*警告!!* このお話にはちょっとやばげな表現が含まれています。それでもよろしければどうぞお楽しみください。
「あら、いらっしゃい考古学者さん」
「よう、邪魔するぜ」
永琳に軽い挨拶を済ます。
今日、わたしは永遠亭に来ていた。
別に理由はない。ただ来たかっただけだ。
「それで、今日は何を盗りに来たのかしら?」
「失礼な、たまの客を泥棒扱いするのかこの家は。それに、客には茶をだすのが礼儀というものではないのか?」
「ま、図々しいお客様ですこと。ウドンゲ、お客様にお茶を出してあげなさい」
「えー、こんなやつにお茶を出すんですか?」
「つべこべ言わないの」
「はい……」
ウドンゲのやつは渋々、私に茶を出してきた。茶を置くときにどかっと置くあたり、よほど私にお茶を出したくないと見える。
「あらあら、だめよ、イナバ。今のはお客様にお茶を差し出す態度ではないでしょう?」
「……すみません」
「おう、いつの間にいたんだ引きこもり」
「失礼ね、こんなにいい天気なんだもの、外に出ないともったいないでしょう?」
いつの間にかやってきた輝夜に適当に挨拶する。
なんか、ウドンゲのやつが私をすごい目で睨み付けているが気にすまい。
「それで、うちに何の用かしら?」
「うにゃ、単に暇つぶしに来ただけだ」
「そう、でもこんな何もないところにきてもつまらないでしょう?」
「そんなことはない、私は人に迷惑をかけるのが好きなだけだ」
まあ、確かにここに来ても大してすることもないのだが。
「そう、それじゃ、ちょっとした遊びに付き合ってもらえないから?」
「なんだ、弾幕ごっこならいつでも付き合うぜ」
「残念、弾幕ごっことは違うわ」
「じゃあ、お得意のなぞなぞか?こう見えてもなぞなぞは得意だぜ」
「そういうのでもないの。ルールはとっても簡単。さいころ二つを振って出目の大きいほうが勝ち」
「なんだあ、単純すぎてかえってつまらないぜ」
「話しは最後まで聞きなさい。負けたほうには罰ゲームが待っている。勿論、拒否することは出来ないわ」
「ほう、罰ゲームつきか、悪くないな。いいぜ、乗った。そうだ、お前らもやらないのか?」
「あ、私は遠慮するわよ」
ありゃ、永琳のやつはパスか。
「わ、わたしもやめとく。ここ最近ツキがないし」
「なんだ、そうすると、わたしと輝夜の一騎打ちか」
「そうみたいね。じゃあ、罰ゲームはわたしと貴方で交互に三枚ずつ紙に書いて適当な箱に入れましょう。負けたらそれを引いて紙に書いてあることを実行する」
「OK、それでいいぜ」
じゃあ、罰ゲームの内容を考えるとするか。
うーん、どんなのがいいか……
……よし、これにしよう!
『白玉楼の桜の枝を追ってくる』
『博麗神社まで、下着姿で飛んでいく』
『紅魔館の湖を泳いで一周』
くくく、我ながら面白い罰ゲームになったぜ。
わたしは罰ゲームを書いた紙を折って永琳が用意した箱に放る。
輝夜も書き終わったらしく、遅れて折った紙を箱に入れた。
永琳が箱を振って中を混ぜる。
さあ、ゲームスタートだ。
「じゃあ、わたしが先行ね」
「おう、いつでもいいぜ」
輝夜はさいころを投げる。
ころん、ころころ。
さいころ特有の乾いた音が響く。
さいころはくるくると回り、やがて動きを止める。
出た目は……5。
「あら、ちょっと厳しいかしら」
「それじゃ、わたしの番だな」
わたしはさいころを投げた。
ころころころころ……
さいころが長い間転がる。
出目は……9!
「よしっ!」
「あーあ、ついてないわね」
輝夜はため息をする。
さあ、お待ちかねの罰ゲームだ。
「永琳」
「はい」
永琳の差し出す箱に手を入れる。
あまり時間をかけないで、輝夜は紙を手にした。
「あら、これ、わたしが書いたやつだわ」
「はっはっは、自分で自分が書いた罰ゲームをやるとはついてないな。どれ、どんな罰ゲームが書いてある……」
わたしは後ろから輝夜の罰ゲームを読んで一瞬凍りついた。
なぜなら内容は、
『自分の足をナイフで十回刺す。ただし、ナイフが3センチ以上刺さらなかった場合はノーカウントとする』
な、なんだこの罰ゲーム!?
自分の足を十回刺せ!?
こんなこと、正気の沙汰じゃないぞ!?
「お、おい、冗談だろ、こ、こんなのマジでやんないよな……?」
「何を言ってるの。さっきも言ったわよ、罰ゲームは拒否できないって」
「で、でもよ……」
「永琳、適当なやつをこっちに持ってきてちょうだいな」
「はい、ただ今」
何にこやかに準備させてんだよ!?
しかも永琳は普通に承諾してるし!
ウドンゲのやつも別に気にしている様子はない。
一体どうなってやがる!?
「お待たせしました」
永琳が持ってきたのは刃渡り10センチはあろうかという鋭いナイフ。
本気……かよ……
「ありがと、永琳」
輝夜は当たり前のようにナイフを受け取った。
「じゃあ、いくわよ」
「お、おい、よせ……」
わたしが止める間もなく、輝夜はナイフを振り上げ、一気に振り下ろした!
ぶつり、と。
肉が裂けるいやな音。
「いーち」
輝夜がカウントを始める。数え方がまるでかくれんぼをするときに数えているような、無邪気な数え方。
ナイフを引き抜いた足から血が噴出した。
わたしはこれ以上この異常な光景を直視できず、目をつぶった。童女のように無邪気なカウントからも耳をふさいだ。
「ごーお、ろーく、しーち……」
カウントがまだ聞こえる。わたしはよりいっそう強く耳をふさぐ。
「……じゅう!」
その声が聞こえて、わたしはゆっくりと目を開ける。
「い、痛くないのかよ……」
「痛いわよ、痛くないわけないじゃない」
何を当たり前なことを、と言わんばかりの輝夜の台詞がよりいっそう怖かった。
もし、わたしが負けたらあれをやらされてたかもしれないと思うと背筋が寒くなってくる。
「な、なあ、もうやめにしないか?」
「何言ってるの、これからが面白いのよ。それに、貴方の勝ち逃げなんて許さないんだから」
「で、でもよ……」
「さあ、第2ラウンドよ」
わたしの制止も聞かないで、輝夜はさいころを拾った。
「はい、次は貴方が先行よ」
「うう……」
さいころを手渡されてしまったわたしは今更ながらあの輝夜の口車に乗ったことを後悔している。
しかし、ここで逃げたら何をされるかわかったもんじゃない。
「さあ、早くしてよ」
急かすな、こっちはやりたくてやってるんじゃないんだぜ。
呼吸を整える。
手に力を込める。
「うおりゃああああああつ!」
さいころを力いっぱい投げる。
カン、ころころ。
力任せに投げたせいか、さいころは激しくバウンドし、勢いを殺しつつ動きを止める。
出目は……6。最悪だ……
「それじゃあ、次はわたしの番ね」
輝夜がさいころを放った。
ころん、ころころ。
わたしはさいころを見ることが出来ない。
さいころの転がる音がやけにうるさい。
さいころの音が……消えた。
見ると、出目は……3。
「あらあら、またわたしの負けかしら」
「ふううう……」
わたしは安堵のため息をついた。
「しょうがないわねえ、永琳」
「はい、姫、少々お待ちを」
また罰ゲームか、せめてわたしの罰ゲームであってほしいとは思うが……
「あら、またわたしの罰ゲームだわ」
なんだ、気になってちらりと紙を覗き込む。
『貧血を起こして倒れるまで、血を抜く。ただし、抜いた後もその血は戻してはならない』
これも洒落になってないぞ……
もう、いやだ、次こそはやめてやる……
そんなことを考えている間にも輝夜はてきぱきと罰ゲームの準備をさせている。
どうやら機材は外で使われているもののようだが、もうそんなことはどうでもよく感じた。
「な、なあ、悪いが、次のゲームでラストにしないか?」
「えー、これからが面白いのに」
お前はそうかもしれないがこっちはそうは思わん。
こんな異常なゲーム、さっさとやめて霊夢のうちで酒でも飲んで忘れたいくらいだ。
「準備終わりました」
「そう、それじゃ始めるわよ」
輝夜は、注射器の針を腕に刺した。
永琳が機材をなにやらいじくると、針からつながっているチューブから、どす黒い血が上っていく。
「あはははははははは。永琳、これ面白いわよ」
「そうですか、それは何よりです」
冗談だろう?
自分の血が抜けていっているのを眺めてなんで平気でそんなことを言えるんだよ?
「あははははははは。わたしの血がどんどん抜けてくわ。あははははははははは」
輝夜のやつは心底楽しそうに笑っている。
まずい、吐き気がしてきた。
「あはははははははは……」
やがて、輝夜の笑い声が小さくなっていく。
よく見れば、やつの顔色が土気色になってきている。
いよいよやばくなってきたようだ、ってあいつは不死なんだよな。
永琳は機材を止め、針を抜いて、注射の跡をガーゼで覆う。
「お加減はどうですか、姫」
「ええ、ちょっとふらふらするけど大丈夫よ。それと、その血は早めに処分してちょうだい」
「左様ですか。では、この血は今度吸血鬼にでもくれてあげますか」
レミリアのところに持っていくってか。
「さて、お待たせしたわね。次が最後でよろしかったかしら」
「あ、ああ、そうだな」
「まったく残念だわ、あの罰ゲームは魔理沙にやらせてみたかったのに」
輝夜は袖で口元を隠してくすくすと笑った。
冗談じゃない。
「じゃあ、最後のゲーム、いくわよ」
輝夜がさいころを放り投げる。
ころん、ころころ。
さいの目は9。
「さ、貴方の番よ」
わたしはさいころを無造作に投げた。
ころんころころ。
さいころはくるくると回り、その動きを止めない。
頼む、10以上が出てくれ、頼む。
わたしはさいころに念をこめる。
かちん。
どうやら、さいころ同士がぶつかったようで、その衝撃で動きが止まった。
さいの目を見る。
出目は……4を示していた。
「うふふふふ、よかった、最後の最後でわたしの勝ちのようね」
嘘だろ……
「ささ、貴方の罰ゲームを決めましょう」
輝夜は楽しげに罰ゲームの入った箱をわたしに差し出した。
「…………」
「どうしたの?引けないのなら、わたしが代わりに引いてあげるわ」
そう言うと、輝夜は箱に手を入れ、勝手に紙を引いてしまう。
手にした紙を開いた。
「あらあらあら」
なんだ、何が書いてあるんだ……
せめて、わたしが書いた罰ゲームであってほしいと思っていた。
しかし書かれていたのは……
『致死量ぎりぎりに薄めたトリカブト毒を一気飲み。ただし、途中で吐き出したらやり直し』
な、なんだ、これは……
どっと冷たい汗が噴出してくる。
さっきからすごく息が苦しい。
「お、おい、冗談だろう?」
「何言ってるの、冗談でこんなこと書くわけないでしょう?」
「い……いやだあっ!!」
わたしはきびすを返して、逃げようとする。
が、何かに引っ張られてつんのめり、わたしは床に叩きつけられた。
「どこへ行くの?罰ゲームは拒否できないって説明したでしょう?」
わたしを捕まえたのは輝夜だった。彼女はわたしの足をつかんで放そうとしない。
「い、いやだいやだ!こんなの罰ゲームなんかじゃない!!」
「あら、そんなにいやかしら?」
「こんな罰ゲームだって知ってたら参加なんてするもんか!!わたしはこんな罰ゲーム絶対にいやだ!」
「それじゃあ、その罰ゲームを実行したわたしはどうなるの?わたしがどうして足を怪我したのかわかってる?どうしてわたしが血を抜いたのか、貴方は理解してるかしら?」
「そ、それは……」
「それに、やりたくないからこそ罰ゲームなんでしょ?簡単に出来るようじゃ面白くないじゃない」
輝夜はそう言うと笑った。無邪気で、それでいてどこか狂っているそんな笑み。
「永琳、準備は出来たかしら?」
「はい、お待たせしました、ただ今完成したところです」
「ひっ」
わたしは必死にもがくが、輝夜は手を放さない。
永琳がゆっくり近づいて輝夜にカップを渡した。
「イナバ、わたしに代わって魔理沙を抑えていてちょうだい」
「わかりました」
「や、やめろーーーーーーーー!」
ウドンゲががっしりとわたしの身体を押さえ込んだ。力を分散させる抑え方をされ、身動きをとることも出来ない。
それでもわたしは必死に抵抗する。それを一生懸命押さえ込むウドンゲ。
わたしが暴れた拍子に、ウドンゲの服が乱れる。
その時。
わたしは彼女の袖の下に醜くただれたやけどの跡を見た。
「お前、これ……」
「イナバの時には『両腕に焼いた鉄の棒を10秒押し付ける』だったかしらね」
「まさか……」
「……熱かったわよ、すごく」
淡々と語るウドンゲの口調から、それは容易に想像できた。
だからわたしはますます激しく抵抗する。が、やはり抜け出せない。
目じりに涙が浮かんでいるのが自分でもわかった。
「じゃあ、はじめましょうか」
輝夜は立ち上がると、ゆっくりとわたしに近づいてくる。
わたしはもがくが、ウドンゲは力を緩めない。
輝夜の手にはカップになみなみと注がれたトリカブト毒!
輝夜がわたしの前に立った。
口には、あの笑みが浮かんでいた。
それを見たわたしは一瞬硬直してしまう。
「さ、いくわよ」
「や、やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ドアを叩く音がした。
「いるかしら?」
「いるぜ」
声の主は霊夢だった。手には見舞いなのか一升瓶を持っている。
あの後、わたしは気を失ったらしく、気がついたらベッドの上だった。
生きてはいるようだが、気持ちが悪い。
それはそうだろう。死なない程度とはいえ、トリカブトの毒を飲んで五体満足でいるほうがおかしい。
ご丁寧にも輝夜は吐き出さないよう口を押さえてくださった。
もう感謝の言葉もない。
「まったくびっくりしたわよ、いきなり永琳が来たかと思ったら、あんたのところに見舞いに行ってやってほしい、なんて言い出すんだから」
「そうか、迷惑をかけるな」
「いつものことでしょ?いったいあんたはあそこで倒れるほど何をやってたの?」
「ああ、ちょっとしたゲームだよ」
「はあ、倒れるほどなんてよっぽど面白いゲームなのね」
「ああ、とても刺激的なゲームだったぜ」
「ふうん」
「そうだ、今度お前にも教えてやるよ。絶対面白いぜ」
「それは楽しみね」
ああ、わたしも楽しみだ。
霊夢は見舞いを終えて、帰っていく。わたしは窓越しにそれを見送った。
外はすっかり黄昏時。霊夢の赤い服が映えていた。
でも、ガラスに映るわたしの口元には……
あのときの輝夜と同じ狂気の笑みが浮かんでいた……
「あら、いらっしゃい考古学者さん」
「よう、邪魔するぜ」
永琳に軽い挨拶を済ます。
今日、わたしは永遠亭に来ていた。
別に理由はない。ただ来たかっただけだ。
「それで、今日は何を盗りに来たのかしら?」
「失礼な、たまの客を泥棒扱いするのかこの家は。それに、客には茶をだすのが礼儀というものではないのか?」
「ま、図々しいお客様ですこと。ウドンゲ、お客様にお茶を出してあげなさい」
「えー、こんなやつにお茶を出すんですか?」
「つべこべ言わないの」
「はい……」
ウドンゲのやつは渋々、私に茶を出してきた。茶を置くときにどかっと置くあたり、よほど私にお茶を出したくないと見える。
「あらあら、だめよ、イナバ。今のはお客様にお茶を差し出す態度ではないでしょう?」
「……すみません」
「おう、いつの間にいたんだ引きこもり」
「失礼ね、こんなにいい天気なんだもの、外に出ないともったいないでしょう?」
いつの間にかやってきた輝夜に適当に挨拶する。
なんか、ウドンゲのやつが私をすごい目で睨み付けているが気にすまい。
「それで、うちに何の用かしら?」
「うにゃ、単に暇つぶしに来ただけだ」
「そう、でもこんな何もないところにきてもつまらないでしょう?」
「そんなことはない、私は人に迷惑をかけるのが好きなだけだ」
まあ、確かにここに来ても大してすることもないのだが。
「そう、それじゃ、ちょっとした遊びに付き合ってもらえないから?」
「なんだ、弾幕ごっこならいつでも付き合うぜ」
「残念、弾幕ごっことは違うわ」
「じゃあ、お得意のなぞなぞか?こう見えてもなぞなぞは得意だぜ」
「そういうのでもないの。ルールはとっても簡単。さいころ二つを振って出目の大きいほうが勝ち」
「なんだあ、単純すぎてかえってつまらないぜ」
「話しは最後まで聞きなさい。負けたほうには罰ゲームが待っている。勿論、拒否することは出来ないわ」
「ほう、罰ゲームつきか、悪くないな。いいぜ、乗った。そうだ、お前らもやらないのか?」
「あ、私は遠慮するわよ」
ありゃ、永琳のやつはパスか。
「わ、わたしもやめとく。ここ最近ツキがないし」
「なんだ、そうすると、わたしと輝夜の一騎打ちか」
「そうみたいね。じゃあ、罰ゲームはわたしと貴方で交互に三枚ずつ紙に書いて適当な箱に入れましょう。負けたらそれを引いて紙に書いてあることを実行する」
「OK、それでいいぜ」
じゃあ、罰ゲームの内容を考えるとするか。
うーん、どんなのがいいか……
……よし、これにしよう!
『白玉楼の桜の枝を追ってくる』
『博麗神社まで、下着姿で飛んでいく』
『紅魔館の湖を泳いで一周』
くくく、我ながら面白い罰ゲームになったぜ。
わたしは罰ゲームを書いた紙を折って永琳が用意した箱に放る。
輝夜も書き終わったらしく、遅れて折った紙を箱に入れた。
永琳が箱を振って中を混ぜる。
さあ、ゲームスタートだ。
「じゃあ、わたしが先行ね」
「おう、いつでもいいぜ」
輝夜はさいころを投げる。
ころん、ころころ。
さいころ特有の乾いた音が響く。
さいころはくるくると回り、やがて動きを止める。
出た目は……5。
「あら、ちょっと厳しいかしら」
「それじゃ、わたしの番だな」
わたしはさいころを投げた。
ころころころころ……
さいころが長い間転がる。
出目は……9!
「よしっ!」
「あーあ、ついてないわね」
輝夜はため息をする。
さあ、お待ちかねの罰ゲームだ。
「永琳」
「はい」
永琳の差し出す箱に手を入れる。
あまり時間をかけないで、輝夜は紙を手にした。
「あら、これ、わたしが書いたやつだわ」
「はっはっは、自分で自分が書いた罰ゲームをやるとはついてないな。どれ、どんな罰ゲームが書いてある……」
わたしは後ろから輝夜の罰ゲームを読んで一瞬凍りついた。
なぜなら内容は、
『自分の足をナイフで十回刺す。ただし、ナイフが3センチ以上刺さらなかった場合はノーカウントとする』
な、なんだこの罰ゲーム!?
自分の足を十回刺せ!?
こんなこと、正気の沙汰じゃないぞ!?
「お、おい、冗談だろ、こ、こんなのマジでやんないよな……?」
「何を言ってるの。さっきも言ったわよ、罰ゲームは拒否できないって」
「で、でもよ……」
「永琳、適当なやつをこっちに持ってきてちょうだいな」
「はい、ただ今」
何にこやかに準備させてんだよ!?
しかも永琳は普通に承諾してるし!
ウドンゲのやつも別に気にしている様子はない。
一体どうなってやがる!?
「お待たせしました」
永琳が持ってきたのは刃渡り10センチはあろうかという鋭いナイフ。
本気……かよ……
「ありがと、永琳」
輝夜は当たり前のようにナイフを受け取った。
「じゃあ、いくわよ」
「お、おい、よせ……」
わたしが止める間もなく、輝夜はナイフを振り上げ、一気に振り下ろした!
ぶつり、と。
肉が裂けるいやな音。
「いーち」
輝夜がカウントを始める。数え方がまるでかくれんぼをするときに数えているような、無邪気な数え方。
ナイフを引き抜いた足から血が噴出した。
わたしはこれ以上この異常な光景を直視できず、目をつぶった。童女のように無邪気なカウントからも耳をふさいだ。
「ごーお、ろーく、しーち……」
カウントがまだ聞こえる。わたしはよりいっそう強く耳をふさぐ。
「……じゅう!」
その声が聞こえて、わたしはゆっくりと目を開ける。
「い、痛くないのかよ……」
「痛いわよ、痛くないわけないじゃない」
何を当たり前なことを、と言わんばかりの輝夜の台詞がよりいっそう怖かった。
もし、わたしが負けたらあれをやらされてたかもしれないと思うと背筋が寒くなってくる。
「な、なあ、もうやめにしないか?」
「何言ってるの、これからが面白いのよ。それに、貴方の勝ち逃げなんて許さないんだから」
「で、でもよ……」
「さあ、第2ラウンドよ」
わたしの制止も聞かないで、輝夜はさいころを拾った。
「はい、次は貴方が先行よ」
「うう……」
さいころを手渡されてしまったわたしは今更ながらあの輝夜の口車に乗ったことを後悔している。
しかし、ここで逃げたら何をされるかわかったもんじゃない。
「さあ、早くしてよ」
急かすな、こっちはやりたくてやってるんじゃないんだぜ。
呼吸を整える。
手に力を込める。
「うおりゃああああああつ!」
さいころを力いっぱい投げる。
カン、ころころ。
力任せに投げたせいか、さいころは激しくバウンドし、勢いを殺しつつ動きを止める。
出目は……6。最悪だ……
「それじゃあ、次はわたしの番ね」
輝夜がさいころを放った。
ころん、ころころ。
わたしはさいころを見ることが出来ない。
さいころの転がる音がやけにうるさい。
さいころの音が……消えた。
見ると、出目は……3。
「あらあら、またわたしの負けかしら」
「ふううう……」
わたしは安堵のため息をついた。
「しょうがないわねえ、永琳」
「はい、姫、少々お待ちを」
また罰ゲームか、せめてわたしの罰ゲームであってほしいとは思うが……
「あら、またわたしの罰ゲームだわ」
なんだ、気になってちらりと紙を覗き込む。
『貧血を起こして倒れるまで、血を抜く。ただし、抜いた後もその血は戻してはならない』
これも洒落になってないぞ……
もう、いやだ、次こそはやめてやる……
そんなことを考えている間にも輝夜はてきぱきと罰ゲームの準備をさせている。
どうやら機材は外で使われているもののようだが、もうそんなことはどうでもよく感じた。
「な、なあ、悪いが、次のゲームでラストにしないか?」
「えー、これからが面白いのに」
お前はそうかもしれないがこっちはそうは思わん。
こんな異常なゲーム、さっさとやめて霊夢のうちで酒でも飲んで忘れたいくらいだ。
「準備終わりました」
「そう、それじゃ始めるわよ」
輝夜は、注射器の針を腕に刺した。
永琳が機材をなにやらいじくると、針からつながっているチューブから、どす黒い血が上っていく。
「あはははははははは。永琳、これ面白いわよ」
「そうですか、それは何よりです」
冗談だろう?
自分の血が抜けていっているのを眺めてなんで平気でそんなことを言えるんだよ?
「あははははははは。わたしの血がどんどん抜けてくわ。あははははははははは」
輝夜のやつは心底楽しそうに笑っている。
まずい、吐き気がしてきた。
「あはははははははは……」
やがて、輝夜の笑い声が小さくなっていく。
よく見れば、やつの顔色が土気色になってきている。
いよいよやばくなってきたようだ、ってあいつは不死なんだよな。
永琳は機材を止め、針を抜いて、注射の跡をガーゼで覆う。
「お加減はどうですか、姫」
「ええ、ちょっとふらふらするけど大丈夫よ。それと、その血は早めに処分してちょうだい」
「左様ですか。では、この血は今度吸血鬼にでもくれてあげますか」
レミリアのところに持っていくってか。
「さて、お待たせしたわね。次が最後でよろしかったかしら」
「あ、ああ、そうだな」
「まったく残念だわ、あの罰ゲームは魔理沙にやらせてみたかったのに」
輝夜は袖で口元を隠してくすくすと笑った。
冗談じゃない。
「じゃあ、最後のゲーム、いくわよ」
輝夜がさいころを放り投げる。
ころん、ころころ。
さいの目は9。
「さ、貴方の番よ」
わたしはさいころを無造作に投げた。
ころんころころ。
さいころはくるくると回り、その動きを止めない。
頼む、10以上が出てくれ、頼む。
わたしはさいころに念をこめる。
かちん。
どうやら、さいころ同士がぶつかったようで、その衝撃で動きが止まった。
さいの目を見る。
出目は……4を示していた。
「うふふふふ、よかった、最後の最後でわたしの勝ちのようね」
嘘だろ……
「ささ、貴方の罰ゲームを決めましょう」
輝夜は楽しげに罰ゲームの入った箱をわたしに差し出した。
「…………」
「どうしたの?引けないのなら、わたしが代わりに引いてあげるわ」
そう言うと、輝夜は箱に手を入れ、勝手に紙を引いてしまう。
手にした紙を開いた。
「あらあらあら」
なんだ、何が書いてあるんだ……
せめて、わたしが書いた罰ゲームであってほしいと思っていた。
しかし書かれていたのは……
『致死量ぎりぎりに薄めたトリカブト毒を一気飲み。ただし、途中で吐き出したらやり直し』
な、なんだ、これは……
どっと冷たい汗が噴出してくる。
さっきからすごく息が苦しい。
「お、おい、冗談だろう?」
「何言ってるの、冗談でこんなこと書くわけないでしょう?」
「い……いやだあっ!!」
わたしはきびすを返して、逃げようとする。
が、何かに引っ張られてつんのめり、わたしは床に叩きつけられた。
「どこへ行くの?罰ゲームは拒否できないって説明したでしょう?」
わたしを捕まえたのは輝夜だった。彼女はわたしの足をつかんで放そうとしない。
「い、いやだいやだ!こんなの罰ゲームなんかじゃない!!」
「あら、そんなにいやかしら?」
「こんな罰ゲームだって知ってたら参加なんてするもんか!!わたしはこんな罰ゲーム絶対にいやだ!」
「それじゃあ、その罰ゲームを実行したわたしはどうなるの?わたしがどうして足を怪我したのかわかってる?どうしてわたしが血を抜いたのか、貴方は理解してるかしら?」
「そ、それは……」
「それに、やりたくないからこそ罰ゲームなんでしょ?簡単に出来るようじゃ面白くないじゃない」
輝夜はそう言うと笑った。無邪気で、それでいてどこか狂っているそんな笑み。
「永琳、準備は出来たかしら?」
「はい、お待たせしました、ただ今完成したところです」
「ひっ」
わたしは必死にもがくが、輝夜は手を放さない。
永琳がゆっくり近づいて輝夜にカップを渡した。
「イナバ、わたしに代わって魔理沙を抑えていてちょうだい」
「わかりました」
「や、やめろーーーーーーーー!」
ウドンゲががっしりとわたしの身体を押さえ込んだ。力を分散させる抑え方をされ、身動きをとることも出来ない。
それでもわたしは必死に抵抗する。それを一生懸命押さえ込むウドンゲ。
わたしが暴れた拍子に、ウドンゲの服が乱れる。
その時。
わたしは彼女の袖の下に醜くただれたやけどの跡を見た。
「お前、これ……」
「イナバの時には『両腕に焼いた鉄の棒を10秒押し付ける』だったかしらね」
「まさか……」
「……熱かったわよ、すごく」
淡々と語るウドンゲの口調から、それは容易に想像できた。
だからわたしはますます激しく抵抗する。が、やはり抜け出せない。
目じりに涙が浮かんでいるのが自分でもわかった。
「じゃあ、はじめましょうか」
輝夜は立ち上がると、ゆっくりとわたしに近づいてくる。
わたしはもがくが、ウドンゲは力を緩めない。
輝夜の手にはカップになみなみと注がれたトリカブト毒!
輝夜がわたしの前に立った。
口には、あの笑みが浮かんでいた。
それを見たわたしは一瞬硬直してしまう。
「さ、いくわよ」
「や、やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ドアを叩く音がした。
「いるかしら?」
「いるぜ」
声の主は霊夢だった。手には見舞いなのか一升瓶を持っている。
あの後、わたしは気を失ったらしく、気がついたらベッドの上だった。
生きてはいるようだが、気持ちが悪い。
それはそうだろう。死なない程度とはいえ、トリカブトの毒を飲んで五体満足でいるほうがおかしい。
ご丁寧にも輝夜は吐き出さないよう口を押さえてくださった。
もう感謝の言葉もない。
「まったくびっくりしたわよ、いきなり永琳が来たかと思ったら、あんたのところに見舞いに行ってやってほしい、なんて言い出すんだから」
「そうか、迷惑をかけるな」
「いつものことでしょ?いったいあんたはあそこで倒れるほど何をやってたの?」
「ああ、ちょっとしたゲームだよ」
「はあ、倒れるほどなんてよっぽど面白いゲームなのね」
「ああ、とても刺激的なゲームだったぜ」
「ふうん」
「そうだ、今度お前にも教えてやるよ。絶対面白いぜ」
「それは楽しみね」
ああ、わたしも楽しみだ。
霊夢は見舞いを終えて、帰っていく。わたしは窓越しにそれを見送った。
外はすっかり黄昏時。霊夢の赤い服が映えていた。
でも、ガラスに映るわたしの口元には……
あのときの輝夜と同じ狂気の笑みが浮かんでいた……
ホラーというより痛い系のダークというところだろうか・・・?
死なない蓬莱人だから死ねないようなぎりぎりの苦しみが罰ゲーム
というところなのだろうけど、永遠亭コワレ過ぎ・・・
東方の二次創作として読むとアレなのかもしれないけど
「世にも奇妙な~」を意識して読むと面白い。
…意味不明な感想になってしまった
とりあえず次も期待。
いきなり話の根底から否定してごめんなさい。でも盛り上げ方とか本場(何処)と彷彿しましたよ。てるよらしく月(=Lunatic、つまり狂気)とかでコーティングするとよかったかも。
でも秀作。
死なないという設定があるから話にしたのかもしれないが×。
正直これまでの作品も「元ネタがあるから受けるだろう」としか読めない。
使うならトレースでなくひねれ。
いや輝夜の狂気も、それに染まる魔理沙も否定はしないけど、安易な流血は
狂気としてはチープな気がする。できれば輝夜にはもっと雅な狂気を魅せて
欲しいかな。求婚者に対して五つの難題を示したように。
題材が私的に良くなかった点以外で言うと、もうちょい描写を多めにして怖さを浮き彫りに出来たんじゃないかなあと。
いえいえとんでもない。蓬莱人だからこそ出来る芸当なんですよ。
まあ、元ネタ知らない人には面白く読めるんですからそこを指摘しなくても…
まあこういう黒いのはたまにあってもいいんですよ。
(本当なら埋め尽くしてほしいんですがまあそれは無理ということで。)
生と死の境が無くなった彼女達だからこそ出来る罰ゲーム。
魔理沙も可哀想に…
蓬莱人と一般人の感覚の違いから来る恐怖感がたまらないです。
罰ゲームの内容はさらに過激でもよかったかもしれません。
不死身だからこそ出来るゲーム
元ネタのほうが怖かったな
生身の人間だったし・・・
元ネタのほうが怖かったな
生身の人間だったし・・・