〈リアル〉が横行し、人々が描き表し夢を見た、空想という〈ヴァーチャル〉を失った超情報化社会の未来。
──西暦二一二五年。
世界経済はどこの国も比較的安定し、豊かさを持ち、人間の文明は大きく進歩を遂げていた。医療技術、機械工学の発達。合成品の流通。物理学の終焉による哲学時代へのシフト。そして、なにより、著しく変わったことがふたつ存在する。
ひとつはネットワークだ。今やネットワークは人間の頭の中に埋め込めるようになっている。〈電脳化〉……。脊髄、脳にかけて超小型の端末をインプラントとすることにより、我々の知る現代のネットワークよりも遥かに、誰もが便利に情報を巧みに得、拡散することができる。
ふたつ目は、〈義体化〉──サイバネティック・オーガニズムの普遍化。暖かい血と肉を備えた身体を機械の造りモノに置き換える技術。医療としても使うことが出来る一方、戦闘用の改造も可能だ。例えば警察や軍人などの公務員、他にはテロリストの違法なサイボーグ化がそれに当たる。
ヒトは、機械と文明の進歩に着いていくために、一体化するという方法を実用化させたのだった。
****
日本。少子化による人口減少の対策を打ち立て、優秀な人間が未来を築くようになった国家。
今は九月二九日。煩わしい夏の暑さなどどこへやら、涼しく清々しい秋晴れに、京都の人々は誰も彼もが明るい顔を浮かべて辺りに振り撒いていた。
ただし、そんな中でただひとり、気だるそうに洒落たカフェテラスの椅子に腰かけて、新聞を眺める美しいブロンド髪の女がいた。
彼女の名は、マエリベリー・ハーン。通称はメリーだ(といっても、単に日本人にマエリベリーの発音が難しいためだが)。
新聞の記事にはでかでかと「またもロボットが暴走!」大書され、本文には「様々な会社、様々なタイプのAI。詳細な共通点はなし。ウイルス感染か?」といった記述がされていた。
そんな文章に目を通し、ふうと息をつく。事件が発生してから三日。この手の事件となると、そろそろ〝彼女〟がひょっこり顔を出しそうだ。
「座るわよ」
そう不躾に言って許可もなくメリーの前の椅子にどかりと腰を下ろした女がいた。
「ほらね」予想通りの見知った顔に、出る溜息もない。「久しぶり、蓮子」
彼女は宇佐見蓮子。メリーの最も心を許す存在で、大切な人間だ。
蓮子は被っていたソフトハットをテーブルにぽんと優しく置き、店員にアイスコーヒーの注文をした。
「休暇は楽しめてるかしら?」
イタズラっぽく、屈託ない笑顔で問う。
「あなたが来るまではね」
と、メリー。
「まぁ、新聞を読んで、薄々感じてたけどね。そろそろ来るころだなぁーなんてさ。でも、よく私がここにいるなんてわかったわね」
「あら、そう。さすがにカンがいいわ。それに愚問ね。メリーがここにいるなんてどこにいたってわかるわよ」
蓮子は自分の頭をこつこつ人差し指でつついた。メリーは呆れ顔で見つめる。
「コーヒーを片手に新聞の世界に〝ダイブ〟するひとときの雰囲気がぶち壊しだわぁ」
「えー? 新聞なんか読まなくても、あなたなら思い立ったときに……あぁ、ありがとうございます……ネットワークに〝入って〟知りたいことは好きなだけ知りつくせるでしょ?」
蓮子は運ばれてきたアイスコーヒーに口をつける。
「メリーは変なところでアナログね。〝プロ〟のくせに」
「どんなものも電子頼りにしてたら脳が疲れるわよ。それにね、私は紙媒体の方がずっと好きなの。辞書にしろ、傑作の文庫本にしろ、手に持った重みと実感、触り心地がないと嫌なのよ」
熱を持って語って聞かせたメリーに、蓮子は微笑んでみせた。
「なるほどね。いいわ、そういうの。素敵」
「最後、誰かが言いそうな口癖ね」
蓮子がぐいぐいとアイスコーヒーを喉の奥に流し込んで飲み干し、空にしてからすぐにメリーは席を立った。
ふたりは歩道に移る。すると蓮子がメリーの前にさっと出た。なにかと思って彼女の進み出た先を見て、メリーは溜息をついた。蓮子が誇らしげに、停めていた自分の穢れなき白いクルマをぽんぽん叩いたからだ。
しかたなしにメリーは助手席に乗り込んだ。運転席にはもちろん蓮子が座る。
「今どき自動車は前時代的な乗り物なのに……私、あまり乗りたくないし、電車の方が楽しくてずっと好きなのに」
「なによ、なら救急車のお世話になるのも嫌なのかしら? 喧しいお巡りさんにパトカーで連行されることになったら抵抗するの?」
「生憎、そんなものの厄介になることはなくなっちゃってるのよ」
蓮子は帽子を取ってメリーの膝に寄せた。メリーは自分の帽子を取りながらそれを鬱陶しそうに押し返す。結局、蓮子の膝に帽子がちょこんと収まる。
「でもねぇ、メリー」バッテリーを燃料とする電導モーターカーは音も揺れなく発進した。「私のクルマは、あの〝ジャグァ〟モデルなのよ」
そう自慢げに言う蓮子にそっぽを向 いて窓の外をメリーは眺める。
「……だから?」
「美しさは正義、よ」
先ほどから私、メリーはこんな風に蓮子にグイグイと引っ張られてしまう。それに対して冷ややかにあしらってはいるが、内心はこの他愛もないやりとりが、どうしようもなく好きなのだ。
蓮子もそれをよくわかってる。だから、私に遠慮はこれっぽっちもしない。私も遠慮はしない。それが私なりの信頼関係であり、絆(くさい台詞は好きではないが)と言うものだ。
こういったことを、普通の人間よりも人間くさく生きるというのは大切にしなくてはならない。先ほど見せた蓮子のささいな拘りのひとつもそうだ。
私たちのような存在にとっては……。
私と蓮子は、〈義体化〉している。サイボーグなのだ。蓮子は、世界中を探しても珍しい、肉体の九割を改造した全身義体持ち。私も全身義体にはしているが、それでもまだ「生身」は残っている。
サイボーグになれば、人間とロボットの「境界」を綱渡りする定めを請け負うこととなる。当たり前のようにありふれているサイボーグたちは、絶えずこの事実に実は悩まされることになっているのだ。
だから、こうしたやりとりや、ちょっとした拘りなどは私たちを冷たいロボットにさせないために行う、サイボーグをヒトたらしめる大切なことなのだ。
「……」
私はちらと蓮子の横顔を覗き込んだ見た。
肉体の機械の比率が多くなればなるほど、自分をヒトとして認識し維持するのが難しくなってくる。となれば、蓮子は……どれだけの苦を抑え乗り越え、人間として生きているのだろうか。普段の彼女は、とても〝人間らしく〟振る舞っている。宇佐見蓮子は、いかにして人間になっているのだろう。
「どうかした?」
「あぁ……ううん、ごめん。なんでもないの。気にしないで」
「そっか」
私は流れ込み、目に映り、そして消えていく景色を認識することに努めることにした。虚無的に……無心に……。私は、景色を眺めていくうちにあることを考え始めていた。
〈リアル〉と〈ヴァーチャル〉が隔てていた越えられないはずの壁はとうにがらがらと崩れ、統一されたことについてだ。夢と現実に区別はつけられない。だから、本質はすべて同一。違いなど存在しない。そう誰もが共通の認識として覚えている。しかし、蓮子はそれを否定できると断じ、区別をつけられているなんて言うが、どう区別つけているのか。彼女は教えてはくれない。だから……そうでなくとも、私にはよくわからない。そんなことができるのだろうか?
今やこの世界には〈リアル〉しか認められない。世界は、人々は、そんな不確かなものは存在しないと結論づけてしまっているのだ。
人々はどうしてそんな風になってしまったのだろう。いや、もしや……。
私が思うに、〈人類〉という括りは、広大な〈ネット〉の別称で、そこから枝分かれしている人々という個は、〈情報〉が擬人化されたものなのかもしれない。だから、世界が情報化社会となっていくうちに呑み込まれたのではないだろうか。昔の人々が〈ヴァーチャル〉としたモノが〈リアル〉へとすり替わったのだろうか。
〈ヴァーチャル〉こそが〈リアル〉。誰もが至極当然の常識としていることと真逆のことが正解なのでは──。
それに確証を得ることも否定することもできないが……「メリー」私が終わりなき思考を繰り広げていると、蓮子が私を呼んだ。私は「思考」という〈リアル〉から「現実世界」という〈リアル〉に呼び戻されたのだ。
「──仕事の話ね?」
メリーは反射的に返した。
「ええ。今回私たちの任務は、察してるとは思うけど、ロボットたちの反逆の原因の鎮圧よ」
「もう首謀者を特定したの? こんなすぐにってことはつまり……」
「素人ってこと。でも、問題は、そんな力のなかったヤツに力を与えた「裏」がヤバイってところね。──どうやら、相当なウイルス使いが糸を引いてるわ」
蓮子の瞳に鈍い光が見えた。
「でも、援助をしてあげるだけしてあげて、その後のことは杜撰ね。もっと隠してあげればいいのに。ウイルス使いの方もマヌケなのかしら。それとも、意図があってのことだったり」
蓮子は肩をすくめて返す。メリーがそれを認めた直後、頭にデータが流れ込んできた。蓮子とメリーは、〈電脳化〉している。だから、脳にインプラントされた端末を介して情報のやりとりが容易にできるのだ。
「情報は紙媒体がいいって言ってるのに」わずかに苦い顔をしながらも、メリーは送られた情報に目を通す。「あら……首謀者って最近倒産した桐島重工の社長さんじゃない」
「ええ」
「となると他企業への嫌がらせってとこかしら。子供みたい……」
「でも、そういうことを相手にするのが私たち──秘封機動隊こと〈S.I.S.〉よ」
蓮子はにっと笑みを浮かべてみせた。メリーもまた、笑って返した。
そう。
メリーたちは、防諜機関として設営された特殊部隊。「秘密裏に事件を解決・捜査、問題を封じ解決する」という目的のチーム──〈Secret Irregular Settlers〉である。
「さぁ、メリー。メンバーが揃い次第行くわよ──蓮台野に隠された、ヤツらの潜伏先に!」
──西暦二一二五年。
世界経済はどこの国も比較的安定し、豊かさを持ち、人間の文明は大きく進歩を遂げていた。医療技術、機械工学の発達。合成品の流通。物理学の終焉による哲学時代へのシフト。そして、なにより、著しく変わったことがふたつ存在する。
ひとつはネットワークだ。今やネットワークは人間の頭の中に埋め込めるようになっている。〈電脳化〉……。脊髄、脳にかけて超小型の端末をインプラントとすることにより、我々の知る現代のネットワークよりも遥かに、誰もが便利に情報を巧みに得、拡散することができる。
ふたつ目は、〈義体化〉──サイバネティック・オーガニズムの普遍化。暖かい血と肉を備えた身体を機械の造りモノに置き換える技術。医療としても使うことが出来る一方、戦闘用の改造も可能だ。例えば警察や軍人などの公務員、他にはテロリストの違法なサイボーグ化がそれに当たる。
ヒトは、機械と文明の進歩に着いていくために、一体化するという方法を実用化させたのだった。
****
日本。少子化による人口減少の対策を打ち立て、優秀な人間が未来を築くようになった国家。
今は九月二九日。煩わしい夏の暑さなどどこへやら、涼しく清々しい秋晴れに、京都の人々は誰も彼もが明るい顔を浮かべて辺りに振り撒いていた。
ただし、そんな中でただひとり、気だるそうに洒落たカフェテラスの椅子に腰かけて、新聞を眺める美しいブロンド髪の女がいた。
彼女の名は、マエリベリー・ハーン。通称はメリーだ(といっても、単に日本人にマエリベリーの発音が難しいためだが)。
新聞の記事にはでかでかと「またもロボットが暴走!」大書され、本文には「様々な会社、様々なタイプのAI。詳細な共通点はなし。ウイルス感染か?」といった記述がされていた。
そんな文章に目を通し、ふうと息をつく。事件が発生してから三日。この手の事件となると、そろそろ〝彼女〟がひょっこり顔を出しそうだ。
「座るわよ」
そう不躾に言って許可もなくメリーの前の椅子にどかりと腰を下ろした女がいた。
「ほらね」予想通りの見知った顔に、出る溜息もない。「久しぶり、蓮子」
彼女は宇佐見蓮子。メリーの最も心を許す存在で、大切な人間だ。
蓮子は被っていたソフトハットをテーブルにぽんと優しく置き、店員にアイスコーヒーの注文をした。
「休暇は楽しめてるかしら?」
イタズラっぽく、屈託ない笑顔で問う。
「あなたが来るまではね」
と、メリー。
「まぁ、新聞を読んで、薄々感じてたけどね。そろそろ来るころだなぁーなんてさ。でも、よく私がここにいるなんてわかったわね」
「あら、そう。さすがにカンがいいわ。それに愚問ね。メリーがここにいるなんてどこにいたってわかるわよ」
蓮子は自分の頭をこつこつ人差し指でつついた。メリーは呆れ顔で見つめる。
「コーヒーを片手に新聞の世界に〝ダイブ〟するひとときの雰囲気がぶち壊しだわぁ」
「えー? 新聞なんか読まなくても、あなたなら思い立ったときに……あぁ、ありがとうございます……ネットワークに〝入って〟知りたいことは好きなだけ知りつくせるでしょ?」
蓮子は運ばれてきたアイスコーヒーに口をつける。
「メリーは変なところでアナログね。〝プロ〟のくせに」
「どんなものも電子頼りにしてたら脳が疲れるわよ。それにね、私は紙媒体の方がずっと好きなの。辞書にしろ、傑作の文庫本にしろ、手に持った重みと実感、触り心地がないと嫌なのよ」
熱を持って語って聞かせたメリーに、蓮子は微笑んでみせた。
「なるほどね。いいわ、そういうの。素敵」
「最後、誰かが言いそうな口癖ね」
蓮子がぐいぐいとアイスコーヒーを喉の奥に流し込んで飲み干し、空にしてからすぐにメリーは席を立った。
ふたりは歩道に移る。すると蓮子がメリーの前にさっと出た。なにかと思って彼女の進み出た先を見て、メリーは溜息をついた。蓮子が誇らしげに、停めていた自分の穢れなき白いクルマをぽんぽん叩いたからだ。
しかたなしにメリーは助手席に乗り込んだ。運転席にはもちろん蓮子が座る。
「今どき自動車は前時代的な乗り物なのに……私、あまり乗りたくないし、電車の方が楽しくてずっと好きなのに」
「なによ、なら救急車のお世話になるのも嫌なのかしら? 喧しいお巡りさんにパトカーで連行されることになったら抵抗するの?」
「生憎、そんなものの厄介になることはなくなっちゃってるのよ」
蓮子は帽子を取ってメリーの膝に寄せた。メリーは自分の帽子を取りながらそれを鬱陶しそうに押し返す。結局、蓮子の膝に帽子がちょこんと収まる。
「でもねぇ、メリー」バッテリーを燃料とする電導モーターカーは音も揺れなく発進した。「私のクルマは、あの〝ジャグァ〟モデルなのよ」
そう自慢げに言う蓮子にそっぽを向 いて窓の外をメリーは眺める。
「……だから?」
「美しさは正義、よ」
先ほどから私、メリーはこんな風に蓮子にグイグイと引っ張られてしまう。それに対して冷ややかにあしらってはいるが、内心はこの他愛もないやりとりが、どうしようもなく好きなのだ。
蓮子もそれをよくわかってる。だから、私に遠慮はこれっぽっちもしない。私も遠慮はしない。それが私なりの信頼関係であり、絆(くさい台詞は好きではないが)と言うものだ。
こういったことを、普通の人間よりも人間くさく生きるというのは大切にしなくてはならない。先ほど見せた蓮子のささいな拘りのひとつもそうだ。
私たちのような存在にとっては……。
私と蓮子は、〈義体化〉している。サイボーグなのだ。蓮子は、世界中を探しても珍しい、肉体の九割を改造した全身義体持ち。私も全身義体にはしているが、それでもまだ「生身」は残っている。
サイボーグになれば、人間とロボットの「境界」を綱渡りする定めを請け負うこととなる。当たり前のようにありふれているサイボーグたちは、絶えずこの事実に実は悩まされることになっているのだ。
だから、こうしたやりとりや、ちょっとした拘りなどは私たちを冷たいロボットにさせないために行う、サイボーグをヒトたらしめる大切なことなのだ。
「……」
私はちらと蓮子の横顔を覗き込んだ見た。
肉体の機械の比率が多くなればなるほど、自分をヒトとして認識し維持するのが難しくなってくる。となれば、蓮子は……どれだけの苦を抑え乗り越え、人間として生きているのだろうか。普段の彼女は、とても〝人間らしく〟振る舞っている。宇佐見蓮子は、いかにして人間になっているのだろう。
「どうかした?」
「あぁ……ううん、ごめん。なんでもないの。気にしないで」
「そっか」
私は流れ込み、目に映り、そして消えていく景色を認識することに努めることにした。虚無的に……無心に……。私は、景色を眺めていくうちにあることを考え始めていた。
〈リアル〉と〈ヴァーチャル〉が隔てていた越えられないはずの壁はとうにがらがらと崩れ、統一されたことについてだ。夢と現実に区別はつけられない。だから、本質はすべて同一。違いなど存在しない。そう誰もが共通の認識として覚えている。しかし、蓮子はそれを否定できると断じ、区別をつけられているなんて言うが、どう区別つけているのか。彼女は教えてはくれない。だから……そうでなくとも、私にはよくわからない。そんなことができるのだろうか?
今やこの世界には〈リアル〉しか認められない。世界は、人々は、そんな不確かなものは存在しないと結論づけてしまっているのだ。
人々はどうしてそんな風になってしまったのだろう。いや、もしや……。
私が思うに、〈人類〉という括りは、広大な〈ネット〉の別称で、そこから枝分かれしている人々という個は、〈情報〉が擬人化されたものなのかもしれない。だから、世界が情報化社会となっていくうちに呑み込まれたのではないだろうか。昔の人々が〈ヴァーチャル〉としたモノが〈リアル〉へとすり替わったのだろうか。
〈ヴァーチャル〉こそが〈リアル〉。誰もが至極当然の常識としていることと真逆のことが正解なのでは──。
それに確証を得ることも否定することもできないが……「メリー」私が終わりなき思考を繰り広げていると、蓮子が私を呼んだ。私は「思考」という〈リアル〉から「現実世界」という〈リアル〉に呼び戻されたのだ。
「──仕事の話ね?」
メリーは反射的に返した。
「ええ。今回私たちの任務は、察してるとは思うけど、ロボットたちの反逆の原因の鎮圧よ」
「もう首謀者を特定したの? こんなすぐにってことはつまり……」
「素人ってこと。でも、問題は、そんな力のなかったヤツに力を与えた「裏」がヤバイってところね。──どうやら、相当なウイルス使いが糸を引いてるわ」
蓮子の瞳に鈍い光が見えた。
「でも、援助をしてあげるだけしてあげて、その後のことは杜撰ね。もっと隠してあげればいいのに。ウイルス使いの方もマヌケなのかしら。それとも、意図があってのことだったり」
蓮子は肩をすくめて返す。メリーがそれを認めた直後、頭にデータが流れ込んできた。蓮子とメリーは、〈電脳化〉している。だから、脳にインプラントされた端末を介して情報のやりとりが容易にできるのだ。
「情報は紙媒体がいいって言ってるのに」わずかに苦い顔をしながらも、メリーは送られた情報に目を通す。「あら……首謀者って最近倒産した桐島重工の社長さんじゃない」
「ええ」
「となると他企業への嫌がらせってとこかしら。子供みたい……」
「でも、そういうことを相手にするのが私たち──秘封機動隊こと〈S.I.S.〉よ」
蓮子はにっと笑みを浮かべてみせた。メリーもまた、笑って返した。
そう。
メリーたちは、防諜機関として設営された特殊部隊。「秘密裏に事件を解決・捜査、問題を封じ解決する」という目的のチーム──〈Secret Irregular Settlers〉である。
「さぁ、メリー。メンバーが揃い次第行くわよ──蓮台野に隠された、ヤツらの潜伏先に!」
良く言ってキャラ名を使っただけのオリジナル。悪く言えば中途半端で質の悪いパロディ。
秘封のふたりが何故防諜機関の特殊部隊チームなのか。なぜ義体化したのか。それがひとまとまりの作品内で明示されない事は、読み手側のストレスを招きかねない危険性を持ちます。ここの読み手ならば、蓮子とメリーには秘封倶楽部としての二人を期待するのが通常のように感じます。ですので、原作との乖離が大きい物語を出すならば、最低限読み手側の『なぜ原作と異なるのだろう?』という疑問だけは、物語を提示する時点で解消すべきだと思います。
現状でしたら、申し訳ありませんが僕は点数をつけられません。しかしここまで長文での指摘をする理由は、ひとえに作者様が扱おうとされた題材に強く興味をそそられたからです。秘封の二人が住む社会は、我々の時代よりもずっと未来の社会。そうした世界観で生きる秘封の二人を、近未来社会の描写も付け加えた上で描かれるのなら、それはきっととても面白い作品になるだろうな、と感じましたので。
長々と書いてしまいましたが、作者様が素晴らしいSF秘封を書かれることを願いまして〆させてもらいます。頑張ってくださいね。
ただ他の方も言われてる通りぱっと攻殻が思いつくのは分かれるところですかねぇ
>2.……説明過多ですね……これでは読み手に対して伝えたいことも伝えられませんね。失敗のひとつです。新聞はサイバーパンクのジャンルである攻殻原作1巻やニンジャスレイヤーでも存在しているので、自分の中で違和感はありませんでした。また、もっと秘封及び東方原作の設定変更、そこで生じた世界観の違いに関してもっと掘り下げるべきでした。いらないことに文字数を割いてしまってますね。多くの的確な指摘と助言、さらには応援をありがとうございます。改善しもっとよりよい作品を練り上げられるように努めます。
>3.……少し攻殻パロディに比重を置きすぎてしまっていたように感じ、これには自分も投稿し皆様からの指摘を受けて痛いほど後悔しています。サイバーパンクをやりたい!という気持ち、作品を書きたいという意欲に後悔はありませんが……形としては多くの悔いを残すことになってしまいました。改善するようにしたいです。
面白かったです。
こちらの作品旧版となりますが、そう言っていただけるのはとても嬉しく、励みになります。
改訂版の後編も期待に添えるよう頑張ります。