不死鳥は何故不死鳥か
春のある日の昼下がり。青空の下で二人の少女がごろんと寝転がっていた。服に焦げた跡や擦り傷が多々あるからつい先刻まで弾幕ごっこでもしていたのだろう。
「ねぇ、妹紅。」
「何だ、菫子。」
妹紅はふわぁ、と一つ欠伸をした。
「妹紅は何で不老不死になったの?」
「なぜ、そんなことを聞く。」
少し悲しげな表情をして妹紅は尋ね返す。
「知的好奇心。」
菫子は即答する。
「お前と言う奴は…」
ほんの少し静寂が場を包む。そよそよと風が吹いていて、とても心地が良い。
「不老不死になった理由なんて、とうの昔に忘れてしまったよ。」
また、妹紅はふわぁ、と欠伸をする。
「それは、言いたくないってこと?」
ざざぁ、と風が少し強く吹いた。
「お前と言う奴は、本当に。」
妹紅は苦笑しながら話す。
「本当に素直な奴だ。」
再び静寂が訪れる。気がつくと妹紅は目を閉じて眠っていた。
「結局教えてくれないの?」
菫子は寝ている妹紅をゆさゆさ揺すって尋ねる。
「気が向いたらいつか話す。気が向いたら。」
「気が向くのは何時よ。」
「さぁ?明日かもしれないし数百年後かもしれない。」
「教える気が無いってことじゃない!」
菫子は妹紅をポコポコ殴った。
「痛い、痛い。そんなに知りたいんなら、お前が私をその気にさせてみろ。」
ピタッと妹紅を殴る手が止まった。
「それって、私が、その、妹紅をく、口説き落とせばいいってこと、よね。」
照れ隠しからか、帽子をきゅっと被りながら少し震えた口調で菫子が言う。
「はっ?あー、でも、うん。まあ、そういうことかな。多分。いや、なんか違う気もする…」
「そ、そ、そういう事なら早速…善は急げって言うし…」
「それは善なのか…?」
「落ち着け…落ち着くのよ宇佐見菫子…落ち着け…」
「聞いてないし…」
困惑する妹紅を横に菫子は勝手に緊張して深呼吸を繰り返している。
「も、妹紅。わっわ、私とつっつっ、付き合って!」
「…ふふっ。」
「なんで笑うのよ!」
「そりゃあ、だって、お前、ふふっ、それで口説いたつもりなのか。」
我慢出来なくなったのか、妹紅はとうとうお腹を抱えて笑い転げ始めた。
「だってしょうがないじゃない!ネットひ載ってる口説き方なんて信用ならないし!かと言って他にどうするかなんてわからないもの!」
よっぽど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら菫子が逆上する。
「それでも、もう少しマシなものを思いつくだろう、普通。」
妹紅は相変わらず笑っている。
「馬鹿にしてー!こうなったら実力行使よ!」
そう言って菫子は超能力で鉄骨を飛ばす。
「痛っ、不意打ちはずるいだろ。」
鉄骨を手で弾きながら妹紅も弾幕を展開する。
「私の超能力の本当の力、見せてあげ…って、予鈴!?これからが本番なのにー」
菫子は外の世界で目覚めてしまったようだ。そのまま、すうっと消えていく。
「次来る時はもっとマシな口説き方を覚えて来いよ。」
幽かに、うるさーい!と返事が返ってきた。
菫子が妹紅の不老不死になった理由を知るのはまだまだ先になりそうだ。
今は昔
「妹紅ってさ、古典わかる?」
「少しなら。」
「じゃあ、ちょっと教えてくれない?古典の授業爆睡しちゃってわからないのよね。まあ、今がその古典の授業なんだけど。」
「おいおい…それで何の文章を教えて欲しいんだ?」
「えーとね、竹取物語を…」
瞬間。妹紅の手から炎が燃え始めた。
「あっ、すまん。」
「だ、大丈夫よ。」
菫子は妹紅から溢れる殺気を全身で感じ取り、恐怖で震えた。
「ちょっと出かける用事ができた。」
「い、行ってらっしゃい。」
「後、すまないが竹取物語は教えられない。」
そう言って妹紅は凄いスピードで飛んでいった。菫子はへたへたとその場に座り込んだ。
そして、妹紅の過去に一体何があったのだろう、と思うと同時に妹紅があれほどの殺気を覚えるものとは一体何なのだろうと思った。本物の殺気に当てられたからか、未だ震えが止まらなかった。何時もは授業の最後まで寝ている所だが、今日はもう起きてしまった。
筍
菫子は妹紅の家に居た。広い家ではないので二人でいると少し窮屈そうに見えるが、彼女達はあまり気していないようだった。
「妹紅、この古文わかりやすく話教えてー。」
「しょうがないな、えーと徒然草か。ちょっと待ってろよ。」
菫子は鍋に入っていた筍の煮物を勝手に食べてながら待った。
「うん。この話はな、平たく言うと、毎日大根を万能薬と信じて食べていた人が敵に襲われた時に大根に助けてもらった話だ。」
「…からかってるの?」
「いや、本当にそういう話だよ。」
「嘘でしょ…」
「お前も毎日何かを食べてみたらどうだ?本当に助けに来てくれるかもしれないぞ。」
妹紅は笑いながら言う。
「そうね…現実では無理でも幻想郷でなら行けるかもしれない…だから、これから毎日妹紅が作る筍の煮物を食べるわ。」
そう言って菫子は鍋の筍の煮物をまた食べた。
「あっ、お前。人のものを勝手に…」
「これ、結構おいしいわ。明日もよろしくねー。」
そう言うと目が覚めたのか菫子は消えていった。
「あいつ…でもまあいいか、偶には誰かのために料理を作ってやるのも…」
それから、しばらくの間菫子は妹紅の筍の煮物を食べ続けた。しかし、別に筍が菫子を助けるなんてことは起きなかった。
「やっぱり、食べ物が助けてくれるわけないわ。課題が溜まっても来てくれなかったし、弾幕ごっこしてても来てくれなかった。」
「やっぱりってお前…初めから信じてなかったのか…」
「そりゃあだって、普通に考えて毎日同族を食べてるやつを助けるわけないじゃない。」
妹紅はこの言葉を聞いて呆れた。徒然草の大根は自分達を万病の薬と信じてくれたからこそ助けに来たのだ。初めから何も信じなければ助けに来てくれるはずもない。その事を指摘しようとしたがやめた。信じて食べたからと言って筍が助けに来るとは限らないしむしろ来る確率の方が低いと思ったからだ。それに____
「…まぁ、幻想郷にいる間何かあったら私が守ってやるよ。」
「ん?妹紅何か言った?」
「いや、毎日筍の煮物食べて飽きないのかな、って。」
「飽きるって言ったら、別の物作ってくれるの?」
「いや、無理だ。お前が何か作ってくれ。」
「私はレトルト食品作るのが限界よ。」
「なんでそんな誇らしそうに言うんだ。」
「レトルト食品だって、結構美味しいのよ!」
「私の筍の煮物とどっちが美味しい?」
「うーんと…妹紅の。」
「なんでちょっと悩んだ。」
しばらくの間、二人は楽しそうに話し込んでいた。
ゆめのなか
「菫子、お前は寝ている時幻想郷に来るんだよな?」
「うん、そうだけど。」
菫子は妹紅の家でゴロゴロしていた。床は良い素材ではなく固いので感触は悪いが菫子はぐでーとそこに横たわっていた。
「最近よくこっちで見るけど現実の方は大丈夫なのか?」
「平気平気。味気ない現実より神秘に満ち溢れたこっちのがいいわ。」
「あぁ、そうかい。」
そう言って妹紅もぐでーとし始めた。しばらく二人はそのまま横になっていた。
「一つだけ言ってもいいか。」
唐突に妹紅がすくっと起き上がり言った。
「何。」
「こっちに入り浸るのもいいけど、現実を大切にしろよ。こっちは夢でしかないんだから。そう、夢でしか。」
「でも、私はこの世界の物を触ることもできるし、自由に動き回ることもできるわ。こんな夢がある?」
「それでも、夢なんだ。いつか目が覚めてしまう夢。」
「何時か覚めてしまうんなら、なおさら今こっちに沢山来ておくべきよ。」
妹紅は言葉に詰まってしまった。気まずい沈黙が二人を包む。
「私は、お前ともっと一緒にいたい。」
妹紅が小さな声で呟く。
「えっ?」
「けど、夢から覚めた時、夢はお前に何も残しちゃくれない。だから、夢ばっか見てちゃ駄目なんだ。現実も見ないと。そうしないとお前が目覚めてしまった時何も残らない。有るのは巨大な喪失感だけだ。私はお前にそうなって欲しくない。だから、だから。」
妹紅の目は薄ら濡れている。菫子は黙ったまま妹紅の手を強く握った。そしてそのまま、現実に戻るまでそのまま強く祈り続けた。
___どうかこの夢が永遠に続きますように、と。
春のある日の昼下がり。青空の下で二人の少女がごろんと寝転がっていた。服に焦げた跡や擦り傷が多々あるからつい先刻まで弾幕ごっこでもしていたのだろう。
「ねぇ、妹紅。」
「何だ、菫子。」
妹紅はふわぁ、と一つ欠伸をした。
「妹紅は何で不老不死になったの?」
「なぜ、そんなことを聞く。」
少し悲しげな表情をして妹紅は尋ね返す。
「知的好奇心。」
菫子は即答する。
「お前と言う奴は…」
ほんの少し静寂が場を包む。そよそよと風が吹いていて、とても心地が良い。
「不老不死になった理由なんて、とうの昔に忘れてしまったよ。」
また、妹紅はふわぁ、と欠伸をする。
「それは、言いたくないってこと?」
ざざぁ、と風が少し強く吹いた。
「お前と言う奴は、本当に。」
妹紅は苦笑しながら話す。
「本当に素直な奴だ。」
再び静寂が訪れる。気がつくと妹紅は目を閉じて眠っていた。
「結局教えてくれないの?」
菫子は寝ている妹紅をゆさゆさ揺すって尋ねる。
「気が向いたらいつか話す。気が向いたら。」
「気が向くのは何時よ。」
「さぁ?明日かもしれないし数百年後かもしれない。」
「教える気が無いってことじゃない!」
菫子は妹紅をポコポコ殴った。
「痛い、痛い。そんなに知りたいんなら、お前が私をその気にさせてみろ。」
ピタッと妹紅を殴る手が止まった。
「それって、私が、その、妹紅をく、口説き落とせばいいってこと、よね。」
照れ隠しからか、帽子をきゅっと被りながら少し震えた口調で菫子が言う。
「はっ?あー、でも、うん。まあ、そういうことかな。多分。いや、なんか違う気もする…」
「そ、そ、そういう事なら早速…善は急げって言うし…」
「それは善なのか…?」
「落ち着け…落ち着くのよ宇佐見菫子…落ち着け…」
「聞いてないし…」
困惑する妹紅を横に菫子は勝手に緊張して深呼吸を繰り返している。
「も、妹紅。わっわ、私とつっつっ、付き合って!」
「…ふふっ。」
「なんで笑うのよ!」
「そりゃあ、だって、お前、ふふっ、それで口説いたつもりなのか。」
我慢出来なくなったのか、妹紅はとうとうお腹を抱えて笑い転げ始めた。
「だってしょうがないじゃない!ネットひ載ってる口説き方なんて信用ならないし!かと言って他にどうするかなんてわからないもの!」
よっぽど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら菫子が逆上する。
「それでも、もう少しマシなものを思いつくだろう、普通。」
妹紅は相変わらず笑っている。
「馬鹿にしてー!こうなったら実力行使よ!」
そう言って菫子は超能力で鉄骨を飛ばす。
「痛っ、不意打ちはずるいだろ。」
鉄骨を手で弾きながら妹紅も弾幕を展開する。
「私の超能力の本当の力、見せてあげ…って、予鈴!?これからが本番なのにー」
菫子は外の世界で目覚めてしまったようだ。そのまま、すうっと消えていく。
「次来る時はもっとマシな口説き方を覚えて来いよ。」
幽かに、うるさーい!と返事が返ってきた。
菫子が妹紅の不老不死になった理由を知るのはまだまだ先になりそうだ。
今は昔
「妹紅ってさ、古典わかる?」
「少しなら。」
「じゃあ、ちょっと教えてくれない?古典の授業爆睡しちゃってわからないのよね。まあ、今がその古典の授業なんだけど。」
「おいおい…それで何の文章を教えて欲しいんだ?」
「えーとね、竹取物語を…」
瞬間。妹紅の手から炎が燃え始めた。
「あっ、すまん。」
「だ、大丈夫よ。」
菫子は妹紅から溢れる殺気を全身で感じ取り、恐怖で震えた。
「ちょっと出かける用事ができた。」
「い、行ってらっしゃい。」
「後、すまないが竹取物語は教えられない。」
そう言って妹紅は凄いスピードで飛んでいった。菫子はへたへたとその場に座り込んだ。
そして、妹紅の過去に一体何があったのだろう、と思うと同時に妹紅があれほどの殺気を覚えるものとは一体何なのだろうと思った。本物の殺気に当てられたからか、未だ震えが止まらなかった。何時もは授業の最後まで寝ている所だが、今日はもう起きてしまった。
筍
菫子は妹紅の家に居た。広い家ではないので二人でいると少し窮屈そうに見えるが、彼女達はあまり気していないようだった。
「妹紅、この古文わかりやすく話教えてー。」
「しょうがないな、えーと徒然草か。ちょっと待ってろよ。」
菫子は鍋に入っていた筍の煮物を勝手に食べてながら待った。
「うん。この話はな、平たく言うと、毎日大根を万能薬と信じて食べていた人が敵に襲われた時に大根に助けてもらった話だ。」
「…からかってるの?」
「いや、本当にそういう話だよ。」
「嘘でしょ…」
「お前も毎日何かを食べてみたらどうだ?本当に助けに来てくれるかもしれないぞ。」
妹紅は笑いながら言う。
「そうね…現実では無理でも幻想郷でなら行けるかもしれない…だから、これから毎日妹紅が作る筍の煮物を食べるわ。」
そう言って菫子は鍋の筍の煮物をまた食べた。
「あっ、お前。人のものを勝手に…」
「これ、結構おいしいわ。明日もよろしくねー。」
そう言うと目が覚めたのか菫子は消えていった。
「あいつ…でもまあいいか、偶には誰かのために料理を作ってやるのも…」
それから、しばらくの間菫子は妹紅の筍の煮物を食べ続けた。しかし、別に筍が菫子を助けるなんてことは起きなかった。
「やっぱり、食べ物が助けてくれるわけないわ。課題が溜まっても来てくれなかったし、弾幕ごっこしてても来てくれなかった。」
「やっぱりってお前…初めから信じてなかったのか…」
「そりゃあだって、普通に考えて毎日同族を食べてるやつを助けるわけないじゃない。」
妹紅はこの言葉を聞いて呆れた。徒然草の大根は自分達を万病の薬と信じてくれたからこそ助けに来たのだ。初めから何も信じなければ助けに来てくれるはずもない。その事を指摘しようとしたがやめた。信じて食べたからと言って筍が助けに来るとは限らないしむしろ来る確率の方が低いと思ったからだ。それに____
「…まぁ、幻想郷にいる間何かあったら私が守ってやるよ。」
「ん?妹紅何か言った?」
「いや、毎日筍の煮物食べて飽きないのかな、って。」
「飽きるって言ったら、別の物作ってくれるの?」
「いや、無理だ。お前が何か作ってくれ。」
「私はレトルト食品作るのが限界よ。」
「なんでそんな誇らしそうに言うんだ。」
「レトルト食品だって、結構美味しいのよ!」
「私の筍の煮物とどっちが美味しい?」
「うーんと…妹紅の。」
「なんでちょっと悩んだ。」
しばらくの間、二人は楽しそうに話し込んでいた。
ゆめのなか
「菫子、お前は寝ている時幻想郷に来るんだよな?」
「うん、そうだけど。」
菫子は妹紅の家でゴロゴロしていた。床は良い素材ではなく固いので感触は悪いが菫子はぐでーとそこに横たわっていた。
「最近よくこっちで見るけど現実の方は大丈夫なのか?」
「平気平気。味気ない現実より神秘に満ち溢れたこっちのがいいわ。」
「あぁ、そうかい。」
そう言って妹紅もぐでーとし始めた。しばらく二人はそのまま横になっていた。
「一つだけ言ってもいいか。」
唐突に妹紅がすくっと起き上がり言った。
「何。」
「こっちに入り浸るのもいいけど、現実を大切にしろよ。こっちは夢でしかないんだから。そう、夢でしか。」
「でも、私はこの世界の物を触ることもできるし、自由に動き回ることもできるわ。こんな夢がある?」
「それでも、夢なんだ。いつか目が覚めてしまう夢。」
「何時か覚めてしまうんなら、なおさら今こっちに沢山来ておくべきよ。」
妹紅は言葉に詰まってしまった。気まずい沈黙が二人を包む。
「私は、お前ともっと一緒にいたい。」
妹紅が小さな声で呟く。
「えっ?」
「けど、夢から覚めた時、夢はお前に何も残しちゃくれない。だから、夢ばっか見てちゃ駄目なんだ。現実も見ないと。そうしないとお前が目覚めてしまった時何も残らない。有るのは巨大な喪失感だけだ。私はお前にそうなって欲しくない。だから、だから。」
妹紅の目は薄ら濡れている。菫子は黙ったまま妹紅の手を強く握った。そしてそのまま、現実に戻るまでそのまま強く祈り続けた。
___どうかこの夢が永遠に続きますように、と。
最高でした
二人ともいちゃいちゃしやがって・・・。
・今は昔
↑の話と合わさって「妹紅と輝夜の関係を菫子が知る」って話も面白そうだと思いました。
・筍
なんやかんやで菫子に気を掛けているもこたんかわいい。
・ゆめのなか
もこすみ切ない・・・。
もこすみ流行れ
詰め合わせと言わず全部繋げてこねくり回せば美味しいかぐもこすみ作品になるだろうに、って思えてしまったのが勿体無い。
上の人が書いてたけどもこすみの絆を深める過程で竹取物語を通して千年前の真実を菫子が知り、かぐもこの関係にもやる、とかそんな長編が読みたいと思いました。
足りない点数はそんな気持ちの惜しさの分です。
当時を知る妹紅から直接古典を教わるなんて凄い贅沢だと思います