Coolier - 新生・東方創想話

愛の告白の話

2015/06/12 04:47:22
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「やぁ、何してるの?寒くない?」

後ろから声を掛けられた。
人通りの殆ど無い場所を選んだつもりだったから、その声にはそこそこ驚いた。身体がちょっと跳ねたと思う。
まるで人間のように驚いてしまったことが恥ずかしくなったけど、だからと言って何か誤魔化したりするのも面倒だったので、何も言わすに振り返る。
声の主は友人の土蜘蛛だった。仕返し代わりにジロリと流し目を送ったためか、ギクリと言った感じで少し居心地悪そうにしている。よし。

「いやさその、橋姫が遠出してるのって珍しいじゃない?あ、えっと!わ、悪い意味じゃなくって…」

彼女は何を心配したのか言い訳を始める。しかも、これは墓穴を掘っているんじゃないか。
驚かされたことなんて気にしていないし、私の遠出なんて、言われてみれば確かに珍しいことだと思う。
そんなことを伝えたら、幾らか大人しくなった。ちょっと面白いかも。
彼女が隣に腰掛ける。別に何もしてなかったし、丁度いいイベントだわ。



「で、こんな雪の中、座り込んじゃってどうしたのさ」

そう聞かれても、答えるようなことはしてなかった。
別にただ、気紛れに散歩した先で、さっき見かけた誰それが妬ましいとか、なんで世界はこうなのかとか、そんなことを考えていただけである。
全くもって変わったところは無いわね。

「フーン…まぁ何もないなら、良かった」

良かった?なんだ、つまりコイツは私のことが心配だったの?それだけの為に話しかけてきたのか。
いやそもそも、こんな明かりもロクに無い場所にいる私をたまたま通りかかって見つけられるだろうか。
まさかね。
世話焼きな所が有るとは知っていたけど行き過ぎじゃないかしら…?まぁ、そう言うところが、地底の人気者になっている理由なのかもしれないけど
どっちにしろ、こんなに優しさだとかを振り撒いて、なんとも素晴らしい心構えだろう。ああ、妬ましい。

「あはは、この調子ならホントに大丈夫そうだね」

しかし、こんなことをやっているのだから。余程暇なんだろう。でなきゃ阿呆か。

「おうおう、心配してんのに酷いじゃあないか。雪に濡れて風邪ひいてもしらないぞー?」

よりにもよって土蜘蛛が言うと、冗談じゃない話だわ。

「ははは、違いないや」

彼女はよく、外れた所にいる私にこうしてちょっかいを出しに来る。
世話焼きもそうだけど、物好きなんだろう。
一人でいるのが好きだし、気楽なんだけど。でも、たまに話をしたり、強引にでも輪に入れられたりするのも悪くない。
いい距離感だと思う。狙って、気遣った上でだとしたら、なんとも有り難いことだ。有り難すぎて妬ましいくらいだわ。

「、そんなんじゃないさ…」

僅かに顔に影が差す。悩みでも有るんだろう。態度には出してなかったようだけど、まあ若干橋姫の領分だし、とにかくわかるものはわかる。
ここでマトモな友人なら、それこそコイツや釣瓶落としみたいなのなら、心配して相談に乗ったりするんだろう。
でも私の場合、『コイツにも色々あるんだろう』と放っておく。
これでも気遣いのつもりだ。抉ったり、拗らせるなら得意なんだけど、私じゃ解決なんて無理だろうしね。



と、思ったけど、なんだか気になってきた。
何時も景気良さそうにベラベラ喋って、人妖惹きつける土蜘蛛娘が、一体何で躓いてるのか。
気遣いもいいけど、別にそこまで大事にしてないし。コイツはいつも、お節介に人の悩みだとかを突っつき回してるんだ。こっちが仕掛けても問題ないだろう。
それに、悩みが何だろうと私は痛くも痒くもないだろう。もしかしたら、私にとっては面白い話かもしれない。
我ながら非道い。まあ、でも、話して楽にならないとも限らないでしょう。うん。

「………関係ないことだよ」

ほう、なるほど。どうにも、柄にもなく恥ずかしがっているようだ。逃げないよう手を取ってみると熱が伝わってくる。

「あわわっ…て、手、……あぅう……」

いつもの無駄な明るさは何処へやら、これは中々真面目に悩んでいるらしい。恥じらいに視線を背けている。
しかしいけないわ。そんなふうにされてしまうと、ほじくり返したくなるじゃない。
ああ、こんなことで興に乗っているなんて。

「辞めてよ」

彼女は顔を赤く染めて言う。それを見て気味悪くニヤついているのが自分でもわかる。流石に下衆だと思う。
しかし、普段から妬んでいる相手の弱みを見ているのだ。仕方ない。
友情はある。意外かもだけど、私だって彼女のことを好ましく思っている。
でも、それとこれとは別なのだ。

取り柄もなく、益もなく、ただ他を羨み、嫉妬に駆られる私と違って。
皆の人気者で、明るく気味の良いさっぱりした性格。土蜘蛛の境遇も含め、地底での生を受け入れている。その生き様。
やはり、妬まずには居られない。底意地悪くならざるを得ない。



「………そんな………」

思わぬ所で心中を吐露してしまった。
さしもの地底のアイドルでも、ショックだろうか。愛想が尽きてしまったか。
しかし、それでも私に敵意を向けないのは、嬉しいやら妬ましいやら。

「そんなことない!」

彼女は、声を荒げた。私が取った手を握り返して、興奮している様子だ。
でも、それは予想していた拒絶や敵意からくるものでは無いみたいだ。
何処か懇願するような、訴えかけるような……。

「違う、違うんだよ。貴女はそんなに…そんなじゃないよ……自分のこと、取り柄が無いなんて、言わないで。良い所は沢山あるよ…」

どう言うことか、私は…。
何を伝えようとしているのか。

「他の誰が何を言っていても、関係ない。私が保障するよ。だって、その、」

彼女の顔はもう真っ赤だ。
ぎゅうっと握られた手からは鼓動が伝わってくる。それと、強い意志が。
なんだろう、これじゃあまるで……

「わ、私は、貴方の、こと、あ、あ、愛しています!!」



「あの、いつも話を最後まで聞いてくれるしっ、ば、馬鹿にだってしないし」



「ホントは優しくて、えと、だから私の我儘を聞いてくれてるし、助けてくれてっ」



「い、い、一緒にいるとポカポカするんだ!お喋りするだけで嬉しくて、だから……」



「……だから、素敵なひとだよ……」



放心していた。
あまりのことに理解が追い付かない。
いや、理解はしている。
彼女は、赤い顔で、泣きそうな目でこちらを見つめている。
そこには、恋慕が込められているのだ。
コイツは、

私に恋をしている。

それを打ち明けたのだ。それだけだ。

「本当は、私、狙って会いに来たんだ」

それだけってなんだろう。

「一緒にいたいって思ってたのもそうだけど」

コイツは恋をしている。思えば様々な行動は、私への思いの現れだったのかも知れない。
………私の為に………

「心配だったんだ。…変だよね、取り立てて危険な所でもないのに……」

私と話し、呑み、時には仲間として過ごした。それは、彼女にとっては恋人との時間であり、愛を深める時間だったのだろう。

「でも、考え出したら止まらなくて………もしもって」

私が声をかければ、心が弾んだんだろう。手を握ったりすれば、幸せだったかも知れない。
私からの信頼は命を色付けするだろうし、私と次に会う約束は明日を待ち遠しくしたはずだ。

「   ったよ、     してさ。わた     から    」

愛する人と過ごしていたんだ。
愛する人に声を掛けていたんだ。
愛する人と笑っていたんだ。
愛する人と
愛する人と………

「      かって、ずっときに       は     てさ」

私は、愛する人を失った。
あの人を
だから、人を妬むのだ。妬んでいるんだ。

「                       」

幸せを失わせるために、鬼神になって。
怨念のために
存在してきた。

それなのに

なんでこの女は恋をしているんだ?なんで好きな人と一緒にいられるんだ?なんで私はダメなのに。もう手に入れられないのに。幸せになるなんておかしいじゃないか。なんで

「     ?      ?」

コイツは恋をしている。この女は今、恋人と一緒にいて、手に入れてるんだ。私は、出来ないのに。人でなくなるほどなのに。虫唾が走る。なんで努力もしないで、ただそこにあっただけで手に入れるのか?じゃあ私もいいじゃないか。なんでわたしはあの人と一緒にいないんだ?非道い、こんなの非道い、こんな有り得ない。愛を手に入れられないのに。私で愛を手に。妬ましい。ずっと惨めに、奪われたままなのに。百年も二百年も、失ったままなのに。待っているのに。ずっと待っているのに。なんで、わたし。なんで、こいつが先なんだ?なにが。何が違うのか何も違わないじゃないか狡いじゃないなんで愛してるのにこんなのより絶対想っているのに、































憎い






























「   あ   あ   あ   あ   あ  !!!!!!!」








熱い、身体が熱い。

でもまだだ。

私のほうが愛してるんだ。私のほうが

逃さない、逃さない、逃さない、

盗んだんだ。わたしから、取り返さなきゃ。

愛するを失うんだ。

潰して、呪って、それで………

ほら、

ほらほらほらほら!!!抉ってやる!ほらどうだ!!思い知ったか!!!

邪魔するな!邪魔だ!!どうしてそんな事するんだ愛してるだけなのに!!!

汚い、穢らわしい、醜い。足りないよこんな

愛してるんだ!!!!!

私は…………





「ハハハ、ザマァ見ろ」






◆◆◆







「うえぇ………なんだか後味悪い話じゃないか」

そういって私は後ろの壁にもたれ掛かった。
さしもの妖怪土蜘蛛も、この手の悲劇は苦手な方だ。ましてや、同族の話だなんて、嫌悪を感じても仕方ないだろう。
我が友人の語りも相まって、周囲の妖たちも話に飲まれていたようだ。

「ハッハッハ、ヤマメも少しは冷えてきたんじゃない?」

「変に汗かいたよバカ」

怪談話の語り合いのはずだが、どうにも皆は捻らないと気が済まないらしい。まったく。
もともと雪が降るような地底も、核エネルギーだかで絶讃温暖化中だ。
常じゃないが、こうして茹だるような暑い日がやって来るようになった。

「にしても、こんな話、良く見つけてきたね。まさか妖怪と妖怪の恋物語なんてさ」

「いやぁまぁね、ヒヒヒ」

そんな訳で暇に明かした妖怪たちが、なんと怪談話で涼もうなんてアベコベなことをしているのだ。
因みに発案者のキスメを始め、未だにまともな怪談は語られていない。
まぁ、妖怪が恐れで涼める訳も無いので、仕様が無いけど。

「あー、でもこれ、パルスィには聞かせないようにお願いね」

「当たり前だよまったく」

まさか、橋姫であるパルスィにこんな話は聞かせられないだろう。
恋人を失った怨念を持つという橋姫という存在をなんとも妖怪らしく仕立ててあるが、いくらなんでもひどいもんだ。
愛と嫉妬に狂うことはあるだろうが、自分に惚れた相手に嫉妬して





「まさか恋人を奪おうとして自害するなんてさ」




あり得ないでしょう。
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