新年を迎え、元日。
私の家にて年越しの瞬間を迎え、その後、午前3時過ぎまで秘封倶楽部の活動方針などについて話し合った。
いつの間にか寝てしまっていたらしい私は何かの物音で目を覚ました。
「ん、ひょっとしてお目覚めかしら」
「あぁ、おはよう、メリー。何してるの?」
「いや、ちょっとね」
言いながら、私からは見えないところでガサゴソと何かをし続けている。
「それより、明けましておめでとう、蓮子」
「それ、年明け直後にも言い合ったじゃない……。まぁいいか。明けましておめでとう、メリー。」
「とりあえず、お雑煮でも食べましょうか」
今、メリーがいる場所がキッチンでないことから察するに、用意周到なことにメリーはすでにお雑煮を作ってくれていたらしい。
「用意がいいのね、メリー。何も早起きしてまで作らなくても……」
「もう結構いい時間なんですけど。流石、蓮子ね」
その事実と皮肉めいたメリーの言葉に、私はコタツという殻から這い出し、時計を見た。10時12分。
メリーの作ったお雑煮を堪能してから、私たちは初詣に出かける用意を始めた。
「そういえば、蓮子。昨夜、秘封倶楽部の活動方針については熱心に考えを練ってきたみたいだけど、自分の方針は、今年の抱負は決めたの?」
「そうだなー。とりあえず、単位を落とさない、かな」
「え、秋学期の科目でもう落としてるのあるんじゃなかった?」
「来年度から本気出す」
「今年の抱負って言ってんだから今から頑張りなさいよ……」
呆れたと言わんばかりにため息をつくメリー。続き、仕方ないという様子で私を見たかと思うと言った。
「私の今年の抱負は”怒らない”ことに決めたわ」
「ほぅ。そりゃまたご立派なことで。でもいいの?どこぞの省エネ探偵さんみたく感情欠陥って言われるようになるんじゃない?」
「またそういうとこから引っ張ってくる……罪は108じゃなかったっけ?とか言い出さないでね?」
「煩悩はとっくに払ってるでしょ」
その返答に、メリーは少しだけ微笑んだ。
「ようやく蓮子の頭が回り始めたようで結構結構。それじゃ、そろそろ頃合いかな?」
「頃合い?」
「さっきガサゴソしてた物の正体よ」
そう言って取り出してきたのは、白のリボンが装われた黒色の箱だった。
「これは?」
「蓮子へのプレゼント」
「プレゼント?また突然ね」
そう言ってメリーの手から箱を貰い受けようとすると、ひょいと躱された。
「……楽しい?」
じっとりとメリーを見つめる。
「別にー。さて、ここにあるのは貴方へのプレゼントなんだけど……そうね、タダであげるのもアレだし……」
「まさか、メリー、お金取るの?」
「なんでそうなるのよ。それじゃあプレゼントにならないじゃない。ただ、ちょっとした問題を出そうかなぁ、とね。というわけで、この箱の中身を当てられたら貴方にこれをプレゼントするわ」
「え、プレゼントってサプライズ的な要素も含めてプレゼントになり得るでしょ?それを当てるってのは無粋なんじゃない?」
「私は中身を当ててほしいからこのプレゼントにしたのよ」
「は?」
「今のはヒントね。とにかく、中身が何なのか考えてみて。私にとってはすぐに答えを当ててもらいたいところだけれど……」
今のがヒントと言われましても……。ものすごくわかりにくいヒントだ。
しかし、問題を考えるのは嫌いではない。とりあえず、箱の大きさから考えてみよう。
置かれているのはそれほど大きくない正方形の箱。どの辺も8cmくらいだろうか。ということは小さい物であることは違いない。
「この箱に触れるのはOK?」
「開けないのであれば、ご自由に」
許可を得たので、箱を手に取って振ってみる。
中からは僅かにカタカタと音がする程度で、中の物が大きく動くというわけではないようだ。
手に伝わる重さもそれに相応しく、それなりの重さを感じる程度。ならば、大きさは極端に小さな物ではなく、箱のサイズより少しだけ小さな物ということになる。
「さて……」
この箱から推測できる部分はそれくらいだろう。
そうなると、あとはメリーの”中身を当てて欲しい”という言葉が何を意味しているのかを考える必要がある。
とはいえ、それだけでは情報があまりにも少ない。
「質問をしても?」
「どうぞ」
「今日、これを私にプレゼントをする意味は?」
「新年だからよ。私の抱負を聞いたでしょ?」
「メリーの抱負……怒らない」
「そう、怒らない」
「これを貰うことでメリーが怒らなくなる?」
「まぁ、完全にそうだとは言い切れないけれど」
唸る。
少しは限定できたかもしれないが、メリーを怒らせる要因が思い当たりすぎる。
冬休みに入る前、提出期限ギリギリのレポートを手伝ってもらったことがあった。メリーを巻き込んで徹夜してしまったことを思い出す。
そうなると、あの箱の中身は資料となるデータが詰まった記録媒体だろうか。いや、それならばあの箱は大きすぎる。何より、そんなものだったら、箱を開けた瞬間に窓の外に放り投げる。
そんな物、私が貰いたくない。
「待って。それって私が貰って喜ぶ物?」
「そうねー。蓮子の好みの物だとは思うわよ?プレゼントなんだし」
私が貰って喜ぶ物、か。
そういえば、以前に喫茶店で、私の持ち合わせが足りなくてメリーにお金を出してもらったことがあった。なまじ、常連になりかけの頃だったから恥ずかしかったなぁ。
そうなると、中身は現金ということになるが……まぁ、好みなのは間違いないだろう。
重さと大きさ……なるほど、紙幣ではなく貨幣。貨幣のぎっしり詰まった缶か何かが入っているのだろう。願わくば500円玉がぎっしりでありますように……。
「って、そんなわけないじゃない……」
「は?」
いやいや、気にしないでとメリーに笑いかける。その様子に、またもやため息をつくメリー。
「じゃあ、最大のヒントを出してあげるわ」
「おぉ、救いの巫女様!」
「巫女様にはこのあと会いに行くので我慢ね。というか何で巫女……」
メリーは怪訝そうな表情で何やら考えているが、特に意味は無い。メリーにも少しは考えすぎていただこう。
「で、ヒントは?」
「はい、ヒント。蓮子には必要だけれど必要ではない。」
「また面倒くさいヒントを出すわね」
「巫女とか言われたからね。何かそれなりに霊験あらたかっぽいでしょう?」
「さいですか……」
とりあえず、これが最大のヒントなのだ。なんとなく分かってきた。
「ということは、私の眼、つまりは時間に関係する物ね」
「そうよ」
「やっと分かったわ。その箱の中身は”時計”ね」
「やっと当ててくれた……。正解よ。はいどうぞ」
ようやくメリーはプレゼントを私に手渡した。
「ではでは……。あきましておめでとう」
それ、絶対言いたいだけじゃないの……というメリーのツッコミをスルーし、スルスルとリボンを解いて箱を開ける。
見ると、中にはレトロなデザインの懐中時計が入っていた。
「え、何これ。すごく高そうなんだけど、本当にもらっちゃってもいいの?」
「いいのいいの。実家から送られてきたものなんだけど、貴方に使ってもらったほうがいいと思って」
「私が使ったほうがいい?」
よく見るとその懐中時計は現在時刻よりも10分ほど遅れていた。
「古い懐中時計だから修理するのに結構なお金がかかるらしいのよ」
「うん、なるほどしっかりサプライズは用意していたわけね。壊れている物を平然と人にプレゼントとして送る、メリーはそういう人なんだなと知れるサプライズ要素があったと……。まぁ、デザインはいいし、部屋のインテリアとして飾っておくわ」
とりあえず、本棚の空いているスペースにでも飾ろうとそちらを向く。
「そうじゃない!」
メリーの怒声が響く。
「あ、怒った」
「あ……。はぁ、まだ年が明けて1日も経っていないというのに……」
大変嘆かわしい、という雰囲気を漂わせるメリーさん。
「懐中時計なんだから常に持っていてほしいに決まってるでしょ?」
「壊れてるのに?」
「壊れてるからよ!」
「はぁ……」
メリーはみなまで言わせるなという表情をしているが、私にはどういうことなのか見当がつかない。
「大変申し訳ありませんが、理由を教えて頂いてもいいでしょうか」
おずおずと言う私に、大きくため息をついてメリーは言う。
「蓮子は遅刻ばかりするんだからその時計を持っていれば言い訳の種くらいにはなるでしょ。」
「へ」
「まさか、自分の遅刻常習犯っぷりを自覚していないわけじゃないわよね?私が”怒らない”でいいように、私が送ったプレゼントが遅刻の原因だって言わせてあげるためのプレゼントよ」
「あぁ、そういうことだったのか」
「あぁ、じゃないわよ。まったく……。はいはい、それじゃ茶番はこれくらいにして。さて、では改めて、蓮子の今年の抱負を聞こうかしら?」
流石にこれには察しがついた。
「この時計を遅刻の言い訳の種に使わないように……」
満足気な表情を浮かべるメリーさん。
「もっと気の利いた言い訳を考えられるように努力します」
「違うわ!」
「あ、怒った」
「……人の抱負で揚げ足取るのやめていただけるかしら?」
静かな声。ともすれば、優しい声。しかし、その奥には鵺さえも悍ましさを感じてしまうような雰囲気があった。何とか鎮めねば。
「もう今年の108つの内の2つだけど大丈夫?メリー。約分すると54分の1だよ、メリー」
「罪 isn't 煩悩!!」
流暢な発音だこと。
「いや、でも怒りは煩悩の内に入るでしょ?」
「え?あ、うん?そっか……?あれ?」
混乱させることにより、メリーを賺すことに成功した。
でも、約分する必要はないんじゃ……?というメリーの呟きなんて歯牙にもかけない。
「さて、それじゃあ初詣に行きますか。いい時間だし」
「え、もうこんなに時間が経っていたの?お昼は……」
「お餅食べたんだからすぐにはお腹減らないでしょ。その分、夕飯を豪盛にしたほうが賢いと思わない?」
「それもそうね。で、行き先は?」
「え、言ってなかったっけ。というか、それこそ言わなくても気付いてほしいなぁ。」
「そうね。聞いた私が無粋でしたわ。巫女に会えるかしら」
玄関に向かう途中で、メリーからの贈り物を見る。
星の見えない今、空を視ても現在時刻は分からないけれど、メリーから贈られた時間が確かに、ここに在る。
それを胸のポケットに仕舞い、呼びかける。
「メリー、早くー、行くよー」
先に玄関に向かった蓮子を後目に、ポケットからそっとメモを取り出す。
”貴方の時間は私の物”
たった一行書いたそのメモを箱に忍ばせようとして、呼びかけられる。慌てて箱を閉める。
「はいはい、今行きますよー」
誰もいなくなった部屋、シュレディンガーのメモと静寂が主の帰りを待つ。
壁にかかった時計の針は11時12分を指していた。
私の家にて年越しの瞬間を迎え、その後、午前3時過ぎまで秘封倶楽部の活動方針などについて話し合った。
いつの間にか寝てしまっていたらしい私は何かの物音で目を覚ました。
「ん、ひょっとしてお目覚めかしら」
「あぁ、おはよう、メリー。何してるの?」
「いや、ちょっとね」
言いながら、私からは見えないところでガサゴソと何かをし続けている。
「それより、明けましておめでとう、蓮子」
「それ、年明け直後にも言い合ったじゃない……。まぁいいか。明けましておめでとう、メリー。」
「とりあえず、お雑煮でも食べましょうか」
今、メリーがいる場所がキッチンでないことから察するに、用意周到なことにメリーはすでにお雑煮を作ってくれていたらしい。
「用意がいいのね、メリー。何も早起きしてまで作らなくても……」
「もう結構いい時間なんですけど。流石、蓮子ね」
その事実と皮肉めいたメリーの言葉に、私はコタツという殻から這い出し、時計を見た。10時12分。
メリーの作ったお雑煮を堪能してから、私たちは初詣に出かける用意を始めた。
「そういえば、蓮子。昨夜、秘封倶楽部の活動方針については熱心に考えを練ってきたみたいだけど、自分の方針は、今年の抱負は決めたの?」
「そうだなー。とりあえず、単位を落とさない、かな」
「え、秋学期の科目でもう落としてるのあるんじゃなかった?」
「来年度から本気出す」
「今年の抱負って言ってんだから今から頑張りなさいよ……」
呆れたと言わんばかりにため息をつくメリー。続き、仕方ないという様子で私を見たかと思うと言った。
「私の今年の抱負は”怒らない”ことに決めたわ」
「ほぅ。そりゃまたご立派なことで。でもいいの?どこぞの省エネ探偵さんみたく感情欠陥って言われるようになるんじゃない?」
「またそういうとこから引っ張ってくる……罪は108じゃなかったっけ?とか言い出さないでね?」
「煩悩はとっくに払ってるでしょ」
その返答に、メリーは少しだけ微笑んだ。
「ようやく蓮子の頭が回り始めたようで結構結構。それじゃ、そろそろ頃合いかな?」
「頃合い?」
「さっきガサゴソしてた物の正体よ」
そう言って取り出してきたのは、白のリボンが装われた黒色の箱だった。
「これは?」
「蓮子へのプレゼント」
「プレゼント?また突然ね」
そう言ってメリーの手から箱を貰い受けようとすると、ひょいと躱された。
「……楽しい?」
じっとりとメリーを見つめる。
「別にー。さて、ここにあるのは貴方へのプレゼントなんだけど……そうね、タダであげるのもアレだし……」
「まさか、メリー、お金取るの?」
「なんでそうなるのよ。それじゃあプレゼントにならないじゃない。ただ、ちょっとした問題を出そうかなぁ、とね。というわけで、この箱の中身を当てられたら貴方にこれをプレゼントするわ」
「え、プレゼントってサプライズ的な要素も含めてプレゼントになり得るでしょ?それを当てるってのは無粋なんじゃない?」
「私は中身を当ててほしいからこのプレゼントにしたのよ」
「は?」
「今のはヒントね。とにかく、中身が何なのか考えてみて。私にとってはすぐに答えを当ててもらいたいところだけれど……」
今のがヒントと言われましても……。ものすごくわかりにくいヒントだ。
しかし、問題を考えるのは嫌いではない。とりあえず、箱の大きさから考えてみよう。
置かれているのはそれほど大きくない正方形の箱。どの辺も8cmくらいだろうか。ということは小さい物であることは違いない。
「この箱に触れるのはOK?」
「開けないのであれば、ご自由に」
許可を得たので、箱を手に取って振ってみる。
中からは僅かにカタカタと音がする程度で、中の物が大きく動くというわけではないようだ。
手に伝わる重さもそれに相応しく、それなりの重さを感じる程度。ならば、大きさは極端に小さな物ではなく、箱のサイズより少しだけ小さな物ということになる。
「さて……」
この箱から推測できる部分はそれくらいだろう。
そうなると、あとはメリーの”中身を当てて欲しい”という言葉が何を意味しているのかを考える必要がある。
とはいえ、それだけでは情報があまりにも少ない。
「質問をしても?」
「どうぞ」
「今日、これを私にプレゼントをする意味は?」
「新年だからよ。私の抱負を聞いたでしょ?」
「メリーの抱負……怒らない」
「そう、怒らない」
「これを貰うことでメリーが怒らなくなる?」
「まぁ、完全にそうだとは言い切れないけれど」
唸る。
少しは限定できたかもしれないが、メリーを怒らせる要因が思い当たりすぎる。
冬休みに入る前、提出期限ギリギリのレポートを手伝ってもらったことがあった。メリーを巻き込んで徹夜してしまったことを思い出す。
そうなると、あの箱の中身は資料となるデータが詰まった記録媒体だろうか。いや、それならばあの箱は大きすぎる。何より、そんなものだったら、箱を開けた瞬間に窓の外に放り投げる。
そんな物、私が貰いたくない。
「待って。それって私が貰って喜ぶ物?」
「そうねー。蓮子の好みの物だとは思うわよ?プレゼントなんだし」
私が貰って喜ぶ物、か。
そういえば、以前に喫茶店で、私の持ち合わせが足りなくてメリーにお金を出してもらったことがあった。なまじ、常連になりかけの頃だったから恥ずかしかったなぁ。
そうなると、中身は現金ということになるが……まぁ、好みなのは間違いないだろう。
重さと大きさ……なるほど、紙幣ではなく貨幣。貨幣のぎっしり詰まった缶か何かが入っているのだろう。願わくば500円玉がぎっしりでありますように……。
「って、そんなわけないじゃない……」
「は?」
いやいや、気にしないでとメリーに笑いかける。その様子に、またもやため息をつくメリー。
「じゃあ、最大のヒントを出してあげるわ」
「おぉ、救いの巫女様!」
「巫女様にはこのあと会いに行くので我慢ね。というか何で巫女……」
メリーは怪訝そうな表情で何やら考えているが、特に意味は無い。メリーにも少しは考えすぎていただこう。
「で、ヒントは?」
「はい、ヒント。蓮子には必要だけれど必要ではない。」
「また面倒くさいヒントを出すわね」
「巫女とか言われたからね。何かそれなりに霊験あらたかっぽいでしょう?」
「さいですか……」
とりあえず、これが最大のヒントなのだ。なんとなく分かってきた。
「ということは、私の眼、つまりは時間に関係する物ね」
「そうよ」
「やっと分かったわ。その箱の中身は”時計”ね」
「やっと当ててくれた……。正解よ。はいどうぞ」
ようやくメリーはプレゼントを私に手渡した。
「ではでは……。あきましておめでとう」
それ、絶対言いたいだけじゃないの……というメリーのツッコミをスルーし、スルスルとリボンを解いて箱を開ける。
見ると、中にはレトロなデザインの懐中時計が入っていた。
「え、何これ。すごく高そうなんだけど、本当にもらっちゃってもいいの?」
「いいのいいの。実家から送られてきたものなんだけど、貴方に使ってもらったほうがいいと思って」
「私が使ったほうがいい?」
よく見るとその懐中時計は現在時刻よりも10分ほど遅れていた。
「古い懐中時計だから修理するのに結構なお金がかかるらしいのよ」
「うん、なるほどしっかりサプライズは用意していたわけね。壊れている物を平然と人にプレゼントとして送る、メリーはそういう人なんだなと知れるサプライズ要素があったと……。まぁ、デザインはいいし、部屋のインテリアとして飾っておくわ」
とりあえず、本棚の空いているスペースにでも飾ろうとそちらを向く。
「そうじゃない!」
メリーの怒声が響く。
「あ、怒った」
「あ……。はぁ、まだ年が明けて1日も経っていないというのに……」
大変嘆かわしい、という雰囲気を漂わせるメリーさん。
「懐中時計なんだから常に持っていてほしいに決まってるでしょ?」
「壊れてるのに?」
「壊れてるからよ!」
「はぁ……」
メリーはみなまで言わせるなという表情をしているが、私にはどういうことなのか見当がつかない。
「大変申し訳ありませんが、理由を教えて頂いてもいいでしょうか」
おずおずと言う私に、大きくため息をついてメリーは言う。
「蓮子は遅刻ばかりするんだからその時計を持っていれば言い訳の種くらいにはなるでしょ。」
「へ」
「まさか、自分の遅刻常習犯っぷりを自覚していないわけじゃないわよね?私が”怒らない”でいいように、私が送ったプレゼントが遅刻の原因だって言わせてあげるためのプレゼントよ」
「あぁ、そういうことだったのか」
「あぁ、じゃないわよ。まったく……。はいはい、それじゃ茶番はこれくらいにして。さて、では改めて、蓮子の今年の抱負を聞こうかしら?」
流石にこれには察しがついた。
「この時計を遅刻の言い訳の種に使わないように……」
満足気な表情を浮かべるメリーさん。
「もっと気の利いた言い訳を考えられるように努力します」
「違うわ!」
「あ、怒った」
「……人の抱負で揚げ足取るのやめていただけるかしら?」
静かな声。ともすれば、優しい声。しかし、その奥には鵺さえも悍ましさを感じてしまうような雰囲気があった。何とか鎮めねば。
「もう今年の108つの内の2つだけど大丈夫?メリー。約分すると54分の1だよ、メリー」
「罪 isn't 煩悩!!」
流暢な発音だこと。
「いや、でも怒りは煩悩の内に入るでしょ?」
「え?あ、うん?そっか……?あれ?」
混乱させることにより、メリーを賺すことに成功した。
でも、約分する必要はないんじゃ……?というメリーの呟きなんて歯牙にもかけない。
「さて、それじゃあ初詣に行きますか。いい時間だし」
「え、もうこんなに時間が経っていたの?お昼は……」
「お餅食べたんだからすぐにはお腹減らないでしょ。その分、夕飯を豪盛にしたほうが賢いと思わない?」
「それもそうね。で、行き先は?」
「え、言ってなかったっけ。というか、それこそ言わなくても気付いてほしいなぁ。」
「そうね。聞いた私が無粋でしたわ。巫女に会えるかしら」
玄関に向かう途中で、メリーからの贈り物を見る。
星の見えない今、空を視ても現在時刻は分からないけれど、メリーから贈られた時間が確かに、ここに在る。
それを胸のポケットに仕舞い、呼びかける。
「メリー、早くー、行くよー」
先に玄関に向かった蓮子を後目に、ポケットからそっとメモを取り出す。
”貴方の時間は私の物”
たった一行書いたそのメモを箱に忍ばせようとして、呼びかけられる。慌てて箱を閉める。
「はいはい、今行きますよー」
誰もいなくなった部屋、シュレディンガーのメモと静寂が主の帰りを待つ。
壁にかかった時計の針は11時12分を指していた。
意外とメリーは蓮子が遅れる間わくわくしてるのかも