~注意点~
吸血鬼にオリジナル設定。
二次創作が多分に含まれる性格。
などが含まれております
私の住む地下部屋に続く扉とお姉さまの寝室は数歩くらいしか距離が離れていない。
私が何か起こしたとき、また、私に何かあったときすぐに対応できるようするためって聞いたことがある。
この話を咲夜から聞いたときは我ながら迷惑を掛けてるなぁと申し訳なく思って微妙な表情を浮かべてしまった。
そんな私を察した咲夜は、それだけフランお嬢様のことがかわいいんですよと付け足した。
これ以上話を続けても咲夜に迷惑がかかるだけだと判断した私は納得したようにうなずいた。
かわいい、か。
なんでも破壊する力。それを制御できない私。
こんな妹を、危険視こそすれかわいいだなんて思う姉はいないだろう。
事実、私は一度大きな罪を犯している。
絶対に壊してはいけないものを…
それから、500年弱私は幽閉された。
それもお姉さまの取り計らいによって終わって、紅魔館内なら自由に歩き回れるようになった。
でも、私自身はその罪を忘れられていないしいまだにトラウマとしてよみがえって狂いそうになるときがある。
そんなときはお姉さまが絶対に助けてくれる。
そんな気がするから、今私は外に出ることができる。
お姉さまは傍若無人なくせして、変なところで律儀な性格だから。
妹のことを煩わしく思っていても助けてくれるだろう。
やっぱり私はお姉さまに甘えすぎかな。
私が地下から出ていくらかたったとき魔理沙にこんな質問をされた。
レミリアのこと、憎んでないのかって。
答えなんか決まっている。NOだ。
本来ならこんな危険なやつ、即刻殺されててもよかったはずだ。やだけど。
そんな私をお姉さまは生かしていてくれている。
これに感謝せず、ましてや憎むことなんてどうして出来ようか。
まあそもそも幽閉されている期間、半年に一回お姉さまとパチュリーの監視下で健康診断が行われてたから、あんまり孤独は感じなかったし。
そう答えたら魔理沙は嬉しそうに、そうか、と呟いてた。
いまだに何であのときの魔理沙が嬉しそうだったのかは分からない。
でも私の答えに納得したみたいだったから深くは聞かなかった。
それがこんなことになるとは思ってもみなかったけど。
時刻は丑三つ時。吸血鬼の癖に朝に起きて夜に寝るお姉さまや私は絶対に寝ている時間。
けど今日私はあることを実行するため起きている。
そのためにこの数日間準備してきた。
まあ、準備っていってもいつ咲夜が夜の見回りから外れているのかを確認する、
咲夜に起きられてると何があってもお姉さまの部屋に忍び込めないからね。
後は私が覚悟を決める、ぐらいしかなかったけど。
そして今日、咲夜は既に寝入っていて、私の覚悟もしっかり固まった。
実際お姉さまの姿を見るとどうなるか分からないけど、少なくとも今は実行に移すだけの気合がある。
妖精メイドのザル警備をかいくぐり、お姉さまの扉の前に立っている私は心を落ち着かせるために深呼吸をした。
すー、はー。すー、はー。
よし!覚悟完了!
私はゆっくりと扉に手を掛けそ~っと開けた。
何とか自分が入れるようなスペースが出来た瞬間、私は自分の体を部屋の中に素早く滑り込ませた。
そのとき私の良く分からない虹の装飾の付いた羽が扉に当たり、ガンッと音が鳴ったけど、誰かが気付くことも、お姉さまが目を覚ますようなこともなかった。
一瞬心臓が止まるかと思った。誰にも気づかれなくて良かったあ。
少し鼓動の早くなった心臓から気をそらすため私は部屋の様子を観察する。
そこで私の目に飛び込んできたのは、紅だった。
私の背丈よりはるかに大きい箪笥やカーペット、電気の光や鏡なんかはもちろんベッドや布団、果てには部屋の壁に至るまで紅一色。
いつも思うけど、悪趣味な部屋だなあ。目が痛いよ。
まあそんなのどうでもいい。ここには何度か来たこともあったし今更気にしたってしょうがない。
そんなことより今日の目的であるお姉さまの元に行かないと。
鼓動もいい感じに治せてきたし、そろそろ行動に移そう。
私は慎重に足音を立てないようにゆっくりと歩き出した。
数歩歩いた私は重大なことに気が付いた。
飛んだら、楽じゃない?
…なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
ま、まあ、気づかなかったことはしょうがない。
とりあえず今からはそうしよう。
そう思い私は体を浮かせて、いざ前へと進む。
シャラン…シャランラン…
私の羽に付いた赤や黄色の物体が、まるで自分の存在を知らしめるように綺麗な音を立てて揺れる。
って、だめじゃん!音なっちゃってるよ!
これじゃあまだカーペットの上をゆっくり歩くほうが音立てずにすむよ!
私は急いで体を地面に落とした。
「う~ん…」
「ッ!?」
そのとき、お姉さまの声が聞こえた。
もしかして、起きた?
まずいよ、せっかく頑張ってここまで来たのに。
魔理沙に教えてもらったあの情報、確かめるまでは見つかる訳にはいかない。
私は一切の動きを封じてお姉さまの次の行動を待った。
起きたんならなにか行動を起こすはず!
自分の心臓の鼓動がいやに大きく聞こえて気が狂いそうになりながらも私はお姉さまに意識を集中させた。
何分たったか分からない。五分十分かもしれないし、一分もたってないかもしれない。
でも私にはそれ以上耐えることが出来なかった。
このまま何もしなかったら本当に気が狂ってしまう。
幸いお姉さまに次の動きはない。
きっと寝言だったんだろうと、そういうことにして私は再び行動を開始した。
…もちろん歩いて。
数秒後、色々あったけど何とかお姉さまの眠るベッドにたどり着いた。
今日だけで精神が壊れるかと思う事が何度かあったけど、なんとかまだ保っていられてる。
今のうちにがんばらないと。
私はベッドを覗き込んだ。
そこにはいつものふてぶてしい生意気な表情はなく、見た目相応幼い少女そのもののかわいらしい寝顔があった。
…神様、ありがとう。
ッは!?しまった、あまりにかわいいものを見てしまったせいで悪魔なのにおもわず神に感謝しちゃった!しかも手を合わせて。
いけない私。このままじゃあ何も出来ずに終わっちゃう。
いやでもこれは仕方ない。きっと誰だって同じ反応を示すだろう。
示さないやつなんている分けない。むしろいたら不敬罪でキュッとしてドカーンの刑だ。
だっていつものお姉さまのあの私が一番!見たいな威張りきった顔じゃなくて、
まるでまだ親に甘えたりない少女が夜怖い夢を見て飛び起きて母親の部屋に赴き、「…いっしょに寝て…?」と涙目で不安に震えながら懇願する娘を母親が、「仕方ないわねえ…」と苦笑交じりに娘を抱き寄せ腕に包んであげると、不安と恐怖で塗り固められた表情から一点、安心した表情を浮かべすぐに寝入ってしまい、母親はまた苦笑混じりに、しかし愛おしそうに軽くほほにキスをしてあげる。そして娘は母の腕の中で安らかに眠る。とても安心しきった、緩んだ笑顔で。
まさにそのような誰が見ても天使といわざるを得ないような表情を携えていたら
誰だって思考がショートして何かに感謝したくなるに違いない。
そして見た人は必ずこう思う。「ああ、自分はこのために生まれてきたのか」と!
それぐらいかわいい寝顔。意識が多少飛んでも仕方がない。
むしろ戻ってこれただけ賞賛ものだよ。
よくがんばった私。
よくがんばった私の精神。
私は自分をほめて何とか気を保った。
でも、まだ目的は達してない。
お姉さまの寝顔を見ただけで大満足してしまいそうだけど、今夜危険を冒してまでここに来たのはもっと違う理由だ。
私はお姉さまが包まっている布団をゆっくりとどかした。
包んでいたものがなくなったせいかお姉さまは寒そうに身じろぎした。
ごめんねお姉さま、すぐに済ますからね。
私はそう心の中で謝りつつ、今度はお姉さまの服を脱がしにかかった。
私はお姉さまの体を守るかわいらしい、ぶかぶかなパジャマのボタンを一つ一つ外していく。
天使のような寝顔を浮かべて眠るお姉さまの衣類を脱がす…なんて犯罪チックな響き。
でも私は別にお姉さまを襲いに来たわけではないしなにもやましいことはない。
ある意味襲いに来たのかもしれないけど。
そんなことを考えているうちにお姉さまの胸が少しチラッと見える程度まで脱がしていた。
「…」
ついに始めるのか。
私の「初めて」を。
ここに来て今までにない緊張が胸を締め付けてくる。
でもここまで来て逃げるわけにはいかない。
私のこの気持ちに決着をつけるためにしなければいけないんだ。
「…お姉さま」
私はゆっくりと外気に触れるお姉さまの首筋に頭を近づけていった。
「後はお嬢様だけね」
紅魔館の廊下を歩きながら手帳で今日の予定を確認する。
今私はこの館の主、レミリア・スカーレットお嬢様の元へ向かっている。
フランドールお嬢様は先に目が覚めたみたいで、既に食卓についてもらっている。
後はさっきつぶやいた通りお嬢様を起こして連れて行くだけ。
まったく、お嬢様もフランお嬢様を見習ってほしいものですね。
でもなんで今日フランお嬢様はご自分で起きたのでしょう。
いつもならお二人とも私が起こしているのに。
せっかく私のかわいい天使たちの寝顔を覗き込むという素晴らしい日課が今日は半減してしまったわ。
手間は二割減しましたけど。
そんなこんな考えているうちにお嬢様の部屋までたどり着いた。
「お嬢様、失礼いたします」
私はいつも通り扉を3回ノックし、部屋に入室する。
失礼しますなんて断わってはいるけど、お嬢様がこの時間に起きていることなんてまずないので、ただの社交辞令。
部屋に入ってまず目に付くのは紅一色。
まったく悪趣味な部屋ですねえ、といつもと同じ感想を抱きつつ部屋を一見する。
特に異常は見られない。良かった。
確認もそこそこ私はお嬢様の元へ歩みを進める。
そしてベッドの天蓋をくぐったときいつも通りな景色は一変した。
「!?」
お嬢様の服が乱れている。
確かにお嬢様の寝相は最悪で頭と足の位置が反対になる程度日常茶飯事ですけど、これはそういう感じではない。
誰かが人為的に起こしたとしか考えられない。
なんていうこと…よりにもよって私が夜の見回りから外れている時に…
とにかく落ち着きましょう。もしかしたら私の見当違いで、ただ寝相が悪かっただけかもしれないし。
そう思い私はもう一度お嬢様を観察する。
うんだめだ。確実に脱がされてる。
だってボタンが丁寧に外れているんですもの。こんなの寝相じゃどう考えてもならない。
ただ、もう一つ分かったことがあるわ。
お嬢様のお体に見える範囲では特に外傷はない。つまり襲われたわけではない可能性が高い。
耳を澄ませば小さくかわいらしい寝息も聞こえてくるし命に別状はなさそう。
とりあえず落ち着くために、一度要点を整理しましょう。
昨夜何者かがお嬢様の部屋に侵入した。
そして部屋の家具には手をつけずお嬢様の服を胸部が少し見えるくらいまで脱がした。
そしてお嬢様に傷をつけるわけでもなくこの部屋から出て行った。
こんな感じかしら。
本当ならお嬢様の部屋に(無断で)仕掛けたカメラを回収して確認したいところですけど、
万が一途中で起きられるとまずいですから。
なんにせよお嬢様が生きているのであれば、直接聞けばいい話です。
もしお嬢様の意思でこうしたことを起こしたのであれば何も問題ないですし。
まあお嬢様の意思関係なく、私のお嬢様にみだらなことをした奴はナイフ百本ぐらい顔面に刺しますけど。
後、何者かが本当にこの部屋に侵入していたのであれば昨晩の当番の妖精メイドは死刑三十回は軽いわね。
まあいいです。
私も落ち着いてきたことですし、とにかくお嬢様を起こしましょう。
「お嬢様、起きてください」
何度かその小さく愛らしいお体をゆすりながらそういうとお嬢様は眠そうに、「う~ん…」とうなだれながら体を起こした。
お嬢様が目覚めたのですぐに服のことを問いただす、これは一番してはいけないことですわ。
お嬢様は寝相だけではなく寝起きまで最悪です。おまけに低血圧まで合わさっていて。
とにかく今声を掛けることは愚の骨頂、しばらく様子を見てお嬢様が覚醒なさったら問いただしましょう。
まあ、寝起きで機嫌最悪の状態に話しかけて、眠そうなジト目で殺気を放ちながら睨まれるのも一つの快感ですが、さすがに二日続けては本当に殺されてしまうかもしれませんので自重しておきましょう。
まあ、お嬢様の手によって命を絶たれるのであればそれも本望ですが今日はまだ聞きたいことがありますからね。
部屋にぼ~っと視線を這わせるお嬢様。
焦点の合わない目で私を見つめるお嬢様。
うん、何度見ても愛らしい。今すぐ抱きしめたい。
でも今日はダメ。聞きたいこともあるし、それは一週間ぐらい前にやってこっ酷く怒られたばかりだし。
「…あ、咲夜…今日はずいぶん素直ね」
「おはようございますお嬢様。それはお褒めの言葉として受け取っておきますわ」
「ははは、聞かなかったことにしてやる。おはよう咲夜」
そんなこんなでお嬢様が覚醒なさられた。
ふと思ったのだけれど、
いくら待っていたとはいえまだ機嫌はよろしくないだろうに冗談を言ってもらえるのって結構愛されてるわよね私。
「ん~」
少し思考の世界に入っているとお嬢様は軽く伸びをしていた。
「…ん?」
そして伸びを終えたお嬢様は少し驚いたような表情を浮かべたかと思うと何故か私のほうをにらんできた。
…なぜ?別に私何もしていないのに…
あ、でもそんな表情もやっぱり愛らしいですね。
さりげなく仕掛けたカメラに映るように場所を移動しましょう。
ところでお嬢様がさっきから黙りこくっているのですがなぜでしょう。
さっき伸びをした後少し視線が下にいっていたような…
「…咲夜」
「はい」
と思ったら口を開いてくれた。これでやっと話を切り出せる。黙られていると話ししづらいですから。
「これはあなたがやったの?」
「はい?」
と思ったらなにやらいやな予感がしてきました。
なぜでしょう、さっきと同じ「と思ったら」から始まったのにこの空気の違いは。
「…」
それっきり口を閉ざしたお嬢様。
不味い。これはだいぶ不機嫌だ。
ここまで来ればさすがに私でも気づける。
お嬢様は勘違いしている。
さっき下を見たとき自分の今の状態を確認してしまったのでしょう。
「あの、お嬢様。それはおそらく勘違いだと」
「分かってる分かっているわよ咲夜」
何でそういいながら右手にグングニルを構えていらっしゃるんですかねえ…
しかも痛いくらい殺気を放っているのもどうしてですかねえ…
まあこれで一つ確定したことがあるわね。
あのみだらなお姿はご自分でしたことではないと。
さて、紅魔館から数十匹妖精が居なくなるわね。
まあもともとたいした働きはしてないしいいですね。
って違う。こんなこと考えている場合じゃない。
今のままだと彼女らより先に私が処罰されてしまう。
「お嬢様落ち着いてください。勘違いで」
「ん?」
思わず口を閉じてしまった。
あそこまで怖い顔今までで初めて見ましたよ。
さっきお嬢様になら殺されてもいいとか思ってましたがさすがに勘違いで殺されるのはいやですよ。
って、ん?
「失礼します」
「は?ってちょ、ひゃぁっ!?」
お嬢様の首筋に触れる。
…やっぱり何か傷がある。
さっき見たときには見つけられなかった、小さな針みたいな傷跡が鎖骨のあたりに二つ。
「お嬢様、この傷は」
どうしたのですかと言おうとして口が止まった。
お嬢様が私をその小さな手で突き飛ばしてベッドから落ちてしまったから。
「あう…なんですかお嬢様」
そうつぶやきながら体勢を立て直した私が見たものは。
布団にしっかり包まって私のほうを泣きそうな目でにらみつけているお嬢様の姿でした。
…カメラ撮れてるかな。
いやそんな場合ではないわね。
「あの、お嬢様」
「来んな変態」
涙声でそう言い放つお嬢様。凄く興奮する。じゃなくて。
え~とこれはどういう状況でしょう。
さっきまで私はお嬢様に殺されそうだったのに、今では何故かお嬢様が怯えていらっしゃる。
しかも、何故か体を守る様に布団に包まって。
ん?体を守る?
…さっき私何しましたっけ。
あ~これはまずいですね。
お嬢様に何かあったら何をおいてもお嬢様を優先する性格が裏目に出てしまいましたね。
お嬢様は500年間生きてると入っても性格は見た目相応幼い。
ですから性に関する知識にはまだ疎いから。
私はなんやかんやお嬢様に直接何かすることはないから、いきなり鎖骨、胸の近くを触られて襲われると思って怯えてしまったのね。
お嬢様はけっこう押しに弱いタイプですから。
「お嬢様」
「しゃべんな変態」
相変わらず涙声の罵倒、よく見ると少し布団が震えている。
かわいい。けど、これはいただけない。
私、十六夜咲夜はお嬢様の幸せを一番に祈っている。
たとえどんなにお嬢様がかわいいく見えても、愛らしい仕草をしても。
お嬢様が本心で嫌だと思っているのなら私は絶対にときめかない。
私は絶対に許さない。それがたとえ自分自身だとしても。
「すみませんが聞いてください。お嬢様は誤解なさっています」
「私がここに来たときからお嬢様はあの状態でした」
「さっきお体に触れさせていただいたのは、首筋になにか傷跡のようなものが見えたからです」
「…」
お嬢様は黙って聞いていてくれる。
「ですが、お嬢様に不快な思いをさせてしまったのも事実です」
「私はもう動きませんのでお嬢様のお好きなように処罰してくださいませ」
出来るだけ誠実感を出して言い切ったはず。
後はお嬢様の判断に身をゆだねるしかない。
ここでどんな処罰をされても私に悔いはない。
「…分かった」
覚悟を決めて数秒後、お嬢さまが口を開いた。
「咲夜を信じるよ」
まあ罰は与えるけどねとお嬢様は薄く笑いながらおっしゃった。
「はい、なんなりと」
それが強がりだと分かっている私は少し表情を崩して応答した。
良かった、信じてもらえた。
「それにしても、昨日の見回りはなにしてたのよ」
余裕が出来たのかお嬢様は布団から出てきて強がりをごまかすように愚痴をこぼした。
…なにか少し距離があるような気もしますが。
「それに関しては当番のものにしばらく休暇を与えるつもりです」
「休暇って…ああ、そういうことか」
その娘たちは幸せ者ね、とお嬢様はフフッと笑い声をこぼした。
「申し訳ございません。私が起きていれば」
「咲夜は働きすぎよ。私が言うのもなんだけど」
いつものように軽い口調で会話をしてくださるお嬢様。
…やっぱり気になる。
「あの、お嬢様。距離がいつもより開いているような気がするのですが」
「開けてるわよ」
思った通りお嬢様は私を避けているみたい。
なぜでしょう。誤解は解いたはずなのに。
「なぜなんですか、私のことを信用してくれたのでは」
「信用はしたけど信頼はしてない」
「?どういうことでしょう」
「部屋の13個のカメラ、まさか私が気づいてないとでも?」
なん…だと…まさか気づかれていたなんて…しかも数まで。
ばれないよう細心の注意を払っていたはずなのに。
なんにせよ言い訳しないと。
「いえあれはお嬢様の考えているようなことでは」
「咲夜」
「ごめんなさい」
いや無理です。
今までに見たことないぐらいいい笑顔なのに目が全く笑っていないなんて怖すぎるでしょう。
さっき死ぬこともいいかもなんて思っていましたけどうそです。やっぱり死ぬのは怖いです。
「あれ取ってくれない?ずっと見られてる感じがして気になるんだけど」
「はい」
仕方ない。部屋から2つばかりスペアを取ってきてごまかそう。
「あ、いちよう時は止めないでね」
「…はい」
ちくしょう。
全く、私としたことがとんだ失態を見せてしまったわ。
咲夜に襲われたからと言ってもあんなに怯えてしまうことなんてないのに。誤解だったらしいけど。
押しに弱い性格は直さないといけないわね。
…それはそうと咲夜何か言ってたわね。
首筋に傷がどうのこうの。
………
見張りはもういいでしょう。釘をさしておいたことだし。
私はベッドから飛び降り、鏡の元へ歩いていく。
この鏡は咲夜が河童に作らせた特注品で、私たち吸血鬼も映すことが出来るもの。
きっと咲夜の仕掛けたカメラも同じつくりなんでしょうね。
鏡の前に立った私は、映った自分を見つめた。
…相変わらずちっさいわね。いつになったら成長期は来るのかしら。
咲夜なんて最初は私よりも小さかったくせにいまや見上げないといけないくらい差がついたし。
ま、今はそんなことどうでも良いか。
首筋首筋っと。
…どれかしら。
…あ、これかな。なんか針みたいな傷跡ね。
って、これってもしかして…
吸血痕かしら。
何でこんなもの。幻想郷に吸血鬼は私たち姉妹しか居ないはず。
…あ、そうだ。咲夜のカメラで確認すればいいんだ。
もう回収も終わっているだろうし。
そう思い振り返ると案の定カメラ13個をベッドに置いた咲夜の姿があった。
なにしてるんだろうって目でこっちを見てる。
てか、改めてみると多いわね13個って。
「咲夜、昨日の夜のことについて知りたいわ」
「はい、もう準備は出来てい ます」
さすがに出来るわね。こっちが何もいわなくても用件を予想して用意してるなんて。
まあこの件に関しては咲夜も少なからず気になることでしょうし、それもあるか。
「そう、じゃあ見せてくれる」
「かしこまりました」
そういいひざに置いた手を退かす咲夜。
なに?もしかしてそこに座れっていってるの?
「…」
「…」
「…(は~↓)」
「…(ぱ~↑)」
まったく、映像見終えたらきっついお仕置きが必要ね。
「それでは再生いたします」
めっちゃいい笑顔見せやがって、むかつく。かわいいのがよけいにむかつく。
「この辺は何もないね」
「そうですね、もう少し進めてみましょう」
咲夜の犯罪道具鑑賞を始めて10分。特に変わりはない。
強いて言えば後ろの咲夜の息遣いがだんだん荒くなってきていることくらいかな。
ちょっと身の危険を感じる10分間。
今の時刻は丑三つ時、いい加減何もない映像に飽きてきた頃、ついに変化が訪れた。
「!誰か入ってきた」
「ちょっと止めますね」
カメラが捕らえた何者かを確認するためにいったん停止する。
そして二人で画面を覗き込む。
咲夜の顔が肩にあって凄く邪魔くさいけど仕方ない。
ただその息遣いはやめろ気持ち悪い。
まあいいや。さて誰がこんなこと。
って言ってもあの娘以外居ないと思うけどね。
「これは…フランお嬢様ですか」
「たぶんそうだろうね」
案の定、画面に映っていたのはフランだった。
私と同じような紅を基調としたパジャマに咲夜お手製のかわいいデフォルメされたクマさんがプリントされている。
そして何より、フランのあの何か良く分からない虹色の装飾品付きの羽。
見間違うはずがない。
映っているのは、私の妹。フランドール・スカーレットだ。
フランは私の部屋に入って数歩歩いた後、思い立ったように飛んだ。
そして少し移動した後すぐ降りた。
たぶん飛んだら音鳴らないとか思ったんでしょうね。装飾品がぶつかり合って気づいたみたいだけど。
それから、急に体がビクッと震えたかと思うと、5分間ぐらい固まっていた。
私が寝言かなんか言ったのかしら。
しばらくして歩き出したフランは私の眠るベッドにたどり着いた。
「咲夜、他のカメラは」
「これですね」
今まで見ていたカメラだとベッドの中までは見えづらいから咲夜に替えはないかと聞いたらぱっと出してきやがった。
本当に部屋の全部が映っていたようね。我が従者ながら怖いわ。
切り替えたカメラでさっきの時間当たりを再生する。
フランがベッドにたどり着いたあたりで早送りをストップ。
フランはベッドの天蓋をくぐると、少し固まったかと思うと急になにを思ったのか両手を合わせて祈りだした。
なにがしたいのよこの娘は…
やっと動き出したフランは私のほうへ近づいていき、ボタンを外しに掛かっていった。
そして3個くらい外し終えるとゆっくりと私の首元へ近づいていき、数秒間触れ合った。
その後はそそくさと部屋を後にした。
顔は良く見えなかったけど耳が赤く染まって見えたのは気のせいかしら。
この後は咲夜が来るまで何もなかった。
「お嬢様の傷はなんだったんでしょうか」
見終えた咲夜が呟きとも取れるような声で話しかけてきた。
「たぶんだけど、吸血痕ね」
「吸血痕?なぜフランお嬢様がレミリアお嬢様に吸血するのですか?」
私でしたらまだ理解できますが、と納得のいかないように咲夜が続けた。
まあ、吸血鬼以外はこんなこと知らないわよね。
知ってる私は私で別のことが解せないけど。
「そうね。いい機会だからあなたにも教えてあげる。吸血鬼同士の吸血の意味を」
「よろしくお願いします」
後ろから咲夜の返事が聞こえる。
っていうかいつまでひざの上に座ってるのよ私。
いい加減咲夜が近すぎてうっとうしいわ。
「咲夜、吸血鬼が血を吸う相手って誰だと思う?」
咲夜のひざから離れてベッドの上に立ち問いかけた。
咲夜は一瞬泣きそうな顔を浮かべたがすぐにいつもの表情を取り繕った。
本当、優秀なのはそうなんだけどところどころ残念ねこの娘は。
「えーと、人間ですか?」
咲夜は私の求めていた答えをそのまま言ってくれた。
さっきの私の話で予想はついていただろうに、まあこっちのほうが進めやすいからありがたいけど。
「吸血鬼が血を吸う相手は人間に限らないのよ」
「そうなのですか?」
私に合わせ答えてくれる咲夜。
少しわざとらしい感じがする。
「ええ。通常ただの食事なら人間の血しか吸わないけど、同族の血が必要になるときもあるの」
「吸血鬼が人間の血を吸うと、当然だけど人間の血が混じって自身の血が薄くなるのよ」
「血は力の象徴。だから長く生きている吸血鬼ほど力が弱くなるの。物語に登場する退治されるようなものがそれね」
「それを防ぐために私たちは同属の血を飲むの。結局他人の血だけど同じ種族だから力も戻るの」
私は一旦言葉を区切った。
すると今まで黙っていた咲夜が口を開いた。
「だから、フランお嬢様はレミリアお嬢様に吸血したということですか」
咲夜なりの答え。まあ普通そう思うわよね。
「いや、違うと思うわ」
「え?」
「フランには私の血を食事に混ぜて与えてるから、夜こっそり私を襲う必要がないはずだもの」
「そうだったんですか?」
また咲夜から驚きの声が上がる。これは咲夜の素直の感想かしらね。
咲夜には私たちの食事管理を任せているから、私の血を混ぜていたことを知らないことにはそりゃ驚くわよね。
でもおかしいわね。このことについては咲夜が幼い頃美鈴に説明させたはずだったんだけど。
咲夜の教育係は美鈴に任せていたからね。
「いつの間にそんなことを」
「咲夜、半年に一回行われる健康診断について美鈴からどんな風に聞いていたの?」
「え、え~と」
咲夜にしては珍しくいい辛そうに口をもごもごしていた。
「…お嬢様が諦め悪く成長するのを確認したがるからだと」
「…」
あとで美鈴、殺す。
いや、幼い咲夜に血の交換なんて生々しい事を言いたくなかったんでしょうけど。
でも、殺す。
「…私とフランの血を採取するためよ」
「そ、そうなんですか」
…あいつのせいで変な空気になってしまったじゃないの。
「あなたに半年に一回私が血を渡していたでしょ。あれが私たちの血よ」
「ああ、あれですか」
納得の言ったような顔を浮かべる咲夜。
でも、それはすぐに疑問の表情に変わった。
「でも、なぜ血を交換するのですか?同属の血が必要ならご自分のものではならないのですか」
当然の疑問、そりゃ知らなければそんな反応になるわよね。
「気分のいいものじゃないのよ。人間でたとえるなら紙を食べるようなもの。出来なくはないけどしたくないでしょ。それに味もすっごくまずいの。」
「なるほど」
少し疑惑が晴れたみたいな咲夜。
でもまだ疑問は残っている。
「ではフランお嬢様の血はまずくないのですか」
「まずくない。むしろ甘くておいしいわ」
「これは何でか分からないだけど好きになった相手の血はおいしく感じるのよ。人間よりも」
---ガタッ---
ん?何今の音。気のせいかしら。
「はあ。好きになった」
「ええ、でも家族とかの意味じゃないのよ。お母様の血とかまずかったし」
私は疾うの昔死に別れしたお母様のことを思い出しながら言った。
そういえば、フランはお母様にもお父様にも懐いていたわね。
でもそのせいであの娘は…
「ではなぜ、フランお嬢様はお嬢様に吸血したのでしょうか」
少し考え事をして、気持ちが沈んでいたときに咲夜が質問してきた。
私も解せない問題を。
「それに関しては分からないわ。ちゃんとあの娘にも血は与えているし、そもそもあの娘はこのことについて知らないはずだし」
「教えていないということですか」
「ええ、普通は親から聞かされるものなんだけど、あの娘はほとんど会えなかったから」
「…すみません、余計ことを」
「いいわよ別に」
わたしがフランを閉じ込めたことを思い出したと察した咲夜は申し訳なさそうに謝罪した。
咲夜が気にすることじゃないのに。
「あれ、ではなぜフランお嬢様が交換について知っているのですか?お嬢様が教えていなかったら他から知り得ることなんて」
「そこも疑問点ね。どうやってあの娘がこれを知ったのか、なぜ私の血をわざわざ夜間に忍び込んでまで飲みたかったのか」
「こればっかりはあの娘に聞いて見るほか解決しそうにないわね。私に答えてくれるかはわからないけど」
どうにもフランは私に対して他人行儀なところがある。
私が嫌いだからか、それともほかの理由かはわからないけれど。
まあ、私もあの娘に負い目を感じているから余計ギクシャクした感じになっているのかもしれないけれど。
「そうですね。フランお嬢様は今食堂にいるはず…」
言い切る前に咲夜は言葉を区切った。
物音がした。さっきも聞こえたけど今度は確実に鳴った。
「見てきます」
そういい咲夜が部屋の外まで足早に歩いていく。
こんなときまで礼儀を気にして主人の前で時間停止を使わないのは果たしていいことなのかしら。
「誰ですかそこにいるのは…って、フランお嬢様?」
…まて、いまなんていった?
少しして咲夜が部屋に戻ってきた。
…フランをつれて。
「…フラン、いつから居たの」
私はこの部屋に入ってきて気まずそうにもじもじしているフランに問いかけた。
「…お姉さまたちがカメラを使うって話をしていた時くらいから」
言いづらそうに口をもごもごしてからフランはそう言った。
私の失態は聞いていないと、よかった。
あんなの聞かれたら姉の威厳丸つぶれよ。
そのあとに何か問題発言とかあったかしら。
…っあ!
…フラン、あなたがどうしてそこまで気まずそうなのかわかったわ.。
「…フラン、聞いたわよね?」
私の問い。
通常ならこれだけでは、「なにを」の部分がない為意味は通じない。
しかし、今この場にいる私たちにはこれだけで十分理解できる。
なぜこんな回りくどいやり方をするのかというと、
口に出してしまうと恥ずかしくて姉としての立場を維持できないから。
「…うん」
フランはややためらいながら小さく首を縦に振った。
顔を伏せているから見えないけど、耳が真っ赤なのが今のフランのすべてを物語っている。
「そう。ならフラン、今度はあなたが私に伝える番よ」
「へ?」
私の言葉に反射的に顔を上げるフラン。
真っ赤な顔が愛らしくてたまらない。
「あなたはどこで同族間での吸血を知ったの。そしてなぜ私にそれをしたの」
指示語にしたのはわざと。なぜかって?
嫌な予感…いえ、良い予感かしら?がしたから。
私はこんな考えを持ち始めている。
フランが私のことを嫌っているというのは、私の勘違いではないか、と。
嫌いならわざわざ血を飲む必要がないもの。
そして、裏を返せば、フランが吸血した理由は…
考えるだけで顔に熱がたまりそうになる。口になんて出してしまったら。
だから、それにつながることは私の口で言いたくない。言えない。
言ってしまえば私の理性がフランへの激情で壊れてしまう。
「魔理沙から聞いたの」
「魔理沙?なんで魔理沙が知っているのよ」
少し予想だにしない答え、美鈴あたりかと思っていたのだけど。
「図書館で読んだって言ってた」
ああ、確かにあそこならありそうね。
そう答えた後、フランはまたうつむいて黙ってしまった。
私としては、自分の考えがあっているのか、その不安と期待で押しつぶされそうでつらいけど、フランが話さないことにはどうしようもない。
待つこと数分、いえ、数秒かしら。
時間がこんなに遅いなんて初めて知ったわ。
「…確かめたくなったの。自分の気持ちを」
フランがついに口を開いてくれた。
「私はお姉さまのことどう思っているのか」
「お姉さまに抱いてるこの感情はなんなのか」
「愛情か、親愛か、ずっともやもやしてたから」
「だから、昨日こっそり忍び込んだの」
一度口を開いてからは、雪崩のように一気に言い切ったフラン。
きっと歯止めが利かなくなったんでしょうね。
そして、今の言葉。
どうやら私の考えは勘違いであって正しかったようね。
フランは私のことを好いていた。
こんなにうれしいことはない。
でも、いまはこの嬉しさを体で体現するわけにはいかない。
いまフランは真っ赤な顔を私に向けて私の答えを待っている。
フランはありったけの勇気を振り絞って私に教えてくれた。
これに応えないなんて許されない。
「私はフランの血、おいしいわ」
「フランもそうだった?」
もう一度、今度はフランに向けて遠回しな告白。
そしてフランへの問い。
でも、答えなんて聞かなくてもわかっている。
運命を操る程度の能力なんて言うけど、こんな能力いらないわね。
私の一番ほしい運命は、手に入ったのだから。
「…うん。おいしかった」
その言葉が耳に届いたとき、私はフランを抱きしめていた。
「!…お姉さま」
「なに?」
「…だいすき」
「ありがとう」
「…お姉さまは?」
「…」
ごめんねフラン。私は臆病だから、直接の言葉では伝えられないわ。
でも。
「あっ!…ずるいよ、お姉さま」
「…おいしいわ、フラン」
「…ありがとう」
(ごちそうさまです)
二人の吸血鬼をカメラに収めたメイドはそう心の中で叫んだ。
吸血鬼にオリジナル設定。
二次創作が多分に含まれる性格。
などが含まれております
私の住む地下部屋に続く扉とお姉さまの寝室は数歩くらいしか距離が離れていない。
私が何か起こしたとき、また、私に何かあったときすぐに対応できるようするためって聞いたことがある。
この話を咲夜から聞いたときは我ながら迷惑を掛けてるなぁと申し訳なく思って微妙な表情を浮かべてしまった。
そんな私を察した咲夜は、それだけフランお嬢様のことがかわいいんですよと付け足した。
これ以上話を続けても咲夜に迷惑がかかるだけだと判断した私は納得したようにうなずいた。
かわいい、か。
なんでも破壊する力。それを制御できない私。
こんな妹を、危険視こそすれかわいいだなんて思う姉はいないだろう。
事実、私は一度大きな罪を犯している。
絶対に壊してはいけないものを…
それから、500年弱私は幽閉された。
それもお姉さまの取り計らいによって終わって、紅魔館内なら自由に歩き回れるようになった。
でも、私自身はその罪を忘れられていないしいまだにトラウマとしてよみがえって狂いそうになるときがある。
そんなときはお姉さまが絶対に助けてくれる。
そんな気がするから、今私は外に出ることができる。
お姉さまは傍若無人なくせして、変なところで律儀な性格だから。
妹のことを煩わしく思っていても助けてくれるだろう。
やっぱり私はお姉さまに甘えすぎかな。
私が地下から出ていくらかたったとき魔理沙にこんな質問をされた。
レミリアのこと、憎んでないのかって。
答えなんか決まっている。NOだ。
本来ならこんな危険なやつ、即刻殺されててもよかったはずだ。やだけど。
そんな私をお姉さまは生かしていてくれている。
これに感謝せず、ましてや憎むことなんてどうして出来ようか。
まあそもそも幽閉されている期間、半年に一回お姉さまとパチュリーの監視下で健康診断が行われてたから、あんまり孤独は感じなかったし。
そう答えたら魔理沙は嬉しそうに、そうか、と呟いてた。
いまだに何であのときの魔理沙が嬉しそうだったのかは分からない。
でも私の答えに納得したみたいだったから深くは聞かなかった。
それがこんなことになるとは思ってもみなかったけど。
時刻は丑三つ時。吸血鬼の癖に朝に起きて夜に寝るお姉さまや私は絶対に寝ている時間。
けど今日私はあることを実行するため起きている。
そのためにこの数日間準備してきた。
まあ、準備っていってもいつ咲夜が夜の見回りから外れているのかを確認する、
咲夜に起きられてると何があってもお姉さまの部屋に忍び込めないからね。
後は私が覚悟を決める、ぐらいしかなかったけど。
そして今日、咲夜は既に寝入っていて、私の覚悟もしっかり固まった。
実際お姉さまの姿を見るとどうなるか分からないけど、少なくとも今は実行に移すだけの気合がある。
妖精メイドのザル警備をかいくぐり、お姉さまの扉の前に立っている私は心を落ち着かせるために深呼吸をした。
すー、はー。すー、はー。
よし!覚悟完了!
私はゆっくりと扉に手を掛けそ~っと開けた。
何とか自分が入れるようなスペースが出来た瞬間、私は自分の体を部屋の中に素早く滑り込ませた。
そのとき私の良く分からない虹の装飾の付いた羽が扉に当たり、ガンッと音が鳴ったけど、誰かが気付くことも、お姉さまが目を覚ますようなこともなかった。
一瞬心臓が止まるかと思った。誰にも気づかれなくて良かったあ。
少し鼓動の早くなった心臓から気をそらすため私は部屋の様子を観察する。
そこで私の目に飛び込んできたのは、紅だった。
私の背丈よりはるかに大きい箪笥やカーペット、電気の光や鏡なんかはもちろんベッドや布団、果てには部屋の壁に至るまで紅一色。
いつも思うけど、悪趣味な部屋だなあ。目が痛いよ。
まあそんなのどうでもいい。ここには何度か来たこともあったし今更気にしたってしょうがない。
そんなことより今日の目的であるお姉さまの元に行かないと。
鼓動もいい感じに治せてきたし、そろそろ行動に移そう。
私は慎重に足音を立てないようにゆっくりと歩き出した。
数歩歩いた私は重大なことに気が付いた。
飛んだら、楽じゃない?
…なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
ま、まあ、気づかなかったことはしょうがない。
とりあえず今からはそうしよう。
そう思い私は体を浮かせて、いざ前へと進む。
シャラン…シャランラン…
私の羽に付いた赤や黄色の物体が、まるで自分の存在を知らしめるように綺麗な音を立てて揺れる。
って、だめじゃん!音なっちゃってるよ!
これじゃあまだカーペットの上をゆっくり歩くほうが音立てずにすむよ!
私は急いで体を地面に落とした。
「う~ん…」
「ッ!?」
そのとき、お姉さまの声が聞こえた。
もしかして、起きた?
まずいよ、せっかく頑張ってここまで来たのに。
魔理沙に教えてもらったあの情報、確かめるまでは見つかる訳にはいかない。
私は一切の動きを封じてお姉さまの次の行動を待った。
起きたんならなにか行動を起こすはず!
自分の心臓の鼓動がいやに大きく聞こえて気が狂いそうになりながらも私はお姉さまに意識を集中させた。
何分たったか分からない。五分十分かもしれないし、一分もたってないかもしれない。
でも私にはそれ以上耐えることが出来なかった。
このまま何もしなかったら本当に気が狂ってしまう。
幸いお姉さまに次の動きはない。
きっと寝言だったんだろうと、そういうことにして私は再び行動を開始した。
…もちろん歩いて。
数秒後、色々あったけど何とかお姉さまの眠るベッドにたどり着いた。
今日だけで精神が壊れるかと思う事が何度かあったけど、なんとかまだ保っていられてる。
今のうちにがんばらないと。
私はベッドを覗き込んだ。
そこにはいつものふてぶてしい生意気な表情はなく、見た目相応幼い少女そのもののかわいらしい寝顔があった。
…神様、ありがとう。
ッは!?しまった、あまりにかわいいものを見てしまったせいで悪魔なのにおもわず神に感謝しちゃった!しかも手を合わせて。
いけない私。このままじゃあ何も出来ずに終わっちゃう。
いやでもこれは仕方ない。きっと誰だって同じ反応を示すだろう。
示さないやつなんている分けない。むしろいたら不敬罪でキュッとしてドカーンの刑だ。
だっていつものお姉さまのあの私が一番!見たいな威張りきった顔じゃなくて、
まるでまだ親に甘えたりない少女が夜怖い夢を見て飛び起きて母親の部屋に赴き、「…いっしょに寝て…?」と涙目で不安に震えながら懇願する娘を母親が、「仕方ないわねえ…」と苦笑交じりに娘を抱き寄せ腕に包んであげると、不安と恐怖で塗り固められた表情から一点、安心した表情を浮かべすぐに寝入ってしまい、母親はまた苦笑混じりに、しかし愛おしそうに軽くほほにキスをしてあげる。そして娘は母の腕の中で安らかに眠る。とても安心しきった、緩んだ笑顔で。
まさにそのような誰が見ても天使といわざるを得ないような表情を携えていたら
誰だって思考がショートして何かに感謝したくなるに違いない。
そして見た人は必ずこう思う。「ああ、自分はこのために生まれてきたのか」と!
それぐらいかわいい寝顔。意識が多少飛んでも仕方がない。
むしろ戻ってこれただけ賞賛ものだよ。
よくがんばった私。
よくがんばった私の精神。
私は自分をほめて何とか気を保った。
でも、まだ目的は達してない。
お姉さまの寝顔を見ただけで大満足してしまいそうだけど、今夜危険を冒してまでここに来たのはもっと違う理由だ。
私はお姉さまが包まっている布団をゆっくりとどかした。
包んでいたものがなくなったせいかお姉さまは寒そうに身じろぎした。
ごめんねお姉さま、すぐに済ますからね。
私はそう心の中で謝りつつ、今度はお姉さまの服を脱がしにかかった。
私はお姉さまの体を守るかわいらしい、ぶかぶかなパジャマのボタンを一つ一つ外していく。
天使のような寝顔を浮かべて眠るお姉さまの衣類を脱がす…なんて犯罪チックな響き。
でも私は別にお姉さまを襲いに来たわけではないしなにもやましいことはない。
ある意味襲いに来たのかもしれないけど。
そんなことを考えているうちにお姉さまの胸が少しチラッと見える程度まで脱がしていた。
「…」
ついに始めるのか。
私の「初めて」を。
ここに来て今までにない緊張が胸を締め付けてくる。
でもここまで来て逃げるわけにはいかない。
私のこの気持ちに決着をつけるためにしなければいけないんだ。
「…お姉さま」
私はゆっくりと外気に触れるお姉さまの首筋に頭を近づけていった。
「後はお嬢様だけね」
紅魔館の廊下を歩きながら手帳で今日の予定を確認する。
今私はこの館の主、レミリア・スカーレットお嬢様の元へ向かっている。
フランドールお嬢様は先に目が覚めたみたいで、既に食卓についてもらっている。
後はさっきつぶやいた通りお嬢様を起こして連れて行くだけ。
まったく、お嬢様もフランお嬢様を見習ってほしいものですね。
でもなんで今日フランお嬢様はご自分で起きたのでしょう。
いつもならお二人とも私が起こしているのに。
せっかく私のかわいい天使たちの寝顔を覗き込むという素晴らしい日課が今日は半減してしまったわ。
手間は二割減しましたけど。
そんなこんな考えているうちにお嬢様の部屋までたどり着いた。
「お嬢様、失礼いたします」
私はいつも通り扉を3回ノックし、部屋に入室する。
失礼しますなんて断わってはいるけど、お嬢様がこの時間に起きていることなんてまずないので、ただの社交辞令。
部屋に入ってまず目に付くのは紅一色。
まったく悪趣味な部屋ですねえ、といつもと同じ感想を抱きつつ部屋を一見する。
特に異常は見られない。良かった。
確認もそこそこ私はお嬢様の元へ歩みを進める。
そしてベッドの天蓋をくぐったときいつも通りな景色は一変した。
「!?」
お嬢様の服が乱れている。
確かにお嬢様の寝相は最悪で頭と足の位置が反対になる程度日常茶飯事ですけど、これはそういう感じではない。
誰かが人為的に起こしたとしか考えられない。
なんていうこと…よりにもよって私が夜の見回りから外れている時に…
とにかく落ち着きましょう。もしかしたら私の見当違いで、ただ寝相が悪かっただけかもしれないし。
そう思い私はもう一度お嬢様を観察する。
うんだめだ。確実に脱がされてる。
だってボタンが丁寧に外れているんですもの。こんなの寝相じゃどう考えてもならない。
ただ、もう一つ分かったことがあるわ。
お嬢様のお体に見える範囲では特に外傷はない。つまり襲われたわけではない可能性が高い。
耳を澄ませば小さくかわいらしい寝息も聞こえてくるし命に別状はなさそう。
とりあえず落ち着くために、一度要点を整理しましょう。
昨夜何者かがお嬢様の部屋に侵入した。
そして部屋の家具には手をつけずお嬢様の服を胸部が少し見えるくらいまで脱がした。
そしてお嬢様に傷をつけるわけでもなくこの部屋から出て行った。
こんな感じかしら。
本当ならお嬢様の部屋に(無断で)仕掛けたカメラを回収して確認したいところですけど、
万が一途中で起きられるとまずいですから。
なんにせよお嬢様が生きているのであれば、直接聞けばいい話です。
もしお嬢様の意思でこうしたことを起こしたのであれば何も問題ないですし。
まあお嬢様の意思関係なく、私のお嬢様にみだらなことをした奴はナイフ百本ぐらい顔面に刺しますけど。
後、何者かが本当にこの部屋に侵入していたのであれば昨晩の当番の妖精メイドは死刑三十回は軽いわね。
まあいいです。
私も落ち着いてきたことですし、とにかくお嬢様を起こしましょう。
「お嬢様、起きてください」
何度かその小さく愛らしいお体をゆすりながらそういうとお嬢様は眠そうに、「う~ん…」とうなだれながら体を起こした。
お嬢様が目覚めたのですぐに服のことを問いただす、これは一番してはいけないことですわ。
お嬢様は寝相だけではなく寝起きまで最悪です。おまけに低血圧まで合わさっていて。
とにかく今声を掛けることは愚の骨頂、しばらく様子を見てお嬢様が覚醒なさったら問いただしましょう。
まあ、寝起きで機嫌最悪の状態に話しかけて、眠そうなジト目で殺気を放ちながら睨まれるのも一つの快感ですが、さすがに二日続けては本当に殺されてしまうかもしれませんので自重しておきましょう。
まあ、お嬢様の手によって命を絶たれるのであればそれも本望ですが今日はまだ聞きたいことがありますからね。
部屋にぼ~っと視線を這わせるお嬢様。
焦点の合わない目で私を見つめるお嬢様。
うん、何度見ても愛らしい。今すぐ抱きしめたい。
でも今日はダメ。聞きたいこともあるし、それは一週間ぐらい前にやってこっ酷く怒られたばかりだし。
「…あ、咲夜…今日はずいぶん素直ね」
「おはようございますお嬢様。それはお褒めの言葉として受け取っておきますわ」
「ははは、聞かなかったことにしてやる。おはよう咲夜」
そんなこんなでお嬢様が覚醒なさられた。
ふと思ったのだけれど、
いくら待っていたとはいえまだ機嫌はよろしくないだろうに冗談を言ってもらえるのって結構愛されてるわよね私。
「ん~」
少し思考の世界に入っているとお嬢様は軽く伸びをしていた。
「…ん?」
そして伸びを終えたお嬢様は少し驚いたような表情を浮かべたかと思うと何故か私のほうをにらんできた。
…なぜ?別に私何もしていないのに…
あ、でもそんな表情もやっぱり愛らしいですね。
さりげなく仕掛けたカメラに映るように場所を移動しましょう。
ところでお嬢様がさっきから黙りこくっているのですがなぜでしょう。
さっき伸びをした後少し視線が下にいっていたような…
「…咲夜」
「はい」
と思ったら口を開いてくれた。これでやっと話を切り出せる。黙られていると話ししづらいですから。
「これはあなたがやったの?」
「はい?」
と思ったらなにやらいやな予感がしてきました。
なぜでしょう、さっきと同じ「と思ったら」から始まったのにこの空気の違いは。
「…」
それっきり口を閉ざしたお嬢様。
不味い。これはだいぶ不機嫌だ。
ここまで来ればさすがに私でも気づける。
お嬢様は勘違いしている。
さっき下を見たとき自分の今の状態を確認してしまったのでしょう。
「あの、お嬢様。それはおそらく勘違いだと」
「分かってる分かっているわよ咲夜」
何でそういいながら右手にグングニルを構えていらっしゃるんですかねえ…
しかも痛いくらい殺気を放っているのもどうしてですかねえ…
まあこれで一つ確定したことがあるわね。
あのみだらなお姿はご自分でしたことではないと。
さて、紅魔館から数十匹妖精が居なくなるわね。
まあもともとたいした働きはしてないしいいですね。
って違う。こんなこと考えている場合じゃない。
今のままだと彼女らより先に私が処罰されてしまう。
「お嬢様落ち着いてください。勘違いで」
「ん?」
思わず口を閉じてしまった。
あそこまで怖い顔今までで初めて見ましたよ。
さっきお嬢様になら殺されてもいいとか思ってましたがさすがに勘違いで殺されるのはいやですよ。
って、ん?
「失礼します」
「は?ってちょ、ひゃぁっ!?」
お嬢様の首筋に触れる。
…やっぱり何か傷がある。
さっき見たときには見つけられなかった、小さな針みたいな傷跡が鎖骨のあたりに二つ。
「お嬢様、この傷は」
どうしたのですかと言おうとして口が止まった。
お嬢様が私をその小さな手で突き飛ばしてベッドから落ちてしまったから。
「あう…なんですかお嬢様」
そうつぶやきながら体勢を立て直した私が見たものは。
布団にしっかり包まって私のほうを泣きそうな目でにらみつけているお嬢様の姿でした。
…カメラ撮れてるかな。
いやそんな場合ではないわね。
「あの、お嬢様」
「来んな変態」
涙声でそう言い放つお嬢様。凄く興奮する。じゃなくて。
え~とこれはどういう状況でしょう。
さっきまで私はお嬢様に殺されそうだったのに、今では何故かお嬢様が怯えていらっしゃる。
しかも、何故か体を守る様に布団に包まって。
ん?体を守る?
…さっき私何しましたっけ。
あ~これはまずいですね。
お嬢様に何かあったら何をおいてもお嬢様を優先する性格が裏目に出てしまいましたね。
お嬢様は500年間生きてると入っても性格は見た目相応幼い。
ですから性に関する知識にはまだ疎いから。
私はなんやかんやお嬢様に直接何かすることはないから、いきなり鎖骨、胸の近くを触られて襲われると思って怯えてしまったのね。
お嬢様はけっこう押しに弱いタイプですから。
「お嬢様」
「しゃべんな変態」
相変わらず涙声の罵倒、よく見ると少し布団が震えている。
かわいい。けど、これはいただけない。
私、十六夜咲夜はお嬢様の幸せを一番に祈っている。
たとえどんなにお嬢様がかわいいく見えても、愛らしい仕草をしても。
お嬢様が本心で嫌だと思っているのなら私は絶対にときめかない。
私は絶対に許さない。それがたとえ自分自身だとしても。
「すみませんが聞いてください。お嬢様は誤解なさっています」
「私がここに来たときからお嬢様はあの状態でした」
「さっきお体に触れさせていただいたのは、首筋になにか傷跡のようなものが見えたからです」
「…」
お嬢様は黙って聞いていてくれる。
「ですが、お嬢様に不快な思いをさせてしまったのも事実です」
「私はもう動きませんのでお嬢様のお好きなように処罰してくださいませ」
出来るだけ誠実感を出して言い切ったはず。
後はお嬢様の判断に身をゆだねるしかない。
ここでどんな処罰をされても私に悔いはない。
「…分かった」
覚悟を決めて数秒後、お嬢さまが口を開いた。
「咲夜を信じるよ」
まあ罰は与えるけどねとお嬢様は薄く笑いながらおっしゃった。
「はい、なんなりと」
それが強がりだと分かっている私は少し表情を崩して応答した。
良かった、信じてもらえた。
「それにしても、昨日の見回りはなにしてたのよ」
余裕が出来たのかお嬢様は布団から出てきて強がりをごまかすように愚痴をこぼした。
…なにか少し距離があるような気もしますが。
「それに関しては当番のものにしばらく休暇を与えるつもりです」
「休暇って…ああ、そういうことか」
その娘たちは幸せ者ね、とお嬢様はフフッと笑い声をこぼした。
「申し訳ございません。私が起きていれば」
「咲夜は働きすぎよ。私が言うのもなんだけど」
いつものように軽い口調で会話をしてくださるお嬢様。
…やっぱり気になる。
「あの、お嬢様。距離がいつもより開いているような気がするのですが」
「開けてるわよ」
思った通りお嬢様は私を避けているみたい。
なぜでしょう。誤解は解いたはずなのに。
「なぜなんですか、私のことを信用してくれたのでは」
「信用はしたけど信頼はしてない」
「?どういうことでしょう」
「部屋の13個のカメラ、まさか私が気づいてないとでも?」
なん…だと…まさか気づかれていたなんて…しかも数まで。
ばれないよう細心の注意を払っていたはずなのに。
なんにせよ言い訳しないと。
「いえあれはお嬢様の考えているようなことでは」
「咲夜」
「ごめんなさい」
いや無理です。
今までに見たことないぐらいいい笑顔なのに目が全く笑っていないなんて怖すぎるでしょう。
さっき死ぬこともいいかもなんて思っていましたけどうそです。やっぱり死ぬのは怖いです。
「あれ取ってくれない?ずっと見られてる感じがして気になるんだけど」
「はい」
仕方ない。部屋から2つばかりスペアを取ってきてごまかそう。
「あ、いちよう時は止めないでね」
「…はい」
ちくしょう。
全く、私としたことがとんだ失態を見せてしまったわ。
咲夜に襲われたからと言ってもあんなに怯えてしまうことなんてないのに。誤解だったらしいけど。
押しに弱い性格は直さないといけないわね。
…それはそうと咲夜何か言ってたわね。
首筋に傷がどうのこうの。
………
見張りはもういいでしょう。釘をさしておいたことだし。
私はベッドから飛び降り、鏡の元へ歩いていく。
この鏡は咲夜が河童に作らせた特注品で、私たち吸血鬼も映すことが出来るもの。
きっと咲夜の仕掛けたカメラも同じつくりなんでしょうね。
鏡の前に立った私は、映った自分を見つめた。
…相変わらずちっさいわね。いつになったら成長期は来るのかしら。
咲夜なんて最初は私よりも小さかったくせにいまや見上げないといけないくらい差がついたし。
ま、今はそんなことどうでも良いか。
首筋首筋っと。
…どれかしら。
…あ、これかな。なんか針みたいな傷跡ね。
って、これってもしかして…
吸血痕かしら。
何でこんなもの。幻想郷に吸血鬼は私たち姉妹しか居ないはず。
…あ、そうだ。咲夜のカメラで確認すればいいんだ。
もう回収も終わっているだろうし。
そう思い振り返ると案の定カメラ13個をベッドに置いた咲夜の姿があった。
なにしてるんだろうって目でこっちを見てる。
てか、改めてみると多いわね13個って。
「咲夜、昨日の夜のことについて知りたいわ」
「はい、もう準備は出来てい ます」
さすがに出来るわね。こっちが何もいわなくても用件を予想して用意してるなんて。
まあこの件に関しては咲夜も少なからず気になることでしょうし、それもあるか。
「そう、じゃあ見せてくれる」
「かしこまりました」
そういいひざに置いた手を退かす咲夜。
なに?もしかしてそこに座れっていってるの?
「…」
「…」
「…(は~↓)」
「…(ぱ~↑)」
まったく、映像見終えたらきっついお仕置きが必要ね。
「それでは再生いたします」
めっちゃいい笑顔見せやがって、むかつく。かわいいのがよけいにむかつく。
「この辺は何もないね」
「そうですね、もう少し進めてみましょう」
咲夜の犯罪道具鑑賞を始めて10分。特に変わりはない。
強いて言えば後ろの咲夜の息遣いがだんだん荒くなってきていることくらいかな。
ちょっと身の危険を感じる10分間。
今の時刻は丑三つ時、いい加減何もない映像に飽きてきた頃、ついに変化が訪れた。
「!誰か入ってきた」
「ちょっと止めますね」
カメラが捕らえた何者かを確認するためにいったん停止する。
そして二人で画面を覗き込む。
咲夜の顔が肩にあって凄く邪魔くさいけど仕方ない。
ただその息遣いはやめろ気持ち悪い。
まあいいや。さて誰がこんなこと。
って言ってもあの娘以外居ないと思うけどね。
「これは…フランお嬢様ですか」
「たぶんそうだろうね」
案の定、画面に映っていたのはフランだった。
私と同じような紅を基調としたパジャマに咲夜お手製のかわいいデフォルメされたクマさんがプリントされている。
そして何より、フランのあの何か良く分からない虹色の装飾品付きの羽。
見間違うはずがない。
映っているのは、私の妹。フランドール・スカーレットだ。
フランは私の部屋に入って数歩歩いた後、思い立ったように飛んだ。
そして少し移動した後すぐ降りた。
たぶん飛んだら音鳴らないとか思ったんでしょうね。装飾品がぶつかり合って気づいたみたいだけど。
それから、急に体がビクッと震えたかと思うと、5分間ぐらい固まっていた。
私が寝言かなんか言ったのかしら。
しばらくして歩き出したフランは私の眠るベッドにたどり着いた。
「咲夜、他のカメラは」
「これですね」
今まで見ていたカメラだとベッドの中までは見えづらいから咲夜に替えはないかと聞いたらぱっと出してきやがった。
本当に部屋の全部が映っていたようね。我が従者ながら怖いわ。
切り替えたカメラでさっきの時間当たりを再生する。
フランがベッドにたどり着いたあたりで早送りをストップ。
フランはベッドの天蓋をくぐると、少し固まったかと思うと急になにを思ったのか両手を合わせて祈りだした。
なにがしたいのよこの娘は…
やっと動き出したフランは私のほうへ近づいていき、ボタンを外しに掛かっていった。
そして3個くらい外し終えるとゆっくりと私の首元へ近づいていき、数秒間触れ合った。
その後はそそくさと部屋を後にした。
顔は良く見えなかったけど耳が赤く染まって見えたのは気のせいかしら。
この後は咲夜が来るまで何もなかった。
「お嬢様の傷はなんだったんでしょうか」
見終えた咲夜が呟きとも取れるような声で話しかけてきた。
「たぶんだけど、吸血痕ね」
「吸血痕?なぜフランお嬢様がレミリアお嬢様に吸血するのですか?」
私でしたらまだ理解できますが、と納得のいかないように咲夜が続けた。
まあ、吸血鬼以外はこんなこと知らないわよね。
知ってる私は私で別のことが解せないけど。
「そうね。いい機会だからあなたにも教えてあげる。吸血鬼同士の吸血の意味を」
「よろしくお願いします」
後ろから咲夜の返事が聞こえる。
っていうかいつまでひざの上に座ってるのよ私。
いい加減咲夜が近すぎてうっとうしいわ。
「咲夜、吸血鬼が血を吸う相手って誰だと思う?」
咲夜のひざから離れてベッドの上に立ち問いかけた。
咲夜は一瞬泣きそうな顔を浮かべたがすぐにいつもの表情を取り繕った。
本当、優秀なのはそうなんだけどところどころ残念ねこの娘は。
「えーと、人間ですか?」
咲夜は私の求めていた答えをそのまま言ってくれた。
さっきの私の話で予想はついていただろうに、まあこっちのほうが進めやすいからありがたいけど。
「吸血鬼が血を吸う相手は人間に限らないのよ」
「そうなのですか?」
私に合わせ答えてくれる咲夜。
少しわざとらしい感じがする。
「ええ。通常ただの食事なら人間の血しか吸わないけど、同族の血が必要になるときもあるの」
「吸血鬼が人間の血を吸うと、当然だけど人間の血が混じって自身の血が薄くなるのよ」
「血は力の象徴。だから長く生きている吸血鬼ほど力が弱くなるの。物語に登場する退治されるようなものがそれね」
「それを防ぐために私たちは同属の血を飲むの。結局他人の血だけど同じ種族だから力も戻るの」
私は一旦言葉を区切った。
すると今まで黙っていた咲夜が口を開いた。
「だから、フランお嬢様はレミリアお嬢様に吸血したということですか」
咲夜なりの答え。まあ普通そう思うわよね。
「いや、違うと思うわ」
「え?」
「フランには私の血を食事に混ぜて与えてるから、夜こっそり私を襲う必要がないはずだもの」
「そうだったんですか?」
また咲夜から驚きの声が上がる。これは咲夜の素直の感想かしらね。
咲夜には私たちの食事管理を任せているから、私の血を混ぜていたことを知らないことにはそりゃ驚くわよね。
でもおかしいわね。このことについては咲夜が幼い頃美鈴に説明させたはずだったんだけど。
咲夜の教育係は美鈴に任せていたからね。
「いつの間にそんなことを」
「咲夜、半年に一回行われる健康診断について美鈴からどんな風に聞いていたの?」
「え、え~と」
咲夜にしては珍しくいい辛そうに口をもごもごしていた。
「…お嬢様が諦め悪く成長するのを確認したがるからだと」
「…」
あとで美鈴、殺す。
いや、幼い咲夜に血の交換なんて生々しい事を言いたくなかったんでしょうけど。
でも、殺す。
「…私とフランの血を採取するためよ」
「そ、そうなんですか」
…あいつのせいで変な空気になってしまったじゃないの。
「あなたに半年に一回私が血を渡していたでしょ。あれが私たちの血よ」
「ああ、あれですか」
納得の言ったような顔を浮かべる咲夜。
でも、それはすぐに疑問の表情に変わった。
「でも、なぜ血を交換するのですか?同属の血が必要ならご自分のものではならないのですか」
当然の疑問、そりゃ知らなければそんな反応になるわよね。
「気分のいいものじゃないのよ。人間でたとえるなら紙を食べるようなもの。出来なくはないけどしたくないでしょ。それに味もすっごくまずいの。」
「なるほど」
少し疑惑が晴れたみたいな咲夜。
でもまだ疑問は残っている。
「ではフランお嬢様の血はまずくないのですか」
「まずくない。むしろ甘くておいしいわ」
「これは何でか分からないだけど好きになった相手の血はおいしく感じるのよ。人間よりも」
---ガタッ---
ん?何今の音。気のせいかしら。
「はあ。好きになった」
「ええ、でも家族とかの意味じゃないのよ。お母様の血とかまずかったし」
私は疾うの昔死に別れしたお母様のことを思い出しながら言った。
そういえば、フランはお母様にもお父様にも懐いていたわね。
でもそのせいであの娘は…
「ではなぜ、フランお嬢様はお嬢様に吸血したのでしょうか」
少し考え事をして、気持ちが沈んでいたときに咲夜が質問してきた。
私も解せない問題を。
「それに関しては分からないわ。ちゃんとあの娘にも血は与えているし、そもそもあの娘はこのことについて知らないはずだし」
「教えていないということですか」
「ええ、普通は親から聞かされるものなんだけど、あの娘はほとんど会えなかったから」
「…すみません、余計ことを」
「いいわよ別に」
わたしがフランを閉じ込めたことを思い出したと察した咲夜は申し訳なさそうに謝罪した。
咲夜が気にすることじゃないのに。
「あれ、ではなぜフランお嬢様が交換について知っているのですか?お嬢様が教えていなかったら他から知り得ることなんて」
「そこも疑問点ね。どうやってあの娘がこれを知ったのか、なぜ私の血をわざわざ夜間に忍び込んでまで飲みたかったのか」
「こればっかりはあの娘に聞いて見るほか解決しそうにないわね。私に答えてくれるかはわからないけど」
どうにもフランは私に対して他人行儀なところがある。
私が嫌いだからか、それともほかの理由かはわからないけれど。
まあ、私もあの娘に負い目を感じているから余計ギクシャクした感じになっているのかもしれないけれど。
「そうですね。フランお嬢様は今食堂にいるはず…」
言い切る前に咲夜は言葉を区切った。
物音がした。さっきも聞こえたけど今度は確実に鳴った。
「見てきます」
そういい咲夜が部屋の外まで足早に歩いていく。
こんなときまで礼儀を気にして主人の前で時間停止を使わないのは果たしていいことなのかしら。
「誰ですかそこにいるのは…って、フランお嬢様?」
…まて、いまなんていった?
少しして咲夜が部屋に戻ってきた。
…フランをつれて。
「…フラン、いつから居たの」
私はこの部屋に入ってきて気まずそうにもじもじしているフランに問いかけた。
「…お姉さまたちがカメラを使うって話をしていた時くらいから」
言いづらそうに口をもごもごしてからフランはそう言った。
私の失態は聞いていないと、よかった。
あんなの聞かれたら姉の威厳丸つぶれよ。
そのあとに何か問題発言とかあったかしら。
…っあ!
…フラン、あなたがどうしてそこまで気まずそうなのかわかったわ.。
「…フラン、聞いたわよね?」
私の問い。
通常ならこれだけでは、「なにを」の部分がない為意味は通じない。
しかし、今この場にいる私たちにはこれだけで十分理解できる。
なぜこんな回りくどいやり方をするのかというと、
口に出してしまうと恥ずかしくて姉としての立場を維持できないから。
「…うん」
フランはややためらいながら小さく首を縦に振った。
顔を伏せているから見えないけど、耳が真っ赤なのが今のフランのすべてを物語っている。
「そう。ならフラン、今度はあなたが私に伝える番よ」
「へ?」
私の言葉に反射的に顔を上げるフラン。
真っ赤な顔が愛らしくてたまらない。
「あなたはどこで同族間での吸血を知ったの。そしてなぜ私にそれをしたの」
指示語にしたのはわざと。なぜかって?
嫌な予感…いえ、良い予感かしら?がしたから。
私はこんな考えを持ち始めている。
フランが私のことを嫌っているというのは、私の勘違いではないか、と。
嫌いならわざわざ血を飲む必要がないもの。
そして、裏を返せば、フランが吸血した理由は…
考えるだけで顔に熱がたまりそうになる。口になんて出してしまったら。
だから、それにつながることは私の口で言いたくない。言えない。
言ってしまえば私の理性がフランへの激情で壊れてしまう。
「魔理沙から聞いたの」
「魔理沙?なんで魔理沙が知っているのよ」
少し予想だにしない答え、美鈴あたりかと思っていたのだけど。
「図書館で読んだって言ってた」
ああ、確かにあそこならありそうね。
そう答えた後、フランはまたうつむいて黙ってしまった。
私としては、自分の考えがあっているのか、その不安と期待で押しつぶされそうでつらいけど、フランが話さないことにはどうしようもない。
待つこと数分、いえ、数秒かしら。
時間がこんなに遅いなんて初めて知ったわ。
「…確かめたくなったの。自分の気持ちを」
フランがついに口を開いてくれた。
「私はお姉さまのことどう思っているのか」
「お姉さまに抱いてるこの感情はなんなのか」
「愛情か、親愛か、ずっともやもやしてたから」
「だから、昨日こっそり忍び込んだの」
一度口を開いてからは、雪崩のように一気に言い切ったフラン。
きっと歯止めが利かなくなったんでしょうね。
そして、今の言葉。
どうやら私の考えは勘違いであって正しかったようね。
フランは私のことを好いていた。
こんなにうれしいことはない。
でも、いまはこの嬉しさを体で体現するわけにはいかない。
いまフランは真っ赤な顔を私に向けて私の答えを待っている。
フランはありったけの勇気を振り絞って私に教えてくれた。
これに応えないなんて許されない。
「私はフランの血、おいしいわ」
「フランもそうだった?」
もう一度、今度はフランに向けて遠回しな告白。
そしてフランへの問い。
でも、答えなんて聞かなくてもわかっている。
運命を操る程度の能力なんて言うけど、こんな能力いらないわね。
私の一番ほしい運命は、手に入ったのだから。
「…うん。おいしかった」
その言葉が耳に届いたとき、私はフランを抱きしめていた。
「!…お姉さま」
「なに?」
「…だいすき」
「ありがとう」
「…お姉さまは?」
「…」
ごめんねフラン。私は臆病だから、直接の言葉では伝えられないわ。
でも。
「あっ!…ずるいよ、お姉さま」
「…おいしいわ、フラン」
「…ありがとう」
(ごちそうさまです)
二人の吸血鬼をカメラに収めたメイドはそう心の中で叫んだ。
これだな
まさに血を分け合った姉妹ということですね。やっぱ互いにラヴラヴなレミフラは良いです
でも何か…1の言うように
表現がもう少し豊かだとより一層引きつけられたと思う