ぼんやりと、空を眺めていた。
地底にいた頃には見ることも叶わないだろうと思っていた、青くどこまでも透き通る空。
時に怒ったかのようにかんかんと日差しを照らし、時に悲しむかのようにざあざあと涙を流し、時に笑い声をあげるかのようにごおごおと風を吹かす。
今は機嫌が良いのだろうか、空はその顔を真っさらに晴らして私を見下ろしていた。
―――ふと、目を閉じてみる。
ぴたりと漆黒に閉ざされる世界、すると今度は、ぽつりぽつりと囁きが聞こえるのだ。どこかで遊んでいる里の子どもたちの小さな喧騒、風が木々の間を吹き抜けさらさらとそよぐ音、自分自身の鼓動、他にも、色々。
目は口ほどに物を言う。昔、お姉ちゃんからそんな言葉を聞いた。おかしな話だと思った。私たちの『眼』は何も言わないし、何も語らない。ただただ漠然とここにあり、見たくもない、
知りたくもないことを、無慈悲に私たちへと打ち付ける。
今となってはまるで血の通っていないかのように真っ青な私の『眼』も、昔はそうしてうるさく他人の真実を告げ口してきたものだ。まぁ、私はそれがどうしようもなく嫌で、この『眼』を閉ざしてしまったわけだが。
……あれ、そう考えてみると、確かに私たちの『眼』は口なんかよりよほど正直に物を言っていたな。告げる口も無い癖に、誰よりも正直なチクリ魔とはこれ如何に。どこぞの天邪鬼よりもよっぽど反逆精神に満ち溢れている気がするぞ。
でもきっと、お姉ちゃんが言っていたことは意味が違うんだろうな。そんな風に思ってしまえばもうあとはすぐだ。ふと意識してぷかりと表出した考えは、また無意識の内にぷかりと沈んでなくなってしまう。
『眼』を閉ざした覚り妖怪。嫌われることを恐れ、結果、誰からも気付かれなくなった臆病者。
結局、今の私があるのは過去の臆病な私のおかげなのだ。弱い私が嫌悪を恐れたからこそ、私はこうして今、目で、耳で、体で、匂いで、解き放たれた世界を全身で感じている。
“私”という出来損ないの覚り妖怪という存在は、アイデンティティを消失しながらも、何も考えることもせず、ゆるりゆらりと生きている。
何も覚えず考えず、楽しい今日をただ無為に、焦がれるような明日を求めて無意識に。
―――ぱちりと、目を開ける。
視界に広がるは鮮やかな世界。地霊殿のステンドグラスのそれとは違う、ある種暴力的な色彩。逃げてばかりの私には少し眩しすぎて、思わず目を背けてしまいそうだけれど。
んーっと思い切り背伸びをして、お気に入りの帽子をきゅっと被って、真っ青な『眼』をふらふらと揺らしながら。
今日も私は、『眼』を塞ぎながら生きていく。
地底にいた頃には見ることも叶わないだろうと思っていた、青くどこまでも透き通る空。
時に怒ったかのようにかんかんと日差しを照らし、時に悲しむかのようにざあざあと涙を流し、時に笑い声をあげるかのようにごおごおと風を吹かす。
今は機嫌が良いのだろうか、空はその顔を真っさらに晴らして私を見下ろしていた。
―――ふと、目を閉じてみる。
ぴたりと漆黒に閉ざされる世界、すると今度は、ぽつりぽつりと囁きが聞こえるのだ。どこかで遊んでいる里の子どもたちの小さな喧騒、風が木々の間を吹き抜けさらさらとそよぐ音、自分自身の鼓動、他にも、色々。
目は口ほどに物を言う。昔、お姉ちゃんからそんな言葉を聞いた。おかしな話だと思った。私たちの『眼』は何も言わないし、何も語らない。ただただ漠然とここにあり、見たくもない、
知りたくもないことを、無慈悲に私たちへと打ち付ける。
今となってはまるで血の通っていないかのように真っ青な私の『眼』も、昔はそうしてうるさく他人の真実を告げ口してきたものだ。まぁ、私はそれがどうしようもなく嫌で、この『眼』を閉ざしてしまったわけだが。
……あれ、そう考えてみると、確かに私たちの『眼』は口なんかよりよほど正直に物を言っていたな。告げる口も無い癖に、誰よりも正直なチクリ魔とはこれ如何に。どこぞの天邪鬼よりもよっぽど反逆精神に満ち溢れている気がするぞ。
でもきっと、お姉ちゃんが言っていたことは意味が違うんだろうな。そんな風に思ってしまえばもうあとはすぐだ。ふと意識してぷかりと表出した考えは、また無意識の内にぷかりと沈んでなくなってしまう。
『眼』を閉ざした覚り妖怪。嫌われることを恐れ、結果、誰からも気付かれなくなった臆病者。
結局、今の私があるのは過去の臆病な私のおかげなのだ。弱い私が嫌悪を恐れたからこそ、私はこうして今、目で、耳で、体で、匂いで、解き放たれた世界を全身で感じている。
“私”という出来損ないの覚り妖怪という存在は、アイデンティティを消失しながらも、何も考えることもせず、ゆるりゆらりと生きている。
何も覚えず考えず、楽しい今日をただ無為に、焦がれるような明日を求めて無意識に。
―――ぱちりと、目を開ける。
視界に広がるは鮮やかな世界。地霊殿のステンドグラスのそれとは違う、ある種暴力的な色彩。逃げてばかりの私には少し眩しすぎて、思わず目を背けてしまいそうだけれど。
んーっと思い切り背伸びをして、お気に入りの帽子をきゅっと被って、真っ青な『眼』をふらふらと揺らしながら。
今日も私は、『眼』を塞ぎながら生きていく。