時間は流れゆく。此方から彼方へと。
刹那と永遠を繰り返しながら、此岸から彼岸へ向かい行く悠久と瞬間の流れ。それは、誰もが見ることが出来ながら、誰にも感じることが出来ず、誰にもわからない、泡沫の階。
朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て。
無限に繰り返されるリズムの中に生きているもの達は、瞬間の中に生きているのか。はたまた、去りゆく悠久の中に生きているのか。
それを考えると頭が痛くなるので、誰も考えない。
考えるのが、バカらしい。
さっと、伸ばした黒髪を揺らしながら。その神社の主は、夜空を見上げる。
「いい月」
中天高く、ぽっかりと浮かんだ大きなまん丸は、見事なくらいの輝きを放って星々を圧倒していた。
夜空という、黒いキャンパスの上に不規則に配置された輝きの中心で、ひときわ、力強く輝くそれは、人の目を引きつけてやまない。
ぼーっと、その絵を見つめていた彼女は、ぽん、と手を打った。
「お月見しましょう」
全く唐突な発言だった。
しかし、彼女自身、それが唐突であるとは思っていないだろう。ただ、流れに身を任せていたら、自然とそんな考えが思い浮かんでしまって、それを否定する要素も見あたらないから、頭の中でそれを肯定したまでに過ぎないのだから。
それに、お風呂にも入って、気分もさっぱりしていることだし、と。後付で理由を考えると、板張りの廊下を渡って、空を最もよく眺められるところまで移動することにする。別段、その場でそれを見つめていてもいいのだが、妙に無粋なような気がしたのだ。それは、人工物が身を包む、今の自分の姿を、空に重ね合わせているからなのか――。
廊下を渡り、やってきたのは、神社の境内が一望できる場所。
しかし、
「ごきげんよう。今日は、とてもよい月ね」
先客がいた。
全く、一体いつの間に現れたのか。そこに座る先客は、片手に升を持ち、脇に何かの液体――恐らくは、酒だろう。いつの世も、月見と言えば月見酒だ――を入れた瓶を置いている。
「一杯いかが?」
勧められるそれを断るいわれはなかった。
無言のまま、その隣に腰を下ろすと、差し出される小さな升を受け取る。なみなみと、そこに酒がつがれるのを待ってから、切り出す。
「お暇なのね」
「お暇ですわ」
あっさりとした答えだった。
まぁ、それは当然か、と納得しながら、受け取った酒を口にする。芳醇な香りと、甘い味が口の中一杯に広がった。それは、舌と鼻を楽しませた後、喉を下り、灼けるような熱を伴いながら胃の腑へと落ちていく。
「湯浴みの途中だったのかしら?」
「残念。終わった後」
「そう。だから、髪が湿っていたのね。
けれど、そんな肌襦袢一枚で。風邪を引いても知らないわよ」
大きなお世話、とばかりに、彼女は手にした升を突き出した。すでに中身は空っぽになっている。
「風流ですこと。願うならば、すすきと鈴虫の声音でもあれば、立派なお月見でしたわね」
「鈴虫なら、えーっと……あいつ……えっと……」
頭の中に浮かぶ人――そう言うカテゴリでくくるには値しない相手なのだが――を思いだそうとするのだが、顔はあれども名前は出てこず。
結局、思い出すのをやめて、二杯目の酒を口にする。
「まぁ、ともあれ。
季節にあわないお月見もいいものでしょう」
「そうね」
それには、反論する意思はなかったようである。
しばしの間、肩を並べて空を眺めながら、
「で?」
「何?」
「何しに来たの?」
その問いかけに。
「あら。わたしが用もなく、あなたの所に現れると思っていたのかしら」
「やろうと思えば、どこにでも、いつだって現れることが出来るくせに。あんたの無節操は、今や、知らないものがいない方が珍しいんじゃない?」
「まあ。人をぼうふらのように」
彼女はくすくすと笑いながら、その皮肉を受け流す。
三杯目の、酒。
「まぁ、用事もなく、うちに来るなとは言わないけど」
そう言って、彼女は左手の掌を上にして差し出した。
「これは?」
「お賽銭」
年がら年中、空っぽの賽銭箱を指さす。
きょとんとなる。
「何、その顔」
「いいえ」
ゆるゆると首を左右に振り、彼女は笑った。
「物的なものに絆を求めるなんて、あなたらしくもないわね――と、思っただけのこと」
そう言って、お賽銭の代わり、というわけではないのだろうが。まだ中身の入っていた彼女の升の中へ、酒をついでくる。
「ちょっと。ピッチが早いわよ」
「この程度で酔いつぶれる人じゃないでしょうに」
「……ったく。
いいわ、これで騙されてあげる」
ぐいっと、一気に中身をあおって、ぷはっ、と息をつく。
うっすらと、アルコールの香りがそこに混じっていた。その匂いをかいだのか、
「まあ、いい匂い」
うっとりとして、声を上げる。
「いい月ね」
「いい月ね」
「満月には、いい思い出、ないけどね」
「それはいつの頃の話だったかしら」
「さあ。
つい最近だったような気もするし、遠い昔に過ぎ去ったことのような気もする。どっちだったかな」
健忘症、というわけではない。
この世界では、そして、彼女たちがいるこの場所では、時間というものは、その程度の区切りしか示さないものだという証だった。
「けれど、きれいな月を見て、心が躍らない奴はいないわね」
「どこかでは、殺しあいをやっていそうだけど?」
「あそこの従者を連れてきて、餅つきしてもらったら、もっと風流に過ごせるかしら」
「わたしはおもちよりも、美味しいお酒があればいいわ」
じゃあ、自分で持ってきたその酒は何なんだ、と。彼女は問いかけようとして、それをやめた。
「本当に、美しい月ですこと」
その顔に、妖しい切れ間が浮かび、
「憎らしいくらいに」
ぞっとする音色が混じった。
その言葉に、彼女の視線は、わずかに険しくなり、隣に座る女へと向く。彼女の瞳は月を見上げながら、そこにはない何かを見据えているようでもある。憎々しげに。そして、儚げに。
「変な顔、しないでよね。怖いわよ」
「あら。わたし、そんな顔をしていたかしら」
「してた。
何、この世の中が嫌になったの? それなら、いくらでも暴れてくれていいわよ。私に退治される気があるのなら」
「冗談を」
おほほ、とお上品に彼女は笑うと、
「一回、痛い目を見ているものね」
「あれはまぁ……」
人差し指で頬をかきながら、過ぎ去った日のことを思い出す。
「さあ、お酒がないわよ」
また、升の中に酒が注がれた。
「ねえ」
自分の分の升にも酒を注いでから、口を開く。
「あなたは、どう思う?」
「は?」
唐突に語られる、主語抜きの言葉。何を、と続けようとして、相手が口を開いたために、彼女は言葉を飲み込む。
「此方と彼方。どちらを見る?」
「……えっと?」
「簡単よ。
瞬間を大切にするか、永遠を大切にするか。それを聞いただけ」
「よくわかんないわね」
実際、よくわからないのだ。
質問の意図が読めないというか……何が言いたいのか、そもそもそれ自体がわからないというか。遠くを見据えたその瞳からは、何も見いだすことが出来ない。
「たとえば、よ」
指先を、すっと月に向ける。
「あのように、悠久に輝き続けるか」
それとも、と。
「あれのように、指先一つで消えてしまう光を見つめ続けるか」
その指先が示すのは、境内を照らす、小さな灯り。弱々しい光しか放てないそれは、周囲を埋め尽くす、圧倒的な闇には抗すべくもなく、ただ、寒々とした玲瓏たる灯火を放つだけだ。
「だから、何が言いたいの?」
「わたしは、刹那を生きるものの気持ちがわからない」
「……」
「わたしが悠久を生きてしまうからなのか、それとも、悠久故に永久なのか」
「けれど、悠久も、刹那の連続じゃない」
その一言に。
相手の目が、まん丸になった。驚いているらしい。
何か調子狂うわね、と彼女はぼやくと、
「だからさ、その無限の時間だって、小さな連続の積み重ねでしょ? あの月だって、今は昔、の時代から輝き続けてきたわけだけど、永久の光を放っているわけじゃない。小刻みに刻まれた光が連綿と連なり、それが悠久の流れに見えているだけで。
それから考えてみたら、あんただって、永遠じゃないでしょう」
「永遠……偽りの?」
「……あいつらはあいつらで、また別物で」
その言葉で思い浮かぶ人物達を頭に浮かべると、彼女は苦笑とも、苦笑いともつかない笑みを浮かべた。そう言えば、彼女たちは、今宵の月夜でも、やっぱり人様に迷惑かけているんだろうかと思うと、ため息が出てしまう。
「けれど……そうね。その通りなのかもしれないわ。
あなた達、人間は、刹那の中にしか生きられないから、刹那という瞬間に刻まれるものを思い、固定し、意識する力に長けているのかもしれないわね」
「まぁ、そうかもね」
「悠久を生きたい?」
「まっぴらごめんよ。私は、永遠に生きてみたくなんてない。そりゃ、不老不死、っていうのには興味があるけれどね。
だけど間違いなく、手に入ったら興味をなくしてしまうわ。
お酒だって、永遠にあるんじゃ、一生飲まないし。いつか腐っちゃうから、『今日は飲んでやらないとな』って思えるんだし。それにさ、永遠って事は、時間が止まってしまうと言うことでしょ?
それじゃ、熟成して美味しくならないじゃない」
面白いたとえだった。
ぐいっと升の中の酒をあおると、いい加減、酒が回ってきたのか、彼女は頬を赤くして息をつく。
「あなたにしては珍しいわね。これっぽっちのお酒で酔っぱらうなんて」
「ああ、もう。月の魔力に冒されたかな」
けらけらと笑いながら、体を伸ばす。
ん~、と伸びをしてから、軽く立ち上がって、
「あんたは、永遠なの?」
「さあ。悠久なのかしらね」
自分の分の酒を見つめながら答えをなす。その応えに、彼女はひょいと肩をすくめた。
「長い時間を生きることが出来てしまうから、刹那への印象が薄れてしまうのね。ああ、してみると、わたしはおバカなのかしら」
「バカね。間違いなく。
その自堕落な生活を何とかした方がいいかも」
「それはあなたに言われたくなくてよ」
「……うぐ」
そうきたか、と。
反論できない自分を恨めしく思いながら、言葉に詰まる。
「けれど」
静かに上げた指先で。
「刹那を切り取って永遠にすることが出来たら、素敵じゃないかしら」
「そうかな?」
「わたし達みたいに、悠久とも言える長い時間を生きてしまうもの達にとってみれば、それはきっと、魅力的な提案よ。だって、忘れないんだから」
すっ、すっ、と月を、夜のとばりと一緒に切り取る。
「こうして切り取った時間を、わたしはわたしの中に飾り続けるの。そうしたら、それは刹那の永遠。二度と忘れない。こうして過ごしていること、こうして時を数えたこと、こうして生きたこと」
「それも忘れてしまうの?」
「それが夢幻の泡沫」
寄せては返す波の如く、一定のリズムを繰り返しながら、浮かんでは消えて、消えては浮かびを繰り返す。しかし、決してとどめておくことは出来ない。浮かんだ泡沫は弾けて消えてしまう。自分の中から、刹那が消えていく瞬間が、まさにそれだった。
「わたしは忘れたくないわ。永遠に刻みたい」
「どうして?」
「だって」
ふふっ、と微笑む。
「寂しいじゃない」
その一言は。
「……は?」
彼女に、思わず、声を上げさせるのに充分だった。
あまりにも間抜けな顔を浮かべる彼女を見て、思わず、笑ってしまう。
「寂しいって……あんたが?」
「そうよ。寂しいの。
わたしだって、女の子なのよ?」
「……えーっと。
女の子、の定義を辞典で調べてきた方がいいわよ? ああ、何なら、私が貸してあげるわ」
「結構」
ぴしゃりと言い放つ。
本気で、彼女の場合、辞典を探しに行きそうだったからである。失礼しちゃうわ、と唇をとがらせながら、
「あなただって、そうでしょう?」
「女の子?」
「違う違う。
あなただって、誰かのことを忘れてしまうのは、辛いことでしょう?」
「別に」
「あら、そう。淡泊なのね」
「いや、追求しなさいよ」
あっさりと納得されて、彼女はツッコミを入れた。
しかし、それすらも無意味なものにされてしまう。相手が浮かべている笑顔は、無為なものにほど近く、だが、見つめていると、魅了されるほどに美しい。
「まぁ……うん。そりゃ、忘れるのはどうでもいいけど、忘れられるのは辛い……かな?」
「身勝手ね」
「身勝手で結構。
そーよ、私は身勝手な巫女さんよ。今日も気ままにあちこち飛び回って、家に帰ってきて空っぽの賽銭箱に嘆く日々を送るのよ」
彼女は投げやりに言うと、踵を返した。
「おねむかしら?」
「何か興ざめしちゃった」
彼女は肩をすくめて苦笑した。
その刹那、
「……?」
何、とは問いかけなかった。
自分の手を引っ張っている、その指先を見つめて。ただ、視線だけを相手へと向ける。
「ここにいなさい」
命令口調。
しかし、それは裏を返せば、強い意思の表れとも言える。珍しい、と思わず彼女が口走るほどに。
「わたしはね」
静かに、言葉を紡ぐ。
「存在を確定的にしてみたいのよ」
「すればいいじゃない。あんたなら、それくらい、楽勝なんじゃないの?」
「わたしには、あなた達の心までを操ることは出来ないわ。やれば出来てしまうのかもしれないけれど、それに意味を感じない。あえて、あなた達の自由意思の中に生きていたいから」
「自由意思……ね」
「わたしという刹那を、あなた達の中にある永遠に刻みつけたいの。
そして、あなた達という一瞬を、わたしの中に刻みたい。でも、それはわたしにはかなわないから。だから、あなた達に、刻んでもらうのよ」
「ち、ちょっと?」
その手が、そっと彼女の頬にかかる。
暖かい掌の感触が伝わってきて、彼女は思わず、身を引いた。しかし、相手は自分に迫ってくる。
次第に追いつめられ、その背中が柱にどすんと当たった。もう逃げられないと悟って、顔が引きつる。
「な、何考えてるのよ、こらっ」
「あなたにはわからないわね。人の苦しみがわたし達にわからないように、わたし達の苦しみは人にはわからない」
「わかった。わかったから。
ちょっと、酔ってるの?」
「寂しいのは嘘じゃないわよ」
「……いや、だからさ……」
「此方にある一瞬の時間の区切れを想い出というのなら。それに輝く月が悠久を刻みながらも想い出として残るのは、すなわち、そういうこと」
「むっ……」
唇が押し付けられた。
ふんわりと柔らかくて、暖かい。触れる雫は、先ほどまで口にしていた酒なのか、それとも、切なさと寂しさの混ざり合った言葉の涙なのか。
「ふっ……ん……」
わずかに唇が割り広げられると、そこから舌が入れられた。
ゆっくりと、それが彼女の口の中を動き回り、彼女を捜し当てて、絡み合う。
体にかかる暖かさは。体にのしかかる重さは。唇に触れるこの鼓動は。
一体、何なんだろうか。
「ふぁ……」
二人の間を、うっすらとつなぐ銀の糸は、何を示すのか。
「ちょっと……」
「一瞬という名前の泡沫が爆ぜないようにするには、それに手心を加えてしまえばいいものね」
「……ったく」
「あら?」
突き出される升を見て、声を上げる。
「飲む。口直し」
片言で喋る彼女に、くすくすと笑ってから、新たな酒瓶を用意する。
「今度のは、ちょっとアルコールが強いわよ」
言った通り、鼻を突く芳香がした。
それでも構わずに、ぐいっと彼女は酒を飲み干すと、
「第一、魔よけの神社に魔のあんたが平然とよってくるって事自体が間違いなのよ」
「それだけ、あなたは好かれているのよ。
者にも、物にも、鬼(もの)にも、存在(もの)にも。素敵じゃない。ここには、あなたという刹那を永遠にとどめてくれるものが、一杯いるのよ」
そう言って。
「わたしもその中に加えてもらいたいものね」
「いやよ、紫。
あんたなんて、絶対に、忘れてやる。今夜の酒は格別よ」
そう言って、彼女は、半ばやけ酒のごとく酒をあおり始めた。全く、見ていて可愛らしい。
「いいじゃない、口づけの一つや二つ。
ああ、それとも、あなたはそれくらいのことで頬を赤くするほど、うぶなのかしら?」
「くぅ~っ、酒がしみる~」
こちらの話など、聞いちゃいない。
もっとも、これはあえて、こちらのセリフを無視しているのだろうが。そんなセリフも、なぜか、愛おしく思えてしまう。
淡く、儚い、夢のごとく消えていく命に過ぎないくせに。
なぜ、ここまで誰かを引きつけて放さないのだろうか。
「ほら、あんたも飲みなさいよ。せっかくのきれいなお月様なんだから」
「そうね。
それじゃ、月見酒の再開と行きましょうか。素敵なお供え物も、あることだしね」
「……お供え物?」
「霊夢の艶姿」
「……殴るよ?」
こめかみ引きつらせ、拳を握る。
冗談よ、と笑う紫の顔は、どこか……満ち足りていて。それを見ていると怒りも消えて行ってしまい、ただ、酒を飲むことに集中する。
ああ、空が回る。目が回る。
揺れる酒の水面に映る自分の顔は、真っ赤だった。
これは酒で酔っているからだ。だから、変な意味では、決してない。
自分に言い聞かせながら、もう一杯、酒をあおって。
「ん」
「はいはい」
苦笑しながら、酒をついで。
「此方より彼方に流れゆく時の流れは、刻の音色を聞こしめす。
してみると、あなたのそばにいると聞こえるこの音は、あなたが持つ時間の音色なのかしら」
「詩的なセリフね」
「もう一杯、いかが?」
「……ん」
まだ升の中には酒はあった。
にも拘わらず、彼女はその升を置いて。
「言っておくけど、お酒が飲みたいだけだからね」
「はいはい」
紫は自分の分の升から酒を一口、口にすると。
そっと、霊夢の唇にそれを重ねる。
唇を通して伝わってくるこの暖かさは、酒だけの温かさなのだろうか。それを考えると、どうでもいいや、という気になってきて。
しばらくの間、二人は、暖かな雫を味わい続けた。
ゆっくりと、月が翳っていく。
それは、彼女たちに気を利かせたからなのだろうか。
それとも、紫が言うように、永遠をやめることで刹那となり、時間の中に、己の姿を刻むためなのか。
閉じていく夜の闇の中。
「泊まってくの?」
「どうしようかしら」
「布団ならあまってるわよ。うち、なぜか人がよく来るからね」
「あら。それなら、お邪魔するわね」
「明日、ちゃんと起きろよ」
「それは保証できかねるわ」
「威張るな、バカ」
そんな声が響き渡り。
「……さっさと寝れば、ちゃんと起きられるっての」
「さっさと寝かせてくれるの?」
声だけが残って。
やがて、消えていった。
刹那と永遠を繰り返しながら、此岸から彼岸へ向かい行く悠久と瞬間の流れ。それは、誰もが見ることが出来ながら、誰にも感じることが出来ず、誰にもわからない、泡沫の階。
朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て。
無限に繰り返されるリズムの中に生きているもの達は、瞬間の中に生きているのか。はたまた、去りゆく悠久の中に生きているのか。
それを考えると頭が痛くなるので、誰も考えない。
考えるのが、バカらしい。
さっと、伸ばした黒髪を揺らしながら。その神社の主は、夜空を見上げる。
「いい月」
中天高く、ぽっかりと浮かんだ大きなまん丸は、見事なくらいの輝きを放って星々を圧倒していた。
夜空という、黒いキャンパスの上に不規則に配置された輝きの中心で、ひときわ、力強く輝くそれは、人の目を引きつけてやまない。
ぼーっと、その絵を見つめていた彼女は、ぽん、と手を打った。
「お月見しましょう」
全く唐突な発言だった。
しかし、彼女自身、それが唐突であるとは思っていないだろう。ただ、流れに身を任せていたら、自然とそんな考えが思い浮かんでしまって、それを否定する要素も見あたらないから、頭の中でそれを肯定したまでに過ぎないのだから。
それに、お風呂にも入って、気分もさっぱりしていることだし、と。後付で理由を考えると、板張りの廊下を渡って、空を最もよく眺められるところまで移動することにする。別段、その場でそれを見つめていてもいいのだが、妙に無粋なような気がしたのだ。それは、人工物が身を包む、今の自分の姿を、空に重ね合わせているからなのか――。
廊下を渡り、やってきたのは、神社の境内が一望できる場所。
しかし、
「ごきげんよう。今日は、とてもよい月ね」
先客がいた。
全く、一体いつの間に現れたのか。そこに座る先客は、片手に升を持ち、脇に何かの液体――恐らくは、酒だろう。いつの世も、月見と言えば月見酒だ――を入れた瓶を置いている。
「一杯いかが?」
勧められるそれを断るいわれはなかった。
無言のまま、その隣に腰を下ろすと、差し出される小さな升を受け取る。なみなみと、そこに酒がつがれるのを待ってから、切り出す。
「お暇なのね」
「お暇ですわ」
あっさりとした答えだった。
まぁ、それは当然か、と納得しながら、受け取った酒を口にする。芳醇な香りと、甘い味が口の中一杯に広がった。それは、舌と鼻を楽しませた後、喉を下り、灼けるような熱を伴いながら胃の腑へと落ちていく。
「湯浴みの途中だったのかしら?」
「残念。終わった後」
「そう。だから、髪が湿っていたのね。
けれど、そんな肌襦袢一枚で。風邪を引いても知らないわよ」
大きなお世話、とばかりに、彼女は手にした升を突き出した。すでに中身は空っぽになっている。
「風流ですこと。願うならば、すすきと鈴虫の声音でもあれば、立派なお月見でしたわね」
「鈴虫なら、えーっと……あいつ……えっと……」
頭の中に浮かぶ人――そう言うカテゴリでくくるには値しない相手なのだが――を思いだそうとするのだが、顔はあれども名前は出てこず。
結局、思い出すのをやめて、二杯目の酒を口にする。
「まぁ、ともあれ。
季節にあわないお月見もいいものでしょう」
「そうね」
それには、反論する意思はなかったようである。
しばしの間、肩を並べて空を眺めながら、
「で?」
「何?」
「何しに来たの?」
その問いかけに。
「あら。わたしが用もなく、あなたの所に現れると思っていたのかしら」
「やろうと思えば、どこにでも、いつだって現れることが出来るくせに。あんたの無節操は、今や、知らないものがいない方が珍しいんじゃない?」
「まあ。人をぼうふらのように」
彼女はくすくすと笑いながら、その皮肉を受け流す。
三杯目の、酒。
「まぁ、用事もなく、うちに来るなとは言わないけど」
そう言って、彼女は左手の掌を上にして差し出した。
「これは?」
「お賽銭」
年がら年中、空っぽの賽銭箱を指さす。
きょとんとなる。
「何、その顔」
「いいえ」
ゆるゆると首を左右に振り、彼女は笑った。
「物的なものに絆を求めるなんて、あなたらしくもないわね――と、思っただけのこと」
そう言って、お賽銭の代わり、というわけではないのだろうが。まだ中身の入っていた彼女の升の中へ、酒をついでくる。
「ちょっと。ピッチが早いわよ」
「この程度で酔いつぶれる人じゃないでしょうに」
「……ったく。
いいわ、これで騙されてあげる」
ぐいっと、一気に中身をあおって、ぷはっ、と息をつく。
うっすらと、アルコールの香りがそこに混じっていた。その匂いをかいだのか、
「まあ、いい匂い」
うっとりとして、声を上げる。
「いい月ね」
「いい月ね」
「満月には、いい思い出、ないけどね」
「それはいつの頃の話だったかしら」
「さあ。
つい最近だったような気もするし、遠い昔に過ぎ去ったことのような気もする。どっちだったかな」
健忘症、というわけではない。
この世界では、そして、彼女たちがいるこの場所では、時間というものは、その程度の区切りしか示さないものだという証だった。
「けれど、きれいな月を見て、心が躍らない奴はいないわね」
「どこかでは、殺しあいをやっていそうだけど?」
「あそこの従者を連れてきて、餅つきしてもらったら、もっと風流に過ごせるかしら」
「わたしはおもちよりも、美味しいお酒があればいいわ」
じゃあ、自分で持ってきたその酒は何なんだ、と。彼女は問いかけようとして、それをやめた。
「本当に、美しい月ですこと」
その顔に、妖しい切れ間が浮かび、
「憎らしいくらいに」
ぞっとする音色が混じった。
その言葉に、彼女の視線は、わずかに険しくなり、隣に座る女へと向く。彼女の瞳は月を見上げながら、そこにはない何かを見据えているようでもある。憎々しげに。そして、儚げに。
「変な顔、しないでよね。怖いわよ」
「あら。わたし、そんな顔をしていたかしら」
「してた。
何、この世の中が嫌になったの? それなら、いくらでも暴れてくれていいわよ。私に退治される気があるのなら」
「冗談を」
おほほ、とお上品に彼女は笑うと、
「一回、痛い目を見ているものね」
「あれはまぁ……」
人差し指で頬をかきながら、過ぎ去った日のことを思い出す。
「さあ、お酒がないわよ」
また、升の中に酒が注がれた。
「ねえ」
自分の分の升にも酒を注いでから、口を開く。
「あなたは、どう思う?」
「は?」
唐突に語られる、主語抜きの言葉。何を、と続けようとして、相手が口を開いたために、彼女は言葉を飲み込む。
「此方と彼方。どちらを見る?」
「……えっと?」
「簡単よ。
瞬間を大切にするか、永遠を大切にするか。それを聞いただけ」
「よくわかんないわね」
実際、よくわからないのだ。
質問の意図が読めないというか……何が言いたいのか、そもそもそれ自体がわからないというか。遠くを見据えたその瞳からは、何も見いだすことが出来ない。
「たとえば、よ」
指先を、すっと月に向ける。
「あのように、悠久に輝き続けるか」
それとも、と。
「あれのように、指先一つで消えてしまう光を見つめ続けるか」
その指先が示すのは、境内を照らす、小さな灯り。弱々しい光しか放てないそれは、周囲を埋め尽くす、圧倒的な闇には抗すべくもなく、ただ、寒々とした玲瓏たる灯火を放つだけだ。
「だから、何が言いたいの?」
「わたしは、刹那を生きるものの気持ちがわからない」
「……」
「わたしが悠久を生きてしまうからなのか、それとも、悠久故に永久なのか」
「けれど、悠久も、刹那の連続じゃない」
その一言に。
相手の目が、まん丸になった。驚いているらしい。
何か調子狂うわね、と彼女はぼやくと、
「だからさ、その無限の時間だって、小さな連続の積み重ねでしょ? あの月だって、今は昔、の時代から輝き続けてきたわけだけど、永久の光を放っているわけじゃない。小刻みに刻まれた光が連綿と連なり、それが悠久の流れに見えているだけで。
それから考えてみたら、あんただって、永遠じゃないでしょう」
「永遠……偽りの?」
「……あいつらはあいつらで、また別物で」
その言葉で思い浮かぶ人物達を頭に浮かべると、彼女は苦笑とも、苦笑いともつかない笑みを浮かべた。そう言えば、彼女たちは、今宵の月夜でも、やっぱり人様に迷惑かけているんだろうかと思うと、ため息が出てしまう。
「けれど……そうね。その通りなのかもしれないわ。
あなた達、人間は、刹那の中にしか生きられないから、刹那という瞬間に刻まれるものを思い、固定し、意識する力に長けているのかもしれないわね」
「まぁ、そうかもね」
「悠久を生きたい?」
「まっぴらごめんよ。私は、永遠に生きてみたくなんてない。そりゃ、不老不死、っていうのには興味があるけれどね。
だけど間違いなく、手に入ったら興味をなくしてしまうわ。
お酒だって、永遠にあるんじゃ、一生飲まないし。いつか腐っちゃうから、『今日は飲んでやらないとな』って思えるんだし。それにさ、永遠って事は、時間が止まってしまうと言うことでしょ?
それじゃ、熟成して美味しくならないじゃない」
面白いたとえだった。
ぐいっと升の中の酒をあおると、いい加減、酒が回ってきたのか、彼女は頬を赤くして息をつく。
「あなたにしては珍しいわね。これっぽっちのお酒で酔っぱらうなんて」
「ああ、もう。月の魔力に冒されたかな」
けらけらと笑いながら、体を伸ばす。
ん~、と伸びをしてから、軽く立ち上がって、
「あんたは、永遠なの?」
「さあ。悠久なのかしらね」
自分の分の酒を見つめながら答えをなす。その応えに、彼女はひょいと肩をすくめた。
「長い時間を生きることが出来てしまうから、刹那への印象が薄れてしまうのね。ああ、してみると、わたしはおバカなのかしら」
「バカね。間違いなく。
その自堕落な生活を何とかした方がいいかも」
「それはあなたに言われたくなくてよ」
「……うぐ」
そうきたか、と。
反論できない自分を恨めしく思いながら、言葉に詰まる。
「けれど」
静かに上げた指先で。
「刹那を切り取って永遠にすることが出来たら、素敵じゃないかしら」
「そうかな?」
「わたし達みたいに、悠久とも言える長い時間を生きてしまうもの達にとってみれば、それはきっと、魅力的な提案よ。だって、忘れないんだから」
すっ、すっ、と月を、夜のとばりと一緒に切り取る。
「こうして切り取った時間を、わたしはわたしの中に飾り続けるの。そうしたら、それは刹那の永遠。二度と忘れない。こうして過ごしていること、こうして時を数えたこと、こうして生きたこと」
「それも忘れてしまうの?」
「それが夢幻の泡沫」
寄せては返す波の如く、一定のリズムを繰り返しながら、浮かんでは消えて、消えては浮かびを繰り返す。しかし、決してとどめておくことは出来ない。浮かんだ泡沫は弾けて消えてしまう。自分の中から、刹那が消えていく瞬間が、まさにそれだった。
「わたしは忘れたくないわ。永遠に刻みたい」
「どうして?」
「だって」
ふふっ、と微笑む。
「寂しいじゃない」
その一言は。
「……は?」
彼女に、思わず、声を上げさせるのに充分だった。
あまりにも間抜けな顔を浮かべる彼女を見て、思わず、笑ってしまう。
「寂しいって……あんたが?」
「そうよ。寂しいの。
わたしだって、女の子なのよ?」
「……えーっと。
女の子、の定義を辞典で調べてきた方がいいわよ? ああ、何なら、私が貸してあげるわ」
「結構」
ぴしゃりと言い放つ。
本気で、彼女の場合、辞典を探しに行きそうだったからである。失礼しちゃうわ、と唇をとがらせながら、
「あなただって、そうでしょう?」
「女の子?」
「違う違う。
あなただって、誰かのことを忘れてしまうのは、辛いことでしょう?」
「別に」
「あら、そう。淡泊なのね」
「いや、追求しなさいよ」
あっさりと納得されて、彼女はツッコミを入れた。
しかし、それすらも無意味なものにされてしまう。相手が浮かべている笑顔は、無為なものにほど近く、だが、見つめていると、魅了されるほどに美しい。
「まぁ……うん。そりゃ、忘れるのはどうでもいいけど、忘れられるのは辛い……かな?」
「身勝手ね」
「身勝手で結構。
そーよ、私は身勝手な巫女さんよ。今日も気ままにあちこち飛び回って、家に帰ってきて空っぽの賽銭箱に嘆く日々を送るのよ」
彼女は投げやりに言うと、踵を返した。
「おねむかしら?」
「何か興ざめしちゃった」
彼女は肩をすくめて苦笑した。
その刹那、
「……?」
何、とは問いかけなかった。
自分の手を引っ張っている、その指先を見つめて。ただ、視線だけを相手へと向ける。
「ここにいなさい」
命令口調。
しかし、それは裏を返せば、強い意思の表れとも言える。珍しい、と思わず彼女が口走るほどに。
「わたしはね」
静かに、言葉を紡ぐ。
「存在を確定的にしてみたいのよ」
「すればいいじゃない。あんたなら、それくらい、楽勝なんじゃないの?」
「わたしには、あなた達の心までを操ることは出来ないわ。やれば出来てしまうのかもしれないけれど、それに意味を感じない。あえて、あなた達の自由意思の中に生きていたいから」
「自由意思……ね」
「わたしという刹那を、あなた達の中にある永遠に刻みつけたいの。
そして、あなた達という一瞬を、わたしの中に刻みたい。でも、それはわたしにはかなわないから。だから、あなた達に、刻んでもらうのよ」
「ち、ちょっと?」
その手が、そっと彼女の頬にかかる。
暖かい掌の感触が伝わってきて、彼女は思わず、身を引いた。しかし、相手は自分に迫ってくる。
次第に追いつめられ、その背中が柱にどすんと当たった。もう逃げられないと悟って、顔が引きつる。
「な、何考えてるのよ、こらっ」
「あなたにはわからないわね。人の苦しみがわたし達にわからないように、わたし達の苦しみは人にはわからない」
「わかった。わかったから。
ちょっと、酔ってるの?」
「寂しいのは嘘じゃないわよ」
「……いや、だからさ……」
「此方にある一瞬の時間の区切れを想い出というのなら。それに輝く月が悠久を刻みながらも想い出として残るのは、すなわち、そういうこと」
「むっ……」
唇が押し付けられた。
ふんわりと柔らかくて、暖かい。触れる雫は、先ほどまで口にしていた酒なのか、それとも、切なさと寂しさの混ざり合った言葉の涙なのか。
「ふっ……ん……」
わずかに唇が割り広げられると、そこから舌が入れられた。
ゆっくりと、それが彼女の口の中を動き回り、彼女を捜し当てて、絡み合う。
体にかかる暖かさは。体にのしかかる重さは。唇に触れるこの鼓動は。
一体、何なんだろうか。
「ふぁ……」
二人の間を、うっすらとつなぐ銀の糸は、何を示すのか。
「ちょっと……」
「一瞬という名前の泡沫が爆ぜないようにするには、それに手心を加えてしまえばいいものね」
「……ったく」
「あら?」
突き出される升を見て、声を上げる。
「飲む。口直し」
片言で喋る彼女に、くすくすと笑ってから、新たな酒瓶を用意する。
「今度のは、ちょっとアルコールが強いわよ」
言った通り、鼻を突く芳香がした。
それでも構わずに、ぐいっと彼女は酒を飲み干すと、
「第一、魔よけの神社に魔のあんたが平然とよってくるって事自体が間違いなのよ」
「それだけ、あなたは好かれているのよ。
者にも、物にも、鬼(もの)にも、存在(もの)にも。素敵じゃない。ここには、あなたという刹那を永遠にとどめてくれるものが、一杯いるのよ」
そう言って。
「わたしもその中に加えてもらいたいものね」
「いやよ、紫。
あんたなんて、絶対に、忘れてやる。今夜の酒は格別よ」
そう言って、彼女は、半ばやけ酒のごとく酒をあおり始めた。全く、見ていて可愛らしい。
「いいじゃない、口づけの一つや二つ。
ああ、それとも、あなたはそれくらいのことで頬を赤くするほど、うぶなのかしら?」
「くぅ~っ、酒がしみる~」
こちらの話など、聞いちゃいない。
もっとも、これはあえて、こちらのセリフを無視しているのだろうが。そんなセリフも、なぜか、愛おしく思えてしまう。
淡く、儚い、夢のごとく消えていく命に過ぎないくせに。
なぜ、ここまで誰かを引きつけて放さないのだろうか。
「ほら、あんたも飲みなさいよ。せっかくのきれいなお月様なんだから」
「そうね。
それじゃ、月見酒の再開と行きましょうか。素敵なお供え物も、あることだしね」
「……お供え物?」
「霊夢の艶姿」
「……殴るよ?」
こめかみ引きつらせ、拳を握る。
冗談よ、と笑う紫の顔は、どこか……満ち足りていて。それを見ていると怒りも消えて行ってしまい、ただ、酒を飲むことに集中する。
ああ、空が回る。目が回る。
揺れる酒の水面に映る自分の顔は、真っ赤だった。
これは酒で酔っているからだ。だから、変な意味では、決してない。
自分に言い聞かせながら、もう一杯、酒をあおって。
「ん」
「はいはい」
苦笑しながら、酒をついで。
「此方より彼方に流れゆく時の流れは、刻の音色を聞こしめす。
してみると、あなたのそばにいると聞こえるこの音は、あなたが持つ時間の音色なのかしら」
「詩的なセリフね」
「もう一杯、いかが?」
「……ん」
まだ升の中には酒はあった。
にも拘わらず、彼女はその升を置いて。
「言っておくけど、お酒が飲みたいだけだからね」
「はいはい」
紫は自分の分の升から酒を一口、口にすると。
そっと、霊夢の唇にそれを重ねる。
唇を通して伝わってくるこの暖かさは、酒だけの温かさなのだろうか。それを考えると、どうでもいいや、という気になってきて。
しばらくの間、二人は、暖かな雫を味わい続けた。
ゆっくりと、月が翳っていく。
それは、彼女たちに気を利かせたからなのだろうか。
それとも、紫が言うように、永遠をやめることで刹那となり、時間の中に、己の姿を刻むためなのか。
閉じていく夜の闇の中。
「泊まってくの?」
「どうしようかしら」
「布団ならあまってるわよ。うち、なぜか人がよく来るからね」
「あら。それなら、お邪魔するわね」
「明日、ちゃんと起きろよ」
「それは保証できかねるわ」
「威張るな、バカ」
そんな声が響き渡り。
「……さっさと寝れば、ちゃんと起きられるっての」
「さっさと寝かせてくれるの?」
声だけが残って。
やがて、消えていった。
ふたりの境界はあいまいだけど、でも確定できるものもある。
たとえば女の子といわれて呆れられるt(スキマ
私もこのカップリングは好きだと叫んでみる。
さて、途中まで霊夢の相手を勘違いしていました。口づけあたりでおや?と思いましたが。
味わい深い文体ですな。
良い作品をありがとう……
疲れた身体にゆかれいむが染みわたりました。
おもしろかったです。