Coolier - 新生・東方創想話

夢のあとさき、さくらの風

2015/05/16 11:57:16
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 人生は桜に似ている。
 あっという間の季節を咲き誇り、潔く儚く散っていく。
 一瞬の生き様を美しき桜に例えるならば、私達の生は何に例えれば良いのだろう?

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 ある日の昼下がり、冥界の白玉楼は珍しく賑やかだ。
 藍が、良い小豆が入ったということで、白玉楼にお裾分けに行きたいと言い始めたのが発端だ。魂魄妖夢と勝手に話を進めて、おはぎを作る事を勝手に決めた。私は寝ていたいと言ったのに、藍に、半ば強制的に白玉楼まで連行されてしまった。
 眠い。冬眠時期なのに私は何をしてるのだろうか。お勝手からは賑やかな声が聞こえる。従者たちは楽しそうだ。何が嬉しくてあんなに生き生きしてるんだろう。
 小春日和が恨めしい。私は、客間でうつらうつらと船を漕いでいた。
 向かいにいる幽々子は、何か嬉しそうに話してる。まぁ良い。どうせ大した事ではない。昨日、妖夢が作った夕餉が美味しかったとか、大根の味の染み具合が堪らないとか、そんな事ばかりなのだ。昨日今日の付き合いではない。幽々子がこういう時に話す事には、適当に相槌を打てば良い事は熟知している。
「でねー、ふろふき大根が良かったから、夜食は田楽がいいって妖夢に言ったの。それなのに妖夢ったらね――」
「はいはい」
 穏やかな日だ。白玉楼の枯山水には、春爛漫の優しい日差しが落ちている。
 私は、茶を一口啜って、欠伸を一つした。
「幽々子様」
 妖夢が襖を開けて、顔を覗かせた。
「あら、なぁに妖夢?」
「お茶の替えをお持ちしました。あと、餡の味を見てもらいたいと思いまして」
 妖夢は、小皿に取り分けた餡を机に置いた。幽々子は、間髪入れずそれを口にする。
「後味の良い甘さね。腕を上げたわね、妖夢」
 妖夢は苦笑する。
「今日は藍さんも居ますので。私一人の力じゃないです。紫様はよろしいのですか?」
「食道楽じゃ、幽々子に敵わないわよ?」
 用意してくれてるのを断るのも野暮か。餡を載せた竹べらを口に含む。自然な甘みが口に広がる。
「……美味しいわ」
「有難うございます。藍さんが手伝ってくれるので、助かります。後はもち米を潰すだけなので、ちょっと待っててくださいね。幽々子様」
「はぁい」
 名残惜しそうに竹べらをしゃぶっていた幽々子だが、明るい声で返事した。
「紫さまー!」
 バタバタと橙が客間に走りこんできた。
「あらあら、どうしたの橙?」
「見てください、紫さま! 橙の最高傑作です!」
 橙は、意気揚々と胸を張って、持っていた画用紙を広げた。そこには歳相応の絵が描かれていた。これは藍で、これが私か。筆跡から、頑張って描いた事が分かる。つい、笑みが溢れてしまう。
「あら、上手ね橙。頑張ったじゃない。見てよ幽々子。上手いでしょ?」
 幽々子は、微笑んで頷いた。
「上手ねー、橙ちゃん。私と妖夢も描いて欲しいわぁ」
「ほんとですか、幽々子さま?! 今、道具を取ってきます!」
 橙は、またバタバタと駆け出して部屋を飛び出して行った。
「手間かけるわね。良いの幽々子?」
「可愛いわね橙ちゃん。いいじゃない。私は本当に描いて欲しいのよ」
 しばらくして橙は、客間に駆け戻って来た。
「待ってて下さい幽々子さま。今から描き始めます」
 橙は、畳に寝そべると鼻歌交じりでクレヨンを使って絵を描き始めた。尻尾もぴんと立ってゆらゆら揺れている。
 楽しそうに絵を描いていた橙だが、しばらくすると目をこすり始め、眠そうに欠伸をした。
「紫さま。眠いです」
「あらあら、ここに来なさい橙」
 とぼとぼと歩いてきた橙は、私の膝枕に頭を預けて横になった。
「ごめんなさい幽々子さま……。また後で頑張ります」
「いいのよ橙ちゃん。出来たら後で頂戴ね」
 私の膝枕でゴロゴロと喉を鳴らしていた橙だが、ちょっとしたら寝息を立て始めた。
 橙のさらさらの髪を撫でた。その寝顔は、なんの不安も無いようだ。庇護欲を掻き立てる物がこの年頃にはあるのだろう。
 しかし、さすがに足が痺れて来た。
「藍! ちょっと藍!」
「はいはい、どうしたんですか紫様?」
 お勝手から返事が聞こえた。歩いてくる気配がする。藍が入り口から顔を覗かせた。
「なんでしょうか紫様?」
「ほら、これ見てよ」
「あぁ、成程」
 藍は、寝込んでいる橙の姿を見て納得したようだ。着ていた割烹着を脱ぐと、橙の側にやってきて、優しく揺り動かす。
「橙。起きなさい。部屋で寝よう」
「んんっ……。藍さま?」
 橙は目を覚ますと、驚いたように辺りを見回す。藍は、橙の体を支えて身を起こさせた。
「ほら、橙。行くよ」
 橙は、私達に手を振る。
「紫さま、幽々子さま、ばいばい」
 自然に笑顔になってしまう。二人で手を振り返した。
「可愛いわねー」
「手間が掛かるだけに余計にね」
 私は、湯のみを傾け、茶を一口啜る。
 幽々子は俯き加減で何かブツブツ言っている。
「……なんか妬けちゃうなー」
「えっ?」
 幽々子は、急に立ち上がり、座卓を回ると私の前にちょこんと座った。
「……何よ?」
 幽々子は、何かを期待するかの様に上目使いで私を見つめると。両腕を広げて、目を閉じた。
「んっ!」
「何よ幽々子。口で言わなきゃ分かんないわよ」
「……んっ!」
 幽々子は、私の言葉に一切耳を貸さず、両手を突き出す。全く面倒くさい。
 私は、辺りの気配を読み取って、誰も部屋に入って来そうにないことを察した。
「……まったく、仕方ないわね」
 私は幽々子を抱き寄せた。幽々子は肩に頭を預ける。
 ほのかな香りがする。静かな息遣いが聞こえる。
 部屋は静寂が支配している。ここだけ時間の流れに取り残された様だ。私達はそうしてしばらく身を寄せ合っていた。
「……うん、もういいよ」
 幽々子は、満足したかの様に上気した顔で、にへらと笑みを作る。
「ご馳走様、結構なお手前で」
「お粗末様。それにしても……」
 私は、以前から疑問に思っていた事を口にした。
「不思議ね。貴女はいつも甘い香りがする」
 人差し指で幽々子の唇をなぞる。
「まるで乳香だわ」
「それは、ほら、あれよ、愛の力みたいなやつよ!」
「いつも甘味ばかり食べてるからだと思ってた」
「まぁ失礼ね! 紫の意地悪!」
 これだけ長い月日を重ねたというのに、幽々子はいつまで経っても童女の様だ。そんな、穢れを知らない彼女を、私の色に染めていく。それは背徳感を秘めた快感があるのだが。

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 願わくば花の下にて春死なん、その望月の如月の頃。

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 薄暗い蔵の中で一人の少女が膝を抱えて座っている。その肌は、長い間陽の光から断絶されている為か、透き通る様に白い。虚ろな目には、何の色も浮かんでいない。
 窓辺から差し込む陽光は、舞い上がる埃で拡散されて、光の筋として土床に落ちていた。
 窓辺に雀が舞い降りた。雀はちちっと鳴き、蔵の中を覗きこむ。
 少女はそれを見上げた。
 目が合ったのか雀は動きを止める。首を傾げ、また、ちちっと鳴く。
 少女はそれを目で追う。
 蔵の暗闇の中で何かが動いた。もぞもぞと蠢くそれは、音もなく窓辺に擦り寄っていく。
 雀は何かに気付いたのか飛び立とうとする。だが、声もなく雀は落ちた。
 暗闇の中から無数の影が飛び出し、雀に群がる。死霊達は死骸を跡形もなく喰らい尽くした。
 少女はその様子を見つめている。その表情はどこまでも茫洋としていた。

 私は、空間の裂け目からその様子を覗っていた。
 富士見の娘、西行寺ゆゆこ。都にて歌聖・西行の娘として生まれた。しかし、その存在は周囲の人間達に祝福されるものでは無かった。ゆゆこの周囲には死霊が付きまとい、生命を持つものを死に誘う。今では父親である歌聖にかくまわれ、蔵に幽閉されている。
 私は興味を持った。何故、たかが人間にこれだけの力が宿ったのか? 妖と人の境界を侵す存在ではないか。上手く使えば、私の目的に合致するかもしれない。毒食らわば皿まで、と言った具合になるけれども。
「……誰?」
 少女は顔を上げ虚空を見つめる。気付かれたか。私はスキマから身を現す。
「初めまして。貴女が富士見の娘、西行寺ゆゆこね?」
「…………」
「私は、八雲紫。しがないスキマ妖怪ですわ。貴女はとても面白いわ。私と一緒に遊びましょう?」
「……近寄らないで……!」
 ゆゆこは、拒否するように身を引く。辺りの暗闇がざわめき始める。亡者の声が沸き立つ。暗闇から異形の者達が現れた。
 やる気か。面白い。まぁ想定の範囲内だが。
「そうよ。一緒に遊びましょう」
 私は嗤った。蕩ける様に。引き裂く様に。
 扇子を横に払う。空間を切り裂きスキマを作る。スキマの中から人型に切られた白紙が無数に噴出する。式札はそれぞれ鳥獣の姿を模した式神の姿に変わる。
 辺りで死霊と式神の衝突が始まった。生を持たざる者達の争う音で辺りは狂騒する。
 鴉は宙から急降下して死霊を貫き、狼はその強靭な顎で噛み砕く。仄暗い蔵の中は獣臭で満ちていた。死霊に守られる死の匂いを漂わせた少女は、憎しみを込めた目でこちらを睨みつけている。
 狒々に似た死霊が飛び込んできた。大振りの拳を身をかわして避ける。体制を立て直しざま、抜き手で刺し貫いた。
 こちらが優勢の様だが、数ではあちらが上か。
 ゆゆこは、俯きがちに何かを呟いている。
「……もう……私に構わないで!!」
 ゆゆこを中心に膨大な瘴気が撒き散らされる。それに呼応して死霊の増援が追加された。
 まだ増えるのか。私の式神が手一杯じゃないか。どれだけ楽しませてくれるのだろう、この子は。
「いいわ。もっと見せて頂戴。貴女の力を!」
 札を一枚取り出し、宙に放つ。
「来なさい! 藍!」
 空間を捻じ曲げ、妖狐の少女が飛び込んできた。九尾の狐を調伏した式神だ。私の手持ちの式神では、一番の力を持っている。
「御用ですか、紫様?」
「私一人では面倒だわ。手伝いなさい、藍。あの子には使い道があるから、殺しちゃ嫌よ?」
「承知しました!」
 藍は振り返りざま、死霊の群れに突撃する。群衆する死霊の壁に穴が開いた。
 藍の加入で戦況は一変した。だが、ゆゆこの様子を見る限り、幾らでも死霊は召喚できるようだ。何とかしないと堂々巡りか。
「まったくもう、手間かけさせるわね!」
 私は結界を張る為に札を投げた。札は勢い良く飛び、蔵の壁に張り付く。精神を集中して扇子で九字を切り、結界を成立させる。
 蔵の中心で閃光が炸裂する。死霊達は陽炎の様に溶けた。
 ゆゆこはぐらりと膝から崩れ落ちる。
 どうやら雌雄は決したか。私は、式神の指示を解いた。辺りには式札がひらひらと舞い降りてくる。戦闘後の乱れた空気が残る場で、藍が命令を待って立っていた。
「藍。もういいわよ。ちょっと待ってなさい」
 私は、ゆゆこの側にまで歩いて行って立った。彼女は悲しみを込めた目で見つめ上げている。
「貴女の能力、一時的に封じさせてもらったわ」
「……どうして……、なんで私を放っておいてくれないの!」
 やれやれ、理解に苦しむ。何故、これだけの力を持ちながら、有意義に使おうとはしないのか。私は、呆れを隠しもせず表情に出した。
「貴女、自分の能力の素晴らしさが分かっていないの? その気になれば、この国を滅ぼす事もできるわ」
 彼女は大きく目を見開く。
「何故、そんなことを……」
「混沌を取り戻した世界は美しいからよ。人間はまた妖怪を恐れる。支配者は誰なのか思い出すわ」
「そんなことできない!」
「ねぇ貴女、自分が人間にどんな扱いを受けたのか覚えていないのかしら? 私が作った世界では貴女のような人間も受け入れるわよ」
 蔵の外が騒がしい。屋敷の者に気付かれたか。そろそろ引き際の様だ。
「私は、貴女が欲しいの。その能力、有効に使ってあげるわ。また来るわよ。それまでに精々、鍛えておきなさい」
 身を翻し、ゆゆこに背を向けた。空間に一つ、スキマを作る。
「行くわよ、藍!」
「はい!」
 私と藍はスキマに飛び込んだ。背後では蔵に家人が踏み込んでくる音が聞こえた。
 ゆゆこの茫洋とした表情がまだ目に残っている。人間にあんな強力な力を持つ者が居るとは思わなかった。私が理想とする世界の為に彼女は欠かせない存在だろう。ゆゆこは絶対に手に入れてみせる。



 ゆゆこと出会って数日後の事。私は隠れ家の書斎で机に向かっていた。片付けなければならぬ雑事が沢山あるのだ。隠れ里にする為に買い取った山村の運営管理のやりとり。高天原に送り込んだ間諜の報告の確認。誑かした都の中納言の恋文の返歌。
 でも、もう飽きた。筆を口先でぶらぶらさせながら、腕を組んで天井を見上げていた。
 藍が書斎に入ってきた。急須を載せたお盆を持って、私の隣に座り込む。
「……考え事ですか? 紫様?」
「ん、ちょっとね」
 咥えてた筆を机の上に置き、藍が運んできた湯呑みを一口啜った。藍は微笑んで座っている。すこし、話でもするか。
「あの子、どう思う?」
「西行寺ゆゆこ、ですか?」
 藍は頤に手を当てて、小首を傾げた。
「何というか、とても怖いと思いました。あり得ないですよね、式神が人間を恐れるなんて。でも、彼女からは生きとし生けるものを呪い尽くす怨念。そんなものを感じました」
 私は満足気に頷いた。
「ま、概ね外してはいないわね。私の式神だからこれぐらいは分かって当然かしら」
 藍は、無表情を装うつもりの様だが、尻尾が嬉しそうにゆさゆさと揺れている。
 私は話を続ける。
「タナトスよ。人間を死に誘う無意識ね。彼女は周囲の者のタナトスを想起させて暴走させる力を持っている。彼女の周りに強力な磁場みたいなものが発生してるから、あんな風になってるのね」
「そんなに強力な力なのですか?」
「私が生きてきて今まで、あんな強力なのは見たことないわね。父親の西行も歌人である以前に有力な僧侶だと聞いたわ。あの蔵にも、ゆゆこの力の流出を防ぐ結界が張られていた。血統なのか偶発なのか分からないけれども、恐らく複数の要素が輻輳してあんな能力を生み出したのよ」
 ただね、と付け加えて私は話を継ぐ。
「死に親和性がありすぎる。自らの力に引き込まれて、自死すら選びかねないわ。ちょっと本人でも生きてやろうみたいな気持ちを持っていないと、こちらとしてもやり辛いのよ」
 藍はふむふむと相槌を打った。
「で、このままじゃまずいから何かゆゆこが楽しいと思える物を用意してやろうと考えてるわけよ」
「はい」
「でも、今時の若い娘は何が好きなのか分からないのよねぇ」
「成る程、紫様は結構お歳を召されてますものね」
 …………。この式神、一度、分解して検査《デバッグ》してやろうかしら?
「藍、口を慎みなさい。厠の掃除当番にして一生縛り付けるわよ?」
「あ、あぁっ、すいません紫様!」
 ぺこぺこと謝り続ける藍を傍目に、私は不貞腐れて頬杖を付いてみせた。
 確かに私は、見た目でも年増に見られちゃうけどさ、でも実年齢から考えると頑張ってる方だと思う。屈辱だ。
 そうか。要は若い者に任せればいいのか。
「ねぇ藍。貴女が考えなさい。ゆゆこを楽しませる方法」
「はぁ!?」
 藍は、素っ頓狂な声を上げた。慌てふためき、身振り手振りを交えて抗議してくる。
「えっ? えっ!? でも、主である紫様を差し置いて式神の私がそんな差し出がましい事をするなんて……」
「私は現場の自主性に任せる主義よ。良かったわね、藍。寛容な主を持って。こんな所でくっちゃべってないで、さっさと都を調べてきなさい!」
「分かりました……」
 藍は、肩を落として書斎を出て行った。
 ふむ、問題が一つ片付いた。机の上にはまだ、返答すべき書簡や解決すべき案件が残っている。
 私は気怠く息を吐き、筆を取った。



「紫様ー。準備出来ました?」
 藍は、ガラリと襖を開けて部屋を覗き込んだ。藍は、商家の小間使いの娘に化けている。
 ゆゆこを連れて都を遊ぼうと言う算段で、周りの人間に気づかれない様に変装するように藍に頼まれた。まぁ確かに敵が多い身の上だ。私はその頼みを飲んだ。
 藍は私の身なりを見て取ると、呆気に取られた表情で口に出した。
「あの……紫様……。それはちょっと……けばけばしくありません?」
「なんでよ? 貴女の言う通り髪の毛もちゃんと黒に染めたわよ」
「いやちょっと……、胸元が開き過ぎてません? 裾も割過ぎて脚が見えてるじゃないですか。大事な所が見えるか見えないかのギリギリです。それじゃ遊女です!」
 私はシナを作ってみせる。
「世の男どもはこんなの好きなのよ?」
「お願いだからやめて下さい……。目立ったら駄目なんですってば!」
 藍が泣いて頼むので、大人しめの服に着替えてやった。改まった雰囲気で藍は切り出す。
「それで、紫様。どういう手筈でゆゆこを連れ出すんですか?」
「まず、私がゆゆこの能力を封じるわ。その後、スキマを使って貴女の指定した場所まで移動するわよ」
「あの死を操る能力はそんな簡単に制御することができるものなのですか?」
「そうね、能力としては強力なものなのだけど、力の制御は単純なものだわ。入り口を塞ぐだけで制御出来るはずよ。私ならすぐに力を封じることができる」
「分かりました」
「それじゃあ行きましょう」
 話も尽きた所で、意識を集中して空間を切り開く。藍は私の後ろでスキマが開くのを待ち構えていた。

 私は、西行寺家の蔵へスキマを開き、顔を覗かせた。スキマから身を乗り出してゆゆこに手を振った。
「はぁい、こんにちわ。また遊びに来たわよ」
 ゆゆこは眉根を寄せて睨みつけている。
「……帰って!」
「なによ、つれないわね。今日は本当に遊びに来たのよ? ちょっと手を貸しなさい」
「……なんですか?」
 ゆゆこの手を取ると掌を広げさせて、そこに印を刻み、ゆゆこの能力を封じる結界を張った。
「はい、封じたわよ。藍! 確保!」
「失礼します」
「……えっ。何!? ちょっと待って! 待って! そんな所掴まないで!!」
 藍は、慌てふためくゆゆこを抱え上げて、外へと続くスキマの前で振り返った。
「紫様。それじゃ、お先になります」
「私もすぐに行くわ。向こうで落ちあいましょう」
 藍は、律儀に頭を下げた。抱え上げられたゆゆこは山賊に拐われる町娘の様に泣き喚いている。私は、微笑んで見送った。

 私と藍は、ゆゆこを呉服屋に連れ込んだ。ゆゆこは、小袖と祖末な木綿の単《ひとえ》を二枚しか身に付けていない。名家のお嬢様としては貧相な出で立ちだ。
 呉服屋の主人が訝しげな顔で立ち尽くしている。藍に拘束されているゆゆこが未だ泣き叫んでるからだろう。
「あの……、なんの御用でしょうか?」
「高い物から順に持って来なさい。金なら幾らでも出すわよ」
 主人は胡散臭いものでも見る目で奥に引き返していった。使用人が奥から次々と着物を持ってきて、帳場の前に並べていく。
「あら、この柄いいわね」
「唐渡の絹の品です」
「包みなさい。藍、これもお願い」
 並べられていく着物からゆゆこに似合いそうな品を見立てていく。胡散臭そうな顔をしていた店の主人だが、積み上げられていく品物の山を前にして表情を変えた。
 使用人は、恐る恐る声をかけてくる。
「これは全部お持ち帰りですか?」
「ここで着替えていくわ。残りはここに届けなさい」
「承知しました」
 しばらくすると、使用人達がゆゆこを取り囲んで服を着替えさせている。泣いていたゆゆこだが、今では不思議そうに周りを見渡していた。
 藍は、帳場で支払いをしている。
「藍、支払いにいつまで時間かけてるのよ。次行くわよ?」
 藍は呆れ果てて怒鳴り返して来た。
「いや紫様。ゆゆこにこんなに十二単、たくさん着せちゃってどうするんですか!? ここから動けないですよ!」
「牛車呼びなさい。牛車! 次は髪結床行くわよ!」

 藍が頼んだ二台の牛車はやがてやって来た。牛車の中で私と藍は向かい合って座った。ゆゆこは、もう一台の牛車に押し込めた。今では御簾越しに都を珍しそうに見つめてる。
 藍は思案顔で切り出す。
「ねぇ紫様、こんなに気前良くお金出して大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。貴女を玉藻前《たまものまえ》に仕立てて鳥羽上皇から巻き上げたお金、まだ結構残ってるから。今の帝の弱みもしっかり握ってるし、お金は湯水の様に使いなさい」
 藍は苦々しげに呟いた。
「あの時のお金ですか……」
「なによ藍? 嫌そうな顔するじゃない」
「いえ、嫌な事を思い出しただけです……」
「あぁ、あの時の事ね。やっぱり私が行った方が良かったじゃないの。『こんな事、紫様のお手を煩わせるほどじゃありません。私にお任せ下さい!』なんて言うから貴女に任せたのよ」
 私の物真似の声音が予想以上に似ていた為か、藍はますます顔を曇らせる。
「だって、上皇があんなに助平のヒヒオヤジだなんて想像出来るはずもないじゃないですか! 閨《ねや》に毎日忍び込んで来るし、着替えも覗かれたし、挙句の果てには安倍晴明の末裔に追っかけ回されて、討たれかけたんですよ!!」
「助けたじゃない」
「討たれる寸前だったじゃないですか! もっと早く介入できたはずです。納得いきません!」
 藍はぷりぷりと怒っている。やっぱり、上皇に迫られて藍が狼狽えている反応が面白かったから放ったらかしてたのは失敗だったか。

 髪結床では、白粉を使った流行りの化粧を薦められたが断った。ゆゆこには未だ開花していないが普遍的な美しさがある。それを化粧で押しつぶしてしまうのは勿体無い。
 整髪をして薄化粧をさせた。珠を磨くように、自然な美を強調して現す。
 髪結床を出る頃には、宮廷の女房など歯牙に掛けない程の麗人が出来上がっていた。
 十二単を纏ったゆゆこは、緩やかに歩みを進める。それは何も意識していないのに周りを圧倒する存在感を放っていた。
 その表情は穏やかで、如月の淡雪の様。遠くにいるこちらまで桜の香気が漂ってくる様だ。立ち振舞は雅びを体現している。それは彼女が生まれながらにして天から授かったものなのだろう。髪結床の軒先が場違いなほど優美な麗人がそこに居た。
「いいじゃないの。なかなかきまってるわよ」
「……ありがとう」
 ゆゆこは微笑みを浮かべる。固く閉じた蕾が今、花開いた。
 本人は意識しないかもしれないが、宮廷の貴人達はこの様な麗人を目の当たりにしてほっては置かないだろう。しかしながら、ゆゆこが生まれ育った立場を考えれば誰も見ることがない徒花になるのだろう。だが、女人として生まれてこのように着飾る事は存在意義としても必要不可欠なものであるはずだ。彼女が生きていく上で、これは必要な経験となるはずであった。
 牛車のそばで藍も嬉しそうに頷いている。私はそれを見て話しかけた。
「じゃあ、次行くわよ。藍、どこ行くか決めているでしょ?」
「そうですね、六条大路にでも行きましょう。向こうに評判の甘味処があるそうです」
「あら、良いわね」
 私達は牛車を六条大路に向けた。少ししてその店に到着した。
 評判だという甘味処で、緋毛氈が掛けられた長椅子に腰掛ける。藍が、お茶の注文を店主に伝える。
 店主が茶を持ってきた。私は茶を取って、一口含む。苦味とともに茶の香りが広がる。
「なるほど、いい抹茶を使ってるのね」
 ゆゆこはおどおどと周りを見回している。気後れでもしてるのだろうか?
「なぁに、ゆゆこ? 好きなものを頼みなさい」
「……いいの?」
 私は、くすりと笑ってしまった。私達に気を使っているのか。
「気を使う必要は無いわよ。今日は貴女の為に都を見て回ってるのよ」
「……お父様は、ゆゆこはあまり食べ過ぎるなと何時も言っているから」
「ふーん、酷い父親ね。そんな事、考える必要無いわよ。貴女が好きなだけ頼みなさい」
 ゆゆこは小さく頷いた。それでもお品書きを手に取ろうとはしない。まったく、変なことに気を使う子だ。
「貸しなさい。私が決めてあげるわよ」
 幾つかの甘味を見繕って、注文してやる。ちょっとすると店主が甘味を運んできた。
 ゆゆこには白玉善哉を手渡してやる。ゆゆこは、おずおずとそれを口にする。
「どう? 美味しいでしょ?」
「……おいしい」
 やれやれ、手間が掛かる子だ。まずは、頑なな心を開いてやらないといけないな。ただ、不思議と世話を焼く事が面倒ではないのは彼女の特性かもしれない。

 ゆゆこが通りの屋台を見つめている事に気が付いた。
「ヤツメウナギの蒲焼きだって。珍しいわね。食べたいの?」
「……うん」
 まさしく深窓の令嬢だったから、民衆の文化が珍しいのかもしれない。私は笑顔で藍に指示を出した。
「藍、ちょっと向こうの屋台の品をいくつか買って来なさい」
「はーい」
 藍はヤツメウナギの屋台に向かって駆けてゆく。しばらくすると帰ってきた。
「買ってきました、紫様」
 藍は、一抱えも蒲焼きを買ってきてしまった。こんなに沢山、三人で食べられる訳が無いではないか。
「なによ、藍。こんなにいっぱい食べられないわよ。ねぇ、ゆゆこ?」
「……大丈夫」
 山積みにされている蒲焼きをゆゆこはぺろりと平らげる。私と藍は、大量の蒲焼きがゆゆこの中に消えていく様を呆気に取られながら眺めていた。
「いや……凄い食べっぷりね」
「……そう?」
 ゆゆこは小首を傾げてこちらを見つめていた。頬に少しだけ蒲焼きのタレが付いている。私が手巾で拭ってやると、ゆゆこは頬を染めて俯いた。これだけ見ると普通の美少女なんだけどな。
 しかし、人間はこんなに一度に大量に食べて大丈夫なものなんだろうか? 不思議な能力を持っているから、代謝量が違うのかもしれない。まぁいいか、ゆゆこが喜んでいるみたいだし付き合ってやろう。
 思えば、この時に気付いていれば後の悲劇は起こらなかったのかもしれない。



 何軒目かになる食堂から、許容限界を訴える腹を押さえながら帰る。耐えられない飽食感と戦っていた。慎重に鼻から呼吸をする。気を抜くと食べた物が逆流してきそうだ。
 この店は一体、何軒目だ? 一体、私は何をしているのだ? たしか、ただ、ゆゆこを連れて都で遊ぼうという話だったはず。何故、私がこんな過酷な状況を耐え忍んでいるのだ?
 私は、通りから牛車に戻ると、突っ伏して倒れた。
 牛車の中は猖獗を極めている。藍は仰向けで苦しそうに腹を抱えている。私は突っ伏せたままで藍に尋ねた。
「……ねぇ藍。どれ位、食べ物屋回ったかしら……?」
「……五軒目ぐらいから覚えていません。紫様……」
 藍は首だけをこちらに向けて恨めしそうな顔をする。怨嗟を込めた声で非難してきた。
「ゆゆこが頼む分には良いんですよ。なんで紫様まで一緒になって、競争するみたいにいっぱい頼むんですか!?」
「だって……私はもういいっていうとあの子、寂しそうな顔したのよ! 人間のあの子がまだ食べられるって言ってるのに、私が負けるわけにはいかないじゃない!」
「負けず嫌いもいい加減にしてください! 途中からスキマに放り込んでいるのは気付いてますよ!? 私は本気で食べてるんですからね! 付き合わされるこちらの身にもなって下さい!」
 牛車がゆっくりと止まった。前の牛車を見ると、ゆゆこが御簾を上げて、うどん屋を見つめている。
「次の店が決まったわ……行くわよ! 藍!」
「いや……ほんとやめて下さい紫様。このままだと私達ゆゆこに殺されます!」
 無理矢理に出ていこうとする私を、藍は後ろから羽交い締めにする。
 ゆゆこには、もう持ち合わせが無い事にして諦めさせた。すこし残念そうな顔をしていたのが恐ろしい。あのまま続けていたらどうなったのかは、あまり想像したくない。



 夕暮れが近づき、私達は帰路に着いた。とは言っても、スキマを使って西行寺家の蔵にゆゆこを送るだけだが。
「着いたわよ」
 ゆゆこは寂しげな表情で立ち尽くしていた。何か言いたい事でもあるのだろうか?
「なぁに? どうかしたのゆゆこ?」
「……ううん、なんでもない」
 なるほど、別れを惜しんでいるのか。
「別に今生の別れという訳じゃないわよ。また遊びに行くわよ。着物は蔵の中にでも隠しておきなさい」
「……うん!」
 まったく変な子だ。朝には散々泣き叫んでいたというのに、見ず知らずの妖怪に一日でなついてしまった。死を司る能力を除けば、ただの人間の少女なのかもしれない。
 死を司る能力……。そうだ、ひょっとしたら出来るのかもしれない。
「そうね……何時までも私が封印を張るのも面倒ね。貴女、自分で能力を操れる様に練習してみない?」
「……えっ? そんな事出来るの?」
「私達、妖怪の能力は、心の持ちようによって姿を変えるわ。貴女の想起するものは恐れや恨みばかりだから、あんな醜い死霊が出てくるのよ。貴女が美しいと思うものを考えなさい。多分、数年もすれば自在に能力を操れると思うわ」
「……そうなのかな?」
 ゆゆこはまじまじと自分の手のひらを見つめている。
 つい口元が緩んでしまう。まったく、変な子だ。
「もっと自分に自信を持ちなさい。貴女がその能力を持って生まれてきた事は、何かの意味があるはずよ。自分を信じなさい。周りの人間よりも貴女は高みに上れるはずだわ」
 この子は、私の幼い頃とどこか似ている。私は、境界を操る能力などというなまじ強すぎる能力を持つが故に、周囲から阻害されて生きてきた。過酷な世界と戦い続ける事で己を保ちここまで来たのだが、この子の一生も多分、私と似たようなものになるのだろう。
「……ゆゆこ、私達に付いてきなさい。私なら貴女を導いてやれる。貴女に本当の生の意味を教えてあげるわ」
 ゆゆこはきょとんとしている。やれやれ、話しすぎたか。私は苦笑いをした。
「すこし話し過ぎたわね。行くわよ藍」
「はい」
 スキマを開き、外へ向かう道を行く。振り返ると、ゆゆこは不思議そうな顔でいつまでも見つめていた。



 夕暮れ時の都の通りを藍と二人で歩く。立ち並ぶ家屋からは炊煙が立ち上っている。竹蜻蛉を持った子供たちが、嬌声を上げながら走ってゆく。
 藍は、何故か嬉しそうだ。ニコニコと上機嫌で話し掛けてくる。
「紫様、なんだか楽しそうですね」
「なによ? 変なことを言うわね?」
「いえ、なんだか紫様の意外な一面を見た気がします。ゆゆこと居る時は、紫様はとても優しい顔をしているんです。いつもは高慢ちきな事ばっかり言ってるのに……」
 藍を一発引っ叩いた。
「一言余計なのよ。いいじゃない別に。…………あの子はとても面白いわ。人間であんな異端が生まれてきた事が不思議ね。本来、ああいった例外的な存在は私達の側に居るべきなのよ。いずれ、私達の理想郷に連れて行ってあげようと思うわ」
 痛そうに後頭部をさすりながら、藍は苦笑して頷いた。
「それがいいと思います。人間の世界にいてもいつか殺されてしまうんじゃないでしょうか? それがゆゆこの為にもなると思います」
「言われなくてもそうするわよ。それにしても……」
 目抜き通りの夕暮れだというのに、人通りが全く尽きていた。閑散とした通りには私達の足音だけが響いている。
「藍。周りを見なさい。おかしな事になってるわよ」
 藍は慌てて周囲を確認する。呆けていた顔に緊張が走る。
「紫様。これは……」
「気が付いた? 何かが居るわ」
 辺りを見回した。逢魔が時の都は赤黒く染まっている。遠くでは喧騒が聞こえる。私達の周囲だけが人通りが途絶えているのか? 結界? いや、だけど、術式の気配を全く感じない。
 その時、後ろから押し殺した声が聞こえた。
「動くな、女」
 辺りには、禍々しいまでの剣気が満ちている。首の後には、刀の切っ先が突きつけられているのが分かった。
 やれやれ。私は手を上げた。
「お嬢様にちょっかいを出している妖《あやかし》はお前たちか。どんな小物が釣れるかと思いきや、予想以上の釣果だな」
 私は体ごと振り向いた。そこには若い、総髪で目元が涼やかな館侍が居た。刀を持ち直して、剣気を込めた目で睨めつけてくる。
「そっちの小娘は何だ? 何かが化けている様だな。主人を斬られたく無ければ動くなよ」
「…………」
「こちらもいいかしら? 誰よあんた?」
 館侍はじろりと睨みつける。
「魂魄家は西行寺を守る一振りの刃。俺は侍衛《じえい》の魂魄妖忌だ」
 まさか……剣聖・魂魄妖忌! コイツがそうなのか!
 評判は都中に鳴り響いている。剣術の腕は当代一。鍔音だけで鬼も逃げ出すと言われている。帝が召し抱えようとしても、仕えている主の元を離れなかったとは聞いていたが……、
「まさか、西行寺家だったとはね」
「何だ女? 嫌そうな顔をするな?」
「いや、自分の調査不足を痛感しただけよ。なんならついでに教えてくれない? 周りのこの状況は何よ? なんで人が居なくなったのかしら?」
「……この楼観剣は妖怪が鍛えた、見えぬものを斬る刀。魂魄流は、見えぬものを斬る剣術。俺が、この路地の人の流れを斬ったのだ」
 人の流れを斬った? 形而上の物が斬れるまで剣を極めてるとでもいうのか? 化け物かこの侍。自然と笑いが込み上げて来た。何故、最近になって規格外の人間ばかりに会うのだろう?
 妖忌は目を釣り上げて睨み付けている。
「……何を笑う女?」
「楽しいのよ。私が、片田舎に引きこもっている間に、都でこんな面白い事が起きてるなんて思わなかったわ。ずいぶん前に人間は見限った積りだったんだけど、なかなかどうして、面白いじゃない。だから……」
 スキマを使って妖忌の足を捕まえた。妖忌は、すぐさま飛び退いたが、一瞬の隙が出来る。私と藍はその隙を逃さず間合いを取る。
「ちぃっ!!」
「もっと私を愉しませなさい、魂魄妖忌!」
 呪符を三枚、妖忌に向かって投げつける。妖忌はそれにも構わず、こちらへ駆け抜けて来ようとする。
 呪符が接触する瞬間、妖忌の周りで光が瞬いたと思うと、呪符が全て切り落とされていた。
 疾い! 妖忌は足を止めず、疾走している。
 スキマを使って足止めするしかないか。右手を薙いで、空間を切り開き、とびっきり巨大なスキマを生み出す。
「無駄だ、女!」
 妖忌は、腰だめに刀を持ち替えたと思うと、裂帛した気合いを放つ。居合い抜きの要領で、スキマを斬った。
 スキマはゆらりと溶けて消えた。
 まずい! もう、妖忌との距離はそう離れていない。私は接近戦に備えて、身構えた。
「紫様!!」
 藍が私の前に飛び出した。駄目だ、斬られる!
「どけ! 小娘!!」
 妖忌は刀を上段に構え、私の前に立つ藍を真っ二つに、斬った。
「藍っ!!」
 私は慌てて、倒れた藍のもとへ駆け寄った。
「藍! 藍っ!!」
 藍は意識を失って倒れている。妖忌に真正面から真っ二つにされたはずだが、不思議な事に傷が無い。どういうことだ?
「……心を斬ったのだ。心配いらん。一晩もすれば目を覚ます。さて、」
 妖忌は後ろで見下ろしている。刀を肩にもたせ掛けた。
「お屋形様からは、お前の首を取ってくる様に言われている。だが、今のお前を斬るのは如何にも心苦しい。今回は見逃してやる。お嬢様の前に二度と現れるな。次、見かけたときは素っ首、斬り落としてくれる」
 妖忌は刀を鞘に納めて、立ち去っていく。
 今なら隙だらけだ、投げつける呪符を探して視線を落とすと、藍は腕の中でぐったりとしている。
「藍……っ!」
 駄目だ! 今は引くしか無い。
 私は、悠々と引き上げていく妖忌の背中を睨みつける事しか出来なかった。



 隠れ家の台所は使いにくい。藍はよくこんな面倒な配置に慣れているものだ。桶に水を汲んで、藍の部屋に戻る。
 藍は布団に横たわっている。昨日、妖忌に斬られてからまだ、意識を取り戻していない。
 藍の額に乗せてある手ぬぐいを桶に浸し、絞って顔を拭いてやる。
 捨て子だったこの子を拾ってどれだけ経ったのだろう? 藍とは私が大陸を旅をしている頃に出会った。九尾の狐などという不吉を象徴する存在であるがが故に、人間達に捕まって殺されかけているのを私が助けてやったのだ。
 藍の顔を眺めた。大人に向かいつつあるとはいえ、まだ幼さが残る顔立ちだ。
 男女の駆け引きなんてまだ分からないだろうに、よくも上皇に色仕掛けしようなんて頑張ったものだ。まぁ、私も少し趣味が悪かったとは思うが。
 それにしても、魂魄妖忌。抜身の刀の様な侍だった。奇襲だったとはいえ、対峙している時は恐怖を感じた。藍が庇ってくれないと、私が斬られていただろう。
 私が見つめていると、藍は薄く目を開いた。ぼんやりとした顔で私を見る。
「…………紫、さま?」
「起きたのね、藍? 良かった。そのままで良いわ」
「……どうして、私は隠れ家で寝ているんでしょうか? ゆゆこは? ……そういえば、あの侍!」
 藍は、辛そうに身を起こす。私を見て、凄い剣幕で叫んだ。
「紫様! お怪我は!?」
「私は大丈夫よ。ただ、貴女は一晩も目を覚まさなかった。でも、その調子なら大丈夫そうね」
「まさか、一晩中付き添ってくれてたんですか!?」
「別にいいわよ。そのまま寝てなさい」
 藍が心配で忘れていたが、今頃になってふつふつと怒りが湧いてきた。
「……あの唐変木の三白眼侍。絶対、復讐してやる! 捕まえてボコボコにしてやる!」
 藍は気弱そうに口を開いた。
「ねぇ、やめましょうよ紫様……。人間一人ぐらいどうでもいいじゃないですか。紫様の御身に何かあると心配です」
「これは私の威信の問題よ。仮にも数千年生きた大妖と言われている私が、人間一人相手に虚仮にされたと知れたら、付いてくる者なんて誰も居なくなるわ! これまでの計画も、幻想郷も全部オジャンよ! いつまで寝てるのよ藍! さっさと起きなさい! 西行寺邸に行くわよ!」
「はぁ……」


 愚痴る藍を引き連れて西行寺家に向かい、復讐に向けての下準備を済ませた。あまりいい顔をしないゆゆこだったが、なだめすかして言う事を聞かせた。
 今は藍が路地を行くのを、こっそりと後ろからスキマで覗き見ている。背中をしゃんと伸ばして、緊張した面持ちで藍は歩いている。
 藍が行く先には魂魄妖忌が侍衛の日課の寺参りを終えて何も知らずに帰宅の途へ付いている。私は藍に妖忌を付けさせているのだ。
 藍は時折、振り向いて私の態度を窺う様な様子を見せる。私は手を払って藍を追いやる。いまだ覚悟が出来ていないのだあの小娘は。耳打ちをするためにスキマを開こうとした時に、妖忌は振り返った。
「……なんの用だ小娘?」
 気付かれていないと思い、後を付けていた藍はぎくりとして肩を震わせる。
「いえ、あの、私は止めた方が良いと言っているのですが、紫様がどうしても貴方とお話をしたいと言っているのです」
「あの女か。話すことなど何も無いな。帰ってお前に会う必要は無いと伝えろ」
「いえ……それが、『ゆゆこは預かった。身柄を無事返して欲しければ私達に従え』と伝えろと紫様が……」
 妖忌は一瞬で殺気立った。
「…………小娘。女の所に案内しろ。ゆゆこに手を出したら、お前らは刹那でなます切りにされていると思え」

 妖忌を連れた藍が西行寺家の蔵へ入ってきた。殺気立った様子である妖忌と対照的に、藍は疲れきった様子である。
 私は腰に手を当て、高飛車に扇子で口を隠しながら声を張り上げる。
「よく来たわね魂魄妖忌! ゆゆこはここに居るわ。ほら、ゆゆこ何とか言いなさい!」
 私の後ろに居たゆゆこは、おどおどと妖忌と私の顔を見比べて、困ったような顔で妖忌に向けて助けを求めた。
「よ、妖忌助けてー……紫に殺されちゃうかもー……これでいいのかなぁ紫?」
「演技下手ねぇ貴女。まぁいいわ。分かったわね? ゆゆこの身柄はあんたのこれからの行動に掛かってるわよ妖忌!」
 妖忌は難しそうな顔をして腕を組んでいる。私の顔とゆゆこの様子をまじまじと眺めて口を開いた。
「あのな、ゆゆこ……俺はこの道化に付き合わないといけないのか? お屋形様に気付かれなければ、俺はお前の人付き合いに口を出すほど野暮じゃないぞ? まぁ付き合う相手は選べとは思うが」
「う……ごめんなさい妖忌」
「…………」
「…………」
「…………」
 なんだこれは? なんとなく微妙な空気になってしまった。三人の視線が痛い。
「……それはともかく! 昨日はよくもやってくれたわね! うちの藍に手を出して、私が只で済ませるとは思わないことね!」
 妖忌は心底済まなそうな顔をする。え、なにその反応? 怒ってもらわないとこちらもやりにくいのだが……。
「済まなかったな娘。名前は藍と言ったか? お屋形様の命で脅かさなければいけなかったのだ。済まなかった」
 妖忌は深々と頭を下げる。藍は慌てて手を振った。
「い、いえ私はぜんぜん大丈夫です。痛みも無かったですし。頭を上げて下さい」
「…………」
「…………」
「…………」
 ど、どうしよう? 意外と物分かりが良いぞこの侍。色々と計画してたけど、こんな状態になるのは想定してなかった。
「……とにかく! 私はあんたの事絶対許さないからね! 武器を捨てなさい!」
 三人は顔を見合せる。藍の視線が冷たい。
「紫様……。小物臭が凄いです……」
「らーーん、何か言った!?」
「いえ、何でもないです……」
「全く、難しい主を持つと大変だな。お互いに」
「……痛み入ります」
 妖忌は藍に二本の刀を手渡した。藍は丁重に受け取ると遠くに離れた。
「武器を捨てたぞ。これでどうするのだ、……ふむ?」
「……妖忌、紫よ」
「ありがとう、ゆゆこ。紫とやら、これでゆゆこは解放してもらえるのだろうな?」
 私は目を吊り上げて切り裂くような笑みを浮かべて妖忌に歩み寄る。袖口から呪符を抜き出し、何時でも使えるように準備した。
「覚悟はできてるんでしょうね? これは私を馬鹿にした罰よ」
 加虐的な靴音の響きを出して妖忌の前に立つ。苦痛を与えるべく呪符に妖気を込めて振りかざすと、後ろから二人が声をかけてきた。
「紫様ー……、本当にやるんですかー?」
 藍は情けない表情で立ち尽くしている。あたかも、大妖怪であるはずなのに人間の同情で復讐を果たそうとしている情けない主を見るかのような見下した目で。
「……紫。止めてお願い。妖忌はお父様に言われてやらされているだけなのよ」
 ゆゆこは純粋無垢な目で私を見つめ懇願している。この子は私の事を疑っていないのだ。思わず手が止まる。
「いえ……いいんです。なんであれそれで結果的に紫様が満足であれば……」
 生暖かい目で作り笑いをする藍。馬鹿にしてる。正直ムカつく。あとでしばき倒す。
「……私は信じてる。紫はそんな卑怯な事はしないはずよ」
 胸の前で手を組み真っ直ぐな瞳でこちらを見つめるゆゆこ。何をそこまで期待されているのだろうか? 希望を込めた目で見つめられても困る。
 なんでこの私がここまで追い詰められないといけないのだろう? 妖忌は神妙に目を閉じて立っているし。鬱屈した感情は暴発せざるを得なかった。
「知らないわよ、もう! あんた達で勝手にやってればいいじゃないの! バーカ!」
 スキマを開いて飛び込んだ。藍が、待ってください! と叫ぶ声が聞こえたが構わずスキマを閉じた。
 涙が滲む。何で私がこんな屈辱を受けないといけないのだろう? 悔しさのあまり、しばらくスキマの中で膝を抱えて座っていた。
 十分ほど経って、藍の事が心配になって来た。スキマを少しだけ開いて、西行寺の蔵を覗き見る。

 三人は車座になって何やら話している。主が敵対している相手といい感じに馴染んでいる藍は気に入らないが、話している内容が気になったので聞き耳を立てる。どうやら私の事を話している様だ。
「それにしても信じられぬな。あんな者が妖怪の長だというのか?」
 妖忌だ。あぐらを組んで疑問をそのまま口にしているといった様子だ。藍は愛想よく頷きながら妖忌の質問に返答する。
「ああやって悪ぶっていますが、仕事は細かくてマメですし、本人は自覚無いですけど、性根はとことん真面目だから、いつもいろんな妖怪に頼りにされちゃうんですよ」
「ふむ、それは俺も話していて分かったな。まさか大義名分を最後まで押し通そうとするとは思わなんだ。普通の妖怪ならあそこまでコケにされたら途中で、じれて襲い掛かってくるものだが」
「……私は分かるよ。紫はとっても優しいもの。みんなのことを考えて困ってしまったんだよ」
 藍はぽりぽりと額を掻く。
「多分、ゆゆこの言うとおりなんでしょうね。紫様は妖怪になる前は天竺の豊穣の天女様だったし、結構な苦労人なので情が深いんです。今は高飛車な性格をしてますけど、あれは妖怪の長になってからなんですよ。本来、聡明で優しい方なので、みんなの期待に答えるために相当に無理してあの態度を作ってるんだと思います。今回の一件も私が寝込んでるのをみて逆上しちゃったんじゃないかなぁ」
 藍が、明らかに調子に乗っているのが分かる。敵にぺらぺらと私の情報を話すなど言語道断。しかも、恥ずかしい内容ばかり! 顔が充血して赤面しているのが分かる。あとで式をひっぺがして折檻してやる。
 妖忌は困った顔をして腕を組む。
「全くすまぬことをしたな。お屋形様はゆゆこの事になると見境が無くなるのだ。お前の主にも謝っておいてくれ」
「いえ、妖忌さんは立場上仕方ない事ですよ。……ただ、紫様は納得してくれるかなぁ? 機嫌を治してくれると良いんですか……困っちゃうな……。紫様はしばらく根に持ちますよ、あの様子だと」
「……藍が怒られちゃうの?」
「いえ、それならまだいいんですが、口も聞いてくれなくなるんです。部屋に閉じこもって出てこなくなっちゃうんですよ。紫様が返信しないといけない用件が溜まっていくから、結果的に私が怒られるんです」
 盗み聞いた話の内容では、従者である藍ならともかく、なんで敵である妖忌にまで気を使われないといけないのか? 悔しいやら情けないやらで鼻の奥がツーンとしてくる。私は一人、スキマの中で声を押し殺して、泣いた。



「…………眩しい」
 窓からは、昼過ぎの猛烈な暑さを含んだ直射日光が差し込んでくる。動きたくないけど、暑いので体を動かして日差しを避けた。
 頭が重い。全身が怠い。偏頭痛がする。
 ずりずりと引きずる様にして身体を起こした。寝汗が肌にまとわりついて気持ち悪い。
 どれだけ寝たのだろう? 確か、西行寺邸から帰ってきて、そのまま寝床で泣き疲れて寝てしまったようだ。
 喉が渇いた。藍を呼ぼうか?
「…………」
 ……自分で行こう。顔を合わせたくない。

 身体に動き出す力が入るまでボーっとして、寝床から抜け出すのに半刻掛かった。
 這う様にして障子に辿り着き、縋りつく様にして戸を引いた。
 風がが部屋に吹き込む。今まで居た寝室が生ぬるく汚れた空気だったのに気が付いた。これは部屋を閉めきって2~3日は経っているな。出不精になっている。良くない傾向だ。気分が沈み込んでいるとこんな症状がでる。
 所々にある柱に縋り付きながら水瓶を目指す。目の前が霞む。ここがどこなのか分からなくなってきた。なんで自分の隠れ家で遭難しかかっているのだろうか? 藍に助けを求めれば済むだろうが、今の状況では意地でも口を出されたくない。こっそりと廊下を這い進む。
「……もう少し……」
 水瓶までの旅路は道半ばといったところ。あの角を曲がればたどり着ける。
 震える手で柱を辿っていると、途中の襖が無慈悲にも開かれた。そこには藍が驚いた表情で立っていた。
「紫様!? 良かった! 今日は起きて来られたのですね!」
「…………なに?…………藍?」
「……いえ、まさか三日も寝込むと思わなかったので心配しました。朝食を用意しますね」
「…………うん」
 結局、藍に居間に引っ張り込まれてしまった。無理矢理に座卓の前に座らされた。藍は、何やら上目つかいで質問をしてくる。
「仕事が結構溜まっちゃってるんですが……ひょっとして、今は誰とも話したくないですか?」
「…………ごめん」
 藍は、一瞬困った顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻し返事をする。
「いえ、今日は予定が無いので大丈夫ですよ」
「……………………ごめん……なさい」
「だから大丈夫ですって。お茶ついできますね」
 藍はお勝手に歩いて行った。
 ぼんやりする。頭のなかが綿が詰まったように真っ白だ。
「……う、…………くっ」
 自分が不甲斐なくて涙が溢れてくる。藍に気付かれると心配させてしまう。そっと、袖で拭った。
 妖怪たちと言うのは結局の所、人間に迫害されてきた異端の民なのだ。人間達よりも寿命が長く力も強いといえども、数で勝る人間達に追い詰められ住処を失っていた。その妖怪達に理想郷を与えるために、私は力を尽くしてきたのだ。それなのに、私がこんな風に情け無いのではどうすればいいのだろう?
 藍がお勝手からお盆をもって帰ってくる。
「ねぇ藍…………、もうやめようかしら…………?」
「えっ?」
「こんな私が……妖怪達の長なんて務まる訳ないじゃない……。貴女にも迷惑掛けてばかりだし………。私なんて、いっそ何処かに消えてしまった方が……」
 藍は溜息を付いて肩を落とした。
「……もー紫様ー。いつも思うんですが、なんでちょっと失敗するだけでそこまで思いつめちゃうんですか?」
「……えっ?」
「私達についてきてる妖怪って割と適当な連中ばかりですよ。みんな責任を取りたくないから紫様に全部押し付けてるだけです。紫様がそこまで考えてやる必要は無いんです」
「そう……なのかしら……?」
「そうです! 紫様は考えすぎなんです! まったく……普段自信満々なのにへこみやすいから世話が焼けるんですよ」
 ブツクサと呟きながら藍は配膳をおこなっている。居間の机の上には朝食の膳が並べられていった。

 3日ぶりに食べる朝食は美味しかった。湯呑を傾け、久方ぶりに余力を取り戻しているのが分かる。
 奥の部屋より藍が声を掛けてくる。
「御髪《おぐし》梳かしましょうか、紫様?」
「…………」
 二の間では藍が鏡と櫛を用意して控えている。
 そうか、帰って来てそのまま三日も寝ちゃったから髪がボサボサになっている。髪が長いから寝る前にまとめないと爆発するのだ。手櫛で髪を梳くと絡まった箇所に引っかかる。
「…………お願い」
 鏡を覗きこむと、目が真っ赤で、むくんだ顔が映し出された。
「醜いわね……」
 見慣れた己の顔とはいえ、ここまで放置をして荒れ放題になっていると見るに耐えない。
 藍は後ろから櫛を使って髪の毛が絡まった部分を解き解してくれる。
「折角、絹のような髪なのにお手入れを怠っていては台無しですよ? 見てくださいここの部分なんてぼさぼさです」
「……ごめんなさい」
「まったく、なんでそこまで落ち込んでいるんですか? 妖忌さんですか? 私が気にしていないので紫様もそこまで落ち込む必要はないんですよ。確かにプライドを傷つけられたというのは分かりますが、仕方ないじゃないですか。向こうの立場もあるのに一方的に考えを押し付けるわけにもいかないでしょう」
「単に、私の実力不足に気が付いただけよ。人間にまで負ける様では妖怪を束ねるなんてできないわね」
「妖忌さんは私達のことにまで干渉してくるつもりはないようですよ? あの方の関心は西行寺家を守りぬく事だけです。こちらも干渉しなければいいだけの話では?」
「私は、死を司る程度の能力に囚われたあの子を救い出したいだけ。それ以外のことなんて知らないわ」
 藍は鏡越しに微笑んで答えた。
「それでいいんじゃないんですか。ゆゆこを救う為に関わってるだけで、西行寺家に関わるつもりは無いのならば別にあちらから言われる事はなにもないはずです」

 私の調髪は済んで、藍は奥の部屋で鏡と櫛を片付けている。私はなんとなく人心地付いた気分で庭を眺めている。
「藍、あの子の所へ行ってみようと思うの」
 藍は、微笑み頷いた。
「行きましょう。きっと首を長くしてまっていると思います」
 二人の意見が一致したので、藍の身の回りの整理が終わった後、西行寺家に向けて出発した。



 西行寺家の蔵へスキマを使って移動した。スキマから見える光景を覗きこむとゆゆこは蔵の奥に座り込んで何かをやっている。
「また来たわよ、ゆゆこ。何をやっているの?」
「来てくれたのね二人共……見て、紫」
 ゆゆこが手を差し出すと、桜色の蝶が現れた。蝶は鱗粉を散らしながら天井に向かって羽ばたいて行く。ゆゆこの周りには同じ蝶が何匹も舞っている。
 私は目の前を飛ぶ蝶を捕まえようとした。
「……触ると危ないかも……それは死んだ人の魂だから」
 まさか、この短期間の間に死霊を操る方法を身につけたのか? いくら才能がずば抜けてると言えども早すぎる。
 ゆゆこの心持ちが変わったのか。生きるもの全てを呪っていたゆゆこの心が解き放たれたから、死霊も姿を変えたのだろう。
「凄いわ、ゆゆこ! こんなに自在に操れる様になるとは思ってなかった」
「……ううん、紫が力の使い方を教えてくれたから」
 蔵の中は死者たちの燐光でほのかに紅色に輝いている。とてつもない進化を進めていくゆゆこを前にして私は考えを改めざるを得なかった。

 人間は単なる妖怪の隣人としてではなく、最近では迫害する者としての印象が強かった。たとえ、住処を追い出され住む所を奪われたとしても、パワーバランスを調整することで住み分けることが出来るのではないかと思っていた。
 だが、この子、西行寺ゆゆこと出会ってから私の世界は変わった。
 悔しいがこの子は、そのうち私より高い領域まで辿り着いてしまうのだろう。
 人間でありながら妖怪以上の能力を使いこなし、更に高い領域まで辿り着こうとしている。
 人間の中にも私が理想とする世界、幻想郷へ導いてやらねばいけない存在がいる。
 幻想郷の計画はこれを期に大きく見直さなければならない。私の中でそんな気持ちが大きくなっていた。
 けれどもそれでよかったと思う。全ての現実から否定される存在を受け入れる理想郷『幻想郷』。そんな異端しかいない世界を作るためには妖怪以外の要素も必要であると気付かされた。いずれにせよ、私の持てる力を全て使い、やりきってやろうという思いをまた新たにしたのである。

 私は薄紅色の鱗粉を散らしながら輝く蝶と戯れるゆゆこを見ながらそんなことを考えていた。

 そんな日々が続くと思っていた。あの妖怪桜が胎動を始めるまでは。


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 富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ、
 その魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印しこれを持って結界とする。
 願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ……

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 ゆゆこと一緒に引き起こした騒動から二週間後、私は幻想郷を作るために買い取った山奥の山村にいた。
 ここを隠れ里に改造しようとしているのだが、都からの指示では作れない作業などがあって私が直接出向いているのだ。
 森の伐採作業は順調に進んでいる。しかしながら、里の木材を調達するにはここの森林の木の種類は向いていないようだ。どこからか松や杉などの固い種類の木材を調達する必要があるだろう。
 また、隠れ里を作るには一種の結界を張らなくてはいけないのだが、その作業は複雑すぎて、私が直接行ったほうが良かった。
(さてと……)
 現場での仕事も嫌いな訳ではない。むしろ最近は都の隠れ家で書簡での指示ばかりをしていたので、直接体を動かすこんな作業は久しぶりで気分がいい。
 奇門遁甲の方式に從って方角を割り出して、結界のために立てる神社などを決めていく。作業は順調。設計図に線を引いていく。昼すぎまでには殆どの作業が完了していた。
 その時だった、背筋にピンと張り詰めた雰囲気がした。何かが訪れようとしている。
「藍?」
 空間を引き裂いて藍がこちら側に飛び込んでくる。
「……紫様! 都で大変なことが起きています!」

 西行寺家の庭には一本の桜の古木がある。曰くなどはなにもない只の桜の木のはずだったが、藍が話すことには最近になって妙な噂が流れ始めているという。
「西行寺家の桜は死を呼ぶ」
 事の発端は西行寺家の主である歌聖が自らを桜の元で入滅するという歌を詠んで、実際にそれを実現してみせたからなのだという。
 それから老若男女の区別もなく、西行寺の桜に関わりがある人が次々と不審な死を遂げているというのだ。今では関わりが薄い、近所に住んでいるだけという者まで死の連鎖が広がり始めている。
 今ではその桜は西行妖と呼ばれている。

「西行妖……死を喰らう桜……」
「多分……というか間違いなくゆゆこが関連していますよね? 急いでゆゆこの様子を見に行った方がいいんじゃないんですか!」
「なぜあの子がそんなことを……何かが起きているわね。行くわよ藍」
 私と藍はスキマを使い、都へ向かった。

 都の通りは人通りが絶えて閑散としている。西行妖の影響を恐れて、人々は家に引きこもっているのだという。
「まずはゆゆこの所へ向かいましょう」
「わかったわ」
 西行寺家の蔵へ向かってスキマを開く。

「ゆゆこ? 居る?」
「……紫!」
 ゆゆこは少し青い顔をしているが、元気そうだ。
「ねぇゆゆこ、庭の桜。西行妖についてなにか知っていることはないかしら?」
 ゆゆこは俯き加減になりながらも答える。
「……お父様はあの桜の元で眠る歌を読んで、そのとおりに入寂した。それからあの桜は狂い咲きの様に激しく桜の花を咲かせているわ。そして時折、桜の根元から私を呼ぶ声が聞こえるの。一緒になって仏になろうというお父様の呼び声が」
「歌聖はあの桜の元で入寂したのね。それで従者を集めているのだわ。一種の天界を成立させるために、魂を集めているのよ。あの桜は封じないといけない! 際限なく魂を集めて大きくなるわ!」
 ゆゆこは青ざめた表情で呟きがちに言葉を紡いだ。
「私は……、あの桜の満開を見なければいけない……」
「ゆゆこ……? 貴女なにを言って……」
 ゆゆこの頬を銀色の筋が伝う。
「お父様が死ぬ前に話したの。ある時、お父様は高野山で修行中に人間を生み出す禁呪を行ったのだと。その結果生み出されたのが私なの。その禁呪の償いのために私は、お父様の入寂に従い、共に死ななくてはならない」
「……えっ!?」
 ゆゆこは人為的に生み出された存在だというのか? つまりは反魂の術。古今東西に禁忌の術があれども反魂の術ほど忌み嫌われた術はない。黄泉の世界と現世を繋ぎ、死者を蘇らせる術だ。実際の術では何かしらの代償を必要とするはずだが……。
「私は満開の西行妖の元で自害しなければならないのよ……」
「ふざけないで!! なぜ父親の罪で貴女まで死ななければならないのよ!」
「それが、私が生み出された宿命だから……」
「……今の貴女にはなにを言っても無駄ね。都から逃げ出すわよ。そのうちに迎えに来るから準備しておきなさい」
 冷ややかに見下ろす私の視線を受け止めて、ゆゆこはそれでも信念を曲げない様に見上げている。
「いい? 貴女の為を思って言っているのよ。お願いだから私の言うことを聞きなさい。桜が満開になる前にまた来るわ」
 スキマを開き、西行寺家の蔵から離れる。残していくゆゆこの事が頭から離れなかった。



 西行寺家の蔵から隠れ家に帰ってきて、西行妖に付いて調べてみた。
 反魂の術の代償はさまざまあれど、大概の場合は、術者がその死後に契約した黄泉の使者の手に魂を委ねるというのが大体の場合の様だ。
 術者の歌聖は死後、黄泉の使者に魂を持って行かれたのだろう。その代償として生み出されたのが西行妖。人間が集まる都のど真ん中で黄泉と現世の蓋を開いたのだ。予想される死者の数はとてつもないものになる。
「……そういうことなのね。嫌らしい」
 西行妖を封じるためには、反魂の術自体を無かったことにするしかない。つまりは西行寺ゆゆこの魂を黄泉に返すしか無い。何者が、反魂の術の契約に関わった者なのかは知らな
いが、最初から歌聖に何一つ渡す気は無かったということなのだろう。
 死を司るというゆゆこの能力も、反魂の術で生み出された存在であるが故に備わったのかもしれない。
 だが、今となってはどうでもいい。西行妖が人間の魂を食い散らかそうが、妖怪である私達には関係ない。
 西行妖は五分咲というところだ。満開になる前にゆゆこを説得して、幻想郷まで逃げるしか無い。



 最後に、ゆゆこに会った日から、数日経とうとしている。伝え聞かされれる話では西行妖はいまだに人間の魂を食い荒らしているらしい。桜はもうじき満開になろうとしている。そろそろ頃合いの時期だろう。ゆゆこを拐って幻想郷まで行こう。
「藍、そろそろゆゆこを連れて幻想郷にいくわよ?」
「はい、今の都は危険になっていますからね。気をつけて行きましょう」
 再び、西行寺家の蔵へスキマで繋ぐ。
「ゆゆこ、居る?」
 蔵の中は、土壁に染み入る程の静寂に包まれている。
(……居ない!?)
 蔵の入口が開かれて、空気が外に流れ出ている。辺りには桜の香気が漂っていた。
「紫様! ゆゆこが外に!」
「! 行くわよ藍!」
 蔵から飛び出してゆゆこの後を追う。
 西行寺家の庭の光景は、西行妖の騒ぎが嘘のように静寂に包まれている。木々は青々として、人間の営みである屋敷を飲み込みそうだ。グロテスクなほどに満開の桜。私達はそこに辺りを付けて駆けつけようとしていた。
 そんな私達の前に一つの人影が現れた。
「……どきなさい、魂魄妖忌」
「駄目だ」
 妖忌は力感なく懐手で現れた。無表情で何を考えているのかわからない。
「なんのつもりよ! 早くしないとゆゆこが!」
「分かっている。ゆゆこはこれから西行妖の下で入滅する。お屋形様の言いつけだ。西行寺の宿願はそれで成立する。お屋形様はその為に歌を詠んだ……ゆゆこはその為に生まれた。いわば、宿命だ。諦めろ、紫」
「…………宿命ってなんなのよ!? 人間は何を考えて生きているの! 脆弱で、すぐ死んでしまうくせに、自ら死を選ぼうとするなんて! …………私は死を美化なんてしない。ゆゆこは私が連れて行く。ゆゆこは私達と生きていく!」
 妖忌は空を見上げた。随分と長い間、空を見ていた。溜息を一つ付いて、私を見た。その眼差しは優しい目をしている。
「……俺はな、紫。俺の考えではお前を通してやりたいと思っているんだ。だがな、魂魄家としての俺は、西行寺の成す事を見届けないといけない。それが俺の宿命だ」
 だからな、と言葉を継いで、妖忌は刀の鯉口を切った。
「ここを通りたくば、俺を殺せ、紫」
 妖忌は覚悟を込めた目でこちらを見つめている。こんな決死の覚悟で向かって来られたらこちらとしても本気で立ち向かうしか無いではないか。
「やる気……なのね……仕方ないわね、行くわよ藍!」
「はい!」
 スキマを開き、呪符を噴出させる。辺りには結界が展開される。噴出した呪符は式神に変化して、妖忌を中心に回り始める。
 袖口から直接攻撃用の呪符を取り出した。
 妖忌は、一直線に抜刀術の構えでこちらに駆け出してくる。相変わらずに疾い。私は、攻撃用呪符を、両手に持てるだけ全て投擲した。
 呪符は妖忌を追尾して接触しようとする。その刹那、妖忌は一瞬で抜刀して呪符を全て切り落とす。そのままの勢いでこちらに踏み込んでくる。
「――また来たわね。今回は前みたいに下手を打つとは思わないことね!」
 式神になった呪符を操作して結界を操る。幻と現の境をずらす。レンズの様になった境界が極太の陽光の光線を作り出す。
「触れたら一瞬で焼き爛れるわよ。迂闊に近寄らないことね!」
 妖忌は足を止めた。いまだ! 陽光の光線を妖忌に向けて放つ。
「不注意だな、紫!」
 光線が接触したと見えた一瞬、妖忌の姿が消えた。
「!! どこに!?」
 殺気が首筋に落ちた。私は慌てて飛び退いた。次の瞬間、そこに妖忌の刀が落ちていた。
「……どういうこと、確かに命中したはず……?」
「魂魄流は見えぬものを斬る剣術、光線が命中した時間を斬ったのだ」
 私と妖忌が肉薄した一瞬、藍が飛び込んできた。
「紫様!」
「ちぃっ!」
 間合いが離れる。私はその一瞬を見逃さず、スキマの中に逃げ込んだ。
「逃がさん!」
 妖忌は境界を切り裂いて、スキマの空間の中まで追ってきた。
(不味い! このままじゃ!)
 スキマの空間を飛び出した。結界を操作して妖忌がいる辺りを何重にも重ねて封印する。
「紫様! 大丈夫ですか!?」
「藍、手伝いなさい。畳み掛けるわよ!」
 空間が引き裂かれたと思うと、妖忌は何重もの結界を刀で切り裂いて追いかけてきた。
「いい加減に離れなさい!」
 巨大なスキマを妖忌に向けてぶつける。妖忌は、そのスキマを居合い抜きで切り裂いた。そのスキマに隠れていた藍は飛び出して、拳で妖忌の胸を突いた。
「がはっ!!」
 妖忌は膝から崩れ落ちる。いくら化け物じみた剣術を使うとはいえ、強靭な妖怪の肉体と比べれば、脆弱な人間の身体である。今の一撃は応えただろう。
 刀を杖代わりにぜいぜいと肩で息をする妖忌。決着は着いたか。急がなければゆゆこが間に合わなくなってしまう。
「決着は着いたわね、急ぐわよ藍!」
「……まってくれ紫」
 喘ぎながらも私を呼び止める妖忌。急ぐのに何のつもりだろうか。
「……妖怪がなぜ人間の命を救おうとする? お前たちにとっては足下の小石ほども意味のないものだろう」
「本当に見損なうわよ魂魄妖忌。あの子は死を司る能力なんてとんでもない能力を持ちながら、世を儚んでいた。私ぐらいしか導く者が居なかった。目の前でそんな儚い子が消えていこうとするのなら私でも助けに入るわよ」
 妖忌は血を吐きながらも言葉を継ぐ。
「済まなかった、速く行ってくれ、時間はそう経っていないがゆゆこは覚悟を決めている。従者であるが故に俺には救うことが出来なかった。後はお前たちに託す」
「言われるまでもないわよ。行くわよ藍!」
「はい、紫様!」
 駆け足で庭の一角を後にする。妖忌は、苦しそうに胸を押さえていた。



 私はゆゆこを助けられると思っていた。だからそれを見た時に一瞬、目を疑った。
 狂おしい程の満開の桜の下、一人の少女が倒れている。 少女の周囲には血が溢れて、少女も緋色に染まっている。自刃したのか血塗られた刀が落ちている。
 私はその側に立った。
 その目は虚空を見上げ、どこまでも虚ろで、もう何も見えてはいない。
「……ゆゆこ……っ!」
 私はその遺骸をかき抱いた。
 間に合わなかったのか。どうして、どうすれば、今更考えてもゆゆこは帰ってこない。
 満開の桜は何事も無いかのように花弁を散らしている。辺りは静寂に包まれていた。
「……西行妖!」
 胸の奥から突き上げてくるドス黒い感情に突き動かされて、西行妖のグロテスクな樹皮を殴りつけた。
 殴りつけたのに返ってきたのは拳の痛みだけだった。構わなかった。何度も何度も西行妖を殴りつけた。拳から出血して血が地面に落ちる。
 いくら西行妖を殴りつけてもゆゆこは帰ってこなかった。私は地面に両手を叩きつけて、泣き伏せた。



 あれから何時間立ったのだろう。私は泣き伏せて動けないままでいた。
「紫様……そろそろ行きましょう。人が来てしまいます」
「………………行きたければ貴女だけで帰りなさいよ…………私はここに残る」
 藍は悲しそうに俯いたまま、その場に立ち尽くしていた。
 その時だった、藍は何かを嗅ぎつけた様に鼻をひくつかせる。屋敷の塀の上を睨みつけて叫んだ。
「……なにをしに来た死神!」
「やっほー、八雲の狐。そんなにいきり立つなよ。今日はいつもみたいにあんたと丁々発止とやりあおうって訳じゃないのさ。今日のあたいはボスの護衛さ。ねぇ四季様?」
「ふむ、あれが西行妖ですか? 黄泉への穴とは思えませんね、小町」
 そこには背筋を真っ直ぐにして姿勢正しくした四季映姫・ヤマザナドゥと、死神の大鎌を無造作に肩にもたせ掛けた小野塚小町がいた。
 彼岸の新任閻魔の四季映姫とは折り合いが悪く、いつも対立しているのだ。特に、幻想郷周辺に小野塚小町が出現してなにやら嗅ぎまわっているのを、藍が追いかけているのをよく見かける。
 小町と映姫は塀から地面に飛び降りる。
「紫様に近寄るな死神!!」
「西行妖を調べるだけさ。あんま突っかかるなよ狐」
「どうですか小町? なんとかなりそうですか?」
 小町は悲鳴を上げる。
「信じられない、無理ですこんなの! うちの実働部隊の連中、総動員しても、百年や二百年で止められるかどうか……」
「まったく、こんな大事になる前に早く介入するべきでした」
 眉間に皺を寄せて天を仰ぐ映姫と、引き続き西行妖を調べ続ける小町。
「西行妖の能力をこの子の魂が掴んでいます」
「ふむ、最善では無いが次善であるといった所ですかね。いや……あるいはこうなることを想定して西行妖は作られたという事でしょうか」
 四季映姫と小野塚小町はまるで私達の事を居ないかのように無視していたが、このタイミングで振り返った。
 映姫は四角四面な声で私に話しかけてくる。
「黄泉の伊邪那美《いざなみ》様が、この西行妖に興味を示しています。是非曲直庁でも介入をしよう試みてはいますが、歌聖が高野山で学んだ反魂の邪法は伊邪那美様と契約を結ぶものだったらしく、恐らく、彼女の魂は黄泉に属する事になるでしょう」
「……それがなんなのよ?」
「たしか、貴女は伊邪那美様とも交流がありましたね? 貴女がその気になれば、貴女の幻想郷に、彼女を引っ張り込む事が出来るんじゃないですか?」
 可能なのかそんな事? だけどもそんな事どうでも良かった。ゆゆこの死を目の当たりにしてしまったせいで、何もかもにもやる気が起きないでいた。私はこのまま西行妖のしたでゆゆこの遺骸を抱きかかえているしか出来ないように感じていた。
「何をしてるのですか八雲紫?」
「…………」
「いつまでそうやって不貞腐れてるつもりですか! 立ちなさい! 幻想郷を使って貴女なら出来る事があると言っているのです。為すべき事をきちんとしなさい!」
「映姫……貴女、私の事が嫌いでしょう?」
 映姫は鼻で笑う。
「普段の行いを胸に手を当ててよく思い出しなさい。貴女の何処に好かれる要素があるというのですか、紫?」
 何を言うんだこの女! 私は反射的に立ち上がり映姫に立ち向かっていた。
「私も貴女の事が嫌いですわ、映姫様! お為ごかしも程々にして欲しいですわね!」
 感情的に反応してしまったが、気が付いた。映姫は私に発破を掛けている。先ほどまでの無気力状態から脱して気がついた。
「……なんのつもりよ、これで恩でも着せたつもり……?」
 映姫はまっすぐにこちらを見つめる。
「私は、ある一面に置いて貴女を信用してる所があります。貴女は、全てを投げ打ってでも幻想郷の存続の為に行動しています」
 それにしてもやることが狡猾なのですが、と言葉を継いだ。
「賭けたのですよ。悪辣な貴女が人間の少女の死を嘆いている。ひょっとしたらこの子が貴女を変えるかもしれない。そう思ったのです」
 映姫は真っ直ぐな視線で私を見つめている。彼女が信用していると言葉で言うからには、本当に信用されているということなのだろう。
視線を落として映姫は話を続ける。
「それに、私は本当は貴女の事は嫌いではないのですよ、紫」
「へぇ……なんでよ? 気持ち悪いわね」
「貴女は妖怪にしては神経質なぐらい約束をちゃんと守るし、それに時節の折には四季を織り込んだ和歌を送ってくれるではないですか。そんな律儀なことをするのは貴女だけなのでびっくりしました。それに和歌に詠まれた瑞々しい少女の様な意趣の繊細さにはいつも感心してしまいます。あれは本当に貴女が書いてるのですか? 普段の貴女からは想像できなくて……。口が悪くても、ああいう濃やかな気の使い方が出来る者は嫌いになれません」
「……」
 あ、あれ? 確かに、私は季節ごとにその人に合った和歌を詠んで知り合いみんなに送ってるんだけど、なんで映姫に感心されてしまうんだろう? 藍が後ろでこの二人、意外と気が合うかもしれないと呟いている。後でシメてやる。



 映姫と小町が西行寺家をはなれ、私達もこの場を立ち去ることにした。ゆゆこの骸はそのままにしていくわけには行かないので、西行妖の根本に埋めた。
 西行寺家の入り口から屋敷を立ち去ろうとしたとき、魂魄妖忌が傷ついた身体を引きずりながら都に消えようとしてるのに出くわした。
「そんな手傷でどこへ行くのよ、妖忌?」
「……出雲の黄泉比良坂《よもつひらさか》から冥界に降りる。……ゆゆこが待っているのだろう? 魂魄家は西行寺を守る一振りの刃……。何処までも付き従うのが役目だ」
「止めておきなさい。あそこは生きた人間が正気を保てる場所じゃないわ。黄泉竈食《よもつへぐい》の禁を犯せば、人間ですら無くなるのよ」
「……もとより俺はもう人間じゃない。幼い頃から世話をしていたゆゆこを見捨て。死を喰らう化け物桜を傍観していた時点で、人間の心など、とうに死んでいる。……この世で償う方法など思い付かんのだ。冥界に降りて永遠に詫び続けるしかないだろう」
「……勝手にしなさい」



 これから後の事は私が語っていくのが早いだろう。

 ゆゆこは西行妖に魂が囚われているのを伊邪那美と交渉することで、幻想郷の霊界の管理者として白玉楼に譲り受けることになった。生前の記憶は一切失われており、死霊を操ることができるためということでお役所仕事的に配属したのだが本人は楽しんでいるようだ。
 私は一切の面影をなくしたゆゆこに戸惑いを隠せなかったが、今では慣れた。いずれにせよ彼女を救う道はこれしか無かったので、これでよいのだろう。名も、ゆゆこから幽々子に改名した。
 妖忌は黄泉で黄泉竈食《よもつへぐい》の罪を侵すことで半人半霊となり霊界の白玉楼の庭師としてゆゆこに奉公している。人間としての全ての欲望を切り捨てた姿は禅僧の様になっていた。

 西行妖は都から霊界の白玉楼に移植した。忌々しい妖怪桜ではあるが、幽々子はこの桜の元でしか存在することが出来ない幽霊なのだ。以前、反魂の術で歌聖に何も与えずに儀式をさせるという予想は正解で、元々強力な幽々子と云う霊を使うために西行妖などという方法を見つけたらしい。

 私は、分からなくなっていた。
 幽々子と云う存在は、はじめから無機物の様に作られた存在だった。それを助けるために奔走した私達の行動は無意味だったのだろうか? あの桜の下でみた、ゆゆこの遺骸の姿を私はまだ引きずっていた。
 高い才能を持ち、私より高みへ行けるはずだった少女を、無機質な歯車の様に黄泉と現世の駆け引きの道具として使った。幸せに生きられるはずだった人生を台無しにした。
 私自身の罪も含め、それを咎めて、裁きたいと云う気持ちはあれど、その感情をどこに向ければいいのかわからなかった。

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 止まり木で羽を休める紅白の蝶は、どこへ飛び立つのだろうか?

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 藍からの連絡も途絶えた。冥界を荒らした博麗の巫女が、私の所に押しかけてきているというのは、本当の話らしい。
 この博麗の巫女・博麗霊夢なる少女、西行妖を復活させようとした幽々子を力で制圧し、冥界と顕界の結界を引き直せと直談判にきたとのこと。
 正直、幽々子が私が記した記録を読んで、西行妖の元で眠る、幽々子本人の死体を蘇らせようとした時点で相当に焦った。記憶は無いとはいえ、満開の桜を待つ魂の記憶はどこかに眠っているのだろう。
 妖忌の孫娘・魂魄妖夢を使って春を集めたが故に、春が訪れない異変が発生したために、博麗の巫女として冥界の白玉楼へ乗り込んで、幽々子を弾幕勝負で無理矢理に納得させた。
 幽々子の暴走を止めたことに関しては、礼を言うのもやぶさかではないのだが、その後調子にのって式神の式神の橙。式神の藍まで退治してしまったのだから始末に負えない。
 現在進行形で、私の元に押しかけて喧嘩を売ろうと言うことらしい。ならば、会って人間と齢数千を超える大妖怪の格差を見せつけてやろう。

 向こうから大きな赤いリボンを付けた少女が飛んできた。
「見つけた、あんたが親玉ね」
 やれやれ元気そうだなぁ。冬眠から目覚めたばかりの私は扇子で抑えて欠伸を一つする。
「ほんと、いい加減にしてほしいですわね。春先から頭が春なのかしらないけれども、冬眠中の私の所まで押しかけてくるなんて、要件如何によっては尻を叩いて帰すぐらいじゃすまないと思いなさい」
「うるさいわね、あんたが作った冥界の結界が不完全だからここまでこうして来たんじゃないの。今現在も幽霊が現世にこぼれ落ちてるのよ。今すぐ直しなさい!」
 ぴいぴい煩い。それに口の聞き方も知らない。
「知らないわね。大方の結界の管理は藍に任せてあるわ。しばらくしたら自然に治るんじゃないの?」
「あんた、仕事舐めてるの? これは異変なのよ。博麗神社が出張ってきてるんだから言う事聞きなさい」
「本当に口の聞き方を知らない子ね。私が博麗大結界作るために博麗神社を作ったのよ」
「嘘。あんたみたいな胡散臭い妖怪がそんなこと出来るはずないでしょ」
 疑り深いなぁ。面倒臭い。
「……ほら」
「うわっ、結界が緩んだ! って事は本当にあんたが博麗大結界作ってるの!?」
「先代は私の事は言わなかったの?」
「てんでさっぱり。妖怪退治と神事のやり方しか教わっていないわね」
 忘れていた。先代の博麗の巫女は優秀ではあったが、こういうことの気配りが出来ないタイプだった。もうちょっとまめに顔を出すべきだったか。本当はこういう雑務も藍が調整してくれるんだけどなぁ、最近忙しいみたいだし仕方ない。
「仕方ないわね。冥界の結界の修復は引き受けておくわよ。貴女には幽々子の事でも世話になったようだし」
「やってくれるの? ありがとう。じゃあ用が済んだのでこれで」
 どうも年長者に対する礼儀が全くなっていない。再教育の必要があるだろう。それに幽々子の事でも話はそれで済んでいない。
「貴女に聞きたいことがあったのよね。西行妖の話よ」
「なによ。長い話は嫌いよ」
「黙って聞きなさい。ある所に死霊の力に魅入られた女の子がいたの。その父親は己の名声や立場の為に死を招く桜を生み出しました。その女の子は全てを救うためにその生命を差し出しました。それが西行妖に封じられた亡霊よ」
「…………」
「その女の子は何千年もの間、閻魔様に遣わされて冥界の管理をやってきました。ある時死を招く桜を満開にしたら自らを縛る戒めを断ち切る事に気がついて、春を集めました。それについて貴女はどう思う?……まさか、それが宿命だなんて言うつもりは無いわよね?」
「知ったこっちゃないわよ、そんな事! 私が春を持って行ってその子が蘇ったとしても、私が引っ叩く! うじうじとした性根が気に食わないわ! 捻くれたその根性、叩きなおしてやる!」
 あの目覚めてしまった幽々子を? 人間が? ……いや、出来るのかもしれない。まだ未熟とはいえ途方も無い才能を持つ妖忌の孫娘、妖夢に勝ち、完成した式神を持つ九尾狐の藍を倒した。
 藍は、式神として従ってくれているものの、今や実力は私以上である。本人は遠慮してるが多分、本気を出したら私でも勝てない。
 魂魄妖夢。彼女は妖忌が完成させた魂魄流を継いだ。彼女は将来、妖忌以上の剣士に育つだろう。
 この人間の少女は、私が千年を掛けて目指そうとした高みを、才能だけで軽々と空でも飛ぶように越えて行こうとしてるのか。
 博麗の巫女を見る。彼女は真っ直ぐにこちらを見ている。身なりは違うけれども、その面影は、何処かゆゆこに似ている。
 内側から発作のように笑いが引き起こされる。
「あはっ……、はははははははは」
「わっ、なによ!?」
 私は涙を拭いた。お腹が痛い。どうしよう、本気で笑いが止まらない。博麗の巫女は訝しげに眺めている。
「大丈夫なの、あんた?」
「あはははは……っ……いえ、いいのよ。気にしないで。――……本当に人間は面白いわ。博麗の巫女。いいでしょう協力をしてあげる」
「変な妖怪ねぇ。霊夢よ。私の名前は博麗霊夢。あんたの名前は? 結界の妖怪?」
「八雲紫よ。しがないスキマ妖怪ですわ。やれやれ、人間にこうして名乗るのも何だか懐かしい気がするわね」



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せめて最後は美しい幻想だけを。

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「……あれ?」
 目を開くと天井が見える。白玉楼の寝室か。幽々子と話している内に眠ってしまい、寝室まで運ばれてしまったという所だろう。
 なんか息苦しい、胸の上に何かが居るような……。
 ふと目をやると、橙が布団の胸のあたりにべったりと頬を付けて寝そべっている。
「ゆっかりさま~、ゆっかりさま~」
「こら、橙。どきなさい。重たいじゃないの!」
「やだー、紫さまの上暖かいんです」
「まったく、もう……」
 橙を押しのけて起き上がる。ずり落ちた橙は目をまん丸くして座り込んでいる。
「で、何よ? 何か用があるんじゃないの?」
「あっ、そうだった。おはぎが出来たそうです。藍さまが紫さまを起こしてって言ってたから来ました」
「分かったわ、すぐに行くわ」

 ……夢を見ていた。長い夢を。

 外見は以前と全く変わらないものの、時間は確実に私を蝕んでる。冬眠時期は年々伸びてゆき、活動意欲は鈍磨してゆく。幻想郷の運営管理の仕事は全て藍に引き継いだ。今は実質、隠居状態である。
「……全く、歳を取るのは嫌なものね」

「……あら?」
「遅かったわね、紫」
「私もいるぜ」
 居間には博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人が加わっている。向こう側の方では重箱の山に囲まれて嬉しそうにおはぎを頬張る幽々子が居る。給仕する妖夢が疲れ果てている様だけど、そこはあまり気にしなくても良いだろう。
「二人で白玉楼にまで来るなんて珍しい事ね? 春の陽気にでも誘われたのかしら?」
「あんたの所の藍に呼ばれたのよ」
「普段世話になってるからお礼がしたいんだってさ。ついでだからお花見もして帰るつもりだぜ」
 なるほど、藍が呼んだのか。
 今の幻想郷と現世を隔離する博麗大結界は、博麗神社を中心として構成されている。その管理は主に藍が行ってくれるものの、やはり一人では手に余る。霊夢はその手伝いをしてくれるのだ。それにしても適当さが目立つのだが。
「霊夢、貴女、またサボってたでしょ? 無縁塚の辺りの結界が緩んでたわよ?」
「なによ紫、そんな細かい事言ってたら老けちゃうわよ?」
「もうとっくにおばあちゃんです。敬老の日には何かちょうだいね?」
「がめついわねー。自分で自分のことを年寄りだなんていう妖怪にあげるものなんて無いわよ」
 違いないといって、魔理沙は、がははと笑う。
 幻想郷ではすでに私の力の必要が無いくらいに自動化が進んでいる。そうなるように私が設計した、というのもあるのだが。
 外界で力の弱った妖怪がいれば、自動的に幻想郷に取り込まれ、食糧問題は自殺者の神隠しによって補っている。
 全ての結界が相互補完的に動作することで、ホメオスタシスを実現して自律的な循環を成立させた。今の幻想郷では一種の生物の様に勝手に運営されていくのだ。
 私の立場としては実質、名誉職みたいなもので幻想郷の創始者としてだけ持っているようなものだ。
 ため息混じりに私は口に出す。
「それにしてもお花見ね……暢気なものね」
「なによ、紫も一緒に行きたいの?」
「今、桜の花を見たいって気分ではないわね」
「あら、あらあらお花見したいわねぇ紫。一緒に行きましょうよ?」
 幽々子は今まで必死に食らいついてたおはぎの重箱から顔を上げて話しかけてくる。ほっぺたにはご丁寧に餡が一欠くっついているのだが。
「よっしゃ、今日はいっぱい飲むんだぜ」
 魔理沙は満面の笑みで幽々子の話に乗っかろうとする。
「ごめんなさい、私は紫とお花見がしたいのよ。みんなとはまたの機会にね」
「幽々子、私と二人で花をみて回りたいの?」
「ええそうよ。たまにはいいじゃない。少し静かに話をしたいのよ」
「別に構わないわよ」
「それじゃあいきましょう」
 幽々子は舞うように立ち上がる。私も立って付いていった。
 障子を引いて開く。桜の匂いが立ち込める風が吹き込んだ。
 濡れ縁から履物を履いて庭にでる。二人で広い白玉楼の庭を歩いた。
「やっぱり春は白玉楼の桜に限るわね。庭師はきちんと手入れしているようね」
「ふふっ、ありがとう。妖夢も喜ぶわ」
 舞い落ちる桜の花弁。庭には白いカーペットのように花弁が積もっていた。光景が白く滲んでいる。
 幽々子はその上を滑るように歩む。以前の少女の時の美しさと共に、白玉楼の主としての風格もそなわり、一幅の絵画のような光景だった。
「? 何をじっとみてるのよ紫」
「馬子にも衣装というか、桜の下の幽々子は見ていて惚れ惚れするわねぇ」
「惚れ直してくれた?」
「馬鹿ねぇ」
 二人で桜の木々の下を歩く。やがてその足は庭の端の方へと向かっていた。
 この方角はと分かっていても、幽々子が歩むのを止めないので付いて行くしか無い。私達はやがて、西行妖の元へ来ていた。
 西行妖は枯れ木のように佇んでいる。その姿は押し付けられるような強烈な圧迫感をもたらす。
「やはり、今年の春も一輪も花を付けないのね」
 幽々子は寂しそうにそういった。
 幽々子は確か以前、西行妖の根本に眠る自分の死体を反魂するために春を集めていた。それから詳しく話を聴く機会がなかったが、結局のところ何のために死体を蘇らせようとしているのだろうか?
「ねぇ幽々子? 貴女以前、春を集めて西行妖を満開にしようとしたじゃない? 何のためにそんな事をしようと思ったの?」
 私の少し前を行く幽々子は、私の質問を受けて振り返った。
「……なぜかね、大事なことを思い出せそうな気がしたの。こんなゆらゆらと希薄に存在している私に対して、強烈な生を生きさせようとした恩人が居た気がしたの。ここで埋まっている誰かにそのことを聞きたいと思って、西行妖を蘇らせようと思ったのよ」
 それは……。
 私は、私の罪を考えていた。
 あの時、自殺する前にゆゆこを救い出せていれば、こんな冥界に縛り付けられる事無く、人間として一生を過ごしただけだろう。幽々子を生み出した責任者の一人として、私は彼女の苦しみを少しでも癒すことができただろうか?
「ねぇ幽々子。ひょっとして貴女、別の生があったことを覚えているのかしら? だとしたらそれは私の責任だわ。私が貴女を救えなかっただけなのよ……」
 幽々子はきょとんと疑問符でも出してきそうな表情をしている。
「何故泣き出しそうな顔をしているの紫?」
「この無駄に長い生涯の中で、それだけが未練だったからよ。私は貴女を救えなかった。それどころかこんな所に千年近くも閉じ込める様にしてしまった。私は貴女にどう報いればいい……」
 幽々子は私の近くまで寄るとふわりと抱き寄せた。また、甘い香りがする。
「もういいの紫。今だってお腹いっぱい食べることができるし、会おうと思えばいつだって紫と会うことも出来るし、考えてみたら私幸せだな、って」
「でも、幽々子……」
「いいのよ、私は紫と出会えただけでも幸せだったのよ」
「ありがとう幽々子」
 私は幽々子の肩をそっと抱き締めた。



 私は幻視する。
 西行妖が今、満開になった。
 咲き誇り、舞い散る墨染の桜。その桜の下で一人の少女が微笑んで、手を差し伸べている。私は歩み寄り、そっとその手を取った。
 一陣の風が吹く。
 風をはらみ、桜の花弁がはらはらと舞い上がる。私達はその行方をずっと見ていた。
初投稿ですね、どうも。

遅筆にも程があるとおもうんですが、1年あまり寝かせた作品なので文章にムラがあります。もうちょっとサクっと書けるようにならないとアイディアが腐りますね。

ここまで読んでくれた人に最大限の賛辞を。
椎野樹
http://pixiv.me/yuki_2021
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コメント



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幽々子と八雲一家の話は良いねぇ。
紫とゆゆこがとても可愛かったです。