Coolier - 新生・東方創想話

秘封機々械々 〜〈吸血鬼事件〉前編

2015/10/26 21:51:18
最終更新
サイズ
16.46KB
ページ数
1
閲覧数
1446
評価数
6/14
POINT
560
Rate
7.80

分類タグ

 ──〈My_riverie〉が見ている。
 私、宇佐見蓮子が朝起きてベッドルームから一階に降り、仕事場のデスクトップの立体デイスプレイを覗くとその文字がなんの脈絡もなしに表示されていた。
 まさかハッキングを受けるとは。だがウイルスを送られた様子はなく、立体デイスプレイに軽く触れて弄ると何事もなかったように元通りになった。
 イタズラ……ではない。そう思わせるのは、〈My_riverie〉という単語にあった。〈My_riverie〉と言えば、有名な天才的ハッカー、メリーのアカウント名だ。そのような存在が、私のUNIX端末にメッセージを送ってきたということは……。
「なにか面白いことが始まりそうね」
 危機感もなく、私はつぶやいて、身につけている白い長袖シャツの襟と赤のネクタイ、黒のスカートを整える。
 そしてその後すぐ、私の設立した、ひと癖やふた癖あるどころではない、調査会社の入口、応接室のドアがノックによってリズミカルな鳴き声を発した。
「どうぞ、入ってください」
 ほらね、と内心思いながら、ドアが開くのを眺め、来訪者の姿を認めてから、私は言った。
「ようこそ──難儀な事件解決からこの世界の深秘暴きまでこなす、調査会社〈秘封倶楽部〉へ」

 これは、未来の、ありえるかもしれない情報化社会の話である。ネットワーク、医療技術、機械工学技術の超発達。合成製品の流通と主流化。哲学時代へのシフト。
 様々な環境の変化が現れたこの世界観では、〈秘封倶楽部〉を取り巻く未来の世界観と少々変わっているのだ。
 しかし、そんな、一風変わった世界観においても、変わらず〈秘封倶楽部〉を名乗る者たちの物語。
 サイバー世界が構築する、〈魅知の旅〉の幕開けである──。


****


 〈秘封倶楽部〉の訪問者は、びっくりするほどの美少女だった。
 白人ゆえの、陶器のように磨かれた神秘的な白い肌。少し長く伸ばされ、ウェーブのかかったふわふわとした髪は、眩しいぐらいの黄金色だった。紫色のロングスカートのワンピースドレスに身を包み、頭にはナイトキャップめいた白い帽子が収まっている。
「初めまして。マエリベリー・ハーンです」
 そう名乗った彼女は、ぺこりと上品にお辞儀した。まるでお嬢様……なのだが。ハーンと言えば、〈ハーンコンツェルン〉の名はどんな世間知らずでも知っているところだ。
「家出した身ですけどね」
 気にした素振りもなくさらっと身の上を言ってのけた。
「それよりも、お話したいことがありますわ」
「ええ、わかってるわ。とりあえず……一応名乗っておくけれど、私は宇佐見蓮子よ。蓮子って呼んで。あなたはお硬く喋る必要はないわ。まずは打ち解けましょう?」
 彼女は、すぐにうなずいた。
「そうね。それじゃあ、蓮子。私のことはメリーって呼んでちょうだい」
「メリー……あのスーパーハッカーの? なるほど、今朝のハッキングはあなたの仕業ね?」
「ええ。まぁ、ちょっとしたアポみたいなものよ、あれは。かなり昔の人気映画の真似事をしてみたのだけど……気に入った?」
「もちろん。今の時代にあの作品が嫌いな人はいないでしょうし」
 打ち解けるのにさほど時間は必要なかった。
 まるで、遠い昔からの親友に再開したような感覚だった。
 それにしても、蓮子はほんの少し驚いていた。まさか、あの〈My_riverie〉ことメリーが私と同世代の女だったとは……と。
「さてと、それじゃあ、そろそろ用件を話すわね」
 だいぶ長く語らったような気がしたが、実際にはほんの五分程度しか経っていなかった。
「蓮子。私を、〈秘封倶楽部〉のメンバーにして欲しいの」
「随分変わった依頼ね」
 蓮子はにやりと笑った。
「でもね、メリー。じゃあどうぞ、なんて二つ返事はないわ。まだあなたを信用しきってないもの」
「あら」
 それはそうだ。メリーほどのハッカーが、ただ調査会社に入れて欲しいなんて言うはずがない。なにかしらの目的がある。
「私の目的?」メリーはその質問をされるのを待っていた、という顔をした。「──伝説のハッカー、宇佐見菫子」
 その名前を聞いたとき、宇佐見蓮子の時間は少しの間止められたような感覚に陥った。
「世界で初めて電脳化に成功した彼女が過去に設立した調査会社が、孫である宇佐見蓮子によって、再び発足した。私はね、いても立ってもいられなかったの」
 電脳化。それは、人間が直接ネットワークへとアクセス……さらに可視化されたインターネット、電脳世界へと〈ダイブ〉することができる技術だ。これによって、いつでもどこでも情報がリアルタイム確認できるユビキタスネットワークを実現させた。
 蓮子の祖母、宇佐見菫子はその技術がまだ不完全だったころに、どういう経緯があったかは不明、秘匿されているが……その半ば実験的なその手術を受け、見事世界初の電脳化を成し遂げ、歴史に名を残すハッカーとして活躍した。
 そのときに初代〈秘封倶楽部〉は作られ、あらゆるサイバー犯罪を初めとした事件を解決した。その傍ら、ネットワークに隠された〈深秘〉を暴こうとしたという話もある……。
「私は幼いころから彼女に憧れていたわ。だから電脳化手術を受けられる年齢になったらすぐに電脳化して、ハッカーとしての知識と経験を詰んだわ。そうしてるうちに、私はこうして名を馳せるハッカーになったわ。そして……」
「そして、思いがけなく、二代目の〈秘封倶楽部〉が私によって作られた、と」
「ええ」メリーの宝石のように綺麗な瞳はよりいっそう輝いていた。「だから、入る以外の選択肢はなかったわ。ネットワークが支配するこの社会に隠された、宇佐見菫子の追い求めた電脳世界の〈深秘〉の調査を引き継ぐこと……とまぁ、それが私が〈秘封倶楽部〉に所属したい理由ね」
「なるほどね……」
 納得のいく話だった。彼女は嘘をついているようには見えなかった。調査会社を営業する身として、嘘をついているかいないかはすぐに判断できる。
 事件解決の方にはあまり興味はなさそうだが、彼女という強力なハッカーは相当な戦力になる。蓮子も電脳化しているが、彼女ほどハッキングの腕は持っていない。彼女を味方にすれば心強いものだった。
 それに、祖母が追求した電脳世界の〈深秘〉とはなんだったのか。今の時代よりもはるか昔から調査を始めたというのにも関わらず、未解決の電脳世界の謎とは。二代目〈秘封倶楽部〉を発足した者として気にならないはずはない。むしろ、そちらの方がメインなのだから──。
「それじゃ、メリー。これからよろしく。危ないことにも喜んで顔を突っ込むことに覚悟ができてるのよね?」
「危ない橋なんてこれまでも渡ってきたわ。平気よ」
 蓮子は彼女の心強い応えに満足した顔でうなずき、手を差し出した。メリーはそれを握る。そこで、メリーははっとした表情になった。
「蓮子、あなたは……」
 刹那、ドアがまたトントンと鳴いた。
「どうぞ」
 蓮子はメリーから視線をドア側に移し、来客を迎える。
「失礼するよ」
 こんどの来客は、少々小柄な水色の髪の女性だった。衣装はツナギで、腕まくりして露出した腕を見て、筋肉がなかなかついているところを見るに、整備士かなにかだとわかる。
「あんたがあの伝説の〈秘封倶楽部〉後継者だね? 私は〈ポロロッカ・エンジニアリング〉のエンジニアのひとり。河城にとりだよ、よろしく」
 にとりと名乗る女性は、小さく会釈した。
「よろしく、にとりさん。それで、用件は?」
「うちの戦闘アンドロイドが持ち去られたんだ」にとりはどこか寂しそうな表情を僅かに見せて言った。「それを、なんとかして回収……ないしは破壊して欲しい」
「警察でなく私を頼った理由は?」
 にとりは少し動揺した。言うか言うまいか逡巡した様子だったが、すぐに決断した。「……奪われたアンドロイドは、非合法の部品が使われてるし、まだ実用を認められてないようなものも搭載した試験機だった。このことがバレてしまうのは不味いことなんだよ」
「へぇ」蓮子はにやりと笑みを浮かべた。「私たち〈秘封倶楽部〉は、そういう秘匿されて揉み消される真実ってのが好物なのよねぇ。それで、それを解決した場合の報酬は?」
 にとりは黙って書類を渡した。蓮子は表紙に視線を落とし、うなずいた。
「OK、わかったわ。ただ、報酬は全額後払いでいいから。もし私たちに金を持ち逃げされたら困るでしょう?」
「それは、そうだけど。でも前金ぐらいは……」
「いらない、いらない。全部まとめてくれればいいのよ。ま、依頼達成したのに報酬を渡さないなんてことがあったら、少しひどいことしちゃうかも……ってことは、頭に入れといてよ」
 にとりは、少々ぞっとした面持ちで「わかった」と短く応えた。
「それにしても……」メリーが書類の何ページ目かに載っていた写真を覗いて言った。「このアンドロイド……蝙蝠型なの? 変わってるわね」
「……今、世間を騒がせてる〈吸血鬼事件〉ってあるだろ? そいつが犯人なんだ。蝙蝠モチーフになった理由は、超音波によって機械の電子回路を狂わせる能力から来てるんだ」
 〈吸血鬼事件〉とは、つい最近になって頻繁している事件だ。この科学世紀においてありえざる吸血鬼の存在と、多くの破壊行為を働くその存在は、無辜の人々を恐怖に陥れた……。
「ふぅん。あの吸血鬼……正体はからくり人形だったのね」
 メリーの発言ににとりは僅かに顔をしかめる。
「そのアンドロイドが何者かの手に渡って望まぬ悪事を働いてるんだ。だから……解決、して欲しい」
「なんどもお願いされなくてもわかってるわよ。任せなさい。私……いいえ、私たち、がすべて解決してあげるから」
 蓮子は確固たる意思を明らかに、力強く宣言した。

 その後、にとりは事務所を出て、会社に帰って行った。
 蓮子はペラペラと渡された書類に一通り目を通してから、それをスキャナーに読み込ませ、データ化すると、スキャナーに生体LANケーブルを繋げ、それを脳内のメモリーにインポートした。メリーも倣って、同じようにインポートする。
 データ化された資料に改めてメリーも目を通した。くまなくその内容を見て……どうやら少し骨の折れそうな依頼だと感じた。覚悟していたとは言え、いきなりこのような過酷な仕事とは。
「どうしたの? 怖気づいちゃった?」
 蓮子がメリーの顔を覗き込んでにやにや笑みを浮かべた。
「まさか」メリーは食い下がってみせた。「むしろ奮い立つぐらいですわ」
 なら、よし! と蓮子はメリーの背中をぱしんと叩いた。その後、壁のフックに掛けてあった白リボンの巻かれた山高帽を頭に被る。
「それじゃあ、メリー」
「ええ」
「宇佐見蓮子とメリーのコンビで初めての〈秘封倶楽部〉の活動を開始しましょう!」


****


 ──さて、今回の依頼内容について纏めよう。
 まず、この依頼は最近世間を騒がせる〈吸血鬼事件〉の解決だ。
 この事件は目撃者の証言、まるで吸血鬼さながらに一対の羽根を持ち鋭い爪と牙のある姿であった……というものから名づけられた。
 被害者は今日までで、死傷者五名、軽重傷者十二名の合計十七名が襲われている。
 この事件は、〈ポロロッカ・エンジニアリング〉が秘密裏に開発していた戦闘用アンドロイドによるものだということが今回の依頼主であり、おそらくは企業の代表としてやって来た……河城にとりによって明かされた。
 このアンドロイドは公にはまだ出回ってはいない、正式採用のなされていない機体であり、非許可で新型兵器のテスト実装をされている。これがとある人間によって奪取され、破壊行為に使役されているのが〈吸血鬼事件〉の真相だ。
 我々〈秘封倶楽部〉はこれを警察によって真相が暴かれる前に解決せねばならない。
 隠蔽された秘密を突き止め解決する。秘密を解決し封じる。逆もまた然り──それが〈秘封倶楽部〉の仕事だ。

「ねぇ蓮子」
 情報収集のため、目撃者の元へと向かうふたり。
「どうかした?」
「さっき言いそびれたんだけど……あなたの身体は──〈義体化〉しているのね? ほんの少しだけど……皮膚の触感が違ったわ」
「そうよ」蓮子は大きな反応を示すことなく淡々として答える。「それも単なる〈義体〉じゃなく、〈全身義体〉の身体よ」
 〈義体化〉とは──義手や義足のように、人体を機械で構成されたものに置き換えるという技術だ。筋肉を人工筋肉にし、眼は義眼にするなど。皮膚を硬質なものに変え脳を脳殼に包むこともする。その他、各々のニーズに沿った特別な改造も受けられる。これは、別名〈サイボーグ化〉とも呼ばれる。そして〈全身義体〉は、文字通り〈義体化〉を全身に施したもののことだ。
「あなたが〈全身義体〉だったなんてデータ……なかったわ」
 メリーは驚いた様子で蓮子をまじまじと見つめている。
「まぁね。だって違法で〈義体化〉したんですもの。〈ルナティック・インダストリ〉が私の開業時に支援と称して施してくれたのよ。私の要望に応えて、戦闘用の特注品を用意してくれたわ」
 蓮子は得意気に語る。
 戦闘用の〈義体〉は、一般の〈義体化〉で行われるものよりも強靭な体を与えてくれる。戦闘用〈義体〉が主に投入されているのは一部の警察官や軍隊だ。その他、蓮子のように違法で改造手術を行う者もいる。
「メリーが私の〈全身義体〉に関した情報を調べられなかったのは〈ルナティック・インダストリ〉がもみ消したからでしょうね」
「まぁ、〈義体化〉や兵器開発の大手企業がそんなことしてるなんてバレたらねぇ……」
 メリーは少々残念そうな表情をしていた。どうやら、ハッキングで調べられなかったことが悔しかったようだ。とはいえ、メリーの技術ならその気になれば調べられたろうが……気づけない限りはどんなハッカーも真実には辿り着けないものだ。
「それにしても、どうして〈義体化〉を?」
「危ないことに顔を突っ込む仕事だからね……死なないためには必要なことよ。元々私ひとりで商売をするつもりだったし、〈義体化〉も〈電脳化〉してるわけだけど……」
 蓮子は一旦区切って、帽子の鍔をつまんでくいと上げてから話を続けた。
「私のおばあちゃんと一緒に初代〈秘封倶楽部〉の活動をした人物……藤原妹紅さん。その人は、世界で初めて〈全身義体〉となって活躍したわ。おばあちゃんにはもちろん憧れてたけど、どちらかといえば私は妹紅さんの方に憧れてた……だから私も同じように〈全身義体〉になることを決めたのよ」
「そうだったのね……私が蓮子のおばさまに憧れて、蓮子は妹紅さんに憧れた……真逆なのね」
「ちょっと面白いわね」
 ふたりは顔を見合わせて笑った。そんな話をしているうちに、目撃者の住む書店〈鈴奈庵〉に到着していた。
「さて、聞き込みよ、蓮子!」

「私が遭遇した吸血鬼についてのことを話せばいいんですね?」
 まだ中学生と幼いながらも、店番を勤めていた本居小鈴。彼女は先日〈吸血鬼事件〉の一端に巻き込まれた少女だ。
「ええ。被害に合ったのに無傷っていうことも気になるしね」
 蓮子が小鈴に問うている傍らで、メリーは所狭しと並べられた本に興味津々という様子でそわそわしていた。
「それはまぁ……だって私、その吸血鬼に助けられたんですもん」
「た、助けられた?」
「はい。私はそのとき、学校帰りだったんですけど……下校中に誘拐されそうになって。それで助けを求めたら……」
「吸血鬼に、危機を救われた?」
 こくりと頷く小鈴。
「信じられないなら、私も〈電脳化〉してるので、有線して記憶をちょこっと覗くことできますけど」
「いや、そこまではしないわ、平気……でも、どういうことかなぁ……ニュースではもっと悪さをしてるって報道だったのに」
 うーん、と頭を悩ませる蓮子。小鈴は嘘をつくのが得意とは見えない。
「でも──」小鈴は付け加える。「仕方ないと思いますよ? 私を誘拐しようとした人たちを撃退したときのやり方……報道されてるようにエグかったんですよ。噛みついて、引っかいて……私、恐くって……」
 そのときのことを思い出した様子で、ぷるぷる震える小鈴。
「嫌なこと思い出させてごめんね」
 メリーがすかさずフォローに回る。
「でも、必ずお姉さんたちが解決して、不安をデリートしてみせるから」

 〈鈴奈庵〉を出たふたりは、目撃者の証言を集めた。
 そして誰もが口々に言うことは、吸血鬼が助けてくれた、吸血鬼が悪いヤツを殺害した──というものであった。
 ふたりは集めた情報を整理しながら、公園のベンチに腰かけていた。
「蓮子。今被害者情報を改めて確認したんだけど……ほとんどが暴力団や逃走中の犯罪者、非行少年少女……ってとこだったわ。それ以外に、巻き込まれたことで怪我を負った一般人」
 ネットワークにダイレクトアクセスしたメリーが、蓮子にそう伝える。
「なるほどねぇ……。社会悪のデリートを狙った偽善行為ってわけか」
「許せないのは、手にかけた人は全て殺害していることね。非行に走った少年少女の若い命に、更生する猶予さえ与えずに……」
「おまけに無関係の人を巻き込む……とんだ社会の〈バグ〉だわ」
 怒りを露に、蓮子は飲み干した合成抹茶の空き缶を握り潰した。
 その様子をメリーは静かに見つめた。メリーも、蓮子の気持ちは痛いほどわかる。
「……とりあえず、吸血鬼に関した情報収集はここらで一端止めて……吸血鬼をおびき出す方向にシフトするわ。事務所に帰りましょう?」
 メリーはうなずいて、蓮子とともにベンチから立ち上がった。
 ──日はすっかりオレンジに染め上がっていた。

 夜、二十時の京都。〈秘封倶楽部〉の事務所は洛中にある。幽霊でも化けて出そうなほどに恐ろしくひっそりと寂しい夜。事務所のある通りは、特に人気のない場所にあり、この時間帯はまるでゴーストタウンだ。
 京都は現在の科学世紀、神亀の時代において首都となり精神的に発達した都会となっている。
 娯楽は厳しく管理されたり、勉学が盛んになるほか、人口調整は完了されている。さらに、どんな病気もいかなる超常現象も……なにもかもが科学で解決されている素晴らしい超テクノロジー時代。
 蓮子もメリーも、その恩恵を受けて生活している。
 ただ……数世紀前のような精神的自由がなくなってしまった。
 夢を忘れ、閉鎖的になったのだ。精神的に発達することによって、すべて理屈で万事解決となってしまい、物事に対する想像が消えてしまったことを意味していた。
 ──蓮子とメリーのふたりが、事務所近くの路地裏を通りがかったとき。
 ある男と目が合った。
「……ちっ」
 その男は、黒い背広を着ており、背は一七〇センチほど。その男の右腕は……血濡れのナイフと変形している……!
「あんた……〈サイボーグ〉ね」
 違法で戦闘用〈義体〉を手に入れた、辻斬りということがすぐにわかった。「なんで見つかるかねぇ……」男はボヤいた。
「悪さをすればどんなに巧妙にやっても露見するものよ。昔から、悪の栄えた時代はないもの」
「は。ならお嬢さんは正義の執行人かなにかで?」
 男は肘から腕がまるまる変形している電磁ナイフをチラつかせ威嚇する。蓮子は戦闘能力のないメリーを下がらせる。
「なにを隠そう、私こそが現代の8マンなのよ」
 瞬間、男は駆け出した。ぐんぐん蓮子へと迫る。蓮子は落ち着いて身構える。こちらの距離に入ったら、軍隊支給の柔術ソフト〈華人小娘〉で十分に対処できる。
 そして、男が間合いに……入る寸分前だった。一体の怪物が飛来したのは──。
「な……に?」
 蓮子とメリーは口を揃えて驚きの言葉を喉から絞り出した。
 怪物はたちまち男に半ば抱きつく形で取りつき、鋭い刃物のような爪と牙を突き立てた。
 悲鳴が上がり、鮮血が散り、左右の建物の壁にびしゃり、びしゃりと貼りついた。
 一分、二分ほど──蓮子たちにはもっと長く感じられたが──してから、男は〈サイボーグ〉であることが嘘のようにあっさりと……突如乱入した怪物に惨殺されてしまった。
 メリーはごくり、と息を呑んだ。
 怪物がこちらを向く。
 全身黒色。シームレスなボディから僅かに覗くケーブルなどから、辛うじてロボットであることが見て取れる。一対の巨大な羽根を持ち、両手両足に鋭い爪が生えている。頭部はまさに蝙蝠そのもの。血濡れた牙が恐怖を煽る。
「こいつが……吸血鬼……」
 〈秘封倶楽部〉は、吸血鬼と遭遇したのだ──!
 前回指摘されたことを踏まえてはいますが、まだまだ改善すべき部分はあったかとは思います。ですが、最低限の世界観への触れ込みや本作での秘封倶楽部に関する説明は書けたのではないかと思います。
 とはいえ、話を進めるにあたって少しずつ解消できればいいな、と思っています。まだ東方原作へのオマージュ部分が足りていないので、後編でそこをしっかり形にできればな、と(設定自体は練ってあるので……)。
 自分がこうして世界観を変えた小説を書くのは、ひとえに秘封倶楽部が好きであり、サイバーパンクの世界観が好きだから、というものに起因します。それを組み合わせた作品を書きたいという欲求を形にしたものです。
 自分が好きなもので、読んでくれる方を楽しませることができるように頑張りたいと思います。
拾弐番
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.240簡易評価
1.10名前が無い程度の能力削除
つまんね
3.70名前が無い程度の能力削除
こういうの嫌いじゃないぜ
でもちょっと展開急ぎすぎな感じがする
後半に期待します
5.10名前が無い程度の能力削除
原作ガン無視の設定と他人のフンドシのみの世界観。
こんなのは二次創作ではないし、オマージュではなくパクり。
7.70名前が無い程度の能力削除
後編を楽しみにしています
11.無評価拾弐番削除
>1.そうですか、残念です。ですが、面白い、と言っていただけるように精進させていただきますね。

>2.ありがとうございます。展開が急になっていたのは指摘されて、自分で読み直してから、確かにと思いました。気をつけたいと思います。後編も投稿したときは読んでくださいませ。

>3.原作ガン無視、二次創作ではないと仰られますが、さすがに反論させていただきます。自分は東方及び秘封の世界観をサイバーパンク物を使ってアレンジしたと概要でも前述しています。それに、二次創作は原作に完全に沿って作らなければならないという決まりなどないはずです。また、パクリと申されますが……確かに自分は士郎正宗作品の用語などを取りいれてはいますが、アレンジした世界観やストーリーは紛れもなく僕の「作品」です。パロディ元に影響を受けすぎてしまった前作はともかく……今作は決してそんなことはないと思います。
無理に受け入れてもらうつもりも、理解してもらうつもりもありませんが、それがこちらの主張であり、この作品が僕が作りたいと思って形にした「二次創作」です。

>4.ありがとうございます。後編をいいものにできるように頑張ります。
12.90名前が無い程度の能力削除
↑でも指摘されてるけどちょっと展開が急というか話の流れが雑になってるのが惜しい作品かな。
根本的な部分はよく出来ているし、『原作遵守』という悪い意味でのテンプレに陥らない試みとしても面白い。
これでもう一味、作者さんの書きたい部分だけでなくそれ以外の、物語に説得力を持たせる小道具的な描写(キャラクターの何気ない仕草や心の機微、情景等)を充実させることが出来れば評価も上向きそうだとは思うんだけど……

とりあえず期待を込めてこの点数で。後半を楽しみにしてますんで頑張ってください
14.無評価拾弐番削除
>12.指摘ありがとうございます。小道具的描写を後編ではより意識して書くように努めます。確かに、もっと緻密に何気ない動作を加えることや、心情表現、あたかもその場にいるかのように伝わる情景説明ができるように試行錯誤したいと思います。
また、自分の試みと創作の姿勢に対する評価にも感謝しています。
期待を裏切らない後編を書けるように頑張ります。
15.70とーなす削除
 サイバーパンクな秘封倶楽部……どうしよう、嫌いじゃない。

 理由もなく原作設定を無視する作品は私も嫌いですが、この作品はそういう作品と違い、所々に原作に対するオマージュがちりばめられていて思わずにやりとしてしまいました。ポロロッカ・エンジニアリング、ルナティック・インダストリ(永遠亭っぽい?)、書店の鈴奈庵、〈全身義体〉≒不老不死の妹紅などなど、原作を知っている人ほど楽しめるような、そういうギミックというのも十分原作ありきじゃないと書けない立派な原作リスペクトなのではないか、と思います。

 ただ、「最低限の世界観への触れ込みや本作での秘封倶楽部に関する説明は書けたのではないかと思います。」と作者さんはおっしゃいますが、やはり特殊な世界観ですので、まだまだ描写(あるいは、もしかしたら世界観の練り込み)が足りていないのではないか、という気がします。
 例えば、違法な戦闘用アンドロイドがいるということは当然合法な・正規の商品としての戦闘用アンドロイドがいるということですが、そのようなものを所持・製造することは法律として認められるのか? とか。
 また、他の方が指摘されているとおり、話の展開が性急すぎる感じがします。
 もっと色んな人に聞き込みをして、地道に証言や手がかりを集めて推理して、やっと蝙蝠型アンドロイドにご対面、かと思いきや簡単に(しかも偶然)出会っちゃってますし。

 ともあれ、面白い世界観だと思うので、次作を心待ちにしたいと思います。
16.無評価拾弐番削除
>15.この作品における原作リスペクトの形を感じとっていただけて嬉しく思い、また褒めていただけてとても嬉しく思います。
とーなす様もまた指摘するように、展開が駆け足になったことはなんども反省するべき問題点だと強く感じています。自分のせっかちな性格のためにもっと時間をかけ、丁寧に描写し、吸血鬼との遭遇シーンをもっと捻りを入れればよかったと思います(気づくのが遅い……)話のひとつひとつの構成をいくらか端折ってしまったのはどうにも後悔するばかりです。
また、世界観の触れ込みにはだいぶ気をつけたと思ってはいたのですが……。確かに、アンドロイドのくだりは、もっと説明を増やしておけばよかったですね。これは自分の説明不足と構成の甘さでした。
指摘されてから気づいてしまう失敗点の多さに、自分の未熟さと実力不足を恥じるばかりです。
ですが、とーなす様の期待にも添えるように、いくつもの反省点を修整させて後編を完成させたいと思います。
後編がよいものにできるよう頑張ります。