夜なので今晩は。上白沢慧音だ。
これからすることを説明しようか。
毎度の事ながら妹紅と輝夜の殺し合いを静めようとしている私だが、うん百年と説得し続け、今だ二人は首を縦に振ってくれたことがない。
「私は死なない上に、いくらでも輝夜を殺せるのよ。最高だと思わない」
つーか最高に不幸だろうと何度言っても妹紅は聞かん。
代わって輝夜に問うと毎度の如く。
「暇だしねえ。面白いじゃない、弾けて死ぬと中のモノが色々飛び散るし。綺麗だわ」
これぞ死に際の弾幕ねー、とかけらけら笑うのだが、目は笑ってない。
そうしていつしか私は思うようになったのである。
あー、駄目だなこれ無理。
だって二人は不死だから死ぬこと自体が無価値だし。
なんか恨みあってるっぽいから出会ったら殺し合いが始まるし。
幻想郷にいる限り二人の出会う確立は限りなく高いし。
あの二人が幻想郷外で暮らせるとは思わんし。
しかも現状に満足してる。
基本設定からして四方八方塞がりきりで、どうにもこうにも動かせない。
だがしかし。
そこで諦めないのがワーハクタク。
私の『歴史を創る程度の能力』。
こいつでちょちょっと歴史を弄って設定捏造してしまえば、妹紅と輝夜に仲良く手を繋がせスキップしながらピクニックも簡単である。
ああいや、もちろん私も分かっているさ。
私が歴史を弄って二人を仲直りさせたところで、それは本質的な解決にならない。
あくまでもこれは、現在の二人を静める参考にするだけなのだ。
ちみっと二人の設定を変えてみて、その様子を観察してから今に生かすのだ。
当然、観察後、歴史は元に戻す。
よし、これで今から私のやることがわかったかな。
↓
1.妹紅と輝夜の歴史を二人の仲が良くなるよう、ちょっとだけ変えてみる。
2.その歴史の結果を観察。
3.仲の良い二人に満足してから元に戻す。
4.参考にして今を頑張る。
どぅーゆーあんだすたん?
今、ちょうどよく私の目の前で妹紅と輝夜がいつも通り熱い殺し合いを繰り広げている。
次のような感じだ。
「ふふ、妹紅。どうやら今回は私の勝ちのようね」
「くっ!」
「今日は時間があるから、ハンバーグが作れるようになるまでミンチしてあげるわ」
ぶしゅー、ぐちゃっ
「頭は潰さない。泣き声が聞けなくなるもの」
「ぐ、あああああぁぁああああぁぁあああぁぁ!!!!」
ああ、これはあれだな。もっと二人ともお互いに愛情を持つべきだ。
その方向で、なかったことに。
~歴史修正『もし、妹紅と輝夜が愛し合っていたら』~
「輝夜!!」
今日は十五夜。
そう思うほど大きくて丸い満月の光が辺りを照らし、さながら舞台劇のように永遠亭の三人を映し出している。
輝夜は後ろに控えた永琳を片手で制し、妹紅は必死の形相で輝夜を見つめる。
「どうだ輝夜、龍の首の五色の珠、南海の燕の子安貝、火鼠の裘、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、五つの難題全てを解いて見せたぞ。これでおまえは私のものだ。今すぐ結婚してもらおうか!!」
展開早いな。
愛情あまって求婚したのか妹紅の奴。
それを聞いた輝夜はゆっくりと、ゆっくりと一言一言を噛み締めながら返事を返した。
「ええ、これで私と貴方の愛は永遠。二人を繋ぐ永遠は他人を隔てる障壁。永久に約束された関係は崩れることなく連綿と続いていくでしょう」
妖艶に微笑む輝夜。
「愛しているわ、妹紅」
うわ、すっげ。
捏造しておいてなんだが、本当に愛し合ってるよこの二人。
それを聞いた妹紅は満杯の思いで輝夜に走り寄り、がしりと彼女を抱きしめた。
「輝夜、私もだ。千年前、一目見たときからずっとお前を愛していた。お前だけを。ああ、輝夜、お前は美しい」
いや、情熱的ー。
……なんだか見てるこっちが恥ずかしくなってきたな。
「ええ、妹紅。これからはずっと二人で生きていきましょう」
「輝夜……」
「妹紅……」
そして抱き合った二人は静かに眼を閉じ、顔を近づけ……
そっと唇を合わせ
「輝夜様」
ようとした所で、今まで黙って後ろで佇んでいた永琳が口を開いた。
「ひどいです輝夜様……」
何故だか突然に、はらはらと涙を流す。
「私とのことは遊びだったんですか?」
ぉーい。
婚約五秒後に三角関係発覚。
「あの千年前の夜、私と輝夜様は共に永遠の愛を誓い合って蓬莱の薬を服用したではないですか!」
それに対し、もへっと答える輝夜。
「あー、そういえばそんなこともあったわねえ」
輝夜適当すぎ。
「ちょ、ちょっと待て永琳! 私は難題を五つも解いたんだぞ!! 当然輝夜は私のものだろう」
「そんなことは無いわ。だって先に誓いを交わしたのは私だもの」
「だって輝夜忘れてるじゃん!!」
「今、私が言って思い出したじゃない!!」
激しく主張し合う二人。
「やめてー、わたしのためにあらそわないでー」
何その棒読み。
「くそ!! 永琳!! お前さえいなければ!!!」
激昂した妹紅は不死鳥を纏い、渾身を持って永琳へ吶喊。
だがしかし、それをさらりと避わした永琳は逆に妹紅を地面へ叩き伏せた。
「ふふ、妹紅。どうやら今回は私の勝ちのようね」
「くっ!」
「今日は時間があるから、ハンバーグが作れるようになるまでミンチしてあげるわ」
ぶしゅー、ぐちゃっ
「頭は潰さない。泣き声が聞けなくなるもの」
「ぐ、あああああぁぁああああぁぁあああぁぁ!!!!」
~ここまで歴史修正~
……。
……なんだ。
あれだな。
そもそもの性格に問題があるな。
正直、輝夜はもっと義理堅くなるべきだと思う。
その方向で、もう一回。
とりあえずさっきのはなかったことに。
~歴史修正『もし、輝夜が義理堅かったら』~
やはり十五夜のような満月が照っていた。
薄黄色の光を浴び、ぼんやりと浮かび上がる竹林。
騒がしく揺れる竹から、何人かが弾幕中であることが見て取れる。
「くっ! なんだこいつら、何でこんなに強いのよ!!」
戦っているのは、妹紅と結界組。
いつか見た弾幕戦ではあるが、例の如く妹紅が押され気味である。
「ほら紫! 次であの不死人をやっつけるわよ」
「駄目よ霊夢。肝試しだもの。肝を確かめてからでなくちゃ」
そんなことを言いながらも、結界組の二人はとどめの一撃に向かって力を溜める。
妹紅のほうはといえば、もう何度もリザレクションを繰り返したのだろう、満身創痍傷だらけ、もはや体力も底をつき、あとは精神が果てるのを待つばかりといった状況。
「ここまでか……っ!」
妹紅の精神力が折れる。
「いまよ!! 夢想――」
その時であった。
止めを刺そうとした霊夢と息絶え絶えである妹紅の間に、闇を裂く風切り音が響く。
両者共に飛び退いた地面に突き刺さるは龍の頸の珠。
よく通る声が朗々と月夜に響いた。
「そこまでよ」
場にいた全員が一斉と声の方に振り向く。
視線の集まった先、その中空。
満月を背景に背負った輝夜が颯爽と立ちはだかっていた。
そこで驚いたのは妹紅である。
「か、輝夜! なんだってお前が!? お前は私の敵だったはず……!! 何故私を助ける!!」
それを聞いた輝夜は小さく妹紅を一見し、眉さえ動かさずに返した。
「貴方は私の最大のライバル。貴方を殺すのは私。私以外の人間に負けるなんて許さないわ、妹紅」
カッコイイ! 輝夜カッコイイ!! 義理堅い!!
「か……ぐや……」
妹紅は放心したように輝夜を見つめている。
きたなこれは。これが私の理想とする妹夜関係じゃないか――
「ちょっと待ちなさいよ!!」
と、そんなことを思っていた所で、霊夢の口から叱咤が飛んだ。
「輝夜、あんたが私達を肝試しに誘ったんじゃない! 何で邪魔するのよ。むしろ手伝いなさい!」
それを聞いた輝夜は、やはり眉一つ動かさず言った。
「あれ? そうだったっけ」
輝夜適当すぎ。
「あぁー、そうだったわね。それじゃあ仕方ないわ。霊夢たちに加勢しましょう」
義理堅い!!
「とどめだけはさっき言った通り私が刺してあげるからね、妹紅」
なんて義理堅い!!
「ちょ、お前ら、私一人だぞ。おい、まってって――」
「ふふ、妹紅。どうやら宿命の戦いは私の勝ちのようね」
「くっ!」
「今日は、ハンバーグが作れるようになるまで義理堅くミンチしてあげるわ」
ぶしゅー、ぐちゃっ
「頭は潰さないわ。私は義理堅いから」
「ぐ、あああああぁぁああああぁぁあああぁぁ!!!!」
~ここまで歴史修正~
……。
……いやさ。
なんていうかさ。
……えーっと。
そもそも殺し合いがあるという前提が駄目なんだよな、きっと。
よし、次は頑張るぞお。
とりあえず、なかったことに。
~歴史修正『もし、二人が健全な夢を追っていたら』~
今度は夜でない。
昼間。竹林に囲まれた、温かい陽光の降り注ぐ広場だ。
地面には芝生が敷き詰められているが、広場の中央だけはアバウトな円形に土が露出し、そこに奇妙な三角錐のオブジェが建っている。
妹紅と輝夜はそのオブジェの脇で、立って会話をしていた。
妹紅が言う。
「やっと、やっとこれで完成したんだね」
輝夜も感極まったような表情で返している。
「ええ、本当に……長かったわ……」
しばし無言でオブジェを眺める二人。
「輝夜、本当にこれで月まで飛ぶことが出来るんだな」
「ええ、永琳の設計と私達の組み立てにミスがなければね」
「本当に、このロケットで月まで行くのか――」
思いを馳せるように空を眺める妹紅。
……って、そのオブジェはロケット? ロケットですか。
「輝夜、私は永遠の命を手に入れてからも、人生に絶望せずいままで生きてくることが出来た。それも、月まで届く乗り物を自分で作ってやろうという夢があったからだ」
「ええ、分かっているわ。私もよ」
「月になら、もしかしたらアンチ蓬莱の薬に関するヒントがあるかもしれない」
「でも、こちらから行くには術力も物理エネルギーも足りない」
「というわけで、私達はロケットの作り方を千年に渡って模索し続けてきたんだよね」
なんて……。
なんて健全な人生を歩んでいるんだこの二人は。
素晴らしい。私は感動したぞ。
これぞ人のあるべき姿、夢を追い、転び、それでも立ち上がる人間の強さなんだ。
今度こそ皆がハッピー!
「そういえば輝夜、最後の最後までロケットエンジンの代替品が見つからないといってたけど、結局どうしたんだ」
「ええ、マスタースパークのエネルギー量でさえ月には到底届かないわ。そこで永琳は妙案を出してきたの」
「ほう」
輝夜は十分に間をおいて、その案を切り出した。
「妹紅……」
ビッシィ、と指を突きつける。
「貴方がエンジンになるのよ!!」
ぉーぃ。
「妹紅、あなたは炎を操ることが出来るわ。しかも、不死身。ナチュラルな永久機関よ。そのあなたがロケットのエンジン部に乗り込み、月に付くまで炎を吐き出し続ければいいの」
当然驚く妹紅。
「そ、それは。だけど私の精神力が――」
「妹紅」
きっと睨みつける輝夜。
「貴方の月への思いはその程度で尽きるのかしら?」
バァーン!! と効果音が聞こえてきた気もした。
輝夜の言葉に凍りついた妹紅はしばし考える。
そうして再び見せた妹紅の瞳に迷いなどなかった。
「か、輝夜――うん、私頑張るよ!!」
「それでこそ妹紅よ」
ガッ、と腕を組む二人。
ああ、真に感嘆すべき二人の友情である。
「さて、妹紅。とりあえず試運転でもしてみようかしら」
「ん? 試運転?」
「ええ、作ったロケットがちゃんと安全に動くかどうかを確かめるのよ。爆発でもしたら大変でしょう。NASAでは常識な気もするわ」
「へえ、輝夜は物知りだなあ」
しばし沈黙。
「ほら妹紅。早くエンジンに乗り込んでよ。貴方がいないとロケットが動かないじゃない」
「ん? ああ、そうか。輝夜はどうするんだ?」
「私? 私は乗らないわよ。危険かもしれないじゃない。これは試運転だもの」
「ああ、なるほどなあ。じゃあ、乗り込むよ?」
「ええ、頑張って、妹紅」
なんかおかしくないですか今の会話。
「いいー、妹紅? じゃあ発射するわよー?」
「ああ、いつでもいいよ」
「OKー」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「発射!」
広場に響き渡る轟音。
どこからともなく流れてくるプロジェクトXのテーマ曲。
ロケットは白煙と爆風、それに炎を吹き上げながら真っ直ぐ空へ向かって飛んだ。
「すごい! 本当に飛んだわ!」
無線機を取り出す輝夜。
「妹紅? 聞こえる? そっちはどうかしら」
『ガガ――輝夜か? うん、私がすごい疲れてること意外は大丈夫』
「そう、全く問題ないようね」
ロケットの映える空を嬉しそうに眺める輝夜。
そこに異常が入った。
『ガガ――輝夜! 何か軌道が予定とズレてないか? なんだかおかしいような』
「うーん、私の体重まで計算して出した軌道だから、私が乗っていないことでズレが生じたのかも……」
『ガガッ――え、ちょっ、このままズレたらどうなるの!?』
「大丈夫よ、貴方不死身だし」
『ガ――おい! 輝夜!! お前、ちょ―ガガ―おい―』
そうして――
――妹紅を乗せたロケットは空の星になって消えた。
って、妹紅おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!
☆
蓬莱の薬によって究極の生命体となった妹紅だったが、宇宙で軌道を変えることは出来なかった。
炎とハンバーグの中間生物となり、永遠に宇宙を彷徨うのだ。
そして死にたいと思っても死ねないので、そのうち妹紅は考えるのをやめた。
~ここまで歴史修正~
……。
……あのな。
……。
……。
もう……無理……。
とりあえず歴史は元に戻しておきますね……。
☆
最近の慧音は少しおかしい。
昨日はいきなり私に会うなり抱きついてきて、『妹紅! 生きていたんだな妹紅!! 心配したぞ!』とかよく分からないことを言ってくるし。
料理作っている途中に『ミンチは駄目だ、ミンチは』とかブツブツ呟いているし。
昨夜なんて寝言で『姉さん三角関係は許さんぞぉ』だって。
どうしちゃったんだろう。
もしかしたら、私があんまりにも頻繁に輝夜と殺しあっているから心労でどうにかなってしまったんだろうか。
うーん。
ちょっと考えてみようかな。
そんなところで、ちょうどよく向こうに慧音が見えた。
「慧音ー」
「お、妹紅か、どうした」
「うん、慧音が言うとおり、少し輝夜と仲良くしてやってもいいかなって思った。すこーしだけね」
「本当か! いや、それは嬉しいぞ」
「うん、それでね。輝夜と付き合うアドバイスでも慧音からもらえたらいいかなあって」
「ふむ、そうか……」
慧音は腕組みをして考え込み、たっぷり半刻は思考を重ねた。
その後、考えが纏まったのか、彼女は真顔で言った。
本当に真顔で。
「ロケットエンジンはちょっとはっちゃけすぎじゃないかな」
最近の慧音は少しおかしい。
(作り変えてみた歴史(予測した未来)と現実を同一に見てしまっている)
結局潰されるもこにハァハァ
とりあえず、頑張れK姉
どう転んでもミンチな妹紅に幸あれ。
あと慧姉さんの心中ツッコミがいい味出してます。
愉快なお話ありがとうございました(=゚ω゚)ノ
次回作見たい!超見たい!!
笑いながらw
けーねは好きだったけど萌えたのは初めてだー
凄い!テンポに全く淀みが無い。
笑ってるうちに最後まであっという間。
ああ、健全な二人が眩し過ぎる。
慧音ファイト!いつかきっと報われるさ。いつかは知らないけど・・・
ということは、あの角は開閉するんですか…?
…怖っ!
楽しませてもらいました
……なのかな?
あからさまに壊れてるわけじゃないのに、どことなくけー姉が変なように見えてしまう不思議。
がんばれ慧音負けるな慧音。でも覗きと捏造はイクナイ。
愛していても、義理人情に溢れていても、夢を追い続けようとも
どっかテキトーなてるよ萌え。
愛していても、永遠のライバルがいても、夢を追い続けようとも
結局ハンバーグな、もこ燃え。
すこし(どころじゃなく)おかしいけーねさん、最高です。
慧音は無駄な努力が似合います。
こんな慧音も大好きだ!
寝ててもうなされる慧音に爆
こんなワンフレーズの中に、溢れんばかりのセンスを感じずにいられません。
ていうか、何気に変な奴だなけー姉さんw
次回をばっちり真に受けて楽しみにしてます。
けーねも輝夜もサイコーです
かつてない猟奇お約束オチを見た!
どこかおかしい人の傍に永くいると
まともな人もおかしk(Caved!!!!
もこーたん可愛いよもこーたん
つまり「ぶしゅー、ぐちゃっ。」
けーね最高ー!
って義理堅くミンチにって・・・
妹紅がミンチになるのは避けられないんですね。
続きが気になりすぎる
サイコーです
最後の一行に完敗ww作者乙ww引き続き期待www
ぜひ来週の三本も見てみたい
爆発落ちならぬミンチ落ちは新らしすぎます