Coolier - 新生・東方創想話

日陰者には日陰者の

2015/12/23 23:01:40
最終更新
サイズ
3.71KB
ページ数
1
閲覧数
1407
評価数
2/5
POINT
250
Rate
9.17

分類タグ

地底というのは酷い所である。天気の変化も殆ど感じられなければ、四季の変化を感じ取ることもできない。薄暗く、常に湿気を帯びていて過ごし難い。生えている草花は生きることに精一杯と言う感じで色鮮やかさは皆目無い。もっとも、こういったものに「美」というものを感じる人もいるのかもしれないが。そんな荒涼とした場所に住んでいる者は性格もそれに見合って荒んだ奴が多くなるというのが物の道理である。そう言う奴は表面上は明るく振舞ったり、どうってことないように見える。しかし、心の内には何か一物を抱えているのだ。これはそんな日陰者達のどう仕様もない話である。

「あの魔法使い、また来てくれないかねぇ。」
彼女が初めてそう呟いのはあの異変を解決するため白黒がやってきてからだ。それ以来何度となく彼女は、黒谷ヤマメはそう呟いている。その呟きが吐かれる度に私、キスメはどう仕様もなく胸が焼かれる心地がするのだ。そんな私の気も知らず、彼女は恋焦がれている。いや、私が自分の恋慕の情を隠しているだけだ。この感情を悟られては困るから。さとり妖怪というものがあらゆる者から嫌われるのも理解できる。あいつはコミュニケーションというものを破壊してしまうのだ。
「キスメ?」
どうやら私がかくの如く物思いに耽っているのが相手に伝わってしまったらしい。少し訝しげに私の顔を覗き込んできた。顔が近づく。ヤマメの吐息が私の顔に届く。唇の形がくっきりとわかる。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた。」
なるべく素っ気なく答えた。私の心の中の動揺をかき消すために。彼女の顔は離れていってしまった。もう少し近くで見ていたかった。
「最近考えことしてることが多いね。何かあったのかい?」
「別に。いつも通りだよ。」
このいつも通りというのは私はヤマメの傍にいる時はいつも何かしら考えに耽ってしまうということだ。辞めようと思っても辞められない。
「そういえば、今日はクリスマスっていう日らしい。何でも聖人がプレゼントを配って回る日らしいよ。」
「クリスマスは恋人達の日だよ。この前落ちてきた新聞にそう書いてあった。時代は変わったんだよ。」
「それは素敵ね。あの人に会いに行きたいもんだ。」
「だったら会いに行けばいいじゃない。」
「本気でそう思ってるかい?」
そう言われて、私は黙ってしまった。それがどういう意味なのかわからなかったからだ。もしかして、ヤマメは私の心を見透かしていているのだろうか?それだから、本当は一緒にいたいんじゃないのか、と私に問い詰めているのではないか?しかし、私の心がバレるようなことも無いはずだ。なるべく、顔には出さないようにしてきたはずだし、さとり妖怪にも会っていない。では、どういう事なのか?私の頭が混乱で混沌としていると、そのままヤマメが言葉を続けた。
「あの人は人気者だ。きっと、一緒に過ごす人がいるさ。それか、きっと宴会か何かに参加しているさ。地底に住む私達が呼ばれてもいないそんな席に行くなんて、興ざめさせることはできないよ。」
私は反論するために口を開こうとした。何故、そんなことを気にする、本当に恋をしているなら気にせず心の1つや2つ伝えてきたらどうだ、と。しかし、私は直ぐに口を閉ざした。私がそんな大層な事を言える立場ではないと気付いたからである。私だって、すぐ隣にいる者に心を告げていないではないか。ほんの数十cm先には愛しい人がいるのに。殆ど毎日言葉を交わしているのに。そう思うと私は急に恥ずかしくなって来て、また黙ってしまった。しばらく沈黙が続いた後、ヤマメが口を開いた。
「まぁ、あの人は私にとって太陽みたいなものさ。」
「太陽、ね。」
私にとってのヤマメは喩えるなら何だろう。雪のようなものか。
「あぁ、太陽さ。」
太陽は地底に住む日陰者には眩し過ぎると思うのは私だけだろうか?それとも私とヤマメのが似合ってると思いたいからそう考えるのだろうか?
「お酒でも飲もう。」
私は誘った。
「いいよ。」
ヤマメは快諾してくれた。こうして私達の聖夜は更けていくのだろう。だが、私はこれで良いと思う。きっと来年もこうして2人で酒を飲めるだろう。何故かって?どれだけ手を伸ばしても太陽には手は届かない。雪を手にしたら、やがて溶けてしまうから、私は手を伸ばさない。何も変わらない。だけど、私は満足だ。私はずっとヤマメといられる。私の恋心が成就することはない。それでいいじゃないか。私達は嫌われた地底の日陰者。愛されるなんて求め過ぎ、愛するだけで十分さ。これこそ、私達日陰者にふさわしい恋の形ではないか。
何とか年内に1つあげたかったので短編を一つ作りました。
来年の4月から受験生なので投稿はこれで1年間休止するかもしれないしもう1本くらいちゃんとしたのを作るかもしれません。

Twitter @ginnmaku
A.T(田中)
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.70簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
1ゲット!
4.80とーなす削除
地底らしい、歪な三角関係。倒錯的な愛。
掌編でなく、もっとじっくり読んでみたい題材ですなあ。
5.100ラビィ・ソー削除
ククズズの煮物は語り
ですね!^-^