私は、ある夢を見るようになった。
この表現は厳密ではない。
元から見ていたのだ。
ただ、印象が薄かっただけ。
ただ、覚えていなかっただけ。
でも最近は違う。
何度も同じ夢を見る。
私はいつも森の中で目を覚ます。
特に不自然なところは感じられない。
身に付けている衣装も眠ったときと同じだった。
地面には広葉樹の枯葉が積み重なり、やわらかかったが、一種の腐敗臭がした。
私は起き上がり森の中を進む。
私の親友なら進んでいる方角が分かるだろうが、私には到底分からなかった。
しかし、進むべき方向は分かっている。
私は直径が1mを超えるであろう大木が不規則に並ぶ森の中を、まるで一本の道が通っているかの如くまっすぐに進んだ。
なぜ進むのか、そんなことは自分でも分からなかった。
まるでそれが義務であるかのように私は進んだ。
裸足だったが広葉樹の葉のおかげで痛くはなかった。
私は森の中を進むと一本の道に出た。
現在の道とはだいぶ違う。
車道と歩道の区別はなく、舗装されてはいなかった。
道は土を踏み固めたような道で表面は固く冷たかった。
地面には小さな凹凸があり、裸足で歩くには少し痛かった。
道は私の左右に地平線の先まで続いていた。
私は道を右に進んだ。
左は過去、右は未来を表している気がした。
私が行くべきは過去ではなく未来だ。
地平線まで続く道をひたすらに歩いていくと森が開け草原に出る。
周囲の状況が変わっても何ら問題はない。
私は道を行けばよいのだから。
私はさらに進んでいく。
草原を歩いていくと少しずつだが登っていることに気づく。
ふと振り返ると草原は丘になっており、遠くに森が見下ろせた。
私は前に進んだ。
一歩でも前に進むことが必要なのだ。
丘を登りきると、遠くに一軒の平屋が見えた。
屋根は黒く、壁は白かった。
美しくはない。
素朴で質素な建物だった。
私はこの夢を見るまで、あのような建物は見たことがなかった。
ただ、あの家を見たときとても懐かしく感じた。
私はその建物に近寄ってもっと詳しくその建物を見たかった。
私の目的はこの家に行くことなのだと理解した。
私は忘れていた目的を思い出し、決意を新たに歩き出した。
私は前に進んだ。
しかし、建物は一向に大きくならない。
まるで蜃気楼のような家。
たどり着くのが、可能か不可能かなんてどうでもよかった。
私はただ前に進めば良いのであった。
右足を前に出して、次に左足を前に出す。
その繰り返し。
冷たい道をひたすらに踏みしめて前に進む。
長く歩いていると足の裏の皮がむけ、血がにじんだ。
血がなんだというのだ。
私は前に進まなければならないのだ。
例え、足が折れたとしても、這ってでも進まなければならない。
そう、これは私にとっての義務なのだ。
私はそう思った。
私は休まずに前に進んだ。
立ち止まってはいけない気がした。
全身の筋肉が…神経が…そして魂が・・・私に一歩でも前に進めと命令する。
私は苦しいが一歩一歩前に進んだ。
進み続けるとどんどん、足の感覚はなくなっていく。
普段運動しないことが祟ったのか脹脛も痙攣してくる。
私は前に進んだ。
私は足を引きずりながらも一歩ずつ前に進んだ。
そして限界がやってくる。
もう、足が上がらなかった。
私は前に進みたいが、足が言う事を聞かない。
あの家まではまだかなりの距離があった。
およそ500mかそこらの距離が、地球と太陽の間の距離と等しい絶望的な距離となった。
私は前のめりに倒れるように膝をついた。
足を止めてしまった。
周囲の大地が崩壊する。
私はなすすべもなく、崩壊した大地と一緒に落下し暗闇に吸い込まれた。
私はこうして毎朝目を覚ます。
眠っていたはずなのにひどく疲れている。
体は何のダメージも受けていない。
足の裏の皮が擦り切れていることもないし、筋肉痛もない。
私はあの家の印象が強く、脳裏にしみついて離れなかった。
あの家は何なのか、それは覚醒した頭で考えても分からなかった。
アルバムをひっくり返したことがあったが、あの建物が写っているものはなかった。
次第に、私はあの家のことしか考えられなくなった。
あれは何か、私とどう関係があるのか、そしてあれはどこにあるのか。
行って確かめなければならない。
調べたいのは山々だったが、私は学生という身分なので、仕方なく大学に行く支度をする。
大学に行ってはみるが、私はこの夢を見始めてから授業に集中できなくなった。
疲れているため、講義中に眠ってしまうのだ。
講義中に眠ったとしても私は必ず森にいる。
森の中を歩いていると空から友人の声がして、世界が揺れて、そして世界が崩壊し暗闇に落ちていく。
そんな繰り返しで、まともに講義の内容が分かるはずかなかった。
私が夢に囚われ初めて1か月程度経過したとき、親友が私の異変に気が付いた。
私は彼女に夢のことを話した。
彼女はなぜもっと早く話さなかったのかと怒った。
早速、私達は図書館で建築物の3D資料を再生し、私が見た家を探した。
私は遠くから家を見ただけだったので、特定の建物と断定することはできなかった。
多くの資料を見ていくと、江戸時代後期の平民の家と外観がよく似ていることが分かった。
インターネットで情報をあさってみたりもしたが、こんな建築物が3D映像以外で残っているはずがなかった。
私たちは悩んだ。
とりあえず、あの夢に親友を連れて入ってみることにした。
彼女の分の枕を用意して、狭いが私のシングルベッドに二人並んで眠った。
私は森にいた。
親友はいなかった。
しかし、そんなことは気が付かなかったし、気にもしなかった。
私はあの丘の上の家を目指して進んだ。
丘の上にたどり着き、蜃気楼のような家を追う。
そして最後には、崩壊した世界を落下していくのだった。
私が起きると親友はまだ眠っていた。
彼女はうなされていた。
私は彼女を悪夢から解放するために揺り動かした。
しかし、彼女はなかなか起きなかった。
私は段々面倒になってきて、コップに水を汲んできて、顔に水をかけてやった。
その結果、彼女はやっと眼をさました。
彼女は不機嫌であったが、私に礼を言った。
森の中をずっとさまよっていたらしい。
この反省を生かし、私は彼女に進むべき方向を教えた。
いつも、森の中で日の射す方向が同じであることに気が付いていたからである。
しかし、彼女はどう進んでも森の中の道に出ることはできなかった。
何回か同様な試験を行ったが、成果は上がらなかった。
進むには何か条件があるのだろうか。
すると、私の場合もあの蜃気楼の家に追いつくためには何かが必要ということになる。
それが一体何なのか、それは見当もつかなかった。
さらに1か月ほどが経過した。
事態はさらに悪化していた。
ある日、眼が覚めると足の裏が汚れていたのだ。
私はスニーカーを履いて眠ることにした。
靴を履けば、足は汚れないし、夢の中でも靴を履けるかもしれない。
この試みは成功し、夢の中でも靴を履いて歩くことができるようになった。
これによって長い距離を歩いても、足が擦り切れるようなことはなくなった。
しかし、それは根本的な解決にはならなかった。
どんなに追いかけても蜃気楼には追いつけないからだ。
私は疲労で、もはや大学に行く気力をなくしていた。
どうせ、行っても寝てしまうのだから、どっちにしたって同じことだった。
親友は毎日私を訪ねて来て、大学の様子を話してくれた。
次に事態が進展したのは、親友が勝手に持ち込んだ酒で、勝手に酔いつぶれて眠ってしまった時のことだ。
私は布団を用意して、彼女を寝かした。
そして、私も眠りについた。
昼間も眠っているはずであったが、眠くない時はなかった。
今日も例外ではなく、蜃気楼の家を追いかけた。
私が目を覚ますと、親友はすでに起きていた。
親友は言った。
「どこに行っていたの」
私は靴を履いて眠るに至った経緯を話した。
しかし、親友は首を振った。
彼女が夜中目を覚ました際、私はベッドにいなかったそうだ。
そして、彼女は眠らずに待っていると、私は目のうつろな状態で部屋に戻り、靴も脱がずにベッドに入ったというのだ。
私は夢遊病の患者のように外を出歩いていたらしい。
親友にお願いし、眠っている私を追跡してもらうことにした。
次の夜、早速親友に寝ずの番をしてもらった。
彼女が言うには、私は2時ごろに突然起き上がり、ある神社に歩いて行ったそうだ。
私はすぐにそこに案内してもらった。
彼女が連れて行ったのは、歩いて20分程度の距離にある土地神様を祭る小さな神社だった。
そこは小さな鳥居と祠があるだけの神社だった。
私はこの神社があることさえ知らなかった。
ただ、その祠には漠然ながら見覚えがあった。
私は祠を開けようとした。
しかし、祠は南京錠で施錠されていたため開かなかった。
親友は私の奇行を止めようとしたが、私が必死に必要性を説明すると、彼女はヘアピンで南京錠を開けてくれた。
無理に開けようとして、壊されては敵わないとのことだった。
私は祠の中に奉納されていた桐の箱を手に取った。
それを開けると西洋風の鍵が入っていた。
金や銀などではなく、錆方から言って普通の鋳鉄だった。
なんでこんなものが祭られているのかは分からなかった。
私はポケットにそれを入れて箱を元に戻して施錠した。
親友には今度返しに来ることを約束した。
その晩、私はパジャマに着替えずに、一番のお気に入りの服を着て眠った。
鍵は無くさないように紐を通して首から下げた。
私は森の中で目が覚めると、森を抜け、丘を駆け上がった。
そして、家に向かって進んだ。
今回は鍵の効果か、少しずつではあるが家に近づくことができた。
私は一歩ずつ前に進んだ。
私が進んでいくと、道の途中にベンチがあり、一人の女性が座っていることに気が付いた。
「どちらに行かれるのかしら」
女性は言った。
私は答えなかった。
「今ならまだ引き返せるわ。大切なお友達を置いて、日常を捨てて、そこまでして、ここは来る価値のあるところなのかしら」
女性は私の反応を見るために一息入れた。
「だんまりもいいけど。どうするの?あなたは今、分岐点に立っているのよ。」
まぁ、ここは一本道だけどねと付け加えて、女性は微笑んだ。
「さぁ、どうするの?」
私は彼女を無視して進んだ。
「もし、夢を見ることを恐れているのであれば心配ないわ。あなたがあそこを目指そうとしない限り、もう、この夢を見ることはない。あなたがあきらめるだけで、あなたは日常に戻れるのよ」
私は構わず進んだ。
前に進む以外、私がすべきことはなかった。
後ろで女性がため息をついた。
後ろを振り向くとベンチには誰も座っていなかった。
私は前に進んだ。
もう、何も障害はなかった。
そして、毎晩夢に見たあの家に私はたどり着いたのだった。
この表現は厳密ではない。
元から見ていたのだ。
ただ、印象が薄かっただけ。
ただ、覚えていなかっただけ。
でも最近は違う。
何度も同じ夢を見る。
私はいつも森の中で目を覚ます。
特に不自然なところは感じられない。
身に付けている衣装も眠ったときと同じだった。
地面には広葉樹の枯葉が積み重なり、やわらかかったが、一種の腐敗臭がした。
私は起き上がり森の中を進む。
私の親友なら進んでいる方角が分かるだろうが、私には到底分からなかった。
しかし、進むべき方向は分かっている。
私は直径が1mを超えるであろう大木が不規則に並ぶ森の中を、まるで一本の道が通っているかの如くまっすぐに進んだ。
なぜ進むのか、そんなことは自分でも分からなかった。
まるでそれが義務であるかのように私は進んだ。
裸足だったが広葉樹の葉のおかげで痛くはなかった。
私は森の中を進むと一本の道に出た。
現在の道とはだいぶ違う。
車道と歩道の区別はなく、舗装されてはいなかった。
道は土を踏み固めたような道で表面は固く冷たかった。
地面には小さな凹凸があり、裸足で歩くには少し痛かった。
道は私の左右に地平線の先まで続いていた。
私は道を右に進んだ。
左は過去、右は未来を表している気がした。
私が行くべきは過去ではなく未来だ。
地平線まで続く道をひたすらに歩いていくと森が開け草原に出る。
周囲の状況が変わっても何ら問題はない。
私は道を行けばよいのだから。
私はさらに進んでいく。
草原を歩いていくと少しずつだが登っていることに気づく。
ふと振り返ると草原は丘になっており、遠くに森が見下ろせた。
私は前に進んだ。
一歩でも前に進むことが必要なのだ。
丘を登りきると、遠くに一軒の平屋が見えた。
屋根は黒く、壁は白かった。
美しくはない。
素朴で質素な建物だった。
私はこの夢を見るまで、あのような建物は見たことがなかった。
ただ、あの家を見たときとても懐かしく感じた。
私はその建物に近寄ってもっと詳しくその建物を見たかった。
私の目的はこの家に行くことなのだと理解した。
私は忘れていた目的を思い出し、決意を新たに歩き出した。
私は前に進んだ。
しかし、建物は一向に大きくならない。
まるで蜃気楼のような家。
たどり着くのが、可能か不可能かなんてどうでもよかった。
私はただ前に進めば良いのであった。
右足を前に出して、次に左足を前に出す。
その繰り返し。
冷たい道をひたすらに踏みしめて前に進む。
長く歩いていると足の裏の皮がむけ、血がにじんだ。
血がなんだというのだ。
私は前に進まなければならないのだ。
例え、足が折れたとしても、這ってでも進まなければならない。
そう、これは私にとっての義務なのだ。
私はそう思った。
私は休まずに前に進んだ。
立ち止まってはいけない気がした。
全身の筋肉が…神経が…そして魂が・・・私に一歩でも前に進めと命令する。
私は苦しいが一歩一歩前に進んだ。
進み続けるとどんどん、足の感覚はなくなっていく。
普段運動しないことが祟ったのか脹脛も痙攣してくる。
私は前に進んだ。
私は足を引きずりながらも一歩ずつ前に進んだ。
そして限界がやってくる。
もう、足が上がらなかった。
私は前に進みたいが、足が言う事を聞かない。
あの家まではまだかなりの距離があった。
およそ500mかそこらの距離が、地球と太陽の間の距離と等しい絶望的な距離となった。
私は前のめりに倒れるように膝をついた。
足を止めてしまった。
周囲の大地が崩壊する。
私はなすすべもなく、崩壊した大地と一緒に落下し暗闇に吸い込まれた。
私はこうして毎朝目を覚ます。
眠っていたはずなのにひどく疲れている。
体は何のダメージも受けていない。
足の裏の皮が擦り切れていることもないし、筋肉痛もない。
私はあの家の印象が強く、脳裏にしみついて離れなかった。
あの家は何なのか、それは覚醒した頭で考えても分からなかった。
アルバムをひっくり返したことがあったが、あの建物が写っているものはなかった。
次第に、私はあの家のことしか考えられなくなった。
あれは何か、私とどう関係があるのか、そしてあれはどこにあるのか。
行って確かめなければならない。
調べたいのは山々だったが、私は学生という身分なので、仕方なく大学に行く支度をする。
大学に行ってはみるが、私はこの夢を見始めてから授業に集中できなくなった。
疲れているため、講義中に眠ってしまうのだ。
講義中に眠ったとしても私は必ず森にいる。
森の中を歩いていると空から友人の声がして、世界が揺れて、そして世界が崩壊し暗闇に落ちていく。
そんな繰り返しで、まともに講義の内容が分かるはずかなかった。
私が夢に囚われ初めて1か月程度経過したとき、親友が私の異変に気が付いた。
私は彼女に夢のことを話した。
彼女はなぜもっと早く話さなかったのかと怒った。
早速、私達は図書館で建築物の3D資料を再生し、私が見た家を探した。
私は遠くから家を見ただけだったので、特定の建物と断定することはできなかった。
多くの資料を見ていくと、江戸時代後期の平民の家と外観がよく似ていることが分かった。
インターネットで情報をあさってみたりもしたが、こんな建築物が3D映像以外で残っているはずがなかった。
私たちは悩んだ。
とりあえず、あの夢に親友を連れて入ってみることにした。
彼女の分の枕を用意して、狭いが私のシングルベッドに二人並んで眠った。
私は森にいた。
親友はいなかった。
しかし、そんなことは気が付かなかったし、気にもしなかった。
私はあの丘の上の家を目指して進んだ。
丘の上にたどり着き、蜃気楼のような家を追う。
そして最後には、崩壊した世界を落下していくのだった。
私が起きると親友はまだ眠っていた。
彼女はうなされていた。
私は彼女を悪夢から解放するために揺り動かした。
しかし、彼女はなかなか起きなかった。
私は段々面倒になってきて、コップに水を汲んできて、顔に水をかけてやった。
その結果、彼女はやっと眼をさました。
彼女は不機嫌であったが、私に礼を言った。
森の中をずっとさまよっていたらしい。
この反省を生かし、私は彼女に進むべき方向を教えた。
いつも、森の中で日の射す方向が同じであることに気が付いていたからである。
しかし、彼女はどう進んでも森の中の道に出ることはできなかった。
何回か同様な試験を行ったが、成果は上がらなかった。
進むには何か条件があるのだろうか。
すると、私の場合もあの蜃気楼の家に追いつくためには何かが必要ということになる。
それが一体何なのか、それは見当もつかなかった。
さらに1か月ほどが経過した。
事態はさらに悪化していた。
ある日、眼が覚めると足の裏が汚れていたのだ。
私はスニーカーを履いて眠ることにした。
靴を履けば、足は汚れないし、夢の中でも靴を履けるかもしれない。
この試みは成功し、夢の中でも靴を履いて歩くことができるようになった。
これによって長い距離を歩いても、足が擦り切れるようなことはなくなった。
しかし、それは根本的な解決にはならなかった。
どんなに追いかけても蜃気楼には追いつけないからだ。
私は疲労で、もはや大学に行く気力をなくしていた。
どうせ、行っても寝てしまうのだから、どっちにしたって同じことだった。
親友は毎日私を訪ねて来て、大学の様子を話してくれた。
次に事態が進展したのは、親友が勝手に持ち込んだ酒で、勝手に酔いつぶれて眠ってしまった時のことだ。
私は布団を用意して、彼女を寝かした。
そして、私も眠りについた。
昼間も眠っているはずであったが、眠くない時はなかった。
今日も例外ではなく、蜃気楼の家を追いかけた。
私が目を覚ますと、親友はすでに起きていた。
親友は言った。
「どこに行っていたの」
私は靴を履いて眠るに至った経緯を話した。
しかし、親友は首を振った。
彼女が夜中目を覚ました際、私はベッドにいなかったそうだ。
そして、彼女は眠らずに待っていると、私は目のうつろな状態で部屋に戻り、靴も脱がずにベッドに入ったというのだ。
私は夢遊病の患者のように外を出歩いていたらしい。
親友にお願いし、眠っている私を追跡してもらうことにした。
次の夜、早速親友に寝ずの番をしてもらった。
彼女が言うには、私は2時ごろに突然起き上がり、ある神社に歩いて行ったそうだ。
私はすぐにそこに案内してもらった。
彼女が連れて行ったのは、歩いて20分程度の距離にある土地神様を祭る小さな神社だった。
そこは小さな鳥居と祠があるだけの神社だった。
私はこの神社があることさえ知らなかった。
ただ、その祠には漠然ながら見覚えがあった。
私は祠を開けようとした。
しかし、祠は南京錠で施錠されていたため開かなかった。
親友は私の奇行を止めようとしたが、私が必死に必要性を説明すると、彼女はヘアピンで南京錠を開けてくれた。
無理に開けようとして、壊されては敵わないとのことだった。
私は祠の中に奉納されていた桐の箱を手に取った。
それを開けると西洋風の鍵が入っていた。
金や銀などではなく、錆方から言って普通の鋳鉄だった。
なんでこんなものが祭られているのかは分からなかった。
私はポケットにそれを入れて箱を元に戻して施錠した。
親友には今度返しに来ることを約束した。
その晩、私はパジャマに着替えずに、一番のお気に入りの服を着て眠った。
鍵は無くさないように紐を通して首から下げた。
私は森の中で目が覚めると、森を抜け、丘を駆け上がった。
そして、家に向かって進んだ。
今回は鍵の効果か、少しずつではあるが家に近づくことができた。
私は一歩ずつ前に進んだ。
私が進んでいくと、道の途中にベンチがあり、一人の女性が座っていることに気が付いた。
「どちらに行かれるのかしら」
女性は言った。
私は答えなかった。
「今ならまだ引き返せるわ。大切なお友達を置いて、日常を捨てて、そこまでして、ここは来る価値のあるところなのかしら」
女性は私の反応を見るために一息入れた。
「だんまりもいいけど。どうするの?あなたは今、分岐点に立っているのよ。」
まぁ、ここは一本道だけどねと付け加えて、女性は微笑んだ。
「さぁ、どうするの?」
私は彼女を無視して進んだ。
「もし、夢を見ることを恐れているのであれば心配ないわ。あなたがあそこを目指そうとしない限り、もう、この夢を見ることはない。あなたがあきらめるだけで、あなたは日常に戻れるのよ」
私は構わず進んだ。
前に進む以外、私がすべきことはなかった。
後ろで女性がため息をついた。
後ろを振り向くとベンチには誰も座っていなかった。
私は前に進んだ。
もう、何も障害はなかった。
そして、毎晩夢に見たあの家に私はたどり着いたのだった。
夢に引き込まれる感じがとても良かったですね
文章もそういう風に工夫されているようでぐっどでした
秘封倶楽部は兎に角夢に喰われかける何かって感じですね