Coolier - 新生・東方創想話

今宵、鍋を囲みましょう

2015/01/16 21:53:32
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「小傘ちゃん、お皿持ってきて」
「はーい」
 とたとたぱたぱた、かちゃかちゃ音を立てて、お皿を運ぶのは多々良小傘という妖怪である。
 その彼女からお皿を受け取って、『えらいえらい』とその頭をなでるのは東風谷早苗。
 彼女は片手にふきんを持って、ただいま、テーブルのお掃除中。
「よし、いい色」
「博麗の。あんた、料理なかなかやるね」
「まぁね」
 そこから間続きになるキッチンには、博麗霊夢と洩矢諏訪子が立って、料理を作っている。
 和食メイン(というか、ほぼそれしか作れない)の霊夢が作る煮物が、先ほどからいい匂いを立てて煮込まれている。
「そのなりの割りに、ずいぶん、酒がいける口ね」
「あなたから見ればちびちびでしょうけど、わたしだって、お酒は頑張れます」
 早苗が掃除するテーブルでは、すでに八坂神奈子と、霊夢が連れてきた少名針妙丸が酒盛りをしている。
 神奈子は片手にぐい飲みを、針妙丸はお猪口(彼女サイズの小さなもの)という具合だが、なかなかどうして盛り上がっているようだ。
「早苗ー、蔵の中から鍋持ってきて、鍋」
「あ、はーい」
「お手伝いする?」
「いいわ。小傘ちゃんはテーブルについていてね」
「はーい」
 諏訪子に言われて、またもやとたとた、早苗がその場を走っていく。
「何、このキッチンにゃ鍋もないの?」
「でっかい土鍋がないんだよ。普段は三人前しか作らないからね」
「人数増えたって、しょせん、一人とちょっとでしょ」
「あんたみたいな食べ盛りが何を言うか」
 菜ばし片手にびしっと差され、ひょいと霊夢は肩をすくめる。
「いいかい、博麗の。
 子供ってのは、いつだって食べ盛り。美味しくて栄養のあるものをおなか一杯食べないで、立派な大人になれると思うのか」
「あんたが言うと説得力あるわ」
「そうだろそうだろ~、わっはっは。
 ……って、何でやねん」
 びしっとノリツッコミする諏訪子に、霊夢は、『相変わらずノリのいい神様だ』という視線を向ける。
「諏訪子さま、持ってきました」
「そっちに置いておいて。
 ああ、ちゃんと洗ってよ。ほこりかぶってるでしょ」
「でっか」
「それ、早苗が、よくパーティーとかで使ってたやつだからね」
「鍋パーティーとか冬の定番ですよね」
 抱えるほど大きな土鍋を持ってキッチンに現れた早苗は、諏訪子に言われるまま、それを流しでさっと洗う。
 そうして踵を返して居間の方へ。
 それぞれの席に皿を配りながら、『神奈子さま、邪魔です』ともう一人の神様を邪険にしている。
「鍋のこつはだしだ。こいつが下手だとろくなものが出来ない」
「あ、それには同意」
「あんたは主にきのことか野菜とかの、いわゆる陸のものを使うでしょ?
 うちは違う。かつおぶしやらこんぶやら。
 使ったことある?」
「紫がたまに持ってくるわね。
 正直、使い方とかよくわからないんだけど」
「か~、もったいない! そりゃもったいない!
 あたしの作る、うまい海鮮鍋を食って、考え方を改めよ!」
 霊夢が見たことのない具材が、大皿の上にはたくさん載っている。
『たら』だの『えび』だの『かに』だの『ほたて』だの。
 まるで聞いたことのないもの達のラッシュは、『これ、ほんとに食べられるのか?』という見た目をしているものもある。
「あんたらでもしじみくらいは食べてそうな気がするんだけどね。
 あいつは汽水域に棲んでいるものだし」
「幻想郷には海がないから。
 海から上がってくる魚は、よく食べるよ。しゃけとかね」
「新巻鮭じゃないだろうね?」
「ダメなの?」
「だ~めだめ。あれは保存食。
 本当にうまいしゃけは時ってんだ。あいつはうまいよ。その分、値段が時価だけどね」
 妙に、最近の食事情に精通している神様である。
 それはともあれ、この諏訪子、料理の腕前は横から見てもかなりのものだ。
 食材を切る手際もさることながら、だしのとり方も見事。『ほい味見』と渡された小皿の上で、黄金に輝くだし汁の味は思わずうなってしまうほどだった。
「こいつを見栄えよく並べるところも、鍋道の一つ。
 鍋を『適当に具を放り込んで煮込むだけ』な料理とか言ってる奴を、あたしは許せないね!」
 何やら、鍋に対して深い見識とこだわりがあるらしい。
 居間の方で、早苗が『ぐさっ』とか言ってうめいているのは聞こえないようだ。
「鍋は見た目も大事なんだよ。
 ぱっと見て、彩り華やかに配置も軽やかに。そうじゃないと、食べたい、って気にならないでしょ?」
「うん。まぁ、確かに」
「お、よくわかってるね~。
 神奈子と早苗はその辺りがダメなんだよ。あいつらには料理に対する『愛情』ってもんが足りないね!」
 などと、同居人をけちょんけちょんに言ったりもする。
 早苗がよく『うちで一番、料理上手なのは諏訪子さまです』と言っているのだが、それはこういうこだわりから来ているのかもしれなかった。
「早苗~、コンロの用意は出来てる~?」
「は、は~い」
「よーし。
 そんじゃ、そろそろいいか」
 ぐつぐつことこと、鍋が煮込まれる。
 だしの色に染まった野菜に白滝たち。もうそれだけで美味しそう。
 それに加えて、魚や貝(という食べ物であるらしい)からもだしが出て、先ほどよりもずっと深みがあり、こくのある味わいへと変化しただし汁の香りは、今やこのキッチンと居間だけでなく建物全部に『幸せ』の匂いを振りまいていた。
「ほーい、出来たよー。諏訪子さま特製の海鮮鍋だ!」
「うわぁ、おいしそう!」
 早速、よだれをたらして、目を輝かせるのが小傘である。
 ちなみにこの彼女、何でこの場にいるのかといえば、たまたま、早苗が食材を買って帰ってくる時に出くわしたからである。
『おなかすいたでしょ? 晩御飯、食べにこない?』と声をかけたら、文字通り、おめめきらきら輝かせてついてきたのである。
 その時、早苗は内心で『この子には、知らない人についていかないよう、ちゃんと教えてあげないと』と思ったそうな。
「うわぁ、ぐつぐつ美味しそうです!」
「気をつけてね。
 あんた、落ちたら茹で上がるわよ」
「そこは大丈夫です。
 この少名針妙丸、そこまで食い意地の張ったダメな子じゃありません!」
 何やらえっへん胸を張る針妙丸であるが、神奈子に付き合って酒を飲んでいたためか、すでにほっぺたが真っ赤である。
 対して神奈子の方は全く顔色が変わっていない。この辺り、さすがは神様というところか。
「で、これが博麗のが作った煮物にてんぷら」
「さすがは霊夢さんですね」
「こっちも美味しそう」
「あとは若いの向けに焼き鳥をどーんと」
 メインディッシュの鍋担当が諏訪子、それ以外を霊夢、という具合で、今宵の食卓は作られたようである。
 全員、卓を囲んで、それぞれに飲み物と箸が行き渡ったところで『いただきます』と相成った。

 そも、今宵の鍋パーティーの発端は誰なのか、というと。
 やはりこれは早苗の提案であった。
「はい、小傘ちゃん。お鍋」
「わーい、ありがとう!」
「針妙丸ちゃんは……これくらい?」
「はい! これくらいあれば充分です!」
「小さいって便利ね……」
 今朝方、里で買い物をしていた早苗は霊夢に出くわし、『そうだ。霊夢さん、今日、うちでお鍋しませんか?』と声をかけたのが始まりである。
「ふむ。これはなかなか」
「でしょう?
 うちのお母さん直伝の煮物の味は、神様だってうなるのよ」
「ちょい砂糖が足りないやね」
「何だと、このちび神! だったら、このにんじん食べてみなさいよ!」
「甘い、甘いねぇ。
 人間はどんだけ長生きしても100年やそこら。
 対するあたし達は何千年何万年だよ? 料理人として、積み上げてきたスキルが違う」
「言ったな、この」
 何やら両者の間で激しい火花が散っている。
 ふっふっふ、と不敵に笑うチャンピオン諏訪子が挑戦者霊夢を受け止める形になっているようだ。
「このお鍋、美味しい!」
「そうでしょう?」
「これ、美味しいです! 何ですか? これ」
「それはね、えび、という食べ物なの」
「えび……。
 川えび、というのを知ってます」
「神奈子さま、川えびって食べられるんですか?」
「まぁ、同じえびだしね。
 食べ応えは違うかもしれないでしょうけど」
 針妙丸も驚くサイズ(彼女比では、である)のえびは、なかなか受けがいい。
 小傘は喜んでそれを食べ、しっぽまでぺろりと平らげてしまっている。
「そら、これがあたしがひそかに作っていた煮物だ! どうだ!」
「うっ……ぐ……! こ、これは確かに……!」
「博麗の。あんたのは砂糖が足りないよ、砂糖が。味にこくがない。まろやかさにかける。
 それと、それをごまかすために、日本酒を少し多めに入れただろう。酒の風味がえぐみになってるよ。
 もっと精進することだね! わっはっは!」
「く~! 悔しい! 次は負けないんだから!」
「……何をやっているのやら」
 ふぅ、と肩をすくめる神奈子は『大丈夫、霊夢。美味しいから』とフォローを入れている。
 霊夢はほっぺた膨らましつつも、諏訪子が出してきた『大根とにんじんの煮物』の味は認めるようだ。
 大根とにんじんは、煮物の基本。これの甘みを絶妙に生かしつつ、いかにしょうゆと酒と砂糖で味を加えるか。
 ここにだしの取り方と絶妙なまでの煮込み時間が効いてくる。
 一朝一夕で作れるように見えて、実は深い料理なのである。
「お姉ちゃん、これ何?」
「これはね、ほたてよ」
「ほたて……天狗の?」
「……それは『はたて』さんね」
 どこかの寒空の下、同僚の天狗と一緒に赤提灯でおでんをつついていたその該当人物が、盛大にくしゃみをしたのはそのときである。
「美味しい」
「こういう貝は、幻想郷じゃ手に入りませんよね」
「幻想郷は山の幸が豊富だけれど、海の幸は確かに。
 魚や貝が、長く住んでいると恋しくなる」
「これも美味しいです……けど……めんどくさい……あいたたた!」
「ああ、大丈夫?」
 かにのはさみと格闘していた針妙丸が、手を滑らせてはさみに挟まれてしまった。
 それを慌てて早苗が外し、『ちょっと待っていてね』とはさみの中からかにの身を取り出している。
 まるで保母さんのごときそれに、『早苗は将来、うちの神社を継がなければ、保育の仕事とかがあっていたかもしれない』と神奈子は思っていた。
「しかし、てんぷらの揚げ方は見事だ。これは認めよう」
「あんたらのところは油の使い方がダメなのよ。もっとかりっと、さくっと!」
「お、よく言うね~。こっちが負けを認めたと見るや」
「当然じゃない。
 あ、諏訪子! あんた、てんぷらにしょうゆなんて使って! 衣がしなびるじゃない! お塩使いなさいよ、お塩!」
「あ、でも、霊夢さん。わたしもてんぷらはおしょうゆが……」
「何言ってるのよ、早苗! てんぷらはお塩に決まってるじゃない! ほら!」
 こちらはこちらで、また厄介なこだわりを持っているようだ。
 霊夢が『わざわざ岩塩から作った塩よ!』と突き出すそれに、早苗は微妙な笑顔を浮かべ、隣の小傘が『いただきまーす!』と笑顔でてんぷらをひょいぱく口に放り込む。
「――!」
 すると、顔を笑顔に輝かせ、もぐもぐごっくんした後に、『これも美味しい!』とおめめきらきら。
 育ち盛りの子供にとって、美味しいご飯は、何であろうと何でも美味しいのだ。
「やっぱり、お酒には焼き鳥です」
「わかっているわね」
「だけど、わたしは、これくらいのが一つあれば充分です」
 串に刺さった焼き鳥をばらし、その中の一つを抱えて食べている針妙丸を見て、神奈子もまた、『……小さいって便利ね』とつぶやいた。
 小人というのは実に省エネかつ効率的な生き物である。
「この焼き鳥は、霊夢さんがしめたんですか?」
「そこまでは。
 里で買った奴を焼いただけよ」
「だけど、炭火で焼くのは正しいね。コンロの火で焼いたんじゃ、焼くじゃなくて『あぶる』だし。あれ」
 なぜかねぎまの『ねぎ』だけかじる諏訪子。
 聞けば『ねぎまはねぎと鶏を別に食べるからいいんだ』という、何だかよくわからないセリフを聞かされる。
「へへ~。いただきまーす」
 最初に早苗によそってもらった分を全部食べ終えた小傘が、自分で山盛り持った鍋をもぐもぐ。
 自分の好きな具ばかり入ったそれは、彼女にとって、至福の食べ物のようだ。
 もちろん、横から早苗がちくりと、『小傘ちゃん、にんじんも食べないとダメよ』と一言を言うのを忘れないのだが。
「焼き鳥もいいけどから揚げもいいやね~。飲み屋の定番っていうか」
「から揚げも、揚げ方が下手だとちょっとね。
 油でべたつくっていうか」
「あ、この前、それに当たったな~。高い金出したってのに」
「ああ、それ、最近、里に出来た金持ち向けの飲み屋でしょ?
 あれ、行ったらダメよ。ぼったくりだから。
 それをわかっている連中が『雰囲気』のためだけに使う店」
「ああ、やっぱり? 飯はまずいのにやけに高くて変だと思ったよ。隣の、粋な親父のやってる店で口直しできたから許すけどね」
「オヤジさんも、『ああいう店は必要だけど、知らない奴にとっちゃ迷惑だよなぁ』って言ってたわね」
 先ほどまでケンカしていたかと思えば、何やら意気投合して話し込んでいたりする。
 霊夢と諏訪子の関係というのは実に微妙なものだ。
 仲がいいのか悪いのか。
 それを横から見て、微笑ましいものを見る目をしている早苗には、さてどちらに映っていることか。
「しかし、霊夢と諏訪子がキッチンに立つと言って、まともなものが出てくるか、不安で仕方なかったけれど。
 存外、まともな食事になったものね」
「神奈子さまはまたそういうことを。
 霊夢さん、お料理上手ですよ」
「そのようね。いいことです」
「お母様に仕込まれたんでしたっけ?」
「ああ、うん。そう。
 あと紫。
 これがまたうるさいんだ。『料理の一つも出来なくて嫁にいけると思うのか』って」
「正しい、子供の育て方。今時の母親というのは、そういうしつけも出来ないのが多い。嘆かわしいことです」
 神奈子の言葉に、早苗がちょっぴり顔を引きつらせる。
 最近、ようやくホットケーキを焦がさず焼き上げることが出来る程度の料理の腕前の彼女にとって、その一言は耳に痛い言葉だったようだ。
「このスープも美味しいですね」
「ほんと。これ美味しいよね」
 それとは全く関係なく、おなか一杯、美味しい食事を楽しむ小傘と針妙丸。
 食事が減っていくスピードは、両者全く違うが、体のサイズで比較するとそう変わりない量を食べているようだ。
「食べ終わったら、何か果物むこうか」
「この前、農家さんからいちごを頂きましたよね」
「冬のこの時期しか、昔は食べられなかったんだけどね」
 いちご程度なら、彼女でも何とかなるのか、『あとでわたしが用意しますね』と早苗が言う。
 いちご程度ならば別に何事もないだろうと思っているのか、霊夢も神奈子も諏訪子も、『それじゃよろしく』としか言わなかった。
 その後、無事、『いちご程度なら』まともに、早苗も用意できるという事実が示されることとなる。
「鍋の締めは雑炊よね」
「いるのよね~、そういうの」
「何よ」
「いい? 博麗の。
 鍋のあとは雑炊。それは確かに正しい。
 だけどね、何でもかんでも雑炊がいいってわけじゃないの。
 うどんだっていい、ラーメンだっていい。その時その時の鍋にあわせた、最高の締めが必要なのよ」
「だけど、こんなにいいだしの出ている鍋なら、やっぱり雑炊じゃない?」
「ちっちっち。
 甘い。甘いねぇ。
 今回の締めはラーメンさ。そうだろ? 早苗」
「え? あ、いえ、わたしは別に美味しければ……」
「あー、もー。これだよ、神奈子。
 今の聞いた?
 この、諏訪子ちゃん特製海鮮鍋の後に雑炊だって。ありえない! しつけがなってない!」
「わかったわかった」
「当然、ラーメンも自分で作る! かん水の入手がめんどくさかったけど、紅魔館に行ったら分けてもらえたよ。
 何でもあるね、あそこは」
「まぁ、紅魔館だし……。
 っていうか、『らーめん』って何?」
「あれ? 霊夢さん、ラーメン、食べたことないんですか?」
「ない。名前からして、麺類?」
「ええ、そうです。
 美味しいですよ。お手軽な料理でもありますし。
 だけど、こりだすと、これがまた奥の深い料理でもありまして。何せ、麺を作るための小麦を作るための畑を作るための土作りから始めないといけないほどですから」
「へぇ~。何かすごいね」
『らーめんだって』『何でしょうね、それ』と話を横で聞いている小傘と針妙丸が『早くそれを食べてみたい』という顔をしている。
 しかし、鍋の具はまだまだ残っている。まずはそれを全部平らげてから、というのが諏訪子の言葉だった。
「これ、食べる!」
「じゃあ、わたしはこれ!」
「はいはい、二人とも。今、取ってあげるからね」
「早苗は子供の相手が大変よね」
「んじゃ、あんたがやってやればいいんじゃない?」
「確かに。そう言うのなら、まずは自分が率先すること」
「ぐっ……」
 小さい子供からよく好かれる早苗と、あんまり好かれない霊夢。
 別段、霊夢が子供に冷たいというわけではないのだが、やはり面倒見のよさは早苗に軍配が上がる。
 子供とは、そういうところを、しっかりと見ている生き物なのである。


「お鍋美味しかった~」
「美味しかったです~」
「いちごも美味しかった!」
「はい!」
 ご飯を食べ終わって、思い思いにくつろぐ時間。
 おなかが一杯になって幸せ~な二人と、『お風呂の用意してこないと』とやおら忙しくなる早苗。
「そういえば、博麗の。
 あんた、将棋は得意かい?」
「まぁ、そこそこにはね。
 紫に仕込まれた腕前はなかなかのもんよ?」
「お、いいね。自信満々じゃないか。
 よしよし。あたしと一局指そう」
 どこから取り出したのか、将棋盤を取り出す諏訪子。それの対面で姿勢を正す霊夢。
 双方共に、それなりに酒も入っているのだが、それが勝負に影響するほどは飲んではいないようだ。
「ハンデつける? 金銀飛車角抜き、くらいまでならやってあげてもいいよ」
「いらないわよ。そんなの。
 っていうか、そこまでやられたら勝ち確定じゃない」
「そうでもないんだな~。
 あたしは将棋は強いよ~」
「へぇ。言うじゃない」
 駒を振って、出た目は表。諏訪子が先行だ。
「そうだよ。あたしは強いよ。
 悪いが、神奈子も相手にゃならないね」
「確かに、私も諏訪子には将棋で勝てない」
 存外珍しく、神奈子がそれに同意した。
 彼女はぐい飲みではなくお猪口を傾けながら、二人の勝負を横目で見ている。
「ボードゲームのすわちゃんとはあたしのことさ」
「それなら、ほえ面かかせてやるわ」
「お、言ったね?」
 両者、まずは歩を動かしながら様子見中。
 数手、指したところで霊夢が眉間にしわを寄せた。
「今のところ、幻想郷に来ても、ほとんど負けたことはないね。
 椛とか言ったか。ありゃダメだ、かもだ。弱すぎるね。
 対して、文とかはそれなりに強いんだよ。普段から、そういう思考が出来てるのかもしれないけど」
「ああ、確かに、文は意外に強かったわね。魔理沙をこてんぱんにしてたわ」
「魔理沙なんて雑魚じゃん」
「そう言わないでやんなよ。あれで真面目なんだから」
 ま、私にも勝てないんだけどね、と霊夢はにんまり笑うのを忘れない。
「将棋ってのは知的遊戯なんだから。賢くなきゃ勝てないんだよ」
「それは違うと思うな~。
 将棋ってのは戦略眼。あとは勘の勝負よ」
「へぇ。だから強いんだ? その付け焼刃で、あたしに勝てるかな?」
「長く生きてりゃ賢いってんなら、でっかい大木が最強だよ」
 互いに憎まれ口を叩きながら駒を進めていく。
 なかなか拮抗している勝負のようだが、神奈子がちらと見る限り、諏訪子の方が、若干、腕前は上のようである。
「神奈子さま、お風呂が沸きました」
「あの二人はご覧の通りだから。早苗、先に入ってきなさい」
「はい。
 小傘ちゃん、それから、針妙丸ちゃん。お風呂、入りましょう」
「はーい!」
「はい!」
 すぐさま立ち上がり、二人はぱたぱた、早苗と一緒に居間を去っていく。
「けどさー、あれだ。あれ。秋姉妹の姉。あいつは強い。強すぎるってくらい強い。
 厄神もかなり強いんだけど、あたしにゃ及ばない。
 けど、あいつはダメ。強すぎ」
「何かさっき言ってたことと矛盾してんじゃないの?」
「そういうあんたこそ。あれに勘のよさとかあると思う?」
「う~ん……」
「結局、一度も勝てなかったね。
 やればやるほど早く負けるようになっていって、この諏訪子さまが50手くらいで負けたよ」
「あんた、実は弱いんじゃないの?」
「ちなみに椛やらは20手だとさ」
「それ、どうやったら負けるのよ」
「さあ」
「神奈子も負けたよね」
「負けた。一度も勝てなかった」
「へぇ……」
 意外なことも、神様の世界にもあるものだ、と無意味に納得する霊夢。
「ほい、王手」
「……あっと。そうね。なるほど」
「ほれ、どうだ。どう返す?」
「ん~……なら、こうか」
「ほほう。なるほど」
 両者の勝負は、それなりに長く続きそうである。
 神奈子は一度、席を立つと、キッチンへと歩いていったのだった。

「お風呂、気持ちいい~」
「あったかいです~」
「……」
 湯船の中で、ちゃぷちゃぷ、お湯が揺れる。
 早苗は寄りかかってくる小傘を受け止めながら、おわんに入って漂う針妙丸を眺めて頬に汗一筋。
「このお風呂、気持ちいいね」
「あ、う、うん。そうね。
 このお風呂、以前はもっと小さかったのだけど、神奈子さまが大きくしたの」
「そうなんだ」
「そうなの。
 温泉も引いたのよ」
「通りで、何か硫黄っぽい匂いがすると思いました」
「……お湯に浸かってないわよね?」
 色々、不思議なことはあるのだが、早苗は彼女に何かを聞くのはやめたらしい。
「小傘ちゃんは、普段、お風呂とかどうしてるの?」
「んっと……近くの温泉に入ったり、命蓮寺に行ったりしてる」
「ああ、そうね。あそこなら、確かに」
 来るもの拒まずの上、主の博愛主義から考えれば、小傘のような妖怪をほいと簡単に泊めてくれそうな場所――それが、今、話題に出た妖怪寺である。
「今日はご飯も美味しかったし、お風呂もあったかいし。幸せ!」
「そう。よかったわね」
「お招きしてくれてありがとうございます」
「かしこまらなくてもいいのよ」
 よいしょとお湯から上がり、「小傘ちゃん、おいで」と早苗。
 彼女の体や髪の毛を洗ってやりながら、「あとは寝るだけね」と早苗は笑いかける。
「次、わたし!」
「ありがとう」
 タオルを持って、早苗の背中を流す小傘。
 自分がやってもらったことを相手に返してあげると、何だかうれしくなるお年頃である。
「針妙丸ちゃんも」
「はい」
「えっと……どうしたらいいの?」
「泡をください」
「……なるほど」
 彼女の体のサイズから考えるに、人間の体を少し流せる程度の泡があれば、確かに充分である。
 誠、小さいって便利だね。
「お姉ちゃん、お肌すべすべ~」
「うん。努力してるから」
「努力ですか?」
「そう。努力。
 人間、若くてきれいでいられる間なんて、本当に一瞬だけだから。
 年を取ってからじゃ遅いのよ!」
 ぐっ、と握りこぶし作る早苗。
 その意味がよくわからないのか、針妙丸は首を傾げると、「早苗さんはきれいですよ?」と嬉しい一言を言ってくれる。
「ありがとう。
 でも、そのきれいでいられる時間を、可能な限り長くするために、人間は努力を惜しまないの!」
 ――ということであった。
『人間ってよくわからない』と針妙丸が内心でつぶやいたのは言うまでもない。
「小傘ちゃんも、また遊びに来てね」
「うん」
「うちは、部屋が余っているから。
 誰だって、いつだって、大歓迎よ」
 体を洗い終わって、また湯船でのんびりあったまる。
 相変わらず、針妙丸はおわんに乗って浮かんでいるだけなのだが、本人が満足しているのだからそれでいいのだろう。多分。
「うん」
「それに、ほら。雨の降った日とか、小傘ちゃんがいてくれると助かるから」
「うん!」
 元が『傘』である少女は目を輝かせ、大きく、力強く、首を縦に振る。
 そうして、『任せておいて!』と彼女は胸を叩いた。
 その、見た目と身長と雰囲気にそぐわない胸部が大きく揺れる。
「……幻想郷のロリ巨乳、恐るべし」
 その光景に少しだけ、早苗は危機感を抱いたという。

「あったまりました。
 霊夢さん達の勝負は……」
「まだ」
「そうですか。
 じゃあ、小傘ちゃん、針妙丸ちゃん。お部屋に行こうか」
 居間では相変わらず、両者の勝負が白熱している。
 神奈子は酒に加えて、用意したのかつまみをかじっている。
 小傘と少名針妙丸は、『おやすみなさい』と彼女に頭を下げて、早苗と一緒にその場を後にした。
 少しして、
「あーちくしょー」
「よーし、あたしの勝ちー、っと。
 いやいや、しかし、なかなかやるじゃん。もっと精進すりゃ、もっと強くなるよ~っと」
 勝負は諏訪子の勝ちで終わったようだった。
 ひょいと立ち上がった彼女は、『そんなら、勝者の権利として、先にお湯を頂かせてもらおう』と悠々と歩いていく。
 霊夢は盤を片付けながら、『絶対に次こそは』と呻いていた。彼女、それなりに負けず嫌いだったようだ。
「諏訪子はすぐに上がってくるから、風呂に入る用意をしておくといい」
「わかってるわよ。
 次は負けないんだから。あそこで角を動かしたのが悪かった。あそこは飛車よ、絶対」
 やれやれと神奈子が肩をすくめていると、まさにカラスの行水、諏訪子が『上がったよ~』と戻ってくる。
 霊夢が入れ替わりに風呂場に向かい、諏訪子は『そんじゃね』とどこかへ歩いていってしまった。
 酒が飲み足りなくて、外に飲みに行くのか、それとも意外にあっさり床につくのかは不明だが。
 残った神奈子は一人、時計を見上げる。
 時計の針が9の文字を示している。
 寄りかかっていた壁から、彼女が身を離すと、
「夜分、遅くに申し訳ございません」
 部屋の隅から声がした。
 振り返ると、そこに、女が一人、立っている。片手には一升瓶、それから何かの袋を提げていた。
「遅かったな」
「今日は少しばかり、外が寒かったもので。ついつい出不精に」
「それは困る。
 せっかく用意した食事は、皆、食べてしまった」
「だろうと思って、つまみとお酒を、別に用意してきました。
 まだお時間とおなかに余裕はございますでしょう?」
「もちろん」
 彼女――八雲紫は、『それでは』と卓に着く。
 用意される酒とつまみは、量も質もそれなりのもの。
 さてはこれを作っていて遅くなったな、という神奈子の問いかけに、相手はさあと話をはぐらかすばかりだ。
「あら、将棋盤」
「さっき、諏訪子と霊夢が勝負をしていた。勝負は、霊夢の、三手ばかり下がった勝負だったが」
「それは残念。私の仕込が足りなかったのかと」
「諏訪子は強いぞ」
「うふふ。それは結構。
 でしたら、彼女が戻ってきたら、次は私が一局指しましょう。我が子のあだ討ち、ということで」
「霊夢がふてくされるのではないか?」
「いつもそうですから」
 なるほど、と神奈子はうなずき、お猪口を傾ける。
 そうして、「さて、いいぐい飲みを持ってこよう」と立ち上がったのだった。


「……行く、来る、行く。あそこで金……いや、銀だ。銀の方がよかった。で、あいつの王を後ろに下がらせて、桂馬を指して……」
 結局、風呂に入っている間、そして、とたとたと廊下を歩く間、ずっと先の諏訪子との勝負を反芻している霊夢である。
 冷静になって考えてみると、自分の手の未熟さが見えてくる。これも、岡目八目というやつなのかもしれない。
 そして、そのせいか、紫がやってきていることには気づいてないようだった。
 とたとたと、二階に続く階段を上がっていく。
 そうして、
「霊夢さん。しーっ」
「はいはい」
 彼女の寝床は早苗の部屋の、床に敷いた布団の上である。
 部屋の中は真っ暗で、ベッドの上では小傘がすやすやと寝息を立てている。視線をめぐらせると、壁に向いた机の上に、針妙丸が、彼女サイズの布団にくるまって、やっぱりすやすや寝入っていた。
「さっき、寝付いたところなんです」
「なるほどね」
 早苗は起き上がると、霊夢の元へやってくる。
 彼女は部屋の隅にかけてあるハンガーから『どうぞ』と霊夢にどてらを渡した。
「こんなの持ってるなんて意外」
「あったかいですから。
 それに、霊夢さん。部屋の中でまでおしゃれをしているのはアニメかドラマだけですよ」
 つまるところ、自室では、この彼女も自堕落な生活をしていることもあるようだ。
 二人はそろって、部屋を後にする。
 早苗は『こっちこっち』と歩いていき、廊下の一角、外に面した窓の前で足を止めた。
 それを引いて開けると、外からきんと冷えた冷気が入ってくる。
「う~、さむ。山の上はやっぱ寒いわ」
「そうですね。
 麓と比較すると、ここはかなり寒いです」
 息を吐くと、それが白く残って消える。
 窓から少し身を乗り出して空を見上げれば、そこには見事な天の川。
「やっぱり、田舎は空がきれいですよね。
 外の世界に暮らしていた頃は、こんなにきれいな星空、見られませんでしたよ」
「幻想郷は、何のかんの言ったって、田舎だよねぇ」
「全くです。
 おかげで雪かきも大変で」
 足下を見れば、雪がどっさりと降り積もっている。
 今年の幻想郷は、豪雪とまではいかないものの、雪が多い。
 毎日、雪かきをしている霊夢も、その苦労は理解しているようだ。
「今日は楽しかったわ」
「はい」
「誘ってくれてありがとね」
「霊夢さん、栄養つけないとダメですよ。冬は寒いんだから、風邪を引いちゃいます」
「わかってるわかってる。
 毎年、この季節になると、頻繁に風邪を引く友人がいますから」
「それって誰ですか?」
「魔理沙」
「嘘」
「ほんと。
 しょっちゅう、熱を出して、アリスにおんぶされて永遠亭に行ってる」
「そうなんですね」
「何でだろ?」
「栄養ついてないんじゃないですか?」
 その『魔理沙』なる人物は小柄である。
 年齢不相応とも言えるくらいに、彼女は小柄だ。だから、栄養が足りてないんじゃないか、と早苗は言う。
「確かに、お金がなくなって、アリスにご飯食べさせてもらうことも多いらしいし」
「霊夢さんみたいですね」
「……いやまぁ、それは否定しないけど」
「だったら、お客さんの呼び込みしましょうよ」
「してるよ。
 してるけどこない」
「……はあ」
「……何が悪いのやら」
 日ごろの行いとか、といいかけて、早苗はその言葉を飲み込んだ。
 霊夢は、割と真剣に悩んでいるようである。
 だから、変な儲け話に乗ったり、みょうちきりんな祭りを持ち出して大失敗するのだとも気づかずに。
「まあ、だけど、早苗に頼ればご飯の心配はないしさ」
「それはそれでいいんですけど……」
 頼られて悪い気はしないのだが、それはそれでいいのかとも思ってしまう。
 あんまり霊夢を甘やかすと、その後見人ににらまれるからだ。
「今日も、あとは寝るだけだしね」
「そうですね」
「私は床だけど」
「自分で『それでいい』って言ったくせに?」
「いや、それは……」
「小傘ちゃんがうらやましかったり?」
「そっ、そんなこと、ないわよ!」
 顔を真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向いたりする。図星である。
 くすくすと笑いながら、早苗は、「あんな小さい子に嫉妬ですか」と霊夢をいじってみる。
 すると霊夢は予想通り、「そんなわけ、あるはずないじゃない」とますますふてくされる。
「床の上でも、うちはあったかいですから」
「む~……」
 ほっぺた膨らませたままの霊夢の頬に手をかけて、早苗は彼女を自分のほうに振り向かせる。
 何よ、と膨れる霊夢に、にっこり笑いかけて、
「そういえば、霊夢さん。
 最近、わたしにちゅってしてくれないですよね?」
「はい!?」
「しーっ」
 思わず大声を出してしまって、注意される。
 早苗の笑顔はにやにや笑い。
「ほっぺたでいいですから」
 とんとん、と自分の頬を指先で叩く早苗。
 霊夢は顔を真っ赤に染めて『い、いや、あの、でも……』と何やらわたわたし始める。
 こういう態度をするから、いつでも早苗に手玉に取られるのだ。
 ――それを霊夢自身、理解しているのだが、なかなかひっくり返せない。彼女の恋愛経験値は、何せ小学生並である。
「出来ないんですか? ざ~んね~ん」
「い、いいわよ! わかったわ!」
 ここで、彼女は啖呵を切った。挑発に乗ってしまった、とも言うのだが。
 霊夢は早苗よりも背が低い。
 その必要もないのに、背伸びをして、精一杯、頑張って、早苗のほっぺたに唇をつける。
「こ、これでいいわよね!」
 彼女の顔は、もうまっかっか。頭から湯気が上っている。
 早苗は笑いながら、『そうですね』とうなずいた。
「じゃあ、わたしからのお返しで」
 霊夢の前髪をさっと上げて、そのおでこにちゅっと一つ。
 早苗の、あまりにも自然なそれに、霊夢の顔は爆発寸前。茹蛸もひとしおだ。
「さあ、そろそろ寝ましょうか」
 霊夢はもはや声もない。
 笑いかけてくる早苗を振り切って、どたどた廊下を走って、部屋の中に飛び込んで。そのまま布団の中に、頭までもぐりこんで狸寝入りである。
「もう」
 その彼女の背中を見送って、のんびりゆったり、部屋へと戻ってきた早苗は、盛り上がった床の上の布団を見て肩をすくめて笑った後、着ていた上着をハンガーに引っ掛ける。
 ベッドの上に戻って、小傘を落とさないように気をつけながら、布団の中へ。
「それじゃ、おやすみなさーい」
 もちろん、その声に、返事はなかった。

 翌朝、早苗はベッドの上に目を覚ます。
 窓から入り込んでくる朝日は、カーテンの裏側からでも燦々と差し込んでくる。
「……ん?」
 窮屈だ。
 感じた最初のそれは、そんな不思議な感覚だった。
 このベッド、そんなに狭いものだっただろうか。確かに、小傘が入り込んでいるから、彼女の分だけ狭くはなっているのだが。
 ――そう思って視線をめぐらせて、『なるほど』と理解する。
「さてどうしようかな」
 ベッドの上で、早苗は小傘を壁側に置いて眠っていた。もちろん、彼女を落とさないためだ。
 そして、今。
 その背中に、もう一つ、くっついている人物がいる。
 ――霊夢である。
「羨ましいならそういえばいいのに」
 大方、夜中、早苗に抱っこされて寝ている小傘を見て羨ましくなったのだろう。
 それで、彼女の許可も得ないでもぐりこんできたのだ。
 さて困った、と早苗は姿勢を変えて上を見る。
 とりあえず、二人をぎゅっと抱きしめた後、「さて、どっちから先に起こそうかな」と笑う早苗であった。


「昨晩はご迷惑をおかけしました」
「いや、そもそも、こちらから先に声をかけたのだから。気にしなくていい」
 朝のキッチンには紫と神奈子が立っている。
 ご飯はすでに炊け、鍋の中では味噌汁がくつくつといい音を立てている。
 朝ごはんの定番の焼き魚はすでに準備済み。今は、それにさらにつける小鉢を作っているところだ。
「今度は、ぜひ、うちの方へいらしてくださいな。
 本日のお礼を致します」
「是非とも。
 博麗神社の居間というのも居心地のいい」
「そうでしょう? もっとも、あそこはここみたいに立派な暖房はありませんから。
 少し、足下が冷えますけれど」
「こたつがあれば大丈夫」
「まあ」
 そうこうしていると、朝ごはんが出来上がる。
 紫は料理を卓へと並べ、神奈子はその場を後にする。
 そして、
「こら待て、諏訪子! この、よけるな!」
「わははは! そんなへろへろな雪球が当たるか~!」
「待てー!」
 神社の境内の雪かきをしている一同は、やっぱりというか何と言うか、雪合戦を行っていた。
 真面目に雪かきをしているのは早苗だけ。霊夢は諏訪子を追いかけ回し、小傘は針妙丸と一緒に雪だるまを作っている。
 幸いなのは、雪かきが、ほとんど終わっているということだろうか。
「朝ごはんです。さっさと入ってきなさい」
 神奈子は一同にそう言って、踵を返す。
 後ろから、「よーし、飯だ飯だー」という声が響き、「霊夢さん、もうその辺で」「待って、早苗! 今なら、あの後頭部に一発食らわせられる!」という掛け合いが響いている。
「やっぱりというか何と言うか。困ったものだ」
「予想通りです」
 テーブルの上には料理が並び、暖かな湯気を立てている。
 外の様子を当然、予想済みだった二人の顔に、『やれやれ』という顔と笑顔が浮かんだのは、その時だった。
特に盛り上がりのない日常を描いたらこうなった。
鍋はうまい。
haruka
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コメント



0.1050簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
今回初めて気づいたけど、レイサナじゃなくてさなれいむなんやな…
早苗の方がお姉さんだからか
2.80奇声を発する程度の能力削除
良かったです
5.100名前が無い程度の能力削除
田舎に遊びに帰ったような雰囲気で楽しめました。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
鍋、煮物、天ぷら……ああ、どれもいいなあ。おなか空いてきた。
9.100絶望を司る程度の能力削除
小傘めちゃくちゃ可愛い……。
とても暖かい雰囲気でよかったです。
11.100名前が無い程度の能力削除
なんという飯テロ!
だけどこういうのは大勢で食べるからこそ、さらに美味しく感じるんですよねぇ
霊夢や早苗も含め、どの登場人物も素敵でした
14.無評価名前が無い程度の能力削除
ほんわかあったまるいい話でした。針妙丸ちゃん可愛い
15.無評価名前が無い程度の能力削除
ほんわかあったまるいい話でした。針妙丸ちゃん可愛い
17.100名前が無い程度の能力削除
良かったです