ここは命蓮寺の縁側、ナズーリンは自身の足を外に投げ出しぷらぷらと揺らしながら、昨日の夜から降っている小降りの雨を何をするでもなく眺めていた。
「ナズーリン、少し話があるのですが」
そんな穏やかな時間を壊してくれる訪問者が現れた。名は寅丸星、ナズーリンの主人である。
彼女は暗い顔をして妙におどおどしながらナズーリンに話しかけた。
「(ああ、またか…)」
この時点で大体の要件を察したナズーリンは内心ため息をつきつつ、彼女にたずねた。
「何かあったのかい、ご主人」
聞かれた星は暗かった顔をより一層暗くして重々しく口を開いた。
「実は、宝塔が…」
ここまで聞き自分の予想が当たっていたことを確認したナズーリンは彼女の話の途中でさっき心の中でついたため息をもう一度、今度は実際についた。
そして、投げ出していた足を戻し、気だるそうに立ち上がった。
「!行ってくれるんですか!」
「行かないで済むならいかないけど?」
「すみませんお願いします!」
やれやれとナズーリンは自分の横に置いておいたダウジングロッドを手に取ると、まだ雨の降る外へと飛び出した。傘はダウジングの邪魔になるしまだ小雨だったから置いておいた。
「あなたの好きそうなお菓子用意しておきますねー!」
そんな主人の声を耳にしつつ彼女は命蓮寺から離れていった。少しだけ頬をほころばせながら。
雨の降りしきる中ナズーリンはダウジングをしながら空を飛んでいた。
「全くあのご主人は何回言えばわかるんだ」
ため息をつきながら愚痴をこぼすナズーリン。しかし、宝塔を探すのは実を言うとそこまで大変なことではなかった。
ナズーリンはダウジングのプロだし探し物の宝塔はそうそうほかに見ないぐらいのお宝であるから彼女の手にかかればダウジングを始めた時点で大体の場所が分かる。
故に、ナズーリンにとっては探し物というより取りに行くという方が適切である。
だからといって何回も宝塔をなくす主人のことを叱りもせずに許すようなナズーリンではない。
今日もまた、帰ったらどう注意しようか、どんなお菓子が用意されているだろうかなどどいう思いでナズーリンは頭が埋め尽くされていた。
要はダウジングをしながらも心ここにあらずといった様子であった。
しかし、数分後ナズーリンはその判断を後悔した。
もし過去に戻れるのならナズーリンはこの時の自分に文句を言いに行くだろう。後悔先に立たずである。
「こんなところに…まったく、いつもながらどうやって失くしに来るんだ?」
ナズーリンは命蓮寺から少し離れた森の1本の木に目当ての宝塔が引っかかっているのを見つけた。
「早く回収して帰ろう、雨が強くなっては困る」
ナズーリンは向こうにある真っ黒な雲を見据えながら呟いた。
ナズーリンは宝塔の近くの木の枝に足をかけた。
実はこの木は老朽化が進んでおりもはやナズーリンの小柄な体格ですら支えることが困難になっていた。
そうと気づかずナズーリンは宝塔に手を伸ばしていた。
「なッ!?」
ナズーリンと宝塔との距離が0になったとき、ついに枝はボキッと悲鳴を上げ彼女とともに地面に落ちていった。
とっさのことで反応できなかったナズーリンはそのまま地面に激突し、意識を手放した。
時刻は酉の刻、未だ降り止まぬどころか強くなった雨音を耳に感じつつ一輪は命蓮寺の廊下を歩いていた。
「失礼します寅丸さん、ってあれ」
一輪は夕餉の支度ができたことを伝えに寅丸星の部屋に来ていた、しかし当の本人はその部屋にはいなかった。
「厠かしら、まあ後でいいか」
一輪はこの場にいない寅丸をとりあえず後回しにし、ナズーリンを呼びに行くことにした。
「ナズーリン入るわよ」
2回ノックをしたあと一輪はナズーリンの部屋の襖を開けた。
「夕餉の支度ができたわよって、ん?寅丸さん」
そこで一輪が見たものは見慣れないお菓子を右手に持ちつつスヤスヤと規則正しい息をたて眠っている寅丸の姿だった。
「なんだってこんなところで、まあいいや、寅丸さん起きてください」
一輪はなぜ自分の従者の部屋で眠っているのか疑問には思ったがとりあえず寅丸を起こすことにした。
「ううん…あれ一輪…どうしたんですか」
しばらくして寅丸はゆっくりと目を開け体を起こした。
「どうしたんですかはこっちの台詞ですよ、夕餉の支度ができたので呼びに来ました」
まだ夢見心地の寅丸に一輪は自分の用件を伝えた。
「…あ、そうなんですか、わかりましたすぐ行きます」
「そうですか、それとナズーリンはどこですか。今日は彼女もこっちで食べるはずですよね」
ひとつ要件を終えた一輪はもうひとつの要件を済ますためこの部屋の主であるナズーリンのことを聞いた。
「え、ナズーリンですか?彼女は確か…」
言い切る前に寅丸は自分が寝入る前のことを思い出していた。
「ナズーリンはまだ帰ってないんですか?!」
寅丸は目を見開き一輪に半ば掴みかかるようにしてたずねた。
「え、ええ。見てないですけど」
寅丸の急な変化に戸惑いながらも一輪はなんとか答えた。
「そんな…ちょっと私ナズーリンを探してきます!」
言うが早いか寅丸は一輪から離れて外に飛び出そうとした。が、一輪に呼び止められた。
「ちょ、ちょっと寅丸さん夕餉は?!それに外すごい雨ですよ!」
「え?あ、本当です」
呼び止められた寅丸は外に目をやり、確かに雨が強くなっているのを確認した。
すると彼女はナズーリンの傘を手に持ち、
「すみません先に食べててください!」
そう叫びながら傘をさすことすらせず雨の中を駆けていった。
置いてきぼりをくらった一輪はしばらく呆然としていたが、やがて気が付くといまいち釈然としないままナズーリンの部屋を後にした。
「なんか星ちゃんがすごい勢いで走ってったけどどしたん」
ちょうどその時夕餉の食卓に付くべく歩いていたぬえが話しかけてきた。
「さあ、なんかナズーリン探して来るって言ってたけど…」
いまいち状況が理解できていない一輪はそんなあやふやな答えしか出せなかった。
「ふ~ん、ナズーリンを?…あっ」
「?なんか知ってるの、ぬえ」
未だ疑問を抱いている一輪は「あっ」ともらしたぬえの言葉に何かを知っているような意味合いを感じた。
「いやべつになにも」
そう言い残しさっさと歩き去っていくぬえを追いかけ、一輪も食卓へと足を運んだ。
部屋には寅丸の持っていたお菓子だけが寂しそうに横たわっていた。
「う、ううん…」
強くなった雨に打たれナズーリンは目を覚ました。
「ここは…つッ」
体を起こし現状を理解しようとしたナズーリンだったが、全身からくる痛みによって再び地面に倒れ込んだ。
倒れたナズーリンの体に土砂降りとなった雨が降り注ぐ。
「とにかく木の下に行こう、ここでは風邪をひく」
そう呟きナズーリンは痛む体を無理に動かし近くの木の下まで引きずっていった。
楽な姿勢をとり、改めて自分の現状を確かめる。
「体中が痛いな、特に足はしばらく歩くことはできそうにない」
「そうか、あの木から落ちたのか。どうりで」
そうしているうちにナズーリンは自分に何が起こったかを思い出していった。
「あ、そうだ宝塔は?」
気付いたナズーリンは辺りを見渡したが、すぐにやめた。なぜなら、宝塔は既に彼女の手に握られていたから。
どうやら気を失っても離さずにそして今も無意識に手に収めたままここまで移動したようだった。
「よかった。これで私までなくしていたらもうご主人を怒れなくなる」
目的の宝塔が見つかって安堵の息をもらすナズーリン、しかし事態はそうよいものではなかった。
「さてどうしたものか。この雨の中フラフラした足取りで帰っても風邪をひくだろうし、何よりたどり着ける気もしない」
かと言ってここに留まっていれば、野獣の類に襲われるかもしれないし、帰りが遅ければご主人が心配するだろう。
色々と頭を悩ませてみたが何をするにしても足がこれでは満足に出来ないと悟ったナズーリンはジタバタするよりも足の回復を持つ方が良いと判断した。
妖獣であるナズーリンは傷の回復がかなり早い。ちょっとした傷なら1時間とかからず治る。
今回の傷はちょっとしたの範疇を超えてはいるがそれでも無理に歩き回って余計なケガを負うリスクに比べればマシだろう。
「まったく、今日は厄日だな」
誰に言うでもなくナズーリンはそう溜息とともに呟いた。
「…りん!」
「…ーりん!」
「…?」
「ナズーリン!」
いつの間にかまた眠っていたナズーリンは自分の名前を呼び必死に体を揺さぶる何者かによって気がついた。
「…だれ?」
まだ視界の覚束ないナズーリンは目の前にいる人が誰なのかわからなかった。
しかし、次の瞬間彼女の意識を覚醒させる出来事が起こった。
目の前にいた何者かが突然ナズーリンに抱きついたのだ。
「ナズーリン!無事で良かった!」
ナズーリンは何が起こったのか一瞬分からなかったが、次の瞬間には今の状況、そして抱きついている者の正体を理解した。
「ご、ご主人!?どうしてここに、いやそれより…」
離れてくれと言おうとして彼女はやめた。自分の顔に熱が溜まっているのを感じたから、こんな顔を見せたくないとそう思ったから。
しかしこの主人は目の前の小さな従者の意図などに気づかず、ナズーリンの無事を確認すると体を離して彼女と向き合った。
「あなたの帰りが遅いから心配して探しに来たんですよ。こんなところにいたなんて…ん?ナズーリン顔が赤いですけどどうしました?もしかして体調が悪かったり」
「しないから大丈夫だよ。」
そう言いつつ主人の目から逃れるように顔を背け手で覆うナズーリン。
「そうですか」
多少疑惑が残る星はしかしナズーリンが大丈夫だと言ったのでとりあえずはそれを信じそれ以上言及しないことにした。
少しの間沈黙が訪れる、ナズーリンは赤面をなんとか直そうとし、星はそんなナズーリンの様子を心配そうに眺めていた。
雨の音だけがうるさく、しかし静かにこの場に流れていた。
「ところでご主人」
そして、ようやく落ち着いたナズーリンは星に対してある違和感を覚えていた。
「なんですかナズーリン」
「なぜそんなに体が濡れているんだい」
そう、星の体はナズーリンに引けを取らずずぶ濡れだった。最初は自分が濡れているからだと思っていたナズーリンだったが、抱きつかれたところが妙に冷たく感じたのだ。
いくら雨が降っていようと傘を指せばこんなに濡れるはずがない。そしてナズーリンには星の右手に傘があるのを見つけていた。なぜか星のではなく自分の傘だが。
とにかく何かあったんじゃないかと心配したナズーリンは主人の言葉を待った。
「え?ああ、すいません傘を指すのをすっかり忘れていました」
しかし帰ってきたのはいかにも間抜けな回答。思わずガクッっと倒れそうになるのを抑えるナズーリン。
「なんで傘を持ってるのに指す事を忘れるんですか、小傘が聞いたら泣きますよ」
少し呆れ気味にそうつぶやくナズーリン。なんとかいつもの調子を取り戻してきた。
しかしまたしても星の言葉によってその冷静さはなくさせられてしまった。
「だって、ナズーリンが心配で、傘を指す時間も惜しくて。それに傘だと走りづらいし探しづらいですから」
不意打ちからのこの言葉、ナズーリンは再び赤面した。
「ってまた顔が赤いじゃないですか。本当に大丈夫ですか」
「大丈夫だから寄らないでくれ」
そんなやりとりをまた開始する二人。
結局二人が落ち着いて現状把握を済ませたのはこの10分も後のことだった。
「さて、これからどうしましょうか」
星はナズーリンを見ながら言葉を続けた。
「ナズーリンは動けないんですよね」
「ああ、すまないがまだ歩くことはできそうにない」
ナズーリンは申し訳なさそうにそう言った。
「あなたが謝らないでください、謝るのは私の方で、あなたは何も悪くないのですから」
そういい星はナズーリンに深々と頭を下げた。
「いや私なんかに謝らないで…いや、わかった」
ここで主人の謝罪を辞退してもややこしくなるだけだと判断したナズーリンは言葉を切り上げ素直に星の言葉を受け取った。
「だが私の不注意で負った傷でもあるからできればそんな一方的な謝罪はよしてほしいな」
かと言って主人にだけ謝らせるのはナズーリンのプライドが許さなので、あくまで自分も悪いと認めさせようとした。
「わかりました」
星もそれが理解できたので肯定した。
「それでどうやって帰りましょうか」
一旦話を区切るため星はこれからのことについて話しだした。
「私の回復を待つしかないよ。君は先に帰ってくれていいよ」
「そんなことできませんよ。こんなとこに置いていったら何があるかわかりませんよ」
ナズーリンとしては主人にこれ以上迷惑をかけたくないのだが星は星でナズーリンのことを心配していた。
「一緒に待ちますよ。二人いでいれば危険も少ないでしょう」
「いや、そんなことしたら君が風邪をひいてしまうよ」
「あ、それもそうですね。それにほとんど説明もなしに飛び出して来たからみんな心配してるでしょうし」
ふたりして頭を抱えてしまう。
雨は強くなるばかりだ。このままでは本当に風邪をひいてしまう。
と、そのとき星にある考えが浮かんだ。
「そうだナズーリン、あなたおんぶとお姫様抱っこ、どっちが好きですか?」
「は?!」
突然の星の質問にナズーリンは彼女にしては珍しい、素っ頓狂な声を上げた。
「いきなり何を言うんだい!」
思わず立ち上がろうとするナズーリンだが痛む足がそれを静止させた。
「思いついたんですよ。私もあなたも今すぐ帰れる方法」
そんな従者の姿など見えていないかのように少し興奮気味に話す星。
そんな主人の言葉を聞いて、ナズーリンは嫌な予感を肌いっぱいに感じた。
「私があなたをどっちかして連れて行けばいいんですよ。傘をあなたに渡せば二人共濡れずに済むし」
まるで素晴らしい名案が生まれたとでも言わんばかりの星の顔にナズーリンは自分の予感が当たってしまっていたことを認めた。
「嫌だよそんなの!」
当然のようにナズーリンは否定する。どっちを選んでも羞恥プレイにしかならない選択肢など選びたくにないに決まっている。とんだ不自由な二択だ。
「なぜですか、これならあなたと二人で今すぐ帰れるのに」
自分の提案が却下されそうなことに不満を訴える星。
「それにだったらどうするんですか。このままでは風邪をひいてしまうといったのはナズーリンですよ」
「ぐっ、それは…」
自分の発言を持ち出されたナズーリンは次の言葉を失った。
「反論がないなら従ってもらいますよ。さあ、お姫様抱っこかおんぶ、どっちがいいんですか」
もはや断れない状況に追い込まれたナズーリン。窮鼠猫を噛むというがあいにく星は虎なので噛むこともできないようだ。
「………じゃあおんぶで」
「あっ!」
ナズーリンの発言に被せ星が呟いた。
「ダメですナズーリン。おんぶは重大な欠陥点がありました」
「欠陥点?」
発言が潰されたが、そんなことを気にしている余裕のないナズーリン。なぜならこの星の発言は彼女をさらに窮地に立たせることになりそうだからだ。
「ええ、ここに来るまで私は傘を指していませんでした。ですので私は今全身ずぶ濡れ状態です」
「ですので私の背中ももちろん濡れています。こんなところにあなたが乗せたら余計風邪をひきやすくなってしまいます」
「ッ!?」
予想通りまずいことになったナズーリン。彼女としてはまだおんぶの方がお姫様抱っこよりは恥ずかしさもましだった。ゆえにそれを選ぼうとしたのだが今まさにその選択肢がかき消されようとしている。
しかしナズーリンには今回の星の発言にケチをつけれなかった。正論過ぎたために。
「というわけでナズーリン」
そう笑顔で言い星はナズーリンとの距離をどんどん縮めてくる。
「なんでそんなにいい笑顔なんだご主人…」
もはや反論を諦めたナズーリンは震えながらそんな言葉をつぶやいた。
「乗り心地はどうですかナズーリン?」
「…頼むから話しかけないで、あとあんまりこっち見ないで」
ナズーリンはお姫様抱っこをされながらさっきの木の下から離れていっていた。
もうナズーリンは恥ずかしいやら情けないやらで胸がいっぱいになっており、言動も少し幼い感じになっていた。
もちろん、顔はおろか彼女の大きな耳までも真っ赤に染めながら。
「ふふふ、可愛いですよナズーリン」
「見ないでって言ってるのに…ご主人のばかぁ…」
そんなやり取りをしつつ少しずつ歩いていく星達、今まで軽く幼児退行していたナズーリンも少しつつ普段の調子を取り戻しつつあった。
「そうだ、ご主人」
余裕が少し生まれたナズーリンは星に、彼女にとってとても大切な事を言おうとした。
「なんですかナズーリン」
「この…お、お姫様抱っこだけど、森を抜けたら下ろしてくれないか」
「?なぜですか、あなたは全然重くないですよ。むしろしっかり食事を取ってるか心配なくらい」
星にとってよくわからないお願いをしたナズーリンにそう言いつつ視線をやる彼女。すでにナズーリンは顔が仄かに赤いくらいまでになっていた。
「なぜって…こんな姿人に見られたくないからだよ」
せっかく赤みが薄らいでいたナズーリンの顔が、人に見られたらという自分の発言でまた赤くなってしまった。
「う~ん、残念ですがナズーリンが嫌だというのなら仕方ありませんね」
「何が残念なんだいご主人?」
今日何度も聞いた不穏な発言につい身構えたナズーリン。
「あっでも、こんな可愛いナズーリンを独り占めできると考えればそれも素晴らしいですね」
「なッ!?」
しかし別の方向からの攻撃であえなく撃沈、赤に赤を重ねた色になったナズーリンの顔。
「そ、それはそうとご主人」
「なんですか私の可愛いナズーリン」
話を変えようとしても星が追撃の手を緩めないので狼狽しっぱなしのナズーリン。
しかし、このままではより辱められるのは目に見えていたので、なんとか口を紡いだ。
「君はどうやって私を見つけたんだい?」
ずっと疑問に思っていたナズーリンの疑問。なぜあの星が自分を見つけれたのか。
「ああ、それですか。なに簡単なことですよ」
ひとつ前置きをしておき、星は自信満々に答えた。
「私の財宝が集まる程度の能力であなたを探したんですよ」
「は?」
意味がわからないとナズーリンは星の方を見た。
「あなたという私の大切な財宝を私が探せないわけ無いでしょう」
「…もう勘弁してくれ」
ナズーリンは結局話を変えれなかったことに絶望した。
「というかそんな便利な使い方があるなら私が宝塔を探しに行かなくても良かったんじゃ」
それでもなんとか話題をそらそうとするナズーリン。だが、
「あ、それは無理ですよ。この使い方ができるのは私の一番の宝物だけですから」
努力むなしく、どう話を振っても帰ってくるのはナズーリンを辱める言葉だけだった。
その後星は口を開くことなくただ雨の音を感じながら森を出るため歩いていた
そして、
「あ、ナズーリン見てください。森を抜けましたよ」
目の前に開けた道が見えた星は約束通りナズーリンを下ろすべく話しかけたが彼女からの返事はなかった。
「ナズーリン?どうしたんですか」
星がナズーリンを覗き見ると、彼女は小さな寝息を立ててすやすやと安らかに眠っていた。
「あれ、寝てしまったんですか」
周りの音を消し、かつ耳に残らない雨の音に、心地よい体温に包まれながらゆらゆらと気持ちよく揺れる星の腕の上という状況はナズーリンを眠りに誘うには十分すぎた。
「困りましたね。下ろせと言われていたのですが」
かといって気持ちよさそうに自分の腕の中で完全に油断しきって眠っているナズーリンを起こすのは気が引ける。というか自分が下ろしたくない。
思案する星は結局自分の欲望が含まれる後者を取った。
「(誰にも見つからなければいいんですよ)」
そこまで人通りの多くないこの道ならちょっとくらい大丈夫だろう。
そう思い再び歩き始めた後ろで、パシャッっという音に気づいたものはただひとりを除いていなかった。
命蓮寺についたナズーリンたちは星の腕の中で眠っているナズーリンを全員に目撃された。
夕餉のために起こされたナズーリンは状況をすべて理解し、主人のことを真っ赤に、全身から火が出るんじゃないかというくらい怒りと羞恥で真っ赤に染めて怒った。
しかし、次の日にはこの程度では済まない辱めを受けることとなるのをナズーリンはまだ知らない。
「ナズーリン、少し話があるのですが」
そんな穏やかな時間を壊してくれる訪問者が現れた。名は寅丸星、ナズーリンの主人である。
彼女は暗い顔をして妙におどおどしながらナズーリンに話しかけた。
「(ああ、またか…)」
この時点で大体の要件を察したナズーリンは内心ため息をつきつつ、彼女にたずねた。
「何かあったのかい、ご主人」
聞かれた星は暗かった顔をより一層暗くして重々しく口を開いた。
「実は、宝塔が…」
ここまで聞き自分の予想が当たっていたことを確認したナズーリンは彼女の話の途中でさっき心の中でついたため息をもう一度、今度は実際についた。
そして、投げ出していた足を戻し、気だるそうに立ち上がった。
「!行ってくれるんですか!」
「行かないで済むならいかないけど?」
「すみませんお願いします!」
やれやれとナズーリンは自分の横に置いておいたダウジングロッドを手に取ると、まだ雨の降る外へと飛び出した。傘はダウジングの邪魔になるしまだ小雨だったから置いておいた。
「あなたの好きそうなお菓子用意しておきますねー!」
そんな主人の声を耳にしつつ彼女は命蓮寺から離れていった。少しだけ頬をほころばせながら。
雨の降りしきる中ナズーリンはダウジングをしながら空を飛んでいた。
「全くあのご主人は何回言えばわかるんだ」
ため息をつきながら愚痴をこぼすナズーリン。しかし、宝塔を探すのは実を言うとそこまで大変なことではなかった。
ナズーリンはダウジングのプロだし探し物の宝塔はそうそうほかに見ないぐらいのお宝であるから彼女の手にかかればダウジングを始めた時点で大体の場所が分かる。
故に、ナズーリンにとっては探し物というより取りに行くという方が適切である。
だからといって何回も宝塔をなくす主人のことを叱りもせずに許すようなナズーリンではない。
今日もまた、帰ったらどう注意しようか、どんなお菓子が用意されているだろうかなどどいう思いでナズーリンは頭が埋め尽くされていた。
要はダウジングをしながらも心ここにあらずといった様子であった。
しかし、数分後ナズーリンはその判断を後悔した。
もし過去に戻れるのならナズーリンはこの時の自分に文句を言いに行くだろう。後悔先に立たずである。
「こんなところに…まったく、いつもながらどうやって失くしに来るんだ?」
ナズーリンは命蓮寺から少し離れた森の1本の木に目当ての宝塔が引っかかっているのを見つけた。
「早く回収して帰ろう、雨が強くなっては困る」
ナズーリンは向こうにある真っ黒な雲を見据えながら呟いた。
ナズーリンは宝塔の近くの木の枝に足をかけた。
実はこの木は老朽化が進んでおりもはやナズーリンの小柄な体格ですら支えることが困難になっていた。
そうと気づかずナズーリンは宝塔に手を伸ばしていた。
「なッ!?」
ナズーリンと宝塔との距離が0になったとき、ついに枝はボキッと悲鳴を上げ彼女とともに地面に落ちていった。
とっさのことで反応できなかったナズーリンはそのまま地面に激突し、意識を手放した。
時刻は酉の刻、未だ降り止まぬどころか強くなった雨音を耳に感じつつ一輪は命蓮寺の廊下を歩いていた。
「失礼します寅丸さん、ってあれ」
一輪は夕餉の支度ができたことを伝えに寅丸星の部屋に来ていた、しかし当の本人はその部屋にはいなかった。
「厠かしら、まあ後でいいか」
一輪はこの場にいない寅丸をとりあえず後回しにし、ナズーリンを呼びに行くことにした。
「ナズーリン入るわよ」
2回ノックをしたあと一輪はナズーリンの部屋の襖を開けた。
「夕餉の支度ができたわよって、ん?寅丸さん」
そこで一輪が見たものは見慣れないお菓子を右手に持ちつつスヤスヤと規則正しい息をたて眠っている寅丸の姿だった。
「なんだってこんなところで、まあいいや、寅丸さん起きてください」
一輪はなぜ自分の従者の部屋で眠っているのか疑問には思ったがとりあえず寅丸を起こすことにした。
「ううん…あれ一輪…どうしたんですか」
しばらくして寅丸はゆっくりと目を開け体を起こした。
「どうしたんですかはこっちの台詞ですよ、夕餉の支度ができたので呼びに来ました」
まだ夢見心地の寅丸に一輪は自分の用件を伝えた。
「…あ、そうなんですか、わかりましたすぐ行きます」
「そうですか、それとナズーリンはどこですか。今日は彼女もこっちで食べるはずですよね」
ひとつ要件を終えた一輪はもうひとつの要件を済ますためこの部屋の主であるナズーリンのことを聞いた。
「え、ナズーリンですか?彼女は確か…」
言い切る前に寅丸は自分が寝入る前のことを思い出していた。
「ナズーリンはまだ帰ってないんですか?!」
寅丸は目を見開き一輪に半ば掴みかかるようにしてたずねた。
「え、ええ。見てないですけど」
寅丸の急な変化に戸惑いながらも一輪はなんとか答えた。
「そんな…ちょっと私ナズーリンを探してきます!」
言うが早いか寅丸は一輪から離れて外に飛び出そうとした。が、一輪に呼び止められた。
「ちょ、ちょっと寅丸さん夕餉は?!それに外すごい雨ですよ!」
「え?あ、本当です」
呼び止められた寅丸は外に目をやり、確かに雨が強くなっているのを確認した。
すると彼女はナズーリンの傘を手に持ち、
「すみません先に食べててください!」
そう叫びながら傘をさすことすらせず雨の中を駆けていった。
置いてきぼりをくらった一輪はしばらく呆然としていたが、やがて気が付くといまいち釈然としないままナズーリンの部屋を後にした。
「なんか星ちゃんがすごい勢いで走ってったけどどしたん」
ちょうどその時夕餉の食卓に付くべく歩いていたぬえが話しかけてきた。
「さあ、なんかナズーリン探して来るって言ってたけど…」
いまいち状況が理解できていない一輪はそんなあやふやな答えしか出せなかった。
「ふ~ん、ナズーリンを?…あっ」
「?なんか知ってるの、ぬえ」
未だ疑問を抱いている一輪は「あっ」ともらしたぬえの言葉に何かを知っているような意味合いを感じた。
「いやべつになにも」
そう言い残しさっさと歩き去っていくぬえを追いかけ、一輪も食卓へと足を運んだ。
部屋には寅丸の持っていたお菓子だけが寂しそうに横たわっていた。
「う、ううん…」
強くなった雨に打たれナズーリンは目を覚ました。
「ここは…つッ」
体を起こし現状を理解しようとしたナズーリンだったが、全身からくる痛みによって再び地面に倒れ込んだ。
倒れたナズーリンの体に土砂降りとなった雨が降り注ぐ。
「とにかく木の下に行こう、ここでは風邪をひく」
そう呟きナズーリンは痛む体を無理に動かし近くの木の下まで引きずっていった。
楽な姿勢をとり、改めて自分の現状を確かめる。
「体中が痛いな、特に足はしばらく歩くことはできそうにない」
「そうか、あの木から落ちたのか。どうりで」
そうしているうちにナズーリンは自分に何が起こったかを思い出していった。
「あ、そうだ宝塔は?」
気付いたナズーリンは辺りを見渡したが、すぐにやめた。なぜなら、宝塔は既に彼女の手に握られていたから。
どうやら気を失っても離さずにそして今も無意識に手に収めたままここまで移動したようだった。
「よかった。これで私までなくしていたらもうご主人を怒れなくなる」
目的の宝塔が見つかって安堵の息をもらすナズーリン、しかし事態はそうよいものではなかった。
「さてどうしたものか。この雨の中フラフラした足取りで帰っても風邪をひくだろうし、何よりたどり着ける気もしない」
かと言ってここに留まっていれば、野獣の類に襲われるかもしれないし、帰りが遅ければご主人が心配するだろう。
色々と頭を悩ませてみたが何をするにしても足がこれでは満足に出来ないと悟ったナズーリンはジタバタするよりも足の回復を持つ方が良いと判断した。
妖獣であるナズーリンは傷の回復がかなり早い。ちょっとした傷なら1時間とかからず治る。
今回の傷はちょっとしたの範疇を超えてはいるがそれでも無理に歩き回って余計なケガを負うリスクに比べればマシだろう。
「まったく、今日は厄日だな」
誰に言うでもなくナズーリンはそう溜息とともに呟いた。
「…りん!」
「…ーりん!」
「…?」
「ナズーリン!」
いつの間にかまた眠っていたナズーリンは自分の名前を呼び必死に体を揺さぶる何者かによって気がついた。
「…だれ?」
まだ視界の覚束ないナズーリンは目の前にいる人が誰なのかわからなかった。
しかし、次の瞬間彼女の意識を覚醒させる出来事が起こった。
目の前にいた何者かが突然ナズーリンに抱きついたのだ。
「ナズーリン!無事で良かった!」
ナズーリンは何が起こったのか一瞬分からなかったが、次の瞬間には今の状況、そして抱きついている者の正体を理解した。
「ご、ご主人!?どうしてここに、いやそれより…」
離れてくれと言おうとして彼女はやめた。自分の顔に熱が溜まっているのを感じたから、こんな顔を見せたくないとそう思ったから。
しかしこの主人は目の前の小さな従者の意図などに気づかず、ナズーリンの無事を確認すると体を離して彼女と向き合った。
「あなたの帰りが遅いから心配して探しに来たんですよ。こんなところにいたなんて…ん?ナズーリン顔が赤いですけどどうしました?もしかして体調が悪かったり」
「しないから大丈夫だよ。」
そう言いつつ主人の目から逃れるように顔を背け手で覆うナズーリン。
「そうですか」
多少疑惑が残る星はしかしナズーリンが大丈夫だと言ったのでとりあえずはそれを信じそれ以上言及しないことにした。
少しの間沈黙が訪れる、ナズーリンは赤面をなんとか直そうとし、星はそんなナズーリンの様子を心配そうに眺めていた。
雨の音だけがうるさく、しかし静かにこの場に流れていた。
「ところでご主人」
そして、ようやく落ち着いたナズーリンは星に対してある違和感を覚えていた。
「なんですかナズーリン」
「なぜそんなに体が濡れているんだい」
そう、星の体はナズーリンに引けを取らずずぶ濡れだった。最初は自分が濡れているからだと思っていたナズーリンだったが、抱きつかれたところが妙に冷たく感じたのだ。
いくら雨が降っていようと傘を指せばこんなに濡れるはずがない。そしてナズーリンには星の右手に傘があるのを見つけていた。なぜか星のではなく自分の傘だが。
とにかく何かあったんじゃないかと心配したナズーリンは主人の言葉を待った。
「え?ああ、すいません傘を指すのをすっかり忘れていました」
しかし帰ってきたのはいかにも間抜けな回答。思わずガクッっと倒れそうになるのを抑えるナズーリン。
「なんで傘を持ってるのに指す事を忘れるんですか、小傘が聞いたら泣きますよ」
少し呆れ気味にそうつぶやくナズーリン。なんとかいつもの調子を取り戻してきた。
しかしまたしても星の言葉によってその冷静さはなくさせられてしまった。
「だって、ナズーリンが心配で、傘を指す時間も惜しくて。それに傘だと走りづらいし探しづらいですから」
不意打ちからのこの言葉、ナズーリンは再び赤面した。
「ってまた顔が赤いじゃないですか。本当に大丈夫ですか」
「大丈夫だから寄らないでくれ」
そんなやりとりをまた開始する二人。
結局二人が落ち着いて現状把握を済ませたのはこの10分も後のことだった。
「さて、これからどうしましょうか」
星はナズーリンを見ながら言葉を続けた。
「ナズーリンは動けないんですよね」
「ああ、すまないがまだ歩くことはできそうにない」
ナズーリンは申し訳なさそうにそう言った。
「あなたが謝らないでください、謝るのは私の方で、あなたは何も悪くないのですから」
そういい星はナズーリンに深々と頭を下げた。
「いや私なんかに謝らないで…いや、わかった」
ここで主人の謝罪を辞退してもややこしくなるだけだと判断したナズーリンは言葉を切り上げ素直に星の言葉を受け取った。
「だが私の不注意で負った傷でもあるからできればそんな一方的な謝罪はよしてほしいな」
かと言って主人にだけ謝らせるのはナズーリンのプライドが許さなので、あくまで自分も悪いと認めさせようとした。
「わかりました」
星もそれが理解できたので肯定した。
「それでどうやって帰りましょうか」
一旦話を区切るため星はこれからのことについて話しだした。
「私の回復を待つしかないよ。君は先に帰ってくれていいよ」
「そんなことできませんよ。こんなとこに置いていったら何があるかわかりませんよ」
ナズーリンとしては主人にこれ以上迷惑をかけたくないのだが星は星でナズーリンのことを心配していた。
「一緒に待ちますよ。二人いでいれば危険も少ないでしょう」
「いや、そんなことしたら君が風邪をひいてしまうよ」
「あ、それもそうですね。それにほとんど説明もなしに飛び出して来たからみんな心配してるでしょうし」
ふたりして頭を抱えてしまう。
雨は強くなるばかりだ。このままでは本当に風邪をひいてしまう。
と、そのとき星にある考えが浮かんだ。
「そうだナズーリン、あなたおんぶとお姫様抱っこ、どっちが好きですか?」
「は?!」
突然の星の質問にナズーリンは彼女にしては珍しい、素っ頓狂な声を上げた。
「いきなり何を言うんだい!」
思わず立ち上がろうとするナズーリンだが痛む足がそれを静止させた。
「思いついたんですよ。私もあなたも今すぐ帰れる方法」
そんな従者の姿など見えていないかのように少し興奮気味に話す星。
そんな主人の言葉を聞いて、ナズーリンは嫌な予感を肌いっぱいに感じた。
「私があなたをどっちかして連れて行けばいいんですよ。傘をあなたに渡せば二人共濡れずに済むし」
まるで素晴らしい名案が生まれたとでも言わんばかりの星の顔にナズーリンは自分の予感が当たってしまっていたことを認めた。
「嫌だよそんなの!」
当然のようにナズーリンは否定する。どっちを選んでも羞恥プレイにしかならない選択肢など選びたくにないに決まっている。とんだ不自由な二択だ。
「なぜですか、これならあなたと二人で今すぐ帰れるのに」
自分の提案が却下されそうなことに不満を訴える星。
「それにだったらどうするんですか。このままでは風邪をひいてしまうといったのはナズーリンですよ」
「ぐっ、それは…」
自分の発言を持ち出されたナズーリンは次の言葉を失った。
「反論がないなら従ってもらいますよ。さあ、お姫様抱っこかおんぶ、どっちがいいんですか」
もはや断れない状況に追い込まれたナズーリン。窮鼠猫を噛むというがあいにく星は虎なので噛むこともできないようだ。
「………じゃあおんぶで」
「あっ!」
ナズーリンの発言に被せ星が呟いた。
「ダメですナズーリン。おんぶは重大な欠陥点がありました」
「欠陥点?」
発言が潰されたが、そんなことを気にしている余裕のないナズーリン。なぜならこの星の発言は彼女をさらに窮地に立たせることになりそうだからだ。
「ええ、ここに来るまで私は傘を指していませんでした。ですので私は今全身ずぶ濡れ状態です」
「ですので私の背中ももちろん濡れています。こんなところにあなたが乗せたら余計風邪をひきやすくなってしまいます」
「ッ!?」
予想通りまずいことになったナズーリン。彼女としてはまだおんぶの方がお姫様抱っこよりは恥ずかしさもましだった。ゆえにそれを選ぼうとしたのだが今まさにその選択肢がかき消されようとしている。
しかしナズーリンには今回の星の発言にケチをつけれなかった。正論過ぎたために。
「というわけでナズーリン」
そう笑顔で言い星はナズーリンとの距離をどんどん縮めてくる。
「なんでそんなにいい笑顔なんだご主人…」
もはや反論を諦めたナズーリンは震えながらそんな言葉をつぶやいた。
「乗り心地はどうですかナズーリン?」
「…頼むから話しかけないで、あとあんまりこっち見ないで」
ナズーリンはお姫様抱っこをされながらさっきの木の下から離れていっていた。
もうナズーリンは恥ずかしいやら情けないやらで胸がいっぱいになっており、言動も少し幼い感じになっていた。
もちろん、顔はおろか彼女の大きな耳までも真っ赤に染めながら。
「ふふふ、可愛いですよナズーリン」
「見ないでって言ってるのに…ご主人のばかぁ…」
そんなやり取りをしつつ少しずつ歩いていく星達、今まで軽く幼児退行していたナズーリンも少しつつ普段の調子を取り戻しつつあった。
「そうだ、ご主人」
余裕が少し生まれたナズーリンは星に、彼女にとってとても大切な事を言おうとした。
「なんですかナズーリン」
「この…お、お姫様抱っこだけど、森を抜けたら下ろしてくれないか」
「?なぜですか、あなたは全然重くないですよ。むしろしっかり食事を取ってるか心配なくらい」
星にとってよくわからないお願いをしたナズーリンにそう言いつつ視線をやる彼女。すでにナズーリンは顔が仄かに赤いくらいまでになっていた。
「なぜって…こんな姿人に見られたくないからだよ」
せっかく赤みが薄らいでいたナズーリンの顔が、人に見られたらという自分の発言でまた赤くなってしまった。
「う~ん、残念ですがナズーリンが嫌だというのなら仕方ありませんね」
「何が残念なんだいご主人?」
今日何度も聞いた不穏な発言につい身構えたナズーリン。
「あっでも、こんな可愛いナズーリンを独り占めできると考えればそれも素晴らしいですね」
「なッ!?」
しかし別の方向からの攻撃であえなく撃沈、赤に赤を重ねた色になったナズーリンの顔。
「そ、それはそうとご主人」
「なんですか私の可愛いナズーリン」
話を変えようとしても星が追撃の手を緩めないので狼狽しっぱなしのナズーリン。
しかし、このままではより辱められるのは目に見えていたので、なんとか口を紡いだ。
「君はどうやって私を見つけたんだい?」
ずっと疑問に思っていたナズーリンの疑問。なぜあの星が自分を見つけれたのか。
「ああ、それですか。なに簡単なことですよ」
ひとつ前置きをしておき、星は自信満々に答えた。
「私の財宝が集まる程度の能力であなたを探したんですよ」
「は?」
意味がわからないとナズーリンは星の方を見た。
「あなたという私の大切な財宝を私が探せないわけ無いでしょう」
「…もう勘弁してくれ」
ナズーリンは結局話を変えれなかったことに絶望した。
「というかそんな便利な使い方があるなら私が宝塔を探しに行かなくても良かったんじゃ」
それでもなんとか話題をそらそうとするナズーリン。だが、
「あ、それは無理ですよ。この使い方ができるのは私の一番の宝物だけですから」
努力むなしく、どう話を振っても帰ってくるのはナズーリンを辱める言葉だけだった。
その後星は口を開くことなくただ雨の音を感じながら森を出るため歩いていた
そして、
「あ、ナズーリン見てください。森を抜けましたよ」
目の前に開けた道が見えた星は約束通りナズーリンを下ろすべく話しかけたが彼女からの返事はなかった。
「ナズーリン?どうしたんですか」
星がナズーリンを覗き見ると、彼女は小さな寝息を立ててすやすやと安らかに眠っていた。
「あれ、寝てしまったんですか」
周りの音を消し、かつ耳に残らない雨の音に、心地よい体温に包まれながらゆらゆらと気持ちよく揺れる星の腕の上という状況はナズーリンを眠りに誘うには十分すぎた。
「困りましたね。下ろせと言われていたのですが」
かといって気持ちよさそうに自分の腕の中で完全に油断しきって眠っているナズーリンを起こすのは気が引ける。というか自分が下ろしたくない。
思案する星は結局自分の欲望が含まれる後者を取った。
「(誰にも見つからなければいいんですよ)」
そこまで人通りの多くないこの道ならちょっとくらい大丈夫だろう。
そう思い再び歩き始めた後ろで、パシャッっという音に気づいたものはただひとりを除いていなかった。
命蓮寺についたナズーリンたちは星の腕の中で眠っているナズーリンを全員に目撃された。
夕餉のために起こされたナズーリンは状況をすべて理解し、主人のことを真っ赤に、全身から火が出るんじゃないかというくらい怒りと羞恥で真っ赤に染めて怒った。
しかし、次の日にはこの程度では済まない辱めを受けることとなるのをナズーリンはまだ知らない。
同じ学生としてこの文章力は正直羨ましいw
1番さま
初めてのコメントありがとうございます。自分なんかまだまだですがそう言ってもらえるのはとても嬉しいです。
奇声を発する程度の能力さま
ありがとうございます。これからもそう言ってもらえるような作品を作っていきたいと思います。
4番さま
ありがとうございます。次がいつになるかは未定ですが、よろしければまた見てやってください。
絶望を司る程度の能力さま
ありがとうございます。まだ未熟者ですが褒めてもらえると喜ぶので今後もそうしてやってくださいw
9番さま
高校1年生ですすいません…次回から直していきたいと思いますのでよろしければ読んでください。ご指摘ありがとうございました。
10番さま
ありがとうございます。よくあるような話で申し訳ないですが、楽しんでくださったなら幸いです。
次作楽しみです。特にレミフラ待ってます
ありがとうございます。なにかナズーリンには辱めが似合いますよね。公式で小心者だからでしょうか。
次回作はレミフラの予定です、気長に待っててください。