Coolier - 新生・東方創想話

うどんげの夏

2005/11/07 08:04:48
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幻想郷はいい所だが、酷い所もそれなりにある。

例えば、夏は暑く冬は寒い。

一度、八月に50℃の高温を記録したことがあるし、

冬には必ず雪が山と積もる。

どっちかにしろよと言いたいところだ。

レミリアや幽々子が、天候や季節の巡りを弄ろうとしたのも無理あるまい。

――今、季節は夏。

うだるような暑さと喧しい蝉時雨に包まれて、私は博霊神社の裏庭にいた。








・・・・・・・・・・・・・
東方シリーズss

うどんげの夏。
・・・・・・・・・・・・・








「さ、ぱぱっとやっちゃって頂戴」

「お手並み拝見ってとこだな」

霊夢と魔理沙に見守られて、私は菜園の前に立っていた。

片手に水の入った如雨露。足元にも、もう一つ水入りの如雨露。

これからやるのは、除草剤の散布。

雑草取りを面倒がった霊夢が、根まで綺麗に除去してくれと依頼してきたのである。

――霊夢に限らず、薬剤のことで私にくる依頼は多い。

本来ならみんな師匠に依頼するのであるが、気分屋な師匠は引き受けないことも多く、

師匠が引き受けなかった仕事を受けてるうちに、

実績がついて最初から私の方にくるひとが増えてきた。

気まぐれな師匠より、私のほうがやりやすいのだとか。

私としても、師匠に学んだ成果がひとの役にたったなら嬉しい。

「さて、と」

早速、作業に入る。

あらかじめ、薬は数種調合して持ってきていた。

赤、青、緑、色分けしてある小さな瓶。

手にした如雨露に、赤い小瓶の中身を注ぐ。

これは、やや効果が強めのやつ。

収穫済みの雑草しかない所に振りかけるのだ。

菜園を回り、如雨露を傾け、

空いた畑にまんべんなくかけていく。

「おいおい、なんにも変化ないぜ?」

「魔法とは全然違うのよ。説明は後でしてあげるわ」

今度は、置いてあった如雨露を手にとって、緑の小瓶の中身を注ぐ。

これは少し効果が弱め。

作物は耐えられるけど、雑草は耐えられない。

それでも多少は作物もダメージを負うので、

出来るだけ、雑草だけに、作物にはかからないようにしていく。

菜園全体にかけおわると、私は空になった如雨露ふたつを持って、

「これでお終い。帰りましょ」

「ちょっと、ちっとも雑草がとれてないわよ?」

「だから、説明は戻ってからでいいじゃない。

 この殺人的な日差しから逃れるのが先よ」

ぶっちゃけ、ものすごく暑い。

身体中、汗でベタベタだった。








屋根の下に戻れば、日差しのないぶん、いくらか楽になった。

でも、気温の高さは変わらない。

魔理沙とふたり、居間に座り込み、団扇でパタパタ。

霊夢は昼食をつくるために厨房にいっている。

食べていってという言葉は有難いが、正直暑さで食欲が無い。

「おまたせーーー」

厨房から戻ってきた霊夢が持ってきたのは、素麺だった。

口当たりの軽い、夏の定番品。

なるほど、これなら食べられそうだ。

「さっすが霊夢、分かってるなあ」

「ま、これしかないでしょ。

 薬味とかは、各自好きに取ってね」

言いながら、テーブルの上に並べていく霊夢。

ガラスの器で、水のなかに泳ぐ麺はいかにも涼しげだ。

麺つゆを受け取って、私は刻み葱と山葵を少々いれた。

麺を箸ですくって、つゆの中を軽く泳がせて啜る。

うーん、美味しい。

かつお出汁と醤油の風味がなんとも言えませぬ。

夏の味を堪能しているところに、ぽんと肩を叩かれた。

「そろそろいいだろ。さっきのアレ、教えてくれよ」

「私も訊きたいわ。大丈夫なんでしょうね」

私を見る目は、興味半分疑い半分。

どうやら、まだまだ師匠ほどの信頼を得るには遠そうだ。

がっかりしながら、私は説明した。

「効果だけ言うと……根を腐らせるのよ。

 腐った根は土の中で分解されてしまうってわけ」

「すぐには効かないのか?」

「魔法じゃなくて、科学の薬だからね。

 でも、二日くらいで効くと思うわ。効かなかったら呼んで頂戴」

「カガク?」

何それと、霊夢が首をかしげる。

おかしい、地上人も科学くらい知ってるはずだが……

「霊夢は郷生まれの郷育ちだからな」

「あ、そっか」

この幻想郷だけは例外だった。

「ふたりで分かってないで、教えなさいよ」

不満顔の霊夢に、私も困惑した。

科学の概念を知らない相手に、どうやって説明したものか。

「要はさ、屁理屈の学問なんだよ」

代わりに説明したのは、魔理沙だった。

「世の中わかんないことなんていっぱいあるだろ。

 例えばお前、自分がどうして飛べるのか説明できるか?」

「……無理ね」

「それを、意地でも理屈つけて説明しようとするのが科学さ」

なるほど、うまいことを言う。

だが、説明としてはすっごい投げやりだ。

「なによそれ。さっぱり分かんないわ」

霊夢は釈然としないようだ。

言葉を選びながら、私も説明してみた。

「真面目に答えるなら、魔法と正反対の方向性を持つ学問。

 魔力や霊力みたいな見えないひとには一生見えないものを除いて、

 だれでも見えて分かるものだけを用いて、あらゆる現象を説明しようとするの」

「分かったような、分からないような……」

「それでいいのよ。分かっても楽しいものじゃないし」

科学はロクでもない代物である。

正しくは、扱う地上人――幻想郷の外の人間がロクでもないのだが。

「この麺一本のほうが、よっぽど価値があるわ」

そう言って、私は箸で麺を摘み上げてみせた。








昼食の後、私たちは何をするでもなく、居間で過ごしていた。

霊夢は縁側に座って、空を眺めている。

上半身はサラシ一枚。みるからに涼しそうだ。

魔理沙は畳の上にへばっている。

私はブレザーだけ脱いで、足を伸ばして座っていた。

「うう、暑いぜ……」

弱々しく呻く魔理沙。

そりゃあ暑いだろう。黒くてふわふわした魔理沙の服は、見てるだけで暑苦しい。

丈の長いスカートにドロワースを履いているので、通気性は最悪である。

「ね、うどんげ」

こっちに向き直って、霊夢が言った。

「魔理沙を助けると思って、やってみない?」

「何を?」

「夏なのに涼しい―――幻想郷の大騒動」

幻想郷は、何度も大異変にみまわれてきた。

霧だらけになったり、春が来なくなったり、月が出なくなったり。

そのうちひとつは、師匠が惹き起こしたのだが……

「巫女が煽ったらいかんでしょうが」

アヤカシどもの悪さを懲らしめるのは、巫女の役目。

霊夢は忠実に、すべての異変を解決してきた。

「巫女でも暑いものは暑いの。

 さあうどんげ、怪しげな薬で幻想郷を冬にしてしまうのよ」

「……言い回しがまるで輝夜様ね。ところで、私が黒幕?」

「もちろんそうよ。あんたも黒幕の系譜に名を連ねるのよ」

レミリア、幽々子、輝夜、映姫。

この名だたる面子に、鈴仙=優曇華院=因幡の名が加わる。

「なるほど。なかなか光栄なことで」

想像してみるだけなら、面白そうだ。

「それじゃ、前座は霊夢と魔理沙がやってくれる?」

「巫女が悪の片棒かつぐわけにはいかないでしょ。惜しいけど遠慮させてもらうわ」

「私もパスだなーー。うどんげがボスじゃ、いまいち乗れないぜ」

焚き付けといてそれは無いでしょう、お二方。

もちろん、ノーと言われてはいそうですかと引き下がる私ではない。

「断るなら洗脳して無理矢理やらせるわ。私に出来ないと思って?」

悪の首領っぽく、ちょっぴり凄んでみた。

事実、やろうと思えば出来る。

師匠と輝夜様にはかなわないが、これでも月では強い方だった私。

このふたりの耐性なら、まるで問題にせず狂わせることが可能だ。

「それが出来たら、お前にも迫力が出るんだけどなあ……」

まず無理だろと、魔理沙が肩をすくめた。

――思わず苦笑してしまう。

魔理沙が言ってるのは、能力的に無理だというのではない。

性格的に出来ない、と言っているのだ。

私自身、多分出来ないだろうと思う。

永夜の時のように、ただ大人しくさせるためならともかく、

使役して戦わせるために狂わせる能力を使うことは。

そういう性格だと、まだ付き合いの浅いこのふたりに言い切られるのは、

なんだか不思議な気分だった。

「……どうしたの?」

「なんでもない」

苦笑を貼り付けたまま、私は溜息交じりに言った。

「やっぱり、私には黒幕は無理ね」

自己主張の弱い、永遠亭では弄られ役の私。

そんな自分のキャラが嫌いでないのも、数百年越しの事実。

「人脈は割とひろいのにねえ……」

残念がる霊夢。

確かに私の交友関係はそこそこ広い。

「中国とも仲良かったでしょ?」

「……心の友と書いて、心友と呼ぶ仲よ」

「そういや、最近よくセットで見かけるな」

魔理沙も頷いた。

私と中国――紅 美鈴の仲は、金剛石よりも硬い。

共に、本名で呼んでもらえない――悲惨な思いを分かり合える唯一の相手である。

いつか、本名を取り戻してみせる。

鈴仙と美鈴の二文字で、うどんげと中国などというふざけた渾名を塗りつぶしてやる。

桜舞う紅魔館の湖のほとりで、私たちは友情を誓い合った。

――実は、私も美鈴より中国のほうが呼びやすい……なんて思ってることはナイショだ。

「あ、目が紅い」

「そ、そんなことないよ?」

霊夢に突っ込まれて、私は慌てて顔を手で隠した。

月兎の目が紅くなるのは、能力を使う時と腹黒いことを考えた時である。

「中国って渾名はやっぱりあいつに似合ってる……とか考えてたんじゃないか?」

……バレバレだった。

「酷いやつだな。中国が泣くぜ?」

「思ってしまうのは、仕方ないじゃない……」

切なげな声で、私は心ある我が身の業を嘆いた。

魔理沙はやれやれと首を振って、

「この前紅魔館に行った時、中国と同じようなやりとりをしたばっかだぜ?」

「え、ホント?」

「ホントホント。いや、なんとも脆い友情だなあ」

くっくっと低く哂う魔理沙。

ああ、なんてことだ。あの時感じた熱い友情は、儚い幻だったなんて。

「私と霊夢みたいに、しっかりした友情を築かないとダメだぜ」

なー霊夢と、魔理沙は肩に手を回そうとしたが、

「暑苦しいから止めて」

ぺしっ。

あっさり振り払われた。

「ププッ……なるほど、実に深い友情ねえ」

さっきの仕返しとばかりに、私もニヤニヤ哂ってやる。

さて、魔理沙はどんな反応を見せるのか。

「うう、ぐすっ」

あれ?

「ひぐっ、うっ」

あれれ?

「霊夢のバカァ…………」

な、泣きだしたですよ? しかも、結構可愛いですよ?

「ちょ、ちょっと待ってよ魔理沙……」

慌てて宥めようとする霊夢に、涙目の上目遣いで、

「霊夢はわたしのこと、キライ?」

――恐るべき破壊力だった。

もともと、可愛らしい顔立ちをしているのだ。

普段の言動が男っぽいだけに、ギャップで威力も倍々増。

「そんなこと――あるわけないでしょ」

案の定、あっさり霊夢はオチた。

魔理沙をぎゅっと抱きしめ、

「大好きよ……」

「霊夢……」

一瞬で、ふたりの世界が形成される。

悪ふざけで演技してるのか、本気でいちゃついてるのか。

判断に苦しむが、私がひとり置いていかれてるのは間違いない。

「やってらんねーですよ、ケッ」

とっとと終わってくれないものだろうか。

そっぽを向いて、私は一時的に聴覚を落とした。








時間にして数分程度だろうか。

ふたりの時間は、霊夢が眠気を覚えたことで終わりを告げた。

といっても、眠る霊夢の頭は魔理沙の膝上。

つまりは膝枕である。

終わったようで、実は全然終わっていないかもしれないが、

魔理沙はもう、いつもの彼女に戻っていた。

「最近、これが流行ってるらしいな」

「これ?」

「膝枕さ」

視線は霊夢の寝顔に向けたまま、魔理沙は微笑む。

「咲夜も、新月のときはレミリアにしてやってるらしいぜ」

「普通に違和感ないわね」

メイドなんてやってるせいか、咲夜は妙におばさんぽく見える。

……本人に言ったらナイフが飛んできそうだが。

「背丈だけなら、母娘か姉妹だもんな」

ふと、思いついたように魔理沙が言った。

「私と霊夢は、どんな風に見える?」

「あんたたちが?」

頷く魔理沙に、私はしばし黙考した。

答えはすぐに出てくるのだが……言うべきかどうか。

迷ったが、結局口に出した。

「あんたたちも……母娘みたいに見えるわ」

何故だろうか。

背丈も歳もおなじくらいだろうに、今のふたりは私の目にそう映る。

「母娘か……はは、いい感してるよ。

 私はともかく、こいつはある意味子供だからな……」

魔理沙は否定せずに、微かに笑った。

「霊夢の生い立ちは聞いてるか?」

「……うん」

確か物心つく前から親兄妹なく、ずっとここで暮らしてきたとか。

「七年くらい前まで、亀の爺さん妖怪が居たんだけどな。

 その爺さんとふたりっきりで、ずっと過ごしてきたんだ」

幻想郷の境界を守る博霊の巫女ゆえ、この僻地からみだりに出ることはできず。

老妖怪だけが、彼女の世界の全てだった。

「子供はさ、いろんな仲間との触れ合いを通して成長していくもんだろ。

 逆に言えば、触れ合いを知らない子供は成長できず……死を迎える」

過去を遡れば、事例はいくつかある。

「爺さんの育て方が良かったのか、他の要因があるのか、

 霊夢はまっとうに育ったけどさ。

 やっぱり経験が少ない分、未成熟な所がいくつもあったんだ」

霊夢はあまり物事に執着しないし、感情を大っぴらに示すことも少ない。

それはクールだとか、大人びているとかいうのではなく、

「何かを求めるとか、誰かに甘えるとか。

 そういうのを知らないんだよ、こいつは」

しないのではなく、出来ないのだと。

霊夢の頭を撫でる魔理沙の目は、優しくて、少し寂しい。

「だから、私のペースにのせて強引に甘えさせるんだが。

 なあ、私は傲慢だと思うか?」

「……さあね」

私にはなんとも言えない。

何か言えるとしたら、それは霊夢を育てたという――亀の老人だけだろう。

「ま、あんたらはいいカップルだと思うわ」

「……別に恋愛関係じゃないんだがな」

「分かってる。それくらい深い仲に見えるってだけよ。

 正直、居辛くなるくらいにね」

言ってから、しまったと思った。

わざわざ口に出すことはなかった。これじゃ、スネてるみたいだ。

「……うどんげ」

ちょっと後悔した私に、魔理沙は唐突に言った。

「膝は貸せないけど、肩なら貸してやるぜ?」

「……へっ?」

「せっかくだから、三人くっつくのもいいかなと思ってさ」

――おもいっきり気を使われてしまった。

冗談じゃない。魔理沙に気遣われるほど、私はヤワではないのだ。

一計を案じて、私は魔理沙と肩を並べた。

そして、魔理沙の肩に手を回して、もたれかからせる。

「ちょ、うどんげ……?」

「あいにく年下に甘える趣味は無いの。肩を貸すのは私」

指先で、魔理沙のふわふわした髪を弄ぶ。

なかなか触り心地がいい。

「ふふっ。輝夜様じゃないけど、確かにクセになりそうね」

「ひゃっ……やめろっての」

「やめない。大人しくしてなさい」

魔理沙は不満げだったが、それでも抵抗はしなかった。



やがて、この暑さで疲れてたのか、すうすうと寝息が零れだす。

「帰りが遅くなりそうだけど……ま、いっか」

私もそっと、瞳を閉じる。

外はこんなに暑いのだから。夜になるまで寝るのも、悪くない。










晴れ渡る空。

肌の焼けるような日差し。

喧しい蝉時雨。


そして、穏やかな寝息をたてる少女たち。





―――――そんな、ある夏の日のこと。

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コメント



0.5790簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
うどんげ!∑ヽ( ̄□ ̄)ノ
15.80削除
うどんげくあいいよ!
22.90月影 夜葬削除
いい!!このお姉さんうどんげはいい!!
34.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしいな!
35.90名前が無い程度の能力削除
ひと夏の思いで・・・・イイ!
38.90名前が無い程度の能力削除
山田は別に黒幕じゃ・・・
39.無評価名前が無い程度の能力削除
>黒幕
萃香は・・・・? (´д;\)
53.80名前が無い程度の能力削除
ふとましいは?(;´д` ) トホホ
113.100時空や空間を翔る程度の能力削除
読んでいて心が
微笑ましいと感じた。

優しいそよ風のように。
134.70名前が無い程度の能力削除
科学を必死に否定したがる鈴仙と魔理沙がちょっと滑稽
まぁ独善的な二人らしいといえばらしいが
135.10dio削除
つまらん
136.10名前が無い程度の能力削除
つまらん
137.無評価削除
つまらん
138.10削除
つまらん