PROJECT X PHANTASIA パチュリー・ノーレッジの事情
★★★
極めて近く、限りなく遠い世界で……。
★★★
”ヤツ”を完全に消滅させる。
それが、私、パチュリー・ノーレッジの生涯を懸けた目的だ。
私がまだ故郷の種族・魔法使いが大勢住む隠れ里で暮らしていた500年以上昔のこと。
私には、マリサという妹がいた。
マリサは負けず嫌いで、口調が荒かった。
”魔法使い”として、姉である私を上回ろうと、しょっちゅう私の秘蔵の魔導書を勝手に持ち出し、それが原因で、いつもケンカばかりしていた。
だから、マリサに対し、こんちくしょう、べらぼうめといつも思っていた。
だけど、本当は努力家で頑張り屋なのに、人前ではそういう素振りを見せないようにしているマリサがとてもいじらしく、私にとってはとても大切な、最愛の妹だった。
私達姉妹は、裕福な長の家に生まれ、また、魔力がズバ抜けていたので、周囲から期待され、幸せな日々を過ごしていた。
あの忌まわしい日までは……。
マリサの16歳の誕生日。
それは起こった。
「死ねよやァァァーーッ!」
突然、マリサが狂い出し、故郷の人々を虐殺し、そして、まるで吸血鬼のように犠牲者たちの血を啜り始めたのだ。
魔力だけではなく、身体能力も脅威的に伸びたマリサの徒手空拳で、数秘紋による雷霆で、動く死者と化した犠牲者たちで、殺されていく家族、友人、仲間たち。
平和な故郷は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化した。
「我が名はロア! その命と血を持って、我が復活を祝福せよ! ついでに、その美味そうなナスキノコカレーも喰わせろ!!」
マリサの大好物であったナスキノコカレーを作っていた私に、マリサであって、マリサじゃない声で、”ヤツ”は、狂喜しながら叫んだ。
ロア。
私は、その名を知っていた。
故郷でおとぎ話として、ロアのことが語り継がれていたからだ。
ロアの正体は、異世界の教会の司祭だとか、魔術師だとか、吸血鬼だとか、中二病のサイコパスだとか、ハッキリとしていない。
また、死んでも転生により、復活する、とてもやっかいなモノと注意付けられていた。
ロアは永遠を探求し、それに対する答えが『転生』だったらしい。
転生先は、裕福であり、資質があるモノ。
そして、転生した後、ロアとして覚醒すると、凶悪な殺人鬼と化し、周囲のモノたちを虐殺・破壊する迷惑極まりない存在になる上に、説得には一切応じないので、親しい者、愛しい者だったとしても、害虫駆除の如く即退治するに限るとされていた。
まさか、マリサがロアの転生体だったなんて……。
「そ、そんな……、声まで変わって!? 嘘だと言ってよ、マリサ!! 今日のカレー、ナスとキノコがたっぷりなのよ!!」
私は、お玉で鍋に入ったナスキノコカレーを焦げ付かさせないように必死にかき混ぜながら、ホームラン級のキ○ガイになってしまったマリサへ呼びかけた。
「ウボァー!」
灼熱の炎に包まれ、ロアが断末魔を上げた。
ロアと化したマリサの肉体が、私が召喚したイフリートの地獄の火炎で燃え尽きていく。
結局、私は難を逃れた魔法使いたちと、突然姿を現した二本足で歩く猫のような奇怪で謎のナマモノと力を合わせ、マリサだったモノを殺してしまったのだ。
「マリサァァァーーッ!!」
死体が焼かれる独特の臭気が漂う中、私は嗚咽を上げて泣き崩れた。
焦げてしまったナスキノコカレーのように辛(から)い、もとい、辛(つら)い出来事があった日の翌日、生き残った者たちが私の元へ集った。
「パチュリーさん、マリサちゃんのことは仕方がなかったんだよ……」
「んだべ! ロアは、災害みたいなもんじゃ!」
「皆で力を合わせて、里を元に戻すために頑張ろう! パチュリーさんがリーダーになってくれれば、心強い!」
ロアの転生体だったとはいえ、マリサがあんなことをしでかしたのにも関わらず、姉である私に対し、故郷の人々は優しく気づかってくれた。
だが、私はその優しさに耐えきれず、そして、ロアへの復讐を決意し、故郷を飛び出してしまったのだった……。
★★★
次回予告 『スカーレットさんちの事情』
ロアを滅ぼす手段と、転生先を探し求め、魔界中をさすらうパチュリー・ノーレッジ。
放浪の果てに辿り着いたのは、紅魔館だった。
紆余曲折があり、当主であるマキキュー・スカーレットに紅魔館が誇る大図書館の司書としてスカウトされたパチュリー。
マキキューの愛娘であるフランドール・スカーレット。
マキキューの幼女、もとい、養女であるレミリア。
とある出来事で、彼女たちと仲良くなったパチュリー。
しかし、フランドールは宿敵ロアの転生体であり、とある日、フランドールはロアとして覚醒する。
そして、さらに最悪なことに、ロアと化したフランドールは、レミリアからレアスキル『直死の魔眼』を奪い、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を習得してしまう。
ロアは、盗んだスキルで暴れ出す。
宿敵の思わぬ出現に、テンパるパチュリー。
彼女の運命はいかに!?
ただならぬ勢いを感じた