人間の身体の中にあるなにがしかの器官であるように思われた。
それはそこかしこに点在し、かつては一人の人間を形作っていたのだろう名残だけを残して散らばっていた。
くら、と身体が傾いだ。倒れそうになるのをなんとかこらえる。
ばき、ぐしゃ、と不快な音が耳に届く。
昆虫のような無数の足に豚の頭がくっついたような巨大なバケモノが、何かを咀嚼していた。
口元からのぞくのは、人間の腕のように思われた。
その足元に、腕を抱えてうずくまる誰か。
こいしは何かを叫んで、駈け出した。
いつしか手にあった巨大な剣を、バケモノの目を狙って勢い良く突き出す。
刀身の半ばまで埋まった剣を渾身の力で捻り上げる。
バケモノが名状しがたい叫び声をあげて、口の中のものを吐き出した。
吐瀉物が全身にかかったが、お構いなしにさらに突きこむ。
バケモノのもう片方の目が白目をむき、そのまま倒れ伏した。
動かなくなったのを確認して、剣を引き抜く。
すぐさま、こいしは倒れた誰かの下に駆け寄る。
大声で呼びかけ身体を揺するが、反応はない。
身体を起こしてやると、ぐらりと首が力なく垂れ下がった。
その頭は、半分ほどがかじり取られてなくなっていた。
こいしは呆然としたまま、その誰かの身体を横たえた。
ふと周りを見ると、似たような有様の、かつては人間であったはずの物体が無数に散らばっていた。
――○○○
誰かが自分の名前を呼んだ。振り向く。
桃色の髪を腰まで伸ばした少女が、そこに立っていた。誰かの頭を胸に抱え込んでいる。
抱えられている誰かは、完全に脱力して少女に寄りかかっていた。
その背中に、刀身を半ばまで埋め込まれた薙刀が突き立っている。
少女がこちらを見る。手を離し、崩れ落ちる誰かの身体を薙刀の柄を掴んで持ち上げた。
そのまま、恐るべき膂力で薙刀を振り回し、誰かの身体をこちらに投げつけた。
こいしは投げつけられた誰かを受け止める。
横抱きにして顔を覗き込む。特に外傷は見られない。もしかして、とこいしは生存に淡い希望を抱いた。
その顔が、ずる、と落ちた。切断された首の傷は、滑稽なほどに綺麗なものだった。
こいしの腕が力を失い、誰かの身体は地面に落ちた。
自分でも馬鹿げていると思うほどに緩慢な動作で、こいしは剣を拾い上げる。
こいつがやった。こいつが全部やった。
こいつを殺さなくては。こいつを。
かえって頭が冴え渡る程に、一つの激情に支配される感覚。
こいしは、自分でも信じられないほどの大きな叫び声をあげて、目の前の少女に斬りかかった。
ぼふ、と柔らかい何かに受け止められる感触。
こいしはいつの間にか、柔らかいシーツの敷かれたベッドの上にいた。
――今度の『追体験』はいつになくハードだったなー。ほんとにあんな体験してる人がいるのかしら。
実は実体験ではなくて、物語などで読んだことが『追体験』として現れているのではないか、という疑いをこいしは持っている。どのみち、確認する方法はないのだけれど。
少し身体を起こすと、隣ですやすやと寝息が聞こえた。
桃色の長い髪。いつも変わらない表情。『追体験』で何度となく出会う、あの少女だ。
こいしが『追体験』をする時、必ずこの少女は現れる。
その配役は実に様々で、起こる出来事は千差万別。それを、この少女とこいしは共有してきた。
二人の間には、どんなことでも起こった。
友として語り合う事も、仇敵として憎み合う事も、仲間として手を取り合う事も、恋人として愛し合う事も。
欲望のはけ口として嬲る事もあったし、その逆もあった。良き師として導いてくれる事もあったし、その逆もあった。
何かが起きて、その何かにまつわる感情が二人の間に共有される。
リアルな物語を一緒に体験しあう仲、というのが、おそらくこの少女との関係として正しい表現だろう。
たまに、こうして『追体験』の外側で少女を見つけることもある。
けどその場合、少女はいつも眠っていて、決して目覚めないのだ。
ここは無意識の世界だから、無意識を司る者でしか目を覚ましてはいられないのだろう。
少女の名前をこいしは知らない。正確には、思い出せない。
だが、知らない関係ではないのは間違いなかった。おそらく、身体の方で何度も会っている。
無意識の海で『追体験』をするようになったのは、ごく最近のことだ。
それはおそらく、身体の方が彼女と出会った時期と一致する。
彼女は、感情を司る妖怪だったはずだ。おぼろげな記憶だけど、それは覚えている。
無意識を司る自分と対極に位置する存在。正反対、故によく似た存在。
無意識の海には、誰も彼もが心を眠らせている。彼女もその一人。
こいしが彼女を見つけることができるのは、彼女が自分とよく似た存在だからだろう。
彼女が現れるまで、無意識の海で誰かと出会うことはなかったのだから。
こいしと違って、彼女はこの場所で自発的に行動はできない。
だけど、感情を司るという性質までが完全に眠っているわけではないのだろう。
無意識の海には、ありとあらゆる体験が記憶として眠っている。
体験には、必ずそれにまつわる感情がついてまわる。
彼女の性質が、感情を通じて眠っている体験を呼び起こすのだ。
呼び起こされた体験は、この世界でただ一人目を覚ましていられるこいしが受け止める。
そして、こいしが受け止める事で、体験は実感を伴ってこの世界に現れ、呼び起こした少女もまた体験の中に組み込まれる。
それが『追体験』の仕組みだと、こいしは思っている。
呼び起こす者と受け止める者。二人の精神が絡んでいるから、元の体験とは微妙に異なるものになったりもするだろう。
無意識に支配される身体と違って、ここではこいしは自由に何かを思うことができる。
だからだろうか、ここにいる時、こいしは眼を閉ざし心を閉ざす前の自分と近しい状態にあるような気がしていた。
こいしが最初にここに来た時、感じたのは絶望だった。
ここにはあらゆる風景があったけれど、誰もいなかった。
何を見て、何を感じても、それを誰とも共有することができなかった。
知っているはずの誰かを思い出せず、ここで見た何かのことも、心のなかに留まることはなかった。
ただひとつ覚えていられたのは、姉のさとりのことだけ。もしそれすらも忘れてしまったなら、きっと自分は完全に、無意識の海の中に溶けて消えてしまっただろう。
それでも、身体が取る行動には何も変化はなかったかも知れないけれど。
けど、やがて何かの姿を見つけることが増えた。
大抵は動物だった。姿をはっきり見ると消えてしまうけれど、多分、身体の方で一緒にいるペットか何かだろう。
語らいあうようなことはできなかったけれど、少しだけ、孤独ではないように思えた。
そして、彼女が現れた。
何も覚えていられないはずの自分が、おぼろげにでも思い出すことができる彼女。
無意識の海はもう、孤独を実感するための場所ではなくなった。
彼女と一緒に、いろんな感情を知るための場所になった。
こいしは彼女のそばに寄り、抱き寄せる。
どうせ目覚めないのだから、抱きまくらにしても良いだろう。
思い切り抱きしめて、ついでに脚など絡ませてみる。心地よい体温が、急速に眠気を誘った。
いつかこの場所で、彼女の名前を思い出せるだろうか。
身体の方が彼女とどんな関係なのか分からないけど、そう悪いものではないような気がする。
それも思い出せれば良い。そしてできれば、この場所でも彼女と語らってみたかった。
彼女も感情にまつわる妖怪であるなら、この場所に慣れる事もできるはずだ。
自分が彼女の事を思い出せるようになれば、連れて来てあげることだって、きっとできる。
ここで、人には言えないような体験を数えきれないほど二人でしたのだと言ったら、彼女は何を言うだろう。
もしかしたら、あの無表情が崩れる瞬間を見られるかもしれない。
心の中に芽生えた希望は、いつかのように、与えられたものではない。
未来を楽しみに思える。それが、何よりもこいしは嬉しかった。
今はまだ、この場所でだけ。けれど、きっといつかは、と。
「あー、こころちゃんだー。何してるの?」
「む、我が宿敵か。今日は大事な荷物を持ってるから戦わないぞ」
「別にいいけど、荷物ってそれ?」
「ふっふっふ、人里でいま大ブームの『団子屋鈴蘭』の一番人気「ベリーソース団子いちごトッピング」だ」
「あー、あそこ美味しいよね。でもそれっていつも売り切れてるヤツじゃない? もぐもぐ」
「そうとも。いつ行っても買えた試しがなかったが、今日は開店前から二時間も並んでようやっと手に入れることができたのだ!」
「わーすごいすごい。確かにほっぺた落ちそうなほど美味しいよ! もぐもぐ」
「ところでこいしさん、いつの間にか私の荷物から団子の包みが消えているのだけど、その手に持っているのはナンデスカ」
「これ? 知らない。でも多分、こころちゃんがさっきまで持ってた包みの中身だと思うよ」
「死ねええええ!」
何かを彷徨い泳いでるような感覚でした。
あと、血生臭い夢ベルセルクみたいだった笑
面白かったです。
こういうものをちゃんと書けるようになるための表現力や設定の練り込みが足りていないように感じた
書く必要のない情報が多く、それのせいで常に視点がぶらされ、非常に読みにくい
テーマとしては好き