「~♪」
鼻歌交じりに、人ごみの中を右へ左へ、ぶつからぬ様にふらふらと歩いている一人の少女が居た。
時刻は丁度昼時、里の商店が一番賑わう時間帯だ。
しかし、少女はそれには目もくれず、ただただ目的も無く歩き回っていた。
「――――――――」
「――――――――」
客寄せの声が辺りに響いている。少女がその目の前を通る時も、その声は調子を変えない。
まるで、その少女が見えていないかの様に。
少女もまた、それが当たり前であるかの様に、否、それに対して、何も意識を働かせて居ないかの様に、歩調を変える事は無い。
少女の名は、古明地こいし。瞳を閉じたさとり妖怪。彼女が無意識のうちに動く限り、人もまた、彼女の事を意識的に捉える事は出来ない。
そんな彼女だからこそ、妖怪の身でありながら、白昼堂々と人里を闊歩して居られる。
しかしながら、そんな彼女も、辛うじて残っている意識を働かせる事もある。それは、彼女の気まぐれ――尤も、彼女の現在の行動全てが気まぐれの様な物ではあるのだが――であり、彼女自身も、何故そうしているのかは分からないのかもしれない。そして、それが無意識の内に記憶より抜け出る事も、しばしばである。
これは、そんな無意識の邂逅である。
「――――」
鈴仙・優曇華院・イナバ。彼女は、里に薬売りに来ている兎の妖怪である。今日もまた、置き薬などを訪問販売して歩いている。
今現在、彼女は、本日のノルマを終え、帰路に着こうとしている所である。
「――――」
里に薬を売る様になって久しく、この日々にも慣れた物ではあるが、やはり人と接する仕事である以上、疲れる事も多い。
訪問した先で、子供の相手をする内に被っている笠をとられそうになったり、風邪で寝込んでいる人の看病をしてやったりと、サービスの枠を少しはみ出ている様なそんな対応をしていれば、疲れも溜まって当然と言えば当然ではあるが、それすらにも、彼女は働き甲斐を感じている。
(さあ、帰って明日に備えるとしましょうか)
「ねえってば」
鈴仙が、その言葉に気付いたのは、歩き出そうと前に出した足が、少女にぶつかった時だ。
「うわあ! びっくりした!」
「貴方、此処で何してるの?」
(何? いきなり目の前に現れた?)
少女は、鈴仙が彼女を蹴りかけた事など気にも留めず、子供の様に動き回る。
「これ、何が入ってるのかしら」
「ああ、これは、薬を売っているから、薬が入っていて……」
しどろもどろになりながらも、頭を落ち着かせようとする鈴仙。よくよく見れば、その少女は、どうやら人間ではない様である。
「貴方、こんな昼間から、なんで人里を出歩いているの!?」
大声を上げてから、はっとして、鈴仙は周囲を見回した。幸いな事に、こちらに注意を向けている人間は居ない様だ。
「とにかく、こっちへ」
鈴仙は、少女の手を引き、人気の無い場所へと連れて走った。
「どうしたのかしら」
呑気そうに少女、こいしは言う。
「どうしたのじゃあ無いわよ。なんで妖怪がこんな昼間から、しかも人里を出歩いているんですか」
息を切らしながら、鈴仙は尋ねる。
「それは貴方も同じでしょう?」
「――! 私は、ほら、こうやって人間の振りをしてますけど、貴方は、何も隠そうとしていないじゃないですか」
「隠す必要が無いもの」
鈴仙は、こいしの返答に驚いた。まるで正気の返答だとは思えなかったからだ。
しかし、その真意を知る為、こいしの意識の波長を読み取ろうという試みは、失敗に終わった。
(波長が読み取れない? 何も考えていない? そんな馬鹿な事が――)
「貴方、一体何者?」
「私? 私はこいし」
「なんで人里に居たんですか?」
「いつの間にか、質問する側が変わっているね」
会話が成り立たない。何を考えているのかも分からない。
「真面目に聞いて下さい」
「動物に効く薬は無いのかしら。ペットが病気だと、お姉ちゃんも暗くなっちゃうもの」
まるで子供の様だ、としか言いようが無かった。鈴仙は、この時点で、こいしへの追及を諦めた。
(訳が分からないけど、多分、悪さをする様な妖怪じゃあ無いのかな……?)
「ねえ、動物の薬は売って無いの?」
「あーっと。今日は持って来て無いですね」
「そっかー」
対して興味が無さそうに――何事にも興味が無さそうに――こいしは呟いた。
「じゃあ、今度私の家まで持って来てよ」
「え? あ、はい。何の動物ですか?」
相変わらずこいしの事は分からないが、しかし、薬を欲するなら、とりあえずの所は客である。鈴仙は、一応話を伺ってみた。
「んー。猫とか鳥とか、いろいろ。いっぱい」
「いっぱい、ですか……」
「ええ、いっぱい。次は持って来てね」
(猫に鳥に、いっぱい……。とりあえずは犬用の薬でも師匠に調合してもらいましょうか……)
色々な種類の動物がいるというのなら、何種類もの薬を用意しなければいけない。鈴仙は、それをどう用意しようか、等と算段を立てながら、思い出した様に尋ねた。
「そう言えば、貴方の家はどこにあるんですか?」
「私の家は地霊殿だよ」
「成程、地霊殿……。え?」
聞き間違えかと思い、鈴仙はこいしに答えを聞きなおそうとした。だが、その時には、こいしはもうどこにも見当たらなかった。
「地霊殿って、地底の……?」
呟いてみたが、勿論、返って来る声も無い。
(地底……か)
とりあえず、今度時間がある時に売り込みに行ってみようかな、と鈴仙は思った。
後日、地霊殿にて、さとりがペット用の薬を大量に買わされる事となったが、それはまた、別の話。
鼻歌交じりに、人ごみの中を右へ左へ、ぶつからぬ様にふらふらと歩いている一人の少女が居た。
時刻は丁度昼時、里の商店が一番賑わう時間帯だ。
しかし、少女はそれには目もくれず、ただただ目的も無く歩き回っていた。
「――――――――」
「――――――――」
客寄せの声が辺りに響いている。少女がその目の前を通る時も、その声は調子を変えない。
まるで、その少女が見えていないかの様に。
少女もまた、それが当たり前であるかの様に、否、それに対して、何も意識を働かせて居ないかの様に、歩調を変える事は無い。
少女の名は、古明地こいし。瞳を閉じたさとり妖怪。彼女が無意識のうちに動く限り、人もまた、彼女の事を意識的に捉える事は出来ない。
そんな彼女だからこそ、妖怪の身でありながら、白昼堂々と人里を闊歩して居られる。
しかしながら、そんな彼女も、辛うじて残っている意識を働かせる事もある。それは、彼女の気まぐれ――尤も、彼女の現在の行動全てが気まぐれの様な物ではあるのだが――であり、彼女自身も、何故そうしているのかは分からないのかもしれない。そして、それが無意識の内に記憶より抜け出る事も、しばしばである。
これは、そんな無意識の邂逅である。
「――――」
鈴仙・優曇華院・イナバ。彼女は、里に薬売りに来ている兎の妖怪である。今日もまた、置き薬などを訪問販売して歩いている。
今現在、彼女は、本日のノルマを終え、帰路に着こうとしている所である。
「――――」
里に薬を売る様になって久しく、この日々にも慣れた物ではあるが、やはり人と接する仕事である以上、疲れる事も多い。
訪問した先で、子供の相手をする内に被っている笠をとられそうになったり、風邪で寝込んでいる人の看病をしてやったりと、サービスの枠を少しはみ出ている様なそんな対応をしていれば、疲れも溜まって当然と言えば当然ではあるが、それすらにも、彼女は働き甲斐を感じている。
(さあ、帰って明日に備えるとしましょうか)
「ねえってば」
鈴仙が、その言葉に気付いたのは、歩き出そうと前に出した足が、少女にぶつかった時だ。
「うわあ! びっくりした!」
「貴方、此処で何してるの?」
(何? いきなり目の前に現れた?)
少女は、鈴仙が彼女を蹴りかけた事など気にも留めず、子供の様に動き回る。
「これ、何が入ってるのかしら」
「ああ、これは、薬を売っているから、薬が入っていて……」
しどろもどろになりながらも、頭を落ち着かせようとする鈴仙。よくよく見れば、その少女は、どうやら人間ではない様である。
「貴方、こんな昼間から、なんで人里を出歩いているの!?」
大声を上げてから、はっとして、鈴仙は周囲を見回した。幸いな事に、こちらに注意を向けている人間は居ない様だ。
「とにかく、こっちへ」
鈴仙は、少女の手を引き、人気の無い場所へと連れて走った。
「どうしたのかしら」
呑気そうに少女、こいしは言う。
「どうしたのじゃあ無いわよ。なんで妖怪がこんな昼間から、しかも人里を出歩いているんですか」
息を切らしながら、鈴仙は尋ねる。
「それは貴方も同じでしょう?」
「――! 私は、ほら、こうやって人間の振りをしてますけど、貴方は、何も隠そうとしていないじゃないですか」
「隠す必要が無いもの」
鈴仙は、こいしの返答に驚いた。まるで正気の返答だとは思えなかったからだ。
しかし、その真意を知る為、こいしの意識の波長を読み取ろうという試みは、失敗に終わった。
(波長が読み取れない? 何も考えていない? そんな馬鹿な事が――)
「貴方、一体何者?」
「私? 私はこいし」
「なんで人里に居たんですか?」
「いつの間にか、質問する側が変わっているね」
会話が成り立たない。何を考えているのかも分からない。
「真面目に聞いて下さい」
「動物に効く薬は無いのかしら。ペットが病気だと、お姉ちゃんも暗くなっちゃうもの」
まるで子供の様だ、としか言いようが無かった。鈴仙は、この時点で、こいしへの追及を諦めた。
(訳が分からないけど、多分、悪さをする様な妖怪じゃあ無いのかな……?)
「ねえ、動物の薬は売って無いの?」
「あーっと。今日は持って来て無いですね」
「そっかー」
対して興味が無さそうに――何事にも興味が無さそうに――こいしは呟いた。
「じゃあ、今度私の家まで持って来てよ」
「え? あ、はい。何の動物ですか?」
相変わらずこいしの事は分からないが、しかし、薬を欲するなら、とりあえずの所は客である。鈴仙は、一応話を伺ってみた。
「んー。猫とか鳥とか、いろいろ。いっぱい」
「いっぱい、ですか……」
「ええ、いっぱい。次は持って来てね」
(猫に鳥に、いっぱい……。とりあえずは犬用の薬でも師匠に調合してもらいましょうか……)
色々な種類の動物がいるというのなら、何種類もの薬を用意しなければいけない。鈴仙は、それをどう用意しようか、等と算段を立てながら、思い出した様に尋ねた。
「そう言えば、貴方の家はどこにあるんですか?」
「私の家は地霊殿だよ」
「成程、地霊殿……。え?」
聞き間違えかと思い、鈴仙はこいしに答えを聞きなおそうとした。だが、その時には、こいしはもうどこにも見当たらなかった。
「地霊殿って、地底の……?」
呟いてみたが、勿論、返って来る声も無い。
(地底……か)
とりあえず、今度時間がある時に売り込みに行ってみようかな、と鈴仙は思った。
後日、地霊殿にて、さとりがペット用の薬を大量に買わされる事となったが、それはまた、別の話。
まずは起承転結のある作品作ってから投稿してほしい
もう少し、シーン毎の描写に割く情報量や密度を増やして、話の整合性や説得力をもたせられないものかな。
(地底か…)
とりあえず、今度~
で、いきなり話が飛んで、さとりが薬を大量に買わされる羽目になっちゃった、で終わるのはいくらなんでも手を抜きすぎでしょう。
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、は創想話では通用しませんよ。
期待を込めて、60点。次回作もお待ちしています。
こいしの強引な買い方が面白い
こういう会話だけ切り取った話と言うのも面白い