追い出しの鐘がきこえてきた。カーテンを開けると運動部の生徒たちが、もう疲れ切った様子でクラブハウスへ歩いていくのが見えた。
私は通学鞄を肩から提げて、黒帽子を深くかぶった。西日がまぶしいのだ。
音楽部はまだ片づけをしているのだろうか、廊下の遠くから金物の打ち合う音が響いている。
それ以外に廊下に響くのは私の足音だけだ。名目だけの自習時間を終えて昇降口へむかう廊下は、昼間の騒がしさがどこかに持っていかれたように沈んでいた。
階段を下りて、すぐの下駄箱からローファーを出して上履きから履き替える。校庭に出ると吹き付けた南風のなかに、指導の先生が立っていた。早く帰るように言われたので、挨拶をしてそそくさと校門を出た。
学校から駅までの道は、半分は静かな宅地の中の道だが半分は商店街を通る。繋ぎ目の交差点を渡ると、そこは帰り道を急ぐ人と急がない人、それに働く人で賑やかだった。こちら側はこれからが活動時間かと思い違えてしまいそうだ。いや実際そういう人もいるのだろうけれど。
賑やかすぎることは苦手なので、私はいつもただ1人で帰ることにしている。
歩いているうちに明かりが落ちてきた。風もすっかり冷たい。ただ街灯はすでに灯っているので視界には困らない。こういうときに現代というのはありがたいと私は感じられる。
むこうは提灯と月明かりしかないからね。
ああでも、火を出せる人がいれば灯火になるかな?
だからあの人は案内人なんてのをやっているのかな。
街の明かりを眺めながら、明かりのない町のことを思っていたら、いつの間にか電鉄の駅だった。ICカードを出して(パンダのケース入りである。かわいい)改札を通った。
私の家に近い駅までの電車は、学校側から乗るとおおよそ混んでいる。各駅停車に乗るならば座れたりするのだけれど、急行だとそうはいかない。隣の始発駅の時点ですでに車内は人の海だ。
体育のあった日なんかで疲れているときには座ることを優先したりするが、今日はそれほど疲れていない。
立体交差化がもてはやされている今時に、地上にあるという古い駅だ。改札から過去へ抜けるような連絡階段を通ってホームへ向かう。
通過待ちの各駅停車を横目に見て、私はやって来た10両の電車に乗った。これだけ長いのに、案の定の混雑だった。向かいのドアの横にもたれかかって、闇に沈みだした景色に浮かぶホームを眺めた。
すぐにドアは閉まり、次の駅へ向けて急行電車は動き出した。窓の外は黒くなっている。
快速に列車は走っている。現代文明を走り抜けている。
それでもこの夜は変わらず、町を野を埋めていく。
こちらも向こうも変わらず。
だからこそ妖は夜に起き、月明かりで動くの?
だから私は夢とつながり、あの世界へ
「…あれ?」
私の目の前には、もはや見慣れたどこまでも続く竹林が広がっていた。
気づくと電車は、私の降りる駅を発車していた。立ったまま寝過すというのは初めてだった。
「なんであのとき、こっちに来ちゃったんだろう?妹紅さん」
「さぁね。私に言われても詳しいことは分からないなぁ」
遅れた帰宅になった後、私はいつものように妹紅さんの前にいた。寝入りのころはほぼ毎日こうして話している。
さっきの、自分でも気づかないうちにこちらに来てしまっていたことを聞かせてみたら、そんな答えだった。
「来たいって思ったら、来られる気がするけどね。妖怪たちは知らないうちにやってくるけど。」
そう言って妹紅さんは、くるりとあたりを窺った。もちろんこの人に近づく妖怪なんていない。
「んんー?そうするとこれは危険なのでは!?寝てない日中にこっちに来ちゃうってことは、もしかしていよいよこっちの住人に」
「立ったまま寝てただけでしょう。現に起きた感覚あるようだし」
「う、うぐぅ…」
私の懸念は、見事に解消したのだった。頭を抱えて見上げた空は、プラネタリウムでしか見たことのない小さな星たちでいっぱいの夜空だった。
私は通学鞄を肩から提げて、黒帽子を深くかぶった。西日がまぶしいのだ。
音楽部はまだ片づけをしているのだろうか、廊下の遠くから金物の打ち合う音が響いている。
それ以外に廊下に響くのは私の足音だけだ。名目だけの自習時間を終えて昇降口へむかう廊下は、昼間の騒がしさがどこかに持っていかれたように沈んでいた。
階段を下りて、すぐの下駄箱からローファーを出して上履きから履き替える。校庭に出ると吹き付けた南風のなかに、指導の先生が立っていた。早く帰るように言われたので、挨拶をしてそそくさと校門を出た。
学校から駅までの道は、半分は静かな宅地の中の道だが半分は商店街を通る。繋ぎ目の交差点を渡ると、そこは帰り道を急ぐ人と急がない人、それに働く人で賑やかだった。こちら側はこれからが活動時間かと思い違えてしまいそうだ。いや実際そういう人もいるのだろうけれど。
賑やかすぎることは苦手なので、私はいつもただ1人で帰ることにしている。
歩いているうちに明かりが落ちてきた。風もすっかり冷たい。ただ街灯はすでに灯っているので視界には困らない。こういうときに現代というのはありがたいと私は感じられる。
むこうは提灯と月明かりしかないからね。
ああでも、火を出せる人がいれば灯火になるかな?
だからあの人は案内人なんてのをやっているのかな。
街の明かりを眺めながら、明かりのない町のことを思っていたら、いつの間にか電鉄の駅だった。ICカードを出して(パンダのケース入りである。かわいい)改札を通った。
私の家に近い駅までの電車は、学校側から乗るとおおよそ混んでいる。各駅停車に乗るならば座れたりするのだけれど、急行だとそうはいかない。隣の始発駅の時点ですでに車内は人の海だ。
体育のあった日なんかで疲れているときには座ることを優先したりするが、今日はそれほど疲れていない。
立体交差化がもてはやされている今時に、地上にあるという古い駅だ。改札から過去へ抜けるような連絡階段を通ってホームへ向かう。
通過待ちの各駅停車を横目に見て、私はやって来た10両の電車に乗った。これだけ長いのに、案の定の混雑だった。向かいのドアの横にもたれかかって、闇に沈みだした景色に浮かぶホームを眺めた。
すぐにドアは閉まり、次の駅へ向けて急行電車は動き出した。窓の外は黒くなっている。
快速に列車は走っている。現代文明を走り抜けている。
それでもこの夜は変わらず、町を野を埋めていく。
こちらも向こうも変わらず。
だからこそ妖は夜に起き、月明かりで動くの?
だから私は夢とつながり、あの世界へ
「…あれ?」
私の目の前には、もはや見慣れたどこまでも続く竹林が広がっていた。
気づくと電車は、私の降りる駅を発車していた。立ったまま寝過すというのは初めてだった。
「なんであのとき、こっちに来ちゃったんだろう?妹紅さん」
「さぁね。私に言われても詳しいことは分からないなぁ」
遅れた帰宅になった後、私はいつものように妹紅さんの前にいた。寝入りのころはほぼ毎日こうして話している。
さっきの、自分でも気づかないうちにこちらに来てしまっていたことを聞かせてみたら、そんな答えだった。
「来たいって思ったら、来られる気がするけどね。妖怪たちは知らないうちにやってくるけど。」
そう言って妹紅さんは、くるりとあたりを窺った。もちろんこの人に近づく妖怪なんていない。
「んんー?そうするとこれは危険なのでは!?寝てない日中にこっちに来ちゃうってことは、もしかしていよいよこっちの住人に」
「立ったまま寝てただけでしょう。現に起きた感覚あるようだし」
「う、うぐぅ…」
私の懸念は、見事に解消したのだった。頭を抱えて見上げた空は、プラネタリウムでしか見たことのない小さな星たちでいっぱいの夜空だった。
菫子視点の描写が安定していて、菫子の見る景色、聞いている音が聞こえてくるかのような引き込まれる文章でした。
それだけに、作品としては起承転結の起で終わってしまった感があるのが少し残念に感じました。
また、掌編だという事であっても、竹林(幻想郷)と現実世界が繋がったところで終わってしまうのではなく、
最後の部分に何かしらの考察なり結論なりが欲しかったと個人的には思います。
などと言いつつ、要は、菫子が夢で繋がって竹林を見た後、何を思い、何を考えたのか。
その後が知りたかったという自分の願望です。
また、こればかりは一概には言えませんが、それも含めてもう少し文量が欲しかったですね。
以上、感想とさせていただきます。
恐らく迷いの竹林にやってきた菫子はこのあとどうするのか、気になります。