Back to death

　ヤマザナドゥ　ヤマザナドゥ
　私の名前は　　ヤマザナドゥ
　四季映姫　　　ヤマザナドゥ

　ヤマザナドゥ　ヤマザナドゥ
　だって私は　　ヤマザナドゥ
　四季映姫　　　ヤマザナドゥ

（語り）くたばれデストロン！


　ヤマザナドゥ　ヤマザナドゥ

　………




「なにこれ」
　波高く空は荒れカロンの渡し守は途方に暮れる。小野塚小町は曰く言い難い文面に心を呑まれて常態を失った。
　きっかけはなんであっただろうか。その日の朝目覚めて直後に乾燥中のＭＧアッガイを踏んづけたことか。着替えの最中におっぱいミサイルごっこをしているのを思いかけず鏡で見てしまったことか。それら既に起こってしまったことといま起きていることを関連付けるのは因果という言葉で括ることが出来るが、はたしてそれをもって納得することのできる存在が思考を突きつけることをするのかどうかと言えば、それはもうすることはなく、であるからには納得できないものがここまで自らを追いつめるのだ。理不尽であり、諦観するべき事でもあった。
　手帳である。
　使い古されていた。
　黒革の装丁の表紙には金文字で四季映姫と記されており、背表紙は閻魔帳とおどろおどろしい文体で刻まれている。みたままであり書いたままであった。
　話は変わるが小町は以外にも模型作りが趣味である。ずぼらだが手先が起用でマイペースな彼女にとって時間をかければかけるほど完成度の高くなる一連の物は性根にしっくりとくるものがある。三途の川渡しといえども衣食住はしっかりしており川に半ば張り出したかたちの水上家屋を住処としている。アッガイ改造計画は破綻してしまったか……否、修繕して繋ぎ目を荒く処理すれば歴戦の勇士使用になる。改造マブチモーターを導入したリモコン化も諦めることはない。すでに海中用レオパルドに取り付けた試作型は十分な成果を収めた。
　手帳である。
　所有者ははっきりしていた。
　ページを捲る。



　おお　ヤマ　ヤマ　ザーナドーゥ

　心に一つ　輝く笑顔

　私の笑顔で　チェックメイト（Ｗｏｗ！）

　ああ　四季　四季しき　えーいきー

　内気なバディに　勝ち気な瞳

　あなたのハートを　ジャッジメント（Ｙｈａ！）


「あ、ちょっと小町」
「ぎょｆｔｙｇふじこ」
　神速で手帳を閉じて胸元に突っ込んだ。サラシでは押さえられない胸元が嫌いではないがこれほど好きになったのは今日が初めてだ。
　ぎくしゃく振り返ると、頭二つ分低いところに上司の顔があった。いっつも思うんだけどあの帽子ってよく子供が新聞紙で折る兜みたいだよなぁあと背が低いからって生足は！　生足は駄目だよ！　せめてストッキング！　等々、いろいろつっこみ所の多い地獄の裁判長、四季映姫・ヤマ・ザナドゥが、凛とした容貌を若干不思議そうにしながらこちらを見ている。
　――しまった！　なんで隠すの！？
　反射的につっこめる程度の隙間のある胸元をこれほど憎んだことはない。
「どうしたの？」
「いえべつになんでもないっすようへへへ」
　ちょｗｗｗなんで言い繕ってるのあたいｗｗｗｗﾃﾗﾔﾊﾞｽｗｗｗｗ
「……？　まぁいいですけど。そうそう、貴女のところにわたしの閻魔帳を忘れていませんでした？」
「閻魔帳っすか？　うーんちょっと憶えがないですねぇ」
「そう……困ったわね、人に見られるものじゃないのに……」
　ほうと実際困った風にため息を吐く。昨日仕事が終わると彼女が直々に小町の家にやって来て、説教を主軸とした上司と部下の語り合いをしていたのだ。
　だとするとやはりあのとき間違えて酒を呑ませたのが全ての元凶か。弁舌さわやかに繰り出される雑談という名目の説教を止めようと強引に進めたのは確かに小町だが、だからといって忘れ物をしたのは彼女のせいとは言い切れない。今朝まで気付かない小町も小町だがそれくらいなら映姫も咎めたりはすまい。
　だから嘘なんか付かずにすぱっと渡せば良かったんだよ！　それが私に出来るたったひとつの冴えた善行よ。　
　でもこんなおもろいもん素直にわたせるわけない。ぜんぶ呼んで映姫様を赤裸々に精神分析してやろうヌハハハ
　ぼとりと上着の裾から手帳が落ちた。見れば判るが小町は今日サラシを巻いていない。時間がなかったためだがつまり彼女は乳ぱんつを一切つけてない状況で上着を着ているのであり、胸元から入って峻厳な谷間を抜けた手帳は至極あっさりと服の合わせ目からこぼれ落ちた。
　地面に落ちた手帳がどこかのページを開いて止る。




　四季四季四季四季四季四季四季四季
　ヤマヤマヤマヤマヤマヤマヤマヤマ（ＸＡＮＡ！）

　えいきっえいきっえいきっえいきっえいきっえ・い・きッ（shall we dance?)
　ああ無限のＬＯＶＥがリングリング広がるＹＨＡ！

　四季映姫ヤマヤマヤマヤマザナザナ（DO-DO）

（語り）バビブベ　バビブベ　ヤマザナドゥでーす

　………
　

「小町」
「ぬぐぇ」
「貴女に出来る善行はただ一つ。歌いなさい」
「これを！？　ちょっｗｗｗｗ映姫様冗談ｷﾂｽｷﾞｓ
「ラストジャッジメントLuna」

何かしなきゃいけないとき
別のことのほうに力を入れること
ありますよね