Coolier - 新生・東方創想話

暖かな桜の木の下にて

2016/01/24 04:52:03
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注意、このお話は、東方projectの二次創作です。
   オリ設定があります。





本日快晴。 いつもの如く星に呼ばれたナズーリンは、障子を開け部屋に入っていった。
星の後ろに座り、主人と同じく正座姿で背中を見つめる。
動向は星にも分かっている筈であるが、書き仕事を止める事はなかった。

筆の滑る音だけが部屋に響く。 我慢できず先に口を開いたのはナズーリンであった。

「ご主人様」

その言葉を聞いた星は、筆を止めた。
しかし、振り向く事はせず目を閉じて言葉を返した。

「何ですか?」
「先程、聖から話があった。 大方、君が私を呼んだのは、その事だろう?」

返事はすぐに返さなかった。 自分はどうするべきなのか? と少し逡巡する。
振り返らず背を向けたまま答える。

「やはり、私は寺に残り留守を任せられるべきだと思います」

いつも通りの威厳を保とうとする星の声。
威厳はあるのは知っているが、自分の考えを言わないのと威厳を保とうとするのは別にして欲しい、とナズーリンは不満であった。

「そうか……ところで、ご主人様」
「はい?」

ナズーリンもすぐに答えなかった。 この主人あって、この従者あり。
他の誰かが見たら、間違いなく二人は似た者同士だと言うだろう。

「尻尾が出ているぞ」
「……これは恥ずかしい」

ナズーリンが言った事、星が楽しみにしているのは紛れも無い事実であった。

~~~~~

春告精が飛び去ったあとだ。 広場は桜色に包まれていた。
祭り好きの人妖が多く居る。 幻想郷だから当然だろう。
大祀廟の連中が居る。 狭い狭い幻想郷、会ってもおかしくは無いだろう。
一輪と布都が弾幕戦を始めた。 二人は仲が良いから、じゃれ合う程度の事だ。
聖徳王が1100ccのバイクに跳ね飛ばされた。 うん、今日も良い天気。

「で、私は何故君の上に座っているんだ?」
「おかしいですか?」

寺の連中が集まって酒を飲む中、星とナズーリンは少し離れた位置で二人して座っていた。
星が胡坐を掻き、その上にナズーリンが座っている。
部屋に二人なら、当たり前の事だが、今は違う。
自重するべきである。 少なくともナズーリンだけは、そう思っていた。

「ナズーリン。 酌をして下さい」

星が妖しく笑っている。 細まった眼から覗く黄金の虹彩が妖星の光を放っていた。
この魅了から逃れる事は一筋縄ではいかない。
そもそも、星の香り、温もり、何もかもに包まれている状況。 ここで、ナズーリンがノーと言うのも酷であろう。

聖から酒の許可も出ているし、他の寺の仲間達も飲んでいる。
そこで、星だけ我慢させるのは主人の為にならない、何より夜が恐ろしい。
しかし、主人の手前。 与奪の権利は自分にあると思わせなければならない。
ナズーリンは、背中に星の目線を感じ振り向いた。
捨てられた子犬の……子虎のつぶらな眼差しが見て取れた。

「駄目ですか?」

今すぐに主人を襲いたい。 その様な煩悩を払いのけ、冷静を装って澄ました顔で言う。

「今日は祭りだ、仕方が無いな」

星の杯に並々と酒が注がれた。
目を輝かせ受け、ナズーリンに感謝を告げる。
一息に飲まれ水平に戻った杯に酒は無い。 飲み干せば、それも当然だろう。

「やれやれ、もっと飲むと良い」

片方の腿に座り直したナズーリンは、心の奥底を見せず、一番間近で主人と触れ合える事を感謝した。

~~~~~

「ちぃ!」

突如、ナズーリンを片手で抱き締めた星。
抱き寄せられたナズーリンは突然の事で頭が回らない。 酔った主人が自分に襲いかかったとしか考えられなかったのだ。

しかし、皿盆を叩き割る音が周囲に響くと、空にいる一輪から、やば……と言う声が漏れる。
周囲はどよめき、星の一帯だけ人だかりが離れていった。

野性に狂った虎が現れた。 人々の不安は、そう物語っている。
大切な人に襲い来る凶弾から、猛り狂った虎へと変貌し、空へ怒りの視線を注ぐ。
その畏怖は、一輪の動きを止めてしまった。

余談であるが、一輪が最も怒らせてはいけないと思っている人物は星であり、次点で聖とぬえになる。
鵺を種族名で呼んでいるのは、一目置いているからに他ならない。

そんな、今にも牙を剥いて噛み砕きに来そうな姿に変貌した星。
その彼女に裏手で軽く拳を当てるナズーリン。

「あう」

可愛らしい言葉と共に虎の威が散っていった。
同時に、空気を読まない布都が一輪を挑発する。
挑発に乗った一輪は、再び空へと上がって行き、中断した戦いが再び始まった。

どこかで、1100ccのバイクの爆音が響く、神子が跳ね飛ばされ、屠自古は、やれやれと零した。
そんな屠自古の元に、他の寺衆が集まって行く。 天狗もおまけで付いてきた。

酔った星は大虎になる事がある。 だが、今の星は借りて来た猫の様だ。
原因は他にあるが、ナズーリンにとっては、どちらでも良い事である。
胡坐の上に座らされている事実があろうとも、星はナズーリンに頭が上がらない状態であった。

「まったく、君は馬鹿か」
「だ、だって……」

ナズーリンが傍に居る時、星の行動は無意識と言っても良い程である。
彼女を守る事がすべてにおいて優先されている。
それは、星がナズーリンに初めて会った時に告げられている言葉から、推測できるだろう。
その言葉を思い出すと、鉄面皮のナズーリンも頬を赤らめ、心拍の高鳴りを押さえられない。

「だっても何もない。 君は、ここをどうするつもりだった」

耳の痛い事を言われた。 お祭り会場を血の海に変える所であった。
少なくとも星には、その力がある事を十二分に理解している。
阿礼乙女の書に宝塔が力の八割を占められていると書かれているのは伊達では無い。
大地を焼き尽くす兵器。 宝塔の力の二割五分を星が有しているのだ。
星が本気で怒れば容易い事だ。

「君は毘沙門天だろ。 そんな事で本当に神が務まると思っているのか」

ナズーリンの叱りは、他者から見れば大した事はない。
母が子に間違った事を是正させている様にしか聞こえなかった。
もっと、言えば愛する恋人を駄目にしている様にしか聞こえなかった。

だが、本当の毘沙門天の遣いであるナズーリンの言葉は、星にとって大きな大きな言葉である。
先にナズーリンを守り、辺りを威圧した恐ろしさは何処にもなかった。

「ご、ごめん……なさい……」

今にも泣きそうな星。 酔いは冷め、ただ許しを請う姿。
それは、冷雨に晒される中、助けを請う子猫の様であった。
だが、そんな姿を見せられてナズーリンが黙っている筈もない。
何より、先に守られた事と、自分をこんなにも大切に思ってくれた事は紛れも無い事実であると彼女も理解している。
それは、過去の約千年間ではっきりした事だ。

「はぁ……私が言い過ぎた」
「ナズーリン」

飽く迄、主導権はナズーリンにある。 そうでなければならない。
仲間をまとめて三人以上封印している星にとっては、これで丁度良い。
主人が良心の呵責に耐えられなくなるのは、もう見たくない。 ナズーリンは何度もそう思っている。

「ありがとうございます。 ナズーリン」
「こ、こら。 抱き締めるな。 皆が見ているだろ」

~~~~~

寅柄の少女の胡坐の上、鼠の少女は酌をしていた。
その度に酒を飲み、赤ら顔で喜ぶのは星。
その姿に普段の様子からは、想像のつかない笑みを浮かべるのはナズーリンである。
人間ならば死んでいる量の酒をあおる星であったが、おもむろに杯を置く。

「どうした? もう酒は良いのか?」

少し焦ったのはナズーリンだ。 衆人の中、主人に襲われたらたまったものではない。
そういう、特殊な性癖を持ち合わせている筈も無い。
星が黙って抱き着くのだから、その心配もひとしおだ。

「ナズーリン。 こんな私に付いて来てくれてありがとう」

酔った言葉と言えばそうだろう。 だが、二人きりの時より重みがある。
それもそうだ。 何しろ、ここには酔っていない者もいるのだ。
どこの者とも分からぬ者に言質を取られているから重みが違うのだ。

「こ、こら、酔った勢いに任せるものでは無いぞ」

ナズーリンは素面である。
だからこそ、酔った勢いの言葉を、毘沙門天の、主人の、星の言葉として認めてはならなかった。
本当ならば、主人や恋人よろしく、自慢がしたくて仕方が無い。
それが、音信不通の本来の、ひいては大切な大切な今の主人を引き立たせる事になる。

そんな、ナズーリンの心遣いを、いつも良い意味で粉砕するのは、その思い人である。

「酔ったからではありません。 私はいついかなる時もナズーリンに感謝を忘れた事はありません」

知っている。 ナズーリンは、そう言いたくて仕方が無かった。
だが、言ってはならない。
その言葉を皆が聞けば、たちまちに毘沙門天の威光が地に堕ちる事を知っているからだ。
頂点を知った欲深き人間は、盛者必衰の理に当てはめようと無駄な力を発揮する。
己が身に唐突に舞い降りた理不尽。 ナズーリンの目に涙が浮かぶ。
そこに突如、舞い降りた乱入者。

「な、何ですか? 貴女は……」
「いや、そこの鼠が全然飲んでないと思ってよぉ」

酔っぱらいの、足元が覚束ない少女。
霧雨魔理沙……と、彼女を付け狙う少女が数人。
抱き着かれているナズーリンに自然を装って杯を持たせる。

「そぉれぃ!!!」

ナズーリンが星に注いだ様に、杯には並々と酒が注がれた。

「……何のつもりだ?」
「やっ……なに……」
「何だと聞いている」
「あ、それ! ナズーリンの、ちょっと良いトコ見て見たい!」

完全な酔っぱらいのそれである。
普段の彼女なら、不機嫌さと共に杯を投げ捨てただろう。
生憎、今の彼女は穴があったら入りたい程の恥ずかしさを味わっている。
酒で紛らわせるならばと、下戸にも関わらず酒を一息にあおった。

~~~~~

人間の身分でありながら妖怪の群の中に身を置いている。
酔いに酔った彼女を何と例えるか。 例えるなら肉食獣の中にいる羊と言おうか。
魔理沙は、人気者であり、狙う人物も多々いる。
酔い潰れた白黒の魔法使いに幸あれ(幸が訪れるとは誰も思っていない)。

最初から居る。 大きく立派な花を咲かせている桜の木の下。
酔い潰れたナズーリンに膝枕をするのは、彼女の主人の星。
暖かな風を受けて、癖っ毛の寅柄の髪が少しなびいた。

意識を取り戻したナズーリンは見下している星と目が合う。
突然の事に酔いの覚めやらぬ中、体を起こした。
襲う頭痛に頭を抱えるが、その体を星が抱き起す。
次の瞬間、星はナズーリンの額に額を当てた。
息のかかる距離。 ナズーリンの頭が混乱をきたした。
今まで、この距離は何度も味わった。 それでも、慣れる事も飽きる事もない。
頬を染め、言葉さえも失った彼女の心中は如何程のものか。

「大丈夫みたいですね」

若干であるが、周囲の空気が軽くなった気がした。
顔を離す星。 自分の手から離れていく感覚をナズーリンは感じた。
酔っている勢いもあり、そのまま星の胸に飛び込む。

「ま、まだ治っていませんか?」

星の問が何を言っているのか解らない。
それでも、主人が慌てているのは解った。
長い付き合いだ。 それぐらいの事は彼女も解るだろう。

「離れて行かないでくれ。 私にとって、君は必要な存在なんだ」

星の慌て具合が静まっていく。
安心させる為に優しく抱き返した星は、これまた優しく声をかけた。

「大丈夫です。 私が貴女を離す事などありえません」

それは、約千年間の実績に裏付けられた信頼のある言葉であった。
一滴の涙を見落とす事は、許される権利であると断言する。

そんな愛らしく、可愛らしく、平穏な一時も星には許されない。
布都に敗れた一輪が地上に戻り、酔った魔理沙に弾幕勝負で蹴散らされた響子と小傘。
仲間の敗北に猛る、ぬえとマミゾウ。
1100ccのバイクに轢き殺される神子。
布都の高笑いと、村紗の歯噛み。
その、視線を集めたのは、他ならぬ命蓮寺本尊毘沙門天の星であった。

「貴様ら!」

その視線を更に集めたのは、酔ったままのナズーリンであった。
抱き着いたまま、更に大袈裟な動作で星に抱き着く。

「寅丸星様は私のものだ! 私が何千年もかけて探し出したんだ!」

恐らく、千は超えているだろう。
その群衆の時が止まった。 騒がしい程の声が止まり。
静寂の中、現世と幻想の区別のつかないナズーリンが続ける。

「誰にも渡さん! 絶対に渡さん! 取れるものなら取ってみろ……ぉぉぉお?」

いたたまれなくなったのは、星であった。
珍しく頬を染めたのは、酒の所為でもないだろう。
ナズーリンをお姫様抱っこすると、空の彼方に消えて行った。

その後に残った人々は、何事も無く花見の騒がしい宴会に戻って行った。
花見の季節は、恐らくこんな事が続くのだろうな。と楽しみを込めていた。
寒い季節だから、心が少しでも温かくなれば良いな……って、気持ちで作りました。
まいん
http://twitter.com/mine_60
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コメント



0.310簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
まいん
おもろかった
4.無評価名前が無い程度の能力削除
まいんさんって寅丸様のことになると他作品に比べて筆致が鈍る傾向にありませんか?
必要な描写が足りない一方、必要でない描写が諄く、彼女の魅力を描き損ねているように思います。
お気に入りキャラ故に、力が入りすぎてるんじゃないでしょうか?
5.100削除
大寅モードの星さまに抱きかかえられてるさまを見て、周りは大層ドキドキしてチラチラと見てしまうと思いますが
ナズーリンは困惑しているようでいて優越感でいっぱいでしょう。見せつけてくれるじゃないのさ。

>今まで、この距離は何度も味わった。 それでも、慣れる事も飽きる事もない。
ここ好きです!ナズと星はいつまでも仲睦まじく初々しい!
6.無評価名前が無い程度の能力削除
すいません、4のコメントを書いた者です。私の感想の書き方が至らなかったために、まいんさんに余計な悩みを生んでしまっているように思ったので補足させてください。私はまいんさんのtwitterをよく拝見していて、まいんさんが寅丸星というキャラクターをどう思ってらっしゃるかを知っているつもりです(産/廃のほうの作品も見ています)。「彼女の魅力」というのは、当然「私の考えている彼女の魅力」のことではなく、「まいんさんの考えているであろう彼女の魅力」という意味で書きました。

「必要な描写が足りない」というのは、改めて考えると、私の感想が的外れなだけでした。すみません。しかしナズ星のラブラブ描写は消化不良を起こしているように感じましたし、宝塔の件等「描きすぎかな」というのはやはり気になりました。改めて考えると「全体的に三人称の立場からの説明が多く、それがまさしくナズ星のラブラブさに水を差して描写の効果を薄めたり、二人の微妙な関係性の描写を阻害しているのではないか」と思いました。「力が入りすぎている」という感想はそういったことから感じたものでもあったと思います。

私もナズ星好きなので、どうかナズ星をやめないでください。