Coolier - 新生・東方創想話

幻想曲

2015/02/04 00:48:35
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彼女は端末に繋がれたイヤホンを私に渡した。私はそれをつけた。
すると曲がながれ始めた。

「この曲…何て名前だっけ」
「亡き王女の為のセプテットじゃなかった?」
「あぁ、そうそうそれだ! 昨日からきになってたの」

亡き王女の為のセプテット、クラッシックの隠れた名曲だ。しかしこの曲、名曲の割りに知名度は低い。
私は、あの美しいメロディーを聞きすぐに感動した。単に美しいだけでなく格式高く、誇り高い、荘厳な感じがある。私の言葉ではどうも、稚拙な表現しか出来ないが本当に美しい曲である。

「この曲と、UNオーエンは彼女なのか、ラクトガール〜少女密室、明治十七年の上海アリス、を合わせてなんと言うでしょう」
「さぁ、知らないわ」
「正解は、世界四大奇曲でしたー」
「奇? 何が奇なの?」
「ふっふーん! いい質問です。この私! 蓮子ちゃんが教えてあげましましょう!メリーはそーゆうの疎いですから」

世界四大奇曲、その全ての楽譜は今バチカン図書館に
収蔵されている。

--01----衛兵-------


2015年某日金曜日、満月の日であった。夜は深まり、バチカン美術館に訪れる客がちらほら見られる。
そこから少し離れた所に、バチカンの街に不釣り合いな少女が居た。
黒と白を基調としたメイド服、胸元の銀の懐中時計は月光を反射し、少女の顔を薄っすら照らしている。少女の顔はハッキリとは見えないがある美しい顔立ちであった。東洋人の様な顔立ちだが、髪は白銀で服装も東洋人とは思えない。所謂、コスプレというやつかも知れない。
いくら、聖なる地とは言えこの時間帯に少女一人では不用心だ。私はとりあえず、英語で話しかけた。

「こんな時間に一人では危険ですよ どうされましたか?」

少女は少し困った顔をした。きっと、英語が分からないのだろう。東洋人で困ったときにこんな対応をするのはだいたい日本人だ。日本人は英語と話しかけられるのは苦手だと聞いたことがある。私は困った。仕方なく、拙いがマニュアルで覚えた日本語を使うことにした。

「ドウシマシタカ?」

少女はすこし驚いた。やはり日本人みたいだ。私はすこし安堵した。それと同時に、それしか覚えて居なかった自分を恥じた。すると少女が口を開いた。

「上手な日本語ね。心配してくれてありがとう。ハンサムボーイ。すこし聞きたいのだけど、法王様にはどこに行けば会えるかしら?」

私は驚いた。なぜなら彼女は流暢な英語で話したからだ。私は、ここでやっと本当に安堵した。英語なら大丈夫だ。

「法王様に会う? 残念ながら、君がちょっと言っただけでは面会出来ない。しかし、水曜なら謁見の時間がある。それでどうかな?」
「私はお嬢様の命を受けて来ているのよ。」
「お嬢様? アポイントメントが有ったのですか…これは失礼しました。では、ついて来て下さい」

私はその時、少女の言うお嬢様とは、イギリスのエリザベス女王だととっさに思った。さっきまでは怪しげに見えた少女であったが、今となっては最高レベルの敬意を払うべき相手である。ここまでの貴人を相手にしたことは私の人生で初めてで非常に緊張した。手は汗ばみ、背中からは冷や汗が出ているのがか分かる。まさか、こんなVIPに会うとは、思ってもいなかった。
緊張していたせいか、いつもなら遠い門はすぐに着いた。

「あの門番に名前を言って頂ければ、直ぐに対応できると思います」
「ムルツメスク」

一瞬、何を言ったのか分からなかった。しかし、次の瞬間にはその言葉の意味が分かった。祖国、ルーマニアの言葉だ。なぜ彼女はそんな言葉を言ったのか、私がルーマニア出身だと知っていたからなのか、後々知ることとなったことだが彼女が吸血鬼だったからか、どちらかは今となってはもう分からない。


--02----門番-------


「えー、形式だけなんですがね、来賓帳のお名前と照合するので、お名前は?」
「スカーレットよ」
「スカーレット様…スカーレット様…えーっと、アポイントメントはいつをお取りになられました?」
「今日よ」
「スカーレット様…あいにく、そのようなお名前は有りませんが…」
「本当かしら? 確かに取ったはずよ、もう一度みてくださらない?」

私は目を疑った。来賓帳の今日の一番下の欄に真紅のインクでスカーレットとかかれている。なにせ黒インクしか使わないのに、真紅の署名がなされているからだ。この、来賓帳は私が書いているからわかる。この文字は私ではない。
あの一瞬、来賓帳を閉じたあの瞬間に彼女が書いたとでも言うのか?
こんな、不思議な事があるだろうか。

「どうしたのかしら? あったでしょう」
「はっ、はいございます。しかし…」
「まだ何か問題があるのかしら?」
「規則で、手荷物のチェックが有りまして…手荷物の中身を見せていただけますか?」
「構わないわ、どうぞ」

本当はこんな事はしないのだが、この女は本能的に怪しい奴だと思った。ここでなんとかして追い払おうと考え、手荷物に適当になんグセをつけて丁重にお断りする算段だった。
そして、私は女の持つ革張りのスーツケースを開けた。中には封筒と絵画らしきもの、たったそれだけしか入っていなかった。念入りに調べたが出てきた物は、他に何もなかった。
私は仕方なく、中に案内することにした。

夜番の枢機卿に話をすると、すこしここで待っていろとのことであった。私は少しの間、この怪しげな少女とふたりきりになった。
沈黙が苦手な私は、彼女に話しかけた。

「どちらから来られたのですか?」
「日本よ」
「それは遠いとこですね。長旅お疲れ様です。法王様にはどんなご用件で?」
「言えないわ。機密情報なの。」
「そうですか。それは失礼しました。そういえば、さっきルーマニア語を話していましたが出身はルーマニアですか?」
「主人はルーマニア生まれね、友人は英国よ。英語は彼女から学んだわ。」
「バイリンガルなんですか! 素晴らしい」
「英語、ルーマニア語、日本語。あと中国語が少しできるわ」
「博識な貴方は素晴らしい従者ですね」

そうとは言ったが、とこぞ諜報機関の人間に違い無いと思っていた。
すると、やっと奥から枢機卿が帰ってきた。
こんな深夜なのに法王との、面会が許されたみたいだ。私はやはり、この女はおかしいと思った。私は感じたおかしさを枢機卿に耳打ちをした。すると意外な答えが返って来た。

「スカーレットと名を聞いたら直ぐに私の前に通すように命令なされた。プライベートなご友人かなにかだろう。心配するな」


--03----法王-------

「みな、部屋から出てくれ」
「えっ、法王様…それは出来ません。安全が保証できません。」
「かまわん、今から私が合図するまで、この宮殿に誰も近づけるな」
「はい、わかりました。」

彼らにはこの真実を見せるわけにはいかない。この真実を知るのは私と数十年来の部下だけでいい。
バチカンが悪魔と繋がっているとは一部の陰謀論の好きな者が古くから言っているが、それは真実だ。
スカーレット一族は悪魔だ。人を喰らい、闇に生きる悪魔であることは確かだ。バチカンと数百年間争い続けた宿敵だ。しかし、吸血鬼スカーレット家とバチカンの戦いを知るものは少ない。何故なら、歴史の表舞台の話では無いからだ。悪魔はスカーレット家以外にも沢山有る。どの悪魔も悪さをしては、我々バチカンお抱えのエクソシストと戦いを繰り広げていた。しかし、スカーレット家はは普通の悪魔とは違った。悪魔とは言え、あれほど騎士道に忠実な者はどの歴史の中でも見たことが無い。
私からすれば、彼らと比べるとよっぽど今の人間の方が悪魔だ。
人を裏切り、平然と嘘をつき、憎しみが憎しみを生む。永遠に終わらない血みどろの殺し合いを続けている。
彼らはどうだ、裏切りを嫌い、弱き者を助け、決して嘘をつかない。
人間や他の悪魔のように決して、下らない悪さはしなかった。いつも、人間や我々バチカンをハッとさせるような教訓をもたらすような事をした。ある意味、神かもしれない。こんな事は死んでも人には言えないが。

「レミリア嬢は来ているのか?」
「実はお嬢様はもうお亡くなりになりました。」
「なんと、吸血鬼にも寿命があるのか…。それはご愁傷様」
「博麗大結界が破れてしまってからというもの、一気に力を失われ、衰弱し亡くなられました。」
「博麗大結界とは?」

日本には幻想郷と言う土地があり、そこで暮らしていたことを知らされた。彼らが居なくなってからの話を聞いた。私は部下に命令し、少女の話を一言一句逃さず記録させた。
これが、スカーレット家に関する最後の資料となるのだ。私は彼らの記憶を失わせてはいけない。そう直感した。

「最後に、スカーレット家当主、レミリア様より、あなた様に寄贈品が有ります、お受け取り頂けますか?」
「もちろんだ」



--04----女王-------

レミリアの名は数代前の法王の日記から書かれている。そこには、レミリアの産まれた時から書いてある。法王が自らそれを祝い、まるで家族のように祝ったようだ。法王たるものが、悪魔を祝うとは如何なものとは思うが、スカーレット家となるとその気持ちは分からなくはない。私は今までの法王の日記をいくらか読んだが、最近の日記には宿敵というより友人のように書かれていた。もちろん、古いものは宿敵、悪しきものとして書かれているが。

「四曲の楽譜。一枚の絵画を預かっています」
「絵画か、見せてくれないか」
「わかりました」

少女が懐中時計を開き時間を確認した。私が瞬きをした瞬間、目の前には絵画が現れた。 到底あの一瞬で運べるものではない。一種の魔法のようなものだろうか。
絵画にはレミリア嬢を中心にその配下の者が描かれている。絵の中心のレミリアは人間では幼女のような容姿だが、溢れ出るカリスマは王者の風格そのものである。悪魔であることを一瞬忘れてしまいそうだが、漆黒の翼が悪魔であると印象付ける。
私は絵に見惚れていた。
その後、私は絵から目を離した。


「咲夜だったかな、君の名は」
「何故、私の名を?」
「先代の法王の葬儀に深夜訪れだろう。今でも覚えているよ。あの時に、レミリア嬢が君の名は呼んでいたからね。あの時から、君の美しさは変わらないな。流石悪魔だ。」
「美しいとは勿体無いお言葉です。あと、私は人間ですわ」
「それは、失礼した。この絵はあの時見た、君らとそっくりだ。赤髪の武人の健康そうな肉付きや、フランドール嬢の宝石の羽まで事細かく、細部に渡るまでしっかり描かれているな。ありがとう。バチカン美術館に飾るとしよう。そういえば楽譜とは? 」
「あぁ、楽譜については、お嬢様から、楽譜の曲を弾き聞かせるように言われました。そこで、申し訳有りませんが、ピアノをお貸し頂きたい。」
「分かった、枢機卿、ピアノはどこにある」

ピアノは直ぐに用意された。
そして、少女は封筒から真紅の紙を取り出した。それは、白のインクで書かれた楽譜であった。
少女は楽譜をセットすると弾き始めた。


--05----少女-------

「世界四大奇曲が何故、奇か。理由は二つある
一つ、原曲の楽譜の血染めの紙がいまでも真紅であること。今でも触れば指に血がつくのよ。血ってほっておけば茶色に変色するの。だから、真紅のまま残すなんてのは常に新しい血で染めるか、血を風化しないように時を止めるかのどちらかしかないの。しかも、そんな物騒な物が、聖地バチカンにあるのよ」
「確かに疑問ね。で二つ目は?」
「楽譜の譜面がハチャメチャなこと。連弾用の曲ではないかって言う話はあるけど、絶対に違う」
「なんでそんなことがわかるのよ?」
「原曲を聞いた事があるのよ。それで、楽譜どうりに弾くなら時を操らなきゃなんないのよ」
「はぁ? 意味が分からないわ」
「数百年前、バチカン図書館はこっそりこの四大奇曲に関する資料を公開したのよ。その中には、楽譜を持ってきた女が弾いた時の原曲もあった。 それを聞けば分かる筈よ。聴いてみて」

私は再度、イヤホンを渡された。

「流すわよ」

イヤホンから流れた音は異様であった。確かに時が操られているようである。私の好きだった、あの曲と原曲は同じとは思えない。私の知っていた、あの曲は原曲の模倣ですらない、ちんけな子供の遊び程度だった。
原曲の美しさは格別だ。
緩急や、多彩な音色などなど、この曲を構成する一つ一つが妖艶で悪魔のような恐怖感を持つ。そして同時に王者を思わせる、力強さや美しさがある。繰り広げられる音の弾幕はに隙間が無いほど緻密だが、どの音も選びぬかれた洗練された音である。この曲には一音たりとも妥協がない。膨大な時をかけ、作られたのであろう。古今東西、いまの人類ではこんな曲、一生をかけても作曲できないだろう。


「ある司祭はこっそり動画も撮っていたそうよ。見てみて」
「どれどれ」

メイド服に身を包んだ少女がピアノをまさに弾こうとするところから、動画は始まった。
少女がピアノに触れると、妙な事が起きた。触れてない筈の鍵盤が押されたのだ。そして、その音は遅れて私の耳に入ってきた。
弾いている曲は、どの奇曲なんだろうか。

「これはどの曲を弾いているの?」
「ラクトガール〜少女密室ね」
「ラクト? Locked?」
「そうよ、鍵っ子ってことね」

あんな小さな部屋なのにどうしてこうも音が響いているのだろうか。
響いたと思ったら、密室で聴いているかのように耳の間近で音が聞こえる?
もしや空間まで操られているのか?
いまの時代のイヤホンは高性能故に、この響きや様々な微妙な変化まで聞くことができる。だからわかる、この曲も亡き王女の為のセプテットと同じように、異様な曲となっていることが。

「実は、もう一つ、奇たる理由があるの」
「なにかしら」
「 気づいたと思うけど音の響きよ。撮影された時代の機器は今ほど高性能じゃない、だからそんな細かな情報を記録出来ない筈なのよ。なのに今の音響設備ではそれを聞くことができる。有りもしない情報を読み取ってね」
「そうね、それは非常に不思議だわ」
「実は、もう一つあるのよ!」
「あんたねぇ、それなら最初から四つって言いなさいよ」
「まぁまぁ、落ち着いてメリーさん」
「で、なんなのよ」



「この動画の最後、明らかに演奏者は撮影に気づいて、カメラに向かって何かを話すのよ。今現在もそれは解読中らしいのよ。これが、最後の奇たるとこよ。そこで! これを解読して、我ら秘封倶楽部の実力を世界に広めようと思うのよ!とりあえず、見てみなさい! メリーなら案外、ちょろっと解読しそうね」
「まさかぁ」

そのまさかは起きた。
動画を早送りにした。ゆっくり曲は聞きたかったが、仕方ない。
最後の曲の最後の辺りで、動画を通常再生した。
弾き終わった少女は、椅子を下げ、カメラの方を向いた。
周りの者はまだ曲の余韻に浸り、目をつぶっている。だれも少女をみていない。
そのとき、少女の口は動き始めた。
カメラと少女の距離はそれなりにあり、あの程度の口の開きではほとんど音量は無い…筈である。
だが、聞こえる。私にははっきりと










「八雲紫、いつまで遊ぶつもりかしら? さっさと幻想郷を復活させて頂戴な」









メリーはその時、ハッと目が覚めた。己が何者で、今まで何をしようとしていたのか。全て思い出した。


「霊夢、起きなさい。幻想郷をつくるわよ」
「霊夢? メリー、あんた何を言ってるの? あっ!!、私は…あっあぁ」
「咲夜、弾き終わったら後ろを向いてさっき言った事を言いなさい
私のようにカリスマたっぷりで、言いなさいよ。なんなら不夜城レッドのフレーズを使ってもいいのよ」
「丁重にお断りしますわ」


スマホより投稿なので、お見苦しいとこも有ったでしょうが読んで頂きありがとうございます。
今回で三作目ですが、私を覚えて下さっている方がいれば嬉しいです。しらねーよって方は是非、駄作ですが過去作品もご覧ください。



柊屋
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コメント



0.270簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、そういうオチなんですね。大変面白かったです
書き手としてはこういう読んでいて飽きない作品を書く人はうらやましい限りです
次回作期待しています、これからも頑張ってください

4.100奇声を発する程度の能力削除
とても面白く引き込まれました
5.30名前が無い程度の能力削除
うーん…
6.90名前が無い程度の能力削除
曲にまつわる設定が良かったです。秘封っぽいです。