Coolier - 新生・東方創想話

何が永遠の巫女に起こったか?

2015/03/07 01:40:37
最終更新
サイズ
8.74KB
ページ数
1
閲覧数
1105
評価数
6/14
POINT
520
Rate
7.27
「あら、見ない天狗ね。新入りかしら? 」
 森の人形遣いは、想像よりずっと優しい目をしていた。
 新米のわたしがようやく自分の新聞を書かせてもらえるようになったのは、つい先日の事だ。悩んだ末、わたしはかつての幻想郷の有名人――わたしは会ったことは無いのだが――『先代の巫女』について取材することに決めたのだった。取材を受けてくれた人数はそう多くないが……紙面を埋めるには十分だろう。
 「あの日の事について聞きたいんだって? そうね……わたしも、一部始終を知ってるだけだからなんとも言えないのだけれど」


 1・七色の人形使い

 ――あの日は、何か変だったわね。何がって訳じゃないけど……変に静かな朝だった。それで、その日の午後に、人里で久方ぶりに死人が出たの。妖怪に襲われたってね。そこら辺はブン屋のあなた達の方が詳しいでしょう? それで……異変から戻ってきたばっかりだったあの紅白が解決に乗り出した……。わたしの所にも聞き込みに来たわね。ガラにもなく少し慌ててたわ。妖怪は手当たり次第に退治してたみたいだけど……まあ、それはいつもの事かもね。
  結局、犯人は河童の一人だった。みんな驚いてたわ。河童は人間に比較的に友好な奴らだったしね。それで、河童を捕まえたって言うから、わたしも見に行ったの。神社にね。すごい人だかりだったわ。でも、河童はそのみんなの見てる前で……その、なんて言うのかな。そう、『砂になって消えた』わ。あれが妖怪の死ってことなのかしらね。みんなびっくりしてた。流石にあの紅白もあの時ばかりは唖然としてたわね。
それで、あいつみんなに言ったの。『今日はもう帰れ』って。
妖怪が人里の人間を襲ったのなんて久しぶりだったから、みんな変に慌ててたわ。
 それから、付喪神が人を襲いだしたの。付喪神は今までにも何度か噂になってたんだけどね。夜の街を歩いて人を脅かすとか、そんな程度だったから。人里の人間は家から出なくなっていった。一度、その時に里に買出しに行ったんだけどね。あんなに閑散としてたのは初めてだった。店なんてほとんど閉まってて無駄骨折ったわ、ホントに。
 みんな、嫌というほど思い出してたわ。『幻想郷において妖怪は人間の敵』だって。付喪神って言っても、下級の成り損ないみたいな奴らだったし、二、三人の被害だったって話だけど、そんなのなら事故の範囲内よね。それくらいなら多分毒キノコの方がよっぽど殺してるわよ。でも……やっぱり、人数は問題じゃなかったみたいね。
 いつにもまして、人は畏れはじめてた……妖怪を。
 まあ、人間が妖怪を怖がるのは当たり前の事なんだけど。
 そうなると、巫女はもうてんてこ舞いね。最後にあいつを見たのは、その付喪神事件の後だったかしら。
 確かに、今思えば様子がおかしかったわね。あいつに限ってそんなことはあり得ないんだけど……まるで、泣き明かしたみたいだったから……。

 紅茶とケーキの礼を言って家を出た。
 梅雨間近のじめじめした雲が、空を覆っていた。
 

 話をしてくれるのはありがたいのだが、ありがたい説教はあまりありがたくない。兎にも角にも、仙人の記憶力には期待している。里の団子屋で待っていろとの事だった。
 団子五本で記事が書けるなら安いものである。
 「そうね、あれは……そんな厳粛なものでは無かったけれど、やっぱりお葬式って事になるのかしらね。あんなのは、今にも後にもあの時だけ……」


 2・願いを訊く仙人

 あの事件は、本当に残念でした。わたしはちょうど修業で里を離れていて、戻った時には、彼女はもう……。
 遺体も無くて、形だけみたいな葬儀だったけど、それでも、あれだけの人数が集まったのはある意味彼女の人徳かしらね。里の人間も、少なかったけどちらほら居たわ。人里は静まり返ってたけど、生前彼女が親しかった人たちは、形だけでも葬儀に出たいって言うから、神社まで案内してあげたりもしました。
 癖のある面子ばっかりだったから、少し不安もありましたが……びっくりするほど静かな、なんと言うか、とても葬式然とした葬式でした。
 葬儀自体はすぐ終わって、その後は人も妖怪も入り乱れた宴会でしたね。みんな、彼女の思い出話をしていました。普段あまり仲がよろしくない人たちもね。
 ……皮肉なものですね、彼女が居なくなって初めて……皆が彼女の武勇伝を語るのだから。みんな、彼女の話をするときは目を輝かせてました。自分の娘の自慢話でもしているみたいにね。
 それで、誰が始めたのか、みんなお賽銭を入れ始めたの。あのお賽銭箱がいっぱいになったのは、あれが最初で最後なんじゃないかしら……。


 団子を三皿追加した甲斐があった。礼を言って次の取材に向かう。最後の一人は、里の外れに住む老齢の(もちろん、人間にしては、だ)婦人だ。
 戸を叩くと、黒い、魔法使いみたいな帽子を深くかぶった女性が出迎えてくれた。
 どうも、ここの使用人らしい。顔を見られるのが嫌いなので、帽子をかぶっているとのことだ。多少興味が沸いたが、今日の目的はそこではない。つまらないことで家主の機嫌を損ねるのは得策ではないだろう。
 奥の暖炉のある部屋に行くと、落ち着いた感じの老女が椅子に腰かけていた。人間の老人は、妖怪よりよっぽど妖怪らしい。座るとコーヒーが出て来た。今日はお茶してばっかりである。
 老女は、予想よりずっと砕けた調子で、童話でも語るみたいに話してくれた。
 「もう、何年経つのかも良く思い出せないな。今にして思えば……予兆はあったのかも知れない。過ぎた話だ。振り返ってもどうしようも無いが……」

 3・魔法使いみたいな老女

 付喪神の話は知ってるだろ? わたしはあの後、ずっと神社に居たんだ。あいつは、珍しく疲れた顔してたな。まあ、いつもくたびれてるみたいなやつだったが。
 それであいつは、結界を緩めてスキマ妖怪を呼んだんだ。いつも通りの手順で、いつもより倍も深刻そうな顔で、な。わたしは帰れって言われてたけど、物陰に隠れてあいつを見てたんだ。そう……あんなあいつは初めて見たよ。まるで世界の終わりみたいな顔してた。
 本当に、あんな日は初めてだった。風が凪いで、動く物は何一つ無かった。
 忘れもしないね。あいつは、スキマ妖怪にこう言ったのさ。
 『なんでこんな事をした』ってね。
 考えれば分かりそうな事だ。面倒事を持ち込むのは、あのスキマ妖怪の専売特許じゃないか。
 二人とも、いつもと様子が違ってた。別人を見てるみたいだったね。
 『薄々でも、感づいているはずよ。あなたは博麗の巫女だもの』
 『……だからって、納得できないわ』
 『分かってとは言わないわ。でも、もうわたしには……時間が無いの』
 目を疑ったね。あいつが――あのスキマ妖怪様がだぜ? ――少しずつ、砂になって崩れていくんだ。
 『……あなたが間違ったなら……わたしが正してあげる』
 そこからはもう滅茶苦茶だった。空間も時間も意味を成してなかった。物事の境界が全部崩れ落ちてた……自分を保ってるのがやっとだった。
 結界が崩れるんじゃないかって思ったね。幻想郷そのものが消えるのかと思った。
 『人は畏れを失くし過ぎたの。これ以上妖怪と人間の境界が曖昧になれば……幻想郷そのものが保てないわ』
 自分が誰かも曖昧な中で、無意識にあいつを探してた。見つけた時にはもう……最後の瞬間が訪れてた。
 あいつは傷だらけだったよ。本気のあいつを見たのはあれが初めてだった。
 あいつは砂を抱き留めて、わたしに――最初から、隠れてるって気づいてたんだろうな――こう言った。
 『わたしは、……、わたしたちは、誓いを破った』
 わたしは言った。ああするしかなかったって。お前は間違ってなんかいない。だって、いつだってそうだったじゃないか。
 そう、いつだって、正しいのはあいつだったんだ。この世界はあいつ中心に回ってたんだよ。
 でも、あいつは首を振って……。
 『いいえ、わたしは破ったのよ。絶対に犯してはならないルールを……』
 あいつは背を向けると、黙って歩き出した。声を限りにあいつの名前を呼んだが……振り返りもしなかった。あいつがどこに行こうとしているのか、気づいた時にはもう遅かった……。
 結界の綻びに消える寸前、あいつはこっちを振り返って静かに微笑んだ……。
 あれが、博麗の巫女を見た最後だ。
 二人が消えて、騒ぎを聞きつけて色んな奴らが集まってきた。
 それからは、あのブン屋が取材してたんだからお前も知ってるだろ? 
 神社には、あいつとあいつの弾幕の残り香が満ちてた。光の結晶が雪みたいに……。
 ずるい奴だと思ったね。最後まで派手な奴だ。
 わたしは、どうも……そんな覚えはないんだがね、神社の境内で泣いてたらしい。
 別に泣き崩れてたって訳じゃないぜ。生暖かいのが頬を伝ってたってだけさ。
 みんなが探したが……あいつは消えていた。当たり前だがね。結界の綻びは、外の世界に繋がってる。あいつは幻想を捨てて、幻想郷の外に出ていった。冷たく捻じ曲がった世界へ……当然だが、遺体は見つからなかった。
 コーヒーのおかわりは?

 おかわりは断った。今日は少し飲み過ぎだ。
 最後に、まだ質問したいことがあった。彼女を最後に見たというこの女性に……。
 『彼女はまだ、生きていると思いますか? 』

 「さあね、分からんよ。望み薄だと思うがね……葬式まで挙げられたんじゃ」
 
 確かに、つまらない質問だったかも知れない。幻想郷での噂話の真偽など……。
 コーヒーのポットを持った、さっきの帽子の女中が、静かに玄関まで案内してくれた。
 コーヒーの礼を言って家を出る。いい記事が書けそうだ。


 「ふう、堅苦しい取材ってのは慣れないな。前のブン屋はもっと適当だったんだが。でもまあ、これでもう十年はほっといてもらえるかな」
 「そう願いたいわね……ああ、それとさっきの」
 「ん? 」
 「あんな程度で本気とは笑わせるわね。博麗の名が泣くってもんだわ」
 「言っとけ……おい、そういえばコーヒーが切れそうだぞ」
 「あんたが買いに行きなさいよ。ああそれとね、いくら顔を隠すって言ったって、あの帽子はもうごめんだわ。良くあんな辛気臭いもんいつもかぶってたわね」
 「お前なあ……。憶えてるか? お前昔、巫女業にかなり辛辣だったぜ」
 「巫女に辛辣ですって? そりゃそうよ……自分が居ないと世界がやっていけないなんて、思い上がりも甚だしいわ」
 「ああそうだ、今夜は朱鷺汁にしようと思うんだが」
 「赤味噌よね」
 「白味噌だ。……まあ、どっちでもいいか。二人は幸せに暮らしましたってオチの方が、良い響きだしな」
 「まあ、そうね。赤味噌は譲る気は無いけど……」


 君はどう思う?


      END
感想よろしくお願いします
スタンドアローン
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.150簡易評価
1.40名前が無い程度の能力削除
元ネタなんて知らんし内容に関して読み直して考察する気も起きない
でも文章は読みやすかった
2.無評価名前が無い程度の能力削除
帽子が霊夢(世代すら分からないから違う時代の博麗誰かもしれないが)ってことなんだろうけど…微妙だった。
河童が事件起こして再び恐れられるようになったのに、その後で河童や紫が砂になるってことは、もう既に妖怪全体が手遅れだったってことじゃないのだろうか?

あとは、複数に語らせるにしては天狗を含めた語り手の話し方が似たり寄ったり。
なので、視点変更による起伏や新鮮さも無く、複数に語らせた旨みを殺してるように感じた。

最後に、華仙の登場が唐突過ぎるので、『兎にも角にも、仙人の~』の前に軽くでいいからどうして華仙に話を聞くことになったのか説明があった方がいい。
3.60名前が無い程度の能力削除
↑点数忘れ
9.30名前が無い程度の能力削除
意味が分からなくて、もう一度読み直したけどやっぱり意味が分からんかった。
こういった作品は作品内で謎を解明してこそ、作品として成立するのではないかと。
いろいろと未完成のような気がしたので、この点数で。
今後に期待。
11.90名前が無い程度の能力削除
よかったです
魔理沙や霊夢の喋り方とか気に入りました
13.50名前が七つある程度の能力削除
なるほど全く分からん。
14.100名前が無い程度の能力削除
人間が妖怪を恐れなくなっているのを、危惧した紫が河童と九十九神をなんちゃらして人を襲わせた。
それによって、人の恐怖心を煽るのは成功するものの、博麗の先代巫女(霊夢?) の仕事量は膨大になってしまう。
最後には一連の元凶たる紫を滅ぼし、異変を収束させるが、騒動によって肉体的に(紫を滅ぼしたことによって)精神的に博麗の巫女を続けられなくなっていた。
そこで、唯一の目撃者である魔理沙と共に謀り、『「博麗霊夢」は結界の外に行ってしまったのだ』と幻想郷中に伝え、葬式まで上げ、「博麗霊夢」を亡き者とした。
現在魔理沙と「帽子を被った使用人」は、共に幸せに暮らしている。

でいいんですかね?上の方言ってるように答えあわせ欲しいです。