メリーの部屋に上がり込み、二人でシャンパンを呷っていると、段々と愉快な気持ちになってきた。顔面に熱がのぼり、立てば朦朧、歩けば酔歩が縦横無尽の有様となって、室内にある本棚や机や壁や床や天井が波打ったり縮こまったりするように思われる。どうやら私は酔っぱらっているらしい。メリーも酔いで顔を赤くして、締まりなくへらへらと笑っている。
今日はクリスマスイブである。浮いた話のない私たち秘封倶楽部の二人は「恋人が何だくそったれ!」とすぐさま結託して、シャンパンとチキンとケーキを買い込んで部屋に篭城した。これらを買ったのは、私とメリーが聖夜そのものを嫌悪している訳ではないことを表明するためである。秘封倶楽部が苦手とするのは浮かれぽんちなカップルであって、クリスマスイブ自体にはこれといった恨みはない。逆に大手を振ってケーキを貪れる日と認識しているため有難いくらいである。
「シャンパンはあまり飲まないけど、こういう日に飲むと何故か美味しく感じるわね」私は熱い顔を手で扇ぎながら言った。
「あら蓮子、貴方はビールを呑んでいないと七転八倒のすえ絶命する次世代の女子大生じゃなかったの? 前酔った勢いで言ってたじゃない」
「……酔っ払いの戯言よ、忘れて頂戴」
「あははは」
万民が浮かれてはしゃぐ聖夜であっても、秘封倶楽部はこんな調子である。私とメリーはチキンやケーキをもぐもぐ食べたり、シャンパンを鯨飲して更に顔を赤くしたり、訳もなくケラケラ笑ったりした。時計を見ると日付が変わる少し前だった。
「サンタは来るかしら」メリーが脈絡もなくそんなことを言った。
「なーにメリー、貴方まだサンタなんて信じてるの?」
「いたと思う方が夢があるじゃない。私たちだって色々と変なものを探し回ってるんだから、サンタの存在くらい肯定してあげてもいいでしょ」
「そうね、いるとするなら素敵な恋人をプレゼントしてほしいわ」
「どこから調達してくるのかしらね」
また二人して笑い、シャンパンを呷った。もうメリーはベロベロである。そろそろ酔いに負けて寝てしまうかもしれない。
楽しそうな友達を眺めながらシャンパンを舐めていると、カーテンを閉めたベランダの窓が外から二度、コツコツと叩かれた。私はぎょっとしたが、酔っ払ったメリーは赤ら顔で機嫌よく「はーい、どなたですかー?」と間の抜けたことを言った。ここは一階ではないのに、どうしてベランダから来客が来るのか等とは一切考えていないらしい。平然としている。
メリーが応えると、外からくぐもった声で「あ、いや、すみません。どうも場所を間違えたようです」と恐縮したような返事が返ってきた。メリーはそれを聞いて「気にしないでください。あははは」と酔客独特の寛大さを示した。すると外の声は「こりゃどうも、ではよいクリスマスを」と言って、それきり反応がなくなってしまった。
私は急いで窓に飛びつき、カーテンを開け放って外を見た。すると赤い服を着た誰かが、トナカイに引かれた立派なソリに乗って、雪の降る暗い空へと駆け上って行くのが見えた。聖夜にありふれた、幻想的な光景だった。
しばらく経った後、ソリを見送って呆然としている私をよそに、メリーは「あら、本当にいたのね」と呑気なことを言った。
秘封倶楽部のクリスマスはこんなのであった。
今日はクリスマスイブである。浮いた話のない私たち秘封倶楽部の二人は「恋人が何だくそったれ!」とすぐさま結託して、シャンパンとチキンとケーキを買い込んで部屋に篭城した。これらを買ったのは、私とメリーが聖夜そのものを嫌悪している訳ではないことを表明するためである。秘封倶楽部が苦手とするのは浮かれぽんちなカップルであって、クリスマスイブ自体にはこれといった恨みはない。逆に大手を振ってケーキを貪れる日と認識しているため有難いくらいである。
「シャンパンはあまり飲まないけど、こういう日に飲むと何故か美味しく感じるわね」私は熱い顔を手で扇ぎながら言った。
「あら蓮子、貴方はビールを呑んでいないと七転八倒のすえ絶命する次世代の女子大生じゃなかったの? 前酔った勢いで言ってたじゃない」
「……酔っ払いの戯言よ、忘れて頂戴」
「あははは」
万民が浮かれてはしゃぐ聖夜であっても、秘封倶楽部はこんな調子である。私とメリーはチキンやケーキをもぐもぐ食べたり、シャンパンを鯨飲して更に顔を赤くしたり、訳もなくケラケラ笑ったりした。時計を見ると日付が変わる少し前だった。
「サンタは来るかしら」メリーが脈絡もなくそんなことを言った。
「なーにメリー、貴方まだサンタなんて信じてるの?」
「いたと思う方が夢があるじゃない。私たちだって色々と変なものを探し回ってるんだから、サンタの存在くらい肯定してあげてもいいでしょ」
「そうね、いるとするなら素敵な恋人をプレゼントしてほしいわ」
「どこから調達してくるのかしらね」
また二人して笑い、シャンパンを呷った。もうメリーはベロベロである。そろそろ酔いに負けて寝てしまうかもしれない。
楽しそうな友達を眺めながらシャンパンを舐めていると、カーテンを閉めたベランダの窓が外から二度、コツコツと叩かれた。私はぎょっとしたが、酔っ払ったメリーは赤ら顔で機嫌よく「はーい、どなたですかー?」と間の抜けたことを言った。ここは一階ではないのに、どうしてベランダから来客が来るのか等とは一切考えていないらしい。平然としている。
メリーが応えると、外からくぐもった声で「あ、いや、すみません。どうも場所を間違えたようです」と恐縮したような返事が返ってきた。メリーはそれを聞いて「気にしないでください。あははは」と酔客独特の寛大さを示した。すると外の声は「こりゃどうも、ではよいクリスマスを」と言って、それきり反応がなくなってしまった。
私は急いで窓に飛びつき、カーテンを開け放って外を見た。すると赤い服を着た誰かが、トナカイに引かれた立派なソリに乗って、雪の降る暗い空へと駆け上って行くのが見えた。聖夜にありふれた、幻想的な光景だった。
しばらく経った後、ソリを見送って呆然としている私をよそに、メリーは「あら、本当にいたのね」と呑気なことを言った。
秘封倶楽部のクリスマスはこんなのであった。
短いながらもオチが付いていて面白かったです。が、もう少し色が欲しかったかな?
にしてもサンタさん、せっかく来たんだから何か置いて行きなよ。
のほほんとしたメリーが素敵です
こういう忙しい朝にもサクッと読めそうな秘封がもっと欲しい