今年もあとわずかとなった冬の日、大学が休みなのでいつものように特に理由もなくメリーのアパートに集まる。
冬の陽に当たって窓際でゴロゴロしながら背中を伸ばす。昨日はレポートを仕上げるために遅くまで起きていたので肩と背中が痛い。
「んーっ、背中凝っちゃったわ。メリー踏んでー」
「しょうがないわね、じゃあこっち来て」
ごろごろとカーペットの上を転がって椅子に座って本を読んでいるメリーの足元に移動し、うつ伏せになって背中を差し出す。
メリーが履いていた白い靴下を脱ぎ捨てると色白な長い脚が露わになる。その美しい脚が私の上に降りてきて背中を優しく踏みつけた。ぎゅっぎゅっと左右の足から交互に圧力を感じる。
はあと声を出しながら息を吐き出すと疲れが吹き飛んでいくようだ。
理系の女子大生は疲れるものである。大学に遅くまで残ったり、一晩掛ってレポートを書いたりすれば目はゴロゴロ、肩と背中はバキバキ。
そんなとき、私はよくメリーに背中を踏んでもらう。メリーの柔らかな足裏が背中を押して凝り固まった筋肉を揉みほぐしていく、至福の時間だ。
「どう?気持ちいい?」
「ん…気持ちいい」
メリーの足踏みマッサージの魅力に気付いたのはひょんなことからだった。
夏の京都は暑い。それでも盆を過ぎれば夜には涼しい風が吹くようになる。
風呂から上がった私は窓を開けて夜風に当たりながら布団に倒れていた。
「もう蓮子ー、背中出てるわよ」
「暑いからいいわよ、寝るときに布団は被るから寝冷えの心配はないわ」
「そうじゃなくて、背中に蚊が止まってる」
「え」
科学世紀になっても相変わらず蚊は人類の宿敵である。
蚊が媒介する大抵の病気を治すことはできるようになったが、それでも蚊が人間の血を吸い、痒みを植え付けていくこと自体を完全に防ぐことはできない。
ましてや、風呂に入った後の体は無防備すぎる。夏の夜に窓を開けていれば、いくら電子式液体蚊取りを焚いていても数匹は蚊が部屋に入ってきてしまう。
いつの時代も蚊は憎き人類の敵なのである。
「じっとしてて、退治してあげるから」
「頑張れー、っていうかお願い」
そう言って手元の枕に寄りかかった直後に、腰に突然重圧を感じた。
思わずぐええと言ってそのまま枕に顔をうずめた。ぐりぐりと腰を踏みつけられる感覚がする。同時に足の指がむぎゅむぎゅと背中の肉を揉んでいるようだ。
蚊を退治してくれると言ったから頼んだらまさか腰を踏まれるとは。
しばらくするとその踏みつけられる感覚から解放された。
「め、メリー…何するのよ…」
「ほら、蚊を退治したわよ」
恨めし気にゆっくりと後ろを振り向こうとするとメリーが足の裏を私の顔の方に向けてきた。
見ると足の裏の親指の付け根の膨らんだ部分に赤いシミがついていて、それはさっきまで私の背中に針を突き刺して悠々と血を吸っていたところを踏み潰された蚊の末路だった。
「おー…ありがとう…」
蚊は血を大量に吸っていたようで、足の裏には血液がべっとりと付いていた。若干おぞましい光景に軽く恐怖を感じながら私はメリーの足裏をしげしげと眺めた。
26 cmのエジプト型で縦長のスラッとした足裏は、皺もほとんどなくつるりとしていて、色白で美しい。偏平足というわけでもなく、深い土踏まずが足の真ん中に三角地帯を作っている。
指も割と長細く、足に対してスタイルが良いという表現を使うのが正しいのかは分からないが、なかなか綺麗な形をしていると思う。
「まさか蚊を退治するのに足を使ってくるとは思わなかったわ」
「まあそこに足があったからね。どう?私の捕獲技術。ホラ」
「そんな足顔の所に持ってこないで。臭いから…」
「失礼な、さっき風呂から上がったばかりよ。」
「ごめんごめん、冗談だから踏まないで。あいたた!」
「このっ!このっ!」
「あれ、メリー背中のマッサージ上手くない?普通に気持ちいいんだけど」
「え、ほんとに?それってそういう意味じゃなくて?」
「そういう意味じゃなくて…いやそうかも…」
「こんにゃろー!」
「痛い痛い!でも気持ちいい!」
…という一件以来、私は今ではメリーの足踏みマッサージの虜になっている。
私の背中で鍛えられたメリーのマッサージ技術と足裏の感覚はプロ級である。
私の様子を見ただけで疲れ具合を感じ取り、足の裏の感覚でどこが凝り固まっているかを分かってくれてちょうど良い力加減で踏んでくれるし、もはや宇佐見蓮子専属マッサージ師メリーと化している。マッサージ師メリー、なんとも微妙な響きである。
ともかく、メリーに踏んでもらうことで元気になれるのだ。この最高のマッサージを体験できるのも秘封倶楽部のたった2人のメンバーのうちの1人である私だけの特権である。
「はい終わり。もう十分でしょ」
「えーもう終わり?もっとー」
「あのね、昨日は歩き回ったから私も足が疲れてるのよ」
そりゃあ京都駅から四条まで歩けば誰だって疲れるだろう。いくらバスが地上区間の渋滞で来ないからって、そんな距離を歩こうとする人間は今時そうそういない。そりゃ確かに場合によっては歩いた方が早いこともあるけど…
ちなみに夕方になると渋滞に巻き込まれるので塩小路高倉→京都駅の数百mの距離はバスで20分近くかかる。急いでいるときは歩いた方が良い。
「ねえメリー、お願い…」
メリーの足元から上目遣いにお願いしてみる。メリーは冷ややかな目線で私を見下ろして、それから何かを思いついたようでにやりと笑った。
「…じゃあ『もっと踏んでくださいメリー様』って言ったらもっとしてあげる」
足の指をくねくねと艶めかしく動かしながらこんなセリフを放って来るから、不覚にも少しドキッとしてしまった。
本人は冗談のつもりだろうが、仕草が妙に色っぽく見えて困る。いや、目が冗談には見えないんだけど。
でも
「…もっと踏んでくださいメリー様」
あっさりと要求を飲む。とことんサディスティックなメリーさんめ。これぐらいで私が躊躇するとでも思ったのだろうか。
「はいはい、分かったわよ。はい背中向けて」
面倒くさそうに、しかし少し満足そうな表情を見せながら言う。やっぱり半分本気だったな。
もちろん私だって普段から誰の要求でもすぐ受け入れるような安い女じゃない。
河原町でナンパされたことは何度かあるけど全部蹴散らしたし、簡単に男に媚を売るような真似をする気はない。
でも今回の要求は受け入れざるを得ない案件だから仕方ない。便利な生活に犠牲は付き物なのである。背に腹は代えられない。腹を踏まれるのはさすがに内臓に悪そうだからやめたほうが良い。
だから、こうしてメリーからの多少変態的な要求でも受け入れる。こうして私は快適な女子大生ライフを手に入れているのである。女子大生とはなんと苦労の絶えない人種なのだろうか。
「メリーもっと強くー」
「もー、わがまま言わないでよ。これぐらい?」
「ダメダメ、そんなんじゃ専属マッサージ師クビよ。この時代に雇ってもらえるだけありがたいと思いなさい」
「あっ、そう!分かったわよ。もっと強く踏めばいいのね。ふぬー!」
「ぎゃああ痛い!ごめんごめん!ていうか顔まで踏むな!んぎゅ…」
「あははは!私の足元でもがき苦しむが良いわ!」
私の顔を踏みつけながらそんなセリフを吐くメリーさん。少し汗ばんだ足裏が頬にペタペタと貼りつく。もはやマッサージどころではない。
背中と顔に足裏の柔らかさと圧力をまともに受けながら、しばらく2人でバタバタと戯れていたのであった。
こうして今日も一日が過ぎていく。
冬の陽に当たって窓際でゴロゴロしながら背中を伸ばす。昨日はレポートを仕上げるために遅くまで起きていたので肩と背中が痛い。
「んーっ、背中凝っちゃったわ。メリー踏んでー」
「しょうがないわね、じゃあこっち来て」
ごろごろとカーペットの上を転がって椅子に座って本を読んでいるメリーの足元に移動し、うつ伏せになって背中を差し出す。
メリーが履いていた白い靴下を脱ぎ捨てると色白な長い脚が露わになる。その美しい脚が私の上に降りてきて背中を優しく踏みつけた。ぎゅっぎゅっと左右の足から交互に圧力を感じる。
はあと声を出しながら息を吐き出すと疲れが吹き飛んでいくようだ。
理系の女子大生は疲れるものである。大学に遅くまで残ったり、一晩掛ってレポートを書いたりすれば目はゴロゴロ、肩と背中はバキバキ。
そんなとき、私はよくメリーに背中を踏んでもらう。メリーの柔らかな足裏が背中を押して凝り固まった筋肉を揉みほぐしていく、至福の時間だ。
「どう?気持ちいい?」
「ん…気持ちいい」
メリーの足踏みマッサージの魅力に気付いたのはひょんなことからだった。
夏の京都は暑い。それでも盆を過ぎれば夜には涼しい風が吹くようになる。
風呂から上がった私は窓を開けて夜風に当たりながら布団に倒れていた。
「もう蓮子ー、背中出てるわよ」
「暑いからいいわよ、寝るときに布団は被るから寝冷えの心配はないわ」
「そうじゃなくて、背中に蚊が止まってる」
「え」
科学世紀になっても相変わらず蚊は人類の宿敵である。
蚊が媒介する大抵の病気を治すことはできるようになったが、それでも蚊が人間の血を吸い、痒みを植え付けていくこと自体を完全に防ぐことはできない。
ましてや、風呂に入った後の体は無防備すぎる。夏の夜に窓を開けていれば、いくら電子式液体蚊取りを焚いていても数匹は蚊が部屋に入ってきてしまう。
いつの時代も蚊は憎き人類の敵なのである。
「じっとしてて、退治してあげるから」
「頑張れー、っていうかお願い」
そう言って手元の枕に寄りかかった直後に、腰に突然重圧を感じた。
思わずぐええと言ってそのまま枕に顔をうずめた。ぐりぐりと腰を踏みつけられる感覚がする。同時に足の指がむぎゅむぎゅと背中の肉を揉んでいるようだ。
蚊を退治してくれると言ったから頼んだらまさか腰を踏まれるとは。
しばらくするとその踏みつけられる感覚から解放された。
「め、メリー…何するのよ…」
「ほら、蚊を退治したわよ」
恨めし気にゆっくりと後ろを振り向こうとするとメリーが足の裏を私の顔の方に向けてきた。
見ると足の裏の親指の付け根の膨らんだ部分に赤いシミがついていて、それはさっきまで私の背中に針を突き刺して悠々と血を吸っていたところを踏み潰された蚊の末路だった。
「おー…ありがとう…」
蚊は血を大量に吸っていたようで、足の裏には血液がべっとりと付いていた。若干おぞましい光景に軽く恐怖を感じながら私はメリーの足裏をしげしげと眺めた。
26 cmのエジプト型で縦長のスラッとした足裏は、皺もほとんどなくつるりとしていて、色白で美しい。偏平足というわけでもなく、深い土踏まずが足の真ん中に三角地帯を作っている。
指も割と長細く、足に対してスタイルが良いという表現を使うのが正しいのかは分からないが、なかなか綺麗な形をしていると思う。
「まさか蚊を退治するのに足を使ってくるとは思わなかったわ」
「まあそこに足があったからね。どう?私の捕獲技術。ホラ」
「そんな足顔の所に持ってこないで。臭いから…」
「失礼な、さっき風呂から上がったばかりよ。」
「ごめんごめん、冗談だから踏まないで。あいたた!」
「このっ!このっ!」
「あれ、メリー背中のマッサージ上手くない?普通に気持ちいいんだけど」
「え、ほんとに?それってそういう意味じゃなくて?」
「そういう意味じゃなくて…いやそうかも…」
「こんにゃろー!」
「痛い痛い!でも気持ちいい!」
…という一件以来、私は今ではメリーの足踏みマッサージの虜になっている。
私の背中で鍛えられたメリーのマッサージ技術と足裏の感覚はプロ級である。
私の様子を見ただけで疲れ具合を感じ取り、足の裏の感覚でどこが凝り固まっているかを分かってくれてちょうど良い力加減で踏んでくれるし、もはや宇佐見蓮子専属マッサージ師メリーと化している。マッサージ師メリー、なんとも微妙な響きである。
ともかく、メリーに踏んでもらうことで元気になれるのだ。この最高のマッサージを体験できるのも秘封倶楽部のたった2人のメンバーのうちの1人である私だけの特権である。
「はい終わり。もう十分でしょ」
「えーもう終わり?もっとー」
「あのね、昨日は歩き回ったから私も足が疲れてるのよ」
そりゃあ京都駅から四条まで歩けば誰だって疲れるだろう。いくらバスが地上区間の渋滞で来ないからって、そんな距離を歩こうとする人間は今時そうそういない。そりゃ確かに場合によっては歩いた方が早いこともあるけど…
ちなみに夕方になると渋滞に巻き込まれるので塩小路高倉→京都駅の数百mの距離はバスで20分近くかかる。急いでいるときは歩いた方が良い。
「ねえメリー、お願い…」
メリーの足元から上目遣いにお願いしてみる。メリーは冷ややかな目線で私を見下ろして、それから何かを思いついたようでにやりと笑った。
「…じゃあ『もっと踏んでくださいメリー様』って言ったらもっとしてあげる」
足の指をくねくねと艶めかしく動かしながらこんなセリフを放って来るから、不覚にも少しドキッとしてしまった。
本人は冗談のつもりだろうが、仕草が妙に色っぽく見えて困る。いや、目が冗談には見えないんだけど。
でも
「…もっと踏んでくださいメリー様」
あっさりと要求を飲む。とことんサディスティックなメリーさんめ。これぐらいで私が躊躇するとでも思ったのだろうか。
「はいはい、分かったわよ。はい背中向けて」
面倒くさそうに、しかし少し満足そうな表情を見せながら言う。やっぱり半分本気だったな。
もちろん私だって普段から誰の要求でもすぐ受け入れるような安い女じゃない。
河原町でナンパされたことは何度かあるけど全部蹴散らしたし、簡単に男に媚を売るような真似をする気はない。
でも今回の要求は受け入れざるを得ない案件だから仕方ない。便利な生活に犠牲は付き物なのである。背に腹は代えられない。腹を踏まれるのはさすがに内臓に悪そうだからやめたほうが良い。
だから、こうしてメリーからの多少変態的な要求でも受け入れる。こうして私は快適な女子大生ライフを手に入れているのである。女子大生とはなんと苦労の絶えない人種なのだろうか。
「メリーもっと強くー」
「もー、わがまま言わないでよ。これぐらい?」
「ダメダメ、そんなんじゃ専属マッサージ師クビよ。この時代に雇ってもらえるだけありがたいと思いなさい」
「あっ、そう!分かったわよ。もっと強く踏めばいいのね。ふぬー!」
「ぎゃああ痛い!ごめんごめん!ていうか顔まで踏むな!んぎゅ…」
「あははは!私の足元でもがき苦しむが良いわ!」
私の顔を踏みつけながらそんなセリフを吐くメリーさん。少し汗ばんだ足裏が頬にペタペタと貼りつく。もはやマッサージどころではない。
背中と顔に足裏の柔らかさと圧力をまともに受けながら、しばらく2人でバタバタと戯れていたのであった。
こうして今日も一日が過ぎていく。
蓮子の血がついたメリーの足はなんというか……変な妄想が書きたてられる
もしくはメリーの靴下になりたい