「はーい!皆さん、長らく?かどうかはわかんないけど、とにかくお待たせしましたー!東方真剣勝負のお時間でーす!レポーターは私、本居小鈴と!……ちょっとあっきゅん、出番だってのになにしてんの?」
……えへんえへん、よし大丈夫。今日も私はとってもかわいい。
皆さん、ごきげんよう。今宵の放送を首を長くして待ち望んでいたことと思います。ええ、もちろん私も皆さんに再び巡り会えたことは光栄の極みでございます。どうかひと時も目を離さぬよう、よろしくおねがいします。
「…………?あのー、あっきゅん?」
今回の放送は記念すべきものになることでしょう。なぜならば今回が、皆さんがこの東方真剣勝負を間接的といえども視聴する、その第一回目となるからでございますわ。
「もしもーし、あっきゅーん?」
わたくしたち一同、その記念すべき放送を最高のものとするために検討に検討を重ね、最高の機材、最高のカメラマン、最高のレポーターをご用意させていただきました。お初にお目にかかります。稗田、阿求と申します。以後、お見知りおきの上、どうぞよろしくお願いします……あら、小鈴?どうしたの?そんなに呆れた顔して。変な子ね。ふふふ。
「ちょっとあっきゅん?前回のイメージダウンの件、まだ引っ張ってるんじゃないでしょうね。多分、視聴者の皆さんはあんたのそんな薄っぺらい大根演技になんて騙されないと思うんだけど……痛った!なにすんのよ!いきなりチョップしないで!」
あらあらこの子ったらほんとにおかしなことを言うのね。あ、皆さん、ご紹介しますわ。こちら本居、小鈴といいます。
「いや、それさっき私も言ったからね」
こんなちんちくりんでぺーぺーの小娘ですが、わたくしの良きパートナーとして色々と支えてくれているんですのよ。さあ小鈴、皆さんにご挨拶をしなさい。
「誰がちんちくりんでぺーぺーじゃい。胸は私より小さいくせに……ったい!だからチョップはやめてって!」
おほほ、すみませんね。やはりまだまだ未熟者のようで、見苦しいところを見せてしまい、申し訳ないですわ。さて、そろそろ対戦者が発表されるはずですが……、軽く前回の復習をしておきましょうか。
「あー、もう今日はずっとそのテンションでいくのね。分かった分かった」
東方真剣勝負。
博麗神社の神命によって選ばれた二人の対戦者が、ある競技で真剣勝負をする。
ただ、それだけのこと。それ以上でも、以下でもない。
「考えてみれば、不思議だなあ。勝ったほうになにか景品があるわけじゃないんでしょう?なんでそんなことするんだろう?」
はあ、小鈴ったらそんなことも知らずにレポートしてたの?
「悪かったわね。そういうあんたは理解してるの?」
当たり前じゃない。いい?小鈴。この幻想郷においては「勝者」という名誉が力を持ちやすいからよ。
「……?どういうこと?よくわかんないんだけど」
視聴者の皆さんの中にも疑問に思っている人がいるかもしれないので説明いたします。
「幻想郷」というある意味「閉じられた」、そしてまたある意味「開かれた」世界において、最も大切なもの……何か分かる?小鈴。
「え?えーと、そうだなあ……。お金、じゃあなさそうだし。権力?うーん、なんだか曖昧だなあ……。うーん」
はい、時間切れ。答えは「適応力」よ。
「てきおうりょく?」
そう。ここには次々に新しいものが入り込んでくる。行き場の無くなった生命、道具、概念。幻想郷は全てを受け入れる。もしもそれが仇なすものであっても。
「ふむ」
そしてそれらは既存を時には破壊し、淘汰する。その時に私たちができることはなにか?戦う?諦める?違うわ。「調和する」のよ。
「ほうほう」
抵抗も諦観もしない。私たちはそれと、言うなら「同化」する。ひとつになる。
それは私たちが無意識の内にやっていたことだったの。なぜならば幻想郷とは他でもない、私たち自身なのだから。
「それは分かったけどさ、それと真剣勝負になんの関係があるの?」
ちょっとくらいその小さな脳みそで考えなさいよ。それはつまり、私たちが価値を持つべきものは度々変遷するということなの。お金なんてただの邪魔物になるかもしれない。権力なんて外界からの訪問者には意味を為さないかもしれない。もしかしたら逆に潰されるかもしれない。
「やっぱりずいぶんと曖昧な言いようね」
でも、考えてみて。「名誉」って、どんな状況でもしがみつくには最高のものだと思わない?誰にも侵害されない。もともとあった事象に介入される、そんな心配をする必要もない。それは自らの中で初めて価値を持ち、意味を為すものだから。
「まあ、言われてみれば確かに。そういうのっていざという時に心の拠り所になったりするかもしれないわね」
でしょう?
しかも「勝者」。ああ、なんて素敵な響き!対戦相手を負かし、もぎ取った「名誉」!
「……あのー、あっきゅん?」
ああ!絶望してる顔が見たい!自分より弱い奴を一方的に弄ってやりたい!できることならそのまま縛ってお持ち帰りして……
「いけない。あっきゅんの謎スイッチ、入っちゃったかも」
四肢を隅々までくまなく調べて幻想郷縁起に記録しなくちゃ。種族、生態、能力、友好度。その後は○○して○○が○○って……
「ストーップ!正気に戻って!あっきゅん、素が!素が出てるよ!お茶の間のあっきゅんイメージがダダ下がってるよ!それはもう、すごいスピードで!」
はっ。私は何をしていたの?ここはどこ?私がとっても可愛い阿求ちゃんなのは覚えているんだけれど……。
「なんて都合のいい脳みそなんだろう。え、えーと。あっ!もう対戦カードが決まるみたいですよお!視聴者の皆さんはその模様をぜひじっくりと見てくださいね!ほーらあっきゅん?ちょっと向こうで休憩しようか?小鈴お姉ちゃんがお菓子あげるからねー?」
ちょ、ちょっと小鈴?どうしたの?まさか私、またなにか妙なことを口走っていたんじゃ……?
「そーんなことないよー!さー!いこーいこー!」
ちょっと小鈴!そんな引っ張らないでよ!
閑話休題
「稗田阿求」9th memory of UTOPIA
力…極低 俊敏…極低 耐久…極低
頭脳…極高 危険度…極低 潜在…中
種族…人間(特殊) 所属…稗田宅
能力…一度見聞きしたことを忘れない程度
東方真剣勝負。
今宵もその幕が開かれようとしていた。
人間。妖怪。神。その他諸々。
幻想郷にいるその全てから、その対戦カードは選ばれる。
「ちょっとあっきゅん?もう大丈夫なの?まだ瞳の焦点合ってないよ?」
小鈴。もう大丈夫よ。私はいつも通りのGRAよ。
「GRA?なにそれ?なに言ってるの?」
グレイトフル(G)、レポーター(R)、阿求(A)の略よ。
「ちょっと文さーん!?やっぱりまだあっきゅんおかしいです!わけわからないこと口走ってますー!?」
じょ、冗談よ。小鈴。さっきのはちょっと慣れないボケ役にまわってみただけだから。
「あ、そうだったの。よかったあ。さっきのちっとも面白くなかったもん。いつもと比べてキレが全然足りてなかったからね」
小鈴、うっさい。
さて、いま私たちは対戦カードが決まる、まさにその瞬間に立ち会っています。
「沢山のひと、ひと、ひと、たまに妖怪、って感じですねー。やっぱり関心度は高いようです!見知った顔もちらほら見受けられます」
正面の賽銭箱前では博麗神社の巫女である博麗霊夢さんが、神命が降りてくるのを待機している状況です。普段、草の根を齧って飢えを凌いでいる貧乏巫女とは全く違う、真剣な表情ですね。凛としています。
「ほんと、こういう時の霊夢さんってかっこいいよねー。普段からああだったら少しは賽銭も集まるだろうに」
しっ、そういうこと言わない……。それ聞いたら霊夢が霊夢でなくなってしまうわ。
「あっきゅんもさっき結構ぼろくそに貶してたと思うんだけど」
それはそれ、これはこれよ。賽銭が集まる博麗神社は、それはもう博麗神社ではないのよ。
「やっぱりあっきゅんのほうが数段酷い気がする」
んー、もうちょっと発表には時間がかかりそうね。
「じゃあ折角だし、『インタビュー』っていうんだっけ?でもしてみますか」
小鈴にしてはいい案だわ。あ、すいません、私たち文文。放送なんですが、ちょっとお話を伺ってもよろしいですか?
「ああ、構わないぜ」
「……あぁっ!あなたはかの有名な……!」
現地のレポーターが偶然インタビューで居合わせた人物。
黒系のウイッチ的な服装で身をまとい、右手には空飛ぶ箒、左手には好奇心。どこから見てもただの普通の魔法使い。
「霧雨、魔理沙さんじゃあないですか!なんて偶然!」
「おいおい小鈴、なにを大仰な。昨日だってお前の店に顔出したろ?」
「そういう体なんです、察してください。魔理沙さん」
この少女が、霧雨魔理沙。
「河童と天狗がまたなんか始めたって聞いてたけど、お前らも協力してるんだな。初耳だ」
今回の試みには私も興味がありましたし。なによりこれも幻想郷の歴史のひとつです。取材しないわけにはいかないですからね。
「お仕事熱心なことで。んで、小鈴は?」
「私も同じようなもんです。あっきゅんから話を聞いて、暇だったしやろうかなって」
「なんだよ、お前はサボりじゃねえか」
「えー。あっきゅんも暇を潰してるだけで、私とそんなに変わんないと思うんだけどな」
あなたとは違うんです。
「んー。まあサボりでもいいんじゃないか?って私は思うぜ。もともと、この催しだって暇を潰すためだけにあるようなもんだしな」
その時、どよめきがあった。
阿求、小鈴、魔理沙はそちらを向く。
「お、対戦カードが決まったみたいだな」
「えー、まだ魔理沙さんに何もインタビューしてないのにー」
ほら小鈴、そんな普通の魔法使いに構わなくていいから。さっさと対戦カードの発表をお伝えするのよ。
「おいおい、お前が話しかけてきたのに酷い言い草だ」
ほら、小鈴。霊夢さんが夜空に弾幕で文字を書いて発表するの。なかなか洒落てて綺麗よね。
「あれ、なんて書いてるの?キラキラしててちょっと読みにくい」
「ああ、あれはカタカナだな。対戦者同士の名前が漢字の時はほんとに読みにくいんだよなー。ほら、ここ(幻想郷)って妙にごちゃごちゃした漢字の名前が多いから」
私の名字とか。「稗田」って結構難しいですし。
「私のは割と簡単かな。『本居小鈴』」
「この三人の中では私が一番かな。まあお前ら二人は実際に対戦者に選ばれること、無いだろうが」
そうであることを祈ります。
「それフラグじゃないよね?あっきゅん」
さあ、どうだか。
「お、文字になってきた。えーとなになに……フ、ラ、ン、ド、-、ル。あぁー、あいつかー」
もう一つは……ナ、ズ、-、リ、ン。
「ナズーリン」ですか。
「え、その組み合わせってだいぶ……なんというか……」
1ボスとEXだし、直接殴り合ったら勝敗は明らかね。
「だよねぇー。そんなに力の差があるのに戦わせるなんて、なんか可哀想に思えてくる」
「そうか?対戦種目によって結構変わってくるもんだぞ?その実力差っていうのは。ほら、見てみろ。種目の発表だ」
「んー、あれは平仮名ね。あれなら私でも分かりそう。か、く、わ?なにあれ?」
あれは「れ」ね。か、く、れ、ん、ぼ。
「『かくれんぼ』か。面白くなりそうじゃねえか」
霧雨魔理沙がニヤリと笑う。観衆が騒ぎ立てる。本居小鈴が首を小さく傾げ、稗田阿求が思いを廻らせるように目を閉じる。
対戦者の一方は現場にいた。
命蓮の賢将、ナズーリン。
彼女は主人に偵察を頼まれ、博麗神社を訪れていた。まさか自身が対戦者に選ばれるとは、考えもしなかっただろう。
両手のダウジングを持つ手が汗ばんでくるのを感じていた。
「…………おいおい、嘘だろ……!」
もう一方は、もうちょっと低い位置にいた。
紅い館、その地下にいた。
薄暗い部屋のなかに明滅する箱がある。その光の前に彼女は、いた。
宝石のように美しい羽を小さく羽ばたかせる。紅い舌をチロリと出して自らの歪んだ唇を舐めた。
「……ふーん、なんか、楽しそう♪」
交錯する想い。混沌が蔓延る幻想郷。
退屈しのぎの真剣勝負が今、始まろうとしている。
……えへんえへん、よし大丈夫。今日も私はとってもかわいい。
皆さん、ごきげんよう。今宵の放送を首を長くして待ち望んでいたことと思います。ええ、もちろん私も皆さんに再び巡り会えたことは光栄の極みでございます。どうかひと時も目を離さぬよう、よろしくおねがいします。
「…………?あのー、あっきゅん?」
今回の放送は記念すべきものになることでしょう。なぜならば今回が、皆さんがこの東方真剣勝負を間接的といえども視聴する、その第一回目となるからでございますわ。
「もしもーし、あっきゅーん?」
わたくしたち一同、その記念すべき放送を最高のものとするために検討に検討を重ね、最高の機材、最高のカメラマン、最高のレポーターをご用意させていただきました。お初にお目にかかります。稗田、阿求と申します。以後、お見知りおきの上、どうぞよろしくお願いします……あら、小鈴?どうしたの?そんなに呆れた顔して。変な子ね。ふふふ。
「ちょっとあっきゅん?前回のイメージダウンの件、まだ引っ張ってるんじゃないでしょうね。多分、視聴者の皆さんはあんたのそんな薄っぺらい大根演技になんて騙されないと思うんだけど……痛った!なにすんのよ!いきなりチョップしないで!」
あらあらこの子ったらほんとにおかしなことを言うのね。あ、皆さん、ご紹介しますわ。こちら本居、小鈴といいます。
「いや、それさっき私も言ったからね」
こんなちんちくりんでぺーぺーの小娘ですが、わたくしの良きパートナーとして色々と支えてくれているんですのよ。さあ小鈴、皆さんにご挨拶をしなさい。
「誰がちんちくりんでぺーぺーじゃい。胸は私より小さいくせに……ったい!だからチョップはやめてって!」
おほほ、すみませんね。やはりまだまだ未熟者のようで、見苦しいところを見せてしまい、申し訳ないですわ。さて、そろそろ対戦者が発表されるはずですが……、軽く前回の復習をしておきましょうか。
「あー、もう今日はずっとそのテンションでいくのね。分かった分かった」
東方真剣勝負。
博麗神社の神命によって選ばれた二人の対戦者が、ある競技で真剣勝負をする。
ただ、それだけのこと。それ以上でも、以下でもない。
「考えてみれば、不思議だなあ。勝ったほうになにか景品があるわけじゃないんでしょう?なんでそんなことするんだろう?」
はあ、小鈴ったらそんなことも知らずにレポートしてたの?
「悪かったわね。そういうあんたは理解してるの?」
当たり前じゃない。いい?小鈴。この幻想郷においては「勝者」という名誉が力を持ちやすいからよ。
「……?どういうこと?よくわかんないんだけど」
視聴者の皆さんの中にも疑問に思っている人がいるかもしれないので説明いたします。
「幻想郷」というある意味「閉じられた」、そしてまたある意味「開かれた」世界において、最も大切なもの……何か分かる?小鈴。
「え?えーと、そうだなあ……。お金、じゃあなさそうだし。権力?うーん、なんだか曖昧だなあ……。うーん」
はい、時間切れ。答えは「適応力」よ。
「てきおうりょく?」
そう。ここには次々に新しいものが入り込んでくる。行き場の無くなった生命、道具、概念。幻想郷は全てを受け入れる。もしもそれが仇なすものであっても。
「ふむ」
そしてそれらは既存を時には破壊し、淘汰する。その時に私たちができることはなにか?戦う?諦める?違うわ。「調和する」のよ。
「ほうほう」
抵抗も諦観もしない。私たちはそれと、言うなら「同化」する。ひとつになる。
それは私たちが無意識の内にやっていたことだったの。なぜならば幻想郷とは他でもない、私たち自身なのだから。
「それは分かったけどさ、それと真剣勝負になんの関係があるの?」
ちょっとくらいその小さな脳みそで考えなさいよ。それはつまり、私たちが価値を持つべきものは度々変遷するということなの。お金なんてただの邪魔物になるかもしれない。権力なんて外界からの訪問者には意味を為さないかもしれない。もしかしたら逆に潰されるかもしれない。
「やっぱりずいぶんと曖昧な言いようね」
でも、考えてみて。「名誉」って、どんな状況でもしがみつくには最高のものだと思わない?誰にも侵害されない。もともとあった事象に介入される、そんな心配をする必要もない。それは自らの中で初めて価値を持ち、意味を為すものだから。
「まあ、言われてみれば確かに。そういうのっていざという時に心の拠り所になったりするかもしれないわね」
でしょう?
しかも「勝者」。ああ、なんて素敵な響き!対戦相手を負かし、もぎ取った「名誉」!
「……あのー、あっきゅん?」
ああ!絶望してる顔が見たい!自分より弱い奴を一方的に弄ってやりたい!できることならそのまま縛ってお持ち帰りして……
「いけない。あっきゅんの謎スイッチ、入っちゃったかも」
四肢を隅々までくまなく調べて幻想郷縁起に記録しなくちゃ。種族、生態、能力、友好度。その後は○○して○○が○○って……
「ストーップ!正気に戻って!あっきゅん、素が!素が出てるよ!お茶の間のあっきゅんイメージがダダ下がってるよ!それはもう、すごいスピードで!」
はっ。私は何をしていたの?ここはどこ?私がとっても可愛い阿求ちゃんなのは覚えているんだけれど……。
「なんて都合のいい脳みそなんだろう。え、えーと。あっ!もう対戦カードが決まるみたいですよお!視聴者の皆さんはその模様をぜひじっくりと見てくださいね!ほーらあっきゅん?ちょっと向こうで休憩しようか?小鈴お姉ちゃんがお菓子あげるからねー?」
ちょ、ちょっと小鈴?どうしたの?まさか私、またなにか妙なことを口走っていたんじゃ……?
「そーんなことないよー!さー!いこーいこー!」
ちょっと小鈴!そんな引っ張らないでよ!
閑話休題
「稗田阿求」9th memory of UTOPIA
力…極低 俊敏…極低 耐久…極低
頭脳…極高 危険度…極低 潜在…中
種族…人間(特殊) 所属…稗田宅
能力…一度見聞きしたことを忘れない程度
東方真剣勝負。
今宵もその幕が開かれようとしていた。
人間。妖怪。神。その他諸々。
幻想郷にいるその全てから、その対戦カードは選ばれる。
「ちょっとあっきゅん?もう大丈夫なの?まだ瞳の焦点合ってないよ?」
小鈴。もう大丈夫よ。私はいつも通りのGRAよ。
「GRA?なにそれ?なに言ってるの?」
グレイトフル(G)、レポーター(R)、阿求(A)の略よ。
「ちょっと文さーん!?やっぱりまだあっきゅんおかしいです!わけわからないこと口走ってますー!?」
じょ、冗談よ。小鈴。さっきのはちょっと慣れないボケ役にまわってみただけだから。
「あ、そうだったの。よかったあ。さっきのちっとも面白くなかったもん。いつもと比べてキレが全然足りてなかったからね」
小鈴、うっさい。
さて、いま私たちは対戦カードが決まる、まさにその瞬間に立ち会っています。
「沢山のひと、ひと、ひと、たまに妖怪、って感じですねー。やっぱり関心度は高いようです!見知った顔もちらほら見受けられます」
正面の賽銭箱前では博麗神社の巫女である博麗霊夢さんが、神命が降りてくるのを待機している状況です。普段、草の根を齧って飢えを凌いでいる貧乏巫女とは全く違う、真剣な表情ですね。凛としています。
「ほんと、こういう時の霊夢さんってかっこいいよねー。普段からああだったら少しは賽銭も集まるだろうに」
しっ、そういうこと言わない……。それ聞いたら霊夢が霊夢でなくなってしまうわ。
「あっきゅんもさっき結構ぼろくそに貶してたと思うんだけど」
それはそれ、これはこれよ。賽銭が集まる博麗神社は、それはもう博麗神社ではないのよ。
「やっぱりあっきゅんのほうが数段酷い気がする」
んー、もうちょっと発表には時間がかかりそうね。
「じゃあ折角だし、『インタビュー』っていうんだっけ?でもしてみますか」
小鈴にしてはいい案だわ。あ、すいません、私たち文文。放送なんですが、ちょっとお話を伺ってもよろしいですか?
「ああ、構わないぜ」
「……あぁっ!あなたはかの有名な……!」
現地のレポーターが偶然インタビューで居合わせた人物。
黒系のウイッチ的な服装で身をまとい、右手には空飛ぶ箒、左手には好奇心。どこから見てもただの普通の魔法使い。
「霧雨、魔理沙さんじゃあないですか!なんて偶然!」
「おいおい小鈴、なにを大仰な。昨日だってお前の店に顔出したろ?」
「そういう体なんです、察してください。魔理沙さん」
この少女が、霧雨魔理沙。
「河童と天狗がまたなんか始めたって聞いてたけど、お前らも協力してるんだな。初耳だ」
今回の試みには私も興味がありましたし。なによりこれも幻想郷の歴史のひとつです。取材しないわけにはいかないですからね。
「お仕事熱心なことで。んで、小鈴は?」
「私も同じようなもんです。あっきゅんから話を聞いて、暇だったしやろうかなって」
「なんだよ、お前はサボりじゃねえか」
「えー。あっきゅんも暇を潰してるだけで、私とそんなに変わんないと思うんだけどな」
あなたとは違うんです。
「んー。まあサボりでもいいんじゃないか?って私は思うぜ。もともと、この催しだって暇を潰すためだけにあるようなもんだしな」
その時、どよめきがあった。
阿求、小鈴、魔理沙はそちらを向く。
「お、対戦カードが決まったみたいだな」
「えー、まだ魔理沙さんに何もインタビューしてないのにー」
ほら小鈴、そんな普通の魔法使いに構わなくていいから。さっさと対戦カードの発表をお伝えするのよ。
「おいおい、お前が話しかけてきたのに酷い言い草だ」
ほら、小鈴。霊夢さんが夜空に弾幕で文字を書いて発表するの。なかなか洒落てて綺麗よね。
「あれ、なんて書いてるの?キラキラしててちょっと読みにくい」
「ああ、あれはカタカナだな。対戦者同士の名前が漢字の時はほんとに読みにくいんだよなー。ほら、ここ(幻想郷)って妙にごちゃごちゃした漢字の名前が多いから」
私の名字とか。「稗田」って結構難しいですし。
「私のは割と簡単かな。『本居小鈴』」
「この三人の中では私が一番かな。まあお前ら二人は実際に対戦者に選ばれること、無いだろうが」
そうであることを祈ります。
「それフラグじゃないよね?あっきゅん」
さあ、どうだか。
「お、文字になってきた。えーとなになに……フ、ラ、ン、ド、-、ル。あぁー、あいつかー」
もう一つは……ナ、ズ、-、リ、ン。
「ナズーリン」ですか。
「え、その組み合わせってだいぶ……なんというか……」
1ボスとEXだし、直接殴り合ったら勝敗は明らかね。
「だよねぇー。そんなに力の差があるのに戦わせるなんて、なんか可哀想に思えてくる」
「そうか?対戦種目によって結構変わってくるもんだぞ?その実力差っていうのは。ほら、見てみろ。種目の発表だ」
「んー、あれは平仮名ね。あれなら私でも分かりそう。か、く、わ?なにあれ?」
あれは「れ」ね。か、く、れ、ん、ぼ。
「『かくれんぼ』か。面白くなりそうじゃねえか」
霧雨魔理沙がニヤリと笑う。観衆が騒ぎ立てる。本居小鈴が首を小さく傾げ、稗田阿求が思いを廻らせるように目を閉じる。
対戦者の一方は現場にいた。
命蓮の賢将、ナズーリン。
彼女は主人に偵察を頼まれ、博麗神社を訪れていた。まさか自身が対戦者に選ばれるとは、考えもしなかっただろう。
両手のダウジングを持つ手が汗ばんでくるのを感じていた。
「…………おいおい、嘘だろ……!」
もう一方は、もうちょっと低い位置にいた。
紅い館、その地下にいた。
薄暗い部屋のなかに明滅する箱がある。その光の前に彼女は、いた。
宝石のように美しい羽を小さく羽ばたかせる。紅い舌をチロリと出して自らの歪んだ唇を舐めた。
「……ふーん、なんか、楽しそう♪」
交錯する想い。混沌が蔓延る幻想郷。
退屈しのぎの真剣勝負が今、始まろうとしている。
雰囲気とかも変に殺伐としてなくてよかった
この感じで頑張っていただければ非常にありがたいです
次もこんな感じなのを楽しみにしています
勿論作者さんの自由ですから余り気にしないでくださいね