あれは、そう。不幸な事故だったとしか言いようがなかった。
きっかけは、里の人間を襲って重傷を負わせた低級妖怪――妖獣の討伐。幻想郷における人妖間のルールを踏みにじったモノへの制裁は、スペルカードルールに基づかない、その存在の完全なる排除を目的として執行される。
被害者が私のちょっとした顔馴染みだったこともあって、私は討伐の達しがあったことが知らされると、その任を真っ先に買って出た。
逃げた奴の足取りは分かっていた。魔法の森――私の庭。
もともと手負いだったこともあって、奴は比較的すぐに見つかった。
「さぁ、観念しな。お前はもうここまでだ」
『グルルルル……!』
月明かりのない夜だった。
大樹の陰に横たわる狼の妖獣は、最後の抵抗とばかりに牙を剥く。だが、ズタズタになった脚を無理に動かしてここまで走ってきた奴には、もはや飛び掛かってくるだけの力も残っていないようだった。
「運が悪かったな。お前が襲ったのが外来人だったなら、ここまでの騒ぎにはならなかったろうに」
『ガゥゥゥゥゥ……ッ!』
「おっと、抗議は後で聞いてやる。私が地獄に落ちた後にな。……とまぁ、御託はここまでだ」
そんな哀れな奴に引導を渡すべく、私は愛用のミニ八卦炉を構える。真っ当な弾幕ごっこの時には到底使えないような、膨大な熱と光の力を走らせる。
「じゃあな」
何の躊躇なく放った私の魔砲は、
「がうちゃんっ!!」
「なっ!?」
不意に飛び出してきた妖精を一匹、巻き込んで、
「ッ、きゃあああぁぁぁぁぁっ……――――!」
『ガァァァァ……!』
小さな悲鳴すら飲み込んで、眼前の空間を焼き付くした。
「っ、おい、大丈夫か!?」
突然のことに呆けていた私が我に返ったのは、比較的すぐのことだったように思う。
駆け寄る私が見たものは、最後の力を振り絞ったのだろう、飛び出した妖精を守ろうとしたのか、精一杯に体を伸ばした様子の妖獣の炭化した死体と、
その妖獣を庇うかのように、幼い両腕をいっぱいに広げ、あどけない顔を恐怖と苦痛に歪めた、小さな妖精の死体だった。
「……くそっ、なんなんだよ」
頭が痺れたかのような嫌な感覚に、無意識に悪態をついていた。
スペルカードルールの条件下で、有象無象の妖精を数えきれないほど撃墜してきた私でも、妖精をここまで無惨に「殺して」しまったのは初めてだった。妖精には死という概念がないので、厳密には殺してしまったわけではないのだろうが……それでも、まるで人間の子供のような姿のそれに、想像を絶する苦痛を与えてしまったことには違いなかった。一時的とはいえ、その生命活動を停止させるまでに至ってしまった。それを、殺したと言わずに何と言えばいい。
チッ、胸糞の悪い。
珍しくあいつに先を越されることなく妖怪退治が出来たというのに、晴れやかな気持ちには到底なれなかった。そんな割りきれない自分に、私は酷く腹が立つのを感じていた。
こいつは、どうして妖獣を庇った。飛び出したら巻き添えになると、そんなことわかりきっていただろうに。妖精なら妖精らしく、ただ気楽に遊んでればよかったのに。どうして、わざわざこんな……
妖獣と妖精、二つの死体は、私の目の前で自然に溶けるかのように消えていく。妖獣の方は知らないが、この妖精はしばらくすれば何事もなかったかのように復活するのだろう。妖精とはそういうものだ。私も頭ではそれを理解している。理解しているのだが……それでも、二つの死体が完全に消え去るのをこの目で確認するまで、私はその場を動かなかった。
動くことが、出来なかった。
「あっ、まーりーさーさーん!」
「げ」
翌日。霊夢でもからかって気晴らしをしようと、いつものように神社にやってきた私を出迎えたのは、底抜けに明るい幼い声だった。
ぱたぱたと駆け寄ってくる、三匹の妖精。サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。
三匹まとめて光の三妖精と呼ばれる彼女たち。私とはちょっとした縁があって、今では友人……と言うには少し違うかもしれないが、決して浅くはない関係となっていた。
いつもであれば気の利いた冗談を一つ二つ飛ばしているところだが、生憎と今日はそんな気分にはなれなかったわけで。
「……私に用か?」
「いえ、用ってほどでもないんですけど」
「ほら、以前教えてもらった美味しい茸の見つけかた! 魔理沙さんの言う通りでして!」
「そのお礼もかねて、ぜひ魔理沙さんにも召し上がって頂こうと」
スターサファイアが差し出してきたのは、茸の炊き込みご飯で作られた握り飯だった。
「そうか。くれるってんなら貰っといてやるよ」
受け取った握り飯を一口頬張る。咀嚼すると、茸の香りが口いっぱいに広がった。味付けの加減の方も絶妙だ。そういえば、スターサファイアはかなり料理の腕が良かったんだっけか。
「ふむ、妖精の作ったものにしては旨いじゃないか」
「あ、気に入ってくれました?」
やったー誉められたー、と見た目相応にはしゃぐ三妖精。そのどこまでも無邪気な様子を眺めていて、不意に頭の中にぼんやりとした考えが浮かんできた。
――――こいつらも、あんな顔をするんだろうか。
瞬間、昨日の出来事が脳裏にフラッシュバックする。苦しみに歪んだ妖精の幼い顔。それが、目の前の三匹にダブって見えた。もし、あの場に飛び出してきたのが見ず知らずの妖精じゃなく、こいつらだったら。そうしたら、私はどんな気持ちになっただろう。
私の魔法が、サニーミルクを、ルナチャイルドを、スターサファイアを、殺める。その顔に浮かぶ表情は、恐怖、激痛、驚愕……あるいは悲嘆かもしれなかった。――――思わずそんな場面を想像してしまって、言い知れぬ不快な感情が胸の内に沸き上がる。
「……魔理沙さん?」
恐る恐る、といった調子で声をかけられて、私の意識は思考の深淵から浮上する。
見れば、心配そうな顔のサニーミルクたちが、上目遣いで私のことを覗き込んでいた。
「うーん、やっぱり口に合わなかったのかしら」
「ひょっとしてお腹が痛くなったんじゃ」
「え!? あ、あああの、誤解しないで下さいね? 私たち、別に魔理沙さんに悪戯しようとかって思ったわけじゃなくて、ただ本当にお礼を言いたくてですね――」
どうやら私は相当陰気な顔をしていたらしかった。それを見て私が怒っていると勘違いしたのか、あたふたと弁解を始めるサニーミルク。その姿がおかしくて、小さな笑いが漏れてしまう。嫌なものが渦巻いていた胸中が、少しだけ晴れた気がした。
同時に、この小さな妖精たちに、ふと訊いてみたくなった。
「なぁ、お前たち」
「は、はい?」
「お前たちは死……一回休みの経験ってあるのか?」
妖精にとって、死ぬこととは何なのだろう。後で復活するとはいえ、やはり特別な経験として記憶に残るようなことなんだろうか。人間のそれと同じように、悲しむべきことなんだろうか。それは、私の純粋な興味だった。
私の問いに、サニーミルクたちは顔を見合わせる。
「そりゃあ、まぁ……」
「私たちだって妖精だしねぇ」
「それなりに一回休みになってるわよね」
うんうんと互いに頷き合っている三匹。
「最後になったのはいつだったっけ?」
「大晦日に酔っぱらったサニーが凍死した時じゃない?」
「違うわよ。確かその年の梅雨にルナが川で溺れたんじゃなかった?」
「それを言うならスターだって、最近大きな妖怪蜘蛛に捕まって食べられちゃってたじゃん」
「最近って言ったって、もう十何年前のことでしょう? それだったらサニーが妖怪の山で天狗を怒らせた時の方が――」
「いやルナが台風で切ないことになった時の方が――」
「いやいやスターが猪用の罠にかかった時の方が――」
「いやいやいやサニーが」「いやいやいやいやルナが」「いやいやいやいやいやスターが」
喧々囂々と議論を白熱させる三妖精。私のことは綺麗に意識の外に放り出されたらしい。
「…………はぁ」
思わず、ため息を一つ。
こいつらの話を横で聞いていて、私は変なことで悩んでいたのがバカらしくなってきていた。
あまりにも死が軽すぎる。結局のところ、妖精は人間じゃなく妖精だったと言うことだ。
いくらでも復活出来るこいつらにとっては、死ぬことなんてちょっとアンラッキーなことがあった程度なものなんだろう。おまけに、最近が十年以上前ときた。子供のような見た目に騙されちゃいけない。こいつらは紛う事なき人外だ。
そしてそれは、昨日の妖精にしたって同じこと。毎日毎日気楽に遊び暮らして、死への怖れや深刻な悩み、胸を突き刺すような感情とは無縁の存在。だから私の魔砲の前に躊躇なく飛び出して来れたのだし、私に殺されたことも何とも思っていないのだろう。
ああ、そうだ。きっとそうに違いない。
だから、私があれこれ悩む必要なんてこれっぽっちもないんだ。どうせ、大したことじゃない。
そう考えると、あの歪んだ顔さえ滑稽なものに思えてくる。私としたことが、何をナーバスになっていたのか。
……そうだ。こんな時は、口直しをするに限る。
「おい、お前たち」
「はっ、魔理沙さん? ……えーっと、どうしてそんな怖い道具を私たちに向けてるんです?」
「いや、お前たちのおかげで色々吹っ切れたよ。だからちょっと礼をしようと思ってな」
「礼って言うと……?」
「あっと悪い、礼じゃなかったな。札だ。チルノから聞いてるぜ、お前たちも持ってるんだろう、スペルカード」
「ええ、持ってますけど……あれ、それってつまり?」
呆けていた三妖精の顔に、ようやく怯えの色が浮かんできた。その反応にどこか満足しながら、
「お前たちとは一度やってみたかったんだよ。三対一、多勢に無勢だ、容赦はしない」
「そ、そんないきなり無茶苦茶なぁっ!?」
「問答無用! さぁ、死ぬ気で避けないと一回休みだぞ!」
これが、私なりのけじめのつけ方だ。世間一般では八つ当たりと言うのかもしれないが、それでも――――
ニヤリと笑って、私はいつものように宣言する。
――――恋符「マスタースパーク」!!
きっかけは、里の人間を襲って重傷を負わせた低級妖怪――妖獣の討伐。幻想郷における人妖間のルールを踏みにじったモノへの制裁は、スペルカードルールに基づかない、その存在の完全なる排除を目的として執行される。
被害者が私のちょっとした顔馴染みだったこともあって、私は討伐の達しがあったことが知らされると、その任を真っ先に買って出た。
逃げた奴の足取りは分かっていた。魔法の森――私の庭。
もともと手負いだったこともあって、奴は比較的すぐに見つかった。
「さぁ、観念しな。お前はもうここまでだ」
『グルルルル……!』
月明かりのない夜だった。
大樹の陰に横たわる狼の妖獣は、最後の抵抗とばかりに牙を剥く。だが、ズタズタになった脚を無理に動かしてここまで走ってきた奴には、もはや飛び掛かってくるだけの力も残っていないようだった。
「運が悪かったな。お前が襲ったのが外来人だったなら、ここまでの騒ぎにはならなかったろうに」
『ガゥゥゥゥゥ……ッ!』
「おっと、抗議は後で聞いてやる。私が地獄に落ちた後にな。……とまぁ、御託はここまでだ」
そんな哀れな奴に引導を渡すべく、私は愛用のミニ八卦炉を構える。真っ当な弾幕ごっこの時には到底使えないような、膨大な熱と光の力を走らせる。
「じゃあな」
何の躊躇なく放った私の魔砲は、
「がうちゃんっ!!」
「なっ!?」
不意に飛び出してきた妖精を一匹、巻き込んで、
「ッ、きゃあああぁぁぁぁぁっ……――――!」
『ガァァァァ……!』
小さな悲鳴すら飲み込んで、眼前の空間を焼き付くした。
「っ、おい、大丈夫か!?」
突然のことに呆けていた私が我に返ったのは、比較的すぐのことだったように思う。
駆け寄る私が見たものは、最後の力を振り絞ったのだろう、飛び出した妖精を守ろうとしたのか、精一杯に体を伸ばした様子の妖獣の炭化した死体と、
その妖獣を庇うかのように、幼い両腕をいっぱいに広げ、あどけない顔を恐怖と苦痛に歪めた、小さな妖精の死体だった。
「……くそっ、なんなんだよ」
頭が痺れたかのような嫌な感覚に、無意識に悪態をついていた。
スペルカードルールの条件下で、有象無象の妖精を数えきれないほど撃墜してきた私でも、妖精をここまで無惨に「殺して」しまったのは初めてだった。妖精には死という概念がないので、厳密には殺してしまったわけではないのだろうが……それでも、まるで人間の子供のような姿のそれに、想像を絶する苦痛を与えてしまったことには違いなかった。一時的とはいえ、その生命活動を停止させるまでに至ってしまった。それを、殺したと言わずに何と言えばいい。
チッ、胸糞の悪い。
珍しくあいつに先を越されることなく妖怪退治が出来たというのに、晴れやかな気持ちには到底なれなかった。そんな割りきれない自分に、私は酷く腹が立つのを感じていた。
こいつは、どうして妖獣を庇った。飛び出したら巻き添えになると、そんなことわかりきっていただろうに。妖精なら妖精らしく、ただ気楽に遊んでればよかったのに。どうして、わざわざこんな……
妖獣と妖精、二つの死体は、私の目の前で自然に溶けるかのように消えていく。妖獣の方は知らないが、この妖精はしばらくすれば何事もなかったかのように復活するのだろう。妖精とはそういうものだ。私も頭ではそれを理解している。理解しているのだが……それでも、二つの死体が完全に消え去るのをこの目で確認するまで、私はその場を動かなかった。
動くことが、出来なかった。
「あっ、まーりーさーさーん!」
「げ」
翌日。霊夢でもからかって気晴らしをしようと、いつものように神社にやってきた私を出迎えたのは、底抜けに明るい幼い声だった。
ぱたぱたと駆け寄ってくる、三匹の妖精。サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。
三匹まとめて光の三妖精と呼ばれる彼女たち。私とはちょっとした縁があって、今では友人……と言うには少し違うかもしれないが、決して浅くはない関係となっていた。
いつもであれば気の利いた冗談を一つ二つ飛ばしているところだが、生憎と今日はそんな気分にはなれなかったわけで。
「……私に用か?」
「いえ、用ってほどでもないんですけど」
「ほら、以前教えてもらった美味しい茸の見つけかた! 魔理沙さんの言う通りでして!」
「そのお礼もかねて、ぜひ魔理沙さんにも召し上がって頂こうと」
スターサファイアが差し出してきたのは、茸の炊き込みご飯で作られた握り飯だった。
「そうか。くれるってんなら貰っといてやるよ」
受け取った握り飯を一口頬張る。咀嚼すると、茸の香りが口いっぱいに広がった。味付けの加減の方も絶妙だ。そういえば、スターサファイアはかなり料理の腕が良かったんだっけか。
「ふむ、妖精の作ったものにしては旨いじゃないか」
「あ、気に入ってくれました?」
やったー誉められたー、と見た目相応にはしゃぐ三妖精。そのどこまでも無邪気な様子を眺めていて、不意に頭の中にぼんやりとした考えが浮かんできた。
――――こいつらも、あんな顔をするんだろうか。
瞬間、昨日の出来事が脳裏にフラッシュバックする。苦しみに歪んだ妖精の幼い顔。それが、目の前の三匹にダブって見えた。もし、あの場に飛び出してきたのが見ず知らずの妖精じゃなく、こいつらだったら。そうしたら、私はどんな気持ちになっただろう。
私の魔法が、サニーミルクを、ルナチャイルドを、スターサファイアを、殺める。その顔に浮かぶ表情は、恐怖、激痛、驚愕……あるいは悲嘆かもしれなかった。――――思わずそんな場面を想像してしまって、言い知れぬ不快な感情が胸の内に沸き上がる。
「……魔理沙さん?」
恐る恐る、といった調子で声をかけられて、私の意識は思考の深淵から浮上する。
見れば、心配そうな顔のサニーミルクたちが、上目遣いで私のことを覗き込んでいた。
「うーん、やっぱり口に合わなかったのかしら」
「ひょっとしてお腹が痛くなったんじゃ」
「え!? あ、あああの、誤解しないで下さいね? 私たち、別に魔理沙さんに悪戯しようとかって思ったわけじゃなくて、ただ本当にお礼を言いたくてですね――」
どうやら私は相当陰気な顔をしていたらしかった。それを見て私が怒っていると勘違いしたのか、あたふたと弁解を始めるサニーミルク。その姿がおかしくて、小さな笑いが漏れてしまう。嫌なものが渦巻いていた胸中が、少しだけ晴れた気がした。
同時に、この小さな妖精たちに、ふと訊いてみたくなった。
「なぁ、お前たち」
「は、はい?」
「お前たちは死……一回休みの経験ってあるのか?」
妖精にとって、死ぬこととは何なのだろう。後で復活するとはいえ、やはり特別な経験として記憶に残るようなことなんだろうか。人間のそれと同じように、悲しむべきことなんだろうか。それは、私の純粋な興味だった。
私の問いに、サニーミルクたちは顔を見合わせる。
「そりゃあ、まぁ……」
「私たちだって妖精だしねぇ」
「それなりに一回休みになってるわよね」
うんうんと互いに頷き合っている三匹。
「最後になったのはいつだったっけ?」
「大晦日に酔っぱらったサニーが凍死した時じゃない?」
「違うわよ。確かその年の梅雨にルナが川で溺れたんじゃなかった?」
「それを言うならスターだって、最近大きな妖怪蜘蛛に捕まって食べられちゃってたじゃん」
「最近って言ったって、もう十何年前のことでしょう? それだったらサニーが妖怪の山で天狗を怒らせた時の方が――」
「いやルナが台風で切ないことになった時の方が――」
「いやいやスターが猪用の罠にかかった時の方が――」
「いやいやいやサニーが」「いやいやいやいやルナが」「いやいやいやいやいやスターが」
喧々囂々と議論を白熱させる三妖精。私のことは綺麗に意識の外に放り出されたらしい。
「…………はぁ」
思わず、ため息を一つ。
こいつらの話を横で聞いていて、私は変なことで悩んでいたのがバカらしくなってきていた。
あまりにも死が軽すぎる。結局のところ、妖精は人間じゃなく妖精だったと言うことだ。
いくらでも復活出来るこいつらにとっては、死ぬことなんてちょっとアンラッキーなことがあった程度なものなんだろう。おまけに、最近が十年以上前ときた。子供のような見た目に騙されちゃいけない。こいつらは紛う事なき人外だ。
そしてそれは、昨日の妖精にしたって同じこと。毎日毎日気楽に遊び暮らして、死への怖れや深刻な悩み、胸を突き刺すような感情とは無縁の存在。だから私の魔砲の前に躊躇なく飛び出して来れたのだし、私に殺されたことも何とも思っていないのだろう。
ああ、そうだ。きっとそうに違いない。
だから、私があれこれ悩む必要なんてこれっぽっちもないんだ。どうせ、大したことじゃない。
そう考えると、あの歪んだ顔さえ滑稽なものに思えてくる。私としたことが、何をナーバスになっていたのか。
……そうだ。こんな時は、口直しをするに限る。
「おい、お前たち」
「はっ、魔理沙さん? ……えーっと、どうしてそんな怖い道具を私たちに向けてるんです?」
「いや、お前たちのおかげで色々吹っ切れたよ。だからちょっと礼をしようと思ってな」
「礼って言うと……?」
「あっと悪い、礼じゃなかったな。札だ。チルノから聞いてるぜ、お前たちも持ってるんだろう、スペルカード」
「ええ、持ってますけど……あれ、それってつまり?」
呆けていた三妖精の顔に、ようやく怯えの色が浮かんできた。その反応にどこか満足しながら、
「お前たちとは一度やってみたかったんだよ。三対一、多勢に無勢だ、容赦はしない」
「そ、そんないきなり無茶苦茶なぁっ!?」
「問答無用! さぁ、死ぬ気で避けないと一回休みだぞ!」
これが、私なりのけじめのつけ方だ。世間一般では八つ当たりと言うのかもしれないが、それでも――――
ニヤリと笑って、私はいつものように宣言する。
――――恋符「マスタースパーク」!!
イイアハナシカナーと思ったらただのいじめになってる経緯が何故と
罪悪感からなんで妖精だったらいいかという思考になったのか意味不明です。