*俺設定になっている所が結構あると思います。
恐らくたぶんきっと許容範囲だと思うのでご容赦ください。
許容範囲を超えたという方はご報告お願いします。
どうにも自分は鈍感なところがあるので。
分からないかもしれない単語などはあとがきの方に書いときます。
静閑な竹林、僅かに差し込む木漏れ日が、チンダル現象を顕現し、風と共にゆれている。
そんなところにむやみに立派なたたずまい。美術的かもしれない木造建築はある。
(決して古いとは言ってはいけない。そう思ってもだ!!)
永遠亭、薬剤師と人型兎と妖怪兎、それに(元)月の姫が住まうところである。
そこの一応日の当たる、あまり物が無い畳部屋で
私、鈴仙・優曇華院・イナバは積年の疑問を解決しようと頑張っていた。
ちなみにここは私の自室なのでいくら唸っても文句は言われない。
疑問は前に変な人間やら幽霊やら妖怪、吸血鬼なんかが襲撃してきたときに
さらに膨れ上がっていた。突っ込んでいいものやら悩むところであったのだが・・・
こんなことなら、あの時聞いておけば良かった。
いくら考えても疑問は解消されない、考えも推測の域を出ない。
・・・理由は分かっている。疑問の対象に直接聞かないからだ。
情報も無いのに考えるのだから推測の域を出なくて当然だ。
頭をひねって声で唸って七転八倒、耳まで捻れてたまにてゐに狙われて。
いくら考えてもこれだ! というものは出てこない。
質問するなら考えた証拠に正解に近いと思う推論を持って行くべきなのに・・・
さらに二十一転二十四倒したけれど、
答えが出ないので本人に直接聞きに行くことにした。
廊下を進んで、ぎしぎしいわせて、目的の部屋まで大冒険。
途中にトラップあったけど、いつものことだし気にしない。
引っかかっても痛くても、気合でこらえて気にしない。
行動先行入力・・・・ふすまを開ける。入る。用件を言う(叫ぶ)。先行入力終了。
「師匠、お邪魔します。質問があってきました!」
「何よイナバ。私は永琳じゃないわよ。」
「失礼しました!!!」
間違えた。ニー、あわわわ輝夜様の部屋だった。
うっかり悪口でも思ったりしたら後が怖い。口に出さなくても察するし。
全くここには部屋が多すぎる。あ、あれだあれだ。今度こそ間違いない。
「師匠、お邪魔します。質問があってきましゴフゥ!」
トラップがクリティカルヒット。はんまぁが腹直筋の辺り、たらいが頭頂部を直撃。
ここに来ると踏んで仕掛けていたようだ。
ああ、自慢の耳がつぶれてる。てゐ・・・・・覚えてなさい!
目的の人物、私の師匠、八意永琳はそこにいた。
畳部屋な自室にこもっていた。
よく片付けられている。物が無いのではない、片付けられている。
そこで師匠は作業中。よく分からないけど作業中。
薬学の勉強かな? それとも営業の関係かな? 涙目ながら考える。
「あら、何かしら? それに入る前に入っていいか聞くのが礼儀でしょ、
後でお仕置きね。そうね・・・146番の刑」
ってトラップと私の安否はスルーデスカ・・・。
微妙ににやけてる気がするし。もしかして共犯なんですか師匠?
ああ、差し込む光がまぶしい。ここはやっぱり日当たりがいい。(現実逃避)
・・・はぁ、お仕置きを喰らうことになってしまった、しかも146か。
147よりはましだけど興奮してたからなぁ。
まぁそれはともかく、質問、質問。
トラップが気にならなくなるほどこの疑問は大きい(と私は思う)。
「ええと、ごめんなさい。と、それは置いといて、
師匠って何で弓を右手に持って矢を左手に持つんですか?」
「説教を始める前に置いておくとはいい度胸ね。
しかもそうしてまで質問する内容がそれ?」
「だって気になるじゃないですか。右手に弓を持ったら、掛(かけ)も付けられないし
つがえても引けないじゃないですか」
これでも結構色々読んでいるし経験しているのでのでこれくらいの知識はある。
その知識に反する行動を師匠に取られて、ずっと混乱していたのだ。
それはそう、授業と教科書の内容が一致していないのと同じように、
会社の方針と上司の命令が一致しないのと同じように、
多大なストレスを感じるものだ。
「・・・ああ、これ? これはね、弓の形をしているけど弓ではないの。
形而上学的に言えば弓としても使えるかもしれないけれど、違う物よ。
これは弾を顕現するためのデバイスなの。普段、弾幕を放つとき、
あなたはどうしてる?」
そう指差しながら師匠が質問してくる。
しかしこの貌、美しいような可愛いような、これで性格さえ良けれブッ
「・・・質問に答えなさい」
少しトリップしてたからって手刀はないじゃないですかぁぁ
「わ、私ですか? ええと、弾幕のパターンとそれを顕現させる式を
脳内に描いて、そこに力を流して実行していますけど」
ふぅと溜息をつきながら師匠は続ける。溜息ついても美しい!
ああ、やっぱりこの人こそ私のお師匠様。ビバ! 師匠!
「そう、普通は顕現化する式も脳内にある。これはその式を別の物に移して
より複雑な式を組むための物なの」
少しトリップしそうな脳を落ち着けてと・・・話は分かった。
でも疑問があと二つ。
「じゃあその矢は何なんですか?」
撃ちもしない矢を持つ、それはよく考えなくてもおかしい事にしか思えない。
・・・あ、無駄の多い幻想郷ならありえるか。
でも持ってたのはここが幻想郷と気付く前からだし・・・ブツブツ(思考中)
「・・・頭抱えて何ぶつぶつ言ってるの? 頭から湯気が昇ってるわよ」
はっ、またトリップしかけていたらしい。
「す、すみません。で、それは何なんですか?」
「これは思考回路を一時的に退避させるためのデバイスよ。
ここに思考回路を退避させ、更に容量を空けて。そこに式を書き込むの」
今、平然とした顔でとんでもないことを言ったような気が・・・
その言葉を理解するのに数秒を要した・・・思考回路を退避?
「あの、それって結構危なくないですか?」
「そこは大丈夫、数多くの実験により安全が証明されてるわ」
ああ、こんなところでも犠牲者が、失敗したらどうするつもりだったんだろ。
「ただ、退避させた状態じゃ物をあまりうまく考えられないみたいなの、
だからそのときは姫様に書き込んでもらってるわ。
禁薬『蓬莱の薬』なんかがその結果ね。あれはいちいち書き換えずに
全て一つの式にしているからタイムラグもほとんどなしに
違う3つ以上のパターンの弾幕を張れるの」
どうやらそういうことだったらしい。これで残る疑問はあと一つ。
「そんなものでどこでどうやって手に入れたんですか?」
顔を上げて指を額に当てて考える師匠。やっぱり(以下略
「・・・さぁ、どこだったかしら。
ところであなたにガラス細工って教えていたかしら?」
「いえ、まだやったことはありません」
「そう、じゃあこれから教えるわ。ついて来て」
そう言って歩き始める師匠。急激な話題転換が少し怪しい。
着いた先はガラス細工室。なんだか少し薄暗い。一応、窓はあるけど小さい。
そこに奇妙なかまどは鎮座していた。
フイゴがあって薪をくべる所があって、火の出るところは絞られていて。
「ここでやってもらうわ。ちょうど廃棄処分前のガラス製品があるから
それを使って実習ね。まずは手本を見せるわ。」
そう言って、薪をくべさせるためにそこらへんの妖怪兎を呼びつける師匠。
八意永琳は手伝いを呼びながら過去に思いを馳せていた。
ウドンゲにはああ言ったけど、どうしてあんな物を持っているのかは
ちゃんと覚えている。アレをもらった時の事は昨日のように思い出せる。
まだ自分が月にいた頃、一応をそれなりに交流はあった。
友人達は自分が罪を犯しても、変わらず接っしてくれた。
本当にいい人達でだった。
そして運命の日、姫様を迎えに行く日。
『地上の民が抵抗したときは、遠慮なくこいつで圧倒してやれ』
そういって豪快に笑う、あの職人もそんな友人の一人だった。
その友人がくれたこのデバイス。結局はこの友人を裏切ることになってしまった。
後悔するつもりは無い。しかし済まなく思う気持ちは今でもやまない。
だが謝罪することはかなわない。あのときの友人達はもう既にいないのだ。
彼らの命は永遠ではないのだから。
薪をくべさせ、作業を始める。まずは毛細管。
口の欠けたガラス管を熱しながら、ポイントを説明する。
熱したガラスは紅く輝き、それを引き伸ばして毛細管を作る。
引き伸ばされたガラスは弓弦のように張り詰めて、しかし弦とは違い折れやすい。
それはまるで心のよう・・・
そこまで考えてやめた、考え事をしながらのこの作業は危ない。
他の操作も一通り教え、後は手元を見ながら考えることにした。
「じゃあ、あとは自分だけでやってみて」
ウドンゲの手の中でガラスが千変万化する。
ゆがみ、伸ばされ、しまいに折れる。
「ああー、また失敗」
・・・ガラスは心は炎の中で千変万化、すなわち炎は命の化身。
炎は命はいづれ尽きる、燃え尽き白い灰となる。
ならば我々はどうだろう・・・
ウドンゲの手の中でガラスは千変万化する。
溶けすぎ、切れて、鋭くとがる。
「危なっ! 指切るトコだった」
ガラスはときに凶器となる。凶器は狂気。狂気は心。心もまた凶器となる。
「きょうき」を心を作るは炎、命。
なら我々はどうだろう・・・
ウドンゲの手の中でガラスは千変万化する。
伸びすぎ、折れて、落っこちる。
「危なっ! 拾わなきゃ。熱っ! 触るとこ間違ったぁぁ」
・・・結構ひどい火傷のようね。さすがに考え事どころじゃないか。
「はいはい、応急処置するからついてらっっしゃい」
確か近くに氷とか救急箱とかを標準装備している簡易医務室があった。
「はい、これで指を冷やしときなさい」
そう言って氷の入った器を渡す。傷から色々入らないうちに対処しないと。
「はいぃぃ・・・・・あの、冷たくて痛いンですけど」
「それでも暫くはつけてなさい。耐えられなくなったら暫く時間を置いてから
またつけておくと良いわ」
そう言いつつ軟膏や包帯を用意する。
・・・薪をくべるのを手伝ってもらった妖怪兎も結構疲れているようね。
今回はここまでか・・・。
「はい、手をかして」
軟膏を塗ったガーゼを巻いてその上に包帯を巻く。
我ながら中々手際がいい。
「じゃあ残ったのを危険のないように加工してから処理するから手伝って」
また細工室に戻り、薪をくべさせる。
包帯を巻いたからこれくらいは大丈夫だろう。
「あうぅ、火傷痕が痛い・・・」
「それくらいは我慢しなさい。指先だけだから特に問題はないわ」
文句も封殺。ガラスの処理を始める。先を丸めて危険のないように。
長いのは切って切り口を処理。ひびのあるものも溶かしたり切ったり。
これまた我ながら手際がいい。余裕もある。
余裕があるとどうにも考えごとが・・・・・
・・・炎の中でガラスは変形、一生の中で心は変化。
しかし、私と姫の一生は終わらない。
これは絶えず変化し続けると言うことだろうか?
否、ガラスとて炎の中にあったとしても外からの力なくして変化は出来ない。
心もまた然り。
同じ物を持ち続け、見続けるのは苦痛。退屈という苦痛。置き去りと言う苦痛。
不変のものの宿命にして苦痛。私と姫の宿命。
なるほど大罪と言われる意味も分かる・・・・・
「・・・・・・ょうね」
そこまで考えたところでウドンゲの声が聞こえた。
「え? 何? 作業に集中しててよく聞こえなかったわ」
「え~? 本当ですか? 師匠にしては珍しい」
生意気なことを言い始める。ウドンゲにしては珍しい。
「うるさいわね。罰を147番にするわよ。で、なんて言ったの?」
「それは無いですよぉ・・・。
ですから、『この薪をくべる代わりに近くに住んでる火の鳥に
手伝ってもらえればらくでしょうねぇ』
って言ったんです」
何も涙目でまで訴えなくても。
可哀想だから146番のままにしといてあげましょう。
しかし、無茶な案をだすわねぇ。
「ウチの姫様と敵対しているのにそう簡単に協力してくれるかしらね」
「そこは月の頭脳であるお師匠様が考えて下さいよ。
紅白達を仲介するなり、仮想の共通敵にするなり、何かで釣るなり」
また無茶を言う。しかもこんなときだけ「お」と「様」が付いている。
調子がいいったりゃありゃしない。
・・・でも割といい案ね、確かに今なら前よりは実現がかなり楽だ。
私と姫は永遠の民。命の炎は尽きることは無い。
しかし変化できないのではないのだ。
外から力が加われば、不変の宿命も軽減される。
今回の変化もそのうちの一つ。
紅白たちのおかげで、少しだが大きな変化がどこかに起きた。
姫も言っていたではないか。過去はいくらでもやってくる。
今を楽しまなくてどうするのか。
永遠の民には他の民とは別の生き方がある、と。
「え~り~ん、食事はまだ~?」
考え事中に姫の声。噂をすれば影? この場合は違うか。
気が付けば日もいくらか傾いて食事時も近くなっていた。
「はい、こちらの作業が終わりしだい用意します」
ウドンゲが火傷を負っている以上手伝わないといけない。
その前に目の前の作業をっ・・・
「わっ! 早っ!」
私の手元を見ていたウドンゲが声を上げる。
あまりの手際に台詞がかなり短くなっているわね。
ここまで早いと余裕がなくて考え事もあまり出来ない。
といっても既に解決しているのだが。
「はい、終わり。ウドンゲ、食事の準備をするわよ」
「はい! って師匠待ってくださいよ。速すぎですよ」
永遠の民は「今」を生きる。常に永遠に。
恐らくたぶんきっと許容範囲だと思うのでご容赦ください。
許容範囲を超えたという方はご報告お願いします。
どうにも自分は鈍感なところがあるので。
分からないかもしれない単語などはあとがきの方に書いときます。
静閑な竹林、僅かに差し込む木漏れ日が、チンダル現象を顕現し、風と共にゆれている。
そんなところにむやみに立派なたたずまい。美術的かもしれない木造建築はある。
(決して古いとは言ってはいけない。そう思ってもだ!!)
永遠亭、薬剤師と人型兎と妖怪兎、それに(元)月の姫が住まうところである。
そこの一応日の当たる、あまり物が無い畳部屋で
私、鈴仙・優曇華院・イナバは積年の疑問を解決しようと頑張っていた。
ちなみにここは私の自室なのでいくら唸っても文句は言われない。
疑問は前に変な人間やら幽霊やら妖怪、吸血鬼なんかが襲撃してきたときに
さらに膨れ上がっていた。突っ込んでいいものやら悩むところであったのだが・・・
こんなことなら、あの時聞いておけば良かった。
いくら考えても疑問は解消されない、考えも推測の域を出ない。
・・・理由は分かっている。疑問の対象に直接聞かないからだ。
情報も無いのに考えるのだから推測の域を出なくて当然だ。
頭をひねって声で唸って七転八倒、耳まで捻れてたまにてゐに狙われて。
いくら考えてもこれだ! というものは出てこない。
質問するなら考えた証拠に正解に近いと思う推論を持って行くべきなのに・・・
さらに二十一転二十四倒したけれど、
答えが出ないので本人に直接聞きに行くことにした。
廊下を進んで、ぎしぎしいわせて、目的の部屋まで大冒険。
途中にトラップあったけど、いつものことだし気にしない。
引っかかっても痛くても、気合でこらえて気にしない。
行動先行入力・・・・ふすまを開ける。入る。用件を言う(叫ぶ)。先行入力終了。
「師匠、お邪魔します。質問があってきました!」
「何よイナバ。私は永琳じゃないわよ。」
「失礼しました!!!」
間違えた。ニー、あわわわ輝夜様の部屋だった。
うっかり悪口でも思ったりしたら後が怖い。口に出さなくても察するし。
全くここには部屋が多すぎる。あ、あれだあれだ。今度こそ間違いない。
「師匠、お邪魔します。質問があってきましゴフゥ!」
トラップがクリティカルヒット。はんまぁが腹直筋の辺り、たらいが頭頂部を直撃。
ここに来ると踏んで仕掛けていたようだ。
ああ、自慢の耳がつぶれてる。てゐ・・・・・覚えてなさい!
目的の人物、私の師匠、八意永琳はそこにいた。
畳部屋な自室にこもっていた。
よく片付けられている。物が無いのではない、片付けられている。
そこで師匠は作業中。よく分からないけど作業中。
薬学の勉強かな? それとも営業の関係かな? 涙目ながら考える。
「あら、何かしら? それに入る前に入っていいか聞くのが礼儀でしょ、
後でお仕置きね。そうね・・・146番の刑」
ってトラップと私の安否はスルーデスカ・・・。
微妙ににやけてる気がするし。もしかして共犯なんですか師匠?
ああ、差し込む光がまぶしい。ここはやっぱり日当たりがいい。(現実逃避)
・・・はぁ、お仕置きを喰らうことになってしまった、しかも146か。
147よりはましだけど興奮してたからなぁ。
まぁそれはともかく、質問、質問。
トラップが気にならなくなるほどこの疑問は大きい(と私は思う)。
「ええと、ごめんなさい。と、それは置いといて、
師匠って何で弓を右手に持って矢を左手に持つんですか?」
「説教を始める前に置いておくとはいい度胸ね。
しかもそうしてまで質問する内容がそれ?」
「だって気になるじゃないですか。右手に弓を持ったら、掛(かけ)も付けられないし
つがえても引けないじゃないですか」
これでも結構色々読んでいるし経験しているのでのでこれくらいの知識はある。
その知識に反する行動を師匠に取られて、ずっと混乱していたのだ。
それはそう、授業と教科書の内容が一致していないのと同じように、
会社の方針と上司の命令が一致しないのと同じように、
多大なストレスを感じるものだ。
「・・・ああ、これ? これはね、弓の形をしているけど弓ではないの。
形而上学的に言えば弓としても使えるかもしれないけれど、違う物よ。
これは弾を顕現するためのデバイスなの。普段、弾幕を放つとき、
あなたはどうしてる?」
そう指差しながら師匠が質問してくる。
しかしこの貌、美しいような可愛いような、これで性格さえ良けれブッ
「・・・質問に答えなさい」
少しトリップしてたからって手刀はないじゃないですかぁぁ
「わ、私ですか? ええと、弾幕のパターンとそれを顕現させる式を
脳内に描いて、そこに力を流して実行していますけど」
ふぅと溜息をつきながら師匠は続ける。溜息ついても美しい!
ああ、やっぱりこの人こそ私のお師匠様。ビバ! 師匠!
「そう、普通は顕現化する式も脳内にある。これはその式を別の物に移して
より複雑な式を組むための物なの」
少しトリップしそうな脳を落ち着けてと・・・話は分かった。
でも疑問があと二つ。
「じゃあその矢は何なんですか?」
撃ちもしない矢を持つ、それはよく考えなくてもおかしい事にしか思えない。
・・・あ、無駄の多い幻想郷ならありえるか。
でも持ってたのはここが幻想郷と気付く前からだし・・・ブツブツ(思考中)
「・・・頭抱えて何ぶつぶつ言ってるの? 頭から湯気が昇ってるわよ」
はっ、またトリップしかけていたらしい。
「す、すみません。で、それは何なんですか?」
「これは思考回路を一時的に退避させるためのデバイスよ。
ここに思考回路を退避させ、更に容量を空けて。そこに式を書き込むの」
今、平然とした顔でとんでもないことを言ったような気が・・・
その言葉を理解するのに数秒を要した・・・思考回路を退避?
「あの、それって結構危なくないですか?」
「そこは大丈夫、数多くの実験により安全が証明されてるわ」
ああ、こんなところでも犠牲者が、失敗したらどうするつもりだったんだろ。
「ただ、退避させた状態じゃ物をあまりうまく考えられないみたいなの、
だからそのときは姫様に書き込んでもらってるわ。
禁薬『蓬莱の薬』なんかがその結果ね。あれはいちいち書き換えずに
全て一つの式にしているからタイムラグもほとんどなしに
違う3つ以上のパターンの弾幕を張れるの」
どうやらそういうことだったらしい。これで残る疑問はあと一つ。
「そんなものでどこでどうやって手に入れたんですか?」
顔を上げて指を額に当てて考える師匠。やっぱり(以下略
「・・・さぁ、どこだったかしら。
ところであなたにガラス細工って教えていたかしら?」
「いえ、まだやったことはありません」
「そう、じゃあこれから教えるわ。ついて来て」
そう言って歩き始める師匠。急激な話題転換が少し怪しい。
着いた先はガラス細工室。なんだか少し薄暗い。一応、窓はあるけど小さい。
そこに奇妙なかまどは鎮座していた。
フイゴがあって薪をくべる所があって、火の出るところは絞られていて。
「ここでやってもらうわ。ちょうど廃棄処分前のガラス製品があるから
それを使って実習ね。まずは手本を見せるわ。」
そう言って、薪をくべさせるためにそこらへんの妖怪兎を呼びつける師匠。
八意永琳は手伝いを呼びながら過去に思いを馳せていた。
ウドンゲにはああ言ったけど、どうしてあんな物を持っているのかは
ちゃんと覚えている。アレをもらった時の事は昨日のように思い出せる。
まだ自分が月にいた頃、一応をそれなりに交流はあった。
友人達は自分が罪を犯しても、変わらず接っしてくれた。
本当にいい人達でだった。
そして運命の日、姫様を迎えに行く日。
『地上の民が抵抗したときは、遠慮なくこいつで圧倒してやれ』
そういって豪快に笑う、あの職人もそんな友人の一人だった。
その友人がくれたこのデバイス。結局はこの友人を裏切ることになってしまった。
後悔するつもりは無い。しかし済まなく思う気持ちは今でもやまない。
だが謝罪することはかなわない。あのときの友人達はもう既にいないのだ。
彼らの命は永遠ではないのだから。
薪をくべさせ、作業を始める。まずは毛細管。
口の欠けたガラス管を熱しながら、ポイントを説明する。
熱したガラスは紅く輝き、それを引き伸ばして毛細管を作る。
引き伸ばされたガラスは弓弦のように張り詰めて、しかし弦とは違い折れやすい。
それはまるで心のよう・・・
そこまで考えてやめた、考え事をしながらのこの作業は危ない。
他の操作も一通り教え、後は手元を見ながら考えることにした。
「じゃあ、あとは自分だけでやってみて」
ウドンゲの手の中でガラスが千変万化する。
ゆがみ、伸ばされ、しまいに折れる。
「ああー、また失敗」
・・・ガラスは心は炎の中で千変万化、すなわち炎は命の化身。
炎は命はいづれ尽きる、燃え尽き白い灰となる。
ならば我々はどうだろう・・・
ウドンゲの手の中でガラスは千変万化する。
溶けすぎ、切れて、鋭くとがる。
「危なっ! 指切るトコだった」
ガラスはときに凶器となる。凶器は狂気。狂気は心。心もまた凶器となる。
「きょうき」を心を作るは炎、命。
なら我々はどうだろう・・・
ウドンゲの手の中でガラスは千変万化する。
伸びすぎ、折れて、落っこちる。
「危なっ! 拾わなきゃ。熱っ! 触るとこ間違ったぁぁ」
・・・結構ひどい火傷のようね。さすがに考え事どころじゃないか。
「はいはい、応急処置するからついてらっっしゃい」
確か近くに氷とか救急箱とかを標準装備している簡易医務室があった。
「はい、これで指を冷やしときなさい」
そう言って氷の入った器を渡す。傷から色々入らないうちに対処しないと。
「はいぃぃ・・・・・あの、冷たくて痛いンですけど」
「それでも暫くはつけてなさい。耐えられなくなったら暫く時間を置いてから
またつけておくと良いわ」
そう言いつつ軟膏や包帯を用意する。
・・・薪をくべるのを手伝ってもらった妖怪兎も結構疲れているようね。
今回はここまでか・・・。
「はい、手をかして」
軟膏を塗ったガーゼを巻いてその上に包帯を巻く。
我ながら中々手際がいい。
「じゃあ残ったのを危険のないように加工してから処理するから手伝って」
また細工室に戻り、薪をくべさせる。
包帯を巻いたからこれくらいは大丈夫だろう。
「あうぅ、火傷痕が痛い・・・」
「それくらいは我慢しなさい。指先だけだから特に問題はないわ」
文句も封殺。ガラスの処理を始める。先を丸めて危険のないように。
長いのは切って切り口を処理。ひびのあるものも溶かしたり切ったり。
これまた我ながら手際がいい。余裕もある。
余裕があるとどうにも考えごとが・・・・・
・・・炎の中でガラスは変形、一生の中で心は変化。
しかし、私と姫の一生は終わらない。
これは絶えず変化し続けると言うことだろうか?
否、ガラスとて炎の中にあったとしても外からの力なくして変化は出来ない。
心もまた然り。
同じ物を持ち続け、見続けるのは苦痛。退屈という苦痛。置き去りと言う苦痛。
不変のものの宿命にして苦痛。私と姫の宿命。
なるほど大罪と言われる意味も分かる・・・・・
「・・・・・・ょうね」
そこまで考えたところでウドンゲの声が聞こえた。
「え? 何? 作業に集中しててよく聞こえなかったわ」
「え~? 本当ですか? 師匠にしては珍しい」
生意気なことを言い始める。ウドンゲにしては珍しい。
「うるさいわね。罰を147番にするわよ。で、なんて言ったの?」
「それは無いですよぉ・・・。
ですから、『この薪をくべる代わりに近くに住んでる火の鳥に
手伝ってもらえればらくでしょうねぇ』
って言ったんです」
何も涙目でまで訴えなくても。
可哀想だから146番のままにしといてあげましょう。
しかし、無茶な案をだすわねぇ。
「ウチの姫様と敵対しているのにそう簡単に協力してくれるかしらね」
「そこは月の頭脳であるお師匠様が考えて下さいよ。
紅白達を仲介するなり、仮想の共通敵にするなり、何かで釣るなり」
また無茶を言う。しかもこんなときだけ「お」と「様」が付いている。
調子がいいったりゃありゃしない。
・・・でも割といい案ね、確かに今なら前よりは実現がかなり楽だ。
私と姫は永遠の民。命の炎は尽きることは無い。
しかし変化できないのではないのだ。
外から力が加われば、不変の宿命も軽減される。
今回の変化もそのうちの一つ。
紅白たちのおかげで、少しだが大きな変化がどこかに起きた。
姫も言っていたではないか。過去はいくらでもやってくる。
今を楽しまなくてどうするのか。
永遠の民には他の民とは別の生き方がある、と。
「え~り~ん、食事はまだ~?」
考え事中に姫の声。噂をすれば影? この場合は違うか。
気が付けば日もいくらか傾いて食事時も近くなっていた。
「はい、こちらの作業が終わりしだい用意します」
ウドンゲが火傷を負っている以上手伝わないといけない。
その前に目の前の作業をっ・・・
「わっ! 早っ!」
私の手元を見ていたウドンゲが声を上げる。
あまりの手際に台詞がかなり短くなっているわね。
ここまで早いと余裕がなくて考え事もあまり出来ない。
といっても既に解決しているのだが。
「はい、終わり。ウドンゲ、食事の準備をするわよ」
「はい! って師匠待ってくださいよ。速すぎですよ」
永遠の民は「今」を生きる。常に永遠に。
ウチはガスバーナー使ってましたが、基本的に解ける温度は千度以上。
下手に触れば皮膚が焼き切れます。(私はトングス(焼けた物体を持つもの)でやりました。
あと、割れたガラスは予想以上に良く切れます。
私も指を深く切り、その跡は今でも残ってます。
というか146番って何!?
その痛みはよく分かります。
刑の番号はスペカ番号に対応しています。
それしか思いつかなくって・・・
ガラスの熱伝導性は低いので、熱していない所を持てば大丈夫です。
文花帖の挿絵では左手でピンセット持ってますね。