チチチ……
サラサラサラ……
パチンッ
昼下がりの木漏れ日のなか、野鳥と清流の囁きを遮り将棋の駒の音がする。山の麓に流れる川岸の、とりわけ巨大で平らな岩の上で将棋を指してる私たち。
「飛車いただき!」
「あ、ずるいぞにとり!」
「ずるいってなんだい、椛がそんなとこに置くからだろ」私たちはここからほど近い椛の家から、上等の将棋盤を持ち出して一日に何回も将棋を指す。といっても真剣な勝負というわけではなく、あくまでコミュニケーションの一環だ。気持ちよく戦い、日々の語らいの種にする。
「う、いいさ。まだまだ大丈夫……なはず」
「強がってるねえ」負けず嫌いの友人椛は遊びの対局でも必死に勝とうと食い下がる。
会話でも、将棋でも、とにかく椛は真っ直ぐ動く。椛はこのことに気づいているのかな? 気づいてないならこの一局も私のものだな。
「なにを! 僕の指し方ならここからでも巻き返せる!」
「かっぱっぱ! あんたの真っ直ぐすぎる打ち方、嫌いじゃないよ」
「ちぇ」
今ので気づいたかな? 椛はまだ、基盤とにらめっこしている。こりゃ時間がかかりそうだな。まあいいさ、今日は一日時間があるからとことん付き合おう。そう、私たちは暇があればいつも二人で遊んでいた。
私は河童の里の発明家。暮らしを豊かにする優れた物から人を驚かせるおもしろグッズまで、多種多様な発明をしてきた。ただ、私だけでは作れないものがある――それは刺激。
工房に籠ってばかりでは、新たな発明の思案がまとまらない。作っても作っても同じような物が出来上がってしまう。それは発明家として致命的。
悩んだ末の解決法は、外に飛び出すことだった。自然と一体になり、友人と談笑し、新たな知識や感動をその体に刻み込むこと。最初は軽い気分転換のつもりだったが、この気分転換こそが新たな発明の呼び水となることに気づいたのだ。それからは工房に籠りきりになる事なく、あちこちウロウロして日々の刺激を吸収していた。
ある日の朝、山を散策していると、川岸の巨岩――今座っている巨岩に、一人将棋を指す天狗がいた。無二の盟友となる椛との出会いだった。
一人でうんうんと唸っている椛に、よければ相手になりましょうと一局指し、次の日の対局を約束して別れた。その次の日も、また次の日も……平らな巨岩に尻のくぼみができる程、約束は今までずっと続いている。
私たちは将棋を指しながらお互いの事を語り合った。椛と語り合う中で、私は今まで知らなかった天狗たちの仕事を知る。椛は天狗の仕事、哨戒任務に誇りを持ち、私によく話してくれた。
聞けば哨戒の任務は非常に激務。肉体・精神ともに張り詰め、とてつもなく疲労が蓄積する。そのため白狼天狗たちは交代制度を導入し、まとめて休暇をとっている。他の哨戒仲間は休暇の間それぞれの享楽に興じているのだそうだ。
椛はというと、私と遊ぶのが何よりの安らぎと言っていた。私としても妙な気遣いなく本音で語り合える大切な友人と一緒に遊べるのは幸せだ。
私たちは意見を交わし合い、笑い合い、感情を共に分かち合う。
「ほい、角行いただき!」
「ぐぬう」
「……ん?」木々が揺れ、緑の葉がぱさりと落ちた。
至福の時間にふわりと降り立つ一陣の風。巨岩にカコンと下駄が鳴り、川の水音をせき止める。訪問者は風神少女、清く正しい射命丸。
「こんにちは椛さん! にとりさんも」
「やあ、文さん」
「こんにち……」
「椛さんに見せたい所があるんです、とっても綺麗な所なんですよ!」
私の挨拶を食い気味に、早速射命丸の話が始まった。前フリ無しにいきなり誘われた椛はポカンと口を開けたまま。私も口をあんぐり開けたまま、どう反応すべきか迷った。突拍子もないことが始まると思考が止まるのは、神も人も妖怪も、みんな同じだ。しかし、いつもけたたましい射命丸だが、今日はいつにもまして興奮してる。
「ぜひ一緒に見に行きましょう、なんなら今すぐ! 今日は哨戒任務お休みでしょう?」
「……確かにしばらく休みだけど、僕は今にとりと将棋をしてるんだ。またでいいだろ?」
鋭い目つきに変わった椛は、騒がしく話す射命丸を、ため息混じりの冷たい言葉でバッサリ切る。椛は間違いなく怒っている。拒絶されている射命丸も、思い通りにならなかったからか、頬を膨らませとても不満げな顔をしている。ああ、これは完全に喧嘩の雰囲気だ。
「でも、明日には見れなくなるかも……」
「じゃあ、どこなの? 僕は千里眼で見るから」
椛がイライラして言い放つ。その言葉には優しさも、思いやりも、完全に失われていた。
私は背中がじとりと濡れる。なんと気まずい雰囲気なんだ、ああ、二人共、もっと仲良く話せないのかなあ。
「……もういいです、また見れそうな日に誘いますから」
「そう、ならまた誘ってよ」
「さようなら」
なんとも居心地の悪い空気のまま、二人の会話は締めくくられた。飛び立つ射命丸の辻風がその場の空気を巻き起こし、将棋の駒を吹き飛ばす。この一局は無かったことになってしまった。
風で葉が落ちなくなった頃、再び野鳥と清流が囁きだし、巨岩と私を安心させる。
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「うっぷ、ひゅいい」雑言の板挟みに遭遇し私はとても疲弊した。心休まる一日になるはずが、とんだ誤算になったもんだ。目頭を押さえてため息をつく。
「いいのかい? あんな態度とって。射命丸は友達なんでしょ?」
「いいよ。友達って言っても子供の頃から見知った間柄程度だし」
椛は吹き飛んだ駒を集めながら、顔をしかめてぶっきらぼうに返事する。いつも乱暴な言葉使いだが、あそこまで喧嘩腰な椛は珍しい。よっぽど逆鱗に触れたんだろうか、椛の逆鱗がよくわからない。
「またまた、そんなこと言って。はたてちゃんの新聞見たよ。椛と仲直りできただけであんなにボロ泣きだったんだから、少しは優しくしてあげたら?」
「その話はよしてくれ」
「同じ場にいる私は、あぶら汗と冷や汗、両方かいちゃったよ~」おどけて和ませようとしたけれど、あんまり効果はないようだ。
……ああ、背中がベタベタする、後で川に飛び込もうっと。
「文さんは空気読めなさすぎるんだよ。一緒にいるのに、にとりとも挨拶しないし」
「まあ私はいいけどね、ほいっ成り飛車」私は、新たに始めた対局で、飛車の駒をぴしゃりと指す。なるほど、空気が読めないのは納得だ。文の自分勝手さは今に始まったことではない。
「だいたい、僕とにとりで真剣勝負してるのが見えないのかよって」
「雑談しながら真剣勝負も何も、あったもんじゃないでしょ?」
「え? 僕は全力なんだけど」
私の言葉に、椛は意外そうな顔でこちらを見る。私といったい何度対局してるんだ、いい加減私の指し方を憶えなさい。
「僕はこういう頭使うの苦手なんだ。もっと単純な方が得意さ」
「たしかに椛は、剣技や体術は強いけど、真正面から突っ込む感じだよね。脳筋?」
「脳筋かも。だから将棋を通じて、にとりの《ひねくれた》戦法を学んでいるのさ」
軽口を叩きあうが本当に馬鹿にしているわけではない、ちょっとしたジョークだ。会うたびに交わすから本気で怒ったことは一度もない。既知の仲だから通用する、挨拶のようなものなのだ。
射命丸にイライラしていた椛だが、軽口を言えるくらい落ち着いてきたみたいだ……なら容赦しなくてもいいな、王将が丸裸だから攻めるとするか。
「王手」
「わぁ! 待った!」
「待たない」――私はまだ、なにかが引っかかっていた。私や哨戒仲間の天狗たちには見せない態度。そこには必ず理由があるはずだ。
「……やっぱり気になるよ、あんな言い方したら」
「言い方? なんのこと?」
真剣に基盤を見ていた椛は、私の言葉に眉を上げてこちらを向く。
「射命丸のこと」
「なんだ、文さんのことか」
椛はすぐに興味を失い、ふたたび基盤に目を戻す。
「怒ると思うよ? だって『僕は千里眼で見るから』なんて言うんだもん」
「だって見れるんだもの」
「そういうことじゃなくて。せっかく遊びに誘ってくれてるんだからもう少し優しくさ……ちょっと言い方キツくないかい?」椛の機嫌がだんだんと悪くなってきた。
「それはお互い様だよ、文さんは誘い方が悪い。にとりと一緒に遊んでる時に、わざわざ邪魔をするからこうなる。にとりを優先するに決まってるじゃないか」
「そりゃあ私と遊んでくれるのは光栄だけど、射命丸が可哀想だよ」椛がこれ以上怒らないよう、恐る恐るだがたしなめる。いくら射命丸が空気を読めないといっても、邪険に扱っていいとは思わないからだ。
「にとりは優しいな……文さんは僕に色々してくれるけど、正直一緒にいてつまんない」
「ひゅい! いきなり何言い出すの」
「一緒にいて何すると思う? 何もしないんだよ! ただのおしゃべり。しかも当たり障りのないつまんない会話。子供の頃から全然変わんない」
いつもフランクに軽口を叩く友人が、こんなに怒るほど射命丸は話ベタ? 私が見知ったペチャクチャ喋る射命丸からはとても想像できない事だ。もしかしたら、椛に見せてる姿が射命丸の本当の姿なのかな?
「その点にとりは、話も面白いし、本音で喋れるし、共通の遊びもよくするし、月とすっぽんだよ」
「そ、そう? へへ、照れるなあ」椛の不意の賛辞に驚いた。なんとなく視線を合せづらくなった私は、頭をポリポリかいて照れ笑い。生意気な椛が私を褒めるなんてなかなかない。面と向かって言われると、馴れてないのでくすぐったい。
「気持ち悪い照れ方するなよな」
「なにい! コノヤロー!」ああ、やっぱり椛は生意気だ。こめかみをグリグリしてふざけあった後、ニヤニヤしながら椛は基盤に立ち向かう。王手を回避するにはまだまだ時間がかかりそうだ。私は友人が起死回生の一手を指すまで、景色を堪能することにした。
いつしか日は傾いて、水面と岩に朱を落とす。流れてきた山風は、川の湿気を帯びていた。
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「はたてぇ」 ピンポン
「はたてぇ」 ピンポン
少し前、私の家は文に激しく壊された。
不幸中の幸いか、里のはずれに一軒家が空いていたので引っ越すことに。長い間誰も住んでいなかった一軒家はあちこちガタがきていたので、にとりにリフォームを依頼した。
結果、古くてボロかった家はものすごく近代化し、前の家より住みやすくなる。先程から鳴っている《いんた~ほん》もかっぱ印の発明品。発明者にとりの説明によると、外に出なくても話ができて、画面を通して顔も見れる。さらに至れり尽くせりの機能があり、誰が訪問したか録画もできて留守中でも安心とのこと。さすが妖怪の山を代表する発明家ね、いい仕事をしてくれる。
ただ、間の抜けたこの声は、わざわざいんた~ほんの画面を見ずとも誰かわかった。
「今度は何よ」呆れた顔で扉を開けると、やはり友人の文がいた。以前の泣きそうな文と違い、その膨れた表情からは少しの憤りが感じ取れた。
「まさかまた椛のことじゃないでしょうね」訝しんで聞いてみる。
「そのまさかなの」
また、だった。なぜこうも椛と喧嘩するのだろうか、少しは学べばいいものを。
「このあいだ仲直りしたばっかりじゃない」
「そうなんですけど……なんか違うんです。友達というよりもっと下の、知り合いのレベルというか、マイナスからゼロになっただけというか……」
「はぁ」最近の文はどうしたのだろう。詮索好きで人の迷惑を顧みない小憎たらしい射命丸が、学生時代のひよこ同然になっている。悩みを相談されるのは、信頼されてると思えば悪い気はしない。が、時間を考えて欲しい。なぜいつも寝る直前に来るのだろう。
「わかったわかった、相談にのってあげるから入んなさい」寝間着姿の私はしぶしぶ迷惑な友人を招き入れた。ああ、まぶたが重い。
お茶菓子を用意しながら私は聞く。
「で、なんで友達じゃなく知り合い程度と感じたの?」
「私、新聞のネタ集めに幻想郷の端から端まで飛び回ってるでしょ? はたてと違って」
相談にのろうとしたらこれである。話聞くのやめようかなあ。
「一言余計よ。で?」
「それでネタを探しながら博麗神社をこえて太陽の畑へ足を伸ばしてみたんですよ。すると! 真夏でもないのにとても美しい花畑が広がってたのです! どうやら幽香さんが畑の一角にラベンダーを植えたようなんですが、一角といってもさすがフラワーマスター。広大なラベンダー畑を展開していて、その風光明媚は正に感動ですよ。芳しい香りと美しい風景を、ぜひとも椛さんと一緒に堪能したくなったんです。あ、いきなり部外の妖怪が現れたら迎撃されるかもしれないので当然幽香さんには相談しましたよ。幽香さんは 機嫌がいい時なら来ても構わないわ と快く許可してくれたんです。なので彼女の機嫌のいい、今しか一緒に行くチャンスはないんですよ」
「行けばいいじゃない」長話を根気よく聞き、至極当然の答えを返した。
「それができれば相談に来ませんよ! 椛さんたら、にとりさんと将棋をするのに夢中で、私の誘いにのってこないんです」
文の言い分に、私はかすかな違和感を感じた。きっと文のことだ、都合の悪いことを端折って話しているに違いない。こんなときは伝家の宝刀《姫海棠式思考術》で推理するにかぎる。
「にとりと将棋を指してたの?」
「はい」
「にとりも誘った?」
「……いいえ」
なんと!
全く、あきれて物も言えない。文の空気の読めなさは毎度のことで、パパラッチを敢行してはいつも被写体に怒られている。でも椛のことは大事に思っているんでしょ? なら少しは空気を読まなきゃ。しょうがない、今度は《姫海棠式話術》の方を使うか。
「文、あなた全然進歩しないわね」
「というと?」
「椛はにとりと遊んでた。いいわね?」
「はい」
「そこに途中から文がやってきて椛だけ連れて行こうとした」
「はい」
「『はい』じゃないわよ、おかしいでしょ。椛やにとりの身になってみなさいよ、わがまま過ぎてスカーレットのお嬢様もびっくりよ」あまりのすっとぼけに、眠気は完全にふっ飛んだ。
「だって椛さんったら、哨戒任務以外は大抵にとりさんと一緒にいて、私と二人きりになれないんですもん」
文はむくれた顔でそっぽを向く。
「別にいいじゃない。なんだったら遊び仲間に加えてもらったら? にとりのことが嫌いってわけでもないんでしょ?」
「嫌いではないけど……違うんですよ、椛さんと二人で居たいというかなんというか」
ピンときた。ピンときてしまった。
「わかった! あなた、にとりに嫉妬してるんだ!」
「嫉妬?」
『ぱるっ』
嫉妬という言葉に呼応するかのように、地面の奥深くから声が聞こえたが気のせいだろう。
「椛を独占したいんでしょ」
「違いますよ! ……多分」
反抗して咄嗟に否定していても、間違いなくこれは嫉妬だと確信した。そこまで椛の事を想っていると思わなかったけど、この想いは少々重い。文自身のためにも、今のうちに矯正していくべきかもしれない。
「話を聞いてる分には束縛したいだけとしか思えないわ」
「そ、そうなんですか」
「まだ仲直りしてからそんなに経ってないんだし、地道に仲良くなっていけばいいじゃない」
「うう……」
ビシッと結論を出したのに、まだ歯切れの悪い返事をする。眠りを邪魔されたせいもあり、さすがに少々イライラしてきた。私は痺れを切らし、文に止めの一撃をお見舞いした。
「あんまり束縛しすぎると『嫌われる』わよ」
「!」
文がカサカサとすがってきた。
「それは困ります! 前回のこともありますし、はたての言う通りにしときます……」
「その方がいいわ」日頃からこの素直さを持っていたら、こんな悩みもなかったろうに。しょげた文を不憫に思い、私は必死に頭を振り絞る。なんとか元気づけるため、漠然としたフォローをすることに。
「安心しなさい。椛の気持ちをもっと気づかえるようになったらどんどん好かれるわよ。今みたいに素直なら、より一層椛と仲良しこよしになれるわ」
「そうでしょうか……でへへ」
ちょっとおだてたらこれである。この調子じゃ、またすぐに私が相談に乗ることになるだろう。いつまでも世話の焼ける友人ね。しかし、また睡眠を邪魔されてはたまったものではない。文が調子に乗って失敗しないよう釘を刺しておこうっと。
「変な照れ方しないで頂戴。まだ好かれる程、椛のことを気づかってないでしょ」
「はい……」
再びしょげてしなびた文を見ていたら、私は良い案を閃いた。
「そうだ! なんだったらみんなで行かない? そのラベンダー畑」
「みんなって?」
「そんなに綺麗な所なら私も見に行きたいかも」
「それにみんなで行くとなったら束縛されるわけじゃないから、椛もすんなり付いてくると思うわ」
「そうか、なるほど」
文も納得したようね、よかったよかった。椛を誘うなら当然にとりも誘わなきゃ。椛と面識はないけれど、にとりはリフォームの時仲良くなったからきっと話も弾むはず。
「じゃあピクニックの用意もして行きましょ。にとりに電話してあの二人も行けるか聞いてみるね」
「はたてぇ……ありがとうございます」
耳に届いたゆるんだ声に、先ほどの憤りはもう見えない。
客間の白熱電球は、私と文を淡い光で優しく照らす。目を凝らして見てみれば、かっぱ印が付いていた。
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床に散らばるなにかの部品。設計図がそこかしこに丸められ、とても無造作に刺さってる。河童の里、にとりの工房。どの部屋も部品や機械で溢れており、客間も寝室もあったもんじゃない。
僕はそれらを避けながらにとりの用意した布団に転がり込む。あろうことか布団の中にもネジが転がり、背中にぶすりと突き刺さる。予想だにしなかった痛みに、きゃっと小さく鳴いてしまった。胸を張って言える、掃除嫌いの僕の部屋でも、この部屋よりは綺麗だと。もっともにとりはこれでも片付いてると言い張るが。
この家の主にとりは、さっきから電話で長めの談笑を交わしていた。ようやく話が終わったようで、とてとてと寝室……布団を敷いただけの工房に入ってきた。
誰と電話をしたのか聞くと、電話の相手は姫海棠。僕は彼女と会ったことはない。だけど、文さんとの握手の写真を新聞ネタにされたので、いい印象はあまりない。まあそのことは、文さんが姫海棠の家を襲撃して半壊させた事で不問にした。
ふと僕の頭に、つまらぬ疑問が顔を出す――にとりと姫海棠は仲がいい?
にとりは僕に、姫海棠との会話を話す。聞いてると、どうやら遊びの誘いらしい。
「へえ、太陽の畑にピクニックに行くのか。気持ちよさそうだね」
「椛も一緒に行こうって、はたてちゃんと射命丸が言ってたからオーケーしといたよ」
「あ、もしかして文さんが見せたい所って……」
「太陽の畑だったのかもね」
にとりが僕に微笑んだ。いつもの元気な笑顔と違い、優しく笑みをこぼしている。何だろう、ちょっとむずがゆい。
「文さんも、最初にそう言ってくれればいいのに。皆で行くなら将棋くらい中断して行ったのにね」
「ん? 真剣勝負だったんじゃなかったっけ?」
「またそんな意地悪なことを言う!」にとりは見慣れた、にやにやとふざけた笑顔をしている。僕はいつものにとりに安心して布団に倒れこみ横目でじっと見た。えくぼのできたほっぺたが、僕だけに向けられる。僕もつられて笑顔になった。
「ピクニックは明日の朝だって。はたてちゃんの家で待ち合わせなんだってさ」
「そうなんだ。なら泊めてくれたお礼に、僕がにとりのお弁当も作ってあげるよ。にとりはきゅうりのサンドイッチときゅうりの浅漬け、僕はベーコンと干し肉かな」にとりと遠出する時の、いつもの美味しいお弁当。二人でひとしきり遊んだあとの、ほどよく腹が減ったとき、二人で食べるお弁当は何物にも代え難い。
「椛のお弁当、いつもながら全く色気ないね」
不思議なことを言い出した。色気だって?
「色気なんて振りまく必要ないじゃない」
「さあ、もしかしたら必要あるかもよ?」
「え?」
「さあ早く寝よ。ピクニック、楽しみだねえ」
「うん」――色気か。いつものにとりの軽口と、ちょっと違う印象だ。けど、にとりは会話を変えたので、それ以上はうやむやに。深い意味はないのかもな、早速すやすや寝ているし。
寝息をたてるにとりの顔をとなりでのんびり見ていると、悩み事やつまらない事など遠く彼方に飛んでいく。よだれを垂らすにとりの顔を、となりでじっくり見ていると、陽気で明るく楽しい気持ちに心がたぷんと満たされる。
だんだんまぶたが落ちてきた。眠りに落ちるほんの一瞬前に、にとりのことを考えた。
にとりは素敵な夢を見てるだろうか――僕もその夢に出れるかな――
起承転結の転結がごっそりとなくなっているような印象を受けました。
とは言え、このシリーズも磨きさえすれば輝くと思うので、今後に期待します。
まずは〖・・・〗ではなく、三点リーダーを二個つなげたもの〖……〗を使ってみたら如何でしょうか。SSを書く時はこれが基本形とされます。
また他の方も言っておられる通り、草は非常に不味いです。存在してはいけません。ご注意ください。
私が思ったのはこれぐらいです。次回作を楽しみにしております。頑張ってくださいませ。
視点の統一は基本中の基本
視点(語り部)が移る際にも区切られていますので特に混乱はしませんでしたが、複数人の視点で進ませるほどのドラマ性を感じられる容量ではなく、読み終えた余韻はとても軽いものとなりました。
指摘コメントにあるように、視点の固定をされたほうがのめり込めたかなとは思います。(作中の視点や人称変化は禁止ではないです、ただし基本が掴めていなければ違和感や混乱の元となるので慣れないならばお勧めはしません)
作中気になったのが椛の一人称で、とても珍しいなと感じながら読み進めました。視点の切り替わりがほぼ登場人物分あったので、もしかしたらですが、書き分けで僕を使ったのでしょうか。違ったらごめんなさい。
思ったのは、せっかく三人の視点があるのなら、文の視点を入れて見てもよかったかな、ということです。ないことに意味があるのならすみません。
ともあれ楽しませていただきました。