「んーっ、疲れた…」
理系女子大生宇佐見蓮子の夜は長い。今日もレポートに追われて端末と向き合う夜。
ただしメリーのアパートで。
「1時37分…そろそろ寝ようかしら」
端末と暖房の電源を落として窓を覗くと澄んだ夜空に浮かぶ星が見える。
都心の灯りの影響をあまり受けない北の空には多くの星がまたたいていた。今日は新月だから月の明かりもなく、満天の星空が広がる。
こぐまにおおぐま、ポラリスを挟んでカシオピヤ…
こんなに星がきれいだし、今度メリーを誘って天体観測にでも行こうかしら。
灯りを消して隣の寝室に行った。
2枚ぴったりと並べて敷かれた布団のうちの片方にだいぶ前に入っていったメリーはもう寝てしまっただろう。
窓際の床は冷たい外気のせいでよく冷えている。足に伝わる冷たさに飛び跳ねながら部屋の温度が下がってしまう前に布団に入ってしまおうと思い、自分の布団をさっとめくった。
「わっ!」
そこには私の布団に潜り込み枕を抱いてすうすうと寝息を立てるメリーの姿があった。まさかこっちの布団にいるとは思わなかったので驚いた。
「なんで私の布団で寝てるのよ…どいてちょうだい」
すうすう
声をかけてみたがすっかり寝てしまっていて起きる気配がない。
少し揺すってみる。起きる気配は全くない。人の布団で勝手に寝たまま起きないなんてメリーったら…
しかし、プランク並みの頭脳に直結している私の目は寝ている間はするはずがない唾を飲む動作を見逃さなかった。確かにごくん、と。
「…起きている…?」
恐らく私が困っている様子を寝たふりをしながら楽しんでいるのだろう。心なしかその表情は少し微笑んでいるようにも思える。
こうなるとこっちにも悪戯心が湧き上がってきた。困っているのを見て楽しまれるだけでは納得がいかない。ちょっと悪戯してやろう。
メリーの顔を見ると口が少し開いていた。ここは一つ指を入れてみよう。
決していやらしい意味ではなく、単に驚かしてやろうというだけである。ただそれだけである。
気付かれないように枕元に手をついて人差し指をそっと近づけていく。口の前まで来た。
星明かりに照らされたメリーの寝顔を見ていると胸がどきどきする。
こんなに安心しきって寝ているのに、こんなことしていいのだろうか。いや、単にちょっと悪戯してみるだけだ。焦るな、私。
唇に当たらないようにそろりそろりと指を入れてみた。が、すぐに指先が歯に触れた。
しまった、と思いすぐに指を引き抜こうとした。
「…はむっ」
「きゃっ!」
驚かされたのはこっちだった。狸寝入りと分かっていたとはいえ、どう見ても熟睡しているメリーが突然私の指に食いついたのだから。
物凄い勢いで吸い付かれている。あっという間に指全体が口の中に吸い込まれた。
さらに、布団の中から手が伸びてきて私の腕をしっかり掴んだ。
「んんっ…んちゅ…」
「ちょ…ちょっと!」
指が口の中で舐め回される感触がする。ぬるぬるした生暖かい柔らかいものが巻き付く。
腕を掴まれてしまってどうすることもできない。指に吸い付く音に混じってくぐもった声が聞こえてきていよいよ変な気分になってきてしまった。
しばらくすると、ようやく吸い付く力がすっとなくなり、ゆっくりと指を引き抜くことができた。
「もう…いきなり何するのよ」
「蓮子…私にそんなことしてほしかったの?そこまで蓮子が言うなら…」
仰向けからうつ伏せの体勢になったメリーはそう言って再び口を開いて舌を出して見せてきた。
窓から差し込む星明りの中に照らし出された口の中には透明の柱が何本も立ち、唾液に塗れた舌がぬらぬらと蠢いていた。その奥に見える喉が黒く、深く落ち込んでいて吸い込まれそうな気がしてぞっとした。
「そ、そうじゃなくて、なんで私の布団で寝てるのよ!」
「蓮子が布団に入ったときに寒くないようにと思って暖めてあげたのよ」
「あんたは豊臣秀吉か」
「ともかく暖まったから寝ましょう。ささ、入って入って」
「いやいやいや、なんで一緒に入るのよ。というかそれ私の布団…」
「まあいいじゃないの、たまには」
「ダーメ、二人も入ったら狭いでしょ!」
「ぶー、ケチ…」
そう言ってメリーは布団の中を泳いでもぞもぞと自分の布団に戻って行った。
かくして私は無事、今晩の寝床を獲得したのであった。
何かが体に触る感覚がして目が覚めた。
「…?」
布団に入ったままでも窓から星が見えた。2時12分、草木も眠る丑三つ時。床に就いてからまだ30分ほどしか経っていない。
布団の中で手を伸ばすと柔らかい棒のようなものに当たった。
その棒を辿って行くと枝分かれしているようだ。
さらにそのうちの1本を辿っていくと先端にたどり着き、その先にあったのは他でもない私の尻だった。
「!」
起き上がって布団をめくって見ると隣の布団から2本の腕だけが伸びて指先をむにむにと動かしていた。
「こらっ!」
思い切って隣の掛布団をめくってみた。
そこには自分の陣地と私の陣地の境界付近に体を横たえ、そこから腕だけを出して私の体に絡みつかせんとするメリーの姿があった。それも、相変わらずすうすうという寝息を立てたまま。
また狸寝入りか、と思ってじっとその口元をよく観察する。しかし今度はいつまで経っても寝息が途切れない。
その代わりにぶつぶつと何か言っている。
「ううん…逃がさない………いいでしょ蓮子………ここね…ここがいいのね?…うふふ…」
「な…!」
一体私はメリーの夢の中で何をされているんだろうか。寝言から察するに恐らくあんなことやこんなこと…いやまさかそんな。ダメ、そんなこと考えちゃダメ。
それはともかく、今度こそ本当に寝ているらしいので困った。寝ていると布団の境界は見えないのだろうか。まあそりゃ見えないわな…
手を引っ張って起こすのは忍びないし、かといってこのまま黙って見過ごせば私の陣地はどんどん奪われてしまうだろう。どうしたものか。
「…」
こうなれば最終手段だ。体を張ってその侵攻から我が陣地を守らなければならない。
背に腹は、いや、尻に腹は代えられない。
こうして私は邪悪な魔の手から領地を守るために自らの尻を黙って差し出した。
早速臀部に攻撃が加わる。もみもみもみもみ、と。
「…ん…ふふふ………気持ちいい?……」
急に尻に絡みついていたメリーの手が伸びて尻の割れ目に突き刺さり、そのまま同じようにまた先ほどと同じように手を動かし始めた。
「あっ…!あっ、そこは…」
陥落してしまう前に辛くも攻撃を躱した。時には勇気ある撤退も必要である。
これから一晩中続くであろうこの戦いのことを憂って、まだメリーの香りが残る自分の枕に顔を埋めた。
私の運命や如何に。
理系女子大生宇佐見蓮子の夜は長い。今日もレポートに追われて端末と向き合う夜。
ただしメリーのアパートで。
「1時37分…そろそろ寝ようかしら」
端末と暖房の電源を落として窓を覗くと澄んだ夜空に浮かぶ星が見える。
都心の灯りの影響をあまり受けない北の空には多くの星がまたたいていた。今日は新月だから月の明かりもなく、満天の星空が広がる。
こぐまにおおぐま、ポラリスを挟んでカシオピヤ…
こんなに星がきれいだし、今度メリーを誘って天体観測にでも行こうかしら。
灯りを消して隣の寝室に行った。
2枚ぴったりと並べて敷かれた布団のうちの片方にだいぶ前に入っていったメリーはもう寝てしまっただろう。
窓際の床は冷たい外気のせいでよく冷えている。足に伝わる冷たさに飛び跳ねながら部屋の温度が下がってしまう前に布団に入ってしまおうと思い、自分の布団をさっとめくった。
「わっ!」
そこには私の布団に潜り込み枕を抱いてすうすうと寝息を立てるメリーの姿があった。まさかこっちの布団にいるとは思わなかったので驚いた。
「なんで私の布団で寝てるのよ…どいてちょうだい」
すうすう
声をかけてみたがすっかり寝てしまっていて起きる気配がない。
少し揺すってみる。起きる気配は全くない。人の布団で勝手に寝たまま起きないなんてメリーったら…
しかし、プランク並みの頭脳に直結している私の目は寝ている間はするはずがない唾を飲む動作を見逃さなかった。確かにごくん、と。
「…起きている…?」
恐らく私が困っている様子を寝たふりをしながら楽しんでいるのだろう。心なしかその表情は少し微笑んでいるようにも思える。
こうなるとこっちにも悪戯心が湧き上がってきた。困っているのを見て楽しまれるだけでは納得がいかない。ちょっと悪戯してやろう。
メリーの顔を見ると口が少し開いていた。ここは一つ指を入れてみよう。
決していやらしい意味ではなく、単に驚かしてやろうというだけである。ただそれだけである。
気付かれないように枕元に手をついて人差し指をそっと近づけていく。口の前まで来た。
星明かりに照らされたメリーの寝顔を見ていると胸がどきどきする。
こんなに安心しきって寝ているのに、こんなことしていいのだろうか。いや、単にちょっと悪戯してみるだけだ。焦るな、私。
唇に当たらないようにそろりそろりと指を入れてみた。が、すぐに指先が歯に触れた。
しまった、と思いすぐに指を引き抜こうとした。
「…はむっ」
「きゃっ!」
驚かされたのはこっちだった。狸寝入りと分かっていたとはいえ、どう見ても熟睡しているメリーが突然私の指に食いついたのだから。
物凄い勢いで吸い付かれている。あっという間に指全体が口の中に吸い込まれた。
さらに、布団の中から手が伸びてきて私の腕をしっかり掴んだ。
「んんっ…んちゅ…」
「ちょ…ちょっと!」
指が口の中で舐め回される感触がする。ぬるぬるした生暖かい柔らかいものが巻き付く。
腕を掴まれてしまってどうすることもできない。指に吸い付く音に混じってくぐもった声が聞こえてきていよいよ変な気分になってきてしまった。
しばらくすると、ようやく吸い付く力がすっとなくなり、ゆっくりと指を引き抜くことができた。
「もう…いきなり何するのよ」
「蓮子…私にそんなことしてほしかったの?そこまで蓮子が言うなら…」
仰向けからうつ伏せの体勢になったメリーはそう言って再び口を開いて舌を出して見せてきた。
窓から差し込む星明りの中に照らし出された口の中には透明の柱が何本も立ち、唾液に塗れた舌がぬらぬらと蠢いていた。その奥に見える喉が黒く、深く落ち込んでいて吸い込まれそうな気がしてぞっとした。
「そ、そうじゃなくて、なんで私の布団で寝てるのよ!」
「蓮子が布団に入ったときに寒くないようにと思って暖めてあげたのよ」
「あんたは豊臣秀吉か」
「ともかく暖まったから寝ましょう。ささ、入って入って」
「いやいやいや、なんで一緒に入るのよ。というかそれ私の布団…」
「まあいいじゃないの、たまには」
「ダーメ、二人も入ったら狭いでしょ!」
「ぶー、ケチ…」
そう言ってメリーは布団の中を泳いでもぞもぞと自分の布団に戻って行った。
かくして私は無事、今晩の寝床を獲得したのであった。
何かが体に触る感覚がして目が覚めた。
「…?」
布団に入ったままでも窓から星が見えた。2時12分、草木も眠る丑三つ時。床に就いてからまだ30分ほどしか経っていない。
布団の中で手を伸ばすと柔らかい棒のようなものに当たった。
その棒を辿って行くと枝分かれしているようだ。
さらにそのうちの1本を辿っていくと先端にたどり着き、その先にあったのは他でもない私の尻だった。
「!」
起き上がって布団をめくって見ると隣の布団から2本の腕だけが伸びて指先をむにむにと動かしていた。
「こらっ!」
思い切って隣の掛布団をめくってみた。
そこには自分の陣地と私の陣地の境界付近に体を横たえ、そこから腕だけを出して私の体に絡みつかせんとするメリーの姿があった。それも、相変わらずすうすうという寝息を立てたまま。
また狸寝入りか、と思ってじっとその口元をよく観察する。しかし今度はいつまで経っても寝息が途切れない。
その代わりにぶつぶつと何か言っている。
「ううん…逃がさない………いいでしょ蓮子………ここね…ここがいいのね?…うふふ…」
「な…!」
一体私はメリーの夢の中で何をされているんだろうか。寝言から察するに恐らくあんなことやこんなこと…いやまさかそんな。ダメ、そんなこと考えちゃダメ。
それはともかく、今度こそ本当に寝ているらしいので困った。寝ていると布団の境界は見えないのだろうか。まあそりゃ見えないわな…
手を引っ張って起こすのは忍びないし、かといってこのまま黙って見過ごせば私の陣地はどんどん奪われてしまうだろう。どうしたものか。
「…」
こうなれば最終手段だ。体を張ってその侵攻から我が陣地を守らなければならない。
背に腹は、いや、尻に腹は代えられない。
こうして私は邪悪な魔の手から領地を守るために自らの尻を黙って差し出した。
早速臀部に攻撃が加わる。もみもみもみもみ、と。
「…ん…ふふふ………気持ちいい?……」
急に尻に絡みついていたメリーの手が伸びて尻の割れ目に突き刺さり、そのまま同じようにまた先ほどと同じように手を動かし始めた。
「あっ…!あっ、そこは…」
陥落してしまう前に辛くも攻撃を躱した。時には勇気ある撤退も必要である。
これから一晩中続くであろうこの戦いのことを憂って、まだメリーの香りが残る自分の枕に顔を埋めた。
私の運命や如何に。
この冷戦の勝敗の行方が気になりますね
夜遅くまで蓮子が来るまで待ってたメリーさんは
きっと良いお嫁さんになれる