Coolier - 新生・東方創想話

山で神様と出会った話

2015/05/06 18:00:09
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 こいしは、山に登っていった。良く晴れた日のことだった。
 山に登ると、村があった。村の真ん中で、住人たちは死んでいた。銃で撃たれたり、刃で切られたりして、折り重なって死んでいた。村の中央に集められて、まとめて処分されたような感じだった。
 村を外れると、山羊をつれた老爺と会った。老爺は山羊を差し出した。こいしは、山羊を受け取って、首に繋がった紐を持って、山の中を歩いていった。
 山の中には獣がいて、皆こいしには気付かなかった。こいしは気ままに、お腹が空くと獣を食べた。ばらばらにして、皮をはぎ、肉をかじって、骨を捨てた。山羊はめえめえと鳴いていた。めえめえ。めえめえ。
 一匹の蛇がいた。蛇の前にこいしは横たわって、目を合わせた。蛇は牙を剥いてこいしに威嚇して、こいしも負けじと威嚇した。蛇はこいしの舌に噛みついた。舌を貫いて、蛇はこいしの口にぶら下がった。こいしはすかさず立ち上がって、蛇の首を手刀で両断、舌にぶら下がった蛇の頭を、ぱくりと一口で飲み込んだ。片手に山羊の紐、片手に蛇の胴体を持って、蛇の胴体をむしゃむしゃやりながら、歩いた。
 山の上にはお城があった。中世ヨーロッパの王様が住んでいそうなお城だ。入っていこうとしたけれど、兵隊が見咎めて、こいしは城には入れなかった。
 こいしは右手で殴った。左手で殴った。右手で殴った。左手で殴った。兵隊が動かなくなったから、こいしは鉄扉を乗り越えて、城の中へ入っていった。城の中は広いけれど、人はほとんどいなかった。地下には牢屋があって、蜘蛛と、ねずみと、汚い虫と、糞尿があって、貴族の息子が一人、閉じ込められていた。貴族の息子はこいしを見ると、「助けてください」と言った。
「この国は、頭の悪い王様が支配しています。王様を正そうとして、僕の父親は努力していました。だけど、王様の頭が悪いことで、色々と特をする貴族の人達が、僕を閉じ込めて父を脅しています。このままでは父は良くないことになるし、僕は殺されてしまいます。ああ。でも、助け出されても、苦しみはまだまだ続くでしょう。いつまでも、僕は狙われます。ああ、いっそ死んでしまいたい。おお。神様。でも、父のために、死ぬわけにはいきません。どうか、助けてください」
 こいしはにこっと笑って、貴族の息子の首を切り落とした。
 大抵の現世の苦しみからは、死ぬことで解決できる。
 貴族の息子の首は語った。「ああ。ありがとうございます。痛みもありません。でも、僕は救われたかもしれませんが、このままでは父が苦しみます。父も、死ねば救われるのでしょうか。ですが、父も死んでしまえば、今度は母も、親類の者も、隣人も、民も苦しみます。どうか、悪い貴族を殺して下さい。死んでも誰も苦しまない、悪い者達を殺して下さい。一番悪いことをしている三人を、殺して下さい。それで、どうか、良い方を殺すのを止めてください」
 そう言って、首は静かになった。こいしは、考えた。苦しいと言うから助けてやったのに、今度は悪い奴を殺せと言う。悪い奴は楽しんで生きているのだから、殺す必要はないのではないだろうか。こいしはそう考えた。
 皆、誰も彼も、苦しむために生まれてくる。貴族の息子も、その父も。この国の王様も、悪いことをしている貴族も。苦しみを忘れて、楽しく生きようとすることの、何が悪だというのだろう。この世に、していけないことは何もない。
 それでも、こいしは、一番悪い三人を殺しに行くことにした。こいしは、いつも、正しいことをしたいと思っている。そして、こいしの考えることは、いつも大抵、間違いだ。いつも大抵、他の人の言うことが、合っている。なので、あの貴族の子供の言うことが本当は正しいかも知れない、と、こいしは思った。
 一人目の悪い貴族は、立派な自分のお屋敷にいた。こいしは、ずかずか山羊を連れて、入って行った。屋敷の庭の中に、花畑があって、綺麗な服を着た、女の子たちが遊んでいた。きっと、悪い貴族が、悪いことをして、可哀想な人達から奪ってお金で仕立てたドレスなのだろう。なら、他人を苦しめたのだから、悪いやつだ。楽しそうに遊んでいる女の子たちは、知らない女の子が来たので、仲間に入りたいのかなと、笑顔をこいしに向けた。こいしは笑顔の女の子たちの首をはねた。苦しみも感じず、自分たちが死んだことも分からないまま死んだ。花畑は、赤くなった。
 兵士がやってきたけど、汚い給金を貰っている汚い兵士だから、皆殺した。屋敷の中にはメイドや使用人がいて、兵士にもメイドにも使用人にも、それぞれの家族がいるだろうけど、悪いお金を貰ってる奴らだから、皆殺した。子供たちとは違って、血を見ると、皆、殺される恐怖に怯えて泣いた。苦しむのなら、死んだら解放されるのだから、死ぬのがいい。こいしはようやく、自分のしていることが、正しいような気がした。
屋敷の奥へ入っていって、悪い貴族のところに辿り着いた。そこにはちょっと強い兵士がいて、ちょっと苦労した。少し疲れながら兵士を殺して、貴族を殺した。貴族は血を吐きながら息絶えた。息絶えたあと、死体が喋った。
「どうして俺を殺すんだ。俺一人が、悪いのか。悪いやつは世の中に、いくらでもいるのに。俺だって悪いと思ってるんだ。だが、俺は悪いことをできる立場にいて、それをすることで喜ぶやつもいるんだ。なら、やったっていいだろう。いつか報いが来ると怯えながら、やっているんだ。これが報いというならそうなんだろう。だが、どうしてお前のような奴に殺されなくちゃならないんだ。ちくしょう。お前を、いつ、俺が苦しめた。俺が苦しめた人間に殺されるならまだしも、お前のような奴に」
 こいしは、山羊をけしかけた。山羊は死体をむしゃむしゃ食べて、あっという間に跡形もなくなった。
 次の悪いやつは、酒場にいて、女をはべらせて酒を飲んでいた。こいしを見ると、銃を抜いて、撃ってきた。それで、逃げ回るので、こいしは苦労して追い詰めた。女や、無関係の客や、店の人間が、巻き込まれたのは、いうまでもない。
例によって、死体は喋り始めた。
「俺を殺したって、世の中は変わらないぞ。むしろ、悪くなるばかりだ。俺達は王様の頭が悪いのを利用して、弱いやつや頭の悪いやつから金を毟ったが、だが、それが何だって言うんだ。金を奪われるようなやつは、弱かったり、頭が悪いから奪われるんだろう。俺達が奪わなくたって、別の誰かから奪われるんだ。それに、いくら金を奪ったって、ルールを決めて、困り事があれば解決して、暴れる奴がいたら捕まえて、無事に暮らせるようにしてるのは、頭の悪い王様と、それを囲んでる俺達なんだぜ。俺達を殺したら、この国は平気じゃなくなる。馬鹿が暴れ出して、国はめちゃくちゃだ。それで、いいのかよ。この国と無関係のお前が」
 最後のやつは、二人が殺されたのを知って、砦に立てこもって、兵を集め、大砲や銃を集めて、こいしを迎え撃った。こいしはとても苦労して、身体は傷付くし、血は流れるしで、どうしてこんなことをするのだろうと、考えた。なんとか悪いやつのところへ辿り着いて、殺した。
「いやだ。死にたくない。ああ。死んでしまった。これでは、この国の人間は皆死んでしまう。俺が、何もせず、楽をして、地位を手に入れたと思っているのか。俺だって、元は貴族とは言え、貧乏な身だった。金もないし地位もなかった。俺は、努力して今の地位まで上り詰めて、これまでの苦労の分を取り返しているんだ。それで、搾取するために殺しもしないが、生かしてやるように、うまくやっているんだ。内乱や戦争が起こって、皆死んでしまう。皆、ぶち壊しだ。他人のことなんて何も考えられない馬鹿どものせいで国は滅びてしまう。どうしてこうなるんだ。俺達は悪いこともしたけど、良いこともしたじゃないか。どうしてこうなる」
 こいしはひとまず、子供に言われたことが済んだので、ほっとした。だけど、たちまち、国じゅうで争いが起きて、落ち着くところはなくなった。やっぱり、間違ったのだろうかと、こいしは嫌になった。何が正しくて、何が悪いことなのだろう。たぶん、一番立場が上の人が、頭が悪い人だからいけないのだ、とこいしは決めつけた。
 それで、王様のいるお城に乗り込んで、王様を殺した。王様は何も言わなかった。何か、言うべき言葉もなかったし、普段から何も考えていなかったのだ。王様が死んで、王様の周りにいた人々も皆ちりぢりに逃げてしまった。それで、ついに、国は本当に終末的な様相になってしまった。
 国中が、山に登る時に見た、村のような姿になってしまった。皆、皆、死んでしまった。逃げ出す人は逃げ出して、逃げ遅れた人は町の広場で殺された。死んだ村を眺めていた時は、微妙な気持ちになったけれど、手を下したのはこいしかもしれなかった。やっぱり、何もかもに関わるのは、良いことではないのだ。誰とも関わらず、誰にも知られず、一人でいるほうがいい。こいしは帰ることにした。山羊が、そこらの死体をもしゃもしゃ食べていた。
 山羊が唐突に悪い奴に見えてきたので、こいしは山羊を殺すことにした。手を振り上げた瞬間、こいしのところに、山羊をくれた老爺が来た。老爺は言った。
「やめなされ。山羊を殺すのはやめなされ。どのみち、おぬしが手を下さなくても、山羊はやがて死ぬ。人も死ぬ。この国も、やがて死ぬのじゃ。おぬしが手を下すことはない」
 こいしは、唐突に、何らかの天恵を受けて、こいつは悪魔だ、と思った。それで、老爺を殺した。だけど、実際に死んでいたのは、山羊で、老爺を殺したつもりだったのに、山羊を殺してしまっていた。こいしが山羊だと思って連れ回していたのは老爺で、老爺だと思っていたのは山羊だった。そして、そもそも、老爺を殺せるはずはなかった。老爺は神様で、本当の悪魔は山羊の方だった。
 こいしは、それで、本当に間違えてしまった、という気持ちになった。いやになって、帰ることにした。こいしは、いつも、いつも、間違っているような気がしている。毎日、毎日、間違い続けている。
 それでも、帰れば、姉のさとりが、いつもこいしを待っているのだ。
 家に帰ったこいしを、さとりが迎え、問いかけた。
「お帰りなさい、こいし。今日は何をしていたの」
「……人助け」
 こいしは、いつでも、そうしたいと思っているのだった。
 迷走中です
RingGing
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コメント



0.350簡易評価
1.70奇声を発する程度の能力削除
ふむ
4.無評価名前が無い程度の能力削除
淡々とこいしが動き回る様子の描写が素敵です
5.90名前が無い程度の能力削除
淡々とこいしが動き回る様子の描写が素敵です
8.50名前が無い程度の能力削除
だがこれで少年の無念を晴らすことが出来た
正直少年の無念を晴らすことが正義というならこれはこれでありだと俺は思う
正義とは救うべきを断じて救い殺すべきを断じて殺すことにあるというかまあ殺すべきを断じて殺すことの側面が大きい
殺された悪人らはこいしと違って洗練された正義だったということ
そもそも悪と正義は精神的というか主観の問題でもの自体は同じだと思う
確信さえしてたらそれはその人のその時の中では悪であり正義みたいな
正義の敵は悪という別の正義かもだけど正義の反対は愛とか慈悲とかそんなんだと思う
そしてこんな配役が何故似合うしこいしちゃん
9.80名前が無い程度の能力削除
他人の善悪論に振り回されず、思い付きで行動しちゃってる辺りがこいしらしくていいなと思った。
10.80名前が無い程度の能力削除
なにがなんだかわからなかったので
なにがなんだかわからなかったという感想をおいていきます
12.90ばかのひ削除
非常に好みでした
こいしちゃんが似合うお話でとても好きです
13.50名前が無い程度の能力削除
よくわからなかったけど・・・
無垢も又美しさ。だけれども、どうして中々純真では居られない。それでも凛然とした美しさ求めるのなら磨いて磨いて磨いて・・・
他者のエゴに振り回されても良い事なんて一つも無いよ?」
15.80名前が無い程度の能力削除
よかったです
16.30名前が無い程度の能力削除
ひでえ話だ…
人に全く左右されないこと自体殺戮に似たようなもんで殺戮というか戦うときは人に全く左右されちゃいけないんだろ
17.100名前が無い程度の能力削除
色々と特をする
何らかの天恵

山羊は悪魔の使いとされているけれど、ニケーア以前の土着信仰では神様でした。この何らかの天啓なるものがクセモノで、こいつがニケーアさんだったということでしょう。そう考えれば、こいしちゃんはただ無意識に決められたとおりにしただけ、ということになります。
山で出会うといったらサタンですしね。
18.30名前が無い程度の能力削除
??
20.70名前が図書程度の能力削除
何点付けるべきか分からない。
迷走中の三文字に何故か安堵してしまいました。
世界観があからさまに幻想郷ではないけれど、こいしの心証は日々こんなものかもしれない。
迫力のある作品でした。
21.70名前が無い程度の能力削除
バタバタ死にまくって殺しまくる感じはなかなかいいです。それ以外は、まあ正直余分かなと。