ゲーム内容を崩さない程度にではありますが、ストーリーの展開上、
スペルカードの順番、性質を一部変えているところがあります。ご了承ください。
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霊夢と魔理沙が紅魔館に向かっている間、レミリアは咲夜と博麗神社にいた。
「あの子も…。」
「え?」
ポツリと漏らしたレミリアのつぶやきに咲夜は反応した。
「あの子も、外に出してあげるべきなのかな?」
「妹様の事ですか?」
「そう。」
霊夢達が今紅魔館に向かっている理由は、そのフランドールのためだ。
普段、食事目的でたまに館を出ることもあるレミリアだが、食事以外の目的で外出することなど、これまでほとんどなかった。食事が済めばすぐに館に戻っていた以前と違い、今は一日この神社にいることもある。
そんな気配を察し、フランが動き出すのは当然だったのかもしれない。
しかし…。
「あの子は力が強すぎる。だから外に出さないようにしてきた。」
もし間違っても人間に危害を加えるようなことになれば…。
人間は危険因子を徹底的に排除しようとする。かつて、同じ人間でありながら、人間によって社会から排除され続けてきた咲夜にはそのことがよく分かっていた。
「フランも外に出ようとはしなかったし。」
そういってお茶を一口飲んだ。今日のお茶はいつもの紅茶ではなく、先ほど霊夢が淹れてくれた緑茶だ。
「でも、もしかしたらフランも外に出たがってたのかもしれない。ううん、きっとそうだわ。」
自分を慕い、常に自分の後を付いて来ていたフランドール。彼女もレミリアと同じように行動したかったはず。
「今更こんなこと考えるなんてね…。」
自嘲気味にレミリアはうつむきながら笑った。
「ねえ、咲夜。」
「なんでしょう?」
「私は…フランのためを思ってやってたつもりだった。でも、正しかったのかな、それとも間違ってたのかな?」
「さぁ、私にはお嬢様の正誤など、判断しかねます。ただ…私は従者ですので。私のお仕えすべき主はここにいるレミリア様、ただお一人です。」
レミリアはそんな咲夜の言葉を聞いてクスクスと笑い出した。
「それよりお茶のお代わりは如何ですか?紅茶とはちょっと勝手が違うので、霊夢ほど上手く淹れられませんが、ここのお茶はいいお茶のようですよ。」
「頂くわ。たまには緑茶も悪くないわね。」
その頃紅魔館では、フランドールと遭遇した魔理沙が、激しい弾幕の打ち合いをしていた。
紅魔館に着き、霊夢と二手に分かれて探索を始めた魔理沙は、再びパチュリーを退け、そして現在に至っている。
「あはは、あなたってすごいのね。他の人ならもうとっくにおちてるのに」
「はは、そう簡単にはやられてやれないさ。」
状況は明らかに魔理沙には不利だった。相手は相変わらず笑いながら弾幕を展開してくる。その弾幕の緻密さ、激しさ、どれを取ってもレミリアのそれを遥かに上回る。
が、魔理沙とて、唯一の例外を除いて、これまでもあらゆる相手に不利な状況からも勝ちを収めてきた。そう簡単にあきらめるわけにはいかなかった。
「フランはずっと館の中にいた…。」
場面は再び博麗神社。
「そして、必要な者としか接することなく生きていた。」
遠く、今は雨に濡れる紅魔館のある方角を見ながら、レミリアは言葉を続けた。
「他のメイド達はフランに逆らうことなんてなかったし、私も極力あの子の我儘は聞いてきた。」
ご自身も結構我儘をおっしゃいますけどね…。と咲夜は思ったが、口には出さなかった。
そんな咲夜の思考を読んだのか、レミリアはジト目で咲夜を眺めるが、しばらくして言葉を続けた。
「あの子にとって館での都合のいい生活は、やがてあの子の感情を喜怒哀楽のうち、「喜」や「楽」だけにしていったわ。」
笑顔であらゆる物を破壊していくフランドール。元々、あらゆるものを破壊する程度の能力を持っている彼女にとって、破壊する事そのものにはなんの感情も持たない。極々、自然なことなのだ。
そしておおよそ自分の思い通りになる生活。
だからこそ、怒や哀など普段使われることの滅多にない感情は、長い時間の中で忘れられていった。
「「哀」を忘れているから、その破壊力は加減を知らない。「怒」を忘れているから、殺気もない。」
「魔理沙!?」
ぶつかり合う魔力の気配を察し霊夢が戦いの場たどり着いたとき、魔理沙とフランの戦いは中盤に差し掛かろうとしていた。
「まだおちないの、あなた?」
フランドールは次のスペルカードを繰り出す。
―禁忌「カゴメカゴメ」
魔理沙の周囲を弾幕が囲む。カードの名前どおりに籠の中の鳥となる。しかし、この素早い鳥に籠など無意味だった。鳥は籠から逃げ出してしまう。
相手を仕留められていない事を確認すると、フランドールは次のカードを放つ。
―禁忌「恋の迷路」
これもまた突破口を見出した魔理沙の前には無力だった。
「私は恋の魔砲使い!そんな迷路なんて、すぐに抜け出してやるぜ!」
軽口を叩く魔理沙だったが、しかし消耗が激しいのは霊夢の目から見ても明らかだった。
「あなた、どうしてまだおちないの?」
同じ言葉が三度フランドールの口から零れる。
「へへ、諦めの悪い性格でな。」
そういってニヤリと笑う魔理沙。
「それに、そこにいるヤツにあんまり無様なトコ見せたくはないしな。」
魔理沙は霊夢が来ていたことに気づいていたようだ。
「そんなワケだから、霊夢。手出しは無用だぜ。」
フランドールからは目を離さず、魔理沙は一方的にそんな事を霊夢に言い放った。
「…分かったわ。」
魔理沙にそんなコトを言われては、霊夢はただ承諾するしかなかった。
「大して余裕がないワリには軽口を叩くのね。」
「余裕がないのはそっちだって一緒だろう?」
「それはどうかしら?」
フランドールは再び弾幕を展開する。
魔理沙が今しがた言った言葉は挑発や、ハッタリでもなかった。フランドールの方も余裕がない様子なのを口調から感づいてきていた。
おそらく、思い通りに墜(お)とせない自分に対して動揺している。
動揺は心を乱す。乱れた心は、魔力で以って展開される弾幕にも影響を与える。
(これなら…いけるか?)
しかし油断することなく、魔理沙も弾幕を展開した。
もう何度目になるのだろうか。フランドールは次なるカードを解き放つ。
―禁忌「フォーオブアカインド」
カードの魔力によって仮初の体を得た3体のフランドールが魔理沙の前に現れる。
魔理沙の放った弾が4体の内の一体に命中した。しかし手ごたえはない。
(本物以外には効き目がないってか…。)
全く同じ姿をし、同様に強力な魔力をもつ分身たち。その4体に魔理沙は翻弄されていた。
「…は…のね」
「え?」
「…あなたは自由にどこへでも飛んで行けるのね…。」
「わたしはずっと閉じ込められていたのに!」
最初は空耳かと思ったつぶやき声。
しかしそれは、目の前の4体のうちの2体が漏らした言葉だった。
「…お姉様はいつも自由に外に出ているのに…。」
「わたしだけが閉じ込められているのに!」
次々と呪詛のように言葉を紡ぎ出すフランドールの姿をした、フランドールに生み出された仮初のフランドール。
「…あのとき、あなたはわたしを連れ出してくれなかったじゃない…。」
「一人、わたしを置いていったくせに!」
「……?」
「…おかしいわね…。」
「え?」
魔理沙とフランドールの戦いを床から見上げていた霊夢の横から、突然声がかかった。
それは、先ほど魔理沙と戦っていたパチュリーだった。
「おかしいって、なにが?」
「妹様の様子…。人間相手に「フォーオブアカインド」まで使うことになっているからかしら…。」
明らかにいつもと様子がおかしい…。
「確かに、さっきから言ってることが意味不明だわ。」
「魔理沙と妹様が出会ったのはこれが初めてのはず…。」
魔理沙は知る余地もないが、4体のフランドール。それは彼女の喜怒哀楽。
そして、今言葉を漏らす2体は、フランドールの長い生の中で忘れかけていた「哀」と「怒」。
魔理沙やパチュリーの予想通り、フランドールは動揺していた。
これまで相対した相手はもっと簡単に墜とせていた。それが人間如きにてこずり、これまで長らく使うことのなかった「フォーオブアカインド」まで使うハメになるとは。
そして、ずっと使われることのなかった、動揺したフランドールによって発動させられたカードの魔力は、ずっと表に出てくることのなかった感情をも表に吐き出していた。
フランドールのこれまでを、特にレミリアから聞いていたわけではなかったが、彼女らの言葉からフランドールがどのような扱いを受けてきたのか、少しながら理解してきた。
しかし、たった今聞いた言葉は理解不能だった。あのとき?魔理沙にはよく分からなかったし、心当たりも全くなかった。
だが、これはチャンスだ。言葉を紡ぐ2体と黙ったままの2体。今までは区別のつけられなかった4体を判別することができる。消去法で考えて、黙ったままの2体に魔理沙はイリュージョンレーザーを打ち出す。
「くぅ!?」
命中した内の一体の表情が苦痛にゆがむ。と同時に3体のフランドールの分身が消滅する。
「聞こえたぜ、お前の心の中。」
「わたしが?わたしは何も言ってなんかいないわ。」
「いや、確かにありゃおまえだろ。」
今度は驚愕の表情を浮かべる。確かに言葉を漏らしたのは分身の方。しかしその分身自体はフランドールが生み出したもの。そのことにフランドール自身も気づいた。
「お前がどんな想いでずっとここにいたのか。私にもよく聞こえた。
だけどな、ひとつだけわからないんだ。お前の言った「あのとき」ってのは、いつなんだ?」
先ほどまでの激しい弾幕が嘘のように静まり返った空間。その中で魔理沙の言葉が続く。
「お前さん言ったよな、「閉じ込められてる」って。そのことに対してお前は怒ってるんだろ?なんでもない振りしてるだけで、…ホントは外に出たいんだよな?」
「違う!閉じ込められてたんじゃない!お姉様はわたしを守るために…!」
(違う?違わないでしょ?)
(え?)
これまで忘れて、心の奥底に追いやられていた感情が、今度はフランドール自身に語りかける。
(カゴメカゴメの檻にとらわれているのはわたし。お姉様への想いの迷路に迷い続けているのはわたし。)
(わたしが閉じ込められていたのは、お姉様がわたしを守るため。)
(でも、お姉様はわたしの事などお構いなしに外にでていく。わたしはただそれをいつも見送っていた。なんの感情もなく。でもそれは出たい振りをしていなかったわけじゃない。)
(ほんとはわたしも外にでたかったの…?)
フランドールの中で、レミリアへの想いと自分の気持ちとが渦巻き始める。
「違う…。」
「え?」
「違う!違う!違う!」
しかし心の中から語りかけてくる自分自身を否定するフランドール。
「…あなたといると、わたしの心がグチャグチャになる。」
フランドールは魔理沙のスキをついて再び間合いを広げる。
「なんなのこの気持ち!?わからない。わからないよ!」
「フラン…。」
初めて見せる感情剥き出しのフランドール。彼女は錯乱していた。
「でも今は、この気持ちがなんなのかはどうでもいい。あなたが来てからこんな気持ちになったの!こんなわけの分からない気持ちなんてイヤ!だから…消えて!」
フランドールが叫んだ瞬間、今度は彼女の姿が掻き消える。
―秘弾「そして誰もいなくなるか?」
しかし弾幕は正確に魔理沙を狙ってくる。
「フラン!」
魔理沙は姿は見えなくても、そこにいるであろうフランドールに向かって呼びかける。
魔理沙は理解していた。カードの意味を。
紅魔館という檻に囚われていたのは、他でもない彼女自身。「カゴメカゴメ」
恋のような、自分でもどうすることもできない感情にどうしていいのか迷う彼女。「恋の迷路」
紅魔館に、そして、レミリアへの想いに囚われ、新しい刻を刻めずにいるフランドールの心。「過去を刻む時計」
それは誰もが持つ、様々な自分の姿。「フォーオブアカインド」
今までずっと隠れていて、未だに出てこられない彼女の感情そのもの。「そして誰もいなくなるのか?」
だからこそ、囚われ、さ迷い隠れ続けている一人ぼっちの彼女を連れ出してやらなくてはならない。
「私を消すんだろ?お前が消えてどうする!?」
フランドールからの答えはない。ただ弾幕が執拗に魔理沙を追う。それがフランドールからの返事であるかのように。ただ、消えろという意思だけを込めて。
「だけど私は消えてやらないぜ!?お前がしっかりと出てくるまで、いくらでも待ってやる!
もう隠れる必要はないんだ!出て来い。お前の本当の想い私に見せてみろ!」
本気の魔理沙。真正面からぶつかってくる魔理沙。今までそんな存在はいなかった。
魔理沙と話をしていると不思議な気持ちになる。この気持ちはなんだろう?
心がグチャグチャになる。でも何故だか心地いい。
お姉様を困らせたくなかったのも本当。
でも、お姉様が外に出て行くのを見ているとなんだか心がチクリとする。
この気持ちはなんだろう?なんだかとてもイヤな気持ち。
魔理沙は言う。本当の想い。
本当?本当は私も外に出たかった?
でもそんなコトしたらお姉様は困るんじゃない?
本当のわたしはどうしたいの?なにをしたかったの?
お姉様を大好きなのはだれ?わたし?
外に出たいのはだれ?わたし?
フォーオブアカインドででてきたのはだれ?わたし?
あのときわたしに語りかけてきたのはだれ?わたし?
本当のわたし?わたし?
わたし?ワタシ?
…ワタシハ、ダレ…?
周囲に、何かが弾けたような感覚が走った瞬間、魔理沙に向かっていた弾幕が掻き消え、フランドールが姿を見せる。
ほっとして緊張を解く魔理沙だったが、異変に気づき再び身構える。
「あ…あ、あ、…ああ。」
フランドールは自分の体を抱きながら震えていた。
その初めての感情に。
今までずっと忘れていた感情に。
ずっと心の奥底に隠してきた感情に。
生きるものが持つ全ての感情に。
戸惑い、制御できず、自分を見失ったフランドールの魔力が、最後のカードを発動、否、暴走させる。
「あ…あ、あ…。あああああああああ!!!???」
―QED「495年の波紋」
絶叫。迸る魔力。ずっと押し殺してきた感情。
のけぞるフランドールからそれら全てが弾幕という形となって放出される。
波紋は際限なく広がり、波打ち、反射し、全ては相殺し合う。
このまま魔力を放出していればフランドールもこの紅魔館も、当然ここに居る魔理沙達も危険だ。
「フラーン!」
暴走する魔力、しかし魔理沙の声はフランドールには届かない。
「チッ、仕方ない。」
魔理沙は懐からカードを取り出した。
暴走しているフランドールを止めるには、ちょっとくらいの荒治療も止む無しと考えた。
「ちょっと痛いけどガマンしろよ?」
―恋符「マスタースパーク」
フランドールから溢れ出す波紋と、魔理沙から放たれた魔砲がぶつかり合う。
(フラン!)
(フラン?誰を呼んでいるの?)
それはぶつかり合う魔力と魔力の会話。
(お前に決まってるだろう!しっかりしろ!)
自分を見失ったフランドールの魔力は果てしなく高まり続けていたが、フランドール自身は弱々しかった。
(…イヤ…。もうイヤ。こんなのイヤ!)
(フラン、しっかりしろ!このまま魔力を放ち続けていては危険だ!)
(もうイヤ!こんな思いをするくらいならわたしが消える…。)
(何を言っているんだ?お前は私を消すんだったんだろ?そのときの勢いはどうした?)
(そんなの、もうどうでもいい。わたしが消えれば全部終わる。)
(バカ野郎!お前はずっと隠れたまま、そのまま消えてなくなるつもりなのか!?)
(…隠れた、まま…?)
(レミリアへの本当の想いを隠して、偽りの想いに囚われ、隠れ続けていていいのか?)
(本当の想い…。お姉様への本当の…。)
(想いを偽るな!過去の想いで止まったままの時計を動かすのは今しかないんだ!)
波紋に飲み込まれようとしていた魔砲の極光が、こんどは押し返そうとしていた。
(お前は外に出たいんじゃなかったのか?どうなんだ!?)
何度もフランドールに問いかけてきた事を再度、魔理沙は問いかける。直接、フランドールとぶつかり合いながら。
(私は、私は…。)
(今からでも遅くない。想いをブチまけちまえ!)
(私は…、外に出たい。外に出たいの。もう、一人ぼっちはイヤ!)
(それで十分だ!)
極光が波紋を突き破り、そのままフランドールを吹き飛ばす。
その魔砲の光を追いかけるように魔理沙は全速力で突っ疾(はし)る。片手でホウキをしっかりとつかみ、もう片方の手で吹き飛んだフランドールをしっかりと抱きとめる。
フランドールは、その姿、その見た目通りの重さしかなかった。
マスタースパークの直撃でフランドールは気を失っているようだった。
「…フラン?大丈夫…なわけないか…。」
それでもフランドールは魔理沙の呼びかけに目を開けた。
「フラン?」
魔力を放出し続けていた後遺症か、魔理沙に呼ばれたフランは困惑したような顔をしていた。
「…フラン?」
「ああ、お前はフランだろ?まさか記憶喪失にでもなったりしたんじゃないだろうな?」
フルフルと首を振るフランドール。
「…フラン…。」
今までフランドールをフランと呼ぶのはレミリアしかいなかった。
魔理沙に心を乱され、しかし魔理沙にフランと呼ばれ。
自分を見失った無意識のなか、魔理沙の呼ぶ声はこの上なく心強く聞こえ、今フランを呼ぶその声はとても心地よかった。
「お姉さまに困った顔をさせたくなかった。
だから、ずっとわたしは、お姉様が外に出て行くのを見送るだけだった。」
二人は床に降りてきた。
魔力の放出。マスタースパークの直撃。フランは立ち上がる気力もなかった。
そんなフランに魔理沙は膝枕をしてやっていた。
「だから、ずっとわたしも出たい、という思いを閉じ込めていた。」
ずっと昔、一度だけ外に出たいと駄々をこねたことがあった。
レミリアは困惑し、そして自分より遥かに強い魔力を持つ妹を全力で止めるしかなかった。そのときのレミリアを思い出すと、フランは外に出たいとは言えなかった。
「お姉様を困らせるような悪いコはお姉様に相手にしてもらえないと思ったの。だから、悪い子になっちゃいけない、って思ったの。」
なにより一人きりになる事を恐れたフラン。誰にも居なくなって欲しくない。それなら、自分が閉じこもればいい。フランはそう考えた。
「でも…。まちがってたんだね、わたし。想いはしっかり伝えなきゃ…。」
「あぁ。確かに、想いを押し殺して、イイ子でいようってのは間違ってるな。」
魔理沙はニヤリと笑いながら言った。
「その点、私はいつも自分の思うままに行動してるからな。迷ったりする事なんて全然ないぜ。」
「そうね。魔理沙はいつも自分に正直すぎるから、少しはイイ子になりなさい。」
「そのひねくれた性格はレミィに似たものがあるわね。」
戦いが終わり、魔理沙の近くにやってきた霊夢とパチュリーは笑いながら魔理沙に声をかけた。
「なんだよ、ヒドイな。私ほどの模範的少女はそうはいないぜ?」
そんなやり取りを見ていて、フランもクスクスと笑い出す。
「でもわたし、どうすることが一番いいの?これまで通り、お姉様を見送ってればいいのかな?」
魔理沙の膝枕から身を起こしてパチュリーや霊夢を見る。
「そうね…、外に出ることをレミィがそう簡単に承諾はして…」
「いいじゃないか、外に出してやれば。」
「なっ!?魔理沙、あなた勝手な…。」
「保護者がついてれば問題ないだろ?私が保護者だ。」
「!」
これまで館のメイド達でさえ、フランの事を恐れ、そんなことを言い出す者はいなかった。
それをこの人間はあっさり言い放った。
人間と悪魔。相知れない二つの存在で、さっきまでは実際に戦っていた二人。それなのに、魔理沙はさっきまでの事がなんでもなかったかのように、フランに手を差し伸べている。
「魔理沙…と?」
「そうだ。イヤか?」
そう問いかける魔理沙にフランはブンブンと首を振った。
「ああ、きっと楽しいぜ?」
そうか…。
パチュリーはなんとなく分かった。
魔理沙は別に妹様を救おうとか、そんな事を考えているわけではない。ただ、自分が楽しいと思えることに妹様を誘っているだけ。相手の都合なんて二の次に。
なんて自分勝手で、自分に正直な人間。
元々人間と会う機会なんてほとんどなかったけど、こんなにも不思議な人間は初めてだ。
こんなにも容易く妹様を外に連れ出すなんて。
そんなパチュリーもまた、知識のみの日陰から、魔理沙によってほんの少し外に連れ出されていた。
そのことにパチュリー本人は気づいているかどうか…。
「ねぇ、魔理沙。わたし、分からないことがあるの。」
魔理沙に向き直ってフランは問いかけた。
「あのね、わたし、ずっとお姉様が外に出て行くのを見送ってた。その時胸がチクリとするんだけど、これって何かな?」
「そりゃ、レミリアのことがうらやましかったんだな。フランも外に出たくて、それで胸がチクリと痛くなったんだな。」
「そっか、やっぱりわたしも外に出たかったんだね。」
「今度からは私が連れてってやるよ。レミリアもうやらましがるような場所にな。」
「エヘヘ、お姉様、どんな顔するかな?」
そういってフランは無邪気に笑った。
「もうひとつ聞いていい?」
「ああ、いいぜ?」
「わたし、魔理沙に「フラン」って呼ばれると、とっても嬉しいの。
でも嬉しいだけじゃなくて、とっても気持ちがよくて…。んと、んと…。」
フランは一生懸命この気持ちを表すのにちょうどよい言葉を捜している。
「お姉様に「フラン」って呼ばれた時とは違うんだけど…。よく分かんないけど、この気持ちは何かな?」
思わず霊夢とパチュリーは顔を見合わせた。
「そいつはだな…。」
そして、当の魔理沙はニヤリとして答えた。
「そいつは私では答えられないな。」
「えー?どうして?」
「ソイツの答えはフランが自分で見つけるんだ。」
「なにそれー?」
「フランがこれから生きていく中で見つけるんだ。」
それで答えが見つかったら、そのときは…、そのときはまた大変そうだなぁ…。
口を尖らせるフランを見ながら魔理沙は思うのだった。
「ふあぁぁ~…。」
大きなあくびをしたフランは、再び魔理沙の膝枕に頭を埋めた。
「ねぇ、眠くなっちゃった。」
「そうだな、今日は私も疲れた。遊ぶのはまた今度な。」
「今日も十分遊んでもらったよ。」
「はは、そうか。まあ、今度は別のコトして遊ぼうぜ。」
「うん。…じゃあ、今日は寝させてね…。」
そういうとフランは目を閉じた。
「さて、私もいつまでもこんな格好じゃいられないからなぁ。とりあえず、フランを部屋に連れて行こう。」
魔理沙はフランを膝枕したままだ。さすがに魔理沙も疲れていた。
「と言っても、今ある妹様の部屋は地下の部屋しかないわ。」
「それはあんまりだぜ?」
「分かってる。ひとまず、空いてる客間を使いましょう。」
「ついでに私にも部屋を用意してくれないか?今日は帰るのも億劫だぜ。」
やれやれ、とパチュリーはため息をついた。
ドコまでも自分勝手な人間だ。らしいと言えばらしいが…。
「じゃあ、妹様と同じ部屋で寝てるといいわ。起きたときに魔理沙が横に居れば妹様も喜ぶわ。」
「なら、そうさせてもらおうかな。」
よっ、とフランを抱え、立ち上がる魔理沙。
「私は帰るわ。神社にレミリア達もいるし。」
「事態は収まったから、さっさと帰ってくるようにレミィに伝えて頂戴。」
「ウチに長々と居させるつもりもないわ。私も今日は疲れたし。」
それじゃ、と手を振り、霊夢は紅魔館を後にした。
こうして紅魔館の騒動は、永い刻の中の想いと共に終わりを迎えた。
(もう大丈夫ね。)
眠りに就いたフランに語りかけるのは、今までずっと一人ぼっちだった、過去のフランドール。
(あなたにはもう、手を引いて迷路から連れ出してくれる人がいる。)
(うん、魔理沙だけじゃない。きっとお姉様も咲夜もパチュリーも霊夢も、みんなが私の手を引いてくれる。)
(もう、昔のフランドール・スカーレットじゃないのよ。今ここにいるあなたはフラン。魔理沙や、いろんな人達にそう呼ばれる、素敵な女の子よ。)
(フラン…。)
フランは魔理沙に呼ばれた、自分に呼ばれたその名前を噛み締めるように呟いた。
そんな様子を見てフランドールは優しく、しかし寂しそうに微笑む。
(でも…、時々でいいからフランドール・スカーレットという名前の女の子がいたことも思い出してね。)
(なにを言っているの。あなたとここでお別れなんて事はないのよ?)
(え?)
(わたしはあなた。あなたはわたし。あなたも本当のわたしなんだから、わたしたちはこれからもずっといっしょなのよ。)
フランドールから自然と涙があふれた。
(…うん。)
フランからも涙が零れていた。
(ありがとう。)
(わたしこそ、ありがとう。)
そしてフランは深い眠りに就いた。
広い紅魔館の中、魔理沙や霊夢、レミリア達と遊ぶ日々を楽しみにしながら。
フランの最後のスペカではもうキターーーーーって叫んでたw
orz<イヤダッテサ……
個人的には薄味に感じました。……比較するのもなんだけど、「そして誰も」があるからなぁ……
ラーメンに例えるとあっちはスッキリ濃厚(対極だって)なのに対してこっちはあっさりしつつ後味がうまい。
だから対極としては十分ですよ。
ハッ この配役だとレミ様がグングニルでパチュリーごと魔理沙を串刺しに!?
いや咲夜さんが博士の改造で若返りそうだからレミ様が「来い吸血鬼ども」ってレミ様も吸血鬼だよレミ様も。
でも「ゲァハハハハ」な霊夢も面白いなぁ。
パロディ作品を読むとどうも横道にそれたくなって困ります。
けど、面白かったです。
忘れた頃にやってきた書いたヤツです。
>MIM.E様
「そして誰もいなくなるのか」辺りは自分で書いてて
自分でもかなり盛り上がって書いてました(笑
>まっぴー様
元ネタがお分かりにならない中でもこのような評価をいただきありがとうございます。
「そして誰も―」の文章量による演出と描写は今の私にゃマネできませんが、
これからも精進していきたいと思います。
>無為様
そです、ここのパチュは脱ぐとすg(賢者の石
元の配役と照らし合わせると、また新たな世界が広がりますねぇ。
そしてまた新たなSSに…(笑
>月影 夜葬様
フランも宗○郎も難しいキャラだなぁ、と書きながら思ったりしましたが、
楽しんでいただけてなによりです。
>名前が無い程度の能力様
おお、おめでとうござます。ちなみに私は未だ紅EXに入ることもかなわずorz
こちらも精進しなくては…