霧雨魔理沙は歓迎されない。
魔法の森の人形遣いの家へ行こうが。
紅い館の地下の大図書館へ行こうが。
紅白巫女の住む東の神社へ行こうが。
「あんたまた来たの?」みたいな顔と、面倒くさそうな軽いため息。
そういったものに出迎えられるのが魔理沙の常だった。
――だからこそ、彼女は警戒せざるを得ない。
そう、こんな風に満面の笑みで歓迎されると。
「ああ、魔理沙! ちょうどよかった! いいところに来たねぇ」
人里中心部より少し外れた、命蓮寺の門前。
おりしも空色の髪をたなびかせた尼僧が大きく両手を広げ、秋晴れの空を行く魔理沙を呼び止めたところである。
笑顔とは本来攻撃的なものだ、と言ったのは誰だっただろうか。
魔理沙は己を呼ばう者の顔を見て、門の上で死骸から髪の毛を毟り取る老婆のようだと思った。
実際、それは普段の雲居一輪らしからぬ、妙に胡散臭いニタニタ笑いだったのだ。
とはいえ、呼ばれて無視するのも気持ちの良いものではない。
魔理沙は降下し、寺の門前に降り立った。
「よう、一輪。どうした、今日はあの雲親父は一緒じゃないのか」
「それなんだけど、お前さん、つまらない物を集めるのが趣味だったよな?」
いきなりのご挨拶である。
確かに魔理沙は蒐集家を自認している。自宅は方々から集めてきた様々な物品で足の踏み場もないほどだ。
だが、それらは決して「つまらない物」などではない。
他者の目から見ればそのように思えるのかも知れないが、蒐集する本人は、確保するに値する物だと信じるからこそ手に取るのである。
魔理沙が蒐集家としての矜持に基づいてささやかな抗議をすると、一輪は宥めるように片手をヒラヒラと振ってきた。
「まあまあ。今回はそんなあんたに相応しい物を用意してあるんだ」
「なんだと」
「今風に言うと『れああいてむ』というやつかしら。特別に安く譲ってあげる」
そう言って、彼女は懐から何やら小さい紙片のようなものを取り出した。
魔理沙にもようやく合点がいった。つまり、一輪は自分に何かを売りつけようとしているのだ、と。
「ちょっと待てよ。どうしてそんな話になるんだ。お寺はいつから商売をするように……いや、今に始まったことじゃないか」
いかな坊主とて先立つものがなければ糊口を凌げない。宗教と金集めの関係性については、身入りの少ない賽銭箱を後生大事に抱え込む友人を見ていればよくわかる。
魔理沙の言葉に頷き、眼前の商売人はため息をついた。
「知っての通り、うちのお寺は変形するでしょ」
「空飛ぶ船にな」
聖輦船は今や遊覧船となり、月に何度か幻想郷の空を航行している。
それを見た早苗が「非想天則も空を飛ばしましょう! 空を!」と騒いでいたのは記憶に新しい。なんでも、変形はロマン、らしい。まあ、わからないでもない。
「だけど、建物を船に変えて空を飛ばすと傷みが激しいのよ」
「そりゃそうだろ」
通常の建物は空を飛ぶようには出来ていないのだ。
飛んだり着陸したりしていればどこかしらに傷はつくだろうし、鳥の糞などで汚れたりもするかも知れない。
「そこで寺の修繕費用が掛かるってわけだな。なるほど」
「うちのご本尊めいた寅が財宝を集められるから、それで賄っているところもあるんだけど」
寅丸星が言うには、こういった能力は大々的に使うものではない、とのこと。
特に、幻想郷のように土地や人びとの限られている場所で一気に財を集めようとすれば、いろいろなものが滅茶苦茶になってしまうのだとか。
「というわけなんで、こうしてあんたにもご助力を願おうかと」
「ふむ」
事情はわかった。
だが、買うと決めたわけではない。ただでさえ年々居住空間は狭まるばかりなのだ。心にトキメキを感じない物ならば、たとえ紙きれ一枚とて手に取るつもりはない。
つまらない物ならお断りだという意思を固める魔理沙に、相手は手に持った紙片を突き出してくる。
それにはこう書かれていた。
≪雲入道とおしゃべりできる券≫
「ほう……………いらないな」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
即断即決。
魔理沙によるお断りの意思表示は、しかし慌てた様子で遮られる。
「なんで? こんなレアなアイテムはそうそうないよ!」
「いやいやいや、どこがレアアイテムだよ!?」
むしろなんでこれが売れると思ったのか。
無料(ただ)でもいらないとは、こういうことをいうのだろう。
「だいたい、アレだろ? 雲入道って、いつもお前の連れてる雲山だろ? というかあいつ喋れたの?」
魔理沙は雲山が話すのを聞いたことがない。
春の宝船騒ぎの時も里の亡失異変の時も、そしてオカルトボール事件の時も、雲山は目を光らせて拳を振り回しているだけだったような気がする。超怖い。
「しゃ、喋れるわよ! ただちょっとその……シャイなだけで」
「おいおい……」
シャイな入道親父とおしゃべりできる券って、それどんな罰ゲームだよ、と魔理沙は内心で思った。気まずいってレベルじゃない。
女の子同士であっても初対面ではそれなりに気を遣うのだ。それによって今後の付き合い方や上下関係も変わってくる――みたいなドロドロしたコミュニケーションは魔理沙の好むところではないが、ともかく今まで話したことのない雲親父とやり取りするのは未知の領域と言っていい。
「だいたい、おしゃべりできる券なんて買わなくても、会った時に話せばいいじゃないか」
「わかってないねー」
チッチッチ、と指を振られた。わりと鬱陶しい。
「彼はシャイなのよ? 出会いがしらに踵を返して立ち去っちゃうに決まってるじゃない」
「そ、そうなのか」
雲山といえば、確か見越し入道ではなかったか。女の子と日常会話もできない程度の照れ屋さんで、入道なんぞやってられるのだろうか。
魔理沙の疑問は尽きなかったが、同時に、不覚にも胸の奥で好奇心が疼くのを感じた。
蒐集家の魂に火を点けるのは、いつだってほんのちょっとの好奇心なのである。
「どう? ちょっと気にならない? 親父のホ・ン・ネ」
魔理沙の内心を見透かしたかのように、彼女は≪雲入道と(中略)券≫をチラつかせてくる。その言い方が妙にいかがわしい感じなのは勘弁してほしかったが。
「ええっと、別に買うって決めたわけじゃないぜ? 決めたわけじゃないが……いくらなんだ?」
「さすがお目が高い! 一枚で一回のおしゃべりタイムに使えて、お値段はこんな感じとなっているよ」
そうして提示されたのは、一枚につき、ちょうどマッチ一箱分くらいの金額だった。
そこまで安いわけではないが、高いというほどでもない。
だからといって馬鹿正直に相手の示した値段を受け入れることもないのだ。
魔理沙は迷っている素振りを見せた。
「うーん、ちと高いなぁ」
「あら交渉のつもり? ふーん。そうね、値引きはできないけれど、いいわ。この五枚綴りの券を買ってくれるなら、一枚サービスしちゃうよ」
つまり五枚分の値段で六回のおしゃべりタイムを堪能できるというわけである。
これは実質、割引を受けられたのと同じことではないのか。
我知らず魔理沙の目が輝いた。事ここに至って、そもそも雲親父とそこまでしておしゃべりしたいのかという根本的な疑問は魔理沙の頭から完全に吹っ飛んでいた。
「よし、私も女だ! ドドンと五枚綴り、もらおうじゃないか!」
「まいどッ! はいこれ。使う時に切り離すようにして」
魔理沙はとうとう幾許かの小銭と引き換えに、≪雲入道と(中略)券≫を手に入れてしまった。しかも六枚も。
こんなことだから居間も寝室も倉庫と化しているのだという自省も、当然ながら彼女には存在しない。
「そういや雲山はどこにいるんだ?」
魔理沙はふと気になって尋ねる。
いくらおしゃべりできる権利を手に入れたからといって、肝心の相手が掴まらないのでは意味がない。
すると小銭を数えていた彼女は、寺から少し離れたところを指差した。
「あっちよ」
「寺にいるんじゃないのか」
「うちは女所帯だからねぇ。彼も何かと気を遣うだろうってんで、別の建物を拵えて、普段はそこに住んでもらうことにしているんだ」
食事時や行事などの時は一輪が呼びに行くのだという。
基本的には雲山はあまりふらふらと出歩くようなたちではないので、そこへ行けばまず間違いなく会えるだろうということのようだ。
「なるほど、確かにこの寺におっさんひとりってのもな」
魔理沙は納得し、さっそくそこへ向かうべく足を踏み出す。
その背中に声が掛けられた。
「では、ごゆっくりお楽しみを――」
◇ ◇ ◇
いくらも行かないうちに、木立に隠れるようにひっそりと小さな庵が見えた。
近づくと、戸の横に木で出来た板が貼り付けられているのがわかる。
そこには力強い筆致で「雲中白鶴庵」とあった。雲間を飛翔する鶴の優美な姿を意味する銘であり、転じて品性の優れた高尚な者を指す言葉であるのだが――
(――略して『うんち庵』か)
わりと酷いことを考えつつ、魔理沙は戸をノックした。
返事を待たずガラリと開け、中に足を踏み入れる。
「よう! 雲ざ、ん……」
でかい。
一目見て思ったのがそれであった。
さすがは見越し入道。めっちゃでかい。そう広くもない室内に、空間ごと支配するかのような入道の巨体が存在した。
「でっかいなぁ」
大きいというのは、それだけでロマンなのである。
――と以前、守矢の風祝が巨大ロボの魅力を熱弁していた。まあ、わからないでもない。
その時、こちらに気付いたらしい雲山の体躯が更に膨れ上がった。
仁王像のごとき双眸がギラリと赤く輝く。
「わわっ、待て待て! 怪しいもんじゃないぜ!」
魔理沙は慌てて先ほど手に入れた≪雲入道と(中略)券≫を取り出し、突き出した。ちなみにサービスでもらったほうの券である。
目から光線などを撃たれても困ると思っての行動だったが、券が功を奏したのか、あるいは魔理沙の言葉が通じたのか、とにかく雲山の目の輝きは薄れた。
「えっと、あはは。とりあえずこいつは――まあここにでも入れとくな」
近くにあった小さい籠の中に魔理沙は券を放り込み、雲山に向き直った。
でかい。
二目見て思ったのが、それであった。
この庵自体がさほど大きくないこともあるのか、圧迫感と威圧感が物凄い。
さすがの魔理沙も、ややたじろがずにはいられなかった。
「わ、私は魔理沙だ。霧雨魔理沙。その……知ってると思うが」
『…………』
雲山は峻厳な眼差しでこちらをぎろりと見据えたまま、一言も発さない。
彼の佇まいに、何故か魔理沙は居心地の悪いものを感じた。
誰とでも距離をぐいぐいと詰めていく彼女にしては珍しいことと言えたが、無理もない。
思えば、魔理沙が普段会って話すのは同年代もしくは同年代に見える少女等がほとんどであって、数少ない例外も優男風の古道具屋である。
このような厳つい雲親父と話す機会なんてそうそうあるものではなかったのだ。
会話の切り口が思い浮かばず、引き出しも乏しかった。
「…………」
『…………』
黙ってしまってはいけないと思いつつも何を話したものかわからず、魔理沙の頬を冷や汗が伝う。
早くも魔理沙は先ほどまでの自分の好奇心を後悔し始めていた。碌にやり取りをしたこともない雲親父と話そうとしてもこうなるだろうということくらいは、初めからわかっていたはずだ。
「うー、あー、ええっとだな。――えいっ!」
『…………!?』
半ば自棄になった魔理沙は、すすっと雲山に近付き、その身体に触れた。
以前から興味はあったのだ。雲入道の身体というものがどういう手触りなのか。
亡失異変やオカルトボール事件の時は、彼の振り回した拳に何度か吹っ飛ばされた覚えがあるが、一瞬の衝突では触り心地などわからない。
だが、こちらをふっ飛ばすことができるのなら、魔理沙のほうからも触れることはできるはずである。
「お――わっ!?」
触れて、撫でようとしたその瞬間、魔理沙は弾かれ、たたらを踏んだ。
雲山に振り払われたのだ。
呆気にとられて魔理沙が雲山の顔を見上げると、ふんと鼻を鳴らすような音が聞こえた。
そして。
『……ばかもん』
聞こえた。
小さいが、はっきりと魔理沙の耳にも聞こえた。
雲山の声である。初の肉声。いや雲声だろうか。
発された言葉の意味が、一拍遅れて魔理沙の頭に入ってくる。
かあっ,と。
魔理沙は頬が熱くなるのを感じた。
「な、なな、な……!」
魔理沙はわなわなと身を震わせ、両手をぎゅっと握りしめた。
頭の中がぐるぐるとして何を考えるべきかわからない。
口をぱくぱくさせ、やがて魔理沙はようやく言葉を絞り出した。
「……そうか。邪魔したな。もういいぜ。じゃあな!」
堪らない気持ちが込み上げてきて、魔理沙は踵を返し、逃げるように庵を飛び出したのだった。
◇ ◇ ◇
「くそっ、くそくそっ!!」
一目散に魔法の森の自宅へと帰ってきた魔理沙は、ベッドへ身を投げ出すようにして悪態をついた。
「なんだよ、あの言い草は……」
ぼふん、と枕を叩く。ぼふん、ぼふん。
なお、枕以外の物に八つ当たりをしようものなら、その衝撃で部屋の中にある数多のタワーが崩落することになる。必殺・セルフバベル。家主はしぬ。
「そりゃあ私だって別に愛想良く対応してもらえるって思ってたわけじゃないけど」
サービス精神満点の雲親父ともなると、それはそれで不気味である。
だが、わざわざ券を買ってまで会いに行ったのだからもう少し言い方ってものがあるだろう、と思うのだ。
魔理沙はポケットから残りの券を取り出した。五枚綴りのものだ。
≪雲入道とおしゃべりできる券≫などと書いてあるが、考えてみたら全くおしゃべりをしていない。ずっと黙りこくっていたかと思えば、最後には罵られて終わった。ちょっと意味がわからない。
「私はお客様だぞ。お客様は――」
神様だろ、と言い掛けて、具体的なドヤ顔が幾つか思い浮かんだので少し萎えた。
下手に神様と顔見知りになるとこういった不都合がある。
「はぁ……」
魔理沙は券を部屋に投げ棄てようとした。
一度放り投げてしまえば数多のガラク――貴重な蒐集品の山に埋もれ、二度と日の目を見ることもないだろう。
ものは試しと思ったが、やはり縁がなかったのだ。合う合わないということもある。相手だって木石ではない以上、仕方のないことだ。
そうして魔理沙は手を振りかぶり、
「……いや、駄目だ」
――思い直して、その手を止めた。
そう、こんなのはいつものことじゃないか。
霧雨魔理沙は歓迎されない。
魔法の森の人形遣いの家へ行こうが。
紅い館の地下の大図書館へ行こうが。
紅白巫女の住む東の神社へ行こうが。
諸手を挙げて魔理沙を歓迎する奴なんていやしない。
それでも、何度も通っているうちに、
――また来たの? ……まあ、ちょうどクッキーを焼いたところだったから。
人形遣いは肩をすくめ、
――あら魔理沙。新作の特製お紅茶があるのよ。
メイドがクールに言う傍ら、魔女は本でその顔をそっと隠し、
――あー? あんたか。やれやれ、出涸らしのお茶でいいなら出すけど。
巫女はかったるそうに腰を上げる。
そういった穏やかな変化が、彼女にはとても心地よかった。
きっとこういうことなのだろう。誰かとの距離を縮めていくというのは。
押してダメなら、もっと押せ。
霧雨魔理沙の流儀である。
「よっしゃ、見てろよ!」
ベッドの上にすっくと立ち、魔理沙は拳を天に突き上げた。
この際、あの雲親父とめっちゃ仲良くなってやる。
魔理沙の闘争心に火が点いたのだった。
◇ ◇ ◇
次の日。
魔理沙はまたしても雲中白鶴庵の前にいた。
大きく深呼吸。
意を決して、ノックする。
「よう、雲山!」
自らを鼓舞するかのごとく、勢いよく声を掛ける。
昨日と同じように雲山はそこにいた。
ぎょろり、と魔理沙のほうを睨むように見据えてくる。いかにも気難しげな親父といった風貌だ。
「まずは……こいつだな。ほい、っと」
魔理沙は慌てず騒がず五枚綴りの券を一枚ちぎると、昨日同様に小さな籠の中へ放り込んだ。
だが、それだけではない。
「へへっ、じゃーん!」
『…………!』
魔理沙が手提げ袋から取り出したのは、酒瓶だった。
里の酒屋で見繕ってきた上質な代物である。
あれから魔理沙は家で考えた。
雲山と親しくなりたいとして、自分はどうすればよかったのかと。
そこで思ったのが、お客様意識が先行するあまり失礼な態度を取っていたのでは、ということだった。
実際、相手を自分自身の立場に置き換えて想像してみればよくわかる。
事前の約束もなしにいきなり押し掛けて来られて、しかも無遠慮に触れられたらどう感じるか。
戸惑うだろうし、迷惑に思うに決まっている。
自分がやらかしたのはそういうことだったのだ。
「昨日は手土産もなく、いきなり押し掛けてすまなかった。こいつは詫びのしるしだ」
魔理沙は三角帽子を脱ぎ、頭を下げた。
相手に迷惑を掛けたらどうするか。簡単だ。誠心誠意、謝るのだ。
「ただ、あんたと話してみたかっただけなんだよ」
魔理沙は酒瓶を床に置き、杯を二つ取り出した。
片方の杯に酒を注ぎ、雲山に向かって差し出す。
『…………』
雲山は無言だった。
“うん”とも“ざん”とも言わない。
魔理沙は差し出した杯が微かに震えるのを感じた。
これで駄目だったとしても、もう一度出直すくらいの気力はある。
だが、キツいものはキツい。
いざとなれば一輪に仲介してもらうしかないか、などと魔理沙が考え始めた時。
雲山はゆっくりと手を伸ばし、杯を受け取った。
そして、くいっとそれを干す。
「……おー」
いい呑みっぷりじゃないか。
安堵と共にそんなことを魔理沙が思っていると、今度は雲山が酒瓶を手に取った。
そのまま腕を伸ばし、もう一つの杯に酒を注いでくる。
「あ……」
雲山の厳めしそうな顔つきは一切変わっていない。
だが、わざわざ魔理沙の側にある杯に酒を注いでくれたというのは、そういうことなのだろう。
「頂くぜ」
魔理沙も杯を取ると、一気に酒を呑み干す。これぞ乾杯である。
タン、と杯を置き、魔理沙は雲山を見上げ、ニヤリと笑った。
雲山の表情も先ほどまでと比べ、心なしか少し緩んでいるような気がした。
――共に酒を酌み交わせる相手に、悪いヤツなどいるものか。
いつかの夜、神社の宴会で酔いどれ小鬼はそんなことを言っていた。
常日頃はへらへらとだらしなく笑っているようなその顔が、その時だけは妙に真剣な面持ちだった。いっそ悲しげにすら見えるほどに。
魔理沙もその考え方には異論がなかった。
ゆえに、この幻想郷で誰かに何かを持って行くとすれば、兎にも角にも酒なのだ。
「――でさ、私はそこで言ってやったわけだ。『私は霧雨魔理沙だ。本物の魔法使いだ』ってな」
『…………』
それから、魔理沙と雲山は互いに酒を注ぎ合いながら話に興じた。
といっても、話していたのは魔理沙ばかりで、雲山は黙って酒を呑んでいるだけだったのだが。
ただ、魔理沙にとってそれは新鮮な体験でもあった。
普段話すような相手は、魔理沙が何かを言えばまぜっ返してくるか、皮肉を言うか、蘊蓄を被せてくるか、そうでなければ聞き流してくるかするばかりで、黙ってこちらの話に耳を傾けてくれるような者は希少なのである。
その点、雲山は確かに沈黙を保っていはするけれども、ちゃんと聴いていてくれるんだなということは微かな仕草から伝わってきた。
「――と、酒もなくなってしまったか」
話の合間に何気なく酒を注ごうとした魔理沙は、滴しか落ちてこないのに気付いた。
思ったより夢中になって話していたようだ。
聴き手が真っ当であればこんなにも話しやすいのか、と魔理沙は思う。自分が聴き手だった場合の態度については、思いっきり棚のうえに上げているのだが。
「あんまり長居しても迷惑だろうし、今回はこの辺で失礼するぜ。じゃあな!」
『…………』
魔理沙は勢いよく立ち上がり、帽子を被り直すと雲山の庵を後にした。
その足取りは、昨日とは打って変わって軽いものだった。
◆ ◆ ◆
「雲山、そろそろお夕飯の時間よ――ってうわ、般若湯くさっ!」
「貴方、昼間っから呑んでたの? 駄目じゃないの」
「えっ? いろいろと事情があった? 言い訳してもだーめ!」
「聖様にバレたら悲しませちゃうじゃない。こういうのは気付かれないようにやらないと」
「とにかく今度からは気をつけてよ! まったくもう!」
◆ ◆ ◆
今日も今日とてうんち庵を訪れる魔理沙である。
あれからもう一度雲山と話したので、これで四度目だ。
この半月ほどの間に、四回。
結論から言うと、魔理沙はハマった。
ドハマりしたというほどではないが、割とクセになった。
雲山は一見すると取っ付きにくそうな頑固親父であるが、決して嫌な奴ではない。
むしろ初対面での居心地の悪ささえ乗り切れば、傍にいて心安らぐ存在ですらある。
もちろん、それを指摘したところで魔理沙は絶対に認めなかっただろうが。
「あん? 何言ってるんだよ。私は単にせっかく買った券を無駄にしたら勿体ないと思っただけだぜ」などとうそぶくに違いない。
「よう、雲山!」
魔理沙は慣れた動作で券を切り離すと、いつものように籠へと放り込んだ。
そして取り出したのは酒瓶――ではなく藤編みの手提げ籠である。
その中には様々な種類のキノコが詰め込まれていた。
「こないだ話したヤツだ。採れたてほやほやだぜ。どれもこれもちゃんと食べられるから心配しないでくれ。たぶんな!」
ビッ、と親指を立てて見せながら魔理沙は朗らかに言った。
二回目に引き続き、三回目も魔理沙は雲山にいろいろなことを話した。
魔法の森で一人暮らしをしていること、面白おかしな友人たちのこと、魔法の研究のこと。
その中で、当然ながら日々の食事の話も出てくる。すなわちキノコである。
魔法の触媒や種薬にも使用するため、魔理沙は森や山に自生する茸には精通していた。
食用茸に関しても同様で、もはやキノコマイスターと言ってよいほどであった。
多種多様な茸とそれにまつわる様々な出来事を、魔理沙はユーモアたっぷりに語ったものである。
食べると兎耳のようなものが生えてくるキノコであったり、テンションが上がって笑い上戸の者が酒を呑んだときのようになるキノコであったり、身体が一時的に巨大化してパワーアップするキノコであったり。
話していて魔理沙は、我ながらたくさんのキノコを試したものだと改めて思ったのだった。
「――で、弾幕はパワーだって言ってやったんだが、横から口を挟んで来やがって、『弾幕はブレイン』なんだとさ。誰が脳筋だってんだ、まったく」
例によって話題があちこちへ飛んだ挙句、今日はもっぱらタッグを組んで異変解決をした時の話になっていた。
「へへ,あんたもやっぱ弾幕はパワーだって思うよな?」
『…………』
力押しで突き抜けていくタイプの魔理沙としては、拳でぶん殴っていくスタイルの雲山に、そこはかとない親近感を覚える。目からビームを放つのもポイントが高い。
雲山は押し黙ったままだが、理屈ではなく通じ合っているような気がした。
「そういやタッグって言ってもいろいろあるわけなんだが」
吸血鬼とメイドのような主従関係もあれば、貸本屋と阿礼乙女のような友人同士もあり、そうかと思えば鳥獣伎楽のような趣味仲間もある。
「あんたと一輪はまたちょっと特殊な感じだよなぁ」
『…………』
趣味仲間でもないだろうし、友人同士でもなかろう。
入道と入道使いなのだから、言うなれば主従関係となるのだろうが。
「主従、って雰囲気でもないっていうか」
敢えて言うなら、そう。
「狐と猫の関係にちょっと似ている気もしないでもないが」
夫婦というのでもなく、兄妹というのでもなく。
それはまるで仲の良い、父と娘のような――。
「――んー、とにかくアレだな。一輪は何だかんだで気立ても器量もいいから、組んでて悪くないだろう。熱い性格かと思いきや、案外頭も切れるしな」
『…………』
そこで魔理沙は何気なく雲山の顔を見上げた。
「あ?」
目を逸らされた。
どことなく赤くなっているような気もする。
魔理沙は首を傾げ、ややあってピンと来た。
「もしかして、照れてるのか」
『…………』
雲山は答えないが、間違いない。
この雲親父は相方を褒められて、照れているのだ!
魔理沙は思わず噴き出しそうになった。
厳つい顔した親父が、だ。大切な相手を良く言われて恥ずかしがっている。
これを笑わずして何を笑えというのか。
「ちょ、あんた――!」
別の意味で破壊力抜群だった。
笑うのを堪えようとしたが、これは厳しい。もしかしたら以前、地底で力自慢の鬼が満面の笑みで猫に餌をやっているのを目撃した時以来の大ヒットかも知れない。
「く、くくく……ふふっ」
引きつったような笑い声を上げる魔理沙に気を悪くしたのか、雲山は完全にそっぽを向いてしまった。
『…………ばかもん』
そんな呟きに、とうとう耐え切れず魔理沙は噴き出した。盛大に笑った。笑い転げた。
「あはは、照れんな照れんな、雲親父!!」
雲山が拳を振り上げたので、魔理沙はとっとと退散することにした。
十分楽しめたし、意外なものも見られたので収穫はたっぷりだ。
「じゃあ、またな!」
そう言い置いて、魔理沙はスタコラサッサと立ち去ったのだった。
◆ ◆ ◆
「お夕飯できたって、雲山――あら、茸じゃないの。こんなにたくさん」
「明日の朝ご飯は茸料理にしようかしら」
「え? 食べても大丈夫かちゃんと確認しろって?」
「何よ、そんな不安そうな顔して。毒茸じゃないなら大丈夫でしょ、たぶん」
「わかったわかった。もう、雲山ったら心配性なんだから。気を付けるわよ」
◆ ◆ ◆
ちらちらと粉雪の舞う時期である。
「よう、邪魔するぜ」
やや乱暴にうんち庵の戸が開かれ、魔理沙が入ってくる。
雲山は相も変わらず黙ったままだったが、やって来た少女の様子の違いには気付いたようだった。
魔理沙は券を乱暴に引きちぎり、例によって籠へと放り込んだ。
そしてドカリと床に腰を下ろす。
帽子を脱ぎ捨て、わしゃわしゃと頭を掻いた。
「あー、すまんな。ちょっと誰かと話したくなってさ」
いかにも機嫌悪そうな様子であり、声にも苛立ちが含まれていた。
だが、それは目の前の雲入道へ向けられたものではない。
「なんて言うか、その、な。……喧嘩したんだ」
『…………』
物問いたげな視線に、魔理沙はもう一度髪の毛をわしゃわしゃとやる。
そうして、つい先ほどの出来事を話し始めた。
魔法の森にはお隣さんがいる。
友人でありライバルであり、同業者でもある人形遣いだ。
魔理沙は時々彼女の家へ遊びに行く。
今日の午前中もそうだった。
魔理沙が出向くと、彼女は作業部屋にいた。
どうやら人形の服を用意するらしい。
正確には、人形の服の生地を用意する、だったか。
作業机の上には様々な大きさの白い布と、ガラス瓶があった。
ガラス瓶の中には色とりどりのいろいろな色。
彼女が言うには、染料だとのこと。
これらで白い布を染め上げるわけだ。
色もまた三精、四季、五行を通じ、万物を表す。
それは礼義であり、品位であり、位階であり、洒落であり、魔術である。
人形遣いにとって人形はただの玩具ではなく、魔道具だ。
ゆえに、着せる服の色味にもこだわり抜くということなのだろう。
魔理沙は彼女のセンスに感心し、ガラス瓶を見て回った。
気を付けてよという声が飛んできたが、大丈夫だと慢心していた。
だからだろう。振り向いた弾みに、一つの瓶を引っ掛けて落としてしまったのは。
ガラス瓶は床に落ち、染料は零れ散ってしまった。
――あっ……ごめ――
――ああああッ!! だから言ったじゃない! どうしてくれるのよッ!!
その染料はとりわけ高価なものだったらしい。
高価とは、ただ値段が高いということではなく、魔術の世界では別種の意味を有する。
すなわち、希少だということだ。
――いや、その……
――この「青」はもう今の時期じゃほぼ手に入らないのよ!! ああもう……!
希少だから高値になるが、金銭を支払えば確実に入手できるというものでもない。
取り返しがつかないものもたくさん存在する。
魔理沙にもわかってはいた。そんな貴重品で溢れる作業室に立ち入らせてくれた理由。
それは彼女がそれなりに自分を信頼してくれている証なのだということを。
――ほんッと最悪! どうするのこれ! また来年まで待たなきゃならないなんて……!
――あの、ちょっと待ってく
――あんたなんか入れなきゃよかった! この馬鹿!!
――んだと、おい……!
「……そりゃあ私だって悪かったさ。だけど言い方ってものがあるだろうよ」
魔理沙は雲山に向かってというよりは、半ば独り言のように呟いた。
そうだ。最初は魔理沙にも謝りたいという気持ちはあったのだ。
だが、言い出す前に相手が激高し、怒鳴り声を浴びせ掛けてきた。
「だから売り言葉に買い言葉みたいになって、つい言っちまったんだ」
――うるさい! それくらいで騒ぐんじゃないぜ!!
怒鳴り返した瞬間、まずいと思った。
彼女の顔は真っ青になっていた。
――へっ! その顔の青さで布でも何でも染めりゃいいだろ!
事態が深刻になればなるほど茶化して余裕ぶろうとする。
それは時に魔理沙の長所であったが、同時に致命的な短所でもあった。
相手は両目に涙を溜め、殴り掛かってきた。
日頃、常に余裕を持って優雅たれと説いていた彼女がだ。
「どうにもならなくなって、私はそのまま飛んで帰って来たんだ」
そこまで話し終え、魔理沙は大きくため息をついた。
親指の爪を噛む。
「ほら、なんて言うのかな。付き合っていりゃお互い好ましいところもあれば、嫌なところだって出てくるだろう。そういうのって、それこそお互い様じゃないのか?」
『…………』
「今回だって、そりゃあ悪いことをしたが、突き詰めれば単なる染料の話だ。二度と手に入らないってわけでもないし」
『…………』
「そんなことくらいであんなに怒るこたぁ――だッ!?」
目から火が飛んだかと思った。
魔理沙は頭を押さえる。混乱し、そして理解が追いつく。
頭を殴られたのだ。
誰に? 目の前の、雲親父にだ。
魔理沙は反射的に顔を上げ、雲山を睨みつけようとして、
『馬ッ鹿もぉぉンンン!!!』
ギャアギャアと鳥が鳴きながら庵の周囲を飛び立っていく。
ビリビリと全身に振動が来た。
凄まじい怒声だった。
「ひうっ……」
魔理沙は竦み上がった。
雲山は双眼を爛々と輝かせ、全身を膨らませていた。
歯は剥き出しになり、巨大な拳が震えている。
今にも再び殴り掛からんとする勢いだ。
「あわ、あわわわわ」
腰を抜かしかけたが、何とか魔理沙は立ち上がり、わき目も振らず転げるようにして庵を出ていったのだった。
◆ ◆ ◆
「雲山、ご飯よ――ってどうしたの?」
「いや、何かしょんぼりしているように見えたから……」
「何でもないって? それならいいんだけど」
「ねぇ雲山。辛いことや嫌なことがあったら相談してね」
「うん。話せないなら無理に聞こうとは思わないけどさ、いつでも聞くから、ね?」
◆ ◆ ◆
それからしばらく経った日のこと。
うんち庵の戸が遠慮がちにノックされ、魔理沙がひょっこりと顔を見せた。
しばらくの間そこで躊躇うように佇んでいたが、やがて口元をきゅっと引き締め、中に入っていく。
最後の一枚となった券を籠に入れ、魔理沙は帽子を脱いだ。
そして口を開く。
「……謝ってきた」
『…………』
雲山の視線に応えるように魔理沙は顔を上げ、真っ直ぐな目で雲山を見据える。
「あれから必死こいて染料の素となる材料を探し回って、集めて、あいつんとこへ持って行った」
それによって魔理沙の与えた損害が全て回復されたわけではない。
だが、幸いなことに誠意は伝わったようだった。
相手だって素人ではない。本格的な冬も近付いてきた今の時期、必要な素材を新たに集めることがどれほどの労力を伴うものか、理解できたからだ。
「私は馬鹿だったよ。あんたの言った通りだ」
魔理沙は頷きながら言う。
染料の瓶を落としたからではない。自分は危うく、もっと大切なものを裏切り、踏みにじるところだったのだ。
「また一頻り文句は言われたけどな。でも、ほら」
魔理沙は小さな袋を取り出した。
透明な袋の中には丸く茶色いものが幾つか入っているようであった。
「クッキーだ。まあ、洋風せんべいみたいなもんだな」
彼女は魔理沙に文句を言って、文句を言って、文句を言って――素材を受け取って一度家の中に引っ込み、この小袋を持って出てきたのだ。
そうして素っ気なく差し出された、可愛らしいリボンで口の結ばれたクッキー袋を見た瞬間、魔理沙は自分の愚かさを心底思い知った。
一時の感情に任せ、自分が何を手放そうとしていたのかということを。
「あいつの気持ちだから一枚だけは頂いたが……本来なら私にゃこれを食べる資格がない」
魔理沙は小さなその袋を差し出す。
「あんたにやる。受け取ってくれないか」
『…………』
ふぅ、と。
雲山が小さく息を吐いたような気がした。
そして太く大きな腕がにゅうっと伸び、クッキー袋をつまみあげた。
「すまん。ありがとな」
魔理沙は気恥ずかしさのようなものを感じ、帽子を目深に被り直す。
一言別れの挨拶をすると身を翻し、庵を出て行った。
◇ ◇ ◇
晴れた空に、舞うは白雪。
庵を辞した魔理沙の気持ちと足取りは、かなり軽くなっていた。
このまま帰宅してもいいんだが、と魔理沙は箒を軽く振る。
最後の券を使ってしまった。どうしたものか。
そんなことを思いながら歩いていると声を掛けられた。
「ああ、魔理沙! ちょうどよかった!」
「んん?」
少し離れた命蓮寺の門前に、手を振る人影。
いつかのように空色の髪をなびかせた尼僧の姿があった。
「おお、一輪じゃないか」
魔理沙は駆け寄る。こちらとしてもちょうどいいタイミングだった。
彼女は例のごとく笑みを浮かべ、魔理沙に尋ねてくる。
「その後、あの雲入道とはどう?」
「ぼちぼちだな。ところで、あー、その、なんだ。追加で券を買ってやってもいいぜ」
「ほう……?」
しげしげと、何か面白いものを見るような顔つきで彼女は覗き込んでくる。
それを魔理沙は追い払うように手を振ると、相手を軽く睨んだ。
「なんだよ。何か文句でもあるのか」
「いや、そんなことはない。だがお前さん、もう券は全部使っちまったのかい」
「まあな。……そんなことより売るのか、売らんのか」
詮索をされたい気分でもなかったので少し強めの口調で問うと、相手はニィッと口の両端を吊り上げるようにして笑う。
「もちろんいいが、そうさな、一つ条件を出そう」
「条件だと?」
思わず警戒する魔理沙だったが、相手は真面目くさった顔つきになり、指を立てる。
「こいつはあんたのためでもあり、私のためでもある」
「な、なんなんだ?」
「この券のことは他言無用」
「なんで……ははぁ、なるほど」
魔理沙は一瞬疑問に思ったが、相手の意味ありげな目配せで察した。
つまり、これはきっと彼女なりの小遣い稼ぎなのだ。
以前は寺の修繕費とかなんとか言っていたような覚えがあるが、それは単なる口実で、おそらく支払った銭は、全部か一部かは知らないが呑み代にでも消えるのだろう。
そういえば前に阿求の声掛けで宗教三者鼎談をやった時、命蓮寺の連中が白蓮の及び知らぬところで割と好き勝手やっているとの目撃情報が出てきていた。
それならおおっぴらに知られたくないのも頷ける。
「そういうことなら了解だぜ」
「あと、他の場所で券の話を出すのも止めておいてもらえるかね。私が相手でも」
「ブツのやり取りはこの寺の門前だけで、ってことだな」
ハッパや粉の売買ではないが,なんか怪しげな取引みたいで,ちょっとドキドキする。
秘密の取引はロマンである。
例によって守矢の風祝が,活動写真を引き合いに出しながら熱く語っていた。まあ,わからないでもない。
「それじゃ,何枚頂こうかな」
「ふむ,それなんだけど,今回売れるのは……十枚までね」
「あん? なんでだよ。使用期限でもあるってのか」
魔理沙としては,あまり何度も一輪から券を買い付けるのも手間だし,なんとなく抵抗があるので,できれば纏めて手に入れたいところであった。
彼女は肩をすくめて言う。
「あんまりたくさん売ると,彼にも負担が掛かるからねぇ」
「むぅ」
雲山の事情を引き合いに出されると,魔理沙としても引き下がるしかなかった。
とはいえ,黙って引き下がるだけの魔理沙ではない。すぐさま攻めに転じる。
「だが,前に買った時は五枚綴りで一枚サービスだったよな? 十枚買うんなら,相応の見返りがあってもいいんじゃないか」
「あれは初回限定サービスだから,今回は特にないな」
「こっちはお得意様だぞ,お得意様!」
二回目でお得意様も何もあったものではないが,魔理沙は押してみた。
交渉というものは強気で臨んだ者勝ちというところがある。
事実,ほどなくして交渉相手は再び肩をすくめた。
「……やれやれ,仕方ないねぇ。一枚サービスを」
「二枚だ。五枚で一枚なんだからな」
「わかったわかった。二枚やるよ!」
隠しきれない苦笑を含んだ声で,お手上げのポーズを取られる。
魔理沙は小銭と引き換えに,全部で十二枚の券を受け取った。
「それにしても,お前さんがそんなに奴を気に入ったとはね」
「ぼちぼちだぜ」
「売った私が言うのも何だけど,別に券を買わなくても,もう話してくれるんじゃないかな」
「……寺の修繕費が入用なんだろ? とりあえず私は帰るぜ。じゃあな」
そこで会話を切り上げ,魔理沙は箒に乗って飛び上がる。
少々強引だとも思ったが,仕方がない。
今更新たに券を買わなくても,たぶん雲山は自分と話してはくれるだろう。
いや,話してくれるというか,黙って聴いてくれると言った方がいいか。
いずれにせよ,それなら敢えて金を払う必要もない。
だが,魔理沙は券を買った。
どうしてなのかは,自分でもわからなかった。
◇ ◇ ◇
それから本格的な冬が到来し,雪かきに追われたり鍋パーティーをしたりしているうちに,年が明けた。
そこからは春まで一息である。
いつかのように春度を持って行かれるということもなく,日差しが次第に穏やかになり,吐く息も白くならなくなっていった。
魔理沙もたまに雪ウサギを拵えて持って行ったり,フキノトウを摘んで持って行ったりと,ちょくちょく雲山と話をしに行っていた。
雲山はその都度,面倒くさそうにではなく,さりとて大歓迎という様子でもなく,魔理沙を出迎えた。
変わったのは以前より酒を呑むペースがゆっくりとなったくらいであろうか。
人形遣いとでも,魔女とでも,巫女とでも,あるいは古道具屋とでもない独特の間合いの会話を,魔理沙は味わうようにして愉しんだ。
時には馬鹿話を,時には愚痴を,時には研究の仮説を,魔理沙は大いに語った。
一人で家にいても,魔理沙は考えや思いを口に出すことにしている。
そうすることで,考えの筋道や気持ちを整理することができるからだ。
だが,黙ってそれを聴いてくれる者がいるというのは,単に虚空へ向けて声を発するという以上の意味があるのだと魔理沙は知った。
雪がなくなり,桜が舞う季節となり,やがてはそれも過ぎていく。
一人で研究をし,たまに同業者と語らい,そして宴会を開き,そうしてゆく中でたまに雲入道とのおしゃべりもする。
そんな何不自由なく平穏な日々が続くと魔理沙は信じていたし,それは概ね正しかった。
だが,水が流れるように。雲は行くように。
変わらないものなどないのだと。
自由であるというのが,何を見ないことで成り立っているのかということを。
――魔理沙は思い知ることになる。
◇ ◇ ◇
遠雷が鳴り響いていた。
季節は初夏。天気の曇りやすい時分でもある。
その日は朝から暗鬱な天気だったが,いよいよ崩れ始めたのかも知れない。
雲中白鶴庵の戸が,ノックと共に開かれた。
ノックから間をおかずに戸を開く,せっかちな来訪者を,庵の主は一人だけ知っていた。
それだけ彼女との時間を積み重ねてきたからである。
だからすぐに気付いた。
その様子が,いつもと明らかに異なっていることを。
霧雨魔理沙は,庵に足を踏み入れた。
その足取りは重く,力ないものだった。弱弱しい手つきで,残り三枚となった券をちぎり,籠へと入れる。
「…………」
いつもなら快活な挨拶が発せられるところだが,魔理沙は黙したまま語らない。
その顔色は悪く,目の下にはうっすらとくまができていた。
うなだれて,憔悴したような顔をして,視線をふらふらと彷徨わせていた。
重苦しい沈黙がどれだけ続いただろうか。
ようやく,魔理沙は口を開いた。
「親父が,危篤らしい」
ぽつりと出てきた声は掠れていて,魔理沙はそんな自分に驚いたような顔で薄く笑う。
何かを誤魔化すような曖昧な微笑は,しかしすぐに消えた。
魔理沙は再び俯く。
「私は,私は……どうすればいいんだろう」
親父,というのは,魔理沙の実父であろう。
雲山も前に聞いたことがあった。魔理沙のような少女が,一人で魔法の森の中に暮らしている理由。
人里で店を営んでいる霧雨の実家から,魔理沙は飛び出してきて今に至るという。
そうなった経緯を魔理沙は詳細には語らなかったが,父親との確執が原因らしい。
一人暮らしとはいっても,数日や数カ月のことではなく,長年にわたる。
彼女が野草や果物や茸に通じているのも,相応の期間,自分だけで生きて行かねばならなかったからだろう。
こんなことは珍しくないさ,とあの時魔理沙は笑ったが,この幻想郷で人里を離れて暮らすことの意味を,よもや彼女も,彼女の父親も,理解していなかったとは言うまい。
彼女が一人で暮らしていた年月が,そのまま彼女と父親との確執の根深さを物語っていた。
「あんな親父,どうにかなったところで,私には関係ない」
魔理沙は,努めて平静にしているかのような声音で言った。
帽子のつばに隠れて,俯いたままの彼女の表情は雲山から見えない。
「だけど……私は,なんだろう……」
唸るように低く重い,雷の音。
先ほどよりも更に近付いてきているようだった。
じきに雨が降るのだろう。
昨日のことだ。
馴染みの古道具屋の店主が魔理沙の家を訪れた。
彼の店と魔理沙の家とは,そう離れているわけではない。
だが,彼がやって来るのは珍しいことだった。
驚きつつ出迎える魔理沙に,彼は真面目な,どこか切実な顔で短く言った。
――親父さんが,危篤だ。
冗談だろ,とかわす魔理沙に,彼はなおも言い募る。
――嘘じゃない。しばらく前から夏風邪にやられたらしく,体調を崩していたんだ。
魔理沙も,彼がそんなつまらない嘘を吐くような者でないことは承知していた。
それに,そのような冗談を言うためにわざわざ店を空けて来ることはするまい。
何と言葉を返したものか魔理沙が詰まっているうちに,彼は続けた。
――医者の見立てでは,ここ二,三日がヤマらしい。
ずいぶんと急な話だ。
療養所へ運ぶだけでも体力が奪われるので,自宅で安静にしているという。
外の世界には,急病人や重病人を速やかに運ぶ乗り物やシステムがあるらしいが……。
――僕はまた見舞いと手伝いをしに里へ戻るが。
彼は来た時と同じように,無駄のない動きで身を翻す。
焦っている様子は見せないが,急いではいるのだろう。
その姿が,逆に事の重大性を魔理沙に認識させた。
――くれぐれも,後悔のない選択を。
「あいつ,それだけ言い置いて戻ってしまいやがった」
魔理沙は唇を噛み締める。
彼は,最後まで来いとは言わなかった。ただ,父親の状況を伝えに来ただけだ。
いつだってそうだった。
彼が何かを魔理沙に押し付けたことなどない。穏やかに物事を語り,自分自身の頭で考えて判断するように,と。家を飛び出した時でさえ,それは変わらなかった。
その在り方が,どれだけ幼い魔理沙を勇気づけ,行動の指針となってきたか,量り知れない。
だが今,魔理沙は混乱し,道を見失っていた。
どうすればいいのか。
こんなことは,人形遣いにも,魔女にも相談できない。
巫女は――巫女に相談するのは,残酷なことだと魔理沙にはわかっていた。
今までの付き合いの中で,唯一相談できそうな相手といえば,他ならぬ父親の現状を魔理沙に伝えてきた男くらいである。
――後悔のない,選択を。
「あの後,一晩中考えたよ」
どうしようとも,後悔は避けられそうになかったから。
何かが間違っていたのかも知れない。
けれど,それを認めるわけにはいかない。
霧雨魔理沙のこれまでの生き方を,間違いだったと否定することなどできやしないのだ。
「夜があんなに永いものだなんてな。久々だった」
行くべきか。行かないでおくべきか。
何をどう考え,思い惑おうと,結局はその二択に帰結する。
そして,そこには正しい答えなど無いのだ。
一晩中,まんじりともせずに考え,明け方近くには何を考えているのだか自分でもわからなくなっていて,それでも何かを考え続けた。
朝になり,朝食を食べる気にはならなかったけれども,無理矢理何かを口に入れて飲み込んで,そのまま人里まで飛んできた。
「だが,そこまでだった。どうしてもあそこへは足が向かわなくて,気付いたら,ここに来ていた」
もうひとりだけ,いたのだった。
魔理沙が,相談をできる相手。いや,相談ではない。ただ,何の反応を求めるでもなく,想いや悩みを打ち明けることができる相手だ。
「わ,私はきっと……」
言い淀んで,魔理沙は顔を上げた。
そこに浮かんでいたのは,縋るような,必死な表情。
「怖いんだ」
独りで過ごす夜が怖かった。
誰にも相談できずにいることが怖かった。
今になって実家へと帰ることが怖かった。
それでいて,このまま帰らないでいることも,怖かった。
「私は,親父なんて必要ないと思って,ずっと生きてきた」
だが,それは。
父親も自分のことを必要としてなど,いないということではないか。
「もし――帰ったとして,あの男が憎しみの目で私を見てきたら」
いや,それならまだいい。
完全な無関心。他人を見るのと同じような目で,自分を見てきたら。
それを最期に,父親が不帰の旅路へと赴いてしまったら。
「怖いんだ……どうしようもなく,怖くてたまらない」
魔理沙は自分を自身の腕で抱き締めるようにする。
その身体は小さく震えていた。
「私が最後に見たあいつの表情は,怒りと憎しみに歪んでいた。お前なんかどこへでも行ってしまえ,と怒鳴られたよ」
霧雨家の馬鹿娘。
親不孝の放蕩娘。
そんな出来損ないの娘など,あの男には必要なかったのだろう。
「そうさ。私なんて,必要ないんだ! 要らないんだ……! だから――――あ」
不意に全身が包まれ,魔理沙は戸惑った。
身をすっぽりと取り巻く,このもふもふした温かいものは……雲?
雲山の大きな両の掌でそっと包まれていることに気付いた魔理沙は,頭のどこかで,こいつの身体ってこんな感触だったんだなぁ,などと場違いなことを考えていた。
遠い昔,幼き日の自分をおんぶしてくれた父の背中の温もりが,何故か思い返された。
そうしていると。
『ばかもん』
上から降って来たのは,穏やかで温かい,そんな言葉。
魔理沙のこれまでを否定せず,魔理沙のこれからを否定しない。
そんな思いの籠った声。きっと今の魔理沙が必要としていたもの。
「あ……」
心に沁みるようなその声に,魔理沙の視界が滲む。
そうして,魔理沙の身体は包まれたまま,ゆっくりと戸の方へ向けられた。
そこで全身を包む温かさは,すぅと離れて。
背中を静かに,けれども力強く押された。
魔理沙は一度目元を乱暴に拭うと,振り返らず前を向く。
「……サンキュ」
礼は短く。
彼女は,過去と向き合うために駆け出して行った。
◆ ◆ ◆
「そろそろお夕飯よー。……あら雲山,何この紙束。写経?」
「珍しいわねぇ,貴方が仏教徒らしいことするの。いや別に他意はないけど」
「へぇ,祈りと願い? そう,年若き友のために」
「あら,からかってなんかないわよ。だって今の貴方,いい顔してるもの」
「誰のためのものかは知らないけれど――上手く行くといいね」
◆ ◆ ◆
降り続いた雨もあがり,ようやく夏本番といった季節がやってきた。
蝉の声がジージーと聞こえてくる。
「よ,よう。雲山」
そんな中,どこか照れ臭そうな様子で雲中白鶴庵を訪れた魔理沙は,残り二枚となった券を切って籠に放る。
「……あー,なんだ。そのぅ,先日は見苦しいところを見せちまったな」
帽子を脱いで,頭を掻く。
視線をきょときょとと彷徨わせたが,やがて苦笑いをした。
「あのクソ親父……危篤だなんていうから,どんだけ悪いのかと思ったんだが」
あれなら三途の川の死神船頭にも尻を蹴っ飛ばされて追い返されるだろうよ,と魔理沙は渋い顔で言った。
その声音は,けれども決して険しいものではなかった。
「まったく,心配……は大してしていなかったがな,うん!」
ははは,と笑う。
「だいたい,あいつは頑固で,短気なんだよな。後先考えずにものを言うし」
『…………』
「いつもは無駄に元気なのに,何かがあると変に弱気になるところがあるし」
『…………』
「どうしようもない駄目駄目親父だよ,まったく」
『…………』
そう思うだろう,と魔理沙が雲山を見上げてみれば。
雲入道は,何かを堪えるようにぷるぷると身を震わせていた。
不審げな表情の魔理沙に気付いたのか,咳払いをする。
「なんだよ……。まあいいけど」
そこで魔理沙は笑いを引っ込め,真顔になった。
「親父と,話してきたよ」
全てが水に流れたわけではない。
わだかまりが完全に解消されたわけでもない。
だけど,会って,顔を突き合わせて,話した。
その小さい一歩を踏み出せたのは,魔理沙一人の力ではない。
「改めて礼を言わせてくれ。ありがとう,雲山」
『…………』
魔理沙が頭を深々と下げると,雲山は目を細めて,かぷかぷ笑った。
「こいつは,とっておきのキノコ酒だ。一輪とでも呑んでくれ」
酒瓶を取り出し,雲山に差し出す。
霧雨印の特製だ。呑むと幸福になれる。たぶん。
「さてと,今日のところはここらで失礼するぜ」
駄目駄目親父が休むのをサボってないか,監視しに行かにゃならんからな,と魔理沙は笑う。
元々,里までやって来た理由の一つはそれだったのだ。
「じゃあ雲山,またな!」
『…………応』
雲山は重々しく,けれども確かに頷いた。
◇ ◇ ◇
庵を出た魔理沙は,考え事をしながら歩みを進めていた。
実家へ見舞いに行く前に,幾つか買い物を済ませておかねばならない。
あの駄目駄目親父の好物は何だったっけ,などと考えていると。
「あら,魔理沙じゃないの」
「ん?」
呼ばれた方を見ると,寺の門前に一輪がいた。
今日は白い尼頭巾を被っているようだ。
「おお,一輪じゃないか」
魔理沙は返事をしながら,彼女の方へ駆け寄った。
一輪は腕組みをして,魔理沙に快活な笑みを向けてくる。
「あんたがこの辺にいるのって珍しいわね」
「あ? そうか……? まあいいや。お前にも一言,礼を言っておかねばならないと思ってたんだよ」
「え,お礼参り?」
戸惑いの表情を浮かべる一輪に,魔理沙は軽く頭を下げた。
「例の券,何だかんだで役に立ったよ。やっぱり,どこかに抵抗があったんだと思う」
確かに,最初の六枚を使い切った後なら,券などなくても雲山は相手をしてくれただろう。
だが,魔理沙が雲親父と向き合うには,券という建前が必要だった。
それがあることで,父親のような相手に対しても気後れすることなく話せたのだ。
「まあ,それでも最初は居心地が良くなかったけどな。ははは」
「ねぇ,ちょっと」
一輪が怪訝そうな顔つきをしているのに気付き,魔理沙は首を傾げた。
「何だよ」
「さっきから言ってる,礼とか券とか……何の話?」
「はぁ? 何って,そりゃあ,お前の売ってくれた券だよ。えっと,≪雲入道とおしゃべりできる券≫だったか」
券の正式名称を思い出しながら魔理沙が言うと,一輪は疑問符を大量に抱え込んだような顔で,眉間にしわを寄せた。
「私の売った? 券? 雲入道とおしゃべり……?」
「ああ。それを買えば雲山と話せる権利がもらえるっていう――」
「はァ? 何言ってるのよ。私がそんな,地底の歓楽街三丁目の路地裏にあるちょっといかがわしいお店のようなモノ売りつけるはずないじゃない」
「お,おう……」
妙に具体的な反論を受けて,今度は魔理沙が戸惑った。
ここは寺の門前だし,券の話を出しても差し支えないはずだ。
しかし,一輪は誤魔化したりはぐらかしたりしているような様子でもない。
「だが,私がお前から買ったのは確かだぜ。ほら,これ」
魔理沙はポケットから最後に残った一枚を取り出し,一輪に示した。
一輪はそれに目を向けて,訝しげな表情となる。
「券ってあんた,単なる葉っぱに見えるんだけど,それ」
「えっえっ」
魔理沙は慌てて自分の手を見る。
葉っぱだった。
「もしかして目を悪くした? それとも頭?」
「いや,違うんだ。間違いだ。きっとポケットの中に…………ない」
何度探っても,葉っぱ以外の物は出てこない。
魔理沙が半泣きでエプロンやらポケットやらを引っ繰り返していると,一輪が「あ」と呟く。
「さては,あのバ……マミゾウさんかッッ!!」
「ひうっ!?」
ただならぬ気配を感じて魔理沙が顔を上げると,そこには憤怒の形相をした一輪。
雲入道もかくやという迫力である。
「今度という今度は成敗してくれるッ!! いざ――!」
何やら殺気を放ちながら,一輪は寺の中へと駆け戻って行く。
後に取り残された魔理沙は,ぽかんと口を開けてその後ろ姿を見送った。
「…………は,はは」
どうやら,である。
一輪の様子からすると,自分はあの狸の親分に化かされていたらしい。
魔理沙は再び手の中の一枚の葉っぱに目を落とした。
「はは,ははは」
我知らず,笑いが込み上げてくる。
一年近くにもわたってペテンに掛けられていたというのに,不思議と怒りは湧いてこなかった。
それどころか,感謝にも似た清々しい気持ちを覚えている。
「はははははっ!!」
あの雲親父もさぞかし困惑しただろう。
ろくに話したこともない少女が時々訪れては,葉っぱを籠に放り込んで長話をしていったのだから。
やっぱり,気難しそうに見えて,付き合いのいいオヤジだったのだ。
「いやぁ,まいったまいった。完敗だ」
ちょうどいい。
こんな間抜けな話も,きっと酒の肴になる。
魔理沙にとっての,ふたりの頑固親父と呑む酒の。
「ん,んーっ……!」
魔理沙は伸びをする。
今日もまた暑い一日となるだろう。
――夏の空には,大きく真っ白な入道雲。
―― 了 ――
時代親父のぶっきらぼうな優しさを
堪能しました。これでインフルも
吹っ飛びそうです。
次作も期待しております。
魔理沙や一輪などの自分からぐいぐいいく性格は、シャイな雲山と意外と相性がいいのかもしれませんね。
「ばかもん」一言にこめられたいろんな意味を
感じさせてくれる良い作品でした。
少女らしい魔理沙も良かったです。
皆いい性格してるところも良かった。