「今日は甘いお菓子をご用意させていただきました」
* * *
「凄い苦い……」
それはお嬢様の口には合いませんでした。
「慣れるとそれが病みつきになるの」
お嬢様の親友――パチュリー様とお嬢様が一緒に珈琲を飲んでいらっしゃいます。苦いと言いながらもお嬢様は新鮮な感覚の体験に楽しそうです。
お嬢様は、吸血鬼として人々に畏怖されています。人の血を飲むお嬢様、しかしながら小食で血をこぼし服を真紅に染めてしまうお嬢様。そんなお嬢様を人々はこう呼んでいます。
『スカーレット・デビル』と。
私は素晴らしいと思います、なんとお嬢様にふさわしい二つ名でしょうか。誇り高く、美しい、その名は聞いただけでも震撼することができます。……ただ紅魔館内のお嬢様は、そのイメージとは全く違った一面を持っていました。それは――
「パチェ、この間の本がとても面白かったわ。
恋人同士の揺れ動く心と運命――美しいわね」
「ああいった繊細な心を持った人間はこの世に居ないわ。
幻想だからこそあの作品は美しく面白いのよ、レミィ」
――全くもって、普通の少女なのです。人間という種が卑しく穢れてしまった今でも、高貴かつ純粋な少女なのです。そんなお嬢様の二面性に憧れて、最近では憧れる者も少なくありません。
「――っと、咲夜聞いてる?」
「っ、申し訳ございませんお嬢様」
かくいう私も、そのお嬢様の魅力に憑かれております。そのせいか分かりませんが、遺憾な事にどうも私は最近集中力に欠けているようです。夜は疲れているのか、寝る前の記憶が無いことも頻繁にあります。お嬢様に仕えている身としてこのような不躾な私を恥ずかしく思います。
「さて、私はそろそろ図書館に戻るわ。じゃあねレミィ」
「ええ、パチェ。また後で」
そう言ってパチュリー様は御自室へ戻られました。
パチュリー様は、お嬢様の親友であられる御方です。この二人がどう出会ったかは私は存じません。
それもきっと素敵な運命の出会いだったのでしょう。
「咲夜」
「はい、何でしょうか」
「少し眠るわ」
「分かりました」
お嬢様が寝室へ向かわれるのでお供する。
さて、私も今日は眠るとしよう。――お嬢様の睡眠時間は非常に不規則だ。基本的に私はそのお嬢様に合わせ、それでいて少なめに睡眠を取る。それがお嬢様の御側で仕えさせて頂く私に課せられた決まりだ――お休みなさいませ。
* * *
「ふわぁぁぁ……もう夜?」
窓からは満月が覗いて見える、もうすでにこの空は私の時間だった。
心が昂る。
吸血鬼としての本能が騒ぐ。
夜を支配せよ、と。
「ちょっと夜の散歩に出てくるよ」
私はどこともなく、そう言った。
咲夜のことだ、既に起きて私の声がいつでも聞こえる場所に待機しているのは間違いない。従者としてこのうえなく素晴らしいが、もう少し休んでくれても良いと思う。まあ――彼女がそれで幸せなら――良いか。私は窓から羽根を広げ夜の空へ飛び立った。
「ん?」
紅魔館から帰路に付いている、黒い魔法使いがいた。
霧雨魔理沙だ。
おそらくパチェの元に訪れていたのだろう、手元には数冊の本が握られていた。本人は魔理沙に本を持ち出されるたび「もってかないでー」と嫌そうな反応を示してはいるが実のところはまんざらでもないだろう、傍目から見ても仲良くやっているように見える。あの唐変木に友達が出来たというのは、親友の身として嬉しいことだ。ちょっと図書館に寄って様子を見に行こう。
「いらっしゃいませこんばんわ、レミリア様。パチュリー様は奥にいらっしゃいます」
パチェの使い魔が私を出迎えてくれた。咲夜とはタイプがかなり違うが、これも良くできた従者だ。少し可愛すぎるのと度胸が足りないのが欠点か、私を迎えるときはいつも緊張しているのが分かる。
それにしても……相変わらず凄い本の量だ。以前初めて知ったのだが、ここには知識を綴った本だけではなく、物語を綴ったいわゆる小説も多く存在している。
「『“Lotus Land light and shadow”The first~Invasion of Tashina~』……全9部作?」
軽く読めるものから、長編まで。甘い話もあれば悲劇もある、この図書館に無い本は無い。
「また何か読みたくなった? それならこの作品『動かない時計』とかどう?」
「そうね、読ませてもらおうかしら。でも今はいいわ」
いつの間にか隣まで来ていたパチェにそう答えた。
そう、と呟いてパチェは机に戻るとけほけほと咳き込みながら私にこう頼んできた。
「ねえレミィ、今から夜の散歩よね。
悪いんだけど、コレにウナギを入れてきてもらえる?」
「う、ウナギ?」
おそらく何かの魔法の媒介にするのだろうが……。いつも変なものばかり使用している、これはどの魔法使いもそうなのだろうか。
「分かった、任せてパチェ」
「本当? ありがとう助かるわ」
親友の頼みを断るものか、ウナギなんて何処にあるか分からないけど。
私は『黄褐色の壷』を受け取って図書館を後にした。
……やはり気持ち良い。
快感が全身を襲う、この夜空と自分が一体化してるような錯覚さえ覚える。
この感覚を誰かと共有したいと思ったことは何度かある。それは相手を我が眷属に――吸血鬼に――すること。でも誘いをかけた者には全て断られ続けている。魅惑的な誘いだと思っていた私にとってそれは不思議で理解できなかった。
「誇りのある種族は吸血鬼に限らないわ」とはパチェの言った言葉だ。
……やはり分からない。
「八目鰻はいらんかね~、八目~八目~鰻だよ~」
ウナギだ。屋台でウナギが売っている。
八つ目があろうとウナギだ。
こんな簡単に見つかろうとは思いもしなかった。
「鰻くれ」
「へい毎度あり~……って、いつかの闇夜の恐怖!」
その屋台の店主は私を恐れた、やはり気持ちが良い。
「ああ、いつぞやの餓鬼か」
今思い出した、どっかで見たことのある鳥だと思ったけど。
「きょ、今日は何しに来たのよ!」
「ふん、フライにしてやってもいいけど今日は他に用がある。
ウナギを一つ渡しなさい、それで全てが丸く収まる」
威圧する。
普段、紅魔館に居る時とは違う。
私は夜の支配者、吸血鬼『スカーレット・デビル』なのだ。
そこらの妖怪など寄せ付けもしない圧倒的な力で周りを恐怖にいざなう存在だ。
「……お金は?」
「ないよ」
「じゃあ駄目、あげない」
「……何、渡さないというの? それなら屋台を壊してでも奪っていくわ」
「そんなことは、させない!」
……こいつ、何故私に逆らう?
ただの夜雀が、ただの餓鬼が何故恐れない? 何故立ち向かってくる?
「私は鳥として、焼き鳥撲滅のため、この商売に誇りと責任があるんだから!
誰であろうとも邪魔なんてさせないわ」
夜雀は空に飛び上がり戦闘態勢に入った。
分からない、何故戦う?
「吸血鬼に喧嘩を売るなんていい度胸だ。
いや売ったのは私なのか?
まあいい、2度と逆らえないようにしてやるよ」
“猛毒『毒蛾の暗闇演舞』”
夜雀が放ったそのスペルは、強い。並の人間ならば直撃は免れても毒気にあてられて死んでしまうだろう。だが私には効かない。弾幕自体も良く見ていれば造作も無く避けることができる。
「これが種族の格の違いというやつよ」
“獄符『千本の針の山』”
「……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
夜雀の叫びが響き渡った。呆気ない、これで私の勝ちだ。
時間が勿体無いとはいえちょっと力を出しすぎたかしら? まあ自業自得よね、これでもう身に染みて分かったはずよ。
「……うぅ……く……」
その夜雀は倒れながらも私を睨んでいた。
……分からない、なんなんだこいつは。ここで殺すか?
「……つ……ぼ……」
「!」
すっかり忘れていた、私は。パチェからもらった『黄褐色の壷』を持っていたことを。ふと見ればそれは3分の1程が欠けていた。これではウナギを入れて運ぶことはできない。
「……興が削がれたわ」
私は夜雀から眼を逸らした。いつまでもこいつは私を睨み続けた。……馬鹿馬鹿しい、相手にしないほうがいい。私は、自分にそう言い聞かせた。分からないけど、不愉快だった。
* * *
お嬢様は日が昇る直前に帰ってらっしゃいました。いつも側に居る私には、お嬢様が不機嫌な事が分かりました。珍しいこともあるものです、夜はいつも気持ちよく飛び回って帰ってらっしゃるのに。しかしこういう時こそ私がなんとかしなければいけません。
紅茶の時間がやってきました、今日はとびっきりのお菓子をお出ししましょう。
「お待たせしました。今日はアップルパイをお持ちいたしました」
普通のアップルパイではありません、ショートクラスト・ペイストリーに林檎と紅葉を詰めたものです。パフ・ペイストリーではなく、たまにはこういうのも味わって頂けたらと思い作ってみました。お二人とも美味しそうに召し上がっています。それでこそ誠心誠意を込めて作った甲斐があるというものです。お嬢様に少しでも幸せな味を楽しんでいただければメイド冥利に尽きます。
これでご機嫌も良くなられたでしょうか――
「レミィ、ウナギはどうだったかしら?
出来れば今日中に貴女に持ってきてもらいたいんだけど……」
「ウナギ……ねぇ、なんでそんなものが必要なの?」
「……レミィには関係ないわ」
お嬢様が少しムッとしたのが分かった。
「まあいいけど。ウナギは諦めてちょうだい、どうしてもというなら他の人に頼んで」
「分かったわ、そうする。じゃあ『壷』、返してくれる?」
「あれなら割れちゃったから他の使って」
――パリンッ!――
グラスが割れました。
「わ、割れたですって……」
「ええ、それがどうかしたの?」
――バンッ!――
机が音を立てました。
「ふざけないでレミィ! あれは――“Rubelrise Pocket”は――」
「……何よ」
「レミィ!」
「五月蝿いわね……、そんなくだらないことで。貴女のせいで昨日は散々だったし、最悪ね」
「いいから! 今すぐ破片を集めてきなさい!」
「冗談が過ぎるわ、なんで私が貴女のために動かなきゃいけないのかしら」
「何ですって……」
――ガタンッ!――
椅子が倒れました。
「図書館には来ないでね、邪魔だから」
「ああそう、行きゃしないわ」
――バシュンッ!――
魔法で飛んで行きました。
――事態が飲み込めません。どうしてこんな事になってしまったのでしょうか。たまたま機嫌の悪かったお嬢様、よくあるパチュリー様の無愛想な反応、壷の事故、不機嫌のせいで素直に謝る余裕も無かったお嬢様。そんな不運のおかげで、このお二人が仲違いをしてしまうという有りそうで全く無かった事態が起きてしまいました。私はどうしたらいいか分からずその場を立ち尽くしてしまいました。とりあえず割れたグラスのお掃除をするべきでしょうか――――はい終わり、時を止めればこのくらいは0秒しかかかりません。ですが今のお嬢様を治す術を私は持っておりません。ああ、私は駄目なメイドです。
「咲夜」
「はい」
「どっちが悪かったと思う」
「そりゃあもう、おj」
「ハイパースカーレットウイング!」
――ドガァッ!――
「モガガル!?」
私は奇声をあげ吹っ飛びました。
「……何故にモガガル?」
私にも分かりません。
「よお、なんか楽しそうな事やってるなあ」
気がつくと黒いのがやってきました。Gではありません、霧雨魔理沙です。正直、誰かが来てくれてとても助かりました。今のピリピリしたお嬢様と2人きりで居るのは神経が持ちません。
「魔理沙、悪いけどあなたの相手をしている気分じゃないわ。
パチュリーなら図書館に居るからさっさと行きなさい」
「ああ、違うんだ。今日はお前に用があってきた」
「私に?」
ぽかん、とお嬢様が驚いています。私も驚いています。魔理沙はお嬢様と話すことはありましたが、目的はいつもパチュリー様かフランドール様でした。一体どんな用件があるのでしょうか。
「そう、まあ気晴らしに付き合うとするわ。何の用かしら」
「その……だな、パチュリーについてなんだが」
お嬢様を見ると、予想通りムッとした顔が見れました。
「パチュリーが欲しがりそうな……好きなモノってなんだか教えてくれないか?」
「「……は?」」
ハモりました。
* * *
イライラを晴らせると思ったら、魔理沙が出して来た話題はパチェの事でがっくりした。しかし次の言葉には私は驚きのあまり訳が分からなくなった。「パチュリーの好きなモノを教えてくれ」と魔理沙は言った。確かに魔理沙は最近パチェと仲が良い、それは知っている。仲が良い友達にプレゼントをあげる、それは自然だ。でもなんだこの魔理沙の様子は、顔を赤らめて恥じらうかのような素振りをして、それはまるで恋する乙女そのものじゃないか。いやいや、まあ落ち着こう。結論付けるのは早い、ちょっと確かめてみよう。
「魔理沙、パチェが好きなの?」
「ああ好きだぜ、恋してる」
「「……」」
咲夜までポカンとしてる、無理も無いか。魔理沙がこんなところまでもが真っ直ぐなんて思ってなかった。そうか、魔理沙はパチェが好きなのか。同性同士なんて些細な問題は私は気にはしないが、あの唐変木をそんなに好きになる人間が居るなんて。親友としては喜ぶところだろう――親友、か。素直に喜べなかった。さっきあんな喧嘩をしてしまったせいだろう、そもそもなんで喧嘩になったんだっけ?
「で、どうなんだ? 何をあげたらパチュリーは喜ぶかな」
「本ね」
「本ですね」
「本か」
パチェといえば本しかない、というのは安易な考えだ。長い付き合いの私にはその他にも色々と思い当たるものはある。でも魔理沙に教える気はなかった。
「そうか分かった。じゃあ今日は帰るぜ」
「あら、パチェの元には行かないの?」
「今夜会う約束してるんでね、それまでは行かない」
またな、と言って魔理沙は帰っていった。
魔理沙には同情する。パチェを好きになってくれたことは嬉しいが、魔理沙がもし告白したとしてもおそらく却下されるだろう、しかも無愛想な反応で。おそらくとてもショックの大きい断り方をするに違いない、とその場を想像してみて感じた。可笑しくなった、とりあえずパチェをからかいがてら祝いに行くか。
……さっきは意地になってしまったけど、ちょっと私が悪かったかもしれない。壷もきっと大事な物だったんだろう、割ったのは私の所為なんだからなんとかしないといけない。それにしてもパチェはいつになく真剣だった、ウナギがそんなに重要だったのだろうか。分からない、いくら考えても分からない。ただ、私がパチェの真剣な思いを無下にしてしまったのは事実で、とても悪いことをしたのは理解した。
冷静になった私の中で、色んな考えを頭の中が巡りまわった。
「咲夜」
「はい」
「世の中には、私には分かりえないけど――真剣な想いで頑張ってる事がいくつもあるのね。
それを踏みにじった私が悪かった、反省したわ」
「お嬢様、ご立派ですわ」
「じゃあ用意しなさい、咲夜」
「パチュリー様と仲直りしてくださるんですね」
「いえ、その前に。メイド数人と木材、そしてお金を用意して」
「……はい? いえ、分かりました」
私は本棚の影に身を潜めた。ここからはパチェの事が良く見える、入り口も良く見える。どうやら小悪魔は居ないようだ、すでに就寝しているのだろうか。もしくは魔理沙が来る時は席を外してもらってるとか……それはないかな。しばらくすると魔理沙がやってきた。良く見ると本を持ってきている、早速今日プレゼントするのか。……まさか今日いきなり告白する予定なんだろうか、それは……楽しみでしょうがない。こうやって普段の2人の様子を観察しようと思い立って除いてみたが、初日にして思わぬ収穫が得られそうだ。フられた魔理沙は後で思い切りからかってやろう。
「待たせたなパチュリー」
パチェは黙っていた、つれないわねぇ。
「約束だよな、今夜答えを聞かせてくれるって」
「……」
「私はお前にもう伝えた、なんならまた言うぜ。
お前のことが好きだ、欲しい」
聞いてるこっちが恥ずかしい……けど、なんか予想以上にたまらない展開になってる。パチェは既に告白を受けていたのか、そして今夜返事をする約束だった、と。焦らしてフるなんて罪な女ねえ。
「さあパチュリーはどうなんだ、私の事を……」
「……」
おかしい。流石におかしい、いつまで黙ってるんだろうパチェは。もしかして寝てる? そんな訳無いか。でも目を閉じてる、考え事でもしているかのように。まさか……迷ってる? 告白を受けるか、受けないか? いやいやパチェに限ってそんなことはないだろう。しかし、どうしてパチェが黙っているのか私には全く分からない。
「……黙秘は、承諾と受け取るぜ?」
「……」
まだパチェは目をつぶって黙り続けている。どうしたっていうのパチェ? あなたはもしかして本当に……。
魔理沙はしばらくするとパチェの肩に手を置き、顔を近づけていった。
まさか……するの……? 魔理沙……? ……パチェ……どうしたの……?
ちょっと……ま……待って……そ、そんな…………そんなの…………い――
――『壷』に一滴の雫が落ちた――
「ごめんなさい」
目を開き、沈黙の時を破ってパチェが最初に発した言葉はそれだった。
「魔理沙には本当に仲良くしてもらって……私は嬉しかったわ。
私をそこまで好きになってくれたことも本当に嬉しいわ。
でも、ごめんなさい。私は貴女が望むような関係にはなれないわ」
パチェの眼差しは真っ直ぐ魔理沙を見ていた――美しかった。
「そう、か」
「本当にごめんなさい、貴女には感謝してるのに――」
「パチュリー、私は嬉しかったぜ。
お前がそうやって真剣に悩んだ上で、答えてくれたからな」
「……魔理沙」
「気にするなって、断られるのは予想してたよ。
ああそうだ、今日はプレゼントがあるんだ。ほれ、グリモワールだ。
誰が書いたか知らんが凄いぞ、絶対に破られない合成魔術の作り方が書いてある。
ああ、気にしないで受け取ってくれよ。是非私がパチュリーに使って欲しいんだ」
「分かったわ、ありがとう魔理沙」
「どういたしまして、だ。
さて帰るとするかね、また明日来るぜ」
「いつでも……歓迎してるわ」
「……ふう、今夜は雨が強そうだな」
魔理沙は帽子を深めに被って外に出て行った。
「で、いつまで隠れてるの」
――ドキッ!――
視線が合ってた。
明らかにバレてるようだ、私はすごすごとその身をさらけ出した。
「あー、うー、んー、そのねー、私はねー」
「ごめんなさい」
「えっ」
不意を付かれて私は変なところから声を出してしまった。
「昼は言い過ぎた、私が悪かったわ」
「ち、違うわ、悪かったのは私よ。
むしゃくしゃしてたからつい……冷たい反応しちゃって。本当にごめん、パチェ」
「そのむしゃくしゃしてた原因はもう解決したの?」
「ええ。ついでに……『壷』と、その破片。
あとウナギも持ってきたわ、8つ目があるけど」
「レミィ……。でもごめんなさい、もうウナギは必要ないのよね。
あとそれは目じゃなくて、エラが目に見えるだけよ」
「あら、そうなの」
「私ね、魔理沙の真っ直ぐな想いに向き合えなかったの。
それで魔法の力を借りて答えようと思って“Rubelrise Pocket”、
なんでも願いが叶うその壷を――ああ、効力は弱いけどね――使おうと思ったの。
そしたら壷が割れたと聞いて焦ったわ、どうすればいいのか分からなくなった。
でもそれで良かった、私はあのままじゃ魔理沙の真剣な想いを踏みにじるところだったのね」
「――奇遇ね。私もさっき、真剣な想いの大切さを学んだところよ」
「……」
「……」
「……ふっ、うふふふ」
「……はっ、あははは」
なあんだ。私たちは結局、親友だったのだ。いつでも共に歩む関係――決して壊したくない。
「と・こ・ろ・で」
「なに?」
「レミィ、泣いていたの?」
「ぇ」
「涙の後があるわ、なんで泣いてたのかしら」
「な、泣いてなんかないわよ。これは、な、涙なんかじゃないんだからっ」
「レミィ、貴女のそういうところがとっても可愛いのよね――」
――ドンッ!――
私はパチェに本棚に向かって押し倒されてしまった。
「妬きもちやいてくれたんだ?
もうレミィったら……私は親友の貴女が居ればいいのに。
そこらへんの恋なんかにかまけたりしないわよ、いつでも貴女が全て」
「ちょ、ちょっとパ、パチェ――んむっ!」
「――――――――」
「――――んーっ! はぁ、はぁっ、駄目よ、こんなところでなんて……」
「いいじゃない、どうせ皆もう寝てるわ」
「そういう問題じゃ――んんっ――――――」
* * *
流石に今日はやりすぎたか――レミィは私を振りほどいてすぐに部屋に逃げてしまった――レミィは可愛いからついああやって苛めたくなってしまうわ。
「それにしても――ウブよね」
彼女はウブだ、繊細すぎる。周りのメイド達からは普段は畏怖され憧れられているのに、こんなにも……脆い一面があるなんて。
彼女自身は知らないが、メイド達の間ではこの一面が知れ渡り、最近は二つ名まで付いてしまっている。
「全く……今日も私が寝室まで運ぶのかしら?」
本棚の影に隠れた彼女――真っ赤に染まって倒れているメイド長を見ながら、今日も気が重くなるばかりだった。
メイド長の二つ名を本文中では明記しないあたりがにくいですね。
また、壺にウナギを入れるという行為があまりにもメタフォリカルで、ついつい紳士らしからぬ想像をしてしまいました。
で、ウナギは使ったんですよね?
氏ぐらいの筆力があるならばレイアウトについても気を使ってほしいなーと。
視点については、作品のテーマや目的を鑑みればころころ変わるのは致し方ないのかなぁ、と思いつつ。
非壊れのどちらかといえば原典に近い天然ボケ成分を表面にした咲夜さん。珍しいですねぇ。
全体的にキャラが原典に近い、そんな魅力を感じましたね。レミリアの威圧的な部分とか、咲夜さんとか。
それにしても面白かったです。
壊れの境界すれすれを行ったような咲夜さんも、パチェレミも良いお味です。
ご馳走様でした。
でもとつぜーんのフィーバーは反則じゃないかなぁ(鼻血だらだら
>>ぱじゃま紳士様
目をつぶって黙秘いたします。
>>銀の夢様
えっと、行間を空けるということでしょうか?
確かに重い作品ならともかく、今回のような綺麗な短編イメージならば、ちゃんと視覚的な面からもスッキリさせるべきだったかもしれません、要考。
>>おやつ様
おっしゃるとおりです。
当初の流れに追加したミスティアの部分がどうも浮いて目立ち、
掘り下げすぎると重く長くなってしまうし……(短く綺麗が最優先)、でも書きたいし……
という葛藤があり、出来たのがこちらになります。
ギリギリなんともないか?くらいの気持ちでしたが、やはりバランスを読み間違えましたか。
今後の明確な課題になりました。
>>七死様
だってラブいのを書きたかっただk(ry