霊夢が珍しく悩んでいる。
萃香はそれが心配で仕方なかった。
いつもは、物事という物事を即決するか、「面倒くさい」でかたずけるか。
その二つしかしてこなかったイメージだったのに。
そんな霊夢が心配でたまらなかった。
かといってなにかしてあげることもできない。
とりあえず、話をしてみることにした。
「れいむー?どうしたんだよー?」
「どうしたって・・・なにがよ?」
「いやなんか悩んでたからさ」
「別に・・・悩んでなんかないわよ」
いや絶対嘘だ。
明らかに目を合わせようとしないし、話を早く終わらせようとしている。
「いや、絶対なにかあるだろ?私にも言えないのか?」
霊夢の顔を見上げ、ねだるように頼んでみる。
すると、効果があったのか、
「・・・わかったわよ」
ため息交じりにそういってくれた。
そしてそのまま話を続けた。
「いや、別に大したことじゃないんだけど・・・」
「ただ用事ができただけ。ただ三日ぐらい帰れなくて・・・」
「その間神社をあけるわけにもいかないし、参拝客とかいるし、それに・・・」
そのあとは、何を言っているかわからなかった。
ごにょごにょ言ってるだけで全く聞きとれなかった。
とりあえず、霊夢の話を聞いて思ったことを口に出してみる。
「え?それだけ?」
「んな・・・!なんか悪いの?」
「あ・・・いやなんかもっと凄い理由かと思ってたから」
「逆に凄い理由ってなによ?」
「幻想郷に超巨大隕石が接近とか、神々が私たちに天罰を下すとか・・・」
「いやいやいや、スケールでかすぎでしょ!?」
霊夢が深いため息をつく。
しかし、本当にそれだけならば解決策ぐらい出てくる。
そこで、私から提案することにした。
「まったく、霊夢は・・・私というものがありながら」
「なにそれ、どういう意味?」
「私だって留守番ぐらいできるって意味だよ!」
「・・・は?」
「私は鬼なんだぞ!巫女の仕事ぐらいできらい!」
「あんた・・・酔ってる?」
「んな・・・まだ飲んでないよ」
「ふーん・・・」
「とーりーあーえーずー!神社は私に任せていってこい!」
「・・・・・・・・・」
なかなか決めてくれない。
本当に今日の霊夢は悩むな。
こんな姿いつもは見れないだろう。
「大丈夫だって!大船に乗ったつもりでさ!」
「・・・じゃあ、任せようかな・・・」
「本当か!やった!」
こうして私の「鬼」であり、「巫女」である三日間が始まったのだ。
朝、日差しが顔に当たり、目が覚めた。
とりあえず、神社の中をぶらぶら歩きまわったが、霊夢の姿はなかった。
きっと朝早くに出かけていったのだろう。
「・・・そうだ!」
あることを思い出し、タンスへと向かう。
引き出しをあけると、巫女が着る服がたくさん詰まっていた。
その服からてきとうにひっぱり出した。
そして、ひっぱり出した服に着替えてみる。
鏡を見ると角の生えた一人の巫女がいた。
「これで少しは巫女さんっぽくなったかな~♪」
なんとなく、巫女の仕事をするので、巫女っぽくなってみたかった。
ただそれだけだ。
巫女っぽい雰囲気になったところで、参拝客を待つことにした。
「・・・・・・来ない」
参拝客を待って、すでに二、三時間経過した。
いっつも霊夢が暇してるとは思ってたけど、まさかここまでとは。
これではいつまでたってもこないんじゃないか?
なんだか凄く心配になってきた。
「あれ?霊夢かと思ったら萃香じゃないか」
上からこえがしたので見てみると、ほうきに乗った魔理沙いた。
なんだか人が来たことに、凄い安心感を覚える。
「一人か?霊夢はどうしたんだぜ?」
「いやー、霊夢は今用事三日ぐらい帰ってこないんだよー」
「ふーん。で?なんで霊夢の服着てるんだ?」
「霊夢がいない間仕事任されてるから、雰囲気だけでもとね」
「そっか」
そうだ。霊夢に仕事を任されていたんだった。
昨日教えてもらった「巫女のたしなみ」を実践しなくちゃ。
「魔理沙、魔理沙」
「ん?なんだぜ?」
私は魔理沙を呼ぶと、霊夢が言っていた「巫女のたしなみ」を思い出す。
一字一句すべて思い出し、行動に移す。
まずひとつ、お賽銭箱を持つ。
ふたつ、上目遣いで。
みっつ、満面な笑顔でこういう
「おさいせんちょーだい♡」
よし、完璧だ。
ちゃんと霊夢の言っていた通りにできた。
ここまで完璧にできたら魔理沙もお賽銭をくれるにちがいない。
そして私は、ちゃんと仕事のできる偉いやつだと霊夢に認識させることができる。
ふふふ・・・これでお賽銭を払わないやつが一体どこに・・・
「え?いやなんだぜ」
「!?」
いきなり想定外の事態が起きた。
まさかこんな答えが返ってくるなんて。
まあ大丈夫だ。
こんな時のため霊夢が「巫女のたしなみ その二」を教えてくれたからだ。
「よーし。じゃあ弾幕ごっこをしよう」
「・・・いや、なんでなんだぜ?」
「いいから、いいから。そら、いくぞ!」
「え、ちょ、ま!」
・・・魔理沙が気絶した。
「やっぱり強すぎたかな?」
能力を使って、密度が高まったこぶしで殴ったら気絶してしまった。
「五発はまずかったかな・・・?」
どのぐらい重かったのかわからないが、とりあえず強すぎたと思っている。
「まいっか」
まあそんな事を気にしていたら前へは進めない。
なので、魔理沙の財布を探し当てることにした。
マジックアイテムやら、キノコやらいろいろあったが、やっとの思いで見つけ出した。
とりあえず、中身確認。
・・・全然中身が入っていない。
これは財布なのか?と疑うぐらい入っていない。
面倒くさいので財布ごとお賽銭箱につっこんだ。
それとほぼ同じ瞬間に魔理沙が目覚めた。
「・・・いっててててて・・・」
「あ、よかった~死んでたらどうしようかと思った~」
「いや、今のはガチで死ぬとこ・・・あれ!?財布がない!」
「財布?ああもらっといたよ」
「はあああ!?なんでだよ!」
「いや~霊夢が言ってたから・・・」
「そういう問題じゃないんだぜ!今すぐ返せ!早く!」
「あーもう賽銭箱に入れちゃった」
「おい!」
「財布ごと」
「財布ごと!?」
そのあともいろいろあったが、最終的に怒って帰ってしまった。
まあ大丈夫だと思う。魔理沙の頭ところてんだし。
その後、ほかの参拝客は来なかった。
霊夢が用事で出かけてから二日目。
萃香は暇を持て余していた。
参拝客が来ないんのでとんでもなく暇(二回目)なのだ。
「あー暇(三回目)だー暇(四回目)すぎて死にそうだー」
それぐらい暇(五回目)なのだ。
そんな暇(六回目)な時間を過ごしていたら、前のほうから二人の人影が見えた。
羽の生えた小さい女の子と、きれいな銀髪のメイドさんだ。
慌てて体制を整え、いかにも今さっきまで仕事してました感を出した。
「ふふふ・・・今日こそ霊夢を・・・ふふ・・・」
「お嬢様・・・危ない顔になっています・・・」
会話の内容が聞こえるぐらいにまで近づいてきた。
あまり見たことのない人たちなので、少しばかり胸が高鳴る。
そして、お互いの顔が確認できるまでの距離になった。
すると、背丈の小さいほうの人が急に何か探すように周りをきょろきょろと見始めた。
「霊夢は?霊夢は!?」
どうやら、霊夢を探している様子だった。
だけど霊夢は今いない。
なので、そのことを伝えなければ。
「あのー・・・」
「ん?ああ、どうかされましたか?」
「いや、今霊夢は用事でいなんだよー」
目の前の人が硬直した。
多分数十秒は動かなかったと思う。
そしてやっと動き出した。
口が動きだし
「いねぇのかよ・・・くそ・・・」
こう、小声で言い放った。
あれ?さっきまでの丁寧な口調は?
「お嬢様、口が悪いです(小声)」
「だって私が何のために来たかわかってるでしょ?(小声)」
「いや・・・でも一応吸血鬼のたしなみとしてですね・・・(小声)」
「霊夢がいないとわかった今、そんな事する必要ないし(小声)」
「霊夢がいないですけどあそこに人いますし(小声)」
「あんな奴どうでもいいのよ!(小声)」
全部聞こえてるんだけどなー・・・
少し泣きそうになったが、ぐっとこらえる。
そんな事でめげずにはいられない。
とりあえず、「巫女のたしなみ」を実践する。
「ねーねー、そこのひとー」
「ん?なによ?」
「おさいせんちょーだい♡」
「は?」
今、私は凄い形相で睨まれている。
くそぅ、また効かなかった。
仕方ない、「巫女のたしなみ その二」に・・・
「なによ?あんた、殺る気なの?」
今私の目に映っているのは、可愛らしい女の子と信じられないくらいデカい槍だった。
え、なんか勝てる気がしないんだけど。
「ていうかあんたなんで霊夢の服着てるのよ!」
「ええぇ!?なんでいきなり!?」
「気になったからに決まっているでしょ!?」
「え、いやぁこっちのほうが雰囲気出るかなと思って・・・」
「そんな気安く霊夢の服を着ていいと思ってるの!?」
突然の逆ギレにどうしていいのかわからなくなった。
なんでこの人はキレたんだろう?
もしかして着たいのかな?この服。
「あーもしかして、この服着たいの?」
「え!?いいの?」
どうやら予想的中のようだ。
私はそのままタンスから服を取り出し、渡してあげた。
すると、とても嬉しそうな顔をした。
そして、その服を抱きかかえた。
そして、その服のにおいを入念に嗅いだ。
そして、その服を自分の懐へとしまった。
って、あれ?着ないの?
「ありがとう、とってもうれしいわ」
さっきまでの口調から、丁寧な口調に戻った。
その後、レミリア・スカーレットと名乗り、結局服のにおいを嗅いでいた。
「先ほどはすみませんね」
メイドが丁寧な口調で謝ってきた。
「いやーいいんだよ!」
「うちのお嬢様が迷惑かけてしまって」
「霊夢がいるときもあんな感じなのか?」
「いや・・・霊夢がいるときは・・・もっとひどいですね」
「うわ。あれよりひどいのかよ」
なんか霊夢に同情の念がわいてくる。
なんかしてあげれないかな?
とりあえず、してあげられることといったら・・・
「おさいせんちょーだい♡」
「・・・はぁ・・・」
これしか思いつかなかった。
「仕方ないですね。はい、どうぞ」
「わ~い。って五円だけ?」
「はい、そうです」
「えー・・・もっとないの?」
「はい、ありません」
「えー・・・」
結局、数十分粘ったが五円しかもらえなかった。
巫女って結構大変なんだなってつくづく思わされる。
疲れたので今日は寝ることにした。
「あ・・・服返してもらってない・・・まいっか」
私は、そのまま眠りについた。
霊夢がいなくなって三日目。
昨日のこともあり、凄く疲れた。
今日は参拝客には来てほしくない。
しかし、今日に限ってなぜか早い時間から人が来た。
眼鏡をかけた、白髪の青年だった。
「はぁ・・・僕は宅配サービスはやっていないんだけどね」
何やら愚痴りながらこちらに向かってきている。
そのあと、ある程度周囲を見回したあと、近寄ってきてこういった。
「あれ・・・?君、霊夢がどこにいるか知ってるかい?」
「あー霊夢なら今用事でいないよー」
「あいつ・・・この日に届けて来いって言ったくせに・・・」
「あぁ見えて霊夢も忙しいんだぞー」
どうやらこの人は荷物を届けるよう言われていたようだった。
「荷物ぐらいだったら私が預かるぞー」
「・・・じゃあよろしく」
その青年は森近霖之助と名乗った。
香霖堂というの店の店主をやっているらしい。
正直そんな事はどうでもいい。
私は口を開き、
「おさいせんちょーだい♡」
こう言った。
霖之助は少し唖然とし、
「・・・霊夢になにかいわれたな?」
こう質問してきた。
「うん、いわれたー」
「はぁ・・・で?いくらほしいの?」
「万!」
「ま・・・いや無理があるだろ!」
「えー?ほしがってるんだからくれよー」
「いや、万は無理だから」
「じゃあ億!」
「もっと無理だから!」
結局五百円もらえた。
今までの最高金額だ。
「ところで、霊夢はなんの用事なんだい?」
「え・・・いや・・・その・・・」
「知らないのか・・・」
「えへへ」
「仕事をさぼりたいだけじゃないのか?」
「それは絶対違う!」
さっきまでの楽しかった時間が急に打ち切られた。
少し強く言い過ぎたかもしれない。
しかし、今日ばかりは本当に言い切ることができる。
だってあんなにも悩んでいる霊夢をいままで見たことがあるだろうか?
いや、私が見た限りではなかった。
そう目で訴えていると、
「・・・わかったよ・・・今日は違うんだね」
理解してくれたらしい。
話の分かる人で良かった。
「・・・霊夢も大変なんだからな?」
「どうしたんだい?そんな改まった感じになって?」
私は昨日、一昨日のことを話した。
参拝客が来ないので、凄く暇なこと、金欠なこと、
参拝客が来たら来たで大変なこと、
昨日は特に、大変だったこと。
すべてというすべてを話した。
少しの間だけ沈黙が流れた。
少しすると、霖之助が口を開いた。
「・・・つまり、霊夢がどんな思いをしてるかを知ったわけだな」
「うん・・・」
「じゃあこういうのはどうかな?」
「・・・え?」
「はぁ・・・やっと終わった・・・」
やっと用事を済ました霊夢は、ため息をつきながらその場に横になった。
もうあたりは暗くなっているので、神社に帰ることができなかった。
霊夢は早く神社に帰りたいと思っていた。
お茶を飲みたいからではなく、
布団に入りたいわけでもない。
萃香に早く会いたかったからだった。
いつからかは忘れたが、萃香は博麗神社に住み着いている。
その時は、つかみどころのない変な奴だと思っていた。
しかし、一緒に暮らしていくうちに、だんだんと暮らしていくのが楽しくなった。
酒癖が強く、子供っぽくて、つかみどころがない。
そんな萃香にどんどん惹かれていったのだろう。
いつしか、萃香から離れたくないという願望が芽生えだした。
たとえそれが三日であっても、離れたくないのだ。
今回は、うまい言い訳も思いつかず、萃香がどうしてもと頼むので、仕方なくやってしまった。
しかし、たった三日会わないだけでこんなにさみしいとは。
まあでも、明日には会えるだろうから今日はもう寝ることにした。
「はやく会いたい・・・」
そう、口にして霊夢は眠りについた。
早朝、霊夢は起きた瞬間から飛び立って、博麗神社へと向かった。
やっと帰れると思うと、鼓動が高まる。
そう、興奮や喜びを抑え、博麗神社についた。
すると萃香が幸せそうな顔をして眠っていた。
・・・私の服を着て。
「なんで私の服を着ているのよ・・・」
口ではそう愚痴るものの、顔は笑っていた。
まったく、可愛いやつめ・・・
「ふあ~よく寝た・・・」
そんな事を考えていると、萃香が起きた。
そして私の存在に気づき、はっとしたような顔をして近寄ってきた。
「あ!霊夢!おかえり!」
「・・・ただいま」
「なあなあ!霊夢がいない間大変だったんだぞ!」
「あーはいはい」
「変な奴も来るし・・・お酒も我慢したんだからな!」
「・・・よく頑張ったわね」
「えへへ」
萃香が嬉しそうに笑う。
やめて、可愛いから。
「そういえば、なんで私の服を着てるのよ?」
「え?ああいや、雰囲気出るかなと・・・」
「それだけ?」
「うん、それ以外ないよ?」
「はぁ・・・で?大丈夫だったの?」
「ぜーんぜん大丈夫だった!」
「・・・お賽銭は?」
「あ・・・いや・・・それは・・・」
「全然ないんだ・・・まあ期待してないからいいけど」
「あはは・・・まあ良いだろ」
これで最低限聞きたいことは全て聞いた。
そのあとも三日間のことをいろいろなことを聞いた。
萃香が話していると、急に何かを思い出したような顔をして、
「あ、ちょ、ちょっと待ってて!すぐ戻るから!」
そう、言い残して神社の中に入っていった。
「・・・なんなのよ、いったい」
神社になにがあるのだろうか?
なんだか、凄く中がうるさい。
どたどたと足音は聞こえてくるは、何かものを倒したみたいな音もした。
中は大丈夫なのだろうか、心配になってくる。
それにしても長い。
なかなか帰ってこない。
そう考えていたら、どたどた足音を立てて帰ってきた。
笑顔でこちらに近づいてくる。
何かを後ろに隠して。
隠しているつもりなのだろう。
しかしバレバレだ。隠し方が露骨すぎる。
萃香はにこにこと笑いながら、隠しているものを前に持ってきた。
そこにあったのは、一つの湯呑みだった。
しかし、湯呑みとは言い難いものだった。
そこらじゅうがぼこぼこで、少なくとも市販のものではなかった。
「はい!霊夢!これあげる!」
笑顔を張り付けたまま、湯呑みを渡してきた。
そして、霊夢が受け取るのを確認すると、話し出した。
「これ、私が作ったんだよ!」
「最近、霊夢忙しそうだし、三日間仕事任されてわかったんだ」
「巫女さんってこんなに大変なんだなってさ」
「だから何かしてあげられないかなって思って」
「霊夢お茶飲むの好きだろ?だから作ったんだ」
・・・萃香がそこまで私のことを考えてくれてたんて。
いつも萃香は子供っぽかった。
子供っぽいから何をしでかすかわからない。
だから自分は、保護者のようなポジションにいると思っていた。
しかしそんな事なかった。
私のことをちゃんと考えてくれていた。
「なーれいむー?どうだ?嬉しいか?」
萃香が無邪気な笑顔で聞いてくる。
霊夢はこの気持ちをどう表わせばいいかわからなかった。
この、喜びと緊張と恥ずかしい気持ちなどいろいろな感情が混ざり合ったこの気持ちを。
ただ、この気持ちを萃香に言わなければ失礼だ。
だから、恥ずかしいという気持ちを捨て、勇気を振り絞り、
「あ、ありがとう・・・」
こう、一言だけ言ったのだった。
長い階段を上り、霖之助はやっと神社にたどり着いた。
少し疲れたが、気にすることはない。
そのまま神社の中へと向かった。
神社の回廊に一人のお茶をすする女の子がいた。
まぎれもなく、霊夢だ。
しかし、持っている湯呑みがいつもと違う。
いつも飲んでいるときに使う湯呑みではなかった。
だが僕には見覚えがある。
ぼこぼこになっていて、とても持ちづらい側面。
置くと、がたがた揺れる不安定な形な底面。
そしてなんだかよくわからない奇妙な絵。
そのすべてに見覚えがあった。
「あら、霖之助さんじゃない」
霊夢が僕に気付いた。
「どうしたのよ?こんなところにまで来たりして」
「いや・・・気まぐれだよ。どうだい?その湯呑み」
「どうってなにがよ?」
「それ、萃香が作ったんだろう?」
「・・・なんで知ってるのよ」
「僕が作り方を教えてあげた」
「・・・!」
僕は萃香とのことを隠すことなく話した。
「萃香は君に感謝しているんだ」
「君がいなくなり、君の仕事をして初めてそれがわかったんだ」
「でもあの子はそれをどう伝えればいいか知らなかったんだ」
「だから僕は提案したんだ」
「プレゼントはどうだい?ってね」
霊夢は僕の話を聞いて少しだけ驚いたような顔をした。
そのあと微笑んで、
「そう・・・」
こう一言だけいったんだ。
昨日も今日も霊夢はお茶を飲む。
そして明日も飲むだろう。
この不安定な湯呑みに注いで・・・
萃香はそれが心配で仕方なかった。
いつもは、物事という物事を即決するか、「面倒くさい」でかたずけるか。
その二つしかしてこなかったイメージだったのに。
そんな霊夢が心配でたまらなかった。
かといってなにかしてあげることもできない。
とりあえず、話をしてみることにした。
「れいむー?どうしたんだよー?」
「どうしたって・・・なにがよ?」
「いやなんか悩んでたからさ」
「別に・・・悩んでなんかないわよ」
いや絶対嘘だ。
明らかに目を合わせようとしないし、話を早く終わらせようとしている。
「いや、絶対なにかあるだろ?私にも言えないのか?」
霊夢の顔を見上げ、ねだるように頼んでみる。
すると、効果があったのか、
「・・・わかったわよ」
ため息交じりにそういってくれた。
そしてそのまま話を続けた。
「いや、別に大したことじゃないんだけど・・・」
「ただ用事ができただけ。ただ三日ぐらい帰れなくて・・・」
「その間神社をあけるわけにもいかないし、参拝客とかいるし、それに・・・」
そのあとは、何を言っているかわからなかった。
ごにょごにょ言ってるだけで全く聞きとれなかった。
とりあえず、霊夢の話を聞いて思ったことを口に出してみる。
「え?それだけ?」
「んな・・・!なんか悪いの?」
「あ・・・いやなんかもっと凄い理由かと思ってたから」
「逆に凄い理由ってなによ?」
「幻想郷に超巨大隕石が接近とか、神々が私たちに天罰を下すとか・・・」
「いやいやいや、スケールでかすぎでしょ!?」
霊夢が深いため息をつく。
しかし、本当にそれだけならば解決策ぐらい出てくる。
そこで、私から提案することにした。
「まったく、霊夢は・・・私というものがありながら」
「なにそれ、どういう意味?」
「私だって留守番ぐらいできるって意味だよ!」
「・・・は?」
「私は鬼なんだぞ!巫女の仕事ぐらいできらい!」
「あんた・・・酔ってる?」
「んな・・・まだ飲んでないよ」
「ふーん・・・」
「とーりーあーえーずー!神社は私に任せていってこい!」
「・・・・・・・・・」
なかなか決めてくれない。
本当に今日の霊夢は悩むな。
こんな姿いつもは見れないだろう。
「大丈夫だって!大船に乗ったつもりでさ!」
「・・・じゃあ、任せようかな・・・」
「本当か!やった!」
こうして私の「鬼」であり、「巫女」である三日間が始まったのだ。
朝、日差しが顔に当たり、目が覚めた。
とりあえず、神社の中をぶらぶら歩きまわったが、霊夢の姿はなかった。
きっと朝早くに出かけていったのだろう。
「・・・そうだ!」
あることを思い出し、タンスへと向かう。
引き出しをあけると、巫女が着る服がたくさん詰まっていた。
その服からてきとうにひっぱり出した。
そして、ひっぱり出した服に着替えてみる。
鏡を見ると角の生えた一人の巫女がいた。
「これで少しは巫女さんっぽくなったかな~♪」
なんとなく、巫女の仕事をするので、巫女っぽくなってみたかった。
ただそれだけだ。
巫女っぽい雰囲気になったところで、参拝客を待つことにした。
「・・・・・・来ない」
参拝客を待って、すでに二、三時間経過した。
いっつも霊夢が暇してるとは思ってたけど、まさかここまでとは。
これではいつまでたってもこないんじゃないか?
なんだか凄く心配になってきた。
「あれ?霊夢かと思ったら萃香じゃないか」
上からこえがしたので見てみると、ほうきに乗った魔理沙いた。
なんだか人が来たことに、凄い安心感を覚える。
「一人か?霊夢はどうしたんだぜ?」
「いやー、霊夢は今用事三日ぐらい帰ってこないんだよー」
「ふーん。で?なんで霊夢の服着てるんだ?」
「霊夢がいない間仕事任されてるから、雰囲気だけでもとね」
「そっか」
そうだ。霊夢に仕事を任されていたんだった。
昨日教えてもらった「巫女のたしなみ」を実践しなくちゃ。
「魔理沙、魔理沙」
「ん?なんだぜ?」
私は魔理沙を呼ぶと、霊夢が言っていた「巫女のたしなみ」を思い出す。
一字一句すべて思い出し、行動に移す。
まずひとつ、お賽銭箱を持つ。
ふたつ、上目遣いで。
みっつ、満面な笑顔でこういう
「おさいせんちょーだい♡」
よし、完璧だ。
ちゃんと霊夢の言っていた通りにできた。
ここまで完璧にできたら魔理沙もお賽銭をくれるにちがいない。
そして私は、ちゃんと仕事のできる偉いやつだと霊夢に認識させることができる。
ふふふ・・・これでお賽銭を払わないやつが一体どこに・・・
「え?いやなんだぜ」
「!?」
いきなり想定外の事態が起きた。
まさかこんな答えが返ってくるなんて。
まあ大丈夫だ。
こんな時のため霊夢が「巫女のたしなみ その二」を教えてくれたからだ。
「よーし。じゃあ弾幕ごっこをしよう」
「・・・いや、なんでなんだぜ?」
「いいから、いいから。そら、いくぞ!」
「え、ちょ、ま!」
・・・魔理沙が気絶した。
「やっぱり強すぎたかな?」
能力を使って、密度が高まったこぶしで殴ったら気絶してしまった。
「五発はまずかったかな・・・?」
どのぐらい重かったのかわからないが、とりあえず強すぎたと思っている。
「まいっか」
まあそんな事を気にしていたら前へは進めない。
なので、魔理沙の財布を探し当てることにした。
マジックアイテムやら、キノコやらいろいろあったが、やっとの思いで見つけ出した。
とりあえず、中身確認。
・・・全然中身が入っていない。
これは財布なのか?と疑うぐらい入っていない。
面倒くさいので財布ごとお賽銭箱につっこんだ。
それとほぼ同じ瞬間に魔理沙が目覚めた。
「・・・いっててててて・・・」
「あ、よかった~死んでたらどうしようかと思った~」
「いや、今のはガチで死ぬとこ・・・あれ!?財布がない!」
「財布?ああもらっといたよ」
「はあああ!?なんでだよ!」
「いや~霊夢が言ってたから・・・」
「そういう問題じゃないんだぜ!今すぐ返せ!早く!」
「あーもう賽銭箱に入れちゃった」
「おい!」
「財布ごと」
「財布ごと!?」
そのあともいろいろあったが、最終的に怒って帰ってしまった。
まあ大丈夫だと思う。魔理沙の頭ところてんだし。
その後、ほかの参拝客は来なかった。
霊夢が用事で出かけてから二日目。
萃香は暇を持て余していた。
参拝客が来ないんのでとんでもなく暇(二回目)なのだ。
「あー暇(三回目)だー暇(四回目)すぎて死にそうだー」
それぐらい暇(五回目)なのだ。
そんな暇(六回目)な時間を過ごしていたら、前のほうから二人の人影が見えた。
羽の生えた小さい女の子と、きれいな銀髪のメイドさんだ。
慌てて体制を整え、いかにも今さっきまで仕事してました感を出した。
「ふふふ・・・今日こそ霊夢を・・・ふふ・・・」
「お嬢様・・・危ない顔になっています・・・」
会話の内容が聞こえるぐらいにまで近づいてきた。
あまり見たことのない人たちなので、少しばかり胸が高鳴る。
そして、お互いの顔が確認できるまでの距離になった。
すると、背丈の小さいほうの人が急に何か探すように周りをきょろきょろと見始めた。
「霊夢は?霊夢は!?」
どうやら、霊夢を探している様子だった。
だけど霊夢は今いない。
なので、そのことを伝えなければ。
「あのー・・・」
「ん?ああ、どうかされましたか?」
「いや、今霊夢は用事でいなんだよー」
目の前の人が硬直した。
多分数十秒は動かなかったと思う。
そしてやっと動き出した。
口が動きだし
「いねぇのかよ・・・くそ・・・」
こう、小声で言い放った。
あれ?さっきまでの丁寧な口調は?
「お嬢様、口が悪いです(小声)」
「だって私が何のために来たかわかってるでしょ?(小声)」
「いや・・・でも一応吸血鬼のたしなみとしてですね・・・(小声)」
「霊夢がいないとわかった今、そんな事する必要ないし(小声)」
「霊夢がいないですけどあそこに人いますし(小声)」
「あんな奴どうでもいいのよ!(小声)」
全部聞こえてるんだけどなー・・・
少し泣きそうになったが、ぐっとこらえる。
そんな事でめげずにはいられない。
とりあえず、「巫女のたしなみ」を実践する。
「ねーねー、そこのひとー」
「ん?なによ?」
「おさいせんちょーだい♡」
「は?」
今、私は凄い形相で睨まれている。
くそぅ、また効かなかった。
仕方ない、「巫女のたしなみ その二」に・・・
「なによ?あんた、殺る気なの?」
今私の目に映っているのは、可愛らしい女の子と信じられないくらいデカい槍だった。
え、なんか勝てる気がしないんだけど。
「ていうかあんたなんで霊夢の服着てるのよ!」
「ええぇ!?なんでいきなり!?」
「気になったからに決まっているでしょ!?」
「え、いやぁこっちのほうが雰囲気出るかなと思って・・・」
「そんな気安く霊夢の服を着ていいと思ってるの!?」
突然の逆ギレにどうしていいのかわからなくなった。
なんでこの人はキレたんだろう?
もしかして着たいのかな?この服。
「あーもしかして、この服着たいの?」
「え!?いいの?」
どうやら予想的中のようだ。
私はそのままタンスから服を取り出し、渡してあげた。
すると、とても嬉しそうな顔をした。
そして、その服を抱きかかえた。
そして、その服のにおいを入念に嗅いだ。
そして、その服を自分の懐へとしまった。
って、あれ?着ないの?
「ありがとう、とってもうれしいわ」
さっきまでの口調から、丁寧な口調に戻った。
その後、レミリア・スカーレットと名乗り、結局服のにおいを嗅いでいた。
「先ほどはすみませんね」
メイドが丁寧な口調で謝ってきた。
「いやーいいんだよ!」
「うちのお嬢様が迷惑かけてしまって」
「霊夢がいるときもあんな感じなのか?」
「いや・・・霊夢がいるときは・・・もっとひどいですね」
「うわ。あれよりひどいのかよ」
なんか霊夢に同情の念がわいてくる。
なんかしてあげれないかな?
とりあえず、してあげられることといったら・・・
「おさいせんちょーだい♡」
「・・・はぁ・・・」
これしか思いつかなかった。
「仕方ないですね。はい、どうぞ」
「わ~い。って五円だけ?」
「はい、そうです」
「えー・・・もっとないの?」
「はい、ありません」
「えー・・・」
結局、数十分粘ったが五円しかもらえなかった。
巫女って結構大変なんだなってつくづく思わされる。
疲れたので今日は寝ることにした。
「あ・・・服返してもらってない・・・まいっか」
私は、そのまま眠りについた。
霊夢がいなくなって三日目。
昨日のこともあり、凄く疲れた。
今日は参拝客には来てほしくない。
しかし、今日に限ってなぜか早い時間から人が来た。
眼鏡をかけた、白髪の青年だった。
「はぁ・・・僕は宅配サービスはやっていないんだけどね」
何やら愚痴りながらこちらに向かってきている。
そのあと、ある程度周囲を見回したあと、近寄ってきてこういった。
「あれ・・・?君、霊夢がどこにいるか知ってるかい?」
「あー霊夢なら今用事でいないよー」
「あいつ・・・この日に届けて来いって言ったくせに・・・」
「あぁ見えて霊夢も忙しいんだぞー」
どうやらこの人は荷物を届けるよう言われていたようだった。
「荷物ぐらいだったら私が預かるぞー」
「・・・じゃあよろしく」
その青年は森近霖之助と名乗った。
香霖堂というの店の店主をやっているらしい。
正直そんな事はどうでもいい。
私は口を開き、
「おさいせんちょーだい♡」
こう言った。
霖之助は少し唖然とし、
「・・・霊夢になにかいわれたな?」
こう質問してきた。
「うん、いわれたー」
「はぁ・・・で?いくらほしいの?」
「万!」
「ま・・・いや無理があるだろ!」
「えー?ほしがってるんだからくれよー」
「いや、万は無理だから」
「じゃあ億!」
「もっと無理だから!」
結局五百円もらえた。
今までの最高金額だ。
「ところで、霊夢はなんの用事なんだい?」
「え・・・いや・・・その・・・」
「知らないのか・・・」
「えへへ」
「仕事をさぼりたいだけじゃないのか?」
「それは絶対違う!」
さっきまでの楽しかった時間が急に打ち切られた。
少し強く言い過ぎたかもしれない。
しかし、今日ばかりは本当に言い切ることができる。
だってあんなにも悩んでいる霊夢をいままで見たことがあるだろうか?
いや、私が見た限りではなかった。
そう目で訴えていると、
「・・・わかったよ・・・今日は違うんだね」
理解してくれたらしい。
話の分かる人で良かった。
「・・・霊夢も大変なんだからな?」
「どうしたんだい?そんな改まった感じになって?」
私は昨日、一昨日のことを話した。
参拝客が来ないので、凄く暇なこと、金欠なこと、
参拝客が来たら来たで大変なこと、
昨日は特に、大変だったこと。
すべてというすべてを話した。
少しの間だけ沈黙が流れた。
少しすると、霖之助が口を開いた。
「・・・つまり、霊夢がどんな思いをしてるかを知ったわけだな」
「うん・・・」
「じゃあこういうのはどうかな?」
「・・・え?」
「はぁ・・・やっと終わった・・・」
やっと用事を済ました霊夢は、ため息をつきながらその場に横になった。
もうあたりは暗くなっているので、神社に帰ることができなかった。
霊夢は早く神社に帰りたいと思っていた。
お茶を飲みたいからではなく、
布団に入りたいわけでもない。
萃香に早く会いたかったからだった。
いつからかは忘れたが、萃香は博麗神社に住み着いている。
その時は、つかみどころのない変な奴だと思っていた。
しかし、一緒に暮らしていくうちに、だんだんと暮らしていくのが楽しくなった。
酒癖が強く、子供っぽくて、つかみどころがない。
そんな萃香にどんどん惹かれていったのだろう。
いつしか、萃香から離れたくないという願望が芽生えだした。
たとえそれが三日であっても、離れたくないのだ。
今回は、うまい言い訳も思いつかず、萃香がどうしてもと頼むので、仕方なくやってしまった。
しかし、たった三日会わないだけでこんなにさみしいとは。
まあでも、明日には会えるだろうから今日はもう寝ることにした。
「はやく会いたい・・・」
そう、口にして霊夢は眠りについた。
早朝、霊夢は起きた瞬間から飛び立って、博麗神社へと向かった。
やっと帰れると思うと、鼓動が高まる。
そう、興奮や喜びを抑え、博麗神社についた。
すると萃香が幸せそうな顔をして眠っていた。
・・・私の服を着て。
「なんで私の服を着ているのよ・・・」
口ではそう愚痴るものの、顔は笑っていた。
まったく、可愛いやつめ・・・
「ふあ~よく寝た・・・」
そんな事を考えていると、萃香が起きた。
そして私の存在に気づき、はっとしたような顔をして近寄ってきた。
「あ!霊夢!おかえり!」
「・・・ただいま」
「なあなあ!霊夢がいない間大変だったんだぞ!」
「あーはいはい」
「変な奴も来るし・・・お酒も我慢したんだからな!」
「・・・よく頑張ったわね」
「えへへ」
萃香が嬉しそうに笑う。
やめて、可愛いから。
「そういえば、なんで私の服を着てるのよ?」
「え?ああいや、雰囲気出るかなと・・・」
「それだけ?」
「うん、それ以外ないよ?」
「はぁ・・・で?大丈夫だったの?」
「ぜーんぜん大丈夫だった!」
「・・・お賽銭は?」
「あ・・・いや・・・それは・・・」
「全然ないんだ・・・まあ期待してないからいいけど」
「あはは・・・まあ良いだろ」
これで最低限聞きたいことは全て聞いた。
そのあとも三日間のことをいろいろなことを聞いた。
萃香が話していると、急に何かを思い出したような顔をして、
「あ、ちょ、ちょっと待ってて!すぐ戻るから!」
そう、言い残して神社の中に入っていった。
「・・・なんなのよ、いったい」
神社になにがあるのだろうか?
なんだか、凄く中がうるさい。
どたどたと足音は聞こえてくるは、何かものを倒したみたいな音もした。
中は大丈夫なのだろうか、心配になってくる。
それにしても長い。
なかなか帰ってこない。
そう考えていたら、どたどた足音を立てて帰ってきた。
笑顔でこちらに近づいてくる。
何かを後ろに隠して。
隠しているつもりなのだろう。
しかしバレバレだ。隠し方が露骨すぎる。
萃香はにこにこと笑いながら、隠しているものを前に持ってきた。
そこにあったのは、一つの湯呑みだった。
しかし、湯呑みとは言い難いものだった。
そこらじゅうがぼこぼこで、少なくとも市販のものではなかった。
「はい!霊夢!これあげる!」
笑顔を張り付けたまま、湯呑みを渡してきた。
そして、霊夢が受け取るのを確認すると、話し出した。
「これ、私が作ったんだよ!」
「最近、霊夢忙しそうだし、三日間仕事任されてわかったんだ」
「巫女さんってこんなに大変なんだなってさ」
「だから何かしてあげられないかなって思って」
「霊夢お茶飲むの好きだろ?だから作ったんだ」
・・・萃香がそこまで私のことを考えてくれてたんて。
いつも萃香は子供っぽかった。
子供っぽいから何をしでかすかわからない。
だから自分は、保護者のようなポジションにいると思っていた。
しかしそんな事なかった。
私のことをちゃんと考えてくれていた。
「なーれいむー?どうだ?嬉しいか?」
萃香が無邪気な笑顔で聞いてくる。
霊夢はこの気持ちをどう表わせばいいかわからなかった。
この、喜びと緊張と恥ずかしい気持ちなどいろいろな感情が混ざり合ったこの気持ちを。
ただ、この気持ちを萃香に言わなければ失礼だ。
だから、恥ずかしいという気持ちを捨て、勇気を振り絞り、
「あ、ありがとう・・・」
こう、一言だけ言ったのだった。
長い階段を上り、霖之助はやっと神社にたどり着いた。
少し疲れたが、気にすることはない。
そのまま神社の中へと向かった。
神社の回廊に一人のお茶をすする女の子がいた。
まぎれもなく、霊夢だ。
しかし、持っている湯呑みがいつもと違う。
いつも飲んでいるときに使う湯呑みではなかった。
だが僕には見覚えがある。
ぼこぼこになっていて、とても持ちづらい側面。
置くと、がたがた揺れる不安定な形な底面。
そしてなんだかよくわからない奇妙な絵。
そのすべてに見覚えがあった。
「あら、霖之助さんじゃない」
霊夢が僕に気付いた。
「どうしたのよ?こんなところにまで来たりして」
「いや・・・気まぐれだよ。どうだい?その湯呑み」
「どうってなにがよ?」
「それ、萃香が作ったんだろう?」
「・・・なんで知ってるのよ」
「僕が作り方を教えてあげた」
「・・・!」
僕は萃香とのことを隠すことなく話した。
「萃香は君に感謝しているんだ」
「君がいなくなり、君の仕事をして初めてそれがわかったんだ」
「でもあの子はそれをどう伝えればいいか知らなかったんだ」
「だから僕は提案したんだ」
「プレゼントはどうだい?ってね」
霊夢は僕の話を聞いて少しだけ驚いたような顔をした。
そのあと微笑んで、
「そう・・・」
こう一言だけいったんだ。
昨日も今日も霊夢はお茶を飲む。
そして明日も飲むだろう。
この不安定な湯呑みに注いで・・・
巫女みこ萃香のオマージュになるのかな。
今後が楽しみです。