雨……。
雨だ……。
…………雨。
そっと、目を開ける。
闇夜の中、しとしととした雨がぼんやりした明かりに照らされて落ちてくる。
庭先に立った私を濡らしてもお構いなし。
降り止むことなく、落ちる。
額に、頬に、首筋に、瞼に……。
その最後。
瞳に飛び込んできた雫を、私は反射的に瞼を閉じて避けていた。
「……ヘンなの」
なんだかおかしい。
別に目に入ったっていいのに。
少し痛いかもしれないけれど、それでも、別にいい。
そんな痛みなんて一瞬で些細なことだろうから。
でも、私の無意識はどうにもそうさせてくれないらしい。
この捻くれ者。
今は私だけなんだから、捻くれなくてもいいじゃないか。
というか、そうやって無意識に従う必要だってないんだけど。
……ホント、捻くれ者だね。
嘲るように笑みを浮かべて、私はゆっくりと目を開いた。
あるのは変わらずに私を濡らす雨。
家から漏れる明かりで照らされた、光の筋みたいな弱々しい雨だ。
毎年なら蒸れるような暖かな雨のはずなのに、今年はやけに肌寒さを与えてくる。
昼間の季節外れみたいな暑さとは打って変わって、体温を奪っていくような感覚だ。
そりゃ、今年に限らず、これだけ濡れれば肌寒くもなるけれど。
もう、びしょびしょ。
髪の先もワンピースの裾までも濡れてしまっている。
「あーぁ」
縁側で外を眺めながらお風呂の順番を待っていただけなのに、これだ。
雨の降り始めと同時に、呼ばれるみたいに外に出てしまった。
実際には何かに呼ばれたわけじゃない。
ただの癖みたいなもので、なんとなく。
去年もやったことだけどさ……。
その前も、そのまた前も……幻想郷に来て、いや、そのもっと前から。
このじめじめとした季節の始めには、どうにもこういう衝動みたいなのが来る。
毎年毎年よく懲りないなと自分でも思うけれど、もうどうしようもない。
習慣とか日課みたいなものだと思うしかないや。
「……」
静かに降る雨。
遠くを見つめるようにして、私は空を見上げたまま。
ただ、
「――――っ」
本当に瞳に雫が落ちて、私は目を閉じた。
あぁ、やっぱり痛いな、なんて。
……。
昔もこんな風に思ったんだっけ。
昔々……大昔もいいところ。
一人でいた頃は、よく雨に打たれていた。
この季節の雨は、それを思い出させてくれる。
誰かに言ったことはないけれど。
だって、過去の栄光を引っ張り出して胸を張ったって、時代遅れって笑われるのがオチ。
今にしてみれば、あんまり良い記憶じゃないのも確かだし。
「……懐かしいね」
一人でいて、マミゾウと出会って。
また一人になって、殺されそうになって……。
やっぱり良いことなんて、なかった。
でも……。
聖と……みんなに出会えた。
昔々の記憶。
一つひとつの記憶は連なる思い出になって、あの時のことをつぶさに思い起こしてくれる。
あの時、どんな気持ちだったかとか。
あの時、どうしたかったのかとか。
それで、みんなはどうだったかとか。
仲が良かったかと言われると微妙。
積極的に関わろうとはしなかったし。
私としてはうまくやっていたとは思う。
……まぁ、一人を除いて、だけど。
アイツとだけは仲が悪かったのは絶対に忘れない。
忘れて、やらない。
寅。
バカ寅……。
…………寅丸……星。
胸の内で思った途端、雨音に混じって鼓動が一つ。
けれど、それは一度切り。
すぐに、静かな雨音が私を包んでいくだけだった。
……ホント、懐かしい。
正反対な性格の私たちは、よくケンカばかりしていた。
よく飽きなかったと思うほど。
そんな昔のことを引っ張り出したら、やっぱり笑われるのがオチ。
きっと、お前はどうしようもないヤツだったなって言われて。
私からしたら、星こそどうしようもないヤツだったよって言ってやりたい。
ふと、口元が緩むのが分かった。
どうしようもないくらい、私は笑っているんだろうなって思う。
「あー」
恥ずかしいったらない。
きっと間抜けな表情になってしまっているんだ。
誰かに見られないうちに――――。
「ぬえ?」
聴き慣れた声が私を呼んだ。
言ったヤツの表情まで浮かんでくる、声。
……いつもいつも間の悪いヤツ。
なんでこう都合の悪い時に必ず現れるんだろう。
渋々、瞳を開け、視線を向けると縁側にはやっぱり星が立っていた。
お風呂から上がった直後みたいで、寝間着姿で首には大きな手ぬぐい。
髪がしっとりとした感じなところ、どうせまた大して水気も取らずにすぐに出てきたんだろう。
もっとゆっくりしてこれば、こんなことにはならなかったのに。
「なに?バカ寅」
「い、いきなりだな、お前は……」
口を尖らしてみせると、星は呆れるような表情を向けてきた。
私の反応に、口元にはいつもの誤魔化すみたいな笑みが浮かんできている。
どうせこの状況に「何と声をかけた方がいいものか」とか考えているんだろう。
そんなに気を使わなくたっていいのに。
こんな場面に何度も出くわしているんだから、思うままに言ってくれればいい。
けれど、星はそれ以上のことは言わなかった。
ただ降参とばかりに息を吐き出すと、目尻の下がったような瞳で私を見た。
それは、先ほど思い出した星とは違っている。
長い時間が経っているんだから、当然と言えば当然だろうけど。
なんというか角が取れたというか。
穏やかになったというか……。
……優しく、なったというか……。
「どうかしたか?」
「べ、別に」
今、物凄くおかしなことを考えていた気がする。
変わったのは確かなんだろうけど、そんな風に思ってなんてやらない。
コイツは八方美人で中途半端で、そんなどうしようもないところに輪をかけただけなんだから。
「とりあえず……風呂が開いたから、入ってしまえよ」
「はいはい」
思考をテキトーな言葉と一緒に吐き出して、会話を置く。
このままいたら、またヘンなことを考えてしまいそうだ。
それをうっかりこぼしてしまうなんてことになったら、恥ずかしすぎる。
絶対に言ってやるもんかなんて思いながら、私はわざと不機嫌そうな表情をして縁側に戻った。
濡れたまま上がるのをどうしようかと考えていると、星が首にかけていた手ぬぐいを差し出してきた。
「まったくお前は……風邪を引いたらどうするんだ。ほら、あまり意味はないだろうが、少し拭くといい」
困ったような呆れ顔。
私が表情を作っているなんて、きっとわかっているんだろう。
それだけ長い付き合いだから。
誰よりもお互いを知っているはずだから。
――――それがほんの少しイタズラ心を揺さぶった。
「よっと」
「え?」
私は差し出された手首を掴んで思いっきり引っ張った。
これには星も予想していなかったんだろう。
抵抗する間もなく、情けない声を一つ上げて縁側から転がり落ちると、べしゃなんて音を立てて、ドロドロの地面に顔から着地した。
あー。
これはちょっと、まずかったかも。
少し反省。
私の真横に器用に落ちた星を眺め、久しぶりに反省した。
そのまま、動きの止まった星を待つこと数秒。
ゆらりと沸き立つみたいに星は立ち上がると、肩を震わせながら振り向いた。
「お、お前というヤツはっ」
「あー、えっと、つい……ごめんごめん」
「ついでも、ごめんでもないだろう、この有様っ。せっかく風呂にも入ったというのに」
「いやぁ、ごめん……くくっ」
怒っているけど、顔を泥だらけにして言われても凄みがない。
むしろ、泥で覆われた顔は、目だけがはっきりしていておかしい。
星は気が付くこともなく、そのまま私に噛みつくように瞳を向けてくるから、もうやめてほしい。
笑いを堪えるのが大変だ。
「毎度のこととはいえ、お前はこんなイタズラばかりして」
「わ、悪かったって」
次第に落ちていく星の泥と同じように、私の笑いもだんだん収まっていった。
けれど、星の口調はまだ強まったまま。
まぁ、無理もない。
星は雨の日は人一倍大きな傘を差すし、お風呂だってすぐに出たがるくらい濡れるのが好きじゃない。
お風呂から出た直後に無理矢理濡らされたんだから、怒るのは当然だ。
でも、濡れ続けているのは大丈夫なんだろうか。
一度濡れてしまえば案外大丈夫、とか。
いやいや、怒れてそれどころじゃないか。
「ぬえ、聞いているか?」
「え?あ、聞いてる聞いてる」
お説教モードに入った星に言葉を向けて、流されるまま視線を向ける。
「本当にお前というヤツは――――」
そのまま、星のお説教は続いた。
くどくどした口調は、なんだか昔に戻ったみたい。
堅過ぎるし回りくどくて、反発せずにはいられないほどイヤな口調。
でも、今は。
今は、案外イヤじゃない。
それどころか、これが星だったなとか、懐かしいな、なんて思ってしまう。
ホント……呆れちゃう。
自分自身に呆れるのは、いつものこと。
私がどうしようもないヤツなんてこと、私自身よくわかっている。
よくわかっているけど、やめられない。
いや、よくわかっているから、やめられないんだ。
耳に溶ける星の声。
何度も確認するように問い掛けてくるのは、やっぱり面倒くさい。
でも、そうして、彼女は昔の面影を抱えたまま、私の名前を呼んでくれる。
それは、ちょっとだけ……嬉しいような、恥ずかしいような。
「……ちゃんと、聞こえてるよ」
はぐらかすように一つ。
小さく言葉をこぼして、私は再び鼓膜に触れる音に耳を傾けた。
静かに降る雨音は星の声が混ざってわずかに賑やかさを増している。
まだまだ途切れることはない音。
それは、ようやく降り始めた季節の雨と同じように続いていく。
辺り一面に、柔らかに降り注ぐように。
私の身体にも。
私の心にも。
染み入るように雫をくれる。
そうして、欠けてはいけない私の日々がゆっくりと満ちていく。
だから。
私はまた雨に濡れるだろう。
私はまた……星の手を引くだろう。
雨の音を耳に。
星の声を耳に。
今はもう少しこのままでいたい、なんて。
どうしようもなく、思う。
私は堪え切れなくなって、俯いて笑みをこぼした。
雨だ……。
…………雨。
そっと、目を開ける。
闇夜の中、しとしととした雨がぼんやりした明かりに照らされて落ちてくる。
庭先に立った私を濡らしてもお構いなし。
降り止むことなく、落ちる。
額に、頬に、首筋に、瞼に……。
その最後。
瞳に飛び込んできた雫を、私は反射的に瞼を閉じて避けていた。
「……ヘンなの」
なんだかおかしい。
別に目に入ったっていいのに。
少し痛いかもしれないけれど、それでも、別にいい。
そんな痛みなんて一瞬で些細なことだろうから。
でも、私の無意識はどうにもそうさせてくれないらしい。
この捻くれ者。
今は私だけなんだから、捻くれなくてもいいじゃないか。
というか、そうやって無意識に従う必要だってないんだけど。
……ホント、捻くれ者だね。
嘲るように笑みを浮かべて、私はゆっくりと目を開いた。
あるのは変わらずに私を濡らす雨。
家から漏れる明かりで照らされた、光の筋みたいな弱々しい雨だ。
毎年なら蒸れるような暖かな雨のはずなのに、今年はやけに肌寒さを与えてくる。
昼間の季節外れみたいな暑さとは打って変わって、体温を奪っていくような感覚だ。
そりゃ、今年に限らず、これだけ濡れれば肌寒くもなるけれど。
もう、びしょびしょ。
髪の先もワンピースの裾までも濡れてしまっている。
「あーぁ」
縁側で外を眺めながらお風呂の順番を待っていただけなのに、これだ。
雨の降り始めと同時に、呼ばれるみたいに外に出てしまった。
実際には何かに呼ばれたわけじゃない。
ただの癖みたいなもので、なんとなく。
去年もやったことだけどさ……。
その前も、そのまた前も……幻想郷に来て、いや、そのもっと前から。
このじめじめとした季節の始めには、どうにもこういう衝動みたいなのが来る。
毎年毎年よく懲りないなと自分でも思うけれど、もうどうしようもない。
習慣とか日課みたいなものだと思うしかないや。
「……」
静かに降る雨。
遠くを見つめるようにして、私は空を見上げたまま。
ただ、
「――――っ」
本当に瞳に雫が落ちて、私は目を閉じた。
あぁ、やっぱり痛いな、なんて。
……。
昔もこんな風に思ったんだっけ。
昔々……大昔もいいところ。
一人でいた頃は、よく雨に打たれていた。
この季節の雨は、それを思い出させてくれる。
誰かに言ったことはないけれど。
だって、過去の栄光を引っ張り出して胸を張ったって、時代遅れって笑われるのがオチ。
今にしてみれば、あんまり良い記憶じゃないのも確かだし。
「……懐かしいね」
一人でいて、マミゾウと出会って。
また一人になって、殺されそうになって……。
やっぱり良いことなんて、なかった。
でも……。
聖と……みんなに出会えた。
昔々の記憶。
一つひとつの記憶は連なる思い出になって、あの時のことをつぶさに思い起こしてくれる。
あの時、どんな気持ちだったかとか。
あの時、どうしたかったのかとか。
それで、みんなはどうだったかとか。
仲が良かったかと言われると微妙。
積極的に関わろうとはしなかったし。
私としてはうまくやっていたとは思う。
……まぁ、一人を除いて、だけど。
アイツとだけは仲が悪かったのは絶対に忘れない。
忘れて、やらない。
寅。
バカ寅……。
…………寅丸……星。
胸の内で思った途端、雨音に混じって鼓動が一つ。
けれど、それは一度切り。
すぐに、静かな雨音が私を包んでいくだけだった。
……ホント、懐かしい。
正反対な性格の私たちは、よくケンカばかりしていた。
よく飽きなかったと思うほど。
そんな昔のことを引っ張り出したら、やっぱり笑われるのがオチ。
きっと、お前はどうしようもないヤツだったなって言われて。
私からしたら、星こそどうしようもないヤツだったよって言ってやりたい。
ふと、口元が緩むのが分かった。
どうしようもないくらい、私は笑っているんだろうなって思う。
「あー」
恥ずかしいったらない。
きっと間抜けな表情になってしまっているんだ。
誰かに見られないうちに――――。
「ぬえ?」
聴き慣れた声が私を呼んだ。
言ったヤツの表情まで浮かんでくる、声。
……いつもいつも間の悪いヤツ。
なんでこう都合の悪い時に必ず現れるんだろう。
渋々、瞳を開け、視線を向けると縁側にはやっぱり星が立っていた。
お風呂から上がった直後みたいで、寝間着姿で首には大きな手ぬぐい。
髪がしっとりとした感じなところ、どうせまた大して水気も取らずにすぐに出てきたんだろう。
もっとゆっくりしてこれば、こんなことにはならなかったのに。
「なに?バカ寅」
「い、いきなりだな、お前は……」
口を尖らしてみせると、星は呆れるような表情を向けてきた。
私の反応に、口元にはいつもの誤魔化すみたいな笑みが浮かんできている。
どうせこの状況に「何と声をかけた方がいいものか」とか考えているんだろう。
そんなに気を使わなくたっていいのに。
こんな場面に何度も出くわしているんだから、思うままに言ってくれればいい。
けれど、星はそれ以上のことは言わなかった。
ただ降参とばかりに息を吐き出すと、目尻の下がったような瞳で私を見た。
それは、先ほど思い出した星とは違っている。
長い時間が経っているんだから、当然と言えば当然だろうけど。
なんというか角が取れたというか。
穏やかになったというか……。
……優しく、なったというか……。
「どうかしたか?」
「べ、別に」
今、物凄くおかしなことを考えていた気がする。
変わったのは確かなんだろうけど、そんな風に思ってなんてやらない。
コイツは八方美人で中途半端で、そんなどうしようもないところに輪をかけただけなんだから。
「とりあえず……風呂が開いたから、入ってしまえよ」
「はいはい」
思考をテキトーな言葉と一緒に吐き出して、会話を置く。
このままいたら、またヘンなことを考えてしまいそうだ。
それをうっかりこぼしてしまうなんてことになったら、恥ずかしすぎる。
絶対に言ってやるもんかなんて思いながら、私はわざと不機嫌そうな表情をして縁側に戻った。
濡れたまま上がるのをどうしようかと考えていると、星が首にかけていた手ぬぐいを差し出してきた。
「まったくお前は……風邪を引いたらどうするんだ。ほら、あまり意味はないだろうが、少し拭くといい」
困ったような呆れ顔。
私が表情を作っているなんて、きっとわかっているんだろう。
それだけ長い付き合いだから。
誰よりもお互いを知っているはずだから。
――――それがほんの少しイタズラ心を揺さぶった。
「よっと」
「え?」
私は差し出された手首を掴んで思いっきり引っ張った。
これには星も予想していなかったんだろう。
抵抗する間もなく、情けない声を一つ上げて縁側から転がり落ちると、べしゃなんて音を立てて、ドロドロの地面に顔から着地した。
あー。
これはちょっと、まずかったかも。
少し反省。
私の真横に器用に落ちた星を眺め、久しぶりに反省した。
そのまま、動きの止まった星を待つこと数秒。
ゆらりと沸き立つみたいに星は立ち上がると、肩を震わせながら振り向いた。
「お、お前というヤツはっ」
「あー、えっと、つい……ごめんごめん」
「ついでも、ごめんでもないだろう、この有様っ。せっかく風呂にも入ったというのに」
「いやぁ、ごめん……くくっ」
怒っているけど、顔を泥だらけにして言われても凄みがない。
むしろ、泥で覆われた顔は、目だけがはっきりしていておかしい。
星は気が付くこともなく、そのまま私に噛みつくように瞳を向けてくるから、もうやめてほしい。
笑いを堪えるのが大変だ。
「毎度のこととはいえ、お前はこんなイタズラばかりして」
「わ、悪かったって」
次第に落ちていく星の泥と同じように、私の笑いもだんだん収まっていった。
けれど、星の口調はまだ強まったまま。
まぁ、無理もない。
星は雨の日は人一倍大きな傘を差すし、お風呂だってすぐに出たがるくらい濡れるのが好きじゃない。
お風呂から出た直後に無理矢理濡らされたんだから、怒るのは当然だ。
でも、濡れ続けているのは大丈夫なんだろうか。
一度濡れてしまえば案外大丈夫、とか。
いやいや、怒れてそれどころじゃないか。
「ぬえ、聞いているか?」
「え?あ、聞いてる聞いてる」
お説教モードに入った星に言葉を向けて、流されるまま視線を向ける。
「本当にお前というヤツは――――」
そのまま、星のお説教は続いた。
くどくどした口調は、なんだか昔に戻ったみたい。
堅過ぎるし回りくどくて、反発せずにはいられないほどイヤな口調。
でも、今は。
今は、案外イヤじゃない。
それどころか、これが星だったなとか、懐かしいな、なんて思ってしまう。
ホント……呆れちゃう。
自分自身に呆れるのは、いつものこと。
私がどうしようもないヤツなんてこと、私自身よくわかっている。
よくわかっているけど、やめられない。
いや、よくわかっているから、やめられないんだ。
耳に溶ける星の声。
何度も確認するように問い掛けてくるのは、やっぱり面倒くさい。
でも、そうして、彼女は昔の面影を抱えたまま、私の名前を呼んでくれる。
それは、ちょっとだけ……嬉しいような、恥ずかしいような。
「……ちゃんと、聞こえてるよ」
はぐらかすように一つ。
小さく言葉をこぼして、私は再び鼓膜に触れる音に耳を傾けた。
静かに降る雨音は星の声が混ざってわずかに賑やかさを増している。
まだまだ途切れることはない音。
それは、ようやく降り始めた季節の雨と同じように続いていく。
辺り一面に、柔らかに降り注ぐように。
私の身体にも。
私の心にも。
染み入るように雫をくれる。
そうして、欠けてはいけない私の日々がゆっくりと満ちていく。
だから。
私はまた雨に濡れるだろう。
私はまた……星の手を引くだろう。
雨の音を耳に。
星の声を耳に。
今はもう少しこのままでいたい、なんて。
どうしようもなく、思う。
私は堪え切れなくなって、俯いて笑みをこぼした。