私の葬式をすることになった。取り敢えず言っておくが私はまだ死んでいないし、これから先に死ぬ予定もない。そもそも死ねない。なのに葬式をする。
事の発端は私の家で夜、慧音と酒を飲んでいた時の話である。その日は彼女がいい酒を持ってきて、しかもそれがあんまり美味しいものだから、私は沢山呑んで、そうして酔っ払ってしまった。
慧音は上手に酒を呑む。だからほろ酔いになることはあっても、酔っ払うことはほとんどない。それなのに今の彼女は顔を赤くして、頻りに「はははは」と笑っている。なんだか世の中の全部が面白くてたまらないというふうに見える。あまり見ない酔い方だから、私は珍しく思った。
「どうしたの慧音、今日はたくさん呑むね」
「いや何、ははは、思ったより酒がうまくてな。抑えが利かないんだ」
「ふぅん……まあいいけど。呑みすぎると体に悪いよ」
「はははは、大丈夫、妹紅には敵わないけれど、これでも体は丈夫だから」安心なようなそうじゃないようなことを言ってまた呑む。そして笑う。面白そうにする。
私と慧音は呑みながら、最近食ったうまいものや近況などについて取り留めもなく話した。
そうしたものを話すうちに、いつしか話題が葬式についてになった。どうやら慧音の教え子の祖母が、ついこの間亡くなったらしい。「あの子はおばあちゃん子でね。葬儀の時もわんわん泣いていた」と、楽しげな雰囲気を引っ込めてしんみりしている。
こちらはその子供と交友がないからどうとも言いようがない。でも先ほどまで愉快そうにしていた慧音が鬱々とするものだから、私は何とか場を明るくしようと思い、「私には縁ない話だね。だって死なないもの」と軽口を叩いた。慧音は聞いているのかいないのか、窓の外を眺めてぼんやりしている。窓からは星と月とが見えた。
二人とも黙ったから辺りがしんとして、空気が重たくなったように思われる。私は話題の糸口を失くしてどうしたらよいやら分からない。空になった杯に酒をついだりそれを呷ったりして気まずさを紛らわした。
そうやってもう何杯目の酒かも曖昧になった頃、ようやく慧音が口を開いた。
「妹紅、お前の葬式をしよう」
「はあ?」
酔いすぎておかしなことを言いだしたと思い、対面に座る友人を見てみたが、いたって真面目な顔をしている。
「なんで葬式をしなくちゃいけないの?」
「なあ妹紅、私はどう頑張ってもお前より先に死ぬ」何やら悲しいことを言う。
「うん、そうだね」
「妹紅は死なないだろう」
「うん」
「死なないということは、死を悼まれないと言うことだ」
「まあ、そうなるかな」
「それじゃあ不公平だろう。私はいつか死んで妹紅を悲しませる。葬式もあげてもらうだけで、あげてやることはできない」
「だから自分が生きているうちに、私の葬式をあげてやろうって?」
「そういうことだ」慧音はゆっくりと頷いた。
お互いに黙ってまた静かになった。私は残り少ない酒を杯に注ぎ、ぐいと呷ってから、「分かった、やろう」と短く言った。せっかく友達が言ってくれているのだから、それを断るのも無粋だろう。葬式にでも何にでも出てやろうという気持ちになった。
この寛大さは慧音を喜ばせた。彼女は「よかったよかった」と大いに満足して寝た。酔いが限界だったのだろう。赤い顔で無垢な寝顔をしている。
私は板敷の上で体を丸める友人に布団を掛けてやった。そして自分用の布団を引っ張り出し、それに潜り込んで目を閉じた。
何も夢は見なかった。
酒盛りから何日か経った。私は葬式云々の話を忘れて、独り竹林で筍を引っこ抜いてまわっていた。あの時はお互い酔っ払っていたから、会話は全部、冗談に昇華して終いになったろうと思い込んでいた。そうして呑気に、採れた筍で何を作ろうかなと食い意地ばかり働かせていた。そこに慧音がやってきた。
「妹紅、葬式の日取りについて話し合いたいんだが」
「え、葬式? 葬式がどうしたって?」
「葬式は葬式だよ。何日か前に妹紅のやつをやろうと決めたじゃないか」
慧音は真顔でこんなことを言う。どうやら本気らしい。
私は急にそわそわと落ち着かない気持ちになって、「いやいいよ、葬式はもういいんだ。大丈夫」と慧音に言った。酒宴の席の戯言をまともに受け取られても恐縮するし、いざやるとなると周りにも大変迷惑をかける。なんとしてでも止めさせねばなるまい。
しかし慧音は「遠慮するな」「心配はいらない」と全然取り合う様子を見せない。もう彼女の中では、私の生き葬式は起こるものとして考えられているらしい。慧音は重度の頑固者であるから、もうここから彼女の決意を曲げさせることは不可能であろう。私はやれやれと嘆息した。そして、生きながらにして葬式の主役になるというのは何とも不思議なものだと思った。
そのあと私は暇を見つけては慧音に「諸々のことはどうなっているんだ」と尋ねてみたのだけれど、彼女は「主役はそんなことを気にしなくていいんだ」と言って何も教えてくれない。ケチ臭いと思ったけれど、よくよく考えてみれば自分の葬式にあれやこれやと口を出すような死人はいなかろう。納得した私は慧音に万事を任せ、筍を引っこ抜いたりそれを煮て食べたりして日を過ごした。
そしていよいよ葬式当日となった。私は複雑な気持ちを抱えながら葬式の会場に行った。慧音が如才なく全てを整えてくれたようで、えらく立派に仕上がっている。その立派な中に慧音が独りぽつんと立っていたから、私は近づいて「お疲れ様」と労った。
「さあ妹紅、今日はお前の晴れ舞台だ」慧音が何やらヘンテコなことを言った。
「そうだね、慧音」
「嬉しいか?」
「うん、本当にありがたいことだ。みんな来てくれるかな?」
「来るさ。だって妹紅が死ぬんだもの」また慧音がおかしなことを言う。
どうやら通夜は長ったらしいと皆に嫌がられたようで、ごくごく短い葬式だけを執り行うとのことらしい。私はむしろ、我が強く身勝手な人妖どもがこんな茶番に付き合ってくれること自体が奇跡事のように思われた。
五分ほど話してから、慧音は私を縦長い棺の前に導き、「さあ、ここに寝そべってくれ」と言った。棺の中には色々な花が敷き詰められていて綺麗だった。私は不思議な気持ちになりながら、その花でふわふわしたところに横たわった。四方から花の匂いがするし、中が思いのほか広々としているから、随分と快適に感じられた。こんなことなら死んでみるのも悪くはないなと思った。
馬鹿なことを考えていると、慧音が「そろそろ時間だ」と言って棺に蓋をしてしまった。棺の中にはいい匂いのする花と生きている私とが押し込められた。目を開けても真っ暗闇で、何だか気味が悪く、途端に快適さを感じなくなった。
外がざわざわし始めた。おそらく参列者が集まりだしたのだろう。そしてその内に外から読経の声が聞こえだした。聞き覚えのある声だと思ったら、命蓮寺の住職のものである。こんなおふざけにわざわざ本物の住職を持ってこなくてもいいだろうにと思ったけれど、葬式の実行者が慧音であるから、その辺りの融通が利かなかったのだろう。私は真面目な顔でお願いする友人と、それを困ったふうに見つめる住職とを思い浮かべ、あやうく笑いそうになった。踏ん張って耐えた。死人が笑ってはいけない。
暗い中、暇潰しに敷かれた花をいじくって遊んでいると、いつの間にか読経が止んで、すっかり静かになっていた。おや終わったかなと思ったら、途端に視界が明るくなって吃驚した。私は目が眩んで思わず目を閉じた。どうやら棺桶の蓋を取り外して、死人との最期の別れをやるらしい。棺桶の周りに人が集まっているのが分かった。
参列者の皆は死人を装った私を見て、それぞれ勝手なことを自由に話した。
「死んでるわりに血色がいいわね」これは紅白巫女の言葉である。当然だ、私は死んでなんかいないんだから。
「目の辺りがひくひくしてるぞ。可哀想に」こう言ったのは白黒魔法使いだ。大きなお世話である。
「信じられないわ。まるで生きているみたい」紅魔のメイドが驚いたように言った。だから死んでないんだってば。
何だか葬式らしくないが、まあこれも仕方ないだろうと思った。葬式は死者が主役だからこその葬式なのであって、死んでいないどころか死にもしない蓬莱人が棺の中で横たわっていても、参列した皆は真剣になれないだろう。
私は考えながらじっとして、覗き込んでくる人妖共をやり過ごそうと頑張った。時々頬をつねったりして悪戯してくる不届き者もいたが、こういう輩は慧音が叱ってくれた。やはり慧音は有難い友人である。
つねられた頬を気にしつつ黙然と死人を演じていると、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら、やっと死ねたのね妹紅」
私は危うく体を起こしそうになった。無礼なことを言ったのは宿敵の輝夜である、彼女は棺の脇を陣取り、ねちっこく「今までお疲れ様」「ゆっくりお休みなさい」などとほざく。言葉だけ聞けばまともに思えるけれど、言葉の主が輝夜だから嫌味にしか聞こえない。私はだんだん我慢が利かなくなってきた。そしてついに「貴方が死んでも私は生きる。じゃあね負け犬さん」の一言で体を跳ね上げ、驚いた顔をしている月の姫に渾身の拳を叩きこんだ。
「ちょっと何するの! 痛いじゃない!」
「黙れこの陰湿野郎! 耳元でごちゃごちゃ五月蠅いんだよ!」
「死んでいる人が五月蠅いも何もないでしょ! むしろ感謝しなさいよ、こんなへんてこなものに参加してやったんだから!」
「やかましい、頼んでもいないのに来た奴がでかい顔をするな! そもそも私はお前をぶち殺してからじゃないと死ぬに死ねない! 今すぐ殺してお前の葬式にしてやる!」
「望むところよ焼き鳥女!」
そうしていつもの殺し合いと相成り、葬式の場は完膚なきまでに破壊され、参列者どもは私たちの戦闘を遠巻きにして宴をやりだした。到底死を悼むという空気ではなく、酔客の愉快そうな声がそこらに満ちている。慧音はせっかくの葬式を台無しにされてやけっぱちになったのか、人妖たちに交じって酒をがぶがぶ飲み、大いに笑っていた。世の中の全部が面白くてたまらないというふうに見えた。
私は血を流しながらその光景を眺め、まあ生きるのも悪くないなと思った。
事の発端は私の家で夜、慧音と酒を飲んでいた時の話である。その日は彼女がいい酒を持ってきて、しかもそれがあんまり美味しいものだから、私は沢山呑んで、そうして酔っ払ってしまった。
慧音は上手に酒を呑む。だからほろ酔いになることはあっても、酔っ払うことはほとんどない。それなのに今の彼女は顔を赤くして、頻りに「はははは」と笑っている。なんだか世の中の全部が面白くてたまらないというふうに見える。あまり見ない酔い方だから、私は珍しく思った。
「どうしたの慧音、今日はたくさん呑むね」
「いや何、ははは、思ったより酒がうまくてな。抑えが利かないんだ」
「ふぅん……まあいいけど。呑みすぎると体に悪いよ」
「はははは、大丈夫、妹紅には敵わないけれど、これでも体は丈夫だから」安心なようなそうじゃないようなことを言ってまた呑む。そして笑う。面白そうにする。
私と慧音は呑みながら、最近食ったうまいものや近況などについて取り留めもなく話した。
そうしたものを話すうちに、いつしか話題が葬式についてになった。どうやら慧音の教え子の祖母が、ついこの間亡くなったらしい。「あの子はおばあちゃん子でね。葬儀の時もわんわん泣いていた」と、楽しげな雰囲気を引っ込めてしんみりしている。
こちらはその子供と交友がないからどうとも言いようがない。でも先ほどまで愉快そうにしていた慧音が鬱々とするものだから、私は何とか場を明るくしようと思い、「私には縁ない話だね。だって死なないもの」と軽口を叩いた。慧音は聞いているのかいないのか、窓の外を眺めてぼんやりしている。窓からは星と月とが見えた。
二人とも黙ったから辺りがしんとして、空気が重たくなったように思われる。私は話題の糸口を失くしてどうしたらよいやら分からない。空になった杯に酒をついだりそれを呷ったりして気まずさを紛らわした。
そうやってもう何杯目の酒かも曖昧になった頃、ようやく慧音が口を開いた。
「妹紅、お前の葬式をしよう」
「はあ?」
酔いすぎておかしなことを言いだしたと思い、対面に座る友人を見てみたが、いたって真面目な顔をしている。
「なんで葬式をしなくちゃいけないの?」
「なあ妹紅、私はどう頑張ってもお前より先に死ぬ」何やら悲しいことを言う。
「うん、そうだね」
「妹紅は死なないだろう」
「うん」
「死なないということは、死を悼まれないと言うことだ」
「まあ、そうなるかな」
「それじゃあ不公平だろう。私はいつか死んで妹紅を悲しませる。葬式もあげてもらうだけで、あげてやることはできない」
「だから自分が生きているうちに、私の葬式をあげてやろうって?」
「そういうことだ」慧音はゆっくりと頷いた。
お互いに黙ってまた静かになった。私は残り少ない酒を杯に注ぎ、ぐいと呷ってから、「分かった、やろう」と短く言った。せっかく友達が言ってくれているのだから、それを断るのも無粋だろう。葬式にでも何にでも出てやろうという気持ちになった。
この寛大さは慧音を喜ばせた。彼女は「よかったよかった」と大いに満足して寝た。酔いが限界だったのだろう。赤い顔で無垢な寝顔をしている。
私は板敷の上で体を丸める友人に布団を掛けてやった。そして自分用の布団を引っ張り出し、それに潜り込んで目を閉じた。
何も夢は見なかった。
酒盛りから何日か経った。私は葬式云々の話を忘れて、独り竹林で筍を引っこ抜いてまわっていた。あの時はお互い酔っ払っていたから、会話は全部、冗談に昇華して終いになったろうと思い込んでいた。そうして呑気に、採れた筍で何を作ろうかなと食い意地ばかり働かせていた。そこに慧音がやってきた。
「妹紅、葬式の日取りについて話し合いたいんだが」
「え、葬式? 葬式がどうしたって?」
「葬式は葬式だよ。何日か前に妹紅のやつをやろうと決めたじゃないか」
慧音は真顔でこんなことを言う。どうやら本気らしい。
私は急にそわそわと落ち着かない気持ちになって、「いやいいよ、葬式はもういいんだ。大丈夫」と慧音に言った。酒宴の席の戯言をまともに受け取られても恐縮するし、いざやるとなると周りにも大変迷惑をかける。なんとしてでも止めさせねばなるまい。
しかし慧音は「遠慮するな」「心配はいらない」と全然取り合う様子を見せない。もう彼女の中では、私の生き葬式は起こるものとして考えられているらしい。慧音は重度の頑固者であるから、もうここから彼女の決意を曲げさせることは不可能であろう。私はやれやれと嘆息した。そして、生きながらにして葬式の主役になるというのは何とも不思議なものだと思った。
そのあと私は暇を見つけては慧音に「諸々のことはどうなっているんだ」と尋ねてみたのだけれど、彼女は「主役はそんなことを気にしなくていいんだ」と言って何も教えてくれない。ケチ臭いと思ったけれど、よくよく考えてみれば自分の葬式にあれやこれやと口を出すような死人はいなかろう。納得した私は慧音に万事を任せ、筍を引っこ抜いたりそれを煮て食べたりして日を過ごした。
そしていよいよ葬式当日となった。私は複雑な気持ちを抱えながら葬式の会場に行った。慧音が如才なく全てを整えてくれたようで、えらく立派に仕上がっている。その立派な中に慧音が独りぽつんと立っていたから、私は近づいて「お疲れ様」と労った。
「さあ妹紅、今日はお前の晴れ舞台だ」慧音が何やらヘンテコなことを言った。
「そうだね、慧音」
「嬉しいか?」
「うん、本当にありがたいことだ。みんな来てくれるかな?」
「来るさ。だって妹紅が死ぬんだもの」また慧音がおかしなことを言う。
どうやら通夜は長ったらしいと皆に嫌がられたようで、ごくごく短い葬式だけを執り行うとのことらしい。私はむしろ、我が強く身勝手な人妖どもがこんな茶番に付き合ってくれること自体が奇跡事のように思われた。
五分ほど話してから、慧音は私を縦長い棺の前に導き、「さあ、ここに寝そべってくれ」と言った。棺の中には色々な花が敷き詰められていて綺麗だった。私は不思議な気持ちになりながら、その花でふわふわしたところに横たわった。四方から花の匂いがするし、中が思いのほか広々としているから、随分と快適に感じられた。こんなことなら死んでみるのも悪くはないなと思った。
馬鹿なことを考えていると、慧音が「そろそろ時間だ」と言って棺に蓋をしてしまった。棺の中にはいい匂いのする花と生きている私とが押し込められた。目を開けても真っ暗闇で、何だか気味が悪く、途端に快適さを感じなくなった。
外がざわざわし始めた。おそらく参列者が集まりだしたのだろう。そしてその内に外から読経の声が聞こえだした。聞き覚えのある声だと思ったら、命蓮寺の住職のものである。こんなおふざけにわざわざ本物の住職を持ってこなくてもいいだろうにと思ったけれど、葬式の実行者が慧音であるから、その辺りの融通が利かなかったのだろう。私は真面目な顔でお願いする友人と、それを困ったふうに見つめる住職とを思い浮かべ、あやうく笑いそうになった。踏ん張って耐えた。死人が笑ってはいけない。
暗い中、暇潰しに敷かれた花をいじくって遊んでいると、いつの間にか読経が止んで、すっかり静かになっていた。おや終わったかなと思ったら、途端に視界が明るくなって吃驚した。私は目が眩んで思わず目を閉じた。どうやら棺桶の蓋を取り外して、死人との最期の別れをやるらしい。棺桶の周りに人が集まっているのが分かった。
参列者の皆は死人を装った私を見て、それぞれ勝手なことを自由に話した。
「死んでるわりに血色がいいわね」これは紅白巫女の言葉である。当然だ、私は死んでなんかいないんだから。
「目の辺りがひくひくしてるぞ。可哀想に」こう言ったのは白黒魔法使いだ。大きなお世話である。
「信じられないわ。まるで生きているみたい」紅魔のメイドが驚いたように言った。だから死んでないんだってば。
何だか葬式らしくないが、まあこれも仕方ないだろうと思った。葬式は死者が主役だからこその葬式なのであって、死んでいないどころか死にもしない蓬莱人が棺の中で横たわっていても、参列した皆は真剣になれないだろう。
私は考えながらじっとして、覗き込んでくる人妖共をやり過ごそうと頑張った。時々頬をつねったりして悪戯してくる不届き者もいたが、こういう輩は慧音が叱ってくれた。やはり慧音は有難い友人である。
つねられた頬を気にしつつ黙然と死人を演じていると、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら、やっと死ねたのね妹紅」
私は危うく体を起こしそうになった。無礼なことを言ったのは宿敵の輝夜である、彼女は棺の脇を陣取り、ねちっこく「今までお疲れ様」「ゆっくりお休みなさい」などとほざく。言葉だけ聞けばまともに思えるけれど、言葉の主が輝夜だから嫌味にしか聞こえない。私はだんだん我慢が利かなくなってきた。そしてついに「貴方が死んでも私は生きる。じゃあね負け犬さん」の一言で体を跳ね上げ、驚いた顔をしている月の姫に渾身の拳を叩きこんだ。
「ちょっと何するの! 痛いじゃない!」
「黙れこの陰湿野郎! 耳元でごちゃごちゃ五月蠅いんだよ!」
「死んでいる人が五月蠅いも何もないでしょ! むしろ感謝しなさいよ、こんなへんてこなものに参加してやったんだから!」
「やかましい、頼んでもいないのに来た奴がでかい顔をするな! そもそも私はお前をぶち殺してからじゃないと死ぬに死ねない! 今すぐ殺してお前の葬式にしてやる!」
「望むところよ焼き鳥女!」
そうしていつもの殺し合いと相成り、葬式の場は完膚なきまでに破壊され、参列者どもは私たちの戦闘を遠巻きにして宴をやりだした。到底死を悼むという空気ではなく、酔客の愉快そうな声がそこらに満ちている。慧音はせっかくの葬式を台無しにされてやけっぱちになったのか、人妖たちに交じって酒をがぶがぶ飲み、大いに笑っていた。世の中の全部が面白くてたまらないというふうに見えた。
私は血を流しながらその光景を眺め、まあ生きるのも悪くないなと思った。
この発想が出てくるのがとてもうらやましいです妹紅大好き
キャラの色付けがとても好みでしたね。満点!
みんな良かったです
もうちょっと長くてもいいかな、という気はしましたが、面白かったです。