短い 2作目です
私は愛されている。絶対に。これは確実にそうだ。いける。
私はフランドールスカーレット。フランね。私にはお姉様がいるの。私は妹で、お姉様とはあまり似ていないけどちゃんと血のつながりがある姉妹なのよ。
それで、私はお姉様が好き。それはもちろん家族としてとか、姉妹としてとかもあるけど、やっぱり恋人同士になりたいって思う方の好きね。
うん。そう、それで私はこの想いをお姉様に告白することにしたの! 今までは、待ってたら姉妹のシンパシーとかそういうので気がついてくれないかなー? とか、お姉様の方から一線をこえてきてくれないかなー? とか思ってたんだけど、やっぱりダメだったしこれは私から言うしかない! みたいな? そんなかんじで。
もちろん、姉妹で、女同士。喋るモノを壊すのと同じくらいいけないことだってのはわかってる。でも、私達吸血鬼だし。悪魔だし。そんなイエスなんとかが考えたことなんか信じる必要なくない? みたいな。
それに、お姉様も私のことお嫁さんにしたいって思ってるし。そのはずだし。うん。
だって、私閉じこもっている間に本で読んだもの。長い間一緒にいたり、髪を梳かし合ったり、えと、そのー、キス。しかも…舌入れるやつとかは普通恋人にするものだって。書いてあったし。
しかもそれが一冊だけでなく、たくさんの本に書いてあったし。これは間違ってない認識のはず。いや絶対そうだ。常識ってやつでしょ。
そんで、恋人同士になったあとはやっぱり結婚して、お嫁さんお婿さんの関係になりたいって思うのも常識。お姉様は私に恋人にするやつをやってきた。ということで私とお姉様は恋人同士。そして恋人同士はお互いをお嫁さんお婿さんにしたいと思う。そして実際になる。だからお姉様は私をお嫁さんにしたいと思っている。Q.E.D. 証明完了。
もうここまでくれば迷う必要なんてない。ガンガン行こうぜ。ってやつ? 魔理沙が言ってた。
善は急げ。早速明日告白することにしよう。急だけど、どうせお姉様は明日ヒマしてるだろうし、咲夜に頼めばお茶会の準備くらいすぐ出来るでしょう。じゃあ私はお気に入りのドレスのお手入れでもしようかしら。
時は来た。紅い布がかかった間接照明やキャンドルが少し大人っぽい雰囲気を出している。いつもの地下室とは大違いだ。ベリーグッド。ロマンチックで告白するにはもってこいだ。
作戦は、少しお茶飲んで、弾幕ごっこして、お茶飲んで、お話して、ゆったりした雰囲気が流れてしばらくしたら告白! って感じ。王道ね。
でも王道ってのはみんな通って、それでいて悪い評判とかもたたなかったからさらにみんな通って、を繰り返した道だからこそ王道なのよ。自信を持ちなさいフランドール。間違ってないわ。いける。
今日は満月だから、なにかあってもいいように。って部屋に結界を張られているのは少し気に食わないけど、まあいい。
ほら、お姉様が来た。姿勢を正して、羽はパタパタさせない。よし。
控えめなノック音が響き、その後にフラン? と呼ばれる。上擦りそうになるのを必死に抑え、入って。と声をかける。お姉様が入ってくる。当たり前か。ああ! ドキドキする!
「ハローハロー、珍しいね。フランの方からお茶に誘うなんて。大人ぶっちゃってぇ」
そんなことを言いながらお姉様が椅子に座る。椅子は私の向かいにあって、私と向き合うかたちになるから、必然的に目が合う。……ちょっと今はまっすぐ見ることが出来ない。
いやいや、こんな調子でどうするのフランドール。こういう時こそ真正面から向き合って目を見なきゃダメじゃない。……ああでも無理!
……そんなこんなで。もう作戦最後のお話タイムに入ってしまった。ゆったりしている。ここを逃したら次はないだろう、そんな気がする。ええい、ままよ! ここは早期決着をつけるべき! だらだらしてたって仕方ないし。うん。いっちゃえフランドール!
「あのね、お姉様。ちょっと大切なお話があるの。聞いてくれる?」
「? いいけれど」
よし。つかみはこんな感じでいいだろう。自然だ。お姉様も不思議がってはいるが極めて通常、問題なし。次だ。
「あのね……私、お姉様のことが! 好きなの!」
言った! 言った! ああ、お姉様が吃驚したって顔してる。まあそりゃそうよね。でも、本当なの。本当なのだからしかたない。
「…っあ、ああそうね、私も好きよ。フランのこと。最近は落ち着いてきたし、あー、いい子になって」
「違う! 違う! 私は、お姉様のこと、姉妹としてとか家族としてとかじゃなく、恋人にしたいって思ってて」
「フラン! ……フラン、違う。それは違うわ。ただの勘違いよ。そうね、まだフランはそういうのしたことないものね。ちょっと勘違いしちゃっただけよ。ええ」
な、なにを言っているのお姉様!? お姉様、無理しなくていいのよ? 私に拒絶の意は微塵もないんだから、もっと素直になってもいいのよ!?
「でも、お姉様!」
「フラン、それは勘違い。私は姉、あなたは妹。姉妹同士。女同士。そんな感情はありえないのよ。大丈夫、すぐ忘れるわ。落ち着いて」
なんで!? なんでそんなこと言うの!? あ、ありえない。こんなことありえない!
……いや、昔からお姉様は意地っ張りだった。こういうものなのだろう。お姉様の顔がいつになく真剣だと思ったが、それこそ勘違いだ。思い過ごしだ。
落ち着いて、落ち着いてお姉様を素直にさせよう…。
「お姉様。違うわ。私は本気なの。お姉様と恋人同士になりたいと思っているし、それは勘違いなんかじゃない」
「だってお姉様、私を抱きしめてくれたり、髪を梳いてくれたり、キスしてくれたりしたじゃない! そういうのって、普通恋人がやることなんでしょう?」
「それに、私達は吸血鬼で、吸血鬼は悪魔。悪魔がキリストの言うことを信じると思う? おかしいと思わない? お姉様。だってキリストは神で、なんで悪魔が神なんか」
「フラン」
……しばらく沈黙が続く。何? 言いたいことがあるなら早く言って欲しい。私はまだまだ言いたいことがあったというのに。
でも、お姉様が怒る時の表情でいるもんだから言うに言えない。……怖い。能力の関係もあり、力関係は私の方が強いはずなのに、どうにも出来ない。私にはこんな威圧感は出せないのだ。私は今どうすることも出来ない。全てはお姉様次第だ。だから早くアクションを起こして欲しいのだが…
そう思っているとお姉様が近くに来て、私の肩を掴みながら目を合わせてきた。
「フラン。確かに私達は悪魔で、神を信仰することはない。でも、それとこれとは別だ。もう別物」
「確かにキリストは同性愛、近親相姦を禁止した。それはいつしかキリスト教から漏れ出して、1つの概念となった」
「概念は神ではない。もうキリスト教とは呼べないものになった。そして、概念は悪魔にも通用する」
「悪魔だろうが無宗教だろうが、もう関係ない。同性愛、近親相姦はいけないことなんだ」
「……幻想郷は全てを受け入れる。受け入れてしまうんだ、残酷なほどに。よって、今私達が独断でその愛を受け入れてしまったら、たちまち幻想郷は人と妖、および男女のバランスが崩れ、破滅を迎えるだろう」
「確かに、私はあなたに恋人にするようなこともした。だけど、あれは恋人にもすることであって、恋人だけにすることではないと思う。実際、私は姉妹愛の表し方の1つとして使ったんだ」
「だから受け入れることは出来ない。理解してくれ、フランドール。それはあってはいけないものなんだ。普通じゃないことなんだ、分かってくれ、フランドール……」
? 何を言っているんだろう。全く理解出来ない。そうか、これは日本語でも英語でもないんだ。スペイン語かな? いや、ロシア語かも。ロシア語は難しいっていうし、わかんなくても仕方ないわよね。うん。
……だって! 普通じゃないなんて、あっちゃいけないものなんて、お姉様が言う訳ない! だって、だってお姉様はその、普通じゃなくて、あっちゃいけない存在である私を今まで守ってくれてたもの!
だから、そんな矛盾があるはずない! そんな、そんな! じゃああれはなんだったの!? お姉様はあれが姉妹愛の範疇に入ると思っていたの!? やめてよ! そんな事するから私、私は!
ああ…なんかもう……ああ…なんで、なんで? どうしてなのお姉様? 私は……
「……ごめんなさい、辛いことかもしれないけど、こうするしかないの。そうね。明日、ハクタクのところに行きましょう。そこで、その記憶を…」
お姉様が私に背を向けて、扉へ歩いていく。なんだろう、なにか言っているけれどよくわからない。それに、もう二度とお姉様には会えない気がする。あの扉がお姉様を締め出したら、もう二度と。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! そんなの嫌だ! どうにかしてお姉様を引き止めないと、あぁでも、もう私は愛想を尽かされている! 駄目だ! 出来ることはない!
ああ、いいこと思いついた。私はなんでも壊せるんだった。そうだそうだそうだった……、だからこれで「私のことを恋人として見てくれないお姉様」を破壊してしまえば、あとに残るのは「私のことを恋人として見てくれるお姉様」だけになるはず。
やっぱり、なんだかんだいって恋人同士らしいことはした訳だから、そういうお姉様もあるはず。絶対にそうだ! じゃあやっちゃえ! きゅっとしてドカーン!
――私が「私のことを恋人として見てくれないお姉様」の目を握り締めた瞬間、私の視界からお姉様が消えた。それはもう、跡形もなく。
いやでも、お姉様も吸血鬼だし。やろうと思えばこういうこと出来るだろうから別に驚いてはいない。驚いてはいない。なのに、冷や汗が止まらない。なんで?
部屋を見渡す。扉は開いておらず、閉じていると霧も通さないつくりになっているから、絶対この部屋の中にいるはずだ。なのに、なんで? ナンデオネエサマガミツカラナインダ?
いや、探しかたが悪いんだ。フォーオブアカインド。この状態なら見つけられるだろう。見つけられる、見つけられる、見つけられる、見つけられる、見つけられる!
なんで!? なんでいないの!? おかしい! こんなことはあるはずがない!
……そ、そっか、霧状になっているんだ。それなら納得。うん、もっと早く気がつくべきだった。うっかりうっかり。じゃあ、あとはお姉様との根比べだ。私が空腹に耐えかねあの扉を開けるか、お姉様が元の姿に戻るか。
あいにくと、もう我慢したりするのは慣れているの。負けないわよ。全くもう、お姉様ったらお茶目なんだから!
今日で丁度5年目。自分でもここまでもつとは思っていなかった。お姉様はちょっと根負けしてきて、元の姿以外の外見を装って出てくることがあるようになった。
あと、今では大体お姉様の居場所がわかるようになった。くるくる飛び回っているから、それを追いかけているだけで3日はヒマを潰せる。楽しい。
あ、お姉様が出てきた! 何、またその格好? 飽きないのね。確かにそのキラキラしたやつとかカラフルで綺麗だけどさ…、まあいいや。じゃあ、今日は何して遊ぶ?
私は愛されている。絶対に。これは確実にそうだ。いける。
私はフランドールスカーレット。フランね。私にはお姉様がいるの。私は妹で、お姉様とはあまり似ていないけどちゃんと血のつながりがある姉妹なのよ。
それで、私はお姉様が好き。それはもちろん家族としてとか、姉妹としてとかもあるけど、やっぱり恋人同士になりたいって思う方の好きね。
うん。そう、それで私はこの想いをお姉様に告白することにしたの! 今までは、待ってたら姉妹のシンパシーとかそういうので気がついてくれないかなー? とか、お姉様の方から一線をこえてきてくれないかなー? とか思ってたんだけど、やっぱりダメだったしこれは私から言うしかない! みたいな? そんなかんじで。
もちろん、姉妹で、女同士。喋るモノを壊すのと同じくらいいけないことだってのはわかってる。でも、私達吸血鬼だし。悪魔だし。そんなイエスなんとかが考えたことなんか信じる必要なくない? みたいな。
それに、お姉様も私のことお嫁さんにしたいって思ってるし。そのはずだし。うん。
だって、私閉じこもっている間に本で読んだもの。長い間一緒にいたり、髪を梳かし合ったり、えと、そのー、キス。しかも…舌入れるやつとかは普通恋人にするものだって。書いてあったし。
しかもそれが一冊だけでなく、たくさんの本に書いてあったし。これは間違ってない認識のはず。いや絶対そうだ。常識ってやつでしょ。
そんで、恋人同士になったあとはやっぱり結婚して、お嫁さんお婿さんの関係になりたいって思うのも常識。お姉様は私に恋人にするやつをやってきた。ということで私とお姉様は恋人同士。そして恋人同士はお互いをお嫁さんお婿さんにしたいと思う。そして実際になる。だからお姉様は私をお嫁さんにしたいと思っている。Q.E.D. 証明完了。
もうここまでくれば迷う必要なんてない。ガンガン行こうぜ。ってやつ? 魔理沙が言ってた。
善は急げ。早速明日告白することにしよう。急だけど、どうせお姉様は明日ヒマしてるだろうし、咲夜に頼めばお茶会の準備くらいすぐ出来るでしょう。じゃあ私はお気に入りのドレスのお手入れでもしようかしら。
時は来た。紅い布がかかった間接照明やキャンドルが少し大人っぽい雰囲気を出している。いつもの地下室とは大違いだ。ベリーグッド。ロマンチックで告白するにはもってこいだ。
作戦は、少しお茶飲んで、弾幕ごっこして、お茶飲んで、お話して、ゆったりした雰囲気が流れてしばらくしたら告白! って感じ。王道ね。
でも王道ってのはみんな通って、それでいて悪い評判とかもたたなかったからさらにみんな通って、を繰り返した道だからこそ王道なのよ。自信を持ちなさいフランドール。間違ってないわ。いける。
今日は満月だから、なにかあってもいいように。って部屋に結界を張られているのは少し気に食わないけど、まあいい。
ほら、お姉様が来た。姿勢を正して、羽はパタパタさせない。よし。
控えめなノック音が響き、その後にフラン? と呼ばれる。上擦りそうになるのを必死に抑え、入って。と声をかける。お姉様が入ってくる。当たり前か。ああ! ドキドキする!
「ハローハロー、珍しいね。フランの方からお茶に誘うなんて。大人ぶっちゃってぇ」
そんなことを言いながらお姉様が椅子に座る。椅子は私の向かいにあって、私と向き合うかたちになるから、必然的に目が合う。……ちょっと今はまっすぐ見ることが出来ない。
いやいや、こんな調子でどうするのフランドール。こういう時こそ真正面から向き合って目を見なきゃダメじゃない。……ああでも無理!
……そんなこんなで。もう作戦最後のお話タイムに入ってしまった。ゆったりしている。ここを逃したら次はないだろう、そんな気がする。ええい、ままよ! ここは早期決着をつけるべき! だらだらしてたって仕方ないし。うん。いっちゃえフランドール!
「あのね、お姉様。ちょっと大切なお話があるの。聞いてくれる?」
「? いいけれど」
よし。つかみはこんな感じでいいだろう。自然だ。お姉様も不思議がってはいるが極めて通常、問題なし。次だ。
「あのね……私、お姉様のことが! 好きなの!」
言った! 言った! ああ、お姉様が吃驚したって顔してる。まあそりゃそうよね。でも、本当なの。本当なのだからしかたない。
「…っあ、ああそうね、私も好きよ。フランのこと。最近は落ち着いてきたし、あー、いい子になって」
「違う! 違う! 私は、お姉様のこと、姉妹としてとか家族としてとかじゃなく、恋人にしたいって思ってて」
「フラン! ……フラン、違う。それは違うわ。ただの勘違いよ。そうね、まだフランはそういうのしたことないものね。ちょっと勘違いしちゃっただけよ。ええ」
な、なにを言っているのお姉様!? お姉様、無理しなくていいのよ? 私に拒絶の意は微塵もないんだから、もっと素直になってもいいのよ!?
「でも、お姉様!」
「フラン、それは勘違い。私は姉、あなたは妹。姉妹同士。女同士。そんな感情はありえないのよ。大丈夫、すぐ忘れるわ。落ち着いて」
なんで!? なんでそんなこと言うの!? あ、ありえない。こんなことありえない!
……いや、昔からお姉様は意地っ張りだった。こういうものなのだろう。お姉様の顔がいつになく真剣だと思ったが、それこそ勘違いだ。思い過ごしだ。
落ち着いて、落ち着いてお姉様を素直にさせよう…。
「お姉様。違うわ。私は本気なの。お姉様と恋人同士になりたいと思っているし、それは勘違いなんかじゃない」
「だってお姉様、私を抱きしめてくれたり、髪を梳いてくれたり、キスしてくれたりしたじゃない! そういうのって、普通恋人がやることなんでしょう?」
「それに、私達は吸血鬼で、吸血鬼は悪魔。悪魔がキリストの言うことを信じると思う? おかしいと思わない? お姉様。だってキリストは神で、なんで悪魔が神なんか」
「フラン」
……しばらく沈黙が続く。何? 言いたいことがあるなら早く言って欲しい。私はまだまだ言いたいことがあったというのに。
でも、お姉様が怒る時の表情でいるもんだから言うに言えない。……怖い。能力の関係もあり、力関係は私の方が強いはずなのに、どうにも出来ない。私にはこんな威圧感は出せないのだ。私は今どうすることも出来ない。全てはお姉様次第だ。だから早くアクションを起こして欲しいのだが…
そう思っているとお姉様が近くに来て、私の肩を掴みながら目を合わせてきた。
「フラン。確かに私達は悪魔で、神を信仰することはない。でも、それとこれとは別だ。もう別物」
「確かにキリストは同性愛、近親相姦を禁止した。それはいつしかキリスト教から漏れ出して、1つの概念となった」
「概念は神ではない。もうキリスト教とは呼べないものになった。そして、概念は悪魔にも通用する」
「悪魔だろうが無宗教だろうが、もう関係ない。同性愛、近親相姦はいけないことなんだ」
「……幻想郷は全てを受け入れる。受け入れてしまうんだ、残酷なほどに。よって、今私達が独断でその愛を受け入れてしまったら、たちまち幻想郷は人と妖、および男女のバランスが崩れ、破滅を迎えるだろう」
「確かに、私はあなたに恋人にするようなこともした。だけど、あれは恋人にもすることであって、恋人だけにすることではないと思う。実際、私は姉妹愛の表し方の1つとして使ったんだ」
「だから受け入れることは出来ない。理解してくれ、フランドール。それはあってはいけないものなんだ。普通じゃないことなんだ、分かってくれ、フランドール……」
? 何を言っているんだろう。全く理解出来ない。そうか、これは日本語でも英語でもないんだ。スペイン語かな? いや、ロシア語かも。ロシア語は難しいっていうし、わかんなくても仕方ないわよね。うん。
……だって! 普通じゃないなんて、あっちゃいけないものなんて、お姉様が言う訳ない! だって、だってお姉様はその、普通じゃなくて、あっちゃいけない存在である私を今まで守ってくれてたもの!
だから、そんな矛盾があるはずない! そんな、そんな! じゃああれはなんだったの!? お姉様はあれが姉妹愛の範疇に入ると思っていたの!? やめてよ! そんな事するから私、私は!
ああ…なんかもう……ああ…なんで、なんで? どうしてなのお姉様? 私は……
「……ごめんなさい、辛いことかもしれないけど、こうするしかないの。そうね。明日、ハクタクのところに行きましょう。そこで、その記憶を…」
お姉様が私に背を向けて、扉へ歩いていく。なんだろう、なにか言っているけれどよくわからない。それに、もう二度とお姉様には会えない気がする。あの扉がお姉様を締め出したら、もう二度と。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! そんなの嫌だ! どうにかしてお姉様を引き止めないと、あぁでも、もう私は愛想を尽かされている! 駄目だ! 出来ることはない!
ああ、いいこと思いついた。私はなんでも壊せるんだった。そうだそうだそうだった……、だからこれで「私のことを恋人として見てくれないお姉様」を破壊してしまえば、あとに残るのは「私のことを恋人として見てくれるお姉様」だけになるはず。
やっぱり、なんだかんだいって恋人同士らしいことはした訳だから、そういうお姉様もあるはず。絶対にそうだ! じゃあやっちゃえ! きゅっとしてドカーン!
――私が「私のことを恋人として見てくれないお姉様」の目を握り締めた瞬間、私の視界からお姉様が消えた。それはもう、跡形もなく。
いやでも、お姉様も吸血鬼だし。やろうと思えばこういうこと出来るだろうから別に驚いてはいない。驚いてはいない。なのに、冷や汗が止まらない。なんで?
部屋を見渡す。扉は開いておらず、閉じていると霧も通さないつくりになっているから、絶対この部屋の中にいるはずだ。なのに、なんで? ナンデオネエサマガミツカラナインダ?
いや、探しかたが悪いんだ。フォーオブアカインド。この状態なら見つけられるだろう。見つけられる、見つけられる、見つけられる、見つけられる、見つけられる!
なんで!? なんでいないの!? おかしい! こんなことはあるはずがない!
……そ、そっか、霧状になっているんだ。それなら納得。うん、もっと早く気がつくべきだった。うっかりうっかり。じゃあ、あとはお姉様との根比べだ。私が空腹に耐えかねあの扉を開けるか、お姉様が元の姿に戻るか。
あいにくと、もう我慢したりするのは慣れているの。負けないわよ。全くもう、お姉様ったらお茶目なんだから!
今日で丁度5年目。自分でもここまでもつとは思っていなかった。お姉様はちょっと根負けしてきて、元の姿以外の外見を装って出てくることがあるようになった。
あと、今では大体お姉様の居場所がわかるようになった。くるくる飛び回っているから、それを追いかけているだけで3日はヒマを潰せる。楽しい。
あ、お姉様が出てきた! 何、またその格好? 飽きないのね。確かにそのキラキラしたやつとかカラフルで綺麗だけどさ…、まあいいや。じゃあ、今日は何して遊ぶ?