「まりさー。 起きなさいっ!」
もう日も高く上り始める時刻。私は、まだすやすやと眠っている白黒魔法使いに向かって叫んだ。
「んー……」
寝ぼけたような返事が返って来て、ごそごそと音がする。私は包丁を置いて、音のする居間へと足を向けた。
暖かい寝床から這い出た魔理沙は、ゆっくりと丁寧に布団を畳んでいたところだった。
「霊夢おはよう」
「もうお昼近いけどね。……おはよう魔理沙」
呆れたように首を振る私を、何故か魔理沙はじーっと見つめている。そしてにっこりと笑って私を褒めた。
「霊夢。その格好、すごく似合ってる」
私の格好は今、いつもの巫女服に白いフリルが沢山ついたエプロンだ。このエプロンは、魔理沙お手製でプレゼントしてくれたもの。つまりお揃い。初めてこれをつけたときはちょっと恥ずかしかったけど、魔理沙は満面の笑みを咲かせてはしゃいでいた。
まぁ、今もまだ恥ずかしいんだけど。せっかく魔理沙が作ってくれたものだ。使わないわけにはいかない。
「ありがと」
素直に礼を言って台所へ戻ろうとして、スカートが引っ張られる。何? と振り返ったその先に魔理沙の顔があった――と認識する間もなくキスされた。
不意討ちに驚いて固まってしまった私に、魔理沙は悪戯が成功した子どものように笑いかけていた。
「これで目が覚めたぜ」
片付けてくる、と言い残して布団を抱えて出て行ってしまう。ひとり残された私は、頬を染めたまま小さく呟いた。
「……魔理沙のバカ」
☆
「んー! やっぱり霊夢のご飯はおいしいぜー」
パクパク、もぐもぐ。ご飯とおかずの煮物を交互に食べながら魔理沙は言う。かきこむように食べる魔理沙とは対照的に、私は静かに口へ運びながら注意する。
「もう魔理沙ってば。落ち着いて食べなさいよ」
「いや、あまりにも美味しすぎて……って霊夢?」
「魔理沙」
「なんだ?」
「ご飯粒ついてる」
私は身を乗り出して、対面に座る魔理沙に顔を近づけた。ご飯粒をとろうという素振りを見せて、そのまま唇にキスをする。ご飯粒がついてる、というのは嘘だ。さっきの仕返しをするための口実である。
一度離して、今度は耳元に口を寄せる。
「ねえ魔理沙」
「な、なんだよ」
「大好きよ」
「! ……そんなのとっくに知ってる。それに、私はお前の何倍もお前の事を愛してるぜ」
「魔理沙魔理沙。かっこいいこと言ってるけど、顔赤いわよ?」
頬の赤みを指摘すると、魔理沙はさらに赤くなった。まるで熟れたリンゴみたいだ。
食事をほったらかして魔理沙をいじっていると、後ろで迷惑な奴の朗らかな声とシャッター音が邪魔してきた。
「朝からラブラブですねぇお二人とも」
カメラを構えた射命丸 文だった。
「何よ文。羨ましいの?」
「まさか。お二人の間には誰も入れませんよ。あの妖怪の賢者でさえが認めているんですから」
「紫が? あいつ、『私の霊夢がぁ~』とか言ってたくせに」
「ま、それだけ私らの愛が深いってことだろ」
「あ、そうそう魔理沙さん。先ほどからの恥ずかしい台詞、全て録音済みですので。貴女の勝手ですが、二人っきりの時になさったほうがよろしいと思いますよ? それではっ!」
魔理沙に反論の隙も与えず、文はどこかへ飛んでいってしまった。いや、あのスピードでは消えた、と言うのが正しいか。
元々二人だったよ! お前が乱入してきたんだろうが! と文の飛び去った方向を見上げて喚く魔理沙を見ながら、私は小さく溜息をついた。
魔理沙と過ごすのは、私の中で一番楽しいし安らぐ時間だ。だけど今の文みたいに、魔理沙と他の誰かが会話しているのを見ると、時々、胸が締め付けられたみたいに苦しくなる。
最初は体調不良かと思ったけど、どうやら違うようだ。ということは、消去法で多分心の問題。
「ったく文の奴は油断できないな。あー、思い出したら腹が立って来た! 一発殴ってくるぜ! 夕方までには戻る」
「はぁ? あっ、ちょっと! 片付けぐらい手伝いなさいよ!」
魔理沙は私の言葉を無視して箒に乗ってしまい、文と同様に飛び去ってしまった。文がいなくなってからそう何分も経っていないが流石の魔理沙でも、幻想郷最速といわれる文に追いつくことは不可能だろう。
魔理沙と付き合い始めて、早くも三ヶ月が過ぎた。その間に知った事は、魔理沙は不意討ちにとても弱い、ということだ。私の感情の変化に慣れていないこともあるのだろうけど、魔理沙には隙が多い。弾幕勝負のときも、それが原因で負けていると私は思っている。しかし、負けた時に見る彼女の顔はすごく可愛い。目に涙を溜めて泣くまいと必死に耐えようとするあの表情は、何度見ても心を打ち抜かれてしまう。
魔理沙の表情はコロコロ変わる。一日中彼女を眺めていても飽きないほどに変化する。でもそれは、私だけに見せるものじゃない。
あの子はここだけではなく、様々な所に飛んで行く。紅魔館(主にパチュリーの図書館)、マーガトロイド邸、妖怪の山など。食料を調達しに里へ赴く事もある。つまり彼女は自由気ままに彼方此方で遊びまわっているわけだ。まぁ実験で籠もることもしばしばあるから、遊びまわっているという表現はおかしいか。
私と付き合うようになってから、彼女の行動時間は短くなってきているが無くなった訳ではない。彼女は、いつもどこかへ寄った帰りに私のところに来る、というパターンが多い。そして今日あったことを笑顔で話し始める。
パチュリーが珍しく笑顔で本を貸してくれた事、咲夜から美味しい酒とお菓子を貰った事、アリスが手料理を振舞ってくれた事……。
そんなのを聞くたびに、私の心は悲鳴を上げる。これ以上他の子の話をしないで! そんな笑顔なんて見たくないッ!すごく苦しいのに、胸が痛いのに、私は無理して笑う。元々感情が出にくいタイプで、さらに自分で隠そうとしている私の本音は、たとえ恋人の魔理沙であっても見抜けないようだ。
しかし紫は何か感じ取ったのか、時々現れては魔理沙との事を訪ねてくる。そのたびに私は強がって紫を追い払っているが、きっと気付いているはずだ。
後片付けを終えて、境内の掃除も終了すると、私は休憩というなの暇タイムに入る。今日ものんびりと縁側で暑い緑茶を啜っていると、アリスが人形を連れて歩いてきた。
「あら、アリスが神社に来るなんて珍しいわね」
「クッキーを焼きすぎちゃって。お裾分けに来たのよ」
「そうなの! ありがたく頂くわ」
「そう言うと思った。やっぱり霊夢の所に来て正解ね」
「ねぇ、せっかくだからお茶してかない? 見ての通り、私、暇なのよね」
「いいわよ。用事も無いし、どうやら話したいことがあるみたいだから」
私は何も言っていないのに、何故アリスには分かったのだろう。疑問は顔に出ていたようで、アリスはくすっと笑みを零して言った。
「どこかのお節介な妖怪さんが、『霊夢がちょっと悩んでいるみたいだから相談に乗ってあげてくれないかしら?』って言いに来たのよ。話を聞くと魔理沙は知らないようだし、魔理沙が知らないって事は、あの子には言えない悩みなんでしょ?」
「魔理沙が知らない=重大な悩みだと解釈して、魔理沙の次に仲が良いとされるアリスに解決してもらおうって考えたわけね」
「さすが霊夢ね。察しが早いわ」
「そりゃどうも。ま、とりあえず上がってちょうだい」
「ええ。お邪魔するわ」
アリスを居間に招き入れて、私は襖を閉めた。アリスは座布団の上に正座すると、クッキーを取り出してちゃぶ台に置く。
「緑茶でいいわよね。っていうかそれしかないんだけど」
「かまわないわ」
台所でお茶を入れて戻り、座ると同時にアリスは話し出した。
「早速本題に入るけど、貴女の悩みは魔理沙に関連しているってことで間違いないのね?」
「そうよ」
「じゃあ、具体的なことを教えて」
「……最近、魔理沙を見ると胸が痛くなったり、不愉快になったりするときがあるの。身体の不調は無いから心の問題だと思うんだけど……」
「胸が痛くなったりするのってどんな時?」
「えっと、魔理沙が他の人と話したり、他の人に笑顔を向けているとき、かな。……ねぇアリス、これって心の病気だったりするの?」
恐る恐るといった感じで訊く私に、アリスは大丈夫よ、と微笑んだ。
「病といえば病だけど、恋する人は皆が罹る病気だから心配する必要はないわ。それはね、<嫉妬>って言うのよ」
「嫉妬って、誰かを妬むことの意味でしょ?」
「分かりやすく言うとね、霊夢。貴女は魔理沙と楽しそうに過ごす誰かに“ヤキモチ”を妬いているの。つまり羨ましい、魔理沙を盗られたくないって思っているのよ」
私が、<嫉妬>? 誰にも興味を抱かない、誰にも囚われてはいけないとされている博麗の巫女である私が……?
「『博麗の巫女だって人間よ。貴女も一人の女の子なの。恋をしてもおかしくないわ』……お節介な妖怪さんがこう言ったことは無い?」
そういえば、紫のそんな発言をずっと前に聞いた気がする。その時の私は、恋愛以前に人に興味が無かったし、紫とも今みたいに親しい頃ではなかったから、テキトーにあしらったはずだ。
「アリスも、ヤキモチを妬いたことはあるの?」
「沢山あるわ。だってね、パチュリーったら小悪魔とか魔理沙と話してばっかりで、私の話を聞いてくれないのよ? そりゃあ嫉妬するわよ」
同じ魔法使いのパチュリーとアリスは気が合うようで、私達よりも前に付き合っている。そろそろ二年になるんじゃないだろうか。
それから少しだけアリスの愚痴を聞いて話を本題に戻す。
「でもね霊夢。嫉妬するって事は、貴女がそれほどまでに魔理沙を愛しているって事なの。だから何の問題も無いわ。もし貴女がその感情に押しつぶされそうになるのなら、魔理沙に正直に話してみたら? 少しは落ち着くはずよ」
「魔理沙は怒ったりしないかな?」
「大丈夫よ。さっきも言ったでしょ。“恋する人は皆が罹る病気だ”って」
「それは魔理沙もヤキモチを妬いてるってことじゃない」
「そうよ。だから魔理沙は怒ったりしない。貴女の気持ちが痛いほど分かるから」
「アリスが言うならそうかもね。……私言ってみる」
「頑張って。何かあったらいつでも相談して」
「ありがと」
靴を履いてアリスは外へ出る。アリスの傍を浮遊していた人形がバイバイと小さく手を振って、アリスも一言、じゃあね、と石段を降りていく。その後ろ姿が見えなくなるまで、私は境内に立っていた。
☆
「……む! 霊夢!」
誰かの呼ぶ声で目が覚めた。まだぼんやりとした視界には、魔理沙が映っている。差し込む光の方向と、魔理沙の影の長さから、日は傾きかけているようだ。
アリスが帰ってからの記憶が欠落している。おそらくすぐ眠ってしまったのだろう。
「おかえり魔理沙。文は殴れたの?」
「やっぱり無理だったよ。諦めてアリスの所に行ってた」
「そう。いつ帰ってきたの」
「んーお昼過ぎぐらいかな。霊夢が気持ち良さそうに寝てたんで、チルノとかと遊んでたぜ。でも流石に腹が減ってな。霊夢を起こしたってワケさ」
いつものように話す魔理沙を見て、私は嫉妬のことを話そうと決心した。いつまでも不安定のままではいられない。
「……ねぇ魔理沙。もうちょっと空腹我慢できる?」
「なんだ? 何かするのか?」
「あのね、魔理沙に聴いて欲しい事があるの」
私が畳に座り直すと、魔理沙も私に向き合って姿勢を正した。あの吸い込まれそうなくらい綺麗な輝きを放つ黄色の瞳が、真正面から見つめてくる。
「上手く言えないんだけどさ。その、あんまり遊びまわるの止めてくれない?」
「何でだ?」
「私がこんなこと言っていいのかわかんないんだけど。見ててイライラするのよ。アンタの行動って」
「は? 訳が分からないんだが」
「他の人の所で好き勝手話して、飲んで、笑って。そんなの見てると猛烈に腹が立ってくるの」
「……なんだよそれ。私に自由権なんていらないって言ってるのか……!」
「そうじゃないわ。ただ、他の所でも嘘臭い台詞を吐いてるんじゃないのって思っただけ」
「……それ、本気で言ってるのか。そんなわけないだろ!」
「……じゃあ、じゃあさ。私のことが好きなら、他の所になんか、行かないでよっ!! 私ばっかりが好きで、苦しんでるみたいじゃないっ!」
溜まっていた感情があふれ出して思わず叫んでしまった途端。先ほどまで戸惑っていた魔理沙の瞳がすっと細められ、私の視界には見慣れた木の天井が入ってきた。
「……どれだけ私が、お前の事を好きだと思ってるんだ」
いつもとはうって変わった、ドスの利いた低い声で、魔理沙は言った。あまりの豹変に私は身動き一つ出来なかった。
私の手首を押さえつけたまま、彼女は続ける。
「ずっとずっと、私はお前が好きだった」
「でもお前は他人に興味が無くて、私の事も、神社に来るまぁ親しい奴みたいに思っていた」
「私はそれでも良かったんだ。霊夢と話せるなら、霊夢の近くにいられるだけで、満足していたんだ」
「あの告白だってダメ元だったさ。でも何のご褒美か、それが叶ってしまった」
「それから、お前が変わった。よく話すようになって、とろけるほどの可愛らしい笑顔を見せてくれるようになった」
「最初は嬉しかったよ。でも……お前が心からの笑みを、私だけでなく皆に向けることに気付いて、段々怒りを感じた」
「私は嫉妬したんだ。霊夢を私だけが独占したいと、強く願ってしまったんだ。何故か分かるか?」
一瞬だけ手首を抑える力を緩めて一息つくと、魔理沙は結論を早口に告げた。
「それは私が心から、博麗霊夢が大好きだからだよ」
私が口を開く前に、柔らかいその唇を強く押し付けてきた。薄く開いた所から舌を割り込ませ、口内を舐められる。
ほんの少しだけ大人のキス。
魔理沙の勢いはそれだけで止まらず、巫女服の隙間から手が入り込んで、いたずらを始める。
魔理沙の手が、脱がそうと服の端にかかったとき、言い表せない恐怖が全身を駆け巡った。
これ以上は、まだ……。
気づいた時には、魔理沙の胸を突き放していた。私は、これ以上の行為に及ぶ事をはっきりと拒絶してしまった。
上体を起こした魔理沙は、少し罰の悪そうな顔で縁側の端まで行き、私に背中を向けて座った。
私はしばらく放心状態だったが、ふと時計を見て時刻を確認し、台所へと歩いた。
食欲はなかったが、とりあえず朝の残りのご飯を温めて味噌汁を作った。
味噌汁のいい匂いは、魔理沙のほうまで流れた行ったらしく、ちゃぶ台に箸と皿を並べていると、ちらり、と魔理沙がこちらを振り返った。
「魔理沙」
太陽も顔を隠し、外の藍色と同化している魔法使いに声をかける。
「魔理沙。ご飯食べましょう」
「……」
「魔理沙。早くしないとお味噌汁が冷めるわ」
「……」
「ねぇ魔理「……ごめん」
呼びかけを遮って、魔理沙が謝ってきた。
「何を謝ってるの」
「私さ、霊夢のこと考えてなかった。それで、あんなことして……嫌われても仕方ない」
「ねぇ、何言ってるのよ? 私が魔理沙を嫌いになるわけないじゃない」
「ごめんな霊夢。きっとお前のことだから、私の我が儘に付き合ってくれてただけ、なんだろ。もういいよ、ありがとな。私、本当に嬉しかった」
「魔理沙……? 本当に何を言ってるのか分からないわ」
「……じゃあな、霊夢」
おもむろに立ち上がり、こちらに顔を向けた魔理沙は泣いていた。ぽろぽろと雫を落としながら、それでも彼女は笑って、私にさよならを告げようとする。
その肩を掴んで引き戻し、そして私は彼女に――。
思いっきり手を振りかざして、マシュマロのように柔らかい頬を叩いてやった。
面白いくらいにもみじの後がバッチリ残った。ある意味キスマークなんかよりも印象的だ。
叩かれた頬を押さえて項垂れている魔法使いに、私は迷惑なほど大きな声で叫んだ。
「バカ魔理沙っ! 私を置いてどこに行こうってのよ! 勝手に行かせるわけないじゃない! アンタは、霧雨魔理沙は、私の親友で、命と同じくらい大切なっ!」
「恋人なんだからっ!!」
魔理沙の反応の代わりに返ってきたのは、大勢の冷やかしの声と、拍手だった。
驚いて外を見ると神社の境内には幻想郷中の妖怪・妖精・鬼等が勢ぞろいしていた。……酒のビンとつまみを手に。
団子みたいな集団の中から、紫が前に出てきて事態を説明してくれた。
どうやら私と魔理沙が喧嘩みたいになっている、という情報をいち早く手に入れたらしい文の提案によって、仲直りの方法を全員で考えていたそうだ。そこで誰かの発言で、アリスを使って私の本音を曝け出させたらどうかとの意見が出て、それが上手くいき、「二人が仲直りした事の祝杯を挙げよう!」 と言い出した鬼たちに続いてほぼ全員が神社に来た、ということらしい。
「……」
『……』
「………………夢想封印!!」
『いきなりかよっ!』
わたわたと狭い境内を逃げ回る妖怪共に私は容赦なく弾幕を叩き込む。いつの間にか魔理沙も隣に来て参戦しており、二人で暴れまくった。
三分の二がやられると、残っていた妖怪たちは勝手に上がりこんで宴会を始めてしまっていた。そうこうするうちに全員が食べて飲んで、まるでさっきまでの『弾幕ごっこ』は嘘だったかのように宴会が始まっていた。しかし誰もそれを不思議だとは思わない。だってこれが【私達】で【幻想郷】だから。
気をきかせたのか、私と魔理沙は二人っきりだった。お互いに何も喋らない。
そっと魔理沙が指を絡めてきた。お猪口を置いて、私の肩を抱き寄せる。そして首筋に唇を押し当て、ちゅうっと吸った。私には、誰の所有物かを認識させる印が刻まれた。当然だが言わなくても分かる。霧雨魔理沙だ。
「……霊夢」
「何、魔理沙?」
「私は一生、お前を好きでいるからな。覚悟しとけよ」
「本当に魔理沙はバカね。そんなの当たり前じゃない!」
「霊夢。大好きだぜ」
「魔理沙。大好きよ」
再び冷やかしと拍手の嵐が来る。そいつらに私達は二人揃って言った。
『ありがとう!』
「なぁ霊夢」
「どうしたの?」
「あのさ、お前三ヶ月前に紫を叩きのめすって言ってただろ」
「そうね。あの後あいつの家で思いっきり暴れてやったわよ。……天井が壊れるまで」
「おまっ! そこまでやる必要ないだろ! あぁ……巻き込まれた藍と橙が可哀想だぜ」
「……」
「れ、霊夢?」
「……魔理沙。アンタ今藍達に同情したでしょう」
「いや、紫はともかく藍達はとばっちりを喰らってるじゃないか」
「……」
「な、なぁ、もしかして怒ってる……?」
「……他の子に気持ちを向ける悪い子にはお仕置きしないとねぇ……」
「え、ちょ、れ、霊夢さん? 話しが読めないんですが」
「ふふ……。動いちゃ駄目よ。ま・り・さ・ちゃん?」
「霊夢なんか目が据わってる!」
「そんなことないわよ」
「と言いつつその手に持ってる鎖はなんだよ! ってそ、それは……! 嫌だぁぁぁぁ!!」
「逃げるんじゃないわよ魔理沙!!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ヤンデ霊夢反対ぃぃぃぃ!!」
もう日も高く上り始める時刻。私は、まだすやすやと眠っている白黒魔法使いに向かって叫んだ。
「んー……」
寝ぼけたような返事が返って来て、ごそごそと音がする。私は包丁を置いて、音のする居間へと足を向けた。
暖かい寝床から這い出た魔理沙は、ゆっくりと丁寧に布団を畳んでいたところだった。
「霊夢おはよう」
「もうお昼近いけどね。……おはよう魔理沙」
呆れたように首を振る私を、何故か魔理沙はじーっと見つめている。そしてにっこりと笑って私を褒めた。
「霊夢。その格好、すごく似合ってる」
私の格好は今、いつもの巫女服に白いフリルが沢山ついたエプロンだ。このエプロンは、魔理沙お手製でプレゼントしてくれたもの。つまりお揃い。初めてこれをつけたときはちょっと恥ずかしかったけど、魔理沙は満面の笑みを咲かせてはしゃいでいた。
まぁ、今もまだ恥ずかしいんだけど。せっかく魔理沙が作ってくれたものだ。使わないわけにはいかない。
「ありがと」
素直に礼を言って台所へ戻ろうとして、スカートが引っ張られる。何? と振り返ったその先に魔理沙の顔があった――と認識する間もなくキスされた。
不意討ちに驚いて固まってしまった私に、魔理沙は悪戯が成功した子どものように笑いかけていた。
「これで目が覚めたぜ」
片付けてくる、と言い残して布団を抱えて出て行ってしまう。ひとり残された私は、頬を染めたまま小さく呟いた。
「……魔理沙のバカ」
☆
「んー! やっぱり霊夢のご飯はおいしいぜー」
パクパク、もぐもぐ。ご飯とおかずの煮物を交互に食べながら魔理沙は言う。かきこむように食べる魔理沙とは対照的に、私は静かに口へ運びながら注意する。
「もう魔理沙ってば。落ち着いて食べなさいよ」
「いや、あまりにも美味しすぎて……って霊夢?」
「魔理沙」
「なんだ?」
「ご飯粒ついてる」
私は身を乗り出して、対面に座る魔理沙に顔を近づけた。ご飯粒をとろうという素振りを見せて、そのまま唇にキスをする。ご飯粒がついてる、というのは嘘だ。さっきの仕返しをするための口実である。
一度離して、今度は耳元に口を寄せる。
「ねえ魔理沙」
「な、なんだよ」
「大好きよ」
「! ……そんなのとっくに知ってる。それに、私はお前の何倍もお前の事を愛してるぜ」
「魔理沙魔理沙。かっこいいこと言ってるけど、顔赤いわよ?」
頬の赤みを指摘すると、魔理沙はさらに赤くなった。まるで熟れたリンゴみたいだ。
食事をほったらかして魔理沙をいじっていると、後ろで迷惑な奴の朗らかな声とシャッター音が邪魔してきた。
「朝からラブラブですねぇお二人とも」
カメラを構えた射命丸 文だった。
「何よ文。羨ましいの?」
「まさか。お二人の間には誰も入れませんよ。あの妖怪の賢者でさえが認めているんですから」
「紫が? あいつ、『私の霊夢がぁ~』とか言ってたくせに」
「ま、それだけ私らの愛が深いってことだろ」
「あ、そうそう魔理沙さん。先ほどからの恥ずかしい台詞、全て録音済みですので。貴女の勝手ですが、二人っきりの時になさったほうがよろしいと思いますよ? それではっ!」
魔理沙に反論の隙も与えず、文はどこかへ飛んでいってしまった。いや、あのスピードでは消えた、と言うのが正しいか。
元々二人だったよ! お前が乱入してきたんだろうが! と文の飛び去った方向を見上げて喚く魔理沙を見ながら、私は小さく溜息をついた。
魔理沙と過ごすのは、私の中で一番楽しいし安らぐ時間だ。だけど今の文みたいに、魔理沙と他の誰かが会話しているのを見ると、時々、胸が締め付けられたみたいに苦しくなる。
最初は体調不良かと思ったけど、どうやら違うようだ。ということは、消去法で多分心の問題。
「ったく文の奴は油断できないな。あー、思い出したら腹が立って来た! 一発殴ってくるぜ! 夕方までには戻る」
「はぁ? あっ、ちょっと! 片付けぐらい手伝いなさいよ!」
魔理沙は私の言葉を無視して箒に乗ってしまい、文と同様に飛び去ってしまった。文がいなくなってからそう何分も経っていないが流石の魔理沙でも、幻想郷最速といわれる文に追いつくことは不可能だろう。
魔理沙と付き合い始めて、早くも三ヶ月が過ぎた。その間に知った事は、魔理沙は不意討ちにとても弱い、ということだ。私の感情の変化に慣れていないこともあるのだろうけど、魔理沙には隙が多い。弾幕勝負のときも、それが原因で負けていると私は思っている。しかし、負けた時に見る彼女の顔はすごく可愛い。目に涙を溜めて泣くまいと必死に耐えようとするあの表情は、何度見ても心を打ち抜かれてしまう。
魔理沙の表情はコロコロ変わる。一日中彼女を眺めていても飽きないほどに変化する。でもそれは、私だけに見せるものじゃない。
あの子はここだけではなく、様々な所に飛んで行く。紅魔館(主にパチュリーの図書館)、マーガトロイド邸、妖怪の山など。食料を調達しに里へ赴く事もある。つまり彼女は自由気ままに彼方此方で遊びまわっているわけだ。まぁ実験で籠もることもしばしばあるから、遊びまわっているという表現はおかしいか。
私と付き合うようになってから、彼女の行動時間は短くなってきているが無くなった訳ではない。彼女は、いつもどこかへ寄った帰りに私のところに来る、というパターンが多い。そして今日あったことを笑顔で話し始める。
パチュリーが珍しく笑顔で本を貸してくれた事、咲夜から美味しい酒とお菓子を貰った事、アリスが手料理を振舞ってくれた事……。
そんなのを聞くたびに、私の心は悲鳴を上げる。これ以上他の子の話をしないで! そんな笑顔なんて見たくないッ!すごく苦しいのに、胸が痛いのに、私は無理して笑う。元々感情が出にくいタイプで、さらに自分で隠そうとしている私の本音は、たとえ恋人の魔理沙であっても見抜けないようだ。
しかし紫は何か感じ取ったのか、時々現れては魔理沙との事を訪ねてくる。そのたびに私は強がって紫を追い払っているが、きっと気付いているはずだ。
後片付けを終えて、境内の掃除も終了すると、私は休憩というなの暇タイムに入る。今日ものんびりと縁側で暑い緑茶を啜っていると、アリスが人形を連れて歩いてきた。
「あら、アリスが神社に来るなんて珍しいわね」
「クッキーを焼きすぎちゃって。お裾分けに来たのよ」
「そうなの! ありがたく頂くわ」
「そう言うと思った。やっぱり霊夢の所に来て正解ね」
「ねぇ、せっかくだからお茶してかない? 見ての通り、私、暇なのよね」
「いいわよ。用事も無いし、どうやら話したいことがあるみたいだから」
私は何も言っていないのに、何故アリスには分かったのだろう。疑問は顔に出ていたようで、アリスはくすっと笑みを零して言った。
「どこかのお節介な妖怪さんが、『霊夢がちょっと悩んでいるみたいだから相談に乗ってあげてくれないかしら?』って言いに来たのよ。話を聞くと魔理沙は知らないようだし、魔理沙が知らないって事は、あの子には言えない悩みなんでしょ?」
「魔理沙が知らない=重大な悩みだと解釈して、魔理沙の次に仲が良いとされるアリスに解決してもらおうって考えたわけね」
「さすが霊夢ね。察しが早いわ」
「そりゃどうも。ま、とりあえず上がってちょうだい」
「ええ。お邪魔するわ」
アリスを居間に招き入れて、私は襖を閉めた。アリスは座布団の上に正座すると、クッキーを取り出してちゃぶ台に置く。
「緑茶でいいわよね。っていうかそれしかないんだけど」
「かまわないわ」
台所でお茶を入れて戻り、座ると同時にアリスは話し出した。
「早速本題に入るけど、貴女の悩みは魔理沙に関連しているってことで間違いないのね?」
「そうよ」
「じゃあ、具体的なことを教えて」
「……最近、魔理沙を見ると胸が痛くなったり、不愉快になったりするときがあるの。身体の不調は無いから心の問題だと思うんだけど……」
「胸が痛くなったりするのってどんな時?」
「えっと、魔理沙が他の人と話したり、他の人に笑顔を向けているとき、かな。……ねぇアリス、これって心の病気だったりするの?」
恐る恐るといった感じで訊く私に、アリスは大丈夫よ、と微笑んだ。
「病といえば病だけど、恋する人は皆が罹る病気だから心配する必要はないわ。それはね、<嫉妬>って言うのよ」
「嫉妬って、誰かを妬むことの意味でしょ?」
「分かりやすく言うとね、霊夢。貴女は魔理沙と楽しそうに過ごす誰かに“ヤキモチ”を妬いているの。つまり羨ましい、魔理沙を盗られたくないって思っているのよ」
私が、<嫉妬>? 誰にも興味を抱かない、誰にも囚われてはいけないとされている博麗の巫女である私が……?
「『博麗の巫女だって人間よ。貴女も一人の女の子なの。恋をしてもおかしくないわ』……お節介な妖怪さんがこう言ったことは無い?」
そういえば、紫のそんな発言をずっと前に聞いた気がする。その時の私は、恋愛以前に人に興味が無かったし、紫とも今みたいに親しい頃ではなかったから、テキトーにあしらったはずだ。
「アリスも、ヤキモチを妬いたことはあるの?」
「沢山あるわ。だってね、パチュリーったら小悪魔とか魔理沙と話してばっかりで、私の話を聞いてくれないのよ? そりゃあ嫉妬するわよ」
同じ魔法使いのパチュリーとアリスは気が合うようで、私達よりも前に付き合っている。そろそろ二年になるんじゃないだろうか。
それから少しだけアリスの愚痴を聞いて話を本題に戻す。
「でもね霊夢。嫉妬するって事は、貴女がそれほどまでに魔理沙を愛しているって事なの。だから何の問題も無いわ。もし貴女がその感情に押しつぶされそうになるのなら、魔理沙に正直に話してみたら? 少しは落ち着くはずよ」
「魔理沙は怒ったりしないかな?」
「大丈夫よ。さっきも言ったでしょ。“恋する人は皆が罹る病気だ”って」
「それは魔理沙もヤキモチを妬いてるってことじゃない」
「そうよ。だから魔理沙は怒ったりしない。貴女の気持ちが痛いほど分かるから」
「アリスが言うならそうかもね。……私言ってみる」
「頑張って。何かあったらいつでも相談して」
「ありがと」
靴を履いてアリスは外へ出る。アリスの傍を浮遊していた人形がバイバイと小さく手を振って、アリスも一言、じゃあね、と石段を降りていく。その後ろ姿が見えなくなるまで、私は境内に立っていた。
☆
「……む! 霊夢!」
誰かの呼ぶ声で目が覚めた。まだぼんやりとした視界には、魔理沙が映っている。差し込む光の方向と、魔理沙の影の長さから、日は傾きかけているようだ。
アリスが帰ってからの記憶が欠落している。おそらくすぐ眠ってしまったのだろう。
「おかえり魔理沙。文は殴れたの?」
「やっぱり無理だったよ。諦めてアリスの所に行ってた」
「そう。いつ帰ってきたの」
「んーお昼過ぎぐらいかな。霊夢が気持ち良さそうに寝てたんで、チルノとかと遊んでたぜ。でも流石に腹が減ってな。霊夢を起こしたってワケさ」
いつものように話す魔理沙を見て、私は嫉妬のことを話そうと決心した。いつまでも不安定のままではいられない。
「……ねぇ魔理沙。もうちょっと空腹我慢できる?」
「なんだ? 何かするのか?」
「あのね、魔理沙に聴いて欲しい事があるの」
私が畳に座り直すと、魔理沙も私に向き合って姿勢を正した。あの吸い込まれそうなくらい綺麗な輝きを放つ黄色の瞳が、真正面から見つめてくる。
「上手く言えないんだけどさ。その、あんまり遊びまわるの止めてくれない?」
「何でだ?」
「私がこんなこと言っていいのかわかんないんだけど。見ててイライラするのよ。アンタの行動って」
「は? 訳が分からないんだが」
「他の人の所で好き勝手話して、飲んで、笑って。そんなの見てると猛烈に腹が立ってくるの」
「……なんだよそれ。私に自由権なんていらないって言ってるのか……!」
「そうじゃないわ。ただ、他の所でも嘘臭い台詞を吐いてるんじゃないのって思っただけ」
「……それ、本気で言ってるのか。そんなわけないだろ!」
「……じゃあ、じゃあさ。私のことが好きなら、他の所になんか、行かないでよっ!! 私ばっかりが好きで、苦しんでるみたいじゃないっ!」
溜まっていた感情があふれ出して思わず叫んでしまった途端。先ほどまで戸惑っていた魔理沙の瞳がすっと細められ、私の視界には見慣れた木の天井が入ってきた。
「……どれだけ私が、お前の事を好きだと思ってるんだ」
いつもとはうって変わった、ドスの利いた低い声で、魔理沙は言った。あまりの豹変に私は身動き一つ出来なかった。
私の手首を押さえつけたまま、彼女は続ける。
「ずっとずっと、私はお前が好きだった」
「でもお前は他人に興味が無くて、私の事も、神社に来るまぁ親しい奴みたいに思っていた」
「私はそれでも良かったんだ。霊夢と話せるなら、霊夢の近くにいられるだけで、満足していたんだ」
「あの告白だってダメ元だったさ。でも何のご褒美か、それが叶ってしまった」
「それから、お前が変わった。よく話すようになって、とろけるほどの可愛らしい笑顔を見せてくれるようになった」
「最初は嬉しかったよ。でも……お前が心からの笑みを、私だけでなく皆に向けることに気付いて、段々怒りを感じた」
「私は嫉妬したんだ。霊夢を私だけが独占したいと、強く願ってしまったんだ。何故か分かるか?」
一瞬だけ手首を抑える力を緩めて一息つくと、魔理沙は結論を早口に告げた。
「それは私が心から、博麗霊夢が大好きだからだよ」
私が口を開く前に、柔らかいその唇を強く押し付けてきた。薄く開いた所から舌を割り込ませ、口内を舐められる。
ほんの少しだけ大人のキス。
魔理沙の勢いはそれだけで止まらず、巫女服の隙間から手が入り込んで、いたずらを始める。
魔理沙の手が、脱がそうと服の端にかかったとき、言い表せない恐怖が全身を駆け巡った。
これ以上は、まだ……。
気づいた時には、魔理沙の胸を突き放していた。私は、これ以上の行為に及ぶ事をはっきりと拒絶してしまった。
上体を起こした魔理沙は、少し罰の悪そうな顔で縁側の端まで行き、私に背中を向けて座った。
私はしばらく放心状態だったが、ふと時計を見て時刻を確認し、台所へと歩いた。
食欲はなかったが、とりあえず朝の残りのご飯を温めて味噌汁を作った。
味噌汁のいい匂いは、魔理沙のほうまで流れた行ったらしく、ちゃぶ台に箸と皿を並べていると、ちらり、と魔理沙がこちらを振り返った。
「魔理沙」
太陽も顔を隠し、外の藍色と同化している魔法使いに声をかける。
「魔理沙。ご飯食べましょう」
「……」
「魔理沙。早くしないとお味噌汁が冷めるわ」
「……」
「ねぇ魔理「……ごめん」
呼びかけを遮って、魔理沙が謝ってきた。
「何を謝ってるの」
「私さ、霊夢のこと考えてなかった。それで、あんなことして……嫌われても仕方ない」
「ねぇ、何言ってるのよ? 私が魔理沙を嫌いになるわけないじゃない」
「ごめんな霊夢。きっとお前のことだから、私の我が儘に付き合ってくれてただけ、なんだろ。もういいよ、ありがとな。私、本当に嬉しかった」
「魔理沙……? 本当に何を言ってるのか分からないわ」
「……じゃあな、霊夢」
おもむろに立ち上がり、こちらに顔を向けた魔理沙は泣いていた。ぽろぽろと雫を落としながら、それでも彼女は笑って、私にさよならを告げようとする。
その肩を掴んで引き戻し、そして私は彼女に――。
思いっきり手を振りかざして、マシュマロのように柔らかい頬を叩いてやった。
面白いくらいにもみじの後がバッチリ残った。ある意味キスマークなんかよりも印象的だ。
叩かれた頬を押さえて項垂れている魔法使いに、私は迷惑なほど大きな声で叫んだ。
「バカ魔理沙っ! 私を置いてどこに行こうってのよ! 勝手に行かせるわけないじゃない! アンタは、霧雨魔理沙は、私の親友で、命と同じくらい大切なっ!」
「恋人なんだからっ!!」
魔理沙の反応の代わりに返ってきたのは、大勢の冷やかしの声と、拍手だった。
驚いて外を見ると神社の境内には幻想郷中の妖怪・妖精・鬼等が勢ぞろいしていた。……酒のビンとつまみを手に。
団子みたいな集団の中から、紫が前に出てきて事態を説明してくれた。
どうやら私と魔理沙が喧嘩みたいになっている、という情報をいち早く手に入れたらしい文の提案によって、仲直りの方法を全員で考えていたそうだ。そこで誰かの発言で、アリスを使って私の本音を曝け出させたらどうかとの意見が出て、それが上手くいき、「二人が仲直りした事の祝杯を挙げよう!」 と言い出した鬼たちに続いてほぼ全員が神社に来た、ということらしい。
「……」
『……』
「………………夢想封印!!」
『いきなりかよっ!』
わたわたと狭い境内を逃げ回る妖怪共に私は容赦なく弾幕を叩き込む。いつの間にか魔理沙も隣に来て参戦しており、二人で暴れまくった。
三分の二がやられると、残っていた妖怪たちは勝手に上がりこんで宴会を始めてしまっていた。そうこうするうちに全員が食べて飲んで、まるでさっきまでの『弾幕ごっこ』は嘘だったかのように宴会が始まっていた。しかし誰もそれを不思議だとは思わない。だってこれが【私達】で【幻想郷】だから。
気をきかせたのか、私と魔理沙は二人っきりだった。お互いに何も喋らない。
そっと魔理沙が指を絡めてきた。お猪口を置いて、私の肩を抱き寄せる。そして首筋に唇を押し当て、ちゅうっと吸った。私には、誰の所有物かを認識させる印が刻まれた。当然だが言わなくても分かる。霧雨魔理沙だ。
「……霊夢」
「何、魔理沙?」
「私は一生、お前を好きでいるからな。覚悟しとけよ」
「本当に魔理沙はバカね。そんなの当たり前じゃない!」
「霊夢。大好きだぜ」
「魔理沙。大好きよ」
再び冷やかしと拍手の嵐が来る。そいつらに私達は二人揃って言った。
『ありがとう!』
「なぁ霊夢」
「どうしたの?」
「あのさ、お前三ヶ月前に紫を叩きのめすって言ってただろ」
「そうね。あの後あいつの家で思いっきり暴れてやったわよ。……天井が壊れるまで」
「おまっ! そこまでやる必要ないだろ! あぁ……巻き込まれた藍と橙が可哀想だぜ」
「……」
「れ、霊夢?」
「……魔理沙。アンタ今藍達に同情したでしょう」
「いや、紫はともかく藍達はとばっちりを喰らってるじゃないか」
「……」
「な、なぁ、もしかして怒ってる……?」
「……他の子に気持ちを向ける悪い子にはお仕置きしないとねぇ……」
「え、ちょ、れ、霊夢さん? 話しが読めないんですが」
「ふふ……。動いちゃ駄目よ。ま・り・さ・ちゃん?」
「霊夢なんか目が据わってる!」
「そんなことないわよ」
「と言いつつその手に持ってる鎖はなんだよ! ってそ、それは……! 嫌だぁぁぁぁ!!」
「逃げるんじゃないわよ魔理沙!!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ヤンデ霊夢反対ぃぃぃぃ!!」
お久し振りです。一作目を読み返してきましたけど、以前より内容が充実してたと思います。私のアドバイスを参考にしてくださってありがとうございます。
さて今作ですが、私からは特に言うことはありません。氏のレイマリの今後に期待するだけです。
一つ言うならば、霊夢と魔理沙の病は「嫉妬」というよりは「独占欲」が表現としてはしっくりくると思います。
長々と失礼いたしました。次回も楽しみにしております。
コメントありがとうございます。実は書き忘れてまして・・・ おかげで気付くことが出来ました
私もヤンデ霊夢好きですよw