「間違えちゃった。私が鈴仙のママになるのです」
のっけから色々と間違っているこの人は、嫦娥様に並々ならぬ怨みを抱く仙霊、純狐さん。
何の因果か、彼女はこの鈴仙・優曇華院・イナバ、即ち私をえらく気に入ってしまったらしいのです。
「ママというのは、いわゆる母親の事ですよね?」
「勿論です。他にママがあって?」
「そりゃあ無理ですよ。だって私はもう……産まれてしまっているワケですし……」
「もう一度やり直しましょう。さあ、私の産道にお入りなさい」
どんな発想だ。正気をドブに捨てる気か。
月の都を脅かしただけの事はあって、なかなかの狂気具合と言えよう。ホント勘弁してほしい。
「わた~し~にか~え~りな~さ~い~♪」
「無理ですよそんなの……見た事も聞いた事も無いのに、出来るわけないよ!」
「来なさい鈴仙! 誰かの為じゃない! ワタシ自身の願いの為に!」
アンタの為かよ! 道理で欲望ダダ漏れだったワケだ。
ウドンゲ理解。逆から読むとまるで駄目な親父。略してマダオ。なんのこっちゃ。
「私はママなんて欲しくありませんよ。普通の友達じゃ駄目なんですか?」
「駄目よ! 一生懸命になる鈴仙は純化されたもの。夢なのです、私の! だから私の膣の中で、私のモノにおなりなさい!」
「私は誰の道具でもありません! お母さんをやりたければ、自分で子供を産んで、それでやってくださ……あっ」
いかん、ヒートアップし過ぎてえらい事を口走ってしまった。
子供を亡くしている純狐さんにとって、今のセリフは禁句中の禁句……早かったな、私の死も。
「……鈴仙?」
「ううっ、許しは請いません……殺るならひと思いにどうぞ……」
「よくぞ言ってくれました……! あの月の民達がどう考えていようと、アナタは断じて道具などでは無い! 血も汗も涙もそれ以外の液体も流す、純然たる生き物なのです!」
「えっ!? そっちですか!?」
何だか良く分からないが、純狐さんをえらく感激させてしまったようだ。
てっきり惨殺されるものと覚悟していたので、ストレスと恐怖のあまり耳がシワシワになっちゃったよ。
あと、それ以外の液体とやらもチビリそうになった。いやん恥ずかしい。
「そっちとは? 他に何かあって?」
「いえ、その……お子さんについてデリカシーの無い発言をしてしまいまして……」
「フゥーッ。この純狐ともあろう者が、そのようなつまらない事で我を失うとでも? 随分と見縊られたものですね」
「そ、そうっすか。これはとんだ失礼をば……」
「ええ、失礼だわ。失礼で、冷酷で、無慈悲で、微塵も容赦が無くて……くぅっ! 傷ついてなんかないし……純狐ちゃん全然余裕ッチだしぃ……!」
「めちゃめちゃ傷ついてるー!?」
ど、どうしよう。純狐さんがマジでヘコんでしまった。
これはきっと、後からジワジワと効いてきたんだわ。さながらボディーブローの如くに。
「あの、純狐さん?」
「大丈夫よ鈴仙……私はただ、女であり過ぎたのかもしれない……」
「えーっと、良く分かりません」
「そうね。話を元に戻すとしましょう」
おおっ、立ち直り早いな。
でも、戻すような話なんてあったっけ? 脱線しすぎて何が本題なのやらサッパリですわ。
「どこまで話したかしら……そうだわ! 鈴仙が私の股座に道具を挿入するって……」
「言ってませんよ! 二つの話が混線して、それなりに意味が通ってはいますけどね!」
「子宮まで貫き通すというのです!? なんという狂気……絶対的狂気!」
「狂気はアンタの方でしょうがっ!」
私が変なコト言ったみたいな流れにするのはやめろ。
繰り返す、私が変なコト言ったみたいな流れにするのはやめろ。
二回やられたので二回言いました。私って律儀ね。
「産む系の話と道具的な話、どちらがいいのです?」
「前者は不毛極まりないと思われますので、後者でお願いします」
「ふむ、いいでしょう。それにしても、鈴仙を道具扱いする月の民ってサイテーですね。あんな者達とは綺麗サッパリ縁を切って、私の子供になっちゃいましょうよ」
結局そういう流れになるのか! 何という無意味な選択肢だろう。
いや、まだ流れが決まってしまった訳ではない。上手いこと反論出来ればまだ助かる。マダガスカル。なんのこっちゃ。
「永琳様も輝夜様も、私のことをとても大事にしてくださっています。純狐さんに心配していただく様な事は……」
「かつて鈴仙は、鼠害に苦しむ人々を救うために尽力したそうですね。お二人もさぞかし鼻が高かった事でしょう……ちゃんと褒めて貰いましたか?」
「ごふっ……!?」
なぜ……今、その話を?
というか、何ゆえ知ってやがりますかアナタは。まあ永琳様あたりに聞いたんだろうけど。他に情報源無いし。
「アナタが紺珠の薬とやらを使用しなかった事に、賢者八意は大層ご立腹だったそうですね。無情にも永遠亭から追い出されてしまったとか」
「で、でも……あの時は輝夜様が連れ戻しに来てくださったしぃ……永琳様だってお許しになって……」
「それは単に、アナタから情報を引き出したかっただけなのでは? その時の事をもう一度よく思い出してごらんなさい」
「ウ……ウワァー! いやだいやだいやだ! 数少ない美しき思い出を、台無しにするような真似はしたくなーい!」
「フッフッフ、ようやく自分の立場に気が付いたようね」
なんということでしょう。
純狐さんは私の……いや、我々のクリティカルな弱点を熟知し、それを活かすつもりなのだ。
未だかつて経験した事の無い攻撃……離間の計とでも言うのだろうか。なまじ私に対する敵意が無いだけに恐ろしい。
「それでは更にダメージを加速させましょうか……」
「ま、まだ続くの? もうヤメテこれ以上は私の耳がストレスでマッハなんですが……」
「鈴仙が完全に音を上げるまで、この戯れが終わりを迎える事はありません。それとも……もうギブアップするのです?」
「し、しません」
「ギブアップせい!」
「イヤです!」
今、理解した。これはゲームなのだ。
私が屈服すれば純狐さんの勝ち。耐え切ったとしても、私の心には増幅された不満と不信感が残る。
いずれにせよ、彼女の優位は揺るがない。まったくフェアではないが、それがこの人のやり方なのだろう。
「強情ですね。まあ、そうでなくては張り合いが無い」
「もうやめましょうよ! 純狐さんは自分の復讐が上手く行かなかったから、私をいたぶって気晴らしをやろうとしているのでしょう!?」
「復讐を断念させた鈴仙には、私の愛に応える義務があることですね?」
「そんな理屈!」
「重要なのは理屈ではなく、心の在処なのです。現にアナタの心は、永遠亭から離れ始めている……止める術など無いと知れ!」
ああもう、好き勝手なコト言ってくれちゃって。
彼女はどうあっても私をモノにしたいらしい。言ってる事はメチャクチャだけど、方針としては一貫性が見てとれる。
……などと、暢気に考えるだけの心の余裕は出来た。そろそろ反撃に出てもいい頃だろう。
「純狐さんはとても頭のいい人だから、私の事なんてどうにでも出来るとお考えなのですね!」
「そのような考え方は、アナタを道具として扱う者がやる事です! 私は違う……鈴仙には、安心できる場所が必要なのよ……」
声を詰まらせる純狐さんに対して、罪悪感のようなモノを抱かなかったと言えば嘘になる。
僅かながらやり返せたつもりになって、調子に乗りかけている事も自覚できている。
……だが、ここで引く訳にはいかない。彼女との関係が続くにせよ、ここで終わるにせよ、いずれ衝突は避けられないのだから。
「ここが! この永遠亭こそが、私の魂の場所なんです! それを奪おうとするのは、やっちゃいけない事なんですよ!」
「では、どうしろと言うのです! 鈴仙が月の民に食い物にされる様を、指を咥えて眺めていろと言うの!?」
「受け入れてくれればいいんですよ! 今の私を、ありのままの私を! 賢くて優しい純狐さんなら、それが出来る筈でしょう!?」
知恵も力も足りない私には、他に言うべき言葉が見当たらなかった。
だが、これが正しい道であるという確信はある。少なくとも、彼女を拒絶するよりは何倍もマシであると、そう判断したのだ。
「……私は自分を受け入れました。輝夜様のペットである自分、永琳様の弟子である自分……そして、地上の兎になった自分を」
「しかし……それはナンセンスだわ! 消費されるだけの運命を甘受するなんて、断じてあってはならない事よ!」
「どう思われようと構いません。もし純狐さんが、今の私を受け入れられないと言うのであれば……私が純狐さんを受け入れます!」
純狐さんは一瞬戸惑ったような表情を見せ、それから私の方に身を乗り出してきた。
彼女が私の言葉をどのように受け止めたのかは、次の発言で明らかになるだろう。
どんな結末が待っていようとも、決して後悔などしない。私は既に、己の運命を甘受しているのだから……。
「鈴仙が……私のママになるのです?」
うひょっ!? 私がママに!?
なんでそんなコトに……ああ、元々そういう話だったっけ。いきなり話を戻されたって困るんだけどなぁ。
「駄目よそんなの……だって鈴仙は子供なのだから、私が守護(まも)ってあげないと……」
「逆に考えるんです。『私に守護ってもらえばいいや』と考えるんです。そうすれば、純狐さんだって安心できるのでしょう?」
「私が……そうか。安心できる場所を求めていたのは、私の方だったのね……」
しだれかかってきた純狐さんを、私は優しく抱きとめてやった。
流れに身を任せた結果、なんかえらい事になってしまった気がするけど、まあ今更何を言っても始まらないか。
よくよく思い返してみれば、私の人生っていつもそんな感じだったもんね。運がいいのやら悪いのやら。
「ああ……暖かいわ。鈴仙の胸の中こそ我が心の在処……魂の場所だというのです……?」
「そんな大袈裟な。純狐さんは怨む事しかやってこなかったから、ちょっと疲れちゃったんだと思いますよ」
「人の子の親であった者が、こんな風に甘える姿を晒すだなんて……笑わないで頂戴ね」
「笑いませんって。そんな事より、本当に私でいいのですか? 自分で言うのもアレですけど、私ってその……包容力に欠けるというか」
「……夢の世界で再会した時、鈴仙は私に同情してくれたでしょう? あれは嬉しかったわ。復讐する事しか知らない私を……哀れんでくれたのよ」
ああ……そんな事も言ったっけか。軽いノリで口にした言葉が、思いもよらない結果を招いてしまったものだ。
なるほど、運命が逆転するとはこういう事だったのかもしれない。サグメ様見てるか? お礼の言葉くらい寄越しやがれってんだ陰険根暗片翼ヤロー。
「……って、何をなさってるんですか純狐さんは」
「いえ……そのね? せっかく鈴仙が私のママになってくれたのだから……ねえ?」
ねえ? じゃないっつーの。
ママのスカートに手を突っ込んで、下着を引き摺り下ろそうとするとか、色々と洒落にならんでしょコレは。
どういう種類のマザーファッカーなんだって話よね。
「鈴仙の膣内(なか)に入っていくのです……そうすれば、私達は本当の意味で親子になれるのよ」
「まーだそんなコト考えてたんですかぁ? 仕方ありませんねぇ……どうぞ」
「おおッ……!」
跪く純狐さんの前で、私は立ったまま下着を足首まで下ろした。
するとどうだろう。彼女は拝むような仕草を見せた後、スカートの中に頭を突っ込んで来たではないか。
その姿は、まるで何かに怯える仔兎のよう。愛おしさすら覚えた私は、彼女の頭にそっと手を添え……思いっきり“押し付けて”やったわ!
「オラッ! オラオラッ! 入れるもんなら入ってみなさいよ! オラァッ!」
「む、むぐー!? 待って鈴仙! これムリッ! 無理無理無理無理かたつむりよッ!」
「何が無理だオラァ! 入りたいって言ったのはアンタでしょうがオラッ! 根性見せろやオラ……オラァ?」
「……!!?!?!?!??!?!?」
やっべ、本当に入っちゃったよ。
どうすんだコレ……まあいいか。純狐さんもバタバタもがいて嬉しそうだし、きっと彼女も本望だろう。
色々と受け入れた事によって、心も身体も大らかになった私なのでした。めでたしめでたし。
のっけから色々と間違っているこの人は、嫦娥様に並々ならぬ怨みを抱く仙霊、純狐さん。
何の因果か、彼女はこの鈴仙・優曇華院・イナバ、即ち私をえらく気に入ってしまったらしいのです。
「ママというのは、いわゆる母親の事ですよね?」
「勿論です。他にママがあって?」
「そりゃあ無理ですよ。だって私はもう……産まれてしまっているワケですし……」
「もう一度やり直しましょう。さあ、私の産道にお入りなさい」
どんな発想だ。正気をドブに捨てる気か。
月の都を脅かしただけの事はあって、なかなかの狂気具合と言えよう。ホント勘弁してほしい。
「わた~し~にか~え~りな~さ~い~♪」
「無理ですよそんなの……見た事も聞いた事も無いのに、出来るわけないよ!」
「来なさい鈴仙! 誰かの為じゃない! ワタシ自身の願いの為に!」
アンタの為かよ! 道理で欲望ダダ漏れだったワケだ。
ウドンゲ理解。逆から読むとまるで駄目な親父。略してマダオ。なんのこっちゃ。
「私はママなんて欲しくありませんよ。普通の友達じゃ駄目なんですか?」
「駄目よ! 一生懸命になる鈴仙は純化されたもの。夢なのです、私の! だから私の膣の中で、私のモノにおなりなさい!」
「私は誰の道具でもありません! お母さんをやりたければ、自分で子供を産んで、それでやってくださ……あっ」
いかん、ヒートアップし過ぎてえらい事を口走ってしまった。
子供を亡くしている純狐さんにとって、今のセリフは禁句中の禁句……早かったな、私の死も。
「……鈴仙?」
「ううっ、許しは請いません……殺るならひと思いにどうぞ……」
「よくぞ言ってくれました……! あの月の民達がどう考えていようと、アナタは断じて道具などでは無い! 血も汗も涙もそれ以外の液体も流す、純然たる生き物なのです!」
「えっ!? そっちですか!?」
何だか良く分からないが、純狐さんをえらく感激させてしまったようだ。
てっきり惨殺されるものと覚悟していたので、ストレスと恐怖のあまり耳がシワシワになっちゃったよ。
あと、それ以外の液体とやらもチビリそうになった。いやん恥ずかしい。
「そっちとは? 他に何かあって?」
「いえ、その……お子さんについてデリカシーの無い発言をしてしまいまして……」
「フゥーッ。この純狐ともあろう者が、そのようなつまらない事で我を失うとでも? 随分と見縊られたものですね」
「そ、そうっすか。これはとんだ失礼をば……」
「ええ、失礼だわ。失礼で、冷酷で、無慈悲で、微塵も容赦が無くて……くぅっ! 傷ついてなんかないし……純狐ちゃん全然余裕ッチだしぃ……!」
「めちゃめちゃ傷ついてるー!?」
ど、どうしよう。純狐さんがマジでヘコんでしまった。
これはきっと、後からジワジワと効いてきたんだわ。さながらボディーブローの如くに。
「あの、純狐さん?」
「大丈夫よ鈴仙……私はただ、女であり過ぎたのかもしれない……」
「えーっと、良く分かりません」
「そうね。話を元に戻すとしましょう」
おおっ、立ち直り早いな。
でも、戻すような話なんてあったっけ? 脱線しすぎて何が本題なのやらサッパリですわ。
「どこまで話したかしら……そうだわ! 鈴仙が私の股座に道具を挿入するって……」
「言ってませんよ! 二つの話が混線して、それなりに意味が通ってはいますけどね!」
「子宮まで貫き通すというのです!? なんという狂気……絶対的狂気!」
「狂気はアンタの方でしょうがっ!」
私が変なコト言ったみたいな流れにするのはやめろ。
繰り返す、私が変なコト言ったみたいな流れにするのはやめろ。
二回やられたので二回言いました。私って律儀ね。
「産む系の話と道具的な話、どちらがいいのです?」
「前者は不毛極まりないと思われますので、後者でお願いします」
「ふむ、いいでしょう。それにしても、鈴仙を道具扱いする月の民ってサイテーですね。あんな者達とは綺麗サッパリ縁を切って、私の子供になっちゃいましょうよ」
結局そういう流れになるのか! 何という無意味な選択肢だろう。
いや、まだ流れが決まってしまった訳ではない。上手いこと反論出来ればまだ助かる。マダガスカル。なんのこっちゃ。
「永琳様も輝夜様も、私のことをとても大事にしてくださっています。純狐さんに心配していただく様な事は……」
「かつて鈴仙は、鼠害に苦しむ人々を救うために尽力したそうですね。お二人もさぞかし鼻が高かった事でしょう……ちゃんと褒めて貰いましたか?」
「ごふっ……!?」
なぜ……今、その話を?
というか、何ゆえ知ってやがりますかアナタは。まあ永琳様あたりに聞いたんだろうけど。他に情報源無いし。
「アナタが紺珠の薬とやらを使用しなかった事に、賢者八意は大層ご立腹だったそうですね。無情にも永遠亭から追い出されてしまったとか」
「で、でも……あの時は輝夜様が連れ戻しに来てくださったしぃ……永琳様だってお許しになって……」
「それは単に、アナタから情報を引き出したかっただけなのでは? その時の事をもう一度よく思い出してごらんなさい」
「ウ……ウワァー! いやだいやだいやだ! 数少ない美しき思い出を、台無しにするような真似はしたくなーい!」
「フッフッフ、ようやく自分の立場に気が付いたようね」
なんということでしょう。
純狐さんは私の……いや、我々のクリティカルな弱点を熟知し、それを活かすつもりなのだ。
未だかつて経験した事の無い攻撃……離間の計とでも言うのだろうか。なまじ私に対する敵意が無いだけに恐ろしい。
「それでは更にダメージを加速させましょうか……」
「ま、まだ続くの? もうヤメテこれ以上は私の耳がストレスでマッハなんですが……」
「鈴仙が完全に音を上げるまで、この戯れが終わりを迎える事はありません。それとも……もうギブアップするのです?」
「し、しません」
「ギブアップせい!」
「イヤです!」
今、理解した。これはゲームなのだ。
私が屈服すれば純狐さんの勝ち。耐え切ったとしても、私の心には増幅された不満と不信感が残る。
いずれにせよ、彼女の優位は揺るがない。まったくフェアではないが、それがこの人のやり方なのだろう。
「強情ですね。まあ、そうでなくては張り合いが無い」
「もうやめましょうよ! 純狐さんは自分の復讐が上手く行かなかったから、私をいたぶって気晴らしをやろうとしているのでしょう!?」
「復讐を断念させた鈴仙には、私の愛に応える義務があることですね?」
「そんな理屈!」
「重要なのは理屈ではなく、心の在処なのです。現にアナタの心は、永遠亭から離れ始めている……止める術など無いと知れ!」
ああもう、好き勝手なコト言ってくれちゃって。
彼女はどうあっても私をモノにしたいらしい。言ってる事はメチャクチャだけど、方針としては一貫性が見てとれる。
……などと、暢気に考えるだけの心の余裕は出来た。そろそろ反撃に出てもいい頃だろう。
「純狐さんはとても頭のいい人だから、私の事なんてどうにでも出来るとお考えなのですね!」
「そのような考え方は、アナタを道具として扱う者がやる事です! 私は違う……鈴仙には、安心できる場所が必要なのよ……」
声を詰まらせる純狐さんに対して、罪悪感のようなモノを抱かなかったと言えば嘘になる。
僅かながらやり返せたつもりになって、調子に乗りかけている事も自覚できている。
……だが、ここで引く訳にはいかない。彼女との関係が続くにせよ、ここで終わるにせよ、いずれ衝突は避けられないのだから。
「ここが! この永遠亭こそが、私の魂の場所なんです! それを奪おうとするのは、やっちゃいけない事なんですよ!」
「では、どうしろと言うのです! 鈴仙が月の民に食い物にされる様を、指を咥えて眺めていろと言うの!?」
「受け入れてくれればいいんですよ! 今の私を、ありのままの私を! 賢くて優しい純狐さんなら、それが出来る筈でしょう!?」
知恵も力も足りない私には、他に言うべき言葉が見当たらなかった。
だが、これが正しい道であるという確信はある。少なくとも、彼女を拒絶するよりは何倍もマシであると、そう判断したのだ。
「……私は自分を受け入れました。輝夜様のペットである自分、永琳様の弟子である自分……そして、地上の兎になった自分を」
「しかし……それはナンセンスだわ! 消費されるだけの運命を甘受するなんて、断じてあってはならない事よ!」
「どう思われようと構いません。もし純狐さんが、今の私を受け入れられないと言うのであれば……私が純狐さんを受け入れます!」
純狐さんは一瞬戸惑ったような表情を見せ、それから私の方に身を乗り出してきた。
彼女が私の言葉をどのように受け止めたのかは、次の発言で明らかになるだろう。
どんな結末が待っていようとも、決して後悔などしない。私は既に、己の運命を甘受しているのだから……。
「鈴仙が……私のママになるのです?」
うひょっ!? 私がママに!?
なんでそんなコトに……ああ、元々そういう話だったっけ。いきなり話を戻されたって困るんだけどなぁ。
「駄目よそんなの……だって鈴仙は子供なのだから、私が守護(まも)ってあげないと……」
「逆に考えるんです。『私に守護ってもらえばいいや』と考えるんです。そうすれば、純狐さんだって安心できるのでしょう?」
「私が……そうか。安心できる場所を求めていたのは、私の方だったのね……」
しだれかかってきた純狐さんを、私は優しく抱きとめてやった。
流れに身を任せた結果、なんかえらい事になってしまった気がするけど、まあ今更何を言っても始まらないか。
よくよく思い返してみれば、私の人生っていつもそんな感じだったもんね。運がいいのやら悪いのやら。
「ああ……暖かいわ。鈴仙の胸の中こそ我が心の在処……魂の場所だというのです……?」
「そんな大袈裟な。純狐さんは怨む事しかやってこなかったから、ちょっと疲れちゃったんだと思いますよ」
「人の子の親であった者が、こんな風に甘える姿を晒すだなんて……笑わないで頂戴ね」
「笑いませんって。そんな事より、本当に私でいいのですか? 自分で言うのもアレですけど、私ってその……包容力に欠けるというか」
「……夢の世界で再会した時、鈴仙は私に同情してくれたでしょう? あれは嬉しかったわ。復讐する事しか知らない私を……哀れんでくれたのよ」
ああ……そんな事も言ったっけか。軽いノリで口にした言葉が、思いもよらない結果を招いてしまったものだ。
なるほど、運命が逆転するとはこういう事だったのかもしれない。サグメ様見てるか? お礼の言葉くらい寄越しやがれってんだ陰険根暗片翼ヤロー。
「……って、何をなさってるんですか純狐さんは」
「いえ……そのね? せっかく鈴仙が私のママになってくれたのだから……ねえ?」
ねえ? じゃないっつーの。
ママのスカートに手を突っ込んで、下着を引き摺り下ろそうとするとか、色々と洒落にならんでしょコレは。
どういう種類のマザーファッカーなんだって話よね。
「鈴仙の膣内(なか)に入っていくのです……そうすれば、私達は本当の意味で親子になれるのよ」
「まーだそんなコト考えてたんですかぁ? 仕方ありませんねぇ……どうぞ」
「おおッ……!」
跪く純狐さんの前で、私は立ったまま下着を足首まで下ろした。
するとどうだろう。彼女は拝むような仕草を見せた後、スカートの中に頭を突っ込んで来たではないか。
その姿は、まるで何かに怯える仔兎のよう。愛おしさすら覚えた私は、彼女の頭にそっと手を添え……思いっきり“押し付けて”やったわ!
「オラッ! オラオラッ! 入れるもんなら入ってみなさいよ! オラァッ!」
「む、むぐー!? 待って鈴仙! これムリッ! 無理無理無理無理かたつむりよッ!」
「何が無理だオラァ! 入りたいって言ったのはアンタでしょうがオラッ! 根性見せろやオラ……オラァ?」
「……!!?!?!?!??!?!?」
やっべ、本当に入っちゃったよ。
どうすんだコレ……まあいいか。純狐さんもバタバタもがいて嬉しそうだし、きっと彼女も本望だろう。
色々と受け入れた事によって、心も身体も大らかになった私なのでした。めでたしめでたし。
さながら酔っ払いの友人を素面で見つめてるみたいだ。
ちゃんとした医者呼んだら? が面白すぎててゐちゃんがますます好きになっちゃいそうです!
ネジの緩み切ったやり取りに笑わせていただきました。
医者というのではなく、
ちゃんとした医者というところがもうねww
はい、楽しかったですw