Coolier - 新生・東方創想話

蓬莱の樹海に映る蛍雪の光景

2016/03/12 18:53:17
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 リグル・ナイトバグは衰弱していた。
 冬眠のための蓄えを切らしてしまい、どうにもできなかったリグルは、餌を求めに資源の豊富な竹林までやって来たが、寒さに身をやられてしまった。
 積雪した竹林で食べ物を見つけることが困難だと気づいたのは、竹林にかなり足を進めた後からだった。傾斜している土地なのに、似た光景を見せ続ける迷いの竹林の中で完全に方向感覚を失った。何時間も飛行している内に、過度の疲労でもう飛べなくなってしまい、ついに雪に倒れこんでしまった。
 純に白い雪が、残酷で、鋭い冷たさを以ってリグルの体温を奪う。熱とともに、エネルギーも消えてしまう。動くことすらままならない。
 ただ眼には白銀の世界に、何本もの竹が連なる景色が映るのみだった。
 目蓋が重い。
 自身を包む雪が、ベッドのように思えた。
 このまま凍ってしまうのだろうか……。
 ここで……。
 


 「ごらん、土の下を……」
ふと、声がした。凛とした、美しい声が響き渡る。女性の声だ。聞いたことのない声。
「もう、その土の下には春を待つ長けき子が埋められているの」くすり、と笑う声も聞こえた。
「松竹梅とかけてみたのだけど……大丈夫?あなた」
ザク、ザクと雪を踏み鳴らす音。女がリグルの前までやってきて、リグルの顔を除きこむようにする。月光が女の顔と髪をよく照らした。髪は長く、闇のように暗い、暗いけど、眩しい。その眩しさで顔はよく見えなかった。

 ___


 こんこん、と水が湧き出る音でリグルは目覚めた。清々しい良い竹の匂いが、爽やかな空気を漂っている。冬なのに、まだ凍っていない川があるのだろうか。もしかしたら、もう春なのかもしれない。なら、この川は雪解け水なのだろうか。
 リグルは何度も思考ルーチンを回している内に喉が乾いたことに気づく。音の正体である川はすぐそこにあり、水を両手で救う。水の冷たさは、あの雪の酷い冷たさとは違った。漢字で表すなら、『涼』に近い冷たさ。立ち上がり、周りを見渡す、雪は積もっていなかった。それだけではなく、気温もいくらか上がっているように感じる。しかし、それは春の気候にしてはやや不思議な感覚だ。リグルは川に沿いながら歩き続け、考える。秋だろうか、秋だとして、果たしてそこまで眠っていられるのだろうか。
 目の前を向くと、小さな灯りをたくさん見つけた。リグルが凝視すると、その小さな灯りは大体の数で百いくらかあり、それらが全て同じスピードで空中を巡回している。その小さな灯りは、蛍だった。その蛍で今が夏かもしれない事実にリグルは勘付く。リグルがどんどん奥へ進むと、百を越える蛍がついて来た。二百よりも多いように感じる、いつの間にか集まってきたのだろうか。
 歩き進め、リグルは止まった。さっき出会った彼女を見つけた。長い黒髪の彼女の横顔がアップでリグルの眼に映り込む。なんて、美しいんだろう。奥ゆかしさが極まりワイルドにも見える。眉毛の一本一本すら美しく、それでいてとても、アンバランス。そのアンバランスが見るものを不安にさせる、彼女の前で逃げることが禁忌であるかのような気がしてならない。
 リグルは意識していない間に、彼女に近寄っていた。そして、彼女より少し距離のある所で立ち止まった。それ以上踏み入ってはならないと本能的に感じた、つま先が何かの境界線上を踏んでいる。
 「おはよう」
彼女がこちらを向く。正面に向き合って、初めてリグルは彼女が何かを持っていることに気づいた。実に奇妙で奇抜な物を持っている。最初、木の枝のように見えたが、その枝の筋は黄金に光り輝き、宝石のような球の実がなっている。その実は一つ一つの色が異なっていた。
「ここまで来たあなたに、2つのテイク。片方は偽物、だけど、今から見せてあげる景色は本物」
くるり、と彼女がまわった。その時、周りに生えていた竹が切れた。折れた竹は地面に倒れこみ、残った切り株の断面が光に溢れる。その光に蛍達がつられ、二つの光が重なる。かくも幻想的な世界、その世界の中でも、やはり格別なのは彼女だとリグルは感じた。
 舞い踊る彼女、唐紅のロングスカートと黒髪が揺れる。腕の動きに桃色の服の袖がひらり、ひらりと動く。その踊りが止まる。
「竹は一年中、青々とした姿を変えない。だからとても無機物的。だけども、その内には強力な自然を内包している」
彼女が空を見上げ、リグルも空を見上げた。深い夜に月が浮かんでいた。
「竹は人と寄り添ってきた歴史がある。そう、私を育てたあの人も……」
そこで彼女の言葉が途切れた。
 奇妙な枝を彼女は手から離した。それはふわり、と空中に浮かぶ。
「竹はずっと生き続ける、地下茎が伸び、生き続ける」
竹の断面の光が増してくる、光源となり、辺りを強く照らした。
「鳥獣や虫の住処になる、そしてそれらを食べる動物が居る。幾多の生命の歴史を繰り返す」
竹に花が咲き始める、稲穂のような花で、蘇芳の色の部分から、黄色い実のような花を咲かせている。
「竹の花が不吉と呼ばれる理由は、竹自身に強大な生命エネルギー、穢れが宿るから。森とは比べ物にならないぐらいよ。きっと、海と同じぐらい」
「そう、竹林こそが……」

 「蓬莱の樹海」
 彼女がスペルカード宣言をする。悍ましいほど輝くばかりの鮮明さで溢れている弾幕だった。勢いは留めなく氾濫する川のようで、たくさんの虹を束ねたかのような見栄えだ。
 その極色彩に包まれる。
 ぐるぐると弾幕が廻る。
 だんだん分からなくなる。
 上と下が、分からない。
 右と左が、分からない。
 今と昔が、分からない。
 見事で、綺羅びやかで、麗しい。
 どうしようもなく派手で、夢のような色合い。
 夢なのかもしれない。
 夢でもいい。
 でも夢じゃなかったら、もっと良い。
 リグルはまた、意識を手放す。

 ___


 気づけばそこは、自分の住処だった。住処の中には驚くことに、盛々の食材があった。これだけあれば、冬どころか春まで過ごせるだろう、と予測できるぐらいの量だった。
 そして、その食材と一緒にある物を見つける。黒髪の彼女が持っていたあの枝だ。多色の実の内、赤い実を触ってみると、耳たぶのようなふにふにとした感触だった。その赤い実を手でちぎり、口の中に放り投げる。しばらく口の中で転がし、歯で噛む。
 よく出来た団子だった。
「あら、これは団子?」
「そうよ、鈴仙」
「もしかして、姫様が?」
「もしかしてなくても」
「へえ……って、勝手にお米、使ったんですか?冬なのに、困るなぁ」
「いいえ」
「え?」
「原料は竹の花」
「はい?」
「竹はイネ科、習わなかった?」
胡桃麺麭
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コメント



0.60簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
前半の文章が堅すぎて読むのが億劫になるうえ。後半は息切れしていない?
結局何が言いたいんだか分からない話なってるなと感じた。ごめんな。
3.60名前が無い程度の能力削除
うーん、展開の早さに置いてきぼりを食らった感が
何だか良くわからない内に話が終わってしまった印象
5.80名前が無い程度の能力削除
雅な姫様いいなぁと思いました。
冬眠の間に、リグルはまた同じ夢を見られるかしら