紅魔館の調理場で、1人朝食の仕込みをするメイドの姿があった。
彼女の名は咲夜。
この紅魔館でメイド長、つまりメイド達のリーダーを任されている。
リーダーだけあって、その仕事内容はとてもハードであった。
紅魔館のどのメイドよりも早く起き、どのメイドよりも遅く寝る。
それが毎日のように続く生活であった。
咲夜の仕込みが終わる頃、朝食担当のメイド達が起きてくる。
ここからは彼女達との共同作業で調理を行っていく。
しかし、咲夜の仕事が楽になる訳ではない。
1人1人のメイドの作業に気を配らなけらばならないからだ。
紅魔館の主レミリアは料理の味にうるさく、少しの調理ミスで機嫌を悪くする。
それが咲夜のミスで無かったとしても、責任を取らされるのはリーダーの咲夜だ。
だからこそ、メイド達の動きにミスは無いか、神経を削って監視しなければならない。
ようやく料理が完成した。
まだ早朝、今日1日はこれからだという時であるにも関わらず、咲夜はヘトヘトであった。
レミリアが食卓に入って来て、席に着く。
それと同時に料理が運ばれる。
「どうぞ」
レミリアがゆっくりと、料理を口に運んだ。
「うん、美味しいわ」
その言葉を聞いて、ようやく咲夜は気を緩めることができた。
それも、ほんの一瞬だけではあるが...
メイド達も一安心したようだ。
しかし、この一瞬の気の緩みが大きな失敗を招いた。
レミリアが食事を終えてすぐ、咲夜は呼び出された。
「さっき私の食事中に2人、無駄話をしてるメイドが居たわ。どういう事?」
レミリアは怒りに満ちた目で咲夜を睨みつける。
「申し訳ございません。彼女達にはちゃんと言い聞かせて、今後無いようにいたしますので」
レミリアは机のモーニングコーヒーを咲夜に投げつけた。それもカップごと…
カップは強い勢いで咲夜の肩にぶつかり、まだ淹れたての熱いコーヒーが撒き散らされた。
痛みと熱さで咲夜はその場にうずくまる。
さらにレミリアが怒声を浴びせた。
「何座ってんの!誰が座っていいと言った!?」
咲夜は腕を抑え震えながら立ち上がる。
「部下の管理が出来てないのは貴方の責任よ!ちゃんと厳しく言い聞かせて来なさい!」
「...はい」
レミリアの部屋を出た咲夜は、濡れたメイド服を着替えると、すぐに問題のメイドに説教した。
日頃のストレスも多いうえに、レミリアにあれだけされた事もあり、つい大声で怒鳴ってしまった。
怒られたメイドも、口では謝るも表情は不機嫌そうだ。
それを見て咲夜の怒りはさらに上がってしまう。
しかし、ここは言い過ぎないように抑えようと、彼女は自分の心と必死に戦った。
そこに、先程の怒鳴り声を聞いたからなのかレミリアが現れた。
「あら、ずいぶん厳しく叱られてるみたいね」
そう言って問題のメイド達に近寄ると、二人の頭を撫でた。
「確かに無駄話は良くない事だけど、失敗も勉強の内よ。そうやって人は成長するんだから」
レミリアはニコリと笑って言った。
「今回の事は水に流すわ。これからも頑張りなさい」
その後咲夜の肩をポンポンと2回叩くと、レミリアは自室の方へ去って行った。
「と、とにかく以後気をつけなさい」
咲夜もそう言って自分の仕事に戻る事にした。
咲夜が去って行く途中、少し遠くからあの2人の声が聞こえた。
「レミリアお嬢様はやっぱり優しいお方だわ」
「うんうん、さっき私感激しちゃった」
「それに比べメイド長は...なんであんな厳しいのかしら」
「そうよ!無駄話ぐらいであんなキレる事ないのにさ!」
いつもそうだった。
怒ったり叱ったり、イメージの悪くなる仕事は全て咲夜にやらせ、自分は良い上司のようの振る舞う。
おかげで今や咲夜の信頼度もガタ落ちだった。
咲夜は主人でありながらもレミリアに怒りを覚えた。
こんな過酷な日々を送る咲夜にも、ようやく休日がやって来た。
1週間で唯一、日頃のストレスを発散できる日だ。
今日は美鈴も休みを取っていて、一緒に外に遊びに行く予定だった。
美鈴は咲夜にとって、他のメイド達とは違い心を許せる相手だった。
嫌な主人、自分を嫌う部下達ばかりの紅魔館で、咲夜の唯一の親友だった。
今日はいつものメイド服も着る必要はない。
咲夜がどんな服で遊びに行こうか悩んでいると、突然レミリアから呼び出しをくらった。
咲夜は急いでメイド服に着替え、レミリアの部屋を訪れた。
「悪いわね咲夜。今日ちょっと外に遊びに行きたいからお供してくれる?」
「え?でも、今日は休みのはずじゃ...」
「うん、だから悪いわねって言ってんでしょ、休みなら来週もあるし、今週くらいいいでしょ?」
「いや...実は美鈴と出かける用事を入れてしまっていて...」
「え?じゃあ断ればいいじゃない」
「......」
「主人の私が言ってるんだもの、簡単でしょ?」
「すいません、今日だけは勘弁していただけませんか?最近私も疲れが溜まっていまして、休みを取らない事にはどうも...」
最後まで言い終わらないうちにレミリアの拳が咲夜のこめかみに打ち込まれた。
その勢いで、咲夜は床に倒れた。
「私の命令が聞けないわけ?」
レミリアは咲夜の首を掴んで、グーにした拳を咲夜に見せつけた。
「ほら、聞く?聞けない?返答次第じゃもう1発いくわよ」
咲夜は下唇を噛んだまま黙っている。
「あー...あと5秒以内に答えないと殴るわよ?ごぉーお、よぉーん、さぁーん...」
「分かりました!」
「何が?」
「今日は...休みません...」
そう言った瞬間、レミリアは再び咲夜を殴りつけた。
「最初からそう言えっ!」
そう怒鳴ると、レミリアは自分の椅子に座った。
咲夜は床に倒れたまま、しばらく呻いていた。
「ごめんなさい、お嬢様に言われて...今日の予定はキャンセルでもいい?」
咲夜が美鈴にそう言うと、美鈴は一瞬かなしそうな顔をしたが、すぐ笑顔で答えた。
「もちろんいいですよ!休みは来週もありますからね!」
「ごめんなさい...」
そう言うと、咲夜はレミリアも元へ戻って行った。
そしてその次の週。
咲夜と美鈴が今度こそ遊びに行くはずだったその日に...
咲夜は倒れた。
すぐに医者の元に運ばれたが、いつ意識が戻るかわからない程の重体であった。
この事態に最もショックを受けたのは美鈴だった。
空いた時間を利用し、毎日のように見舞いに行った。
しかし、咲夜は何日経っても目を開かなかった。
「おそらく過労が原因でしょう」
医者のその言葉を聞き、美鈴は自分を呪った。
どうしてこんなになるまで気付いてあげられなかったのか、助けてあげられなかったのか、と自分を責め続けた。
そして、ついに美鈴は確信する。
自分には、やらなければならない使命があると。
医者からの説明で、美鈴は咲夜の右肩に火傷の跡と、左のこめかみに殴られたようなアザがある事を知る。
その事から美鈴は、咲夜が倒れた原因はレミリアにあるのではと仮説を立てた。
美鈴にとって、主人に対して疑いの目を向ける事は抵抗があったが、それでも咲夜のために心を鬼にして調査しようと決断した。
それから、紅魔館で美鈴はメイド達に聞き取り調査を始めた。
普段門番として外に立つ美鈴は、咲夜が館内でどのような仕事をしているのか詳しく知らなかった。
できる限り真実に近づくため、咲夜のすぐ側で働いていたメイド達を徹底的に嗅ぎまわった。
しかし、メイド達から咲夜が体罰を受けた様子を目撃したという情報は得られなかった。
それだけでなく、メイド達は口を揃えてレミリアはとても優しく、ミスをしてもすぐ許して貰えたと言っている。
実際に咲夜はあれだけボロボロになっているのに、いくら調べても手がかりが掴めない事に美鈴は困惑した。
しかし、美鈴は諦めなかった。
今度は直接レミリアに探りを入れようと、主人の部屋に訪問する。
美鈴はレミリアを疑っている事を悟られないように注意しながら、咲夜の火傷やアザに心当たりは無いか質問する。
「そういえば、前に私の部屋に紅茶を持ってきてくれた時、咲夜が足を滑らせて転んじゃった事があったわ。もしかしたら、その時紅茶がかかって火傷したのかも...転んだ時に頭を抑えたから頭も打った可能性があるわ」
そう答えたレミリアに、美鈴はさらに質問する。
「それはいつの話ですか?」
「咲夜が倒れる前日の話だわ。本当...残念だわ。もしかしたらあの時の打ち所が悪かったのが原因かも...」
そう言ってレミリアは悲しげな表情をする。
しかし、美鈴のレミリアへの疑心はさらに強まった。
医者の話では、倒れた当日に確認した火傷は少なくとも負ってから数日経っているものとの事だったからだ。
もし、火傷した次の日に医者に運ばれたならば、医者はもっと酷い火傷跡を確認していたはずである。
「分かりました。失礼します」
美鈴は今日はとりあえず退く事にした。火傷の事だけでレミリアを問い詰めるには証拠不充分と思ったからだ。
実は美鈴はすでに次の手を考えていた。
しかし、それを実行するには美鈴一人では難かしい。
美鈴には誰か協力者が必要だった。
「あ、美鈴さんどうしたんですか?怖い顔して」
そう声をかけてきたのは小悪魔だった。
美鈴は、そういえば小悪魔にはまだ聞き取りをしていなかったと気付き、咲夜について幾つか質問する事にした。
「咲夜さんですか?私はいつも図書館いますから、キッチンを借りる時くらいしか会う事は無いんですが」
やはりか。と思い美鈴はガックリと肩を落とした。
「美鈴さんも、やっぱり咲夜さんの事が気になるんですね?」
小悪魔は落ち込む美鈴の顔を心配そうに覗き込んだ。
「あの、もし私に手伝える事があったら言ってください!私も、咲夜さんの事は尊敬していたんです!」
その言葉を聞いて美鈴は顔を上げる。
そして、真剣な顔で小悪魔を見つめて言った。
「実は協力者を探していたんです。でも、とても危険な事をしなければなりません。場合によっては、命を落とすかも...」
小悪魔もこれは只事では無いと思い、険しい表情になった。
「まずは美鈴さんの考えてを聞かせてください。返答は、パチュリー様に相談した後でもいいですか?」
その晩、小悪魔はパチュリーに相談を持ちかけた。
「パチュリー様、誠に勝手ながら私のお願いを聞いて頂けませんか?しばらくの間、お休みを頂きたいのです。実は...」
「わかったわ小悪魔、好きにしなさい」
「えっ!?」
パチュリーの意外な反応に、小悪魔は目を丸くする。
「あなたがそんな真剣な顔で私に頼み事するなんて初めてね...」
そう言うと、パチュリーは少し嬉しそうにクスッと笑った。
「あっ!ありがとうございます!」
小悪魔は深々と頭を下げたまま、しばらく上げる事が出来なかった。
それから2日、未だに咲夜は目を覚まさない。
メイド達の中でも特に重要な役割を担っていた人物が居なくなっただけに、紅魔館は大忙しだった。
レミリアもストレスで不機嫌な状態が続き、我慢の限界が来ていた。
「咲夜の後任者を決めましょう」
館中のメイドを集めてレミリアはそう言った。
「咲夜の代わりにメイド長にふさわしいのは誰かしら?」
全員に向かってそう問いかけるが、返答は帰ってこない。
当然だった。咲夜程の人物は今この館のメイド内には居ないのだから。
「思い当たる人が居ないなら私が勝手に選ぶわよ」
それを聞いてメイド達の顔が青くなる。
咲夜のような仕事を自分達がこなせるわけがないと、その場の全員が焦り始める。
その時、1人のメイドが手を挙げた。
「私にやらせてください」
そう言ってメイドはレミリアの前に進み出る。
「大した自身ね。いいわ、気に入った」
そして、レミリアの方からメイドに歩み寄る。
「あなた名前は?」
「美咲です」
「そう、よろしく頼むわ。美咲」
そう満足そうに言いながらレミリアはその部屋を後にした。
レミリアが去った瞬間、他のメイド達は全員力が抜けたように座り込んだ。
それぞれ、自分がメイド長にならなくて安堵したようである。
その翌日から咲夜の代わりに美咲がメイド長として働き始めた。
しかし、昨日自信満々の態度を見せたにも関わらず、その実力は咲夜どころか普通のメイド以下であった。
そしてその仕事の酷さは、日に日に悪くなっていった。
そしてある日の朝の事である。
レミリアは運ばれた朝食を口にすると、予想外の味に思わずそれを吐き出した。
ひどく不味かったのだ。
美咲を睨みつけるとそこにはさらに酷い光景があった。
美咲が他のメイドと無駄話をしているのだ。
しかも、美咲の方から積極的に話しかけている。
レミリアは耐えられなくなりついに自室へ美咲を呼び出した。
しかし、呼び出したにも関わらずなかなか美咲は来ない。
もういっそ自分から出向いてやろうかとレミリアが思った時、ようやく美咲が部屋に入って来た。
その姿を見るなりレミリアは怒鳴りつけた。
「いったい何を考えているの!?」
「申し訳ございません」
美咲は素直に謝ったものの、レミリアの怒りは収まらない。
レミリアはコーヒーを手に取りかつて咲夜にしたように美咲に投げつけた。
熱さで美咲は床に崩れ落ち、もがき苦しんだ。
「誰が寝ていいと言った!」
そう言ってレミリアは美咲を何度も蹴りつけた。
「ま、まってください!許してください!このままでは動けなくなってしまいます!」
美咲はレミリアの脚にすがりついて泣きながら懇願した。
しかしレミリアは足元の美咲の頭を踏みつける。
「メイド長はこれぐらい厳しくしないと駄目なのよ!咲夜もそうやってきたんだ!」
レミリアは目を充血させて足の下で苦しむ美咲を睨みつけた。
「さ、咲夜さんも、こんな酷いことされたんですね...?」
「酷い?こんなのはまだ優しい方よ!まだまだ足りないわ!」
そう言ってレミリアは何度も美咲を蹴り続けた。
とうとう美咲は口から血を吐いた。
「なに床を汚してんの!?」
そう叫んでレミリアが再び蹴りを入れようとした時、フフっと美咲が笑った。
「なによ!?」
レミリアは驚いて動きを止めた。
美咲は笑みを浮かべたままゆっくり立ち上がる。
そして、自分の髪の毛を引っ張った。
その髪の毛はズルズルと美咲の頭から離れ、床に落ちた。
「カツラ!?はっ…その羽は!」
レミリアは美咲の頭に、コウモリの羽のようなものが生えている事に気がついた。
「お前、小悪魔か!?」
「やっと本性を現しましたね?お嬢様。確かに聞きましたよ?咲夜さんを虐待したと...」
レミリアは少しづつ状況理解し始めた。
「お前、私からそれを聞き出すために!?」
小悪魔はしたり顏で口元の血を拭った。
「まあいい、館の主の私を欺いた罪は重い。小悪魔、あなたはここで死んでもらうわ」
レミリアの瞳に殺意の色が浮かび上がる。
その時、部屋の扉が蹴破られた。
「その悪事、許す訳にはいかぬな」
「勝手に私に部屋に入り込むとは、貴様!何奴!?」
「うつけもの、余の顔を見忘れたか?」
「...!美鈴!」
「全て聞かせてもらったぞ。レミリア、紅魔館の主の地位を利用し、部下をさんざんこき使ったあげく、心身共に追い込み病院送りにするとは断じて許し難い。この場にて腹を切れ」
「黙れ黙れ!腹を切るのは貴様の方だ!であえ!であえー!」
すると、レミリアの声を聞き妖精達が大勢集まって来た。
「この者共をここから生かして帰すな!」
美鈴に向かって妖精達が襲いかかる。
しかし、美鈴は中国拳法のような華麗な動きで次々と敵を倒していく。
そして、あっという間に最後の妖精が倒されてしまった。
「おのれえええええ!」
半狂乱でレミリアは美鈴に突進する。
「成敗っ!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
こうして悪徳吸血鬼は成敗され、紅魔館には再び平和が訪れた。
しかし有能門番に休みは無い。
がんばれ美鈴!負けるな美鈴!
彼女の名は咲夜。
この紅魔館でメイド長、つまりメイド達のリーダーを任されている。
リーダーだけあって、その仕事内容はとてもハードであった。
紅魔館のどのメイドよりも早く起き、どのメイドよりも遅く寝る。
それが毎日のように続く生活であった。
咲夜の仕込みが終わる頃、朝食担当のメイド達が起きてくる。
ここからは彼女達との共同作業で調理を行っていく。
しかし、咲夜の仕事が楽になる訳ではない。
1人1人のメイドの作業に気を配らなけらばならないからだ。
紅魔館の主レミリアは料理の味にうるさく、少しの調理ミスで機嫌を悪くする。
それが咲夜のミスで無かったとしても、責任を取らされるのはリーダーの咲夜だ。
だからこそ、メイド達の動きにミスは無いか、神経を削って監視しなければならない。
ようやく料理が完成した。
まだ早朝、今日1日はこれからだという時であるにも関わらず、咲夜はヘトヘトであった。
レミリアが食卓に入って来て、席に着く。
それと同時に料理が運ばれる。
「どうぞ」
レミリアがゆっくりと、料理を口に運んだ。
「うん、美味しいわ」
その言葉を聞いて、ようやく咲夜は気を緩めることができた。
それも、ほんの一瞬だけではあるが...
メイド達も一安心したようだ。
しかし、この一瞬の気の緩みが大きな失敗を招いた。
レミリアが食事を終えてすぐ、咲夜は呼び出された。
「さっき私の食事中に2人、無駄話をしてるメイドが居たわ。どういう事?」
レミリアは怒りに満ちた目で咲夜を睨みつける。
「申し訳ございません。彼女達にはちゃんと言い聞かせて、今後無いようにいたしますので」
レミリアは机のモーニングコーヒーを咲夜に投げつけた。それもカップごと…
カップは強い勢いで咲夜の肩にぶつかり、まだ淹れたての熱いコーヒーが撒き散らされた。
痛みと熱さで咲夜はその場にうずくまる。
さらにレミリアが怒声を浴びせた。
「何座ってんの!誰が座っていいと言った!?」
咲夜は腕を抑え震えながら立ち上がる。
「部下の管理が出来てないのは貴方の責任よ!ちゃんと厳しく言い聞かせて来なさい!」
「...はい」
レミリアの部屋を出た咲夜は、濡れたメイド服を着替えると、すぐに問題のメイドに説教した。
日頃のストレスも多いうえに、レミリアにあれだけされた事もあり、つい大声で怒鳴ってしまった。
怒られたメイドも、口では謝るも表情は不機嫌そうだ。
それを見て咲夜の怒りはさらに上がってしまう。
しかし、ここは言い過ぎないように抑えようと、彼女は自分の心と必死に戦った。
そこに、先程の怒鳴り声を聞いたからなのかレミリアが現れた。
「あら、ずいぶん厳しく叱られてるみたいね」
そう言って問題のメイド達に近寄ると、二人の頭を撫でた。
「確かに無駄話は良くない事だけど、失敗も勉強の内よ。そうやって人は成長するんだから」
レミリアはニコリと笑って言った。
「今回の事は水に流すわ。これからも頑張りなさい」
その後咲夜の肩をポンポンと2回叩くと、レミリアは自室の方へ去って行った。
「と、とにかく以後気をつけなさい」
咲夜もそう言って自分の仕事に戻る事にした。
咲夜が去って行く途中、少し遠くからあの2人の声が聞こえた。
「レミリアお嬢様はやっぱり優しいお方だわ」
「うんうん、さっき私感激しちゃった」
「それに比べメイド長は...なんであんな厳しいのかしら」
「そうよ!無駄話ぐらいであんなキレる事ないのにさ!」
いつもそうだった。
怒ったり叱ったり、イメージの悪くなる仕事は全て咲夜にやらせ、自分は良い上司のようの振る舞う。
おかげで今や咲夜の信頼度もガタ落ちだった。
咲夜は主人でありながらもレミリアに怒りを覚えた。
こんな過酷な日々を送る咲夜にも、ようやく休日がやって来た。
1週間で唯一、日頃のストレスを発散できる日だ。
今日は美鈴も休みを取っていて、一緒に外に遊びに行く予定だった。
美鈴は咲夜にとって、他のメイド達とは違い心を許せる相手だった。
嫌な主人、自分を嫌う部下達ばかりの紅魔館で、咲夜の唯一の親友だった。
今日はいつものメイド服も着る必要はない。
咲夜がどんな服で遊びに行こうか悩んでいると、突然レミリアから呼び出しをくらった。
咲夜は急いでメイド服に着替え、レミリアの部屋を訪れた。
「悪いわね咲夜。今日ちょっと外に遊びに行きたいからお供してくれる?」
「え?でも、今日は休みのはずじゃ...」
「うん、だから悪いわねって言ってんでしょ、休みなら来週もあるし、今週くらいいいでしょ?」
「いや...実は美鈴と出かける用事を入れてしまっていて...」
「え?じゃあ断ればいいじゃない」
「......」
「主人の私が言ってるんだもの、簡単でしょ?」
「すいません、今日だけは勘弁していただけませんか?最近私も疲れが溜まっていまして、休みを取らない事にはどうも...」
最後まで言い終わらないうちにレミリアの拳が咲夜のこめかみに打ち込まれた。
その勢いで、咲夜は床に倒れた。
「私の命令が聞けないわけ?」
レミリアは咲夜の首を掴んで、グーにした拳を咲夜に見せつけた。
「ほら、聞く?聞けない?返答次第じゃもう1発いくわよ」
咲夜は下唇を噛んだまま黙っている。
「あー...あと5秒以内に答えないと殴るわよ?ごぉーお、よぉーん、さぁーん...」
「分かりました!」
「何が?」
「今日は...休みません...」
そう言った瞬間、レミリアは再び咲夜を殴りつけた。
「最初からそう言えっ!」
そう怒鳴ると、レミリアは自分の椅子に座った。
咲夜は床に倒れたまま、しばらく呻いていた。
「ごめんなさい、お嬢様に言われて...今日の予定はキャンセルでもいい?」
咲夜が美鈴にそう言うと、美鈴は一瞬かなしそうな顔をしたが、すぐ笑顔で答えた。
「もちろんいいですよ!休みは来週もありますからね!」
「ごめんなさい...」
そう言うと、咲夜はレミリアも元へ戻って行った。
そしてその次の週。
咲夜と美鈴が今度こそ遊びに行くはずだったその日に...
咲夜は倒れた。
すぐに医者の元に運ばれたが、いつ意識が戻るかわからない程の重体であった。
この事態に最もショックを受けたのは美鈴だった。
空いた時間を利用し、毎日のように見舞いに行った。
しかし、咲夜は何日経っても目を開かなかった。
「おそらく過労が原因でしょう」
医者のその言葉を聞き、美鈴は自分を呪った。
どうしてこんなになるまで気付いてあげられなかったのか、助けてあげられなかったのか、と自分を責め続けた。
そして、ついに美鈴は確信する。
自分には、やらなければならない使命があると。
医者からの説明で、美鈴は咲夜の右肩に火傷の跡と、左のこめかみに殴られたようなアザがある事を知る。
その事から美鈴は、咲夜が倒れた原因はレミリアにあるのではと仮説を立てた。
美鈴にとって、主人に対して疑いの目を向ける事は抵抗があったが、それでも咲夜のために心を鬼にして調査しようと決断した。
それから、紅魔館で美鈴はメイド達に聞き取り調査を始めた。
普段門番として外に立つ美鈴は、咲夜が館内でどのような仕事をしているのか詳しく知らなかった。
できる限り真実に近づくため、咲夜のすぐ側で働いていたメイド達を徹底的に嗅ぎまわった。
しかし、メイド達から咲夜が体罰を受けた様子を目撃したという情報は得られなかった。
それだけでなく、メイド達は口を揃えてレミリアはとても優しく、ミスをしてもすぐ許して貰えたと言っている。
実際に咲夜はあれだけボロボロになっているのに、いくら調べても手がかりが掴めない事に美鈴は困惑した。
しかし、美鈴は諦めなかった。
今度は直接レミリアに探りを入れようと、主人の部屋に訪問する。
美鈴はレミリアを疑っている事を悟られないように注意しながら、咲夜の火傷やアザに心当たりは無いか質問する。
「そういえば、前に私の部屋に紅茶を持ってきてくれた時、咲夜が足を滑らせて転んじゃった事があったわ。もしかしたら、その時紅茶がかかって火傷したのかも...転んだ時に頭を抑えたから頭も打った可能性があるわ」
そう答えたレミリアに、美鈴はさらに質問する。
「それはいつの話ですか?」
「咲夜が倒れる前日の話だわ。本当...残念だわ。もしかしたらあの時の打ち所が悪かったのが原因かも...」
そう言ってレミリアは悲しげな表情をする。
しかし、美鈴のレミリアへの疑心はさらに強まった。
医者の話では、倒れた当日に確認した火傷は少なくとも負ってから数日経っているものとの事だったからだ。
もし、火傷した次の日に医者に運ばれたならば、医者はもっと酷い火傷跡を確認していたはずである。
「分かりました。失礼します」
美鈴は今日はとりあえず退く事にした。火傷の事だけでレミリアを問い詰めるには証拠不充分と思ったからだ。
実は美鈴はすでに次の手を考えていた。
しかし、それを実行するには美鈴一人では難かしい。
美鈴には誰か協力者が必要だった。
「あ、美鈴さんどうしたんですか?怖い顔して」
そう声をかけてきたのは小悪魔だった。
美鈴は、そういえば小悪魔にはまだ聞き取りをしていなかったと気付き、咲夜について幾つか質問する事にした。
「咲夜さんですか?私はいつも図書館いますから、キッチンを借りる時くらいしか会う事は無いんですが」
やはりか。と思い美鈴はガックリと肩を落とした。
「美鈴さんも、やっぱり咲夜さんの事が気になるんですね?」
小悪魔は落ち込む美鈴の顔を心配そうに覗き込んだ。
「あの、もし私に手伝える事があったら言ってください!私も、咲夜さんの事は尊敬していたんです!」
その言葉を聞いて美鈴は顔を上げる。
そして、真剣な顔で小悪魔を見つめて言った。
「実は協力者を探していたんです。でも、とても危険な事をしなければなりません。場合によっては、命を落とすかも...」
小悪魔もこれは只事では無いと思い、険しい表情になった。
「まずは美鈴さんの考えてを聞かせてください。返答は、パチュリー様に相談した後でもいいですか?」
その晩、小悪魔はパチュリーに相談を持ちかけた。
「パチュリー様、誠に勝手ながら私のお願いを聞いて頂けませんか?しばらくの間、お休みを頂きたいのです。実は...」
「わかったわ小悪魔、好きにしなさい」
「えっ!?」
パチュリーの意外な反応に、小悪魔は目を丸くする。
「あなたがそんな真剣な顔で私に頼み事するなんて初めてね...」
そう言うと、パチュリーは少し嬉しそうにクスッと笑った。
「あっ!ありがとうございます!」
小悪魔は深々と頭を下げたまま、しばらく上げる事が出来なかった。
それから2日、未だに咲夜は目を覚まさない。
メイド達の中でも特に重要な役割を担っていた人物が居なくなっただけに、紅魔館は大忙しだった。
レミリアもストレスで不機嫌な状態が続き、我慢の限界が来ていた。
「咲夜の後任者を決めましょう」
館中のメイドを集めてレミリアはそう言った。
「咲夜の代わりにメイド長にふさわしいのは誰かしら?」
全員に向かってそう問いかけるが、返答は帰ってこない。
当然だった。咲夜程の人物は今この館のメイド内には居ないのだから。
「思い当たる人が居ないなら私が勝手に選ぶわよ」
それを聞いてメイド達の顔が青くなる。
咲夜のような仕事を自分達がこなせるわけがないと、その場の全員が焦り始める。
その時、1人のメイドが手を挙げた。
「私にやらせてください」
そう言ってメイドはレミリアの前に進み出る。
「大した自身ね。いいわ、気に入った」
そして、レミリアの方からメイドに歩み寄る。
「あなた名前は?」
「美咲です」
「そう、よろしく頼むわ。美咲」
そう満足そうに言いながらレミリアはその部屋を後にした。
レミリアが去った瞬間、他のメイド達は全員力が抜けたように座り込んだ。
それぞれ、自分がメイド長にならなくて安堵したようである。
その翌日から咲夜の代わりに美咲がメイド長として働き始めた。
しかし、昨日自信満々の態度を見せたにも関わらず、その実力は咲夜どころか普通のメイド以下であった。
そしてその仕事の酷さは、日に日に悪くなっていった。
そしてある日の朝の事である。
レミリアは運ばれた朝食を口にすると、予想外の味に思わずそれを吐き出した。
ひどく不味かったのだ。
美咲を睨みつけるとそこにはさらに酷い光景があった。
美咲が他のメイドと無駄話をしているのだ。
しかも、美咲の方から積極的に話しかけている。
レミリアは耐えられなくなりついに自室へ美咲を呼び出した。
しかし、呼び出したにも関わらずなかなか美咲は来ない。
もういっそ自分から出向いてやろうかとレミリアが思った時、ようやく美咲が部屋に入って来た。
その姿を見るなりレミリアは怒鳴りつけた。
「いったい何を考えているの!?」
「申し訳ございません」
美咲は素直に謝ったものの、レミリアの怒りは収まらない。
レミリアはコーヒーを手に取りかつて咲夜にしたように美咲に投げつけた。
熱さで美咲は床に崩れ落ち、もがき苦しんだ。
「誰が寝ていいと言った!」
そう言ってレミリアは美咲を何度も蹴りつけた。
「ま、まってください!許してください!このままでは動けなくなってしまいます!」
美咲はレミリアの脚にすがりついて泣きながら懇願した。
しかしレミリアは足元の美咲の頭を踏みつける。
「メイド長はこれぐらい厳しくしないと駄目なのよ!咲夜もそうやってきたんだ!」
レミリアは目を充血させて足の下で苦しむ美咲を睨みつけた。
「さ、咲夜さんも、こんな酷いことされたんですね...?」
「酷い?こんなのはまだ優しい方よ!まだまだ足りないわ!」
そう言ってレミリアは何度も美咲を蹴り続けた。
とうとう美咲は口から血を吐いた。
「なに床を汚してんの!?」
そう叫んでレミリアが再び蹴りを入れようとした時、フフっと美咲が笑った。
「なによ!?」
レミリアは驚いて動きを止めた。
美咲は笑みを浮かべたままゆっくり立ち上がる。
そして、自分の髪の毛を引っ張った。
その髪の毛はズルズルと美咲の頭から離れ、床に落ちた。
「カツラ!?はっ…その羽は!」
レミリアは美咲の頭に、コウモリの羽のようなものが生えている事に気がついた。
「お前、小悪魔か!?」
「やっと本性を現しましたね?お嬢様。確かに聞きましたよ?咲夜さんを虐待したと...」
レミリアは少しづつ状況理解し始めた。
「お前、私からそれを聞き出すために!?」
小悪魔はしたり顏で口元の血を拭った。
「まあいい、館の主の私を欺いた罪は重い。小悪魔、あなたはここで死んでもらうわ」
レミリアの瞳に殺意の色が浮かび上がる。
その時、部屋の扉が蹴破られた。
「その悪事、許す訳にはいかぬな」
「勝手に私に部屋に入り込むとは、貴様!何奴!?」
「うつけもの、余の顔を見忘れたか?」
「...!美鈴!」
「全て聞かせてもらったぞ。レミリア、紅魔館の主の地位を利用し、部下をさんざんこき使ったあげく、心身共に追い込み病院送りにするとは断じて許し難い。この場にて腹を切れ」
「黙れ黙れ!腹を切るのは貴様の方だ!であえ!であえー!」
すると、レミリアの声を聞き妖精達が大勢集まって来た。
「この者共をここから生かして帰すな!」
美鈴に向かって妖精達が襲いかかる。
しかし、美鈴は中国拳法のような華麗な動きで次々と敵を倒していく。
そして、あっという間に最後の妖精が倒されてしまった。
「おのれえええええ!」
半狂乱でレミリアは美鈴に突進する。
「成敗っ!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
こうして悪徳吸血鬼は成敗され、紅魔館には再び平和が訪れた。
しかし有能門番に休みは無い。
がんばれ美鈴!負けるな美鈴!
ですが、折角最後のお約束の大立ち回りでもっと広げられそうなネタの雰囲気を醸し出したのに、最後をレミリア?の絶叫だけで済ますのはよくないと思います。
暴れん坊将軍よろしくその後の登場人物たちがどうなったかを表現すればこういう幻想郷もあるのか!となっただろうに…
惜しい作品です
創想話のTOPに出ている管理者からの連絡は絶対見るなよ!間違っても目を通して熟読したら駄目だからな!
一目見て暴れん坊将軍をパロッたと分かる作品にしているのだから最後の最後まで責任をもって書ききってください。そうでなければこれは東方のキャラを用いて一部のキャラに対して不快な扱いを強いただけのクソつまらない作品でしかありません
折角文章自体は分かりやすい程度に書けるのですから中身をもっと充実させてください