アイテム番号: SCP-009-LL
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-009-LLはドアスコープに不透明なカバーを取り付け、ドア枠から外した状態で、低脅威度物品収容ロッカーに保管します。潜在的なSCP-009-LL-Aの捜索は継続して行われ、博麗大結界の不可解な機能停止が特定の干渉源から続けて発生した場合、その一帯は優先的に調査されます。新たに発見されたSCP-009-LL-Aは、収容偽装プロトコル03”疫病みの疑い”に従って標準ヒト収容セルに収容してください。収容されたSCP-009-LL-Aにはアイマスクの常時着用が義務付けられ、実験以外の目的で外すことは許可されません。この為、収容セルに配置される家具は安全対策の施されたものに限られます。
説明: SCP-009-LLは主に樫材とステンレス金具で構成された片開き戸の扉です。箱錠のレバーハンドルと非標準的なドアスコープを備えており、白色の塗装が施された扉の表面には経年劣化に矛盾しない変色が見られます。SCP-009-LLの外観、内部構造はドアスコープを除いて一般的な住居用扉の設計に準拠しています。
SCP-009-LLのドアスコープは広角レンズ等が取り付けられていない中空の状態で、内壁は無色透明の半粘性の液体によって覆われ、全体に渡ってルーン文字に似た模様が有意でない並びで刻まれています。採取したサンプルの分析は、ドアスコープの材質が未知の金属物質であり、内壁を覆う液体が血漿に由来する蛋白質、無機塩、ヒアルロン酸、コラーゲン細線維を含んだ水であることを示しています。液体には劣化の兆候が見られず、部分的な除去に対しては内壁から滲み出る形で充填されます。ドアスコープの表側の上部には小さな真鍮の板が取り付けられており、"秘封倶楽部の乱れなき活動"という文字が日本語で刻まれています。
一定の知性を持った 1 視力に問題のない生物(以降、観察者と表記)が閉じられたSCP-009-LLのドアスコープを表側から覗き見た時、観察者は異常な内部空間(以降、SCP-009-LL-1と分類)を知覚します。活性化した時点で、SCP-009-LLは開放することが出来なくなります。SCP-009-LL-1は集合住宅の一室を玄関扉の外側から覗き見た場合に想定される光景として認識され、玄関より続く通路の先にある開かれた扉から部屋の一部が観察できます。室内の物品や内装の規格から、SCP-009-LL-1は外の世界に由来を持つと推測されています。映像・音声記録装置を用いてSCP-009-LL-1を観察する試みは、通常の扉の向こう側を記録する結果に終わります。
SCP-009-LL-1には常に通常、20歳前後と思われる女性の姿をした2体の人型存在(以降、SCP-009-LL-2、SCP-009-LL-3と分類)がいます。SCP-009-LL-2は暗褐色の髪と目を持ち、SCP-009-LL-3から「レンコ」と呼ばれています。SCP-009-LL-3は金髪と不定の虹彩色 2 を持ち、SCP-009-LL-2から「メリー」と呼ばれています。現時点でこれらの名称に関わる個人は特定されていません。
SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の行動パターンは概して激しい口論の最中にあり、その末にどちらかが玄関へ駆け寄り扉を開けようとする一連の動作を示すものです。SCP-009-LL-2、あるいはSCP-009-LL-3が扉に到達すると、観察者は解錠と思われる音を聞き取ります。この時点より、SCP-009-LLを開放することが可能です。SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3に対する観察者の反応は様々ですが、いずれも心理学的な通常の様相 3 からの逸脱を示しません。しかしながら、全ての観察者はSCP-009-LL-1の観察を続けることに意欲的であり、解錠と思われる音を聞き取ると即座に扉の開放を試みます。これらの観察者の行動はどの段階でも中断させることが可能です。観察者がその場から離れた場合、SCP-009-LLは非活性化します。
観察者によってSCP-009-LLが開放された場合、SCP-009-LL-1は消失します。同時に、SCP-009-LLは未知の手段でその場から最も近い博麗大結界の[編集済]。この干渉は博麗大結界の機能停止を招きますが、崩壊の拡散は非常に緩やかである為、現在までに起きたSCP-009-LLに起因すると考えられる██件の崩壊は全て最小限の被害に留められています。SCP-009-LLは不正な干渉を継続しますが、扉が閉じられると非活性化します。
SCP-009-LLの活性化から扉の開放までを実行した観察者(以降、SCP-009-LL-Aと分類)は以降、"覗き見る"行為がSCP-009-LL-1の知覚に直結するようになります。この影響は活性化したSCP-009-LLと同様の作用をもたらしますが、開放のプロセスには物理的な扉や動作を必要とせず、SCP-009-LL-Aの意志に即した想起的開放が可能です。SCP-009-LL-Aは解剖学的に異常な点が見当たりませんが、虹彩色が褐色となり、未知の人物のものと思われる同一の網膜、虹彩パターンに変化しています。既知の手段におけるSCP-009-LL-Aの治療法は、現時点では視覚の遮断による無力化のみです。
回収記録: SCP-009-LLは第1██季█月の█に、人間の里第█区██町にある一軒の家屋に玄関扉として取り付けられた状態で発見されました。当該地区は以前より頻発する博麗大結界の不可解な機能停止の干渉源の疑いがある為に調査が行われ、調査チームは付近の住民の間で交わされる"外の世界に繋がる扉"の噂からSCP-009-LLの発見と回収に至りました。回収にあたり、発見場所となった家屋の家主である牧野 ██は調査員をSCP-009-LLの影響下に置こうと試み、結果として博麗大結界の崩壊が引き起こされました。その後、牧野氏は問題なく拘束され、財団の尋問を受けました。
以下は、自警団の立場を装ったエージェント・上白沢による牧野氏へのインタビューの転写です。
補遺009-1: 以下は実験記録から抜粋したSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の行動パターンの例です。全ての実験記録の行動内容は、SCP-009-LLの開放を防ぐ目的で拘束された観察者の報告から成ります。実験記録の完全なリストは、付属文書009-Aを参照してください。
補遺009-2: SCP-009-LLのより詳細な調査の結果、ドアスコープの内壁の模様の中に目立たない形で刻まれた文章が発見されました。以下はその文章の転写です。
1. 詳細な知性の水準は不明ですが、実験では観察者を妖精とした場合での特異性の発現が確認されています。
2. 現在までに青、赤、金、紫の色が確認されています。虹彩色の選択に一貫したパターンは見られません。
3. 当該種族に適った振る舞いであり、例として人間の場合は瞬間的な混乱や軽い当惑、好奇心を示します。
4. 牧野 ██の妻である牧野 █は外来人です。
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-009-LLはドアスコープに不透明なカバーを取り付け、ドア枠から外した状態で、低脅威度物品収容ロッカーに保管します。潜在的なSCP-009-LL-Aの捜索は継続して行われ、博麗大結界の不可解な機能停止が特定の干渉源から続けて発生した場合、その一帯は優先的に調査されます。新たに発見されたSCP-009-LL-Aは、収容偽装プロトコル03”疫病みの疑い”に従って標準ヒト収容セルに収容してください。収容されたSCP-009-LL-Aにはアイマスクの常時着用が義務付けられ、実験以外の目的で外すことは許可されません。この為、収容セルに配置される家具は安全対策の施されたものに限られます。
説明: SCP-009-LLは主に樫材とステンレス金具で構成された片開き戸の扉です。箱錠のレバーハンドルと非標準的なドアスコープを備えており、白色の塗装が施された扉の表面には経年劣化に矛盾しない変色が見られます。SCP-009-LLの外観、内部構造はドアスコープを除いて一般的な住居用扉の設計に準拠しています。
SCP-009-LLのドアスコープは広角レンズ等が取り付けられていない中空の状態で、内壁は無色透明の半粘性の液体によって覆われ、全体に渡ってルーン文字に似た模様が有意でない並びで刻まれています。採取したサンプルの分析は、ドアスコープの材質が未知の金属物質であり、内壁を覆う液体が血漿に由来する蛋白質、無機塩、ヒアルロン酸、コラーゲン細線維を含んだ水であることを示しています。液体には劣化の兆候が見られず、部分的な除去に対しては内壁から滲み出る形で充填されます。ドアスコープの表側の上部には小さな真鍮の板が取り付けられており、"秘封倶楽部の乱れなき活動"という文字が日本語で刻まれています。
一定の知性を持った 1 視力に問題のない生物(以降、観察者と表記)が閉じられたSCP-009-LLのドアスコープを表側から覗き見た時、観察者は異常な内部空間(以降、SCP-009-LL-1と分類)を知覚します。活性化した時点で、SCP-009-LLは開放することが出来なくなります。SCP-009-LL-1は集合住宅の一室を玄関扉の外側から覗き見た場合に想定される光景として認識され、玄関より続く通路の先にある開かれた扉から部屋の一部が観察できます。室内の物品や内装の規格から、SCP-009-LL-1は外の世界に由来を持つと推測されています。映像・音声記録装置を用いてSCP-009-LL-1を観察する試みは、通常の扉の向こう側を記録する結果に終わります。
SCP-009-LL-1には常に通常、20歳前後と思われる女性の姿をした2体の人型存在(以降、SCP-009-LL-2、SCP-009-LL-3と分類)がいます。SCP-009-LL-2は暗褐色の髪と目を持ち、SCP-009-LL-3から「レンコ」と呼ばれています。SCP-009-LL-3は金髪と不定の虹彩色 2 を持ち、SCP-009-LL-2から「メリー」と呼ばれています。現時点でこれらの名称に関わる個人は特定されていません。
SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の行動パターンは概して激しい口論の最中にあり、その末にどちらかが玄関へ駆け寄り扉を開けようとする一連の動作を示すものです。SCP-009-LL-2、あるいはSCP-009-LL-3が扉に到達すると、観察者は解錠と思われる音を聞き取ります。この時点より、SCP-009-LLを開放することが可能です。SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3に対する観察者の反応は様々ですが、いずれも心理学的な通常の様相 3 からの逸脱を示しません。しかしながら、全ての観察者はSCP-009-LL-1の観察を続けることに意欲的であり、解錠と思われる音を聞き取ると即座に扉の開放を試みます。これらの観察者の行動はどの段階でも中断させることが可能です。観察者がその場から離れた場合、SCP-009-LLは非活性化します。
観察者によってSCP-009-LLが開放された場合、SCP-009-LL-1は消失します。同時に、SCP-009-LLは未知の手段でその場から最も近い博麗大結界の[編集済]。この干渉は博麗大結界の機能停止を招きますが、崩壊の拡散は非常に緩やかである為、現在までに起きたSCP-009-LLに起因すると考えられる██件の崩壊は全て最小限の被害に留められています。SCP-009-LLは不正な干渉を継続しますが、扉が閉じられると非活性化します。
SCP-009-LLの活性化から扉の開放までを実行した観察者(以降、SCP-009-LL-Aと分類)は以降、"覗き見る"行為がSCP-009-LL-1の知覚に直結するようになります。この影響は活性化したSCP-009-LLと同様の作用をもたらしますが、開放のプロセスには物理的な扉や動作を必要とせず、SCP-009-LL-Aの意志に即した想起的開放が可能です。SCP-009-LL-Aは解剖学的に異常な点が見当たりませんが、虹彩色が褐色となり、未知の人物のものと思われる同一の網膜、虹彩パターンに変化しています。既知の手段におけるSCP-009-LL-Aの治療法は、現時点では視覚の遮断による無力化のみです。
回収記録: SCP-009-LLは第1██季█月の█に、人間の里第█区██町にある一軒の家屋に玄関扉として取り付けられた状態で発見されました。当該地区は以前より頻発する博麗大結界の不可解な機能停止の干渉源の疑いがある為に調査が行われ、調査チームは付近の住民の間で交わされる"外の世界に繋がる扉"の噂からSCP-009-LLの発見と回収に至りました。回収にあたり、発見場所となった家屋の家主である牧野 ██は調査員をSCP-009-LLの影響下に置こうと試み、結果として博麗大結界の崩壊が引き起こされました。その後、牧野氏は問題なく拘束され、財団の尋問を受けました。
以下は、自警団の立場を装ったエージェント・上白沢による牧野氏へのインタビューの転写です。
<記録開始>
エージェント・上白沢: 貴方の家の玄関扉についてお話を聞かせてください。あの扉が奇妙な幻覚を見せることについてはご存知ですね?
牧野氏: [沈黙]
エージェント・上白沢: 扉は貴方が制作したのですか?
牧野氏: 私はただ、妻に会いたかった。
エージェント・上白沢: 失礼?
牧野氏: 扉は、私に与えられたチャンスだった。妻を見失った男を憐れんで、神様って奴が機会を恵んでくれたんだ。だが、何度開けても……向こうに行くことは出来なかった。
エージェント・上白沢: 貴方の奥さんは█ヵ月前に████で行方不明になったと記録に残っていますが、これは――
牧野氏: [遮って] あいつは外に行ってしまったんだ! 何かの間違いで帰ってしまった! 4 畜生どもに食われて死体すら残らなかった訳じゃない!
エージェント・上白沢: どうか落ち着いてください。私は貴方にあの扉について教えて頂きたいのです。扉はいつ頃からあのようになったのですか?
牧野氏: [およそ2分間の沈黙] 実際のところ……よく覚えていないんだ。それほど前のことじゃないと思うが、家に着いて扉を開けようとしたら妙な感じがした。そして見上げてみたら、そこにあったのは見慣れた扉じゃない。あの白い扉だった。
エージェント・上白沢: それで、貴方はどうしました?
牧野氏: まあ、化かされているんじゃないかと思って、ひとまず中の様子を確かめようとしたよ。ちょうど、覗き穴があったから。
エージェント・上白沢: 続けてください。
牧野氏: 覗いてみたら、家の中が見えた。だが、それは私の家じゃなかった。間取りが違うし、見たこともない代物もあった。おまけに奥の方に妙な感じの見知らぬ女性が二人もいた。私は本気で帰る家を間違えたのかと思い始めて、辺りを少しばかり見回したよ。
エージェント・上白沢: その二人の女性に何か変わった点は?
牧野氏: 自分の家に赤の他人がいること以上におかしなことがあるとでも?
エージェント・上白沢: しかし、貴方はそう思っていないようですが。
牧野氏: [数秒間の沈黙] まあ、そうだ。私には向こうがどこなのか、はっきりとわかったからね。中の二人の話し方は私たちとは少し違っていた。発音の仕方が妻にそっくりだったよ。わかるだろう? 彼女たちは外の世界の人間なんだ。
エージェント・上白沢: 貴方の考えはよくわかりましたよ。それで……二人の女性はその後、何か行動を起こしましたか?
牧野氏: 彼女たちは明らかに揉めていた。そのうち、片方の……どちらかは忘れたが一方の女性がこちらに物凄い勢いで迫ってきたんだ。そのすぐ後に鍵の開く音がしたから、何の気なしに扉を開けてみた。そうしたら、もう私の家に戻っていたよ。
エージェント・上白沢: 随分奇妙に思えたでしょうね。
牧野氏: そうかもしれない。だが、今となってはもう慣れてしまったことだ。
エージェント・上白沢: 何故です?
牧野氏: いくらか時間が経って、ある考えが浮かんだからだ……これなら妻にもう一度会えると。 [休止] 私は数えきれないくらい、本当に、嫌になるほどあの扉を覗き見た。覗きこむ度に、扉の向こうには外の世界が現れる。そして私が扉を開くと外の世界は閉じてしまう。何度も何度も何度も、私はやったんだ。何度もやってみた。しかし……扉は私を拒み続けた。
エージェント・上白沢: 貴方は扉を他の者、近辺の住民にも覗き見るよう仕向けましたね。家の扉が外の世界に繋がっていると言って。
牧野氏: 扉の向こう側に私の手が届かないなら、誰かの伸ばした指が外の淵に引っかかることを願うしかなかった。私を連れていける誰かを探し当てる以外にもう考えは浮かばなかったんだ。 [休止] しかし……ああ、今は理解しているつもりだよ。
エージェント・上白沢: 何をでしょうか?
牧野氏: 外の世界は自分が今いるところよりもずっと傍にあるということを。どんな隙間の向こうにも外の世界は現れる。あの薄っぺらな扉一枚隔てた場所にどうして行くことが叶わなかったのか、それもよくわかった。誰だって目の中にあるものを取り出すことは出来ないからだ。そうだろう?
<記録終了>
事後報告: 牧野氏の証言とその後の実験によりSCP-009-LL-Aの性質が判明した。標準的な収容下に置かれていた牧野氏は、彼がSCP-009-LLの影響に曝露させたと供述した█名の近隣住民と共にSCP-009-LL-Aに指定され、別の収容セルに移送された。
エージェント・上白沢: 貴方の家の玄関扉についてお話を聞かせてください。あの扉が奇妙な幻覚を見せることについてはご存知ですね?
牧野氏: [沈黙]
エージェント・上白沢: 扉は貴方が制作したのですか?
牧野氏: 私はただ、妻に会いたかった。
エージェント・上白沢: 失礼?
牧野氏: 扉は、私に与えられたチャンスだった。妻を見失った男を憐れんで、神様って奴が機会を恵んでくれたんだ。だが、何度開けても……向こうに行くことは出来なかった。
エージェント・上白沢: 貴方の奥さんは█ヵ月前に████で行方不明になったと記録に残っていますが、これは――
牧野氏: [遮って] あいつは外に行ってしまったんだ! 何かの間違いで帰ってしまった! 4 畜生どもに食われて死体すら残らなかった訳じゃない!
エージェント・上白沢: どうか落ち着いてください。私は貴方にあの扉について教えて頂きたいのです。扉はいつ頃からあのようになったのですか?
牧野氏: [およそ2分間の沈黙] 実際のところ……よく覚えていないんだ。それほど前のことじゃないと思うが、家に着いて扉を開けようとしたら妙な感じがした。そして見上げてみたら、そこにあったのは見慣れた扉じゃない。あの白い扉だった。
エージェント・上白沢: それで、貴方はどうしました?
牧野氏: まあ、化かされているんじゃないかと思って、ひとまず中の様子を確かめようとしたよ。ちょうど、覗き穴があったから。
エージェント・上白沢: 続けてください。
牧野氏: 覗いてみたら、家の中が見えた。だが、それは私の家じゃなかった。間取りが違うし、見たこともない代物もあった。おまけに奥の方に妙な感じの見知らぬ女性が二人もいた。私は本気で帰る家を間違えたのかと思い始めて、辺りを少しばかり見回したよ。
エージェント・上白沢: その二人の女性に何か変わった点は?
牧野氏: 自分の家に赤の他人がいること以上におかしなことがあるとでも?
エージェント・上白沢: しかし、貴方はそう思っていないようですが。
牧野氏: [数秒間の沈黙] まあ、そうだ。私には向こうがどこなのか、はっきりとわかったからね。中の二人の話し方は私たちとは少し違っていた。発音の仕方が妻にそっくりだったよ。わかるだろう? 彼女たちは外の世界の人間なんだ。
エージェント・上白沢: 貴方の考えはよくわかりましたよ。それで……二人の女性はその後、何か行動を起こしましたか?
牧野氏: 彼女たちは明らかに揉めていた。そのうち、片方の……どちらかは忘れたが一方の女性がこちらに物凄い勢いで迫ってきたんだ。そのすぐ後に鍵の開く音がしたから、何の気なしに扉を開けてみた。そうしたら、もう私の家に戻っていたよ。
エージェント・上白沢: 随分奇妙に思えたでしょうね。
牧野氏: そうかもしれない。だが、今となってはもう慣れてしまったことだ。
エージェント・上白沢: 何故です?
牧野氏: いくらか時間が経って、ある考えが浮かんだからだ……これなら妻にもう一度会えると。 [休止] 私は数えきれないくらい、本当に、嫌になるほどあの扉を覗き見た。覗きこむ度に、扉の向こうには外の世界が現れる。そして私が扉を開くと外の世界は閉じてしまう。何度も何度も何度も、私はやったんだ。何度もやってみた。しかし……扉は私を拒み続けた。
エージェント・上白沢: 貴方は扉を他の者、近辺の住民にも覗き見るよう仕向けましたね。家の扉が外の世界に繋がっていると言って。
牧野氏: 扉の向こう側に私の手が届かないなら、誰かの伸ばした指が外の淵に引っかかることを願うしかなかった。私を連れていける誰かを探し当てる以外にもう考えは浮かばなかったんだ。 [休止] しかし……ああ、今は理解しているつもりだよ。
エージェント・上白沢: 何をでしょうか?
牧野氏: 外の世界は自分が今いるところよりもずっと傍にあるということを。どんな隙間の向こうにも外の世界は現れる。あの薄っぺらな扉一枚隔てた場所にどうして行くことが叶わなかったのか、それもよくわかった。誰だって目の中にあるものを取り出すことは出来ないからだ。そうだろう?
<記録終了>
事後報告: 牧野氏の証言とその後の実験によりSCP-009-LL-Aの性質が判明した。標準的な収容下に置かれていた牧野氏は、彼がSCP-009-LLの影響に曝露させたと供述した█名の近隣住民と共にSCP-009-LL-Aに指定され、別の収容セルに移送された。
補遺009-1: 以下は実験記録から抜粋したSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の行動パターンの例です。全ての実験記録の行動内容は、SCP-009-LLの開放を防ぐ目的で拘束された観察者の報告から成ります。実験記録の完全なリストは、付属文書009-Aを参照してください。
実験記録No: 009-1
行動時間: 12分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にいるSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3が食生活の指針の違いについて激しく口論している。やがてSCP-009-LL-2が玄関に駆け寄る。SCP-009-LL-3はSCP-009-LL-2の方を見ているが、通路奥の室内に留まっている。
行動時間: 12分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にいるSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3が食生活の指針の違いについて激しく口論している。やがてSCP-009-LL-2が玄関に駆け寄る。SCP-009-LL-3はSCP-009-LL-2の方を見ているが、通路奥の室内に留まっている。
実験記録No: 009-5
行動時間: 19分
行動内容: SCP-009-LL-1の観察範囲外にいるSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の言い争う声と複数の物品の破損する音を観察者が報告する。声が小さく聞き取れなかった為、話題については不明。やがてSCP-009-LL-3が玄関に駆け寄り、SCP-009-LL-2はそれを追いかける。SCP-009-LL-3が玄関扉に到達すると、SCP-009-LL-2は動きを止めて通路に留まった。
行動時間: 19分
行動内容: SCP-009-LL-1の観察範囲外にいるSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の言い争う声と複数の物品の破損する音を観察者が報告する。声が小さく聞き取れなかった為、話題については不明。やがてSCP-009-LL-3が玄関に駆け寄り、SCP-009-LL-2はそれを追いかける。SCP-009-LL-3が玄関扉に到達すると、SCP-009-LL-2は動きを止めて通路に留まった。
実験記録No: 009-8
行動時間: 7秒
行動内容: SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3がSCP-009-LL-1の通路に立っている。SCP-009-LL-3が「どういうことよ、男って!」と叫び、SCP-009-LL-2は即座に玄関に駆け寄る。
注記: 実験において最も活動の短かった行動パターン。
行動時間: 7秒
行動内容: SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3がSCP-009-LL-1の通路に立っている。SCP-009-LL-3が「どういうことよ、男って!」と叫び、SCP-009-LL-2は即座に玄関に駆け寄る。
注記: 実験において最も活動の短かった行動パターン。
実験記録No: 009-12
行動時間: 22分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にSCP-009-LL-3が、観察範囲外にいるSCP-009-LL-2に落ち着いた口調で話しかけている。時折、SCP-009-LL-2の姿が見られ、SCP-009-LL-3に親しげな身体的コミュニケーションを取り、SCP-009-LL-3はこれを受け入れている。SCP-009-LL-3が通路に出ると、SCP-009-LL-2がそれに続く。当初の穏やかな雰囲気を保ったまま会話は続けられ、SCP-009-LL-3が玄関扉に到達する。観察者はSCP-009-LL-2が話している時にその口が全く動いていないことを報告した。
注記: 観察者にSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の関係について訊ねると、”良好に見える”と回答した。
行動時間: 22分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にSCP-009-LL-3が、観察範囲外にいるSCP-009-LL-2に落ち着いた口調で話しかけている。時折、SCP-009-LL-2の姿が見られ、SCP-009-LL-3に親しげな身体的コミュニケーションを取り、SCP-009-LL-3はこれを受け入れている。SCP-009-LL-3が通路に出ると、SCP-009-LL-2がそれに続く。当初の穏やかな雰囲気を保ったまま会話は続けられ、SCP-009-LL-3が玄関扉に到達する。観察者はSCP-009-LL-2が話している時にその口が全く動いていないことを報告した。
注記: 観察者にSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の関係について訊ねると、”良好に見える”と回答した。
実験記録No: 009-17
行動時間: 152分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にいるSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3が比較的静かな調子で口論している。話題はSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3が互いに抱いている感情についての見解。両者はやがて観察範囲外に移動した為、声を聞き取ることが出来なくなる。SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の姿が見えなくなってからおよそ80分後に、突然激しく言い争う声を観察者が報告。着衣の乱れたSCP-009-LL-2が玄関に駆け寄り、扉に到達する。SCP-009-LL-3は姿を見せなかった。
注記: 実験において最も活動の長かった行動パターン。観察者は実験中に疲労の様子を見せたが、観察を自発的に中断することはなかった。
行動時間: 152分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にいるSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3が比較的静かな調子で口論している。話題はSCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3が互いに抱いている感情についての見解。両者はやがて観察範囲外に移動した為、声を聞き取ることが出来なくなる。SCP-009-LL-2とSCP-009-LL-3の姿が見えなくなってからおよそ80分後に、突然激しく言い争う声を観察者が報告。着衣の乱れたSCP-009-LL-2が玄関に駆け寄り、扉に到達する。SCP-009-LL-3は姿を見せなかった。
注記: 実験において最も活動の長かった行動パターン。観察者は実験中に疲労の様子を見せたが、観察を自発的に中断することはなかった。
実験記録No: 009-19
行動時間: 13分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にSCP-009-LL-3が座り込み、顔を伏せて嗚咽している。時折SCP-009-LL-2の名を呼び、右目に手を当てている。SCP-009-LL-3はその場に留まり続けていたにも関わらず、観察を始めてから13分後に観察者は解錠する音を聞き取った。
注記: 実験においてSCP-009-LL-2の存在が確認されなかった唯一の例。
行動時間: 13分
行動内容: SCP-009-LL-1の通路奥の室内にSCP-009-LL-3が座り込み、顔を伏せて嗚咽している。時折SCP-009-LL-2の名を呼び、右目に手を当てている。SCP-009-LL-3はその場に留まり続けていたにも関わらず、観察を始めてから13分後に観察者は解錠する音を聞き取った。
注記: 実験においてSCP-009-LL-2の存在が確認されなかった唯一の例。
補遺009-2: SCP-009-LLのより詳細な調査の結果、ドアスコープの内壁の模様の中に目立たない形で刻まれた文章が発見されました。以下はその文章の転写です。
親愛の証明を心ゆくまでお楽しみください。
Footnotes
1. 詳細な知性の水準は不明ですが、実験では観察者を妖精とした場合での特異性の発現が確認されています。
2. 現在までに青、赤、金、紫の色が確認されています。虹彩色の選択に一貫したパターンは見られません。
3. 当該種族に適った振る舞いであり、例として人間の場合は瞬間的な混乱や軽い当惑、好奇心を示します。
4. 牧野 ██の妻である牧野 █は外来人です。
しかも昼ドラや!
蓮メリはいいぞ