二人を照らす月明かり
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目を開けたら辺り一面光のない真っ暗闇な世界だった。しかし、おかしなことに私の姿はしっかり見えた。両手を動かして体に異常がないことを確認する。
「蓮子。どこかいない。蓮子」声を上げながら周りを見渡した。
「いたいた、こっちよ。メリー」
闇の中から蓮子の声が聞こえてきたから、そちらに向かってゆっくりと歩き出した。なにしろ自分の姿以外は何も見えない真っ暗な世界だから手を突き出すしかないのだ。自分の靴音も聞こえないから、小さく耳鳴りをしているような感覚を覚えた。声を出すことで耳鳴りを誤魔化そうとした。
「どこー」
「こっち、こっち」
振り向くと蓮子が目の前にいた。私も蓮子も思いっきりはしゃいでお互いの手を握り合った。
「いやーしかし、境界に入ったとたん暗い世界とは。珍しいよね」
そう、いつもの通りこれは倶楽部活動なのだ。いつもの境界探しでとある廃駅を訪れたら境界が見えたので飛び込んだ。そしたら、こんなところに来てしまった。
「うん……そうなんだけどさ。なんか、あの境界おかしかった気がするのよ」
「おかしいって?」
「いつものより大きくて、妙に綺麗っていうか。普段見る境界よりも立派っていうか」
なかなか上手く言い表すことができなかった。なにしろ、蓮子が先に突っ走ってしまうからゆっくり観察する暇がなかったのだ。
「ま、いつもとは変わった境界だから。こんな変わった世界に来れたんでしょう。とにかく探検よ」
相変わらずの短絡的な思考というか無鉄砲さだった。大学の勉強もこんな風にいい加減にやっているのだろうか。実際、蓮子はレポートをギリギリに提出することが多い。
探検と言われて首をダチョウさながらに動かしてみたが、世界は全くの暗闇だった。
「行くったってどこに……」
そう呟いた途端、私たちの正面が明るくなった。目を細めて凝視すると、舗装された道の両脇に街灯が等間隔に並んでいた。道はまっすぐ伸びていて終点は確認できなかった。
「私たちの会話を聞いているのかしら」
蓮子が楽しそうに喋る。その表情は秘密基地を作る男の子そのものだ。倶楽部活動をしているとき蓮子はよくこんな顔をする。蓮子に出会ってからは私もそんな表情をするようになった。それまでは活動的じゃなかったから、暗い表情が多かった。
「行くわよ」
蓮子が小走りで前へ進み始めた。いつも彼女は私よりも先に進んでしまう。少し遅れて追いかけると、振り返って目を細めて私を見つめてきた。その視線が針のように首元に刺さるかのような錯覚を覚えた。
肩を並べたところで、歩調をそろえて歩き出した。
「街灯が……全然違う」
蓮子がうなずいて同意してくれた。両脇に並んだ街灯は多種多様だった。産業革命時代のガス灯、電球を使った照明、ネオンサイン、LED、まるで展覧会だ。それらが発する光の色、強さも全くそろっていないから目が疲れそうだった。
「道も所々変わってるわ。モザイク模様見たい」
足元の道は、アスファルトかと思うと石畳やコンクリート、木目調になったりもした。
街灯も道も変化に規則性が見いだせず、出来の悪い夢の世界にいるみたいだった。
「わけわかんない。どんな世界なのよ、ここ」
私は愚痴を言いながら歩いていたが、蓮子は首をキョロキョロと落ち着きなく動かしていた。その瞳は星のように輝いていた。
「なんか、宇宙人が作ったみたいだよね。ここ」
興奮した様子が声にあらわれていた。突拍子のないセリフに私は拍子抜けをした。
「蓮子って宇宙人信じてたの?」
蓮子は私を見つめてきた。再び視線が刺さるような錯覚を感じた。
「ただの例えよ」
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目の前にいるメリーは不機嫌そうだった。よくよく考えると、こういうタイプの世界はひょっとしたら初めてだったかもしれない。私は初めての物でも楽しめるけど、メリーは人見知りっぽい一面もあるからねえ。古い映像で登場するような照明や東京でしか見つからないような時代遅れの照明があって、私は懐かしい気持ちになっていた。
「ほんとに宇宙人かわからないけど、中途半端にちぐはぐなのは面白いじゃない。どんなのが好みかわからないから、とりあえず全部用意しましたよって感じ。ここもさ、宇宙人が頭をひねって用意した雰囲気がなくない?」
メリーは眉間にしわを寄せ始めていて、興味が薄そうだった。
「未知との遭遇ってことかしら、道の先に誰か待ってるのかも」
「2001年宇宙の旅かもよ」
2001年なんてとっくの昔に通り過ぎていた。あの時代の夢にどれだけ近づけているのだろうか?むしろ遠ざかっている?
「どう違うのよ?」メリーが首を傾けて覗き込むように見てきた。
「最後まで宇宙人が姿を表さないかも。会う気があるなら既にアプローチがあっていいでしょ」
「それもそうね。理解不能なまま振り回されて終わりかも」
ここで一つのことに気が付いた。これが宇宙人の作った世界なら、その入り口に気づくメリーも宇宙人なのかもしれない。もっとも私だって変わった眼を持っているから宇宙人かもしれないけど。それは言わないほうがいいと思って少し方向性を変えた。
「メリーは宇宙人はいると思う?」
「いる、いない、じゃなくて会えないと思うな。これだけ発達した時代なのにまだ見つかってないでしょ」
「まあ、確かに月まで簡単に行けるようになったけど、発達する余地はまだまだあるわよ」
「あるの?」
「まだ太陽系を抜けたことがないじゃない」
メリーの感嘆というか溜息が聞こえてきた。
「考えるスケールが違うわね。たしか無人機がいくつか出てたはずよね」
「そうよ。けど、無人機じゃ限界があるわよ」
「人を乗せて太陽系をでるなら冷凍睡眠とかができないとね」
「別にその必要もないわよ。大きい宇宙船で何百人も載せれば解決するって」
ここでメリーは黙り込んだ。
道は相変わらず規則性のないモザイク模様を維持していた。飽き始めてきた私は手を後ろ手に組んだりした。もう少し工夫してほしい。例えば道をペンキで落書きするとか、照明を組み合わせて前衛芸術にするとか。
「ひょっとして、宇宙船の中でずっと生活するの?宇宙人に出会うまで何世代もかけて、何百年も?」
「そう」
大げさな溜息が聞こえた。
「そんな船誰も乗らないわよ。何も出来ずに一生を使うかもしれないのに」
「そうかしら、大航海時代では世界はカメの上にあるって信じてたけど、勇気をもって探検してたわ。スケールアップをしただけでしょ」
「スケールアップしすぎよ。それに大航海時代だって商売が目当ての人がほとんどだったし、探検をしたのは一部の変わり者だけよ」
「その変わり者のおかげで歴史に残る発見があったんじゃない」
地球は丸いと証明した人物もいる。そういう人たちの名前は初等教育の教科書に載っているが、ここ百年の偉人の名前はほとんど載らない。私たちが学ばなければいけないものは時代と共に増えていく。昔の人は楽だったんだろうな。
「結果論だって。それに探検をするって考えがもう一般的じゃないわよ。時代が変わったの」
「そうなのよね。それが問題よ」
私たちの倶楽部活動がまさしくそうだ。
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蓮子の考えは相変わらず突飛だ。あっという間に別の世界に想いを飛ばしてしまう。下手したら私も置いてどこかに行くかもしれないと、不安になることがある。そうなったら私は彷徨ってしまう気がする。夢と現の間を。
「火星に探検隊を出せるのに、そこから先への有人探査は積極的じゃないの。そりゃあ、アステロイドベルトとか技術的な問題があるけど、そんなのどうにでもなると私は思う。初めて月に向かった時の技術力と比べれば雲泥の差よ」
「やる気がなくなったってこと?」
「そう。動機づけがないのよ。月は目の前にあって生活に身近だから誰もが興味を持ったの。けど、そこから先は遠すぎた。行くだけでも時間がかかるし、メリットが少なすぎるのよ」
そうとは思わなかった。ネット上では宇宙の話で盛り上がった会話が今でもある。宇宙探査だって小さいながらも成果だって定期的に上がっている。蓮子がせっかちだからそう感じているのではないだろうか。
「小さくても宇宙のニュースは上がってるわよ。小さい成果をこつこつ積み上げるのが大切でしょう」
「そうだけど方向性の問題よ。人が行かずに機械で観測してばっかりだと、ノウハウがどんどんなくなっていって、先細りするだけよ」
私はここで黙ってしまった。私と蓮子の間にある溝は情熱のある若手技術者と保守的な管理職の対立そっくりに思えた。前にそんな番組を見たことがあった。意外に私は古い考え方をした人間なのかもしれない。
うつむき加減で足元をみた。相変わらず一本道が続いていて境界は少しも見えない。ここまで見えないのは珍しかった。
「こうなったのも技術力が上がったせいだと思うのよ。解れば解るほど世界の広さに戸惑ってしまって、地球の表面しか目が届かないって無意識のうちに自分を縛るようになったのよ。変えるためには、ここらで大胆なアプローチが必要だと思うの。それこそ科学とは全く別のベクトル、魔法とかオカルトとか」
ここで顔を上げた。目の前には蓮子が私をしっかりと見つめて微笑んでいた。
「だからさ、お金を貯めて月まで行ってみましょうよ。私達で月とか地球を見れば面白いものを見つけられるかもよ」
蓮子のセリフに目頭が熱くなった。目元に手をやって表情を誤魔化したが、それ以上はなかった。また感じたのだ。蓮子から、針を突き刺すような視線を。
嘘だと思いたかった。けど、絶対そうだ。
「ねえ」
目の前の人物の顔をしっかりと見た。
「あなた、蓮子じゃないでしょ」
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「ねえ」
目の前のメリーは微笑んでいた。
「すてきね。ホントうれしい」
「でしょ」
私も微笑みを返した。少し格好つけたセリフで恥ずかしかったが元気を出してくれてうれしかった
すると、メリーが大股で歩き出して私の前に出た。この世界に来てから初めてのことだった。振り返ってこちらを向いた。
「私、本当に感謝しているの」
なんか、眼差しが変わった気がする。大人っぽくなったというか。
「境界が見える能力であちこち飛べるでしょう。そのおかげで楽しいことも多いけど、困ることが多いのよ。どこにいったか分からない。下手したら全然違う時代に飛ぶこともある」
時代?メリーの能力って時間に干渉できたの?そんなこと今まで言ってたっけ?
ひょっとして私に隠していたことがあるの?
「言うなれば迷子なの。場所と時間がわからない。経験を積めば一人でもなんとかなるけど、それまではヒントが必要なの。自分は正しい座標にいるのか教えてくれる人が」
そんなの簡単だ。私の眼を使えば正確に教えられる。そして、メリーが迷子になる不安は常にあった。だから倶楽部活動として、一緒に行動していたのだ。ちゃんと帰れるか不安だから。
あれ?ちょっとまって。どうしてそんなに気にかけるのだろうか。友達だから当たり前だけど。今私はメリーと一緒にいることではなくて、メリーが帰ってくることを心配していた。まるで親じゃないか。
「メリー、一体どういう……」
気づいたらメリーは私の手を握っていた。とても穏やかな、親のような優しい目で微笑みながら私を見つめていた。
「私、本当にあなたには感謝しているの。狙い通りにあの子と仲良くしてくれて、あの子の道しるべになってくれて。しかもこんな冒険心にあふれた子だったなんて。期待以上だった」
金縛りみたいに動けなかった。メリーから出てくる言葉は既にメリーのものではなかった。
目の前にいるのは一体何?
「200年ぶりだから、もう失敗したくないの。これからも仲良くしてやって。お願いするわ」
相手の眼を見ていたら眠くなってきた。底なし沼に沈み込んでいくように。
目蓋が下がる途中で気が付いた。目の前にいるのはきっと宇宙人だ。メリーのふりをした宇宙人で、メリーを注目している。けど、なぜ私が?
目蓋が完全に閉じて、世界が真っ暗になった。
目が覚めた時、隣に本物のメリーがいるといいな。
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「あなた、蓮子じゃないでしょ」
目の前にいる蓮子は一瞬呆然としていたがすぐに屈託のない笑顔を作った。私に向かって手を伸ばす。
「何言ってるのよ」
一歩下がって距離をとった。首を振って彼女の言葉を否定した。
「やめて。あなた何度も私を睨み付けてきたでしょ。それこそ敵みたいに。蓮子はそんなことしない」
彼女の笑顔が消えた。わずかに目が泳いで私から目をそらした。そうなると、目の前にいるのは誰だろう。それこそ宇宙人?それに本物の蓮子はどこ?
急に周りの照明がちらついた。光と闇が交互に網膜を刺激して目の前を凝視するだけで精一杯だった。
目の前の蓮子は私から目をそらしたまま耳元に手を当てているのがわかった。きっと別の宇宙人から電波を受信しているのだ。
照明が元に戻ると偽物の蓮子が私を見ていた。もう誤魔化すことを止めたみたいで、目を細めて鋭い視線で見つめてきた。負けじと私も睨んでいたが猫の喧嘩で負けたかのように少しずつ後ずさりした。
何も言わないまま偽物の蓮子が腕を横に伸ばして道を指さした。
そちらの方向を見ると境界があった。道いっぱいに広がって私を飲み込もうと待ち構えていた。
「ねえ……」
偽物は既にいなかった。聞きたかったことがあったのに。
けど、確信した。私以外にも境界が見えて扱える人がいるのだ。
それは戸惑いでしかなかった。私もいつか自力で境界を操りこの世界を作れるようになるだろうか。それは人間なのだろうか。
色々考えるべきなのだろうけど、私は歩き出した。境界の中に自分から飛び込んでいった。
本物の蓮子に会うために。
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「お疲れさま。藍」
八雲紫は足を崩した状態で畳の上に座っていた。近代的な照明のない和風の部屋でロウソクだけが部屋をほのかに照らしていた。
「紫様、マエリベリーに気づかれてしまいました。申し訳ありません」
八雲藍は目の前の人物に頭を下げた。特に驚いた様子もなく、細い目で紫は藍を見ている。
「何も話してないでしょ?」
「はい」
「ならいいわ。どうせ何もできないから」
紫はお猪口を片手に微笑んでいた。娘を見守る親のような表情だった。
「それにしても、この時代にしては予想以上に元気な子だったわ。さすが、菫子の家系ね。強い暗示で上書きができたから、あと10年は一緒にいてくれるわ。楽しみ」
「しかし、紫様。彼女は内気なところがあります。手元に置いたほうが確実ではないですか」
紫はお猪口の酒を飲みほして、ゆっくりと台の上に置いた。
「それは前に失敗したのよ。だから、私と同じ道を歩ませる。友と冒険して、能力を高めて、人間と妖怪の境界を自分の力で超えさせる。私はそうなるように手を貸すだけ。けどね、この能力をもった者はそうなる運命だと思うの。人と妖怪、両方に手を伸ばせって言われている気がするの」
紫の言葉を藍は黙って聞いていた。しかし、その眼差しは熱を帯びていて緑色の炎がちらついていた。
「紫様」
藍は紫に近づいた。手を伸ばせば触れ合える距離に近づいたところで、腰を下ろす。二人しかいない部屋で、二人にしか聞こえないような小さな声で話しかけた。
「私では、駄目ですか。貴方を誰よりも理解しているのは私です。私では代わりに……」
藍の言葉は途中で切られた。藍の言葉は紫の唇で塞がれた。しばらくの間、その部屋は僅かな物音しか聞こえなかった。
物音が途絶えた時、藍の荒い呼吸音が聞こえた。紫は藍の肩に手を置いたまま微笑んだ。
「かわいい子ね。けど、貴方が九尾の狐を止められないと同じように、あの子の代わりにはなりきれない。けれどね、貴方は私が会った誰よりも賢いわ。貴方があの子を支配しても構わない。私が必要なのは私にしかできないことを肩代わりする人材だから。顔を上げなさい」
藍は顔を上げなかった。俯いたまま、震えそうな声を発した。
「紫様は……寂しいのですか」
答えはなかった。俯いた姿勢でいる藍には紫の顔は見えなかった。
開いた窓から吹きこんだ風でロウソクの火が消えた。それを合図にしたように藍は自身の頭を紫の肩に預けた。紫は黙って彼女の頭を撫でた。優しく、慈しむかのように。
光源のない部屋の中で、窓から差し込む月の明かりだけが二人を包んでいた。
-7-
目を閉じたメリーが最初に気づいたのは、潮騒と潮の香りだった。だから、浜辺にいるのだとすぐに気づいた。目を開けると、目の前には全てを飲み込んでしまいそうな暗い海が広がっていて、隣に蓮子が横たわっていた。
「蓮子、蓮子」メリーが蓮子の肩を揺さぶって起こそうとした。
「ん……メリーおはよう」
欠伸をしながら蓮子が起き上がった。メリーは急いで蓮子の服についた砂を払い落とした。
メリーとは対照的に蓮子は緊張感の欠片もなかった。
「あれ、たしか駅で境界に入ったんだよね。なんで海にいるの?」
メリーは戸惑ったまま黙っていると、蓮子が空を見上げた。
「うわ、2時間もたってるし、京都から結構離れた場所にいるじゃん。ただ単にワープしただけなのかな。ねえ、メリー」
メリーは唾をのみ込んだ。思考は少しもまとまってくれなかった。寄せては返す波が作る泡のように、弾けるだけだった。
「そうね。何もなくて残念ね」
帰りの交通手段がなかったため、携帯端末で無人タクシーを呼んだ。到着したタクシーは流線型の形をしており、宇宙船を思わせた。車内では蓮子が一方的に話しており、メリーは曖昧な返事ばかりだった。
「メリーどうしたの?」
タクシーはトンネルに差し掛かった。古いタイプのトンネルでオレンジ色の薄暗い照明が車内に入り込んだ。
車外に目を向けていたメリーがおずおずと蓮子のほうを見た。蓮子の頬をオレンジの照明が彩っており、別の宇宙へとワープしているようだった。
「いきなりだけどさ。蓮子はこれから先どうしたいと思う。大学とか秘封倶楽部とか」
蓮子は視線を上げた。そこにはタクシーの天井しかないが、その先にある星々に想いを巡らせているようにメリーには思えた。
「しばらくはこのままかなって思う。勉強は楽しいから大学院まで行こうと思うし。倶楽部の活動回数は減るかもしれないけど、もっと世界を見たいし、宇宙も見てみたい。メリーと一緒に行けたら楽しさ倍増だと思うの」
蓮子はメリーを見て微笑んでいた。娘を想う親のように。
メリーも微笑みを返した。不安を振り払うために。
「素敵。いつか一緒に行きましょう」
タクシーがトンネルを抜け出した。その先の町の照明があまりにもまぶしいものだから、タクシーの内部が一瞬だけ真っ白な部屋になったみたいだと、メリーは思った。