Coolier - 新生・東方創想話

美人記者は見た! 妖精を惑わすサンタクロースとその正体!

2014/12/30 17:34:39
最終更新
サイズ
20.13KB
ページ数
1
閲覧数
2462
評価数
8/17
POINT
1210
Rate
13.72

分類タグ

師走の幻想郷は雪に覆われていて、まだまだ寒い。
そんなことをお構いなしに、私は今日も雪の中をかけていく。

しかしこの中を飛んでいくのは、天狗と言えど辛い。
寒さはまだしも、早く飛ぶと雪が顔に当たって痛いし。

少しばかり木に足を休め、自分の手帳を見直す。

「しかし、ここまで探してもいないとは……」

今回対象としたのは「サンタクロース」なる人物。
昨年の丁度今頃に目撃報告が相次いだ謎の人物で、これまで里人から集めた情報によれば以下の通り。

・赤白のあったかそうな格好
・師走下旬の空を飛んでいた
・馬車に乗っている
・気づかぬうちに枕元にお土産が置かれている

今年の目撃報告はなく、今年一番乗りをすれば最速の情報をモットーとしている私にはもて来いのネタである。

しかし、これほどの格好ならば簡単に見つかると思っていたのだけれど全く見つからない。
今しがた聞いた「枕元にお土産が置かれる」という証言からすると、やはり夜しか行動しないのだろうか。
一瞬見つけたと思ったのは、機嫌の悪い紅白巫女さんのこと博麗霊夢であった。紛らわしい。
無理矢理にでも椛を引っ張ってくればよかったかしら。

兎にも角にも、記者は根気が一番。
幻想郷中に聞き込みを入れるのみよ。





「サンタクロース?ああ、知ってるよ」
「異教のお祭りに出てくる人物だね」

やってきたのは守矢神社。
灯台上暗しというべきか、まさかこの山の二柱が知っているとは思わなかった。

「なるほど、お祭りとは?」
「あれだよあれ。あうー、なんだったかな」
「クリスマスだろう」
「ふむ、クリスマスという祭りの主役ですか」

クリスマスはどんな漢字なのだろう。いや、異国の言葉であるなら仮名でいいか。

「それはどのようなお祭りなのでしょう?」
「確かねぇ、どっかの誰かの誕生を祝う話だった気がするよ」
「それがサンタクロース?」
「いや、違うと思う。なんだっけかなー」

どっしりと腕を組む八坂様とは反対に、思い出せずにあうあうと可愛らしく頭を抱える洩矢様。

「早苗に聞けばわかるんだけど、今どこか出かけてるみたいだし」
「いっつも楽しみにしていたもんね」

ほう、それはつまり。

「外界でぽぴゅらーな行事であると」
「うん。早苗が小さい頃はね、毎年サンタさんが何をくれるか楽しみにしてたねぇ」

サンタさん、というのが通称のようだ。
しかしそれ以上のことはあまり知らないというので、軽くお礼を言いつつ飛び立った。





さて、重要人物と思われる東風谷早苗に取材ができない以上は他をあたるしかない。
ここはひとつ、異教文化という手がかりを元に行動してみよう。

(となると向かうべきは――)

私自身に似合わないゆっくりした速度で飛んでいると、手前の方を何かがかすった。

「わっ!?」

「ちぃ!惜しかった!」

下を覗いてみると氷精が氷柱を私に投げつけようとしている状態だった。
おお、こわいこわい。

「あややや、いつぞやの妖精さんではありませんか」
「コラー!ちゃんとあたいにも名前はあるんだ!覚えろ!」
「ええ覚えてますよ、チルノさん」
「最初っからそういえばいいんだ」

一人感心して頷くチルノさん。
上に立ったつもりでいるのだろうか。何という勘違いか。

「ところでその氷柱は一体なんですか?」
「ああ、暇だったから当てようと思ったのよ」

冬の氷精は際立って異常に元気だ。半袖のその格好でこの空を飛べるのがうらやましい気もする。

「危ないですねぇ。もし私じゃなくて巫女だったら、あなた一回休みでしたよ?」
「だって飛んでたの文だったし」
「私だったらいいんですか……」

というよりも問題は、妖精の目に留まるくらいさっきは遅く飛んでいたという事だ。
いくら考え事をしていたとはいえ、これは考えすぎだとなんとなく反省。

「いいですか、そんな悪戯とかばっかりしているとサンタさんがお土産を持って来てくれませんよ」
「えっ……?」

どういうわけか言葉に詰まったチルノさん。

「ほう、サンタさんをご存じで?」
「し、知ってるわよ」

鎌をかけるつもりはなかったが、これはもしや意外な収穫か?

「あれよ!三兄弟の一人よ!」
「一平に二郎そして『三太』の兄弟ですか……」

誤魔化しが苦しいにもほどがある。
やはり妖精は妖精、この子もやっぱりアホの子であった。全くかわいい。

「で、その三太は何をくれるの!?」
「さぁ、それはわかりません」

実際のところ私も知らないわけであって。

「あなたが積む善行によって変わるのではないでしょうか」
「そうなの?」

どこかの閻魔様をまねて見ると、意外に食いついてきた。

「話によれば、良い子の元にはその晩にお願いした物が来るそうですよ」
「なんでも?」
「かもしれませんねぇ」

そしてとんでもないことを言い始める。

「よし、あたいはこれから文の手伝いをする!」
「えっ?」

食いついてきた、と思いきや何を言い出すんですかこの子は。

「手伝いをすることはいいことなのよ?そうすればあたいのところにも三太は来る!」
「その心がけは認めましょう。なぜ白羽の矢を私に立てたのですか」
「しらは……?よくわかんないけど文はいつも忙しそうだし」
「!」

なんということだろう。このような場所にジャーナリズムを理解する者がいたとは。
やはり純粋な心を持つ人には私の記事の真意が伝わるのね!

「仕方ありませんねぇ。今回は特別ですよ」
「やった!これであたいも置き土産もらえるのね!」

悲しいかな、結局はお土産が一番の目的なのよね。
でも素直でよろしい!超許す!





「で、どこいくの?」
「紅魔館です」

さて本来の目的へ舵を修正。
西洋と言えば幻想郷の紅一点、紅魔館のほかはない。

「むむ、何奴!」

これまた名前に紅一点の門番紅美鈴さん。
今日は珍しく寝てませんね。

「いつも寝てません!」
「めーりん!あそびにきたよ!」
「どしたのチルノちゃん。記者さん連れて」
「あたい、いい事するために文の手伝いしてるんだ!」
「おお、なんか理由はわからないけど偉いねー」

とりあえず赫々云々と理由を説明する。

「ははぁ、なるほど」

大変ですねぇ、とこちらをチラ見する美鈴さん。

「だから入れて!」
「とはいってもですねぇ……アポもなくこうして正面から来られたら止めないわけには」
「そうやっていじわるするとめーりんのところに三太来ないよ!」
「そ、そんなこと言われてもですね……」

涙目になるチルノさんに困惑し、こちらに助けを求める視線を送ってくる。
しかしこれは私にとって好都合、止める理由はない。むしろ加速させてやるべきなのである。
そっと美鈴さんに耳打ちをする。

「おやおや、良いんですか?こんな幼げな子の小さな夢を途絶えさせてしまって」
「ぐぬぬ……」





いやぁ、なかなか子供の顔というものはいいですね。顔パスです。
そして紅魔館の図書館でティータイム中のレミリア・スカーレットさん、お茶より本のパチュリー・ノーレッジさんに面会。

「で、どうしてここに聞きに来たのかしら」
「餅は餅屋、西洋文化の事は西洋出身のあなたがに聞くのが一番いいと思いまして」
「どれくらいクリスマスの事を知っていて?」
「誰かの誕生を祝いながらサンタクロースを待ちつつ、良い子がお土産を貰うイベントだとか」
「……フン」

あやや、なにか変なことでも言ってしまっただろうか。

「レミィは悪魔としてのプライドがあるのよ」
「と言いますと?」
「クリスマスに祝うのは聖人。レミィと対になる存在を祝うのが気に食わないのね」
「そういうことですか」

流石は知識の魔女、その二つ名は伊達じゃありません。

「元々は地域宗教の新嘗祭のようなものを起源とした祭で、サンタクロースは聖ニコラス神父を神格化した人物ね」
「ほうほう」

異教の神格化された人とは興味深い。
エピソードのある記事は受ける。ぜひとも聞きたい。





「身売りの娘のために金貨を……」

なるほど、これは典型的ながら神聖化にふさわしいエピソードだ。

「では次にクリスマスについての話をまた一つ……」
「私はいいけど、その連れはいいのかしら」
「あれ?」

後ろを振り返ると、よろよろと本を運んでいるチルノさんだった。

「て、手伝いましょうか?」
「いい、あたいがやるの」

司書小悪魔が声をかけているのを断る姿。
その細い腕で一生懸命本を運んでは読んでいる。

「あの子、文字読めるのかしら」
「さ、さぁ……」

正直な話あまり役に立たないだろうと思い、厄介払いの意を込めて「関係ありそうな本を集めて」と頼みはしたが……。
まさかここまで真面目にするとは予想外。

「むぅ……」

行動したのが昼ごろ、気が付けばもう夕方。眠いのかうとうとしては目をこすっている。
それでいてもなお、あまり読めていないだろう本を開いては分別して積み続ける。

「ふむ、妖精の分際でなかなか頑張るのね。たかがサンタ伝説のために」
「……あ、落ちた」

褒めた瞬間、閉じかけていた目蓋が落ち、小さな頭もふんわりとテーブルへ落ちていく。

「ちょっ……チルノさん?」

すうすうと可愛らしい寝息が聞こえてきた。
ダメだ。完全に寝ていらっしゃる。

「冬の子風の子元気な子!どうしたんですかー!」
「知恵熱でしょ。あの頭で慣れないことするから」

流石レミリアさん。外見は同じような背丈ですが、500年生きてると言っていること違いますねぇ。

「その子、ちゃんと連れて帰ってね」

むむむ、収穫はあったが手間が増えてしまった。


「……ところで、どこに住んでいるんでしょうこの子」
「さぁ?」





大図書館に匙を投げられ、私はチルノさんを背負って飛び立った。
流石は悪魔の館、当てがあるはずの人々を寝泊りさせる気はないとのこと。

氷精は冷気を纏っているので冷たいかと思いきや、知恵熱のせいなのかそこまでない。

「んむぅ……」
「ああ、すこし速すぎたかしらね」

私的には減速していたつもりだけれどそうでもなかったようで。

「あー、失敗したわぁ」

変な拾い物をしたものだ。
流石に湖のほとりにポイと置いていくのも少しばかり気が引けるし、かといって何か当てがあるというわけでもない。

「仕方ない、一日ばかり泊めてやるしかないわね」

適当な速度で妖怪のやまへと飛ばしつつサンタが夜に現れる可能性を考えて周囲を警戒をする。
途中で私の姿を見た引き籠り天狗が無断撮影しながら煽ってきたので、少しばかり風を送ってやったら軽々と吹っ飛んで行った。





二人住むには少々きつそうな我が家へと戻る。
とりあえず布団に寝かせておいて、私は机へと向かった。
寒さをこらえながらも窓を全開にし、幻想郷一角を視界に入れつつペンを握る。

「さぁて、夜に来るというならどんとこいよ」

あと自分の原稿もあるし。
師走はまだ数日ある。終わるまでに必ず激写してやるわ。

「……ん、あやぁ?」
「あやや、お目覚めですか?」

寝かせ方が悪かったのか早々に起きなさったチルノさん。
まだ完全に覚めていない目をぐしぐしとこする。

「しごと?」
「ええ、まぁやり残したこともあるので」
「てつだう……」
「いやぁ、もう遅いですしチルノさんは寝てください」

書類仕事、読み書きもできない妖精っ子に仕事はない。

「でもいいことしないとお土産もらえない……」
「子供が早く寝ることもいい事のひとつですよー」
「ん、うん、あたい……さいきょぅ……」

折れてくれたか。
良くわからない事を呟きつつ再び眠り出した。





うまい具合にかわせたと思ったが、ふと思った。
良い子のところに来るのなら、今そこに寝ている彼女の元にもやってくるんじゃないかしら?
あまり役には立っていないような気がするが、この子なりに一生懸命やった結果なのだ。
新聞もよく読んでなかったような子が、魔女の話を聞きつつ本を読んで調べていた。褒められることはあってもいいと思う。

「まぁ門の顔パスとかは、地味に役立ったことにしておきましょう」

そこまでサンタとは、そこまでしてお土産が欲しいのか。この子の考えていることはわからない。

「まぁサンタを激写する私とすれば、これはいいチャンスといえますか」

だが一方で、彼女をここまで夢中にさせる「サンタ」に対して純粋な興味がわいてきていた。





「ゔぉ?」

落ちるっ……というところで浮遊し墜落を免れる。

「あっぶないあぶない」

鴉も寝ぼければ木から落ちる。
計画を変更して木に腰を据えてサンタを警戒しているうちに、うつらうつらと寝落ちしてしまうところでだったようだ。
少しばかり空に明るみが見え、朝焼けであると感じた。

結局、サンタを捕えることはできなかった。
我が家の構造的に、入るなら二方向に設置されてある扉か窓しかない。ゆえに監視は容易であると考えていたのだけど。

「ああもう、布団グチャグチャにしてくれちゃって……」

この寒気の中で暑いとでもいうのか。掛け布団は放り出され、敷布団も斜めにシワクチャ。
当の本人は未だにぐっすり。

「……来なかったみたいね」

その枕元に、土産は置かれてなかった。

「ただの伝説に乗っかった噂で、ホントはいないのかしら?」

私が手に入れた証言は去年のもので、実のところ今年見たという
狭い狭い幻想郷、空を飛べるなら二日と掛らないと思うんだけど。

「去年だけしかいなかったとか……数日にわたるか……」

当てが外れたか。
しかしこうなるとここまで期待しているチルノさんに申し訳ない気持ちが出てきた。
振り返ってみると煽ったのは私だし、馬鹿正直とはいえあの妖精がここまで素直に献身的な行動を取ってくるとは。
保身もかねて考えると、どうフォローするべきか。

などと考えていると、布団を占領していたちびっ子が起きた。

「ん、文おやよう……」
「ああチルノさん、おはようございます。お布団片付けますから退いてください」
「あれ?あたいなんで文の家にいるの?」
「紅魔館で寝落ちしてしまったんですよ。慣れない事するからです」
「そうよ!三太の土産は!?」

枕をガバリと持ち上げる。そんなところにはいっているわけないでしょーが。
やはり覚えてるわよねぇ……。

「あー、それがですね……」
「それが?」
「サンタは来たんですよ」
「来たの!?土産は!?」
「それが……」
「それが?」

えーい、ままよ!

「チルノさんのお願い事が聞けていなかったので、後日改めてくると伝言を預かっています」
「そ、そっか……」
「ほら、お昼寝同然で寝てしまったからお願いしてなかったでしょう」

そんなにしょぼんとうつむかないでくださいよぉ。見ているこっちもしょんぼりです。

「まぁまぁ、私に教えてくれれば今夜お伝えしますよ?」
「そ、それはいやよ!他人に教えちゃダメって本に書いてあった!」

妙なところで頑なに拒否される。
この射命丸、少しばかり傷つきます。

「じゃあ置手紙でも書きます?枕元に置いておけば、今夜来た時に持って帰ってくれますよ」
「そうね!それが一番ね!」
「あ、コラ!」

勝手に机の上にあった紙とペンを取って書き出した。
しかしちゃんと読める字を文字かけるのかしら。この子持ち方もなってないし……。

「~♪」

後ろから覗くこともできるほどに無防備な姿勢である。

さて、これは我ながらナイスな案であったと思う。
こうすれば万一サンタが来なかった場合も、私が代行することができるというものよ。





徹夜し眠たいのをこらえ、私は人里へと取材兼買出しへ出てきた。

「しかし、靴とは少々意外なお願いね」

肩越しにチラ見したサンタ宛てのメモには「くつください」と書いてあった。
具体性に欠けるお願い、どんな靴がお望みなのか。

「あの子のイメージ的に、私と同じような高下駄は似合わなさそう」

まずコケること間違いなしね。
となると今履いているローファー?絶対ハイヒールは無理だろうし。
そもそも裸足で見かけることが多い気がするんだけど、靴いるのかしら?

などと考えつつ靴屋の陳列棚を眺めていると、後ろから声をかけられた。

「こんにちは、文さん」
「あややや、これは早苗さん。どうもこんにちは」

同じように買い物袋を提げてお使いをしていたらしい守矢の風祝であった。
深々と頭を下げて挨拶をしてくるあたり、本当によくできた娘である。

「あら、靴をお探しですか?」
「えぇと、まぁ」

ここでペースを握られると、面倒なことになりそうだと勘が告げた。
少々強引な路線変更を試みる。

「それはそうと、昨日取材に伺ったのですが、どうも間が悪かったようで」
「あらすみません。少々霊夢さんのところに用事があったもので」

あの不機嫌だった霊夢さんの顔に何か関係があるのだろうか。


気になるところではあるが、ここは当初の話題へと移す。

「ところで早苗さん、サンタクロースをご存じと聞きましたが……」
「サンタクロースですか?ええ、それなりには」

顎に指をあて、懐かしいことを思い出すかのように答えてくれた。

「ではお伺いしますが……サンタクロースとはどんな人物なんでしょうね?」
「いきなり核心をついてきますねぇ」

核心をついてくるという表現に、私は少々つっかかりを感じた。

「やはり文さん的には、真実が一番いいんでしょうか?」
「ええ、それはもう当たり前です」

その返答を返すと少しばかり悩み始める早苗さん。
はっ、と顔をあげたと思いきや、再び考え込むの繰り返しであった。
それほど、サンタの核心とは恐ろしいものだったりするのだろうか。

「そう言われればそうかもしれません。けど文さんならもう大丈夫かなぁ」
「では、ズバリ?」
「いいですか、文さん」

何が飛び出してくるのかと私は息を呑んだ。


「サンタクロースの正体は、ご両親なんです」

「は?」


思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「しかしパチュリーさんに聞いた話では、サンタクロースは聖人伝説であると」

それは起源ですよ、と反論する早苗氏。

「実際に枕元のお菓子を食べ、プレゼントを置いていく。これは子供の夢を壊したくない親心なんです」

少々納得できない。何かが引っ掛かっている。

「私も純粋にサンタを信じていた時がありました。この家系に生まれながら、変な話だとは思いますけど」

恥ずかしげに頬をかいた。

「でも、初めてサンタさんがプレゼントを持ってきてくれた時はうれしかったなぁ」

気付けばもう夕方。
夕日を懐かしい目で見つめる早苗さんの顔が、少し眩しく見えた。





「おやすみ!!」

冬は日が落ちるのが早いとはいえ、まだ八時である。
この妖精はこんな時間帯であるというのに、しかも人の家で堂々と眠りについた。
規則正しいにもほどがある。

「全力投球する方向を間違えてるわよ……」

そういう私も、気づけば変な方向に進んでいることにうすうすと気付き始めていた。

結局私は靴を買ってしまった。
色は蒼に対する赤。少々彼女にしては大人っぽ過ぎる気もしたが、水辺でも遊べるよう防水加工がされているものを選んだ。


とりあえず寝る場所もないので机に向かう。昨日やりかけていた記事の続きにでも取り掛かろう。
眠たいせいか力加減がうまくいかないままペンを進める。
うつらうつらとするなか、突如バキッという音で我に返った。

「ああ、やっちゃったわ」

慌てて漏れ出すインクから原稿を離す。
最悪。お気に入りのペンの先が折れてしまった。
まぁ長い付き合いによる摩耗のせいだろう。これももう寿命だったのだ。
しかし使い慣れたペンがないのは辛い。

もう今日はやめるか。
見直しついでにネタ帳をめくる。

「しかし、親ですか」

何時の話なのだろうか、自分の親の顔などもはや覚えていない。
そして妖精は自然から生まれる存在だという。親はいないのだろうか。

もしサンタクロースが親であるというなら、私たちのところに来なかったのも頷けた。
少しばかり残酷だが、この子のところにも本当のサンタクロースは来ない。

サンタクロースは、人間によってつくられた人間のための伝説なんだろう。

(なぜ私は、ここまでして付き合ってあげているのだろうか)

これがチルノさんの期待に沿えるものであればと思いながら、私の疲れた体はそのまま眠りに落ちてしまった。









「文!きたよ!サンタ来たよ!」

おお、朝から騒がしい。
サンタクロース射命丸からの靴を思う存分楽しんで、二徹してた私を寝かせてください。

「しかもふたつ!ふたつきたのよ!」

おお、そうですか……。

「ん?二つ?」

はっきりしない頭を振り上げ、私は布団の枕もとを見やった。
そこには確かに、私の置いた包みともう一つ、見たことのない包装のプレゼントがあった。
丁寧な包装には目もくれず、乱暴に解いて中身を確認していく。

「赤い靴に、白い靴下!セットでくれるなんて、サンタは気前がとてもいいのね!」

早速、しかも室内で靴を履いた姿で答えた。
まぁ卸したてだから気にしないけども。


そして私はもう一つの異変に気付いた。

「このペン……」

私が昨夜折ったペン。
同じものではないものの、とても似たペンが一つのリボンと共に置かれていた。

まさか、そんな馬鹿な。
いつもの癖で鍵をかけていたはず。破られた様子もない。
なのに私以外の誰かが侵入し、ここにプレゼントを置いて行ったのだ。

「サンタは、本当にいた?」

親のいないところにサンタが来た?
まさか何かを哀れんだ神様とやらが奇跡でも……。





神様?奇跡?そうだ。
私は一目散に最速で、あの情報提供者の元へと向かった。

「あら、文さん。おはようございます」

守矢神社。
規則正しい風祝は、朝の掃除に取り掛かっている最中であった。

「早苗さん、この私をハメましたね」
「さぁて、何のことやら」

涼しげな顔で掃除を続け、あくまでしらばっくれるようだ。

「サンタクロース、来ましたよ」
「あら、プレゼントもらったんですか?いいなぁ」
「誤魔化さないでください」
「こわいこわい」

ちょっと煽ってくるのが大層むかつく。

「ええ、親のいない私たちに来ましたよ」
「文さんのところにも来たんですか?うらやましいなぁ」


「サンタクロースは、本当はいるんですよね?」

「さぁ、どうなんでしょう」


まだはぐらかすか。
詰問するような目線でいると、早苗さんが落ち着いて返してきた。

「文さん、ここは幻想郷ですよ?常識に捕らわれてはいけないんです」

つまり?

「伝説と化したサンタクロースだって、この幻想郷にならいてもおかしくないんですよ」
「……はぁ」

この人はそれを知りながらあんなことを言ったのだ。私にあの靴を送らせるために。
そもそも去年の目撃情報があったではないか。証言との整合性を見落とすとは、それほどまでに寝不足の私は呆けていたのか。

「……いつから私がチルノさんにあの靴を送ると勘付いていたんです?」
「あの日会った時からですよ。子供用の靴を天狗が選んでるなんて、何かあったとしか思えないのです」
「ああ、もう……」

そりゃそうだ。私がガン味してたのは、自分には不釣り合いな子供用の靴だ。
何かあったって思うに決まってる。

「隙を見せない文さんらしくなかったので、どうするのか見たくって」
「私は神様の手の平の上で踊らされていたってことですか」
「ふふふ」

神様らしからぬ、実に意地らしい笑い方だ。

「でも、子供にとってそのプレゼントはとても素晴らしいものなんですよ?」
「それはどれくらいに?」
「帰ったらわかりますよ」

器用にウィンクをなさる早苗さんであった。





帰ってみると、あの妖精は未だに私の家にいた。

サンタについての正体は暴けたものの、これは記事にできるようなものではない。
原稿を白紙にしなければならないなか、その後ろでは陽気な声。

室内をあの靴と靴下で走り回っている。まさか今朝からずっとああなのだろうか。

「それ、そんなにうれしかったですか?」
「そりゃもちろんよ!」

チルノさんがキラキラした眼で答えてくる。
なんとまぁ幸せな顔なことだろうか。

私はどこかの誰かさんからもらったペンでネタ候補を書き連ねる。
まぁ、使いやすい。



「……チルノさん、サンタクロースのプレゼントは気に入りましたか?」

もう一度、確認的な意味で聞いてみる。

「当たり前じゃない!!ほら!」

眩しい笑顔で、嬉しそうに足を見せつける。

「そう、ですか」

つられて私もなんだか笑みが零れ、その手に持っているペンで新しい原稿を進めて行った。
相変わらずの文モノです。
遅れに遅れたクリスマスネタですが、幻想郷にサンタクロースは来ているのでしょうか?

興味を持ったら気ままに突き進むチルノちゃん、そして面倒だと思いつつも世話を焼き始める文というのもまたいいと思います。

追記:
誤字修正しました。指摘ありがとうございます。
霊夢と早苗の要件に関してはアリバイ作りの演出ですので特に内容を考えてはいません。
monolith
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.450簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー
チルノが終始かわいかったです
実際サンタは外でも減益だから幻想郷に来るのはまだまだ先かもしれませんね
2.80非現実世界に棲む者削除
とてもほっこりする作品でした。
3.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気も良く面白かったです
4.90名前が無い程度の能力削除
そもそも「美人記者は見た!」ってタイトルで笑ってしまった
文々。新聞の見出しに見えてなんつー自画自賛だと
5.100絶望を司る程度の能力削除
グッジョブ!いやー、にしても前書きの三太って誰やと思ってたらチルノの勘違いかw
7.100aikyou削除
心温まりました。いい子の元にはサンタさんは必ずやって来るのですね。
11.無評価三太夫削除
キャラクターのポジショニングがいいですね
12.100三太夫削除
すいません!評価忘れです
13.100名前が無い程度の能力削除
かわいい(ほっこり)
純真の塊のようなチルノの不精不精付き合ってくれる文の
年の離れた姉妹みたいな関係が素敵でした