「乙女回路、ですか?」
「はい!」
博麗神社で、通例の取材中に居合わせた早苗さん。
その早苗さんの言う乙女回路なるものは、私の辞書にはありませんでした。
「ほうほう、それはどういったもので」
「乙女回路とは! 女の子なら誰だって持っている、自分の中の乙女である部分に反応するものです。言うなれば、ドラえもんにとってのどら焼き、銀さんにとっての甘いもの、新八にとってのパンデモニウムみたいなものですね」
「それ、全員男じゃないんですか」
「細かい事は気にしない」
と、したり顔でサムズアップを決めていらっしゃる。
いつも通りと言えばそれまでですが、まぁこの人も、乙女とは縁遠い性格をしてらっしゃる。
そんな早苗さんが乙女乙女連呼する姿は、かなり奇異に映ったりもするのです(本人には言わないでおきましょう)。
「要するに、私の好きなもの、みたいなものですね」
「乙女回路です」
「はいはい、乙女回路、と。それでは、早苗さんにとっての乙女回路とは何でしょう」
「そうですね、やはり幻想郷まで持って来た、漫画約数千冊でしょうか」
「事あるごとにお勧めされるあれですか。確かにあれの話の時は、活き活きしていらっしゃいますね。……因みに信仰する八坂様とか洩矢様は乙女回路ではないんですか」
「やだなぁ、そんな定型通りの身内褒めみたいなの、気持ち悪いだけじゃないですか」
はい、気持ち悪いって言われてますよ二柱。
早苗さんにとってのあなた方の価値は、漫画本数千冊以下って言われてますよ。
とにもかくにも、早苗さんは漫画乙女、と。
……ですが乙女回路の実例として漫画約数千冊と言われてもいまいち分かりませんね。
人によって違う答えが出るでしょうし、ここは他の方にも取材と行きましょう。
「では、お話を聞いていた、そちらの仙人様と霊夢さんにとっての乙女回路もお尋ねしたいです」
「そうですね、私は」
「甘いものでしょ」
「ちょっと、霊夢勝手に人の」
「甘いもの食ってる時のあんたの顔見たら、誰だってそう言うわよ」
私も人里で見かけた事が有りますが、眉が下がって口元が綻んだあの姿は、甘味のために生まれて来た乙女、甘味乙女と言って良いかも知れません。
と言うか、仙人様の甘い物好きを、人里に住んでて知らない人の方が珍しいでしょう。
「そ、そんな笑顔でしたか私」
「うん」
「……今度から気を付けよう」
まぁ、気を付けてどうにかなる物でもないでしょうけれど、あの顔は。
「華扇さんは甘いもの、と。それでは、霊夢さんにとっての乙女回路とは」
「そうね、自分の事となると難しいわね」
「霊夢はお賽銭でしょう」
「な、ちょっと華扇」
「一日千秋の思いで待ちわびて、出会った日には浮かれまくる。これを乙女と言わずして何を乙女と言うのか」
「ぐぬぬ……」
確かに霊夢さんは、十里先からでも、お賽銭の音を聞き逃さない程度の能力の持ち主です。
昔、外の世界から来ていた方が現場を目撃して『オー、ジャパニーズニンジャ!』と言っていたのを思い出します。
銭乙女、これ以上ふさわしい言葉も無いでしょう。
「霊夢さんはお賽銭、と」
「そこの烏も勝手に決め付けるな! ……えーと、あれよホラ。掃除の後のお茶の時間、とか」
「ティータイムですね。英国紳士たるもの、お茶の時間は大事にしないといけません」
「早苗、私英国でも紳士でもない」
「気分です」
早苗さんの気分によって、英国紳士へと姿を変えられた霊夢さんの明日はどちらに。
とりあえず、お三方の乙女回路とやらは出揃いましたが、これだけでは少し不足しています。
ネタにもなりそうですし、各方面へ乙女回路とやらのインタビューをして数を集めましょう。
「ありがとうございました。それでは私は、他でも聞いて回ってみますのでこれにて」
「あ、こらお賽銭入れてけ!」
「霊夢、やっぱり……」
「ちが、わないけど、違うから!」
そんな会話を後に聞きながら、博麗神社を後にして。
向かう先は、どうせなら新興勢力の方が受けが良いでしょう。
且つ、居場所がはっきりしていて、ある程度数が揃っているとなれば……。
***
「こんにちは、清く正しい射命丸文です」
「こんにちは!」
「はい、元気の良い返事ですね」
「はい、元気です」
向かった先は命蓮寺。
可愛らしい山彦の妖怪が出迎えてくれました。
実に可愛らしいです。
幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)会員として、清く正しい心で可愛い子を見守り続ける事は私のライフワークであり、明日への糧です。
「こちらのお寺へ、取材をお願いしたいのですが」
「こちらのお寺へ、取材をお願いしたいのですが! ですね、少々お待ち下さいー」
声の大きさは可愛いの範囲を少し超えてますが。
まぁあのくらいの小さい子は、元気が良いのが一番です。
「どうぞお入り下さい! 奥の離れでお待ちしていますとの事です!」
暫く待つと、諾の返事を持って山彦の妖怪が戻って来たので、お礼を言って敷地の中へ。
この子にも聞いておこうかと思いましたが、乙女と言うには年齢的に少々不足しているようですし、先送りですね。
いやあ、先が楽しみです。
妙蓮寺の門をくぐると、手水鉢の付近に幽霊を発見。
(水場には幽霊が居るものです)
この方にも聞いてみましょう。
「乙女回路、って何でしょうか」
「はい、つまりですね、斯斯然然というわけでして」
「なるほど、そう言うものを聞いて回っていると」
この方はキャプテンをやってらっしゃる村紗水蜜さん。
ところで、キャプテンって何でしょうね。
幻想郷にはキャプテンと言うものが存在しないので、言葉でしか知らないのです。
以前早苗さんに聞いたら『ハーロックですか翼ですかもしやカツーラですか。それにしてもキャプテンって響きが良いですよね、なれるなら私もキャプテンになりたいです。キャプテン東風谷って良い響きですよね、外宇宙にだって飛び出せそうです』と大変頭の痛くなる、素敵な言葉を頂いたのを思い出しました。
「うーん、そうですね、私にとっては聖でしょうか」
「舟幽霊との事でしたが、舟ではないんですね」
「舟も好きですけど、舟はどちらかと言うと魂の滾る方でして」
「はぁ」
「私、舟のハンドルを握ると性格が変わってしまうんです。ついでに声まで変わって大塚明夫みたいに渋くなるらしいんですけど」
「誰ですか大塚さんて」
「いえ、良く知りませんけど、この前緑髪の人がそう言ってました。エイ○ブ船長とか何とか」
はい、早苗さんですね。
幻想郷に緑髪は多々居れど、そんな事言う緑髪は早苗さんしか居ません。
間違っても閻魔様はそんな事言わないし、風見幽香さんもそんな事言わないです。
「まぁ、舟の方は置いておくとして、村紗さんにとっては、聖さんと言う事で」
「あ、はい、そうですね」
「お時間頂き、ありがとうございます」
聖乙女、と言う事でしょうか。
字面だけ見ればこれ以上無いくらい乙女な感じです。
お礼を言いその場を離れて、本堂を横切って縁側のある離れへ。
居ました、件の聖さんと、もう一人は秦こころさんのようですね。
聖さんに抱っこされて縁側に座っているこころさんを見ていると、さながらお婆ちゃんと孫の構図。
微笑ましいので、インタビュー前にこっそり一枚。
次回の文々。新聞に載せるとしましょう。
「乙女回路ですか」
「ええ、聖さんにとっての乙女回路は何でしょう」
「心に響くもの、と言えば、読経でしょうか」
「なるほど、聖さんらしいと言えばらしい。いわゆる法悦とか言うものでしょうか」
「法悦、とは違いますね。あれは信じる事で得られるものですから」
「過去の事を考えると、頭から信じる事は出来ないと?」
「いえ、真に信仰が無くては人に教えるなど出来はしません。そうではなく、読経そのものは信仰とは無関係なのです」
「あぁ、そう言う事で」
「読経即ち信仰、となってしまっては意味がないのです」
信仰心=読経ではない。
信仰心の現れとして読経をするのであって、読経をしているから信仰心があるわけではない、という事でしょう。
聖さんは読経乙女。
声に出すと、度胸のある乙女にしか聞こえませんし、そっちの方が200%合ってる気がします。
「ありがとうございました」
「お役に立てれば何よりです」
「では次に、こころさんにとっての乙女回路とは」
しばし考えている様子で、表情は変わらず両目だけが、あっちに行ったりこっちに来たり。
無表情ながらも実に整った可愛らしさ。
幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)会員として、清く正しい心で可愛い子を見守り続ける事は私のライフワークであり、明日への糧です。
「心に来るもの、と言えばこいしの、マロい尻」
「ふんふん、こいしさんのマロい……尻、と」
なるほどこころさんの乙女回路は尻。
え、お尻?
っていやいや、有り得ませんよ。
聖さんも『こころちゃん、何を言ってるの?』って感じで固まってます。
ハハハ、こやつめ。
こんな可愛い子の乙女な部分が、お尻なわけがない。
尻乙女。
それはひょっとしてギャグで言っているのだろうか、としか思えない字面です。
「あのー、すいません。お尻って聞こえたんですけど、聞き間違いですよね」
「尻じゃない」
「ですよね」
ほら、間違ってしまったのでこころさんも怒ってますよ。
「マロい尻だ」
「何か形容しがたき形容詞みたいなのが付いてます!」
「そう、あの尻は、こう……股座にズキュンと来る」
「股座って、女の子の使う言葉じゃないです!」
「え。だって股座にはもう一つの心が有るって、屠自古に怒られてた神子が言ってた」
「最低ですよ、あの性徳王!」
いや、確かに上半身と下半身は別の生き物って言いますけども。
お尻も下半身ですけれども。
尻乙女なんて、冗談としか思えない。
「こころちゃんが、こころちゃんが……うーん」
ああ、聖さんが、王双が斬られた曹真よろしく気絶してしまいました。
「しっかりして下さい。こころちゃんは、あの時同じ花を見て美しいと言ったあの頃と、何も変わってはいませんよ」
「おい、私はそんな事言ってないぞ」
「残酷な真実より、優しい嘘です」
「ジャーナリズムの腐敗を見た」
「一つの嘘が千の真実に勝る事だって有るんです」
もしもそれを腐敗と呼ぶなら、私は喜んで腐敗します。
こんな可愛い子を尻乙女と書くくらいなら、人を愛する乙女と書きます(但し臀部に限る)。
「大体何ですか、あなたみたいな可愛い子がお尻お尻って。可愛い女の子って言うのはですね、純心無垢で、良い匂いがして、穢れを知らず花のごとく、愛されて行く生き物なんですよ」
「お前キモい」
こころなしか、こころさんが人を蔑む表情をしているように見えます。
幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)会員として、清く正しい心で可愛い子を見守りたいだけなのに。
ああ、世の中は間違っている。
「それにお前は二つの間違いを犯している」
「何が間違っているって言うんです」
「1つ。尻じゃない、マロい尻だ。他の尻はどうでも良い」
「もっと病的でした!」
「マロくない尻はただの尻だ」
「何ですか、その飛べない豚はただの豚だ、的なのは!」
もう泣きたいです。
こんな可愛い子が尻を連呼する姿なんて、聞きたくなかった……。
「そして2つ。お前は全然マロい尻の凄さを分かってない」
「な」
「人それを狭小と呼ぶ!」
「ぬぬ」
実に堂に入った大見得の切り方。
思わず、お約束だから一応聞いておこう、と悪役らしい台詞を言ってしまうところでした。
いえ、しかし私を指して狭小とは、承服出来ないレッテルを貼られてしまうのは納得出来ません。
私の心は果てしなく広い少女愛で満たされていると言うのに。
「明日またここに来い。お前に、本当のマロさを思い知らせてやろう」
「心変わりは無いと確信していますが、折角の御招待。是非お伺いさせて頂きますよ」
「よし、約束したぞ。じゃあ私は聖を介護、じゃない介抱しないといけないからこれで」
「ア、ハイ」
聖さんの事、すっかり忘れてました。
***
明けて翌日。
「臆せず来たか」
「臆する理由も有りませんからね」
鉢巻を締めて髪を纏め上げ、たすきがけのこころさん。
「そちらも気合の入り方が違うようですね」
「いや、これは昨日の罰で、お堂を掃除してただけ」
あ、左様で。
「まぁ少し待ってろ。今終わる」
ただ待っているのも暇なので、掃除をしているこころさんをカメラで撮影。
何かをひたむきにしている姿は、良いものです。
上気した頬に、汗ばんだ首筋、そして腋や内腿を伝って行く汗。
実に良いものです。
暫くして、掃除を終えて戻って来たこころさん。
「待たせたな」
「いえいえ、写真を撮りながらでしたので」
「そうか、じゃあ早速私の部屋に行こう」
「はい」
こころさんの後ろについて行きます。
それにしても、部屋まで用意されているとは、さすがの孫可愛がられっぷり。
「こいし、戻ったぞ」
「あ、おかえりー、こころちゃん」
障子の先から、今日のために呼ばれていたらしい、こいしちゃんの声が聞こえます。
こいしちゃんは、幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)の中でも、その天真爛漫さと容姿、そして遭遇度のレアリティからトップクラスの人気を誇ります。
霊夢さんやこころさんとはまた違う魅力を持っています。
「あ、どうも清く正しい射命丸でぶふぉ!」
「ん、どうした?」
「どうしたのー、天狗のお姉さん」
挨拶をしようとひょいと覗いた先に有ったのは。
「な、な、何でそんな、Yシャツにパンツ一枚なんですか!」
「見せないと、こいしの尻のマロさは分からないだろう」
「朝からずっとこの格好でスタンバってました!」
イエーイ、とハイタッチをするこころさんとこいしちゃん。
「だから何でYシャツなんですか。こう、例えば水着を着ておくとか有るでしょう」
「泳ぎもしないのに水着になる馬鹿がどこに居る」
「ねー」
お前は何を言ってるんだって視線が痛いです。
それは水着だから、まぁ見せても良いだろうと、公知の了解の元に成り立っているもので。
素晴らしい肢体を健康的に見せるためにで有りまして。
「と、とにかく見せても良い格好と言うものがですね」
「それにYシャツは正装だと聞くぞ」
「いや、確かに正装に用いられますけども、Yシャツだけの正装って無いですから!」
「でもお姉ちゃんが裸Yシャツは夜の正装って言って、パルスィに着せようとしてたよ」
「こっちの保護者もか!」
あのむっつり顔の下は、やっぱりそうなんですか。
「まぁ落ち着いて、とにかく見れば分かる」
「いえ、こんな格好の少女を見るなんて、私の矜持が!」
「ええい、まどろっこしい。やってしまえこいし」
「おー。魔理沙直伝、ひっぷあたっく!」
「くぁwせdrftgyふじこlp……」
柔らかい感触とともに、私の意識は薄れて行き――
***
―後日―
私、射命丸文は、一身上の都合で幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)を脱会致します。
つきましては、新しい趣味の同好の士を集めたく思いますので、ご興味のある方は、私までご連絡下さい(女性限定です)。
あ、発行した文々。新聞には、乙女回路については書きましたが、流石にこころさんについては適当に誤魔化しました。
「はい!」
博麗神社で、通例の取材中に居合わせた早苗さん。
その早苗さんの言う乙女回路なるものは、私の辞書にはありませんでした。
「ほうほう、それはどういったもので」
「乙女回路とは! 女の子なら誰だって持っている、自分の中の乙女である部分に反応するものです。言うなれば、ドラえもんにとってのどら焼き、銀さんにとっての甘いもの、新八にとってのパンデモニウムみたいなものですね」
「それ、全員男じゃないんですか」
「細かい事は気にしない」
と、したり顔でサムズアップを決めていらっしゃる。
いつも通りと言えばそれまでですが、まぁこの人も、乙女とは縁遠い性格をしてらっしゃる。
そんな早苗さんが乙女乙女連呼する姿は、かなり奇異に映ったりもするのです(本人には言わないでおきましょう)。
「要するに、私の好きなもの、みたいなものですね」
「乙女回路です」
「はいはい、乙女回路、と。それでは、早苗さんにとっての乙女回路とは何でしょう」
「そうですね、やはり幻想郷まで持って来た、漫画約数千冊でしょうか」
「事あるごとにお勧めされるあれですか。確かにあれの話の時は、活き活きしていらっしゃいますね。……因みに信仰する八坂様とか洩矢様は乙女回路ではないんですか」
「やだなぁ、そんな定型通りの身内褒めみたいなの、気持ち悪いだけじゃないですか」
はい、気持ち悪いって言われてますよ二柱。
早苗さんにとってのあなた方の価値は、漫画本数千冊以下って言われてますよ。
とにもかくにも、早苗さんは漫画乙女、と。
……ですが乙女回路の実例として漫画約数千冊と言われてもいまいち分かりませんね。
人によって違う答えが出るでしょうし、ここは他の方にも取材と行きましょう。
「では、お話を聞いていた、そちらの仙人様と霊夢さんにとっての乙女回路もお尋ねしたいです」
「そうですね、私は」
「甘いものでしょ」
「ちょっと、霊夢勝手に人の」
「甘いもの食ってる時のあんたの顔見たら、誰だってそう言うわよ」
私も人里で見かけた事が有りますが、眉が下がって口元が綻んだあの姿は、甘味のために生まれて来た乙女、甘味乙女と言って良いかも知れません。
と言うか、仙人様の甘い物好きを、人里に住んでて知らない人の方が珍しいでしょう。
「そ、そんな笑顔でしたか私」
「うん」
「……今度から気を付けよう」
まぁ、気を付けてどうにかなる物でもないでしょうけれど、あの顔は。
「華扇さんは甘いもの、と。それでは、霊夢さんにとっての乙女回路とは」
「そうね、自分の事となると難しいわね」
「霊夢はお賽銭でしょう」
「な、ちょっと華扇」
「一日千秋の思いで待ちわびて、出会った日には浮かれまくる。これを乙女と言わずして何を乙女と言うのか」
「ぐぬぬ……」
確かに霊夢さんは、十里先からでも、お賽銭の音を聞き逃さない程度の能力の持ち主です。
昔、外の世界から来ていた方が現場を目撃して『オー、ジャパニーズニンジャ!』と言っていたのを思い出します。
銭乙女、これ以上ふさわしい言葉も無いでしょう。
「霊夢さんはお賽銭、と」
「そこの烏も勝手に決め付けるな! ……えーと、あれよホラ。掃除の後のお茶の時間、とか」
「ティータイムですね。英国紳士たるもの、お茶の時間は大事にしないといけません」
「早苗、私英国でも紳士でもない」
「気分です」
早苗さんの気分によって、英国紳士へと姿を変えられた霊夢さんの明日はどちらに。
とりあえず、お三方の乙女回路とやらは出揃いましたが、これだけでは少し不足しています。
ネタにもなりそうですし、各方面へ乙女回路とやらのインタビューをして数を集めましょう。
「ありがとうございました。それでは私は、他でも聞いて回ってみますのでこれにて」
「あ、こらお賽銭入れてけ!」
「霊夢、やっぱり……」
「ちが、わないけど、違うから!」
そんな会話を後に聞きながら、博麗神社を後にして。
向かう先は、どうせなら新興勢力の方が受けが良いでしょう。
且つ、居場所がはっきりしていて、ある程度数が揃っているとなれば……。
***
「こんにちは、清く正しい射命丸文です」
「こんにちは!」
「はい、元気の良い返事ですね」
「はい、元気です」
向かった先は命蓮寺。
可愛らしい山彦の妖怪が出迎えてくれました。
実に可愛らしいです。
幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)会員として、清く正しい心で可愛い子を見守り続ける事は私のライフワークであり、明日への糧です。
「こちらのお寺へ、取材をお願いしたいのですが」
「こちらのお寺へ、取材をお願いしたいのですが! ですね、少々お待ち下さいー」
声の大きさは可愛いの範囲を少し超えてますが。
まぁあのくらいの小さい子は、元気が良いのが一番です。
「どうぞお入り下さい! 奥の離れでお待ちしていますとの事です!」
暫く待つと、諾の返事を持って山彦の妖怪が戻って来たので、お礼を言って敷地の中へ。
この子にも聞いておこうかと思いましたが、乙女と言うには年齢的に少々不足しているようですし、先送りですね。
いやあ、先が楽しみです。
妙蓮寺の門をくぐると、手水鉢の付近に幽霊を発見。
(水場には幽霊が居るものです)
この方にも聞いてみましょう。
「乙女回路、って何でしょうか」
「はい、つまりですね、斯斯然然というわけでして」
「なるほど、そう言うものを聞いて回っていると」
この方はキャプテンをやってらっしゃる村紗水蜜さん。
ところで、キャプテンって何でしょうね。
幻想郷にはキャプテンと言うものが存在しないので、言葉でしか知らないのです。
以前早苗さんに聞いたら『ハーロックですか翼ですかもしやカツーラですか。それにしてもキャプテンって響きが良いですよね、なれるなら私もキャプテンになりたいです。キャプテン東風谷って良い響きですよね、外宇宙にだって飛び出せそうです』と大変頭の痛くなる、素敵な言葉を頂いたのを思い出しました。
「うーん、そうですね、私にとっては聖でしょうか」
「舟幽霊との事でしたが、舟ではないんですね」
「舟も好きですけど、舟はどちらかと言うと魂の滾る方でして」
「はぁ」
「私、舟のハンドルを握ると性格が変わってしまうんです。ついでに声まで変わって大塚明夫みたいに渋くなるらしいんですけど」
「誰ですか大塚さんて」
「いえ、良く知りませんけど、この前緑髪の人がそう言ってました。エイ○ブ船長とか何とか」
はい、早苗さんですね。
幻想郷に緑髪は多々居れど、そんな事言う緑髪は早苗さんしか居ません。
間違っても閻魔様はそんな事言わないし、風見幽香さんもそんな事言わないです。
「まぁ、舟の方は置いておくとして、村紗さんにとっては、聖さんと言う事で」
「あ、はい、そうですね」
「お時間頂き、ありがとうございます」
聖乙女、と言う事でしょうか。
字面だけ見ればこれ以上無いくらい乙女な感じです。
お礼を言いその場を離れて、本堂を横切って縁側のある離れへ。
居ました、件の聖さんと、もう一人は秦こころさんのようですね。
聖さんに抱っこされて縁側に座っているこころさんを見ていると、さながらお婆ちゃんと孫の構図。
微笑ましいので、インタビュー前にこっそり一枚。
次回の文々。新聞に載せるとしましょう。
「乙女回路ですか」
「ええ、聖さんにとっての乙女回路は何でしょう」
「心に響くもの、と言えば、読経でしょうか」
「なるほど、聖さんらしいと言えばらしい。いわゆる法悦とか言うものでしょうか」
「法悦、とは違いますね。あれは信じる事で得られるものですから」
「過去の事を考えると、頭から信じる事は出来ないと?」
「いえ、真に信仰が無くては人に教えるなど出来はしません。そうではなく、読経そのものは信仰とは無関係なのです」
「あぁ、そう言う事で」
「読経即ち信仰、となってしまっては意味がないのです」
信仰心=読経ではない。
信仰心の現れとして読経をするのであって、読経をしているから信仰心があるわけではない、という事でしょう。
聖さんは読経乙女。
声に出すと、度胸のある乙女にしか聞こえませんし、そっちの方が200%合ってる気がします。
「ありがとうございました」
「お役に立てれば何よりです」
「では次に、こころさんにとっての乙女回路とは」
しばし考えている様子で、表情は変わらず両目だけが、あっちに行ったりこっちに来たり。
無表情ながらも実に整った可愛らしさ。
幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)会員として、清く正しい心で可愛い子を見守り続ける事は私のライフワークであり、明日への糧です。
「心に来るもの、と言えばこいしの、マロい尻」
「ふんふん、こいしさんのマロい……尻、と」
なるほどこころさんの乙女回路は尻。
え、お尻?
っていやいや、有り得ませんよ。
聖さんも『こころちゃん、何を言ってるの?』って感じで固まってます。
ハハハ、こやつめ。
こんな可愛い子の乙女な部分が、お尻なわけがない。
尻乙女。
それはひょっとしてギャグで言っているのだろうか、としか思えない字面です。
「あのー、すいません。お尻って聞こえたんですけど、聞き間違いですよね」
「尻じゃない」
「ですよね」
ほら、間違ってしまったのでこころさんも怒ってますよ。
「マロい尻だ」
「何か形容しがたき形容詞みたいなのが付いてます!」
「そう、あの尻は、こう……股座にズキュンと来る」
「股座って、女の子の使う言葉じゃないです!」
「え。だって股座にはもう一つの心が有るって、屠自古に怒られてた神子が言ってた」
「最低ですよ、あの性徳王!」
いや、確かに上半身と下半身は別の生き物って言いますけども。
お尻も下半身ですけれども。
尻乙女なんて、冗談としか思えない。
「こころちゃんが、こころちゃんが……うーん」
ああ、聖さんが、王双が斬られた曹真よろしく気絶してしまいました。
「しっかりして下さい。こころちゃんは、あの時同じ花を見て美しいと言ったあの頃と、何も変わってはいませんよ」
「おい、私はそんな事言ってないぞ」
「残酷な真実より、優しい嘘です」
「ジャーナリズムの腐敗を見た」
「一つの嘘が千の真実に勝る事だって有るんです」
もしもそれを腐敗と呼ぶなら、私は喜んで腐敗します。
こんな可愛い子を尻乙女と書くくらいなら、人を愛する乙女と書きます(但し臀部に限る)。
「大体何ですか、あなたみたいな可愛い子がお尻お尻って。可愛い女の子って言うのはですね、純心無垢で、良い匂いがして、穢れを知らず花のごとく、愛されて行く生き物なんですよ」
「お前キモい」
こころなしか、こころさんが人を蔑む表情をしているように見えます。
幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)会員として、清く正しい心で可愛い子を見守りたいだけなのに。
ああ、世の中は間違っている。
「それにお前は二つの間違いを犯している」
「何が間違っているって言うんです」
「1つ。尻じゃない、マロい尻だ。他の尻はどうでも良い」
「もっと病的でした!」
「マロくない尻はただの尻だ」
「何ですか、その飛べない豚はただの豚だ、的なのは!」
もう泣きたいです。
こんな可愛い子が尻を連呼する姿なんて、聞きたくなかった……。
「そして2つ。お前は全然マロい尻の凄さを分かってない」
「な」
「人それを狭小と呼ぶ!」
「ぬぬ」
実に堂に入った大見得の切り方。
思わず、お約束だから一応聞いておこう、と悪役らしい台詞を言ってしまうところでした。
いえ、しかし私を指して狭小とは、承服出来ないレッテルを貼られてしまうのは納得出来ません。
私の心は果てしなく広い少女愛で満たされていると言うのに。
「明日またここに来い。お前に、本当のマロさを思い知らせてやろう」
「心変わりは無いと確信していますが、折角の御招待。是非お伺いさせて頂きますよ」
「よし、約束したぞ。じゃあ私は聖を介護、じゃない介抱しないといけないからこれで」
「ア、ハイ」
聖さんの事、すっかり忘れてました。
***
明けて翌日。
「臆せず来たか」
「臆する理由も有りませんからね」
鉢巻を締めて髪を纏め上げ、たすきがけのこころさん。
「そちらも気合の入り方が違うようですね」
「いや、これは昨日の罰で、お堂を掃除してただけ」
あ、左様で。
「まぁ少し待ってろ。今終わる」
ただ待っているのも暇なので、掃除をしているこころさんをカメラで撮影。
何かをひたむきにしている姿は、良いものです。
上気した頬に、汗ばんだ首筋、そして腋や内腿を伝って行く汗。
実に良いものです。
暫くして、掃除を終えて戻って来たこころさん。
「待たせたな」
「いえいえ、写真を撮りながらでしたので」
「そうか、じゃあ早速私の部屋に行こう」
「はい」
こころさんの後ろについて行きます。
それにしても、部屋まで用意されているとは、さすがの孫可愛がられっぷり。
「こいし、戻ったぞ」
「あ、おかえりー、こころちゃん」
障子の先から、今日のために呼ばれていたらしい、こいしちゃんの声が聞こえます。
こいしちゃんは、幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)の中でも、その天真爛漫さと容姿、そして遭遇度のレアリティからトップクラスの人気を誇ります。
霊夢さんやこころさんとはまた違う魅力を持っています。
「あ、どうも清く正しい射命丸でぶふぉ!」
「ん、どうした?」
「どうしたのー、天狗のお姉さん」
挨拶をしようとひょいと覗いた先に有ったのは。
「な、な、何でそんな、Yシャツにパンツ一枚なんですか!」
「見せないと、こいしの尻のマロさは分からないだろう」
「朝からずっとこの格好でスタンバってました!」
イエーイ、とハイタッチをするこころさんとこいしちゃん。
「だから何でYシャツなんですか。こう、例えば水着を着ておくとか有るでしょう」
「泳ぎもしないのに水着になる馬鹿がどこに居る」
「ねー」
お前は何を言ってるんだって視線が痛いです。
それは水着だから、まぁ見せても良いだろうと、公知の了解の元に成り立っているもので。
素晴らしい肢体を健康的に見せるためにで有りまして。
「と、とにかく見せても良い格好と言うものがですね」
「それにYシャツは正装だと聞くぞ」
「いや、確かに正装に用いられますけども、Yシャツだけの正装って無いですから!」
「でもお姉ちゃんが裸Yシャツは夜の正装って言って、パルスィに着せようとしてたよ」
「こっちの保護者もか!」
あのむっつり顔の下は、やっぱりそうなんですか。
「まぁ落ち着いて、とにかく見れば分かる」
「いえ、こんな格好の少女を見るなんて、私の矜持が!」
「ええい、まどろっこしい。やってしまえこいし」
「おー。魔理沙直伝、ひっぷあたっく!」
「くぁwせdrftgyふじこlp……」
柔らかい感触とともに、私の意識は薄れて行き――
***
―後日―
私、射命丸文は、一身上の都合で幻想郷の少女を見守る会(代表:八雲藍)を脱会致します。
つきましては、新しい趣味の同好の士を集めたく思いますので、ご興味のある方は、私までご連絡下さい(女性限定です)。
あ、発行した文々。新聞には、乙女回路については書きましたが、流石にこころさんについては適当に誤魔化しました。
でもこころちゃんのプリケツのほうがもっと好きです
こころちゃんの汗も誰でも素敵です
ならば当然聖さんのたゆい肢体も誰でも好きでしょう(カオス理論)
私も大好きです。こころちゃんの尻はマロいのかなグヘヘ。
なので、こいしちゃんこころちゃん!ヒップアタックしてマロい尻の良さを教えてください!
>>5 プリケツも良いぞ。
でもマロい尻はそのマロさゆえに、守り伝えねばならぬものなので、さとり様もマロいのか、天子ちゃんはどうなのか気になって夜も眠れないです。
>>6 宇宙の 法則が 乱れる
>>10 こころちゃんは多分マロくないですが、キュっとして小振りだと思います。
>>11 ヒップアタックでは、近すぎて形を把握出来ませんので、ここは私が受けましょう。